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サヴァイヴァーの底力 ドム・カエターノ

Dom Caetano  DIVINA ESPERANÇA.jpg

な~んていい顔してるんでしょうか。これこそ、福顔ですよねぇ。
アンゴラのヴェテラン・シンガー、ドム・カエターノのソロ第3作。
センバの名門楽団ジョーヴェンス・ド・プレンダで、
85年から96年まで看板歌手を務め、数多くの受賞に輝いたシンガーです。
ヴェーリャ・グァルダのサンビスタみたいなご尊顔ですけれど、
58年生まれでぼくと同い年なんだよなあ。なんで、こんなに風格あるの?

ゼカ・サーとのコンビで出した18年作が快作だっただけに、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-02-16
是が非でも17年作は見つけねばと、苦心惨憺の末、ようやく叶いましたよ。

本作はなんと、マティアス・ダマジオがプロデュースしたんですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-11-24
本業はプロデューサーのメストレ・フレディが、
ここではアレンジャーの役割に回っています。
こうした制作陣からもわかるとおり、懐古調センバを意図するものではなく、
若い世代にもアピールするキゾンバを中心に据えたサウンドとなっています。
センバの曲も、ルンバやキゾンバのニュアンスを加えたアレンジで聞かせているんですね。
コンパのブレイクを差し挟むアレンジなど、
フレンチ・カリブも消化されているのがわかります。

洗練されたサウンドにのせて歌う、ドム・カエターノのヴォーカルはといえば、
味のあるガラガラ声がいいんですよ。
振り絞るような歌いぶりなんて、胸に沁みるじゃないですか。
レパートリーには、粋なソンもあって、
ロス・コンパドレスを範とした歌い口に、頬がゆるみます。

芳醇な歌声には、長い内戦時代をサヴァイヴしたヴェテランの気概がにじみ、
キゾンバのサウンドでアップデートしたセンバに、より深みを与えています。

Dom Caetano "DIVINA ESPERANÇA" Arca Velha Entretenimentos AV00617 (2017)
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キゾンバ生みの親の会心作 エドゥアルド・パイン

Eduardo Paim  ETU MU BIETU.jpg

これが今回一番の拾いモノというか、意外だった一作。
キゾンバの生みの親、エドゥアルド・パインの12年作。

エドゥアルドのCDは何枚か持っていたけど、全部処分しちゃったし、
これもまったく期待できそうにないジャケだなと思ったら、
1曲目から、アコーディオンにヴァイオリンが絡み、
カヴァキーニョが涼し気なコラデイラのリズムを刻むセンバでスタートし、
中盤からホーン・セクションや女性コーラスも交えた、
麗しいキゾンバへスイッチするアレンジに、ノケぞっちゃいました。

エドゥアルドの90年代のアルバムは、いかにもズークの亜流といった
プアなサウンド・プロダクションだったけれど、
見違えるようなクオリティのクレオール・ポップを聞かせるようになったんですねえ。

クレジットを見ると、エドゥアルド・パインが作編曲にプログラミング、
ベースまでこなしているんですね。ドラムスは生ではなくて、
エドゥアルドのプログラミングですけれど、これならOKでしょう。
楽曲がどれも良く、メロディはキャッチーだし、エドゥアルド自身のヴォーカルも、
少ししゃがれ声の庶民的な歌い口で、親しみがわきますね。

エドゥアルド・パインは、64年、コンゴ共和国ブラザヴィルの生まれ。
コンゴへ亡命したアンゴラ人両親のもとに生まれ、アンゴラへ帰国して、
キゾンバの先駆的バンドSOSで活躍しました。

「キゾンバの生みの親」というのは、SOSの歌手時代に、
インタヴュワーから「この音楽はなに?」と問われて、
キゾンバと答えたことから、その名が広まったといわれています。
じっさいにその発言をしたのは、バンドのパーカッショニストのビビだったのですが、
看板歌手のエドゥアルド・パインが、
キゾンバの生みの親と称されるようになったんですね。

エドゥアルドはその後SOSを脱退して、88年にポルトガルへ渡り、
91年にソロ・デビュー作を出し、90年代はコンスタンスにアルバムをリリースしますが、
21世紀に入って歌手活動を停止し、本作はひさしぶりの復帰作だったようです。

カッサヴのジャコブ・デヴァリューがゲスト参加して、
得意のスモーキー・ヴォイスを聞かせる曲もあれば、
ティンバレスをフィーチャーした、ラテン・テイストのセンバでは、
なんとパパ・ウェンバがゲストで歌っています!

また、ラ・ペルフェクタの曲にエドゥアルドがアダプトした曲では、
二人のギタリストが長いソロを弾いているのが聴きもの。
前半のフュージョン調、後半のロック調と、それぞれ個性的なソロで、
別人が弾いているとしか思えないんですが、クレジットには一人の名前しかないなあ。
このほか、クドゥロのシンガーのゾカ・ゾカやアグレCもゲストに迎えていますが、
ここではクドゥロではなく、キゾンバを歌っています。

アコーディオン、管・弦セクション、女性コーラスが彩りを添え、
適度にヌケのあるサウンドのアッパーなダンス・トラックが、てんこ盛り。
キゾンバ生みの親の会心作です。

Eduardo Paim "ETU MU BIETU" no label no number (2012)
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アダルト・オリエンテッドなキゾンバ エリカ・ネルンバ

Erika Nelumba  POLIVALENTE.jpg

まだまだ続く、キゾンバ祭り。なんたって、大収穫祭ですから。

今度は、19年の本作が3作目となるエリカ・ネルンバ。
83年ルアンダ生まれというから、ペロラと同い年ですね。
ペロラのスムースな歌声とはまた別の、張りのある太い声が特徴。
アルト・ヴォイスのアダルトな歌声が魅力です。

