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イチベレの日本人ファミリー・オーケストラ イチベレ・ズヴァルギ [日本]

Itiberê Zwarg  ORQUESTA FAMÍLIA DO JAPÃO.jpg

イチベレ・ズヴァルギの18年作“INTUITIVO” は、
エルメート・パスコアールの未完成な音楽を高度に統合して、
ブラジル音楽史上、類を見ない器楽奏作品に仕上げた大傑作でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-11
あのアルバムに驚嘆してまもなく、イチベレがたびたび来日して、
日本人音楽家向けにワークショップを開いていることを知りました。

エルメート・マジックならぬ、イチベレ・マジックの秘密を知りたくて、
ぼくもワークショップに参加しようと思ったんですが、気付いた時すでに遅しで、
予約が一杯で参加できなかったのは、残念でした。
これらのワークショップを通じて、日本人音楽家とイチベレとの交流が深まり、
イチベレの日本人オーケストラが結成され、
イチベレ・ズヴァルギ&オルケストラ・ファミリア・ド・ジャポンとして
19年に掛川のフェスティヴァルでお披露目されたんですね。

その時のライヴがディスク化されたんですが、
いやあ、スゴイですね、これ。
あ~、掛川まで観に行くべきだったなあ。
演奏は日本人だしなあ、なんて思って行くのをやめてしまった、愚かな自分。
全12曲、イチベレが書き下ろした新曲を、
イチベレほか総勢25人の日本人ミュージシャンとともに演奏しているんですが、
演奏しているのが日本人だということを忘れてしまうような、
見事なエルメート・ミュージックを展開しているのだから、オドロキです。

これだけの人数をリハーサルするだけでも、どんなに大変だったかと思うんですが、
イチベレと日本人ミュージシャンの情熱が実った、素晴らしいライヴ盤です。
なんでもイチベレはスコアを書かず、口伝でメロディやハーモニーを示して、
その場のメンバーとともにアレンジを組み立てていくというやり方をするのだそうです。
それを聞いて、あの複雑なコンポジションで、
ダイナミックな生命力あふれる演奏を可能とする秘密が理解できた気がしました。

カリスマティックな指揮者の上意下達の統率で、譜面と首っ引きで演奏したら、
あんなスポンテイニアスな演奏ができるわけがありません。
メンバーの自発性を引き出し、ぴりっとした緊張感を演奏のすみずみまでに
行き渡らせることができるのも、そういうアンサンブルの組み立てにあったんですね。

昨年、イチベレの娘のマリアナ・ズヴァルギが、
セクステット編成でアルバムを出したんですけれど、
正直かなり物足りなかったんですよね。
イチベレも参加してエルメート・ミュージックを展開しているわけなんですけれど、
演奏の密度がまるで違うんですよ。

それだけに、今回の日本人オーケストラの充実したパフォーマンスは、
ぼくの想像のはるか上を行っていました。
音楽を生み出す喜びに溢れた演奏、素晴らしいの一語に尽きます。

Itiberê Zwarg "ORQUESTRA FAMÍLIA DO JAPÃO" Scubidu Music TORTO015 (2021)
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ブラジルのヒップ・ホップ開祖、降臨 タイージ [ブラジル]

Thaíde  VAMO QUE VAMO QUE O SOM NÃO PODE PARAR.jpg

タイージ?
なんかスゴイ懐かしい名前なんすけど。
ブラジルのヒップ・ホップの草分けといえるラッパーだよね。
80年代後半のサン・パウロで、DJウンとコンビを組み、
ヒップ・ホップの狼煙を上げた人ですよ。
名前は知っていたけど、ちゃんと音を聴いたのは、初めてかも。
そのタイージが17年に出したアルバムが、いまになってフィジカル化したそうです。

いやぁ、なんともクラシックというか、めっちゃオールド・スクールで、
もはや古典の域に達しているサウンドといってもいいんじゃないですかね。
スクラッチは大活躍してるし、
クラプトンの‘I Shot The Sheriff’ までサンプルされてますよ。
ヒップ・ホップにまったく不案内な自分にもそう聞こえるくらいだから、
その筋のファンには、どう評価されるんだろか。
そこらへんよくわかりませんが、ロック色の濃いガッツのある、
ポジティヴなエネルギーに満ちたこのアルバム、
ぼくにはどストライクで、ヒットしましたよ。

なんたってフロウは、バツグンの上手さじゃないですか。
グルーヴ感たっぷりの‘Hip-Hop Puro’ なんて、
ループして踊りながらいつまでも聴いていたくなるトラックです。
ヒップ・ホップのアルバムにはお約束の多数のゲストには、
なんと大物のカーティス・ブロウまで招いているんだから、ビックリです。
う~ん、まさしくタイージにとって、お手本となったラッパーだもんねぇ。

メロウな‘Liga Pra Mim’もいいけど、アタバーキのリズムにのって
カンドンブレをテーマにラップする‘Povo de Aruanda’ がハイライトかな。

バック・インレイに写っているレコードには、
カーティス・ブロウやブラジルで出たUSファンクのコンピ盤のほか、
サンバのロベルト・リベイロやフンド・ジ・キンタルに、
ルイス・ゴンザーガのCDボックスまで並んでいて、ニヤリとさせられます。

Thaíde "VAMO QUE VAMO QUE O SOM NÃO PODE PARAR" Apenas Produçðes THD001 (2017)
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カトリックのハーモニーとカンドンブレのリズム オス・チンコアス [ブラジル]

