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スコットランド・ゲール語の伝承歌集 マイリ・マクミラン [ブリテン諸島]

Màiri MacMillan  GU DEAS.jpg

しみじみ、いいアルバムだなぁと、ため息がこぼれました。
スコットランド、アウター・ヘブリディーズ諸島のサウス・ウイスト島から登場した、
マイク・マクミランのデビュー作。
美しく澄んだその歌声が、スコットランド・ゲール語を鮮やかに響かせます。

スコットランド・ゲール語の歌に囲まれ、何世代にもわたるゲール語文化の伝統を、
生活として学びながら育ってきた人であることが、
その歌いぶりにくっきりと刻印されていますね。

ライナーには、イシアベイル・T・マクドナルドから多くの歌を習ったとあり、
その女性がどのような人かはわかりませんが、
おそらく地元で高名な歌い手なのでしょう。
サウス・ウイスト島で女性たちが伝えてきた歌を教わりながら、
じっくりと時間をかけて、自分のものとしてきたんですね。
ライナーにゲール語と英語で、各曲の歌詞と歌の背景が書かれてあり、
マイリの歌に対する深い愛情が伝わってきます。

アルバムをプロデュース、アレンジしたマイリ・ホールが弾くピアノと
足踏みオルガンのハーモニウムに、フィドル、ギター兼バグパイプ、
ハープの4人が、繊細な表現力で歌の生命力を最大限に引き出していきます。
メンバーによるヴォーカル・ハーモニーも、
力強さと繊細さをあわせ持つ美しさがありますね。
ハープを弾くレイチェル・ニュートンは、ケルト・ハープのクラルサックと
エレクトリック・ハープを使い分け、伝統と現代を繋いでいます。

スコットランド・ゲール語による伝承歌集の名作が、またひとつ誕生しました。

Màiri MacMillan "GU DEAS" Màiri MacMillan MMM1CD (2021)
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マルチニークが生んだ異才のラテン・ジャズ アンリ・ゲドン [カリブ海]

Henri Guédon  KARMA.jpg

マルチニークが生んだ異才の音楽家、アンリ・ゲドンの75年作がリイシューされました。

アンリ・ゲドンはパーカッショニストであるものの、
ベレ(ベル・エアー)などの伝統的なマルチニーク音楽ではなく、
ニュー・ヨーク・ラテン~ブーガルー~サルサの音楽家と共演して、
グァグァンコー・ジャズ、グァヒーラ・ソウルなどの音楽をクリエイトしていたことは、
04年にコメットが編纂したコンピレ“EARLY LATIN AND BOOGALOO RECORDINGS
BY THE DRUM MASTER.” で知られていたとおり。

今回のリイシューにあたっては、アンリを五重に多重露光した写真を、
サイケデリックな色調に加工したオリジナル・ジャケットは採用されず、
モダン・アート作品を前にした白黒写真に変更されています。
アンリは、画家、版画家、彫刻家、陶芸家でもあったので、
ここに写っているのは、おそらくアンリの作品なのでしょう。

各曲にリズムの形式名が添えられていて、
ビギン、モザンビーケ、ボンバ、ベル・エアーはわかるものの、
サンテリーアやアフリカ・タンブーという、大雑把な形式名があったり、
聞いたことのない形式名がありますね。

マズクールとあるのは、マズルカとズーク・サウンドとのミックスか?
ヴァラソンガと書かれた曲は、ソンゴに似ているので、ソンゴを改変したものか?
メレングァパというのは、メレンゲとグァパチャのミックス?

まぁ、そんな具合で、リズムの実験場といった曲の数々を、
アナログ・シンセ使いの70年代らしいサイケデリックな感覚を加えて、
面白いラテン・ジャズにしています。
アンリのシロウトぽいヴォーカルが全面的にフィーチャーされていても、
主役はパーカッションの利いた演奏の方で、
ラテン・ジャズ・アルバムといって差し支えないでしょう。

Henri Guédon  Celini.jpg

アンリ・ゲドンの72年のデビュー作も、同じ趣向のラテン・ジャズでした。
まだ当時はシンセは使われておらず、ヴァイブでしたけれど。
そのヴァイヴを弾いているのが、なんとマラヴォワのポロ・ロジーヌで、
ベースもマラヴォワの初代メンバー、アレックス・ベルナールが弾いています。
初期のマラヴォワはアラン・ジャン=マリーがピアニストを務めていたので、
ポロ・ロジーヌはヴァイブを担当していたんですね。

このデビュー作では、ビギン、マズルカのマルチニーク音楽と、
グァグァンコー、グァラーチャ、ボレーロのキューバ音楽が半々となっていて、
ビギンの曲にブーガルーのブリッジを差し挟んだ‘Dorothy’ など、
75年作で発揮されるリズムの実験の萌芽がうかがえます。

ぼくはこのアルバムをCDで持っていますが、
CDの存在は知られていないようで、ディスコグスにも載っていません。
冴えない表紙デザインになってしまったCDより、
オリジナルのLPジャケットのほうが、断然いいんですけれどね。
https://www.discogs.com/release/2413780-Henri-Gu%C3%A9don-Et-Les-Contesta-Kik%C3%A9

アンリ・ゲドンのアルバムって、
これら初期の作品のほうが、いま聴くと新鮮に響きますね。

Henri Guédon "KARMA" Outre National ON02CD (1975)
Henri Guédon "HENRI GUÉDON" Celini 014-2 (1972)
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バンバラ・グルーヴの元祖 シュペール・ビトン・ド・セグー [西アフリカ]

Super Biton de Segou  Afro Jazz Folk Collection.jpg

リリース告知以来、胸をときめかせて待っていたアルバムが、ついに届きました!
かつてのバンバラ王国の都セグーが生んだ、
マリ最高のバンド、シュペール・ビトンの未発表音源集でっす!!

