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蘇る80年代アヴァン・ジャズ セマンティックス [北アメリカ]

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おぅ、なんて懐かしい! セマンティックスがCD化。
コロナ禍のインフォデミックに苛立ちを募らせている今、
またしてもセマンティックスを聴き返すことになるなんて、なんだか運命的。

ぼくにとってこのアルバムは、
バブルで世の中がイカれまくっていた86年当時の社会に、
抗うエネルギーを与えてくれた、貴重なレコードでした。
あのヤな時代に、クソったれと中指を立てた、ぼくにとっての「パンク」だったのです。

セマンティックスには勇気づけられたんだよなあ。
会社の同僚や大切な友人、そして自分の両親すらもバブルに踊らされ、
株だの投資だのと、どんどんと狂っていったバブル最盛期。
人の健康に貢献すべき製薬会社までが、「24時間戦えますか」とのたまうCMを作り、
またそれを面白がるという、異常を異常とも思わぬ世相に、
自分を見失うまいと必死だったことを思い出します。

エリオット・シャープ、サム・ベネット、ネッド・ローゼンバーグという、
NYダウンタウン・アンダーグラウンド・シーンを沸き立たせていた曲者3人組。
3人とも来日経験豊富というか、サム・ベネットは日本にも住んでたし、
ネッド・ローゼンバーグは横山勝也に弟子入りして、尺八を習得したほどだもんな。
NY前衛マナーで解釈したジャポニズムみたいなジャケットは、
ポストモダンや脱構築が喧伝された、80年代の思想性をヴィジュアル化したものでした。

いちおうエリオット・シャープはギター、サム・ベネットはパーカッション、
ネッド・ローゼンバーグはサックスとクラリネットという主楽器を担当しつつも、
全員エレクトロニクスを駆使して、音空間を切り裂いたり、ねじ曲げたりした演奏をします。
ミニマルなマテリアルのなかに、ファンクを少々混ぜこんで、
即興ばかりでなく、リフなどの作曲されたパートとのバランス感覚も兼ね備えています。
どこまでも猥雑で、人間臭さいっぱいの演奏が、彼ら最大の魅力ですね。

中央アフリカ、バンダ人の木製ホーンの合奏が聞ける民俗音楽のレコードなんかと
とっかえひっかえ、良く聴いたっけなあ。ミニマルといっても静的なんかじゃなく、
めっぽう騒がしいフリー・ミュージックなところが、親和性がすごくあってね。
3人の即興演奏でも、音がぜんぜんぶつかり合わないんですよね。
3人がひとつの音に集中して向かっていくかと思えば、
拡散してまったく別の形へと変化していったりする瞬発力と展開の速さが、
サウンドの快楽を生み出します。

心の内部に潜んだ不安を、怒りのエネルギーで暴き出し、
その亀裂を埋め合わせていくような作業を彼らのサウンドに見出した、
あの頃の記憶がまざまざと蘇る名作です。

Semantics "SEMANTICS" Klanggalerie GG306 (1986)
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