NÕS, OS TINCOÃS.jpg

バイーア・ポップの名作が予期せぬ形でCD化。
オス・チンコアスは、バイーア、カチョエイラ出身のヴォーカル・グループ。
カンドンブレ由来の曲を、美しいハーモニー・コーラスで歌うという、
ユニークな個性を持ったグループで、
あとにもさきにも、彼らのようなグループが現れることはありませんでした。

彼らがもっとも輝いていた、70年のオデオン盤“OS TINCOÃS”、
73年のRCA盤“O AFRICANTO DOS TINCOÃS”、77年のRCA盤“OS TINCOÃS” の3作が、
まとめて本の付属CDとしてCD化されたのだから、これは快挙です。
このうちオデオン盤だけ、大昔に一度CD化されたことがありますけれど、
RCA盤の2作は今回が初CD化。とりわけ彼らの最高作で、
『アフロ・ブラジルの風』のタイトルで日本盤が出たこともある77年作が
ようやくCD化されたのは、個人的にも感慨深いものがあります。

今回初めて日本に入荷したこの本は、3000部限定で、4年前に出版されていたんですね。
マルチーニョ・ダ・ヴィラ、カルリーニョス・ブラウンなどのミュージシャンに、
プロデューサー、ジャーナリスト、研究者によるテキストや、
74歳となったメンバーのマテウス・アレルイアの証言、
歴史的な写真や新聞記事に、この本のために撮り下ろされた写真で構成されています。

ギターにパーカッションというシンプルな伴奏で、
整った美しいハーモニー・コーラスを聞かせる
オス・チンコアスの音楽性は、70年のオデオン盤ですでに完成しています。
73年・77年のRCA盤では、ベースを加えて骨太なラインを強調しつつ、
キーボードやシンセを控えめに導入しています。
さらに、女性コーラスを加えてヴォーカル・ハーモニーを豊かにし、
管楽器を効果的にフィーチャーするなど、アレンジに工夫が凝らされ、
彼らの音楽をポップに磨き上げています。

そうした工夫がもっとも完成度高く実を結んだのが77年作で、
このアルバムからシングル・カットされた‘Cordeiro De Nanã’ は、
のちにジョアン・ジルベルトがマリア・ベターニャ、カエターノ・ヴェローゾ、
ジルベルト・ジルと、81年のアルバム“BRASIL” で歌ったことでも話題となりました。

ジャケットのメンバーのヴィジュアルや、
カンドンブレから想起されるアフロ的イメージのせいで、日本盤が出た当時は、
アフリカ回帰の文脈でもっぱら語られていた気がするんですけれど、
正直、当時の評価は、ぜ~んぶマト外れでしたね。

カンドンブレの音楽を知る人なら、
オス・チンコアスの音楽とは、まるで別物であることは、すぐにわかるでしょう。
フォークロアなアフロ・ブラジリアン音楽は、ユニゾン・コーラスがデフォルトで、
あんなヨーロッパ的で、きれいなハーモニーがあるわけないじゃないですか。

オス・チンコアスのユニークな個性は、カンドンブレのリズムで
オリシャ(神々)にまつわる歌詞を歌いながら、
メロディやハーモニーは、カトリックの聖歌隊の音楽だったという点です。
彼らの音楽の真骨頂は、シンクレティズムの発揮にあったんですよ。
それを指摘できた人は、当時ひとりもいませんでしたよね。

あとで知ったことですが、オス・チンコアスの出身地カチョエイラには、
バイーア州で2番目の大きさのバロック建築群が遺されているのだそうです。
そうしたポルトガル風の教会に、
カンドンブレが行われるテレイロ(祭儀場)が共存する環境で、
グレゴリオ聖歌とカンドンブレの神歌が長い歳月をかけて交わっていった歴史を、
オス・チンコアスは見事に体現していたんですね。

その後メンバーのマテウス・アレルイアは、83年にアンゴラのルアンダを訪問し、
アンゴラにみずからのルーツを見出し、アンゴラ政府の文化調査プロジェクトに参加します。
その結果、研究のために長期に渡ってアンゴラに滞在し、
02年になってようやくブラジルへ帰国。10年に初ソロ作を出しますが、
そこではアフロ系ルーツをディープに追った音楽性に変わり、
オス・チンコアス時代のヨーロッパ成分はすっかり失われていました。

こうした例は、彼らばかりではないですね。
時代が下るほど、アフロ系音楽ばかりに焦点が集まるようになり、
文化混淆された音楽からヨーロッパ成分が失われる傾向は、他の地域でもみられます。
たとえば、フレンチ・カリブのアンティーユ音楽も、
ビギン・ジャズから、カリビアン・ジャズと呼称が変わるにつれ、
ビギンやマズルカなどのヨーロッパ由来の音楽の出番が減り、
ベレやグウォ・カなどのアフロ系音楽に傾くのは、
この地域の音楽の芳醇さをみすみす失うようで、気がかりです。

バイーア音楽の本質は、黒いカトリックにあり。
ひさしぶりに、オス・チンコアスのCD化によって、
シンクレティズムの魅力を再認識させられました。
彼らのような音楽性を発揮する音楽家がいま不在なのは、まことに残念です。

[CD Book] "NÕS, OS TINCOÃS" Sanzala Artística (2017)
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ザ・ヴォイス・オヴ・レンベーティカ [東ヨーロッパ]

