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70年代カーボ・ヴェルデのラテン風味のクレオール・ポップ シキーニョ [西アフリカ]

Chiquinho  MOÇAS DE SOMADA.jpg   Chiquinho  Iefe.jpg

ローカル臭たっぷりの、このジャケットがたまんないんです。
カーボ・ヴェルデの歌手が79年に出したレコードなんですが、
場末感をかもし出す田舎くささが、味わい深いじゃないですか。
こんなマイナーなレコードが、まさかCD化されていたとは、思いもよりませんでした。

LPのジャケット・デザインから、
タイトルと歌手名のロゴタイプだけを変えているんですが、
オリジナルのデザイン性のない文字体より、
変更したCDのロゴタイプの方が、ジャケ写のチープ感にお似合いですね。
CD化で字体を変えてオリジナルより良くなるって、めったにないことだなあ。

シキーニョといえば、ブラジルのアコーディオン奏者が有名ですけれど、
このカーボ・ヴェルデのシキーニョ・ニーニャは、経歴不明の無名のシンガー。
ヴォス・デ・カーボ・ヴェルデをバックに歌った74年作と本作の2枚しか、
レコードは知られていません。

本作では、カーボ・ヴェルデ音楽を電子化した立役者、パウリーノ・ヴィエイラが
アレンジを務めていますが、まだシンセを導入する前の録音で、
オルガンとピアノにエレクトリック・ギターもパウリーノが弾いています。

サックスとトランペットの2管が加わっているのが貴重で、
ほっこりとした温かみのあるサウンドを生み出しているんです。
70年代らしく、コンパ、メレンゲ、クンビアなどラテン・リズムを取り入れた曲が多く、
カーボ・ヴェルデの伝統リズムを生かした曲は登場しません。
カーボ・ヴェルデ音楽のアイデンティファイを確立する前のサウンドともいえます。

オルガンとエレクトリック・ギターのサウンドと、
サックスとトランペットの2管がブレンドした、いなたいサウンドが、サイコーです。
のちにシンセが取り入れられて、ポップ・フナナーが登場する80年代になると、
こうしたラテン風味のクレオール・ポップは一掃されてしまうので、
このシキーニョのB級サウンドは、得難い時代の音なのでした。

Chiquinho "MOÇAS DE SOMADA" Sonovox CD129 (1979)
[LP] Chiquinho "MOÇAS DE SOMADA" Iefe IEFE010 (1979)
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カーボ・ヴェルデのサックス トティーニョ [西アフリカ]

Totinho  NHA HOMENAGEN.jpg

64年、サンティアゴ島プライアに生まれた
カーボ・ヴェルデのサックス奏者トティーニョこと、
アントニオ・ドミンゴ・ゴメス・フェルナンデス。

セザリア・エヴォーラのバンドで14年間演奏してきた人で、
セザリアの06年作“ROGAMAR” のジャケットで、
セザリアの前にデカデカと写っていた人です。

この人の99年のソロ作“SENTIMENNTAL” は、
モルナを中心としたインスト集で、