1曲目の‘Ndossoke’ から、バンバラ独特の泥臭いグルーヴが爆発。
期待どおりのサウンドが飛び出して来て、もう心臓バクバクもんです。
タイトルから察するに、バンバラの猟師を称える口承伝統から着想を得たものや、
バンバラ文化に敬意を示した曲で占められていると思われます。

しつこく反復を繰り返すメロディが印象的な17分を超す‘Kamalen Wari’ は、
セグーに暮らす民族のひとつであるボゾの物語のようですね。
落ち着いたリズムがバンバラとはまたひと味違い、
ボゾの漁民由来のリズムが反映されているのかもしれません。

リーダーのアマドゥ・バのトランペットが、きらびやかなロング・トーンをきめれば、
ママ・シソコのリード・ギターもよく鳴っていて、ゾクゾクしますねえ。
未発表音源集とばかり思っていたら、6曲目の‘Bwabaro’ は、
86年の最高傑作“AFRO JAZZ DU MALI” 収録の‘Bua Baro’ と同音源。
あ、既発曲も交じっていたんですね。

ラストの“Garan” も、77年にマリ、クンカンから出た青盤(KO/77.0414)の収録曲。
イントロのアタマを少しカットして、最後もフェード・アウトした
短縮ヴァージョンとなっていて、音質がやたらと悪いのは、いかがなもんすかね。
ほかにも、マスター・テープの不良箇所が数カ所あって、気がそがれます。

今回のリイシューは、シュペール・ビトンの元メンバーの、
ママ・シソコ(リード・ギター)、モディボ・ジャラ(キーボード)、
アブバカル・キサ(リード・ヴォーカル)が選曲したとのこと。
アブバカル・キサは今年4月21日に亡くなってしまい、
完成したLP/CDを見ることができなかったのは残念でしたねえ。

シュペール・ビトンは、アマドゥ・バが87年に脱退して、事実上解散となっていましたが、
08年に残されたメンバーたちによって再結成されたそうです。
え~、初耳。
それならなぜレコーディングしないんだろう。コーディネートする人間がいないのかなあ。
70~80年代の活動当時だって、録音の機会は恵まれていたとはいえなかったしねえ。
70年代のビエンナーレで何度も優勝して国立バンドへ昇格し、
名実ともにマリのトップ・バンドとなったシュペール・ビトン。
バンドの実力からしたら、レイル・バンドより確実に格上だったのに。

そんなシュペール・ビトンがマリ音楽史に残した偉業を、新しく聴くリスナーにも届くよう、
しっかりとした解説が欲しかったところなんですが、テキストは皆無。
録音データ、メンバー・クレジットなども、いっさいなし。
これははっきりいって、リイシュー・アルバムとしては失格ですね。
だって、これじゃあ、配信とおんなじじゃないの。
フィジカルで制作する意義を、どう考えてんのかねえ。
レーベル元に猛省を促したいですな。

Super Biton De Segou “AFRO, JAZZ, FOLK COLLECTION VOL.1” Mieruba/Deviation no number
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忘れじの海外通販サイト その4 Yell Africa [レコード屋・CDショップ]

Musiliu Haruna Ishola  Authentic.jpg   K1 De Ultimate  FLAVOURS.jpg

個人経営の小さな海外通販サイトの場合、
日本向けに送ってくれる店を探し当てるのがひと苦労というのは、
前回のワン・ワールドの回でお話ししましたね。

それとはまた別に、そもそも信頼のおける店を見つけることじたい、
やっかいなのが、ナイジェリア人オーナーのオンライン・ショップでした。
ナイジェリアといえば、419詐欺事件で世界中に悪名がとどろくほど
極悪商売人がゴロゴロいる世界なので、一筋縄じゃいかないんですよ。

海外通販を始めた頃、一番泣かされたのが、ナイジェリア人通販サイトです。
アメリカにナイジェリア人のオンライン・ショップがけっこうあって、
ジュジュ、フジ、アパラのタイトルがずらりと並んだカタログに、
狂喜乱舞してオーダーしてみると、届くのは、粗悪ブートレグなんですね、これが。

どうりで2.99~3.99ドルなんて激安価格なわけだと、
届いたCDRにアタマを抱えるんですが、
注意してみると、この価格帯で売っているお店はほかにもあり、
おそらくそれもブートレグ屋なんでしょうね。
30年前、レゴスやイバダンの貧しい地区でよく見かけたダビング屋
(カセットにダビングして売っているブートレグ屋)が思い浮かびます。

なので、まず、正規版をちゃんと売っているお店を見分けなきゃいけない。
といっても確かな見分け方があるわけではなく、
CD1枚8ドル以上の値段がついていれば、おそらく大丈夫かなという
あやふやな判断で、また新たな店を開拓してオーダーしてみるんですが、
今度はまた、別のトラブルが発生するんですね。

いちおうこのやり方で、正規版を送ってくる店は見つかったものの、
5枚オーダーしたのに、3枚しか送ってこないとか、
オーダーと違うものを送ってくるとか、一部にブートレグがまじっているとか、
まともにオーダーどおりのCDが届いたためしがなく、毎度毎度、怒り心頭。

そのたびにメールで苦情を言うんですけれど、
のらりくらりとかわしたり、不誠実な対応を繰り返す店が多く、
結局ラチがあかなくて、お付き合いをやめた店が何軒あったことか。
Nollywood Movies Onlne、Nigerian Store、Naija Home Movies、
Jjj Niger Movies、まあ、いろいろありましたよ。