Roza Eskenazy.jpgGiorgos Katsaros.jpgMarika Papagika.jpgAntonis Diamantidis.jpg

ギリシャ歌謡の良盤探しは、原田さんに頼りっきりなんですが、たまには自力発掘を。
12年に出ていた、「ザ・ヴォイス・オヴ・レンベーティカ」という
リイシュー・シリーズを見つけました。
初期レンベーティカの名歌手たちの選集となっています。

シリーズというわりには4タイトルしか出ていないんですが、
縦長のCDブック仕様で、50ページないし64ページのブックレット付という、スグレもの。
ざらりとしたクラフト紙に印刷した、古びた味わいのデザインが
レンベーティカという内容にぴったりで、<手元に置いときたい欲>をかられます。

貴重な写真も満載の解説に、全曲歌詞付き、
作詞作曲者、伴奏者、録音データ、SP原盤番号のクレジットも完備した
資料的価値の高さは、リイシューの仕事として満点の内容でしょう。
ギリシャ語のみとはいえ、今日びテキスト化して
翻訳ソフトにかけりゃいいんだから、問題ありませんね。

ギリシャ盤は値段の高さが難なんですけれど、
このシリーズは廉価版なみの安さが嬉しいところ。
いつもなら、どれを買うかとよく吟味するところ、
えいやっと4タイトル全部買っちゃいました。

ローザ・エスケナージは、いったいこれで何枚目かとも思うんですけれど、
懲りずにまた買ってしまっても正解と思えるのは、音質がめちゃくちゃいいから。
このシリーズ全部にいえることですが、SPの音の再現性がすばらしい。
単にノイズ・リダクション処理だけの問題ではなく、SPのガッツのある音を引き出して、
なまなましいサウンドを蘇らせているんです。

ヨルゴス・カタロースという人は初めて知りましたが、ギター弾き語りという変わり種。
早くにアメリカへ渡り、録音はすべてアメリカで行われています。
まるで、レンベーティカ版ギターを持った渡り鳥ですけれど、
じっさいハリウッドで大成功を収めていた無声映画のダンサーと恋に落ちて、
映画界に人脈を作って名を上げ、その後各地を転々と旅をし、
まさしくギターを持った渡り鳥の生活を送った人だそうです。
レンベーティカがギリシャのブルースと形容されるのとはまた別の意味で、
戦前ブルース的なギター弾き語りのレンベーティカが聴けるわけですけれど、
スミルナ派のような多文化混淆の深い味わいはまるでなく、ドライなところが味気無い。

ギリシャ録音史上、もっとも早く録音を残した歌手のひとりとされるマリカ・パパギカは、
初期レンベーティカらしいヴァイオリン、チェロ、サントゥールという
シンプルな伴奏のほか、シロフォンやブラス・バンドが伴奏につく珍しい曲も聞けます。
1910年にニュー・ヨークへ渡った、イピロス出身のヴァイオリニスト、
アレヒス・ズンバスが伴奏を務めている曲もあり、聴きものです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-07-29

ダルガスのあだ名で知られるアントニス・ディアマンティディスは、
男っぷりのいいパワフルな喉で、情熱的な歌いっぷりが魅力の歌手。
カフェ・アマネー・スタイルの歌もたっぷりと聞けます。
ヴァイオリンの即興に呼応するかけ声が、いなせですねえ。
これぞスミルナ派といった濃厚なレンベーティカを味わえます。

Roza Eskenazy "OI FONES TOU REMPETIKOU 1" Ta Nea no number
Giorgos Katsaros "OI FONES TOU REMPETIKOU 2" Ta Nea no number
Marika Papagika "OI FONES TOU REMPETIKOU 3" Ta Nea no number
Antonis Diamantidis "OI FONES TOU REMPETIKOU 4" Ta Nea no number
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難民の歌 マリサ [東ヨーロッパ]

Marisa  TRAGOUDIA TIS PROSFYGIAS.jpg

エル・スール・レコーズで原田さんとおしゃべりしていて、差し出された1枚。
古色蒼然としたセピア色の写真には、湾岸の街並みと船首が写り、
一枚の女性歌手の写真が添えられています。
古典レンベーティカのリイシュー?と思ったら、「いや、これ新録なんですよ」と言う。

聴かせてもらうと、スミルナ派のレンベーティカやアナトリアの古謡を歌ったアルバムで、
マリサという女性歌手のみずみずしい歌いっぷりに、ひと聴き惚れしました。
古風な節回しは相当なヴェテランであることをうかがわせるものの、
ディープ一辺倒というわけではない、色香のある軽やかなこぶし回しに、
この人ならではの魅力があります。

いやぁ、いいねえ、とウナってしまったんですが、
原田さんは、アルバムはこれ一枚で、どういう人なのか、経歴がまったくわからないと言う。
これほど歌える人なのに、これ一枚しかないなんて不思議すぎるんですが、
ぼくも家に帰って、あれこれ調べてみるも、やはり情報はみつからず。
声を聴く限り、60代くらいのヴェテランに思えるんですけれどねえ。
ジャケットに写る、古めかしい女性の写真は誰なんだろうなあ。

アルバム・タイトルも『難民の歌』なら、1曲目の曲名も「難民」という本作。
1922年のスミルナの大火で、港湾都市スミルナから逃れた難民をテーマにした
アルバムらしいんですけれど、CDライナーには曲目しか記されておらず、
まったく手がかりがありません。