01年に行われたコンテストでプロ入りしたエリカ・ネルンバは、
03年にデビュー作“PENSANDO EM TI” を出し、
08年にセカンド“AGORA SIM!” のあと、本作まで10年以上も沈黙してしまいます。
いったいどうしてたのかと思えば、この方、なんとお医者さんなんですね。
そちらの仕事が忙しくて、音楽活動からずっと離れていたそうで、
この3作目は自己資金で制作したんだそうです。

自主制作とはいえ、しっかりとプロデュースされた作品で、
メロウでいい曲だなと思ったら、カンダの作曲だったりと、楽曲も粒揃い。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-10-25
エリカもいい曲を書いていますね。
もろにズークな‘Estrilho’ なんて、キャッチーな佳曲じゃないですか。

フィーチャリングされたゲスト歌手も4人いて、
リル・サイントとデュエットした‘Café Mwangolé’ では、
テナー・ヴォイスのリルとアルト・ヴォイスのエリカの対比が絶妙。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-03
DJフィラスというトラックメイカーは知りませんでしたが、
なんとこの人もエリカと同業の医者で、トラックメイクだけでなくデュエットもしています。

そしてなにより話題をさらうのは、パウロ・フローレスとデュエットしたセンバでしょう。
キゾンバのレパートリーが並ぶなか、この曲‘Novos Tempos’ だけがセンバで、
なんとパウロ・フローレスは歌だけでなく、作詞も提供しています。
伴奏には、パウロ・フローレスの新作でも起用されていた、
大ベテランのコンガ奏者のジョアンジーニョ・モルガドが参加しています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-06-11

アダルト・オリエンテッドなキゾンバ、間違いありません。

Erika Nelumba "POLIVALENTE" no label no number (2019)
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ラグジュアリーなキゾンバ ペロラ

Pérola  MAIS DE MIM.jpg

アリーのセカンドで、ヘヴィー・Cのプロデュース手腕に感じ入ったんですが、
ペロラのセカンドでもヘヴィー・Cが大活躍しています。
こちらは全曲プロデュースではないものの、大多数のトラックを手がけています。

ペロラことジャンディラ・サシンギ・ネトは、83年、アンゴラ第3の都市ウアンボ生まれ。
13歳の時に家族でナミビアのウィントフックに移り、
ダンス・グループに所属しながら歌い、いくつかのコンテストで受賞もしたとのこと。
その後南アへ渡り、コカ・コーラ主催のタレント発掘番組に出場するも、
南ア人でないことから失格。
アンゴラに帰国して、04年にペロラのステージ・ネームでデビューし、
09年にデビュー作を出します。

14年のセカンドとなる本作は、ヘヴィー・C印のラグジュアリーなサウンドで包んだ
アダルト・コンテンポラリーR&B仕様のキゾンバ。
都会的で洗練されたサウンドは、ヨラ・セメードのキゾンバとも親和性があるかな。
アリーのように、キゾンバ以外のジャンルに手を出すような試みはしておらず、
ストレートなキゾンバに徹したアルバムですね。

クセのない柔らかな声質で、伸びやかに歌うペロラのヴォーカルは、
しなやかな芯を感じさせる、いいシンガーですね。
作家陣は、ヘヴィー・C 、C4・ペドロ、マティアス・ダマジオ、
ネルソン・フレイタスほか、ペロラ自作の曲もあります。
ブラジルのアシェー・クイーン、
イヴェッチ・サンガロをゲストに迎え、デュオもしています。

Pérola "MAIS DE MIM" LS Republicano no number (2014)
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キゾンバ祭り絶賛開催中 アリー

Ary  CRESCIDA MAS AO MEU JEITO.jpg   Ary  10.jpg

この夏は、キゾンバ祭りだっ!

梅雨が明けるのと同時に、どういう巡り合わせか、
アンゴラのキゾンバの良作が、どどっと手に入って、夏気分が全開。
どれも旧作なんですけど、スグレモノ揃いで、嬉しいったらありゃしない。
思わずその昔、ズークが初めて日本に上陸したときの記憶が蘇りました。

あれは、87年の夏だっけ。
GDプロダクションやデブのズークのアルバムが大量に日本へ上陸して、
解放感いっぱいのズーク・サウンドに、目の眩むような思いがしたもんです。
DX7のブライトなシンセ・サウンドに、
ビーチと青い空が目の前に、ぱあっと広がるようでした。

さて、じじぃの昔話はそのくらいにして、
まずはアリーこと、アリオヴァルダ・エウラリア・ガブリエルからいきましょう。
アリーは、86年ルバンゴ生まれ。
02年にコンテストでローリン・ヒルの曲を歌い、落選するものの、
それを観ていたプロデューサーのヘヴィー・Cに見出されて歌手デビューし、
07年にデビュー作を出したキゾンバ・シンガーです。

やっぱりこの人の歌は、華があるなあ。
チャーミングな歌いぶりには、ハジけるような若さが発揮されていて、
時に見せる切ない表情に、もうメロメロ。
16年作の“10” をすでに聴いていましたけれど、
今回手に入れた12年の2作目のサウンドには、ゾッコンとなってしまいました。

アリーを育てたヘヴィー・Cのプロデュースで、
ヴァラエティ豊かなレパートリーを彩るプロダクションが、よく出来てるんです。
さまざまなタイプのキゾンバを演出していて、
クラリネットをフィーチャーし、カヴァキーニョのリズム・カッティングを利かせた
アクースティックな仕上がりのキゾンバなど、
エレクトリックに偏らない音づくりがいいんだな。
前のめりに疾走する生演奏のセンバも、どこかほっこりしていて、なごめます。

アコーディオンとカヴァキーニョが活躍するコラデイラもあれば、
マネーカス・コスタがギターとベースで加わったグンベーなど、
アンゴラ以外のポルトガル語圏アフリカ音楽も取り入れて、
カラフルなアルバムに仕上がっています。

