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アフリカン・ディアスポラのジャズ・ヴォーカリスト ソーミ [北アメリカ]

Somi Live At The Alte Oper.jpg

新世代ジャズ・ヴォーカリストと呼ばれる人は大勢いますけれど、
ソーミは、そうしたシンガーのなかで、ぼくがひいきにしている一人。

ルワンダ人の父とウガンダ人の母の娘としてイリノイに生まれ、
3歳の時にWHOに務める父親の仕事の関係でザンビアに暮らし、
帰国してイリノイ大学を卒業後、人類学の研究員としてケニヤとタンザニアを訪れ、
ニュー・ヨーク大学の名門校であるティシュ芸術大学院で修士号を取得。
ナイジェリアへ渡って、18ヶ月間フィールドワークを行い、
その後ニュー・ヨークに戻って、ハーレムに暮らすという豊かな人生経験が、
自分の音楽の中にしっかりと刻印されている人です。

Somi  If The Rains Come First.jpg

ソーミを初めて知ったのは、09年作の“IF THE RAINS COME FIRST” だったな。
ヒュー・マセケラをゲストに迎えたこのアルバムでは、
アフリカン・ディアスポラの新世代を印象づけられて新鮮でした。
ワイルドなヴィジュアルのジャケットに反して、
ひそやかな歌い口とデリケイトな歌唱を聞かせていて、
レーベル・メイトのグレッチェン・パーラト同様、
新しい感覚を持ったジャズ・ヴォーカリストの登場に、ワクワクさせられたものです。

Somi  The Lagos Music Salon.jpg

そして、そこからさらにグッと成長して、ソーミの才能に感じ入ったのは、
14年作の“THE LAGOS MUSIC SALON” でした。
レゴスがニュー・ヨーク同じ人種のるつぼの大都市という点に着想を得て、
冒頭、ナイジェリアの空港で入国管理官とのやりとりをプロローグにした本作は、
アフリカン・アメリカンとしての立ち位置をくっきりと明示した作品でした。

アンジェリク・キジョやコモンのゲスト参加が話題を呼びましたが、
このアルバムに参加したもっとも重要なゲストは、
トランペット奏者のアンブローズ・アキンムシーレだったと、ぼくは評価しています。
アンブローズとソーミは、アフリカン・アメリカンとして、
同じ問題意識を共有していたはずです。

アフロビートを参照したり、ヨルバのトーキング・ドラムをフィーチャーしたり、
ナイジェリアらしいサウンド・メイキングも聞かれますけれど、
本作の聴きどころはそこにはなく、
異文化の出会いと内なるアフリカン・ディアスポラの複雑な出自を、
知的なニュー・ヨーカーの自叙伝として、しなやかに表現してみせたところにありました。
ニュー・ヨークのアヴァン・ジャズ・シーンで活躍する、
ベーシストのキース・ウィッティがプロデュースしたのも、大きな役割を果たしましたね。

その後しばらく間が空き、去年の夏にこのライヴ・アルバムが
彼女の自主レーベルから出ていたとは、気付きませんでした。
メジャー・レーベルから離れると、とたんに情報が届きづらくなりますね。
フランクフルトの旧オペラ座でのライヴ・レコーディングで、2枚組ですよ。

“THE LAGOS MUSIC SALON” と“PETITE AFRIQUE” の作品を中心に構成され、
07年のデビュー作からも1曲選曲されています。
歌唱にダイナミズムが増して、繊細な歌い出しからシャウトまで、
表現の幅がグッと広がって、ジャズ・ヴォーカリストとしてのスケールが
大きくなったのを実感させられます。

ソーミをバックアップするのは、フランクフルト・ラジオ・ビッグ・バンドと、
ソーミの旧知のメンバーであるセネガル人ジャズ・ギタリストのエルヴェ・サンブと
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-01
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-17
日本人ピアニストの百々徹。指揮とアレンジは、ジャズ・ピアニストで、
近年はプロデューサーとしても活動の場を広げるジョン・ビーズリーが務めています。

この録音はドイツで全国放送されたそうで、映像も残されているのかな。
もし映像があれば、ぜひDVDを出してもらいたいものです。

Somi "HOLY ROOM: LIVE AT ALTE OPER WITH FRANKFURT RADIO BIG BAND" Salon Africana SAFR001 (2020)
Somi "IF THE RAINS COME FIRST" ObliqSound OSDCD107 (2009)
Somi "THE LAGOS MUSIC SALON" Okeh/Sony Music 88883796302 (2014)
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