伴奏者などのクレジットも皆無という愛想のなさは、
本当に新録なのかという疑念もよぎり、
80~90年代に出たアルバムの再発というのもありえるかも。
わからないことだらけの謎アルバムだなあ。

ヴァイオリン、ブズーキ、ギター、カーヌーン、ダルブッカ、ベースという編成に、
曲によってウードやバグラマー、クラリネットにアコーディオンが加わる演奏も、
スミルネイカ・ソングの理想的伴奏といえ、
そのアンサンブルの素晴らしさにも耳奪われる、知られざる傑作です。

Marisa "TRAGOUDIA TIS PROSFYGIAS" Legend 2201151252 (2002)
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サルサとスウィング・ジャズの混在作 ルベーン・ブラデス [中央アメリカ]

Rubén Blades Y Roberto Delgado & Orquesta  SALSWING!.jpg   Louie Ramirez  LOUIE RAMIREZ Y SUS AMIGOS.jpg


おぅ、‘Paula C’ だっ!
ルベーン・ブラデスの新作は、なんとルイ・ラミレスの78年作
“LOUIE RAMIREZ Y SUS AMIGOS” のオープニング曲の再演からスタート。

う~ん、懐かしい。当時この曲ばっかり何度も聴き返していた記憶があるんだけど、
やっぱ、いい曲だよなあ。ルベーン・ブラデスの魅力は、楽曲の良さだよね。
あらためてウン十年ぶりに原曲を聴き直したら、演奏の音のあまりの悪さに閉口。
そうそう、思い出したけど、この曲、なぜか歌と伴奏のミックスがオカシくて、
伴奏がヘンにこもった音質だったんだよな。
再演したヴァージョンでは、33年を経たルベーンの歌いぶりに変化は感じさせず、
オリジナル・ヴァージョンを尊重したアレンジで、
オリジナルを超えた仕上がりになりました。

今作もロベルト・デルガド・オルケスタとの共演で、
すっかりルベーンの専属といった感じでしょうか。
今回は“SALSWING!” というタイトルどおり、
サルサとスウィング・ジャズのナンバーをミックスして聞かせる趣向で、
オトナのダンディズムを演出した、変化球入りのアルバムとなっています。

ただその趣向は、どーなのかなあ。聴く人を選びそうで、
フランク・シナトラの雰囲気むんむんの、ブロードウェイ調スウィング・ジャズ曲は、NG。
スカした歌いぶりが、もう鼻持ちならなくって。ルベーンにはこういう嗜好もあんのね。
こういうの聞かされると、やっぱルベーンって、歌手としては好きになれないタイプだなあ。
スウィング調のインスト曲は悪くないので、歌なしでインストだけにすりゃよかったのに。

とまあ、全面支持しにくい新作ですが、前作の延長線上のサルサは申し分なし。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-08-11
ピート“エル・コンデ”ロドリゲスに提供した‘Tambó’ のセルフ・カヴァーも
気合が入っていて、こういうのだけ、聴きたかったな。

Rubén Blades Y Roberto Delgado & Orquesta "SALSWING!" Rubén Blades Productions 2RBP0021 (2021)
Louie Ramirez "LOUIE RAMIREZ Y SUS AMIGOS" Cotique JMCS1096 (1978)

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パワー・ギター・トリオ デイヴ・ホランド [北アメリカ]

Dave Holland  ANOTHER LAND.jpg

デイヴ・ホランドの新作が、
ギタリストのケヴィン・ユーバンクスと組んだトリオと聞いて、
ソッコー予約しましたよ。
なんせこの二人が共演した90年の“EXTENSIONS” は、
ぼくにとって生涯クラスのヘヴィ・ロテ盤。冬ジャズの定番アルバムとなっています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-01-19

ホランドとユーバンクスの共演がこの時以来なのかどうかは知りませんが、
あれから30年を経て、二人がどんな演奏を聞かせてくれるのか、楽しみにしていました。
(あとで調べてみたら、13年に“PRISM” で共演してるんですね。知りませんでした)

ユーバンクスのウォームなギター・サウンドに変わりはないものの、
カミソリのようにシャープに切り込んでくるスピ-ド感に加え、
伸縮の利いたプレイで、大きくうねるグルーヴ感を生み出しているのが、すごく印象的。
“EXTENSIONS” では、アルト・サックスのスティーヴ・コールマンがいましたけれど、
今回はギター・トリオの編成なので、サウンドのテクスチャをギターが決定づけるだけに、
ユーバンクスは慎重に音色を選びながらプレイしていますね。

ユーバンクスがトリオのサウンドをコントロールしつつも、
時にダイナミックな展開もみせ、‘Mashup’ での奔放なギター・ソロは、相当にスリリング。
オベッド・カルヴェールも手数の多いドラミングで、ユーバンクスを煽りまくっています。
ポスト・バップ・スタイルのカルヴェールのドラムスは、ロック的な激しさを持ちつつも、
軽快な俊敏さのせいでうるさくないし、ファンキーなブレイクを入れるのが巧みです。
そして親分ホランドの脈打つようなベース・ランニングが、
トリオのサウンドにアクセントをつけていくところは、ヴェテランのなせる業。
タテ・ヨコ弾いているけれど、やっぱりタテの大胆なトーンに惚れますね。

ユーバンクスとホランドの二人がブルースを引用する‘Bring It Back Home’ も面白い。
ハード・バップ時代のブルースをいつも退屈に感じてきたぼくには、
こういうアーティキュレーションこそ、
ジャズ・ミュージシャンに望まれるブルース解釈だと思います。