ナイジェリア人ってのは、性悪かバカしかいないのかと、
悪態つきながら、粗悪CDRをゴミ箱に放り込み続けた末に、
Yell Africa と出会えたときは、涙がちょちょぎれましたよ。
毎回オーダー通りの商品がちゃんと届くしね。
そんなこと、当たり前じゃないかと言いなさんな。
それがナイジェリア人のお店じゃ、当たり前じゃないんだよー。

何回かオーダーして信頼感がわき、
その後まとめて10点以上オーダーしてみても、
トラブルは一度も起きませんでした。

Yell Africa とは5・6年付き合った後、
オーナーがナイジェリアに帰国するので、店をたたむというメールが届き、
ナイジェリア盤CDを扱っている別のお店を紹介してくれました。
サイトの閉鎖にあたって、こんな丁寧な引継ぎをしてくれたお店は、
後にも先にもここだけ。誠実なナイジェリア人もいるということを
教えてくれた、忘れられない通販サイトです。

Musiliu Haruna Ishola "AUTHENTIC" Corporate Pictures no number
K1 De Ultimate "FLAVOURS" Babalaje/Omega Music 065/066/067 (2005)
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グローバライズされた新感覚エチオピアン・ポップ ミッキー・ハセット [東アフリカ]

Micky Haset.jpg

ジャケットのコスチュームから、伝統系のシンガーかなと思ったら、大ハズレ。
オープニングは、エチオピア色皆無のコンテンポラリー・ポップ。
2曲目はラウル・ミドンふうのギターに、コーラスとブラスが絡みながら、
最後にギター・ソロも披露する、なかなか洒落たアレンジを聞かせてくれます。
主役のミッキーのスムースな歌い口は、
フュージョン・アルバムにフィーチャリングされるタイプのシンガーのよう。

ビート・ミュージックにも似た打ち込みを強調しつつ、音数を絞った3曲目でも、
柔らかなサウンドのテクスチャとソフトなヴォーカルが絶妙で、
チェリナのデビュー作を思わす新感覚のエチオピアン・ポップが味わえます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-01-06

かと思えば、4曲目はアムハラらしいハチロクで、マシンコやクラールも登場します。
ミッキーはコブシを回さずに、スマートに歌い切っていて、その手触りは新感覚。
このサウンドをエチオ色が薄れたといぶかしむ向きもありましょうが、
ぼくはグローバライズされた新時代のエチオピアン・ポップとして、「アリ」だと思うなあ。
6曲目のティジータなんて、新世代のエチオ情緒という感じで、ぼくは支持しますね。

5曲目のソフトなファンク、7曲目はレゲエ、そのほかレゲトンなどもやりつつ、
アルバム・ラストは、ホーン・セクションを従えた従来のエチオピアン・マナーなポップスで
締めくくっていて、う~ん、ウマい構成ですねえ。

この人のバイオについては情報がないんですが、
Vol.1 とあるので、デビュー作なんでしょうね。
ミュージック・ヴィデオはいくつかネットに上がっていて、
一番古い17年のヴィデオでは、なんとトランスをやっていてビックリ。

その後生音中心のシンプルな音楽性にシフトしたらしく、
エレクトリック・ギター、アクースティック・ギター、
ベース、サックス、男女コーラスをバックに、
ミッキーはジェンベ2台にハイハットとシンバルのセットを叩きながら歌う、
スタジオ・ライヴふうのヴィデオがあります。
こうした変遷を経て、たどり着いた本作、今後も楽しみな人です。

Micky Haset "HASET" Micky Haset no number (2021)
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解き放たれた歌声 ラヘル・ゲトゥ [東アフリカ]

Rahel Getu  ETEMETE.jpg

デビュー作は、こうでなくっちゃねえ。
若さはじける歌声がまばゆい、ラヘル・ゲトゥのデビュー作です。
94年アディス・アベバ生まれ、
11歳から青少年シアターで歌手兼俳優としてキャリアを積んできた人だそう。

メリスマをテクニカルに効かせながら、アーティキュレーションも鮮やかな
ダイナミズムを感じさせる歌いぶりのオープニングから、
リスナーをその歌唱に引きずり込みます。
晴れ晴れとした堂々たる歌いっぷりに、
思わず上手いなぁとウナった1曲目に続く2曲目では、
一転チャーミングな歌いぶりに変わり、もうラヘル・ゲトゥの魅力にクラクラ。

ラヴァーズ・ロックばりのチャーミングなレゲエの3曲目、
泣きのサックスが入ったティジータの4曲目、
マシンコとクラールをフィーチャーしたアムハラ民謡調のタイトル曲と、
どんなレパートリーにもぴたっとハマる歌唱は、
デビューしたばかりの新人とは思えぬものがあります。

それもそのはず、ラヘル・ゲトゥはエチオピア初のガール・ユニット、
イェンヤ Yegna の一員だったんですね。
イェンヤは、13年に英国の国際開発省(当時)とナイキ財団が設立した
ガール・ハブから誕生したプロジェクトでした。

ガール・ハブは、女性の地位向上をめざした社会運動で、
教育の制限や早期の強制結婚、家庭内暴力にさらされる少女たちを、
新たなネットワークによって連帯させ、少女たちの意識を変えるとともに、
社会変革を促すことを目的としていました。
エチオピアでは、約700万人の思春期の少女たちが1日2ドル以下で生活をしていて、
約半数の少女が15歳までに結婚し、10人中9人が外出に許可が必要で、
5人に1人は友だちがまったくいないと答えています。

5人組のイェンヤのなかで、ラヘル・ゲトゥは、ゼビバ・ギルマとともに最年少でしたが、
当時のインタヴューなどを見ると、もっとも積極的に発言しています。
彼女たちの初のミュージック・ヴィデオは、50万回の視聴回数を越え、
2作目のヴィデオでは、デスティニーズ・チャイルドやインディア・アリーをてがけた
ダレン・グラントが起用され、イェンヤの人気は決定的なものとなりました。