生音使いのトラックと打ち込み使いのトラックの使い分けが絶妙で、
両者がバランスよく配置されているのは、16年作の“10” とも共通していますね。
“10” の方はクドゥロもやっているなど、エレクトロ強めだったので、
ぼくはヘヴィー・Cがプロデュースした12年作の方が好み。
ちなみに“10” ではヘヴィー・Cのもとを離れ、
プロデュース・チームは一新されたんですね。

Ary "CRESCIDA MAS AO MEU JEITO" LS Produções no number (2012)
Ary "10" Divaary Empreendimentos no number (2016)
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世界に飛び出たギター・ティンデ レ・フィーユ・ド・イリガダッド

Les Filles De Illighadad  AT PIONEER WORKS.jpg

ニジェールのトゥアレグ女性グループ、レ・フィーユ・ド・イリガダッドが、
ワールド・ツアーをしているというニュースには、
レーベル元であるサヘル・サウンズの本気度というか、
このグループに本腰を入れているんだなあと感じましたね。

その成果が実って、19年の秋、2年に及んだワールド・ツアーの最後に、
ニュー・ヨーク、ブルックリンで行われた2晩のライヴが
アルバムとなってお目見えしました。

前作は、メンバーのクレジットすら載っていない手抜き制作で、
主宰のクリストファー・カークリーにクレームを言ったんだけど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-11-05
今回はなんと、全曲の歌詞まで載っていて、おぉ、やるな。
ところが、その歌詞はティフィナグ文字で書いてあって、対訳なし。意味ないじゃん。

前作では、ギタリストのファトゥ・セイディ・ガリと歌手のアラムヌ・アクルニの二人に、
サポート役でマリアマ・サラ・アスワンが加わっていましたが、
マリアマはグループを抜けたもよう。その代わりにアマリア・ハマダラーと、
男性ギタリストのアブドゥライ・マダサヌが加わって、
女性3人に男1人の4人編成となっています。

ライヴだから、ウルレーションを放って、華やかな雰囲気になっているのかと思いきや、
だいぶ地味な演奏ぶり。ビート感もあまり強くなくって、こじんまりとした印象です。
う~ん、トゥアレグ女性がギターを弾いているという物珍しさを越える魅力は、
まだ乏しいかなあ。

イシュマール・スタイルのギター・バンドというより、
トゥアレグ女性の伝統的なティンデにギターを加えた
ギター・ティンデに近い感じでしょうか。
ティナリウェンとも共演したティンデのゴッドマザー、
バディ・ララの迫力たっぷりのギター・ティンデを先に知ってしまうと、
レ・フィーユ・ド・イリガダッドはちょっと物足りないですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-07-24

とはいえ、ラストの‘Irriganan’ では、旋回するフレーズをひたすら反復させて歌い、
トランシーな磁場を表出していて、ティンデらしい魅力を放っています。
今後の活動を見守りましょう。

Les Filles De Illighadad "AT PIONEER WORKS" Sahel Sounds SS063 (2021)
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リスボン郊外ゲットー・コミュニティ発の電子音楽 プリンシペ

MAMBOS LEVIS D’OUTRO MUNDO  Príncipe.jpg

ミュージック・マガジンの「ニュー・スタンダード2020s」で、
ポルトガル語圏アフリカ(PALOP)音楽を特集するにあたって、
編集の新田晋平さんからディスク・ガイドの選盤に、
「ポルトガルのレーベル、プリンシペは入りますか」との問いかけがあり。

う~ん、こういうアドヴァイスは、本当にありがたい限り。
ぼくが電子音楽界隈には疎いことを見越して、さりげなく教えてくれているわけで、
新田さんお見通しの通り、そのレーベル、ぜんぜん、存じあげませ~ん!
ということで、プリンシペ、あわててチェックしましたよ。

いやあ、オドロきました。
時代はクドゥロから、とんでもなく飛躍していたんですね。
記事のディスク・ガイドには、
レーベルを代表するDJマルフォックスをとりあえず選びましたが、
プリンシペに集う多くのアーティストをコンパイルしたCDが出ていたので、
さっそくオーダーしましたよ。
ちなみに、プリンシペのカタログはデジタル・リリースが中心で、
CDはたった2作しか出ていないだけに貴重です。

このCDは、プリンシペというレーベルを理解するのに、うってつけですね。
全23曲、すべてのトラックに共通しているのが、ポリリズムの応酬です。
どれもこれも徹底的に、パーカッシヴ。このビートメイキングには圧倒させられました。
シンゲリやゴムなどぶっ飛んだアフリカン・エレクトロニック・ミュージックは数々あれど、
このビート・センスには、夢中にさせられます。

ここに集う若い才能たちは、ハウスやテクノ、あるいはグライムやダブステップなどの
欧米のベース・ミュージックの影響を受けずに、
これをクリエイトしているんじゃないのかな。
それほど非凡で、個性的なトラックばかりが並んでいるんですよ。
琴をサンプリングした‘Dor Do Koto’ とか、独創的すぎるでしょ!
イカれたリズムに唐突なカット&ペーストが挿入される‘Dorme Bem’ も降参。
ダブ創生期を思わす狂いっぷりが、もうサイコー。

ここで生み出されているのは、クドゥロの発展形ではなく、
クドゥロを生み出したバティーダをベースにした電子音楽で、
まさにビートの実験場となっています。
DJマルフォックスは、クドゥロにサンバのバツカーダをミックスしたと語っているし、
アンゴラのタラシンハや、カーボ・ヴェルデのフナナーをミックスしているDJもいます。
まだこの音楽に名前が付いていないところも、将来性を感じますね。
ラベリングされると、外部からピックアップされて消費されるのも早いからなあ。

ちなみにDJマルフォックスことマルロン・シルヴァは、
両親がサントメ・プリンシペ出身の移民二世で、子供の頃からキゾンバやクドゥロで育ち、
父親からサンバやMPB、ジャズを教えてもらったそうです。
3年前に来日してライヴも敢行していたという(!)DJニガ・フォックスは、
内戦のアンゴラからリズボンに逃れてきた難民で、
当時4歳の彼とその家族が落ち着いたのが、リズボン外縁の低所得層アパートでした。