Dave Holland "ANOTHER LAND" Edition EDN1172 (2020)
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ハリージその後 バルキース [中東・マグレブ]

Balqees  ARAHENKOM.jpg   Balqees  ZAI MA ANA.jpg

すっかりごぶさたとなっている、湾岸ポップスのハリージ。
もう4年も前のアルバムですけれど、イエメン系のUAE(アラブ首長国連邦)人歌手、
バルキース・ファティの3作目を買ってみたら、これがなかなかの力作。
ハリージ・ブーム真っ盛りの15年にロターナから出ていた前作を聴いて、
歌える人だなあと思っていましたけれど、
そのときは記事にしなかったので、一緒に前作の写真も載せておきましょうか。

前作は、ギクシャクとしたパーカッシヴなハリージ・ビートにのせて、
ハツラツとしたコブシ使いの若々しさが印象的でしたけれど、
ロターナから自主レーベルに移籍して出した本作は、
プロダクションがぐんと向上しましたね。

エレクトロ・ハリージとでも呼びたくなるような、
選び抜かれた音色の電子パーカッションが快感。
生音とエレクトロの絶妙が配分されて、
すんごいセンスの良いサウンドになりましたよ。

前作は、サウンドの下世話さがポップな風味となっていましたけれど、
シンセ音が古めかしかったり、オーケストレーションが妙に厚ぼったくて、
野暮ったかったりしていたのも事実。アレンジもずいぶんと大仰だったしね。

それに比べたら、今作はレイヤーされた音色が選び抜かれていて、
サウンドが磨き上げられましたよ。
バラードがぐんと良くなったのも、
そんなデリカシーに富んだプロダクションのおかげでしょう。
高中低音のミックスのバランスが整って、
前作のガチャガチャしたところも雲散霧消しましたね。

バルキースの歌の上手さは、前作ですでに実証済みなので、
本作も申し分ありません。彼女は、UAEを拠点とするNSO交響楽団のメンバーでもあり、
国連から「中東における女性の権利の擁護者」の称号も与えられているんですね。
サウジアラビアで初の女性のみのコンサートを行い、話題を呼んだそうです。
今年になってからは、配信でシングル・リリースもしているので、
新作も期待できそうですね。

Balqees "ARAHENKOM" Balqees no number (2017)
Balqees "ZAI MA ANA" Rotana CDROT1916 (2015)
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カビール・ロック/ファンクの大力作 タクファリナス [中東・マグレブ]

Takfarinas  ULI-W TSAYRI - YEMMA LEZZAYER-IW.jpg

いぇ~い、タクファリナスの新作だっ!
いったい、何年ぶり? 10年の“LWALDINE” 以来かぁ、どーしてたの?
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-06-20

やんちゃなポップ・スターらしいキャラ全開のジャケットに、
聴く前からいやおうにも期待が高まりましたけれど、
ディスク1の1曲目で、もう飛び上がっちゃいましたよ!
いやー、嬉しいじゃないの。
ぜんぜん変わってないどころか、これまでにも増して、エネルギー全開。

若いヤツに席を譲る気はないぜといわんばかりの、現役感スパークさせまくり。
ヴェテランの余裕とか、成熟した味わいなんて、この人にはぜんぜん関係ないんだな。
ぼくと同い年で、この熱血ぶりは見習わなくちゃあ。アタマが下がります。

しかも、なんと2枚組という大作ですよ。
ディスク1の第1部は「わたしの心は愛」、
ディスク2の第2部は「わたしの母、アルジェリア」というタイトルが付いてます。
タクファリナスが自身の音楽を「ヤル」とラベリングする、
シャアビを大胆にロック/ファンク化したサウンドが縦横無尽に展開されています。
各曲のサウンドにはふんだんなアイディアを詰め込まれていて、
その手腕は、超一流のポップス職人といえますよ。
‘La Kabylie’ なんて、壮大なカビール・ロック歌舞伎を見せつけられているよう。

アタマがクラクラしそうなド派手なサウンドに、つい目くらましされますが、
タクファリナスの基本には、マンドーラの弾き語りによるカビール歌謡があり、
そのベースにアラブ・アンダルース音楽の地平が広がっているんですね。
ダフマーン・エル・ハラシのスピリットは、
しっかりとタクファリナスに受け継がれていますよ。
アゲアゲのダンサブルなトラックにも、芳醇なコクが宿る理由は、そこですね。
たくましきカビール芸人根性をすみずみまで発揮させた新作、大傑作です。

ああ、コロナ禍が恨めしいねえ。
こういうのを聴いていると、満員のフロアでもみくちゃになりながら、
汗だくになって踊りたいよ~。

Takfarinas "ULーIW TSAYRI" Futuryal Production no number (2021)
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センバのコミュニケーター パウロ・フローレス [南部アフリカ]

Paulo Flores  INDEPENDÊNCIA.jpg

パウロ・フローレスのイキオイが止まらない。
創作意欲が湧き上がって、ほとばしるのを止められないといった感じで、
なにが彼をそんなに突き動かしているのか。
若手ラッパーのプロジージョと組んで、
エスペランサというプロジェクトを立ち上げたかと思えば、はや新作が届きましたよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-01