それと同時に、彼女たちはラジオ・ドラマで、ストリート・ガール、
過保護な親に抑圧された少女、都会の社交的な少女、
家事に忙殺される田舎の少女、暴力的な父親を持つ少女を演じました。
ドラマの最後に放送されるトーク・ショウでは、ドラマで提起された問題を取り上げて、
少女たちに考えさせ、固定観念で凝り固まった行動を変えることを促しました。

エチオピアのスパイス・ガールズなどと形容された彼女たちでしたが、
こうしたガール・ハブの運動を通して成長したことが、
ラヘル・ゲトゥの歌声に、凛とした輝きを宿しています。

Rahel Getu "ETEMETE" Awtar no number (2021)
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非常事態宣言下のエチオピアン・ゴスペル カルキダン・ティラフン(リリィ) [東アフリカ]

Kalkidan Tilahun (Lily)  EYULIGN.jpg

エチオピア北部ティグレ州で続く政府軍とティグレ人民解放戦線(TPLF)の内戦により、
11月3日エチオピア政府は、ついに非常事態を宣言。
南進するTPLFに備え、アディス・アベバでは当局が市民に対し、
保有している武器を届け出て自衛に備えよと呼びかける、緊迫した状況に陥りました。

ちょうどその二日前、エチオピアのお店にオーダーしたばかりで、
あちゃあ、これじゃあ、お店は閉まっちゃうんだろうなあ、と思っていたら、
「11月4日14時42分 発送済」のメールが送られてくるじゃないですか!
えぇっ? 大丈夫なの?と驚いたんですが、荷は無事に到着しました。

そんな非常事態下のエチオピアから届いたのは、ゴスペルの近作。
エチオピアン・ゴスペルは、アメリカのコンテンポラリー・ゴスペル同様、
聖か俗かという歌詞の違いだけで、音楽はエチオピアン・ポップとなんら変わりありません。
俗にゴスペルといいますが、正確には福音派プロテスタント、ペンテコステ派の音楽で、
正直ここのところずっと敬遠していた分野であります。

というのも、エチオピアン・ゴスペルは、おしなべて薄口の歌手ばかり。
ウチコミ中心の低予算のプロダクションは聴きどころも乏しく、
4・5年前に買った10枚近くのゴスペル・アルバムも、ほとんどを売ってしまったくらい。
なので、ゴスペルはもういいやと思っていたんですが、
最近はプロダクションがぐんと向上したというので、手を伸ばした次第。

で、届いた近作のいずれも高水準なのに驚いたんですが、
なかでもベストの出来だったのが、リリィ・カルキダン・ティラフンの新作。
リズム・セクションは打ち込みでなく、人力。
シンセやピアノをレイヤーした鍵盤奏者の腕前とセンスはかなりのもので、
バックのミュージシャンのレヴェルは相当に高い。
しばらく聞かないうちに、すっかり見違えるクオリティになっているじゃないですか!

リリィ・カルキダン・ティラフンは、現代ゴスペルの人気シンガー。
エル・スールの原田さんは、「福音派プロテスタントのゴスペル歌手に変身しての新譜」と
書いておられましたが、それはなにかの勘違い。
この人は、ずっと以前からゴスペル歌手であります。

リリィは、1927年にエチオピア南部で創立された、
ケール・ヘイウェット(生命の言葉)教会を代表するシンガーですね。
愛称のリリィは、最初に付いたり、最後に付いたり、定まっていないようですけれど、
「本名に戻り」ということではなく、以前からカルキダンを名乗っていました。

新作は、過去作とは比べものにならない仕上がりで、
スタジオ・セッション的なサウンドは、エチオピアでトップ・クラスの
スタジオ・ミュージシャンを集めたんじゃないかな。

特に、ベースがいいですね。
グルーヴィな手弾きとスラップの使い分けが巧みで、
グイノリのベース・ラインにゾクゾクしますよ。
8曲目‘Tadia Lemin Metahu’ の最後のベース・ソロからは、
ジャズのスキルもしっかりと聴き取れますね。
また、随所できらっと光るオブリガートを残すギタリストも、
オクターヴ奏法を駆使するなど、ジャズを通過していることをうかがわせます。

こぶし使いは抑えめで、きりりと張りのある歌声を聞かせるリリィのヴォーカルは、
以前と変わりありませんが、ぐっとヴォーカルの音圧が増したように感じるのは、
やっぱりバックの良さかな。
こんな作品が出てくるなら、ゴスペルだからとスルーしていられませんね。

Kalkidan Tilahun (Lily) "EYULIGN" Love and Care no number (2021)
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快調示す復帰作 オマール・ペン [西アフリカ]

Omar Pene  NDAYAAN.jpg   Omar Pene  CLIMAT.jpg

オマール・ペンが11年に出した“NDAYAAN” は、
オマールのソロ・キャリアとしては最高のアルバムでしたね。
シュペール・ジャモノの看板歌手として、長年にわたって活躍してきたオマールですが、
“NDAYAAN” は、シュペール・ジャモノと離れ、
フランス人ミュージシャンたちとともに制作したアルバムでした。

コロコロと鳴るバラフォンに柔らかく響くコラの音色にのせて、
優しく歌うオマール・ペンのハイ・トーン・ヴォイスは、
ヴェテランらしい円熟した味を出していて、
音数を抑えたアクースティック主体のサウンドは、シュペール・ジャモノとは対極でした。
フランス人ギタリスト、ティエリー・ガルシアが弾く、
ウクレレやウードが効いていましたね。