プリンシペから発信されるリスボン郊外に疎外されたPALOPコミュニティ発の電子音楽が
カウンターであることは、バンドキャンプの本作のページに、
革命家アミルカル・カブラルの73年のインタビューの発言を
引用していることからも明らかでしょう。
ペドロ・コスタ監督の00年の映画『ヴァンダの部屋』の光景が立ち上がってくる、
そんな衝撃の一枚です。

v.a. "MAMBOS LEVIS D’OUTRO MUNDO" Príncipe P015 (2016)
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香港の60年代ワールド歌謡 潘迪華(レベッカ・パン)

潘迪華 Diamond.jpg   潘迪華 EMI Pathe.jpg

世界中のヒット曲を歌うカヴァー歌手として人気を集めた、
香港のレベッカ・パンの60年代の名作群が、
オリジナルのままCD化されているの、知っていました?
『レコード・コレクターズ』で2か月にわたって記事を載せたんですが、
拙ブログの読者は雑誌を読まない方が多いので、こちらでも紹介しておきますね。

レベッカ・パンは上海に生まれ、戦後香港へ渡って歌手デビューした人。
のちに大女優となって成功を収めますけれど、パン・ワン・チン名義で、
60年の大晦日に発売されたデビュー作の『與世界名曲』は、
彼女を一躍スターダムに押し上げました。

このデビュー作は、紙ジャケ仕様の「復黑版」シリーズで一度CD化されましたが、
今回は61年の第2作『Oriental Pearls』、63年の第3作『我的心』、
64年の第4作『我愛你』、65年の第5作『潘迪華唱』の5作まとめてボックスCD化。
かつて『世界名曲』という秀逸なタイトルで編集盤が出ましたけれど、
そのオリジナルがすべて聞けるようになったのは、嬉しいかぎりです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2009-12-07

香港で60年頃に設立されたダイアモンド・レコードは、
香港に洋楽ポップスを根づかせた代表的レーベルで、
レベッカ・パンはレーベルの看板歌手でした。
アメリカン・ポップスから、ラテン、ボサ・ノーヴァ、シャンソン、
カンツォーネに日本の童謡や歌謡曲まで、
ラウンジーな伴奏にのせて、世界中のヒット曲を歌ったんですね。
「蝶々さん」「ラサ・サヤン」「ブンガワン・ソロ」
「ウシュクダラ」といったノベルティ色豊かなレパートリーが楽しいったら、ありません。

64年には、イギリスEMIと初の香港人歌手として契約し、
百代唱片(パテ)からアルバムを出します。
このパテ時代に残した67年作『給我一杯愛的咖啡』と、
68年作『男歡女愛』がCD化されました。もちろん初CD化ですよ。
写真のスリップ・ケースに、ジュウェル・ケース仕様のCD2枚が収まっています。

今回CD化された2作には、ダイアモンド時代のヒット曲の再演も収録されていて、
ダイアモンド時代のラウンジーな伴奏から、
ビッグ・バンドによるゴージャスなサウンドに変わっています。
そのため、初演時のエキゾ感が薄れ、ポップス色が強くなっていて、
同時代のカテリーナ・ヴァレンテやザ・ピーナッツと似たイメージになりましたね。
今回調べて気付いたことですけれど、世界中の曲をマルチリンガルで歌って
50年代半ばに一世を風靡した、フランス人歌手のカテリーナ・ヴァレンテと
レベッカ・パンは、同じ31年生まれだったんですね。

ワールド歌謡は、世界一周旅行が夢見られた時代の要請だったのかもしれません。
68年作『男歡女愛』のタイトル曲は、フランシス・レイの「男と女」。
中国語ナレーションの色っぽい掛け合いは、さすが女優ですねえ。
「骨まで愛して」も歌っていますよ。

潘迪華 東西一堂.jpg

さて、最後に、19年に出たベスト・アルバムについても書いておこうかな。
上で書いたダイアモンド時代の編集盤『世界名曲』は、選曲が秀逸で、
ケースや解説の丁寧な制作が忘れられない名コンピレでしたけれど、
19年に500部限定で出たベスト盤は、60~64年のダイアモンド時代(M1-10)、
65~68年のEMI時代(M11-17)、65年ライフ録音(M16)、
70年サウンズ・オヴ・アジア録音(M18)、2003年ライヴ録音(M19)を収録した、
レベッカ・パンの全キャリアを振り返った編集内容となっています。

28ページのライナーには全曲歌詞、クレジット、往年の写真がたんまり掲載され、
丁寧な仕事ぶりは申し分ありません。
難を言えば、500部限定という大歌手にあるまじき僅少さで、
すでに入手困難なレアCDになっているみたいですが、ファン愛蔵盤の一枚といえます。

潘迪華 (Rebecca Pan) 「鑽石之星」 Diamond/Universal 0846893 (1960-1965)
潘迪華 (Rebecca Pan) 「給我一杯愛的咖啡/男歡女愛」 EMI/Pathe/Universal 8888334/5 (1967/1968)
潘迪華 (Rebecca Pan) 「東西一堂 MY HONG KONG」 Universal 7714091 (2019)
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70年代ノルデスチのポップ・ロックふたたび バンダ・パウ・イ・コルダ

Banda De Pau E Corda  MISSÃO DO CANTADOR.jpg

レシーフェのヴェテラン・バンド、バンダ・パウ・イ・コルダの新作です。
う~ん、なつかしい。いまも健在だったんですねえ。
おととし、結成45周年記念のライヴ盤を出していたらしいんですが、
それには気付かなかったなあ。