アンゴラ人最大のアイコンとなったパウロ・フローレスですけれど、
ルアンダ、カゼンガ出身のポルトガル人で、リスボン育ちのアンゴラ人という立ち位置が、
世代、文化、表現をつなぐコミュニケーターという役割を、
彼に自覚的にさせたのでしょうか。
今作でもディアスポラである自伝的ドキュメントをまじえながら、
アンゴラの過去と現在、そして未来につながるテーマを取り上げ、
庶民の生活に根差しながら、抑圧と貧困と闘う人々の人生を語り、
逞しきアンゴラ人の誇りを歌っています。

新作のタイトルは、ずばり『独立』。
マルクス・レーニン主義時代のプロパガンダ・ポスターにならったアートワ-クには、
目隠しされた女性が描かれ、皮肉にも in と dependência を分裂させています。
アンゴラ独立時にテタ・ランドは、同じ『独立』のタイトルでアルバムを出しましたが、
約半世紀を経て、独立への眼差しがすっかり様変わりしたことを暗喩していますね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-11-16

独立50周年にはまだ4年早い、中途ハンパなタイミングでこのタイトルを付けたのは、
現在の社会状況では、とても祝賀を美化することなどできないという思いからのようです。
アニヴァーサリーを祝う前に、パウロはアンゴラの人々が忘れてしまっている
脱植民地化への長い闘いと、独立後の内戦の苦しみを呼び覚まそうとしています。

オープニングの‘Heróis Da Foto’ は、キゾンバのリズムに甘やかなメロディがのる、
明るいトーンを持った曲。しかし、その底には涙の味が隠れていて、
踊りながら泣き濡れてしまいそうなトラックじゃないですか。
続いて、ブラジルのショーロ・ミュージシャン、ジオゴ・グアナバラがアレンジを務めた
‘Bem-Vindo’は、ブラジルのショーロとアンゴラのラメントをミックスしたような切ない曲。
ジオゴが弾くバンドリンとギターもフィーチャーされ、アルバム冒頭から、
歌に沈殿している悲しみの深さに、胸を射抜かれました。
これって、ブラジルのサウダージ感覚とも異なる、アンゴラ音楽独特の味わいです。

ギネア=ビサウの夭逝した伝説のシンガー・ソングライター、
ジョゼ・カルロス・シュワルツの曲と
アンゴラのシンガー・ソングライター、ボンガの曲をメドレーにして、
パウロの長年の相棒であるギネア=ビサウのギタリスト、
マネーカス・コスタと共に歌ったトラックがあるほか、
プロジージョとユリ・ダ・クーニャをゲストに迎えた曲、
さらに伝説的なヴェテラン・ミュージシャンを迎えた曲も用意されています。

Boto Trindade  MEMÓRIAS.jpg

アルバム終盤の‘Esse País’ と’Roda Despedida de Semba’ に参加した、
ギタリストのボト・トリンダーデと、
コンガ奏者のジョアンジーニョ・モルガドの二人が、それです。
ジョアンジーニョ・モルガドは、コンジュント・メレンゲ、センバ・トロピカル、
オス・ボンゴス、バンダ・マラビーリャなどの数多くのバンドで、
ドラマーやパーカッショニストとして活躍し、
ダヴィッド・ゼー、カルロス・ラマルチーネ、テタ・ランドなどの独立以前の歌手たちから、
独立後ではカルロス・ブリティ、フィリープ・ムケンガ、
最近ではユリ・ダ・クーニャに至るまで、数多くのヒット曲に関わってきた名手で、
モダン・センバのビートをクリエイトしたと尊敬される人です。

アンゴラの歴史に触れた歌詞を縦軸に置き、
ギネア=ビサウのグンベー、ブラジルのショーロなど、ルゾフォニアの音楽性を横軸に置いた
パウロ・フローレスの作風が、今作もいかんなく発揮されています。
キゾンバやズークを消化して、クドゥロ世代の音楽家とともにヒップ・ホップのセンスも
取り入れてきたパウロのセンバは、ダンスフロア向けの音楽やポップスからは求められない、
長編小説を読むような充足感が得られます。

Paulo Flores "INDEPENDÊNCIA" Sony 19439882772 (2021)
Boto Trindade "MEMÓRIAS" Rádio Nacional De Angola RNAPQ22
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アンゴラのポップス才人、発見 トトー・ST [南部アフリカ]

Totó ST  FILHO DA LUZ.jpg   Totó ST  NGA SAKIDILA.jpg

うわぁ、スゴイ上質なポップスをやる人じゃないですか。
アンゴラのシンガー・ソングライター/ギタリストのトトー・STの2作に驚かされました。
歌、楽曲、演奏と、三拍子揃ったクオリティの高さといったら!
アンゴラといっても、センバやキゾンバとは無関係。
ジャジーな味わいもある、グルーヴ感溢れるコンテンポラリーなアフロ・ポップの作家で、
リシャール・ボナやラウル・ミドンが思い浮かぶ場面多し、といえます。

どういう人かとバイオを調べてみると、自身のサイトに紹介がありました。
80年ルアンダ生まれ。本名はセルピアン・トマス。
ステージ・ネームのトトー・STのSTは、本名のイニシャルですね。
14歳からキャリアを積み、06年にデビュー作“VIDA DAS COISAS ” をリリース。
今回ぼくが入手した14年作と19年作の2枚は、3作目と4作目にあたるようです。