余談ですけれど、『ポップ・アフリカ800』に
このアルバムを選盤できなかったのは、残念でした。
ンバラの代表シンガーとして、ユッスーと並ぶオマールの立ち位置をはっきりと表すために、
シュペール・ジャモノとの25周年記念作を選んだので、
ソロ・キャリアのこちらは、泣いてもらったんです。

さて、“NDAYAAN” 以来となる、オマールのスタジオ録音が届きました。
なんと10年ぶりですね。その間にセネガルでは、
シュペール・ジャモノとの40周年記念盤が1枚出ていたようなんですが、
それはぼくも聴いていません。
なんでもオマールは体調を崩して、数年間寝たきりの生活を送っていたらしく、
復調してから、3年をかけてじっくり制作したアルバムなのだそう。
北西部のサン=ルイで深刻となっている海面上昇などの温暖化問題や
テロリズムなど、社会的なテーマが取り上げられています。

新作をプロデュースしているのは、ジャズ・ギタリストのエルヴェ・サンブ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-17
驚いたのは、エルヴェ・サンブが全曲を作曲しています(作詞はオマール・ペン)。
曲づくりをすべてエルヴェ・サンブに任せるとは意外でしたが、
エルヴェはヴァラエティ豊かないい曲を書いていますよ。
プロダクションも生音主体で、ヌケのいいサウンドで、
ストリング・カルテットを効果的にフィーチャーしてます。

ドラムスにマコドゥ・ンジャイと、ユニヴァーシティ・オヴ・グナーワのメンバーでもある
フランス人ドラマーのジョン・グランドキャンプを起用したのも成功しましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-05-09
ジョン・グランドキャンプのハネるビートが、気持ちのいいグルーヴを生み出していて、
ハネのない重いビートを叩くマコドゥ・ンジャイと曲によって使い分け、
アルバムに起伏を与えています。

アルバムのハイライトは、ファーダ・フレディとデュエットした‘Lu Tax’。
円熟して落ち着いたオマールの歌声に、
若々しいファーダの張りのある声が引き立ちます。

Omar Pene "NDAYAAN" Aztec Musique CM2340 (2011)
Omar Pene "CLIMAT" Contre-Jour CD037 (2021)
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ハード・ゴスペル・シャウター・オン・ピアノ レヴァランド・ロバート・ボーリンジャー [北アメリカ]

Reverend Robert Ballinger  THE KING’S HIGHWAY.jpg

すんげぇ~~~。
超強力なハード・シャウターぶりに、のっけからノケぞって、
泡吹きそうになっちゃったじゃないですか!
サンクティファイド派スタイルのピアノを弾きながら、
こんな強烈なシャウトをかますシンガー、はじめて聴きましたよ。

ベア・ファミリーが今回2枚のCDにまとめたロバート・ボーリンジャー牧師、
63年と65年にピーコックからレコードを出している人だそうですが、
ほぼ無名の存在といっていいんじゃないでしょうか。
ボーリンジャー牧師のディスコグラフィから経歴まで、
徹底的にリサーチした成果を収めたライナーでも、
本人の写真が発見されなかったくらいなんだから、
その実力に見合った評価をされてこなかったことは、明々白々。

2枚のディスクには、55年のチェス録音から、58年のコブラを経て、
62年からピーコックへ録音を残してきたボーリンジャー牧師の35曲が収められています。
クロノロジカルではないものの、編集に不満はありません。
ピアノを弾きながらカルテット・シンガーのようなハード・シャウトをする人であることは、
最初に書きましたけれど、すでにカルテット・ブームが過ぎゆく時代で、
65年8月に44歳の若さで突然亡くなってしまったことが、
長い間忘れられた存在にしてしまった最大の原因のようですね。

レコーディング最初期の20年代後半に録音を残した戦前のゴスペル・シンガー、
アリゾナ・ドレインズ直系といえる、猛烈にドライヴするピアノも凄腕。
ピアノはグルーヴするわ、ヴォーカルはシャウトするわで、
ピアノ弾き語りで穏やかに歌われるゴスペル・ソング、
なんてイメージからおよそ遠い姿が、ここにはあります。

Reverend Robert Ballinger "THE KING’S HIGHWAY" Bear Family BCD17575
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ブラジル黒人女性の輝き ジュリアーナ・リベイロ [ブラジル]

Juliana Ribeiro  Preta Brasieira.jpg

ステージ映えする声、と形容すればいいんでしょうか。
ミュージカルにどハマリしそうな、素晴らしい歌声の持ち主ですね。
サルヴァドール出身のジュリアーナ・リベイロは、
サンバ・ダンサーからアフロ・ブロコの名門イレ・アイエのシンガーに抜擢され、
キャリアを積み重ねてきたというシンガー。

まろやかな発声とふくよかな声質という資質に恵まれて、
声量、コントロール、アーティキュレーション三拍子揃ったヴォーカル・ワークは、
完璧というほかありません。

裏山のサンビスタのように、音程も怪しげな生活感あふれる歌声に
グッとくる自分には、完璧すぎて、もっとも縁遠い歌声なんですが、
ぐいぐい引き付ける説得力豊かな歌唱には、抗しがたいものがあります。
ジュリアーナ・リベイロのサイトを見ると、
「2007年に始まった彼女のソロ活動は、大きな舞台でのパフォーマンスが特徴です。」
とあり、やっぱり、と思いました。

新作のタイトルは、ずばり『ブラジル黒人』。
いみじくもそのタイトルが示すとおり、
サンバ、ルンドゥー、マシーシ、ジョンゴ、バイオーン、ショッチ、マラカトゥなどなど、
ブラジル黒人のアイデンティティを、女性の立場から誇り高く歌い上げています。
伝説の黒人女性サンビスタ、クレメンチーナ・ジ・ジェズースに
オマージュを捧げた曲があるのが象徴的ですね。
ナラ・レオンの伝説的なショー「オピニオン」のテーマ‘Carcará’ を、
アフロ・キューバンな解釈でカヴァーしたのが、アルバムの白眉といえそうです。