バンダ・パウ・イ・コルダは、72年にセルジオ、ロベルト、ヴァルティーニョの
アンドレージ三兄弟によって結成されたグループ。
17年にドラムスのロベルトとベースのパウリーニョが亡くなり、
新たなメンバーを加えて活動しているそうです。

北東部音楽に初めてロック感覚を持ち込んだ世代のグループで、
70年代当時は、キンテート・ヴィオラードと
兄弟グループみたいなイメージがありましたね。
サイケデリックな印象も強かったキンテート・ヴィオラードに比べると、
バンダ・パウ・イ・コルダの方は、爽やかなフォーク・ロック・サウンドが持ち味でした。

前の世代のルイス・ゴンザーガたちのように、
サンフォーナ(アコーディオン)やザブンバといったノルデスチ印の楽器を使わずとも、
フレーヴォ、ココ、マラカトゥなどノルデスチの音楽を鮮やかにロック化してみせたのは、
同時代のMPBを共有する世代のセンスだったといえます。
半世紀近くたっても、70年代のあのみずみずしいハーモニーや
サウンドの鮮度が保たれているのは、貴重ですねえ。

この世代の後となると、ヒップ・ホップ/エレクトロ感覚のマンギ・ビートや、
メストリ・アンブロージオのような伝統再構築派で、
またサウンドのカラーががらりと変わるので、
彼らのようなポップ・ロックなサウンドは、70~80年代特有だったといえます。
シコ・セーザルとゼカ・バレイロをゲストに迎えた本作、
あの時代を知らない若い世代にも、新鮮に響くんじゃないでしょうか。

Banda De Pau E Corda "MISSÃO DO CANTADOR" Biscoito Fino BF741-2 (2021)
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20年ぶりの新作 パウロ・セルジオ・サントス

Paulo Sérgio Santos Trio  PEGUEI A RETA.jpg   Paulo Sérgio Santos Trio  GARGALHADA.jpg

ショーロのクラリネット奏者パウロ・セルジオ・サントスが、
なんと20年ぶりに新作を出しましたよ!
少し前にギンガとのデュオ作はあったけれど、本人名義のアルバムは、
今作と同じトリオ編成の01年作“GARGALHADA” 以来のはず。

レーベルは20年前と同じクアルッピだけれど、この20年の間に
クアルッピは活動を休止、その後閉鎖の憂き目にあい、
11年に新経営陣のもと再スタートするという浮き沈みを経ているくらいだから、
どれだけ長い期間だったのか、感慨深く思ってしまいますねえ。

ショーロのクラリネット奏者というと、
ぼくは70年代にアベル・フェレイラから聴き始めて、
その後パウロ・モウラに夢中になったんですけれど、
パウロ・セルジオ・サントスは、もっとずっと後になって出てきた人。
エンリッキ・カゼスやマウリシオ・カリーリョと同世代の、
若手ショーロ演奏家のひとりです。

ぼくが最初にパウロの名前を意識したのは、
コンジュント・コイザス・ノッソスの『ノエル・ローザ曲集』(83)でのプレイだったな。
その後94年に出したソロ・デビュー作、そして同じ年に出たマウリシオ・カリーリョと
ペドロ・アモリンと組んだオ・トリオでの演奏は、忘れられない名演でした。

なんせ長い付き合いなので、つい思い出にふけってしまうんですが、
いまやもう大ヴェテランですからねえ。どんな難曲も涼しい顔で
さらさらと演奏してしまう名人芸に、もう頬がゆるみっぱなしですよ。

今作は、20年前の前作とカイオ・マルシオのギターは変わらず、
パーカッション/ドラムスがジエゴ・ザンガードに交替しています。
レパートリーは、前作同様新旧ショーロを織り交ぜ、
古くはアナクレット・ジ・メデイロス、エルネスト・ナザレー、ピシンギーニャから、
ラダメース・ニャターリ、カシンビーニョ、アベル・フェレイラ、シヴーカ、
新しいところで前作同様ギンガの曲が選ばれています。

柔らかな音色で滑らかに吹いてみせるパウロに、
7弦ギター的なコントラポントを交えて多彩なラインを弾くカイオのギター、
パーカッションとドラムスを交互に叩き分けるジエゴと、
たった3人という編成であることを忘れさせる、奥行きのある演奏を堪能できます。
パウロは、カイオ・マルシオの曲で一瞬ユーモラスな表情をみせるほかは、
派手さのないプレイに徹していて、若い時から変わらぬ実直さを嬉しく思います。

Paulo Sérgio Santos Trio "PEGUEI A RETA" Kuarup KCD340 (2021)
Paulo Sérgio Santos Trio "GARGALHADA" Kuarup KCD155 (2001)
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男泣きの南ア・ソウル・ジャズ マイク・マガレメレ

Mike Makhalemele  THE PEACEMAKER.jpg

今回、もろもろ手に入れたアッ=シャムス(ザ・サン)盤CDで、一番驚いたのがコレ。
サックス奏者マイク・マガレメレの75年デビュー作。

CD化されていたことを知らなかったので、それ自体もオドロキでしたけれど、
なんでまたザ・サンから出たんでしょうねえ。オリジナル盤はジョバーグなんですけれども。
調べてみたら、81年にザ・サンが再発していたんですね。
ジャケットはジョバーグのオリジナル盤どおりで、ザ・サンのロゴが付いただけ。
話は脱線しますけれど、当方「ヨハネスブルグ」という表記に、強い不快感を持っており、
間違ってもこのレーベルを、「ヨブルグ」などと読まぬよう、お願いします。

マイク・マガレメレは、38年ジョハネスバーグ、アレクサンドルに生まれたサックス奏者。
キッピー・ムケーツィに強い影響を受け、デクスター・ゴードン、チャーリー・パーカー、
ジョン・コルトレーン、ジョー・ヘンダーソンからも影響を受けたといいます。
ソウル・ジャズのグループ、ザ・ドライヴに在籍するなど、
ソウル・ジャズ色の濃い演奏が持ち味です。