2作ともに、ソングライティングが非凡。
どの曲もフックがあり、スキャットや多重録音による自身のハーモニー・コーラス、
ギター・プレイなど、巧みな聴かせどころを作るセンスに長けた人です。
歌いぶりは伸びやかだし、美しいファルセット使いも要所に交えて、
ヴォーカリストとしても優れています。この人の歌には、官能性がありますよ。

アンゴラの音楽賞で、ワールド・ミュージックやアフロ・ジャズ部門のベスト・シンガーを
受賞するほか、最優秀曲、最優秀作曲者を受賞しているのも、ナットクです。
15年にダイアン・リーヴスとステージをともにし、
キザイア・ジョーンズとも共演するなど、
国外のミュージシャンとの共演歴も豊富なようです。

2作のプロダクションもめちゃくちゃ充実していて、伴奏陣は実力派揃い。
“FILHO DA LUZ” では、アンゴラのポップス・シーンの若手プロデューサーとしても
活躍する鍵盤奏者ニノ・ジャズに、グアドループ出身のベーシスト、
ティエリー・ファンファン、マルチニーク出身のベーシスト、ミシェル・アリボが参加。
“NGA SAKIDILA” には、カメルーンの実力派ジャズ・ベーシストの
ガイ・ンサンゲが参加するほか、アンゴラの若手で注目を集めるギタリスト、
マリオ・ゴメスがシャープなギターを聞かせます。

アンゴラ、いったいどんだけ才能が眠っているんだよ!

Totó ST "FILHO DA LUZ" VIP no number (2014)
Totó ST "NGA SAKIDILA" 17A7 no number (2019)
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野性と洗練の両立 ジュピテール&オクウェス [中部アフリカ]

Jupiter & Okwess  NA KOZONGA.jpg

“KIN SONIC” から4年ぶりとなる、ジュピテール&オクウェスの新作です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-04-07
毎回じっくりと時間をかけてアルバム作りをしている彼らですけれど、
今回も新たな展開をみせていて、前進を続ける頼もしさは相変わらずで、嬉しくなります。

今作は、ビースティ・ボーイズやジャック・ジョンソンを手がけた
マリオ・カルダート・ジュニアをプロデューサーに迎えたんですね。
1曲目からブラジルのラッパー、マルセロD2をフィーチャーして、
豪快に突進するアフロ・ファンクをかましてくれますよ。

このほか、チリ系フランス人ラッパーのアナ・ティジュ、
フランス人ギタリストのヤロル・プポー、サンバ・ソウルのロジェー、
ニュー・オーリンズのプリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドを
客演させたのは、マリオ・カルダートの仕掛けでしょうか。
いずれのゲストも、オクウェスのアフロ・ロック/ファンク・サウンドによく馴染んでいて、
ボフェニア・ロックの強化に努めたといえそうです。

サウンドが少し変化したなと感じたのは、シンセとエレピの二人がサポートして、
浮遊感溢れるサウンドを加味していること。
ジュピテールのかけ声にも、強めのリヴァーブをかけていたり、
ギター・サウンドも、コンプレッサー使いで伸びやかなサスティンを強調していたりと、
ミックス面でも洗練されたサウンドを志向しているのが、よくわかります。

ロウファイとは対極のサウンドを狙ったといえそうで、
それがオクウェスの持つ野性味を損なわずに仕上げているところが、今回の目玉。
パーカッションと手拍子のみで、ジュピテールがオクウェスと
コール・アンド・レスポンスで歌う曲でも、野性味たっぷりとなりそうなところ、
どこかすっきりと聞かせるミックスにも、それは表われています。
ラスト・トラックのロジェーとの共演で聞かせる爽やかさなんて、
これまでにない新機軸でしょう。
野性と洗練を両立させた新境地を聞かせる新作です。

Jupiter & Okwess "NA KOZONGA" Zamora ZAMOCD2101 (2021)
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アップリフティングなコロゴ アユーネ・スレ [西アフリカ]

Ayuune Sule  PUTOO KATARE YIRE.jpg

キング・アイソバの相棒で、ガーナのコロゴ・シーンを賑わせる逸材、
アユーネ・スレのインターナショナルに向けた第2作です。
ヒップ・ホップ感覚に富んだコロゴを聞かせた18年の前作と路線は変わらず、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-10-09
さらにアユーネ流コロゴをブラッシュ・アップしたアルバムになりましたね。

アユーネ・スレの一番の特徴は、キャッチーなメロディ・ラインに、
フックの利いたフロウが絡む、ソングライティングの上手さ。
アユーネのコロゴを聴いてもらえば、
コロゴが反復フレーズとコール・アンド・レスポンスだけの単調な音楽という、
誤った固定観念を持たれずに済むんじゃないかな。

前作では、ガーナのメインストリームのポップ・サウンド、
ヒップライフやアゾントを取り入れる試みもみられましたけれど、
今作では直接そうしたサウンドを借用することはせず、
ヒップ・ホップやファンクをしっかりと咀嚼して血肉化したサウンドで、
コロゴをアレンジしたという印象でしょうか。

たとえば、ホーンを模したシンセ・サウンドが耳を引く
オープニングの‘Tezaa So Ndeyine’ のリズム・アレンジにも、それが表れていますね。
この曲にフィーチャーされたラッパーは、On-U・サウンドを代表するバンド、
アフリカン・ヘッド・チャージのダブ・マスターのボンジョ。
ボンジョはもう1曲‘Fighting Music’ でもフィーチャーされていて、
控えめなダブ処理も終盤にちらりとみせています。