バイーア・サンバの重鎮リアショーン作の‘Panela No Fogo’ では、
チューバを使ったアレンジによって、マラカトゥが持つ野趣な味わいと現代性を
同時に実現していて、これもアルバムの聴きものとなっていますね。

このアルバムは、ジュリアーナの初の出産をまたいで制作されたそうで、
臨月のお腹をさらした衣装をまとってステージで歌う写真がライナーに飾られ、
CDのディスク面には、臨月のお腹に両手を添えた写真がデザインされています。
そうして誕生した赤ん坊の声を挿入した‘Sonora’ は、
ジュリアーナのご主人でシンガー・ソングライターのセーザル・バティスタによる作曲で、
セーザルもゲストで歌っています。

最初にこの曲を聴いたとき、イントロの大仰なオーケストレーション・アレンジに、
違和感を覚えたんですが、曲の背景を知ってナットクしました。
パンデミック下で出産を経てアルバムを制作した、
ブラジル黒人女性の逞しさと豊かな母性が輝いています。

Juliana Ribeiro "PRETA BRASILEIRA" no label RB103 (2021)
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パワー・ソカ・モナークとよさこいチーム マシェル・モンターノ [カリブ海]

Machel Montano  THE RETURN.jpg

ケスと一緒にゲットしたのが、
人気沸騰中だったマシェル・モンターノの“THE RETURN”。
懐かしくなって、こっちも棚から取り出して聴いてみたんだけど、
うぉ~、このエネルギー、やっぱハンパないなぁ。
11年当時、震災ショックが癒えずに、あまり聴くことができなかったんだけど、
いま思えば、それもしかたなかったよなあ。
このパワーについていくには、気力体力ともフルじゃなきゃ、
とても太刀打ちできません。

マシェル・モンターノは、本作を出した11年に、
インターナショナル・ソカ・モナークのインターナショナル・ソカ・モナーク部門
(通称パワー・ソカ・モナーク)で初優勝を果たしています。
ケスも11年にソカ・モナークを受賞したと前回書きましたけれど、
ケスが受賞したのは、グルーヴィ・ソカ・モナーク部門の方。

インターナショナル・ソカ・モナークには2部門あって、
アップテンポのソカで競うのが、
インターナショナル・ソカ・モナーク(パワー・ソカ・モナーク)。
ゆったりとしたテンポのソカで競うのが、グルーヴィ・ソカ・モナークなんですね。
マシェルは、11年から5年連続パワー・ソカ・モナークを勝ち取り、
12・13年連続で、グルーヴィ・ソカ・モナークもダブル受賞しています。

“THE RETURN” は、マシェルの快進撃がスタートしたときのアルバムで、
パワー・ソカ・モナークの勝者たる、
ハンパないエネルギーが詰まっているわけですよ。
その速度といったら、ものすごいスピード感で、
じっさい尋常じゃないBPMの高さです。

この急速調を、ダンスしながら息が上がらずに歌い切るのはタイヘンだぞー。
イケイケなんてもんじゃない、狂い死にそうなアッパーぶり。
アロウなんかの時代のソカとは、隔世の感がありますね。
いやー、これ、部屋で聴くCDなんかじゃないよねえ。
クラブで大音量で踊らなきゃ、意味がありませーん!

マシェル・モンターノは、ソカ・シーンでいまも不動の人気を誇っているようですが、
17年に来日していたというのだから、びっくり。
南青山のクラブで、100名限定のライヴをやったそうなんですけれど、
マシェルを招聘した経緯というのが、いい話なんです。

なんでも、高知のよさこい祭りのチームの代表が、
トリニダード&トバゴのカーニヴァルを訪れて、よさこいに通じるものがあると感動し、
帰国後にトリニダード&トバゴのカーニヴァルとよさこいをミックスした
チーム「かなばる」を結成したっていうんですね。

さらに、ソカのトップ・シンガであるマシェルを招いてコラボしようと、
長年にわたって交渉をし続け、チームが結成10年を迎えた年に、
ようやく実現したそうなんです。
いやぁ、そのライヴ、体験したかったなあ。
高知でのよさこいとのコラボも、どんなものだったんだろう。

ソカとよさこい、いい取り合わせじゃないですか。
17年のマシェル来日以降、なにか新たな展開はあったんでしょうか。
そんなところも気になってしまいますね。

Machel Montano "THE RETURN" Mad Bull Music X24:11:74:36 (2011)
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ソカ最前線バンド ケス [カリブ海]

Kes  WOTLESS.jpg

ザ・ソウル・レベルズのジャケ裏に載ったクレジットをチェックしていて、
ケスの名を見つけた時、一瞬、戸惑ってしまいました。
えっと…、だれだっけ? 覚えのある名ではあったんですけど、
すぐに思い出すことができませんでした。

あ、そか、ソカのケスだ。
無意識に出た自分のオヤジギャグに、思わず苦笑してしまいましたが、
そういや、ソカを聴かなくなってずいぶんになるなあ。
もう10年近く、ソカのアルバムを買ってないし、
最後に買ったソカのアルバムは、ひょっとしてケスだったかも。
そんなことを考えながら、ケスの11年作“WOTLESS” を、
棚から引っ張り出してきました。

ケス(ケス・ザ・バンド)は、ヴォーカルのキーズ、ギターのハンズ、ドラムスのジョンの
ディーフェンタラー3兄弟を中心に、05年トリニダード島で結成されたソカ・バンド。
11年に‘Wotless’ がカーニヴァルで大ヒットとなり、ソカ・モナークを受賞しています。
ぼくもそのウワサを聞きつけて、その曲が収録されたアルバムを探したんだっけ。
トリニダード盤は入手が困難で、ずいぶん手を焼いたことを思い出しました。