昨年ザ・ヘシュー・ベシュー・グループの記事でも触れましたけれど、
70年代南アでザ・ドライヴが果たした役割は、本当に大きかったんですねえ。
マイクも参加した71年デビュー作の“SLOW DRIVE TO SOWETO” は、
ぜひCD化してほしいなあ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-11-29

南アにやってくるアメリカ人音楽家の伴奏に起用されることもしばしばで、
チャンピオン・ジャック・デュプリー、ジョー・ヘンダーソン、
カーティス・メイフィールド、クラレンス・カーターのバックを務めたとのこと。
このほか、ポール・サイモンの『グレイスランド』に参加して、‘Gumboots’ で共演。
87・88年にはレディスミス・ブラック・マンバーゾやミリアム・マケーバ、
ヒュー・マセケラとともに、サイモンのグレイスランド・ツアーに同行しています。

本作でも、そんなマイクらしいアーシーな演奏をたっぷりと楽しめます。
ぶりぶりと豪放磊落にビッグ・トーンを鳴らす、男くさいサックスがたまんない。
フェンダー・ローズのエレピと絡むソウルフルなサックスなんて、
往年のウィルトン・フェルダーをホウフツさせるじゃないですか。
そう、南ア版ジャズ・クルセーダーズみたいな。

ラスト・トラックの‘My Thing’ のテーマが、泣けて、泣けて。
涙の味がにじんだアーシーなメロディをストレートに吹ききる、
テナー・サックスの武骨なブロウに、男泣きするしかありません。
これぞ、南ア・ソウルじゃないですか。

Mike Makhalemele "THE PEACEMAKER" As-Shams/EMI CDSRK(WL)786151 (1975)
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ソウェト蜂起を前にしたソウル・ジャズ ブラック・ディスコ

Black Discovery NIGHT EXPRESS.jpg

70年代の南ア・ジャズを中心にリイシューしているイギリスのマツリ・ミュージックが、
ブラック・ディスコの76年セカンド作をデジタル・リリースしたのは、
もう5年も前になるのか。
マツリは、レーベル発足当初はCDも作っていたけれど、
いまではデジタルかヴァイナルのみのリリースで、
CDはまったく出さなくなっちゃったなあ。

そんなわけで、このブラック・ディスコも、記憶の彼方になっていたんですが、
つい最近、オランダのお店に在庫のあった南ア・ジャズのレアCDのなかに、
オリジナル盤のレーベル元、アッ=シャムス(ザ・サン)が
96年にCD化した盤を発見したんです!

ブラック・ディスコというのは、南ア・ジャズ・シーンで活躍していた
テナー・サックス兼フルート奏者のバジル・コーツィーと
ベーシストのシフォ・グメデが、当時まだ新人だった
オルガン奏者のポップス・ムハンマド・イスマイールをフックアップして、
75年に結成したドラムスレスのトリオ。

デビュー作が成功したことから、バジル・コーツィーと
シフォ・グメデがダラー・ブランドのもとで一緒に演奏していたドラマー、
ピーター・モラケを加えて、本セカンド作をレコーディングします。
ちなみに、バジル、シフォ、ピーターの3人は、
ダラー・ブランドの最高傑作“AFRICAN HERBS” のメンバーですよ。
黄金メンバーですね。

こんなふうに紹介すれば、
ブラック・ディスコは、南ア・ジャズのグループと想像されるでしょうが、
グループ名にディスコとあるとおり、
ほとんどジャズ色のないインスト・ソウルに近いグループだったのですね。
ぎりぎりソウル・ジャズといえるかどうか。
ブッカー・T&ジ・MGズを範としているのは確かで、マツリのサイトでは、
「スタックス・サウンドへの南アフリカからの回答」と表現していました。

実は本作、当初はブラック・ディスカヴァリーという名義に変えて
リリースされる予定だったのが、当時の南ア政府の検閲を通らず、
許可されなかったという出来事がありました。
このアッ=シャムス盤CDのジャケットは、グループ名のあとに very を付けて、
ディスカヴァリーに変えるという粋なデザイン処理がされていて、
バック・インレイや背にもブラック・ディスカヴァリーと記して、
グループの当初の意志を実現しています。

本作が録音されたのがどういう時代だったかといえば、
ソウェト蜂起の4か月前となる76年2月。
アパルトヘイト下の抑圧によって、
黒人住民の不満が爆発寸前となっていた、まさにその時でした。

そんな不満をなだめるかのように、ブラック・ディスコのサウンドは、
リラックスしたオルガンとメロウなサックスとフルートが、その表面を覆っていますが、
その裏に沈み込んでいる、怒りを沈殿させた黒人たちのパワーは、
ウネりまくるベースと、キレのいいドラムスが生み出すグルーヴに表現されています。
このサウンドが、当時の黒人の胸にどれくらい刺さったかは、容易に想像つきますよ。

ティミー・トーマスふうのリフを織り込んだ、
11分を超す長尺のタイトル曲‘Night Express’ には、
やるせない思いがこみ上げてきます。

Movement In The City.jpg

その後、同じ76年の10月に、ベースとドラムスが交替して3作目を出したあと、
ポップスとバジルは、ブラック・ディスコを発展的解消し、
ムーヴメント・イン・ザ・シティを結成します。
ムーヴメント・イン・ザ・シティの79年デビュー作のジャケット・カヴァーが、
ゲットーの壊された住宅と細道の荒涼とした写真が飾られるという、
さらに過酷な現実が待ち受けていることを考えれば、
“NIGHT EXPRESS” は、嵐の前の静けさであったといえそうです。

Black Discovery (Black Disco) "NIGHT EXPRESS" As-Shams/EMI CDSRK(WL)786158 (1976)
[LP] Movement In The City "MOVEMENT IN THE CITY" The Sun SRK786147 (1979)
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コソヴォのタラヴァ テウタ・セリミ