女性コーラスも従えてラップをフィーチャーしたファンク味たっぷりの‘Don't Be Lazy’ は、
ヒット間違いなしのアップリフティングなナンバー。
人々をダンスに誘うナンバーでも、道徳を説き、神の教えを伝え、
先祖の智慧を受け継ぎ、引き継ぐことを歌う歌詞は、コロゴのストーリーテリングという、
ミンストレル(吟遊詩人)が持つ性格をしっかりと示しています。

今回も大勢のラッパーがフィーチャされていますけれど、
前作のメンツとは全員入れ替え。
ディープなアユーネの歌声と、キレのいいラッパーのフロウの対比が、
キャッチーな曲を輝かせ、伝統とモダンの幸福な結婚が示されています。

Ayuune Sule "PUTOO KATARE YIRE" Makkum MR30 (2021)
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グルーミーなロンドンのメランコリー アルファ・ミスト [ブリテン諸島]

Alfa Mist  BRING BACKS.jpg

ジャズ・ピアニストで、ヒップ・ホップのMCで、シンガー・ソングライターという、
いかにも今のロンドンを象徴する音楽家のアルファ・ミスト。
新作はアンタイからで、CDもちゃんと出るというので、楽しみにしていました。
前作も前々作も、CDは日本盤でしか出なかったもんなあ。

UKジャズ・シーンのど真ん中にいる人とは違い、
トム・ミッシュやジョーダン・ラカイといった音楽家との共演など、
ポップ・シーンに寄せたフィールドで活躍する音楽家ですよね。
イギリス人には珍しくロバート・グラスパーに強く影響を受けたピアニストで、
ジャジーなネオ・ソウル・サウンドや、J・ディラのよれたビート使いは、
もろグラスパー・マナーといえます。

オープニングのフュージョン調のトラックに続き、
オーガニックなフォーキー・テイストのネオ・ソウル、
さらにジャジー・ヒップ・ホップと、
曲ごとにさまざまな音楽性を表出しながら、
アルバム全体をメランコリックなトーンでまとめ上げています。
グルーミーなムードが、いかにもロンドンらしくて、
このムードは、US産からはぜったい生まれないものでしょう。

ビル・エヴァンスを思わす美しいハーモニーのピアノや、
温かなローズのサウンドに絡んでくる、ジェイミー・リーミングの
キラキラしたアルペジオやオブリガードが効果的。
リチャード・スペイヴンのシャープなスネアが生み出す、
生演奏ならではのタイム感にウナるトラックもあれば、
ビートメイキングがクールな音像を結ぶトラックもあります。

ラップばかりでなく、ポエトリー・リーディングもフィーチャーされ、
クラシカルなチェロの室内楽演奏が登場するなど、おそろしく密度の濃いサウンドが
次々と展開していくにもかかわらず、そんな場面変化を意識させない
聴きごこちの良さが、本作最大の美点。
多彩な音楽要素をひと色に染め上げるプロデュース力は、スゴイですね。

ジャケット画のカーペットを敷き込んだ階段に、
31年前、ロンドンでひと月ほど滞在していたホスト・ファミリーのおうちを
思い出しました。今年の梅雨時の、良きBGMになってくれそうな一枚です。

Alfa Mist "BRING BACKS" Anti 87789-2 (2021)
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サン・パウロのラージ・アンサンブル バンダ・ウルバーナ [ブラジル]

Banda Urbana  RELATS SUBURBANOS.jpg

う~ん、これは聴き逃していましたねえ。
ラージ・アンサンブルで聞かせるブラジリアン・ジャズの18年の傑作。
18年といえば、イチベレ・ズヴァルギに興奮しまくっていて、
こちらに気付かなかったのは、不覚でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-11

サン・パウロのビッグ・バンド、バンダ・ウルバーナの3作目。
バンダ・ウルバーナは、
06年にトランペット奏者のルビーニョ・アントゥネスが結成したビッグ・バンド。
ぼくがルビーニョ・アントゥネスを高く買っていることは、
これまでにも何度も書いていますけれど、
残念ながら、2作目を出したあと、ルビーニョは脱退してしまいました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-13

サンバやマルシャといったブラジル音楽のリズム、ジャズのインプロヴィゼーション、
クラシックのハーモニーが融合した音楽性で、
サン・パウロらしいコンテンポラリー・ジャズを楽しめます。

レパートリーは、サックス奏者のラファエル・フェレイラ、
ベーシストのルイ・バロッシ、トランペット奏者ジョアン・レニャリが、
それぞれ2曲ずつ持ち寄ったオリジナルのコンポジション。
いずれも長尺で、組曲的というか、場面展開ががらりと変わる構成は、
映画音楽や劇音楽のようですね。
なかには、ジャコ・パストリアス・ビッグ・バンドを思わせるアレンジがあったり、
飽きさせることがありません。

10管編成のアンサンブルが高速でハーモニーを描いたり、
静寂のパートから一転、エレキ・ギターが暴れるロック・パートに急変するなど、
めくるめく展開が聴きものです。
ゲストに、クラリネット奏者のナイロール・プロヴェッタ、
アコーディオン奏者のトニーニョ・フェラグッチが加わって、ソロを披露しています。
ルビーニョ・アントゥネスがいなくなってしまったのは残念ですけれど、
これまでの2作とは作編曲のレヴェルが格段に上がり、最高作となりました。

Banda Urbana "RELATS SUBURBANOS" no label no number (2018)
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