“WOTLESS” は彼らの4作目。
アルバム・タイトルにもなったヒット曲を、どアタマの1曲目に置いています。
ライト・タッチのこの曲が、そんなに大ヒットしたの?
と、ちょっと肩すかしをくらうんですが、このアルバムが面白くなるのは2曲目以降。

ソカにヒップ・ホップ・ビートを接続して、ボトムを豊かにした2曲目の‘Ah Ting’ は、
これぞ新時代のソカといったゴキゲンなダンス・トラック。
続いてレゲトンを取り入れたトラックあり、エレクトロ・ソカありと、
すっかり世代交代したプロダクションで、ソカを楽しませてくれます。

デイヴィッド・ラダーで止まってしまっているワールド・ミュージック親父たちは、
おそらくケスを知らないでしょうが、今回調べてぼくもビックリさせられたのは、
本作を出した11年の11月にケスは来日し、ツアーをしていたという事実。
しかもその時のライヴ・ツアーがDVDにまとめられていて、
DVD売上代金を東日本大震災津波遺児支援をしている
「あしなが育英会」へ寄付されていたというのだから、ビックリです。

正直ぼくも11年にこのCDを聴いて、ひさしぶりのソカの快作と思ったものの、
愛聴するまでには至りませんでした。
当時、3.11ショックをまだ大きく引きずっていた心理状況で、
エネルギーが充満したソカはまぶしすぎて、
徹底的に明るい陽性のダンスホール・サウンドを楽しむような
気持ちの余裕は、まだなかったんでしょうね。
おそらく当時ライヴ情報を聞きつけたとしても、
たぶん会場に足は運べなかったような気がします。

いまでもケスの人気が衰えることはなく、ソカ・シーンの最前線にいるといいます。
かの地のカーニヴァルも中止になるなど、COVID禍が収束していませんが、
いまこそそのライヴで、ダンスをしてみたいですね。

Kes "WOTLESS" no label KTB:04:01:11 (2011)
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ニュー・オーリーンズ・ミクスチャーの拡張 ザ・ソウル・レベルズ [北アメリカ]

The Soul Rebels  POETRY IN MOTION.jpg

ニュー・オーリンズのブラス・バンドなのに、祝祭感は乏しいし、
ヒップ・ホップの生バンドなのに、ストリート感がまるでなく、
メンバー全員バークリー卒かと疑ってしまうような、端正な演奏ぶり。
どうもこういう優等生的な音楽って、胸に響いてくるものがないんだよなあ、
すごく良く出来たアルバムだということは認めるんだけどでも。
そんな第一印象で、棚にしまいっぱなしだったザ・ソウル・レベルズの19年作。

最近聴き返す機会があって、たびたび聴くうちに、初めの抵抗感がなくなり、
ようやく素直に楽しめるようになってきました。
繰り返し聴くうち、このアルバムのネライが、
さまざまな音楽家とのコラボにあったんだということもわかってきました。
聴きどころがわかってなくて、ゴメンナサイであります。

たしかハープが入った異色の曲があったよなと思いながらクレジットを見たら、
いま話題沸騰のブランディー・ヤンガーだったんですねえ。
ドロシー・アシュビー、アリス・コルトレーンの志を継ぐ女性ハーピストとして、
注目の集まるブランディーと共演していたとは、すごい先見の明だなあ。
しかもこの曲‘Rebellious Destroyer’ には、
ブランフォード・マーサリスも参加していたんですね。

異色といえば、ラストのネオ・ソウル・ライクな‘Blush [Poetry In Motion]’ のエレピは、
ロバート・グラスパー。チルなムードを醸し出して、
スタイリッシュに仕上げたところは、実にグラスパーらしいですね。

ほかにも、ソカのトップ・バンド、ケスを迎えた‘It's Up To You’ は、
ニュー・オーリンズ流ソカに仕上げたダンスホール・トラック。
トロンボーン・ショーティをフィーチャーしたマンボの‘Sabor Latino’ ともども、
カリブ海ムードを演出していて、楽しい限りです。

地元愛に溢れたトラックでは、‘Down For My City’ で
ニュー・オーリンズの子供たちのコーラスをフィーチャーしているんだけれど、
ちょっとお行儀が良すぎて、「NHK みんなのうた」みたいかな。
それより、ビッグ・フリーディアとデニシアの二人をフィーチャーした
バウンス・トラックの‘Good Time’ がいいな。
バウンスはニュー・オーリンズが生んだヒップ・ホップ・スタイルですよね。

ニュー・オーリンズからカリブ海へと拡張したレパートリーで、
広くコンテンポラリーなサウンドを目指したこのアルバム、
当初反発を感じたのも、完成度があまりに高すぎたからで、
ヒネクレものには優等生的と受け止めてしまったんでした。すいませーん。

The Soul Rebels "POETRY IN MOTION" Artistry Music ART7052 (2019)
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忘れじの海外通販サイト その3 One World [レコード屋・CDショップ]

Dollar Brand African Herbs.jpg   Abafana Baseqhuden  Poo Ke Nna.jpg

アフリカのCDでいちばん入手が難しかったのが、南アフリカ共和国(南ア)盤。
インポーターがいないのか、ワールド・ミュージック・ブーム時代にも、
南ア盤だけは日本にまったく入ってきませんでした。
スターンズに少しだけ南ア盤がありましたけれど、
直接南アから輸入できたらと思い続けていたので、
ワン・ワールドを探し当てた時は嬉しかったなあ。