Teuta Selimi  LIVE.jpg   Teuta Selimi  LOQKA JEM.jpg

エドナ・ラロシに続き、また一人コソヴォの女性歌手のCDを入手しました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-04-18
テウタ・セリミもエドナと同じプリシュティナ出身のシンガーで、エドナの3つ年上。

『ライヴ』を謳う09年作は、ライヴではなくスタジオ録音。
同じく『ライヴ』を題したエドナのアルバムはノン・ストップ形式で、
ライヴ感を演出していましたけれど、こちらは9曲を収録。
スタジオ録音なのに『ライヴ』を謳うのは、どういう理由なんですかね。
よくわからないんですが、15年作同様、全編アップ・テンポのダンス・ポップです。

テウタ・セリミは20年のキャリアのある歌手で、
ホイットニー・ヒューストン、マライア・キャリー、ローリン・ヒルなどを
聴いて育ち、ボブ・マーリーやUB40などのレゲエを通じてスカやロックステディを学び、
アルバニアのポップ・シーンにジャマイカ音楽を広めた人でもあるそう。
このアルバムにそうしたジャマイカ音楽の影はうかがえませんけれど、
ダンス・ポップのグルーヴ感を吸収したということなのかな。

打ち込みビートのうえに、ダラブッカやダウル(大太鼓)、ダイレ(タンバリン)の
パーカッシヴな音色を響かせて、フォークロアなサウンドを強調しているんですね。
クラリネットにズルナ、ヴァイオリンがソロを取るスペースも与えられていて、
カーヌーンが登場する曲などもあります。

アルバムを通してバルカン的なサウンドが支配的ではあるんですけれど、
ズルナとダウルのコンビネーションは、トルコ音楽の色合いが濃厚だし、
リズムのヴァリエーションも豊かで、
さまざまな出自の音楽がミックスされていることがうかがわれます。
いわゆるポップ・フォークのなかでも、
ブルガリアやセルビア、ルーマニアなどとは少し毛色が違いますね。
むしろトルコのアラベスクの方が近い感じがしますね。

気になって少し調べてみたところ、
この音楽は、タラヴァと呼ばれるものだということがわかりました。
タラヴァは、コソボのロマのコミュニティの音楽をもとに90年代に生み出され、
コソボのアルバニア語圏のコミュニティから発信されて、
アルバニアや北マケドニアで人気が高まったジャンルなのだそう。

さらに調べていくと、タラヴァには魅力的なシンガーが大勢いることがわかり、
片っ端から試聴して気になった人を、アルバニアのショップに現在オーダー中。
面白いアルバムがあったら、またここで報告しますね。

Teuta Selimi "LIVE" EmraCom/Lyra no number (2009)
Teuta Selimi "LOQKA JEM" Lyra no number (2015)
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ファドの看板を下ろして アントニオ・ザンブージョ

António Zambujo  VOZ E VIOLÃO.jpg

あ、これなら聞けるわ。
ボサ・ノーヴァの歌い口でファドを歌うアントニオ・ザンブージョは、
こんな気持ち悪いファド、聞けるかよと、ずっと耳が拒否ってたんですが、
ボサ・ノーヴァに寄せたギター弾き語りの新作は、ぼくでもOK。

新作は『声とギター』という、ジョアン・ジルベルトのアルバムから借りてきたタイトル。
セルソ・フォンセカとか、最近使い回されることの多いタイトルですけれど、
シンプルなギター弾き語りで、ファドから離れてくれたおかげで、
ようやく寒気を覚えず、この人の歌を楽しめました。

そうだよね。そもそも、ファドなんか歌わなきゃいいんだよな。
こういう歌い口が魅力になるレパートリーは、いくらでもあるんだからさ。
フランク・ドミンゲスの代表曲‘Tu Me Acostumbraste’ なんて、最高じゃないですか。
ザンブージョの歌を聴いて、いいなあと思ったの、これが初めてですよ。

この人、フィーリンを歌えば、バッチリじゃん。
ホセ・アントニオ・メンデスの曲なんかも、歌わせてみたくなりますね。
やっぱボサ・ノーヴァやフィーリン向きの人なんだな。
ファディスタなんかじゃないよ、この人。
「ニュー・ファド・ヴォイス」なんて気色の悪い看板、下げちゃえばいいのに。
ここでもファドの‘Rosinha Dos Limões’ を歌っているけど、やっぱキモイ。
こういうのを平気で聞ける人って、ファドをなんにも知らない人だと思うよ。

また、ボレーロ~フィーリン調が似合うといっても、
‘Mona Lisa’ みたいな甘ったるい曲を選曲する通俗さは、いただけないなあ。
もっとドライな曲を集めた、大人向けのヴォーカル・アルバムを作ってもらいたいものです。

António Zambujo "VOZ E VIOLÃO" Sons Em Trãnsito/Universal 3574949 (2021)
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アヴァンギャルド・フォーク・ジャズ ジェイムズ・ブランドン・ルイス~レッド・リリー・クインテット

James Brandon Lewis  JESUP WAGON.jpg

立て続けに買った2枚のフリー・ジャズのCDが、
どちらもウィリアム・パーカーが参加していて、こりゃまたなんという偶然か。
そうと知らずに買ったのは、ドポラリアンズの新作と、
ジェイムズ・ブランドン・ルイスの新グループ、レッド・リリー・クインテット。

ウィリアム・パーカーは、70年代ロフト・ジャズ・シーンに登場し、
その後セシル・テイラーやデヴィッド・S・ウェアとの共演で、
名を馳せたヴェテラン・ベーシスト。日本にも何度か来てますよね。
そのウィリアムとシカゴ・アンダーグラウンド・シーンで活躍するチャド・テイラーが
リズム・セクションを担った、レッド・リリー・クインテットの方に強く惹かれました。

ジェイムズ・ブランドン・ルイスの逞しいテナーが、すごくいいんだな。
デヴィッド・マレイの全盛期をホウフツとさせるブロウに、胸がすきます。
またそのプレイも豪放一本やりではなく、コルネットのカーク・クヌフクとの掛け合いは、
じっくりとした対話となっていて、聴き応えがありますよ。

本作は、植物学者ジョージ・ワシントン・カーヴァー(1864-1943)を
トリビュートした作品。
奴隷として生まれたカーヴァーが、南北戦争後の奴隷解放によって修士課程まで修め、
農学研究につくした人物だということは、今回初めて知りました。
カーヴァーは、綿花の連作で消耗した土地の改良に目を向け、
落花生やサツマイモの輪作を可能とする栽培法を開発しました。
それは南部の貧困を解消しようという、カーヴァーの情熱のたまものだったんですね。

ジャケットに描かれているジェサップ・ワゴンとは、
カーヴァーが新しい農業を広めるために、南部を走り回った移動式実験車のこと。
それをタイトルとしたオープニング・トラックは、
ニュー・オーリンズのマーチング・リズムに、ワークソングを想起させる、
南部フィールたっぷりのメロディが奏でられます。

サックスとコルネットがコール・アンド・レスポンスの形式をとりながら語り合う
‘Fallen Flowers’ は、メロディアスで親しみやすく聞こえるものの、
変拍子を組み合わせた複雑な構成を持つなど、
どの曲もかなり工夫を凝らした建て付けになっていることに気付きます。
ルイスの作曲能力の高さが示されていますね。

緻密なアンサンブルとエモーショナルなプレイのバランスも、絶妙。
チャド・テイラーのドラミングが、とてつもないテクニックを披露していて、
メロディを繊細に叩き分けるかと思えば、一気に疾走してグルーヴを強調するなど、
巧みに場面を動かしていくプレイに、ウナりました。

コットン・フィールドで働く綿摘み女を描いた点描画を見せながら、
ルイスがストーリーテリングするような、アヴァンギャルド・フォーク・ジャズ作品です。

James Brandon Lewis - Red Lily Quintet "JESUP WAGON" TAO Forms TAO05 (2021)
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デンジャラスな才能 ジェイムズ・フランシーズ

James Francies  PUREST FORM.jpg

とてつもないもん、聴いちゃった。
ブルー・ノートが送り出した新進ピアニスト、ジェイムズ・フランシーズの新作。
すんげぇーぞ、コレ。
ジャズ新世代のスゴさをまざまざと見せつける、トンデモ級の衝撃作です。

飛び出してくる音楽のハイブリッドさに、脳ミソが沸騰しました。
演奏されているのは、まぎれもなくジャズなんだけど、
ビート・ミュージックのようだったり、弦楽四重奏のクラシカルな演奏が出てきたり、
サウンドのテクスチャーが、いわゆるジャズを完全に逸脱していて、
なんと形容したらいいのか、戸惑うばかりです。

最初はただただ圧倒されてしまったんですけれど、
5・6回聴いたあたりから、ようやくこの音楽を語る言葉を、
少しずつ考えられるようになってきました。
オープニングの短い曲から、はやこの人の得体の知れなさが炸裂します。
コマ落としのフィルムのような、歪んだサウンドスケープを描く
幻想的な鍵盤の演奏に、女性のナレーションがのっかるトラック。

なにやら不穏なムードに包まれていると、一転、
EDMのマシン・ビートのようなドラミングが突進する、激烈なトラックに移ります。
バッキバキに尖ったビート・ミュージックを、人力のドラムスがトレースするかのような
ジェレミー・ダットンのドラミングが、もう凄まじいったらない。
ビートはジャストでも、リズムにズレを生じさせるそのドラミングは、
いったいどういう構成になっているのか、何度聞いても謎すぎてよくわからん。

さまざまなリズム・フィギュアを駆使して、グルーヴを構築しているようで、
主役のジェイムズ・フランシーズは電子的なエフェクトも多用して、
激しく自己主張する濃密なソロを聞かせます。
リーダー作では、コンポジションとアンサンブルを重視したパフォーマンスに徹する
ヴィブラフォンのジョエル・ロスとアルト・サックスのイマニュエル・ウィルキンスも、
ここではインプロヴァイザーとしての実力を100%発揮していて、もう、ちびりそう。

ジェレミー・ダットンにせよ、ジョエル・ロスにせよ、イマニュエル・ウィルキンスにせよ、
ジョエル・ロスの2作では、こんなスゴイ人たちだとは気付かなんだ。
ところが、そうした即興もサウンドスケープのなかに回収されるので、
いわゆる弾きまくり/吹きまくりの印象を残さないところが、新しい。

そのハイライトが ‘My Favorite Things’ でしょう。
こんな ‘My Favorite Things’ 聴いたことない!
原曲にさまざまなリフやメロディをアダプトし、リズムも解体しまくり、
サウンドの洪水と化した演奏は、もうトンデモないことになっています。

トラックごとに、サウンドのカラーを際立たせる音響処理を施したミックスが、
この作品のキーとなっていますね。
ヴォーカルをフィーチャーしたトラックから、エフェクトを施したピアノだったり、
さまざまなエレクトロを駆使したサウンドが、奥行き深い響きを伴っていて、
慎重に調整されているのがわかります。
エネルギッシュな即興演奏のダイナミズムを倍加させているのも、
そうしたミックスの効果でしょう。

コンポジション、アレンジ、インプロヴィゼーション、ミックスのすべてに新しさがあり、
それを生み出しているのが、ジャズ、クラシック、ロック、R&B、ヒップ・ホップ、
ビート・ミュージック、アンビエントから学び取った、音楽教養の幅広さと深さ。
新世代の才能が、これほどまばゆく見える作品はありません。
未聴のデビュー作もさっそく聴かなくっちゃ。
ジェイムズ・フランシーズ、末恐ろしきデンジャラスな才能の持ち主です。

James Francies "PUREST FORM" Blue Note B003362402 (2021)
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