そうだ、いま思い出したけど、
最初に南アのオンライン・ショップを見つけたのは、
ワン・ワールドじゃなかったんですよね。
ワン・ワールドに行きつくまでには、もう少し道のりが必要でした。
店の名前はもう忘れましたけど、最初に出会ったのはCD専門店ではなく、
アマゾンみたいなショッピング・モールでした。

そのお店で喜び勇んで、CDをいろいろとみつくろい、
いざオーダー手続きする段になったら、送り先に日本がないんですね。
えぇ~、日本には送ってくれないの?
オーダーの最後の最後で、それがわかるのって、けっこうショックでしたねえ。

昔はこういうことがよくあったんですよ。
レジスター登録をしようとすると、住所欄の国に日本がないとかね。
それでサイトの配送の説明を見に行くと、
「ウチは海外発送をしません」とかあったりして。

そんな店にいくつか当たったあと、行きついたのがワン・ワールドだったのです。
まず驚いたのが、カタログの膨大な量。
ぼくが探すのは、当然ながら南アの黒人音楽なわけですけれど、
考えてみれば、南アにはアフリカーンスの音楽もあるわけだもんねえ。
さらに、南アは欧米その他各国の音楽も自国のプレスで発売しているから、
ロック、ジャズなどのカタログも豊富。
ボブ・ディラン・マニアの人に南ア盤を買ってあげたら、すごく喜ばれたもんです。

さらに嬉しいのが、価格の安さ。
南アの物価水準はけっして低くはないんですけど、
円高・ランド安ということも重なって、CD1枚大体400~500円くらい。
さっきのボブ・ディランのような、海外ものがやや高くて、800円くらいでしたね。
送料も割安なので、いつも10枚以上まとめてオーダーしていました。

ただオーダーしたての頃、驚かされたのが、CDの送り方。
小包のような梱包をせず、大きめの封筒にCDをぶちこんで送ってくるだけという、
信じられないほど雑な送り方なんですよ。
十数枚ものCDを輪ゴムをかけるでなく、ただ袋に入れただけなので、
届いた時には、見事なまでにCDケースはすべて破壊しつくされているのでした。
いやあ、初めて届いた時は、笑ったなあ。

ジュウェル・ケースはバッキバキに割れ、トレイはひび割れ。
ここまで壊れていても、ディスクに傷はつかず、
ライナーも無事なのが幸いという感じで、
あまりにアフリカンな仕事に毎度脱力したもんです。
これ見て、けしからん!なんて怒るようじゃ、アフリカと付き合う資格なし。
まあ、一般の方には、とてもオススメできない通販サイトでしたねえ。

そしてサイトを利用し始めて、4・5年経った頃からでしょうか。
発砲スチロール製の緩衝材を入れて送るようになった時には、
おぉ、ついに南アもここまで来たかと、感慨深かったですねえ。

Music Of The Kalahari Bushmen.jpg

ワン・ワールドの自主レーベルがたった1枚だけ出したCDも忘れられません。
ボツワナのブッシュマンの音楽をフィールド録音したもので、
研究者向けの内容とはいえ、82年からカラハリ砂漠で録音を続けていた
ジョン・ブレアリーによる解説もとても充実したCDでした。
CD番号1番で、2番以降のCDは見たことがなく、
ワン・ワールドはおそらくこの1枚しか出さなかったものと思われます。

南アの通販サイトでは、のちにカラハリも利用するようになりましたが、
4年くらい前にワン・ワールドが閉店、カラハリは国内販売のみとなり、
南ア盤の入手ルートを失ってしまい、絶望の日々なんであります。

Dollar Brand "AFRICAN HERBS" As Shams/The Sun CDSRK (WL)786135 (1975)
Abafana Base Qhudeni "POO KE NNA" Gumba Gumba CDGB8 (1979)
(Field Recordings in Botswana) "MUSIC OF THE KALAKARI BUSHMEN: TSISI KA NOOMGA - SONGS FOR HEALING"
One World Music CD1 (1997)
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ポップになったドラムンベース ルディメンタル [ブリテン諸島]

Rudimental  GROUND CONTROL.jpg

これが新作? 90年代の旧作かと思いましたよ。

ロンドンのドラムンベース4人組バンド、ルディメンタルの新作。
これが4作目だそうですけれど、バンド名を知るのも、これが初めて。
ジャケットのアートワークに惹かれて試聴してみたんですが、
世紀が変わって20年以上も経つというのに、
こんなサウンドを聞けるとは思わなんだ。しかも、バンドで。

それこそ、シティ・ポップの文脈としても聴けちゃいそうな、
メロウなトラックにスムースなサウンドがずらり。
ドラムンベースもここまで商業的に、ポップになったのかと思うと、
隔世の感をおぼえますね。

ドラムンベースの危険なアンダーグラウンドの匂いなどまるでなし。
オシャレなMJ・コールの流れをくむようなダンス・フロア向けのトラック揃いで、
ドラムンベースというより、ゲスト・シンガーを大勢招いたオシャレなハウスの趣で、
きわめて口当たりのいいサウンドを聞かせます。

ドラムンベースも、完全に音楽の一フォームとなったんですねえ。
90年代末から00年代の一時期、クラブ・ミュージックに夢中になったものの、
その後はすっかり離れてしまい、ダブステップもロクに聴いてないんですよね。
このバンドがどういう立ち位置にあるのかもぜんぜんわかっていないんですけれど、
2ステップなど90年代のUKガラージを思い起こさせるサウンドには、
年寄りの頬を緩ませます。

街で突然、20年前一緒に仕事をしていた仲間に出くわしたような気分。
昔とぜんぜん変わっておらず、かえって若返っているほどで、
懐かしくも嬉しい再会を果たせました。

Rudimental "GROUND CONTROL" An Asylum 0190296683947 (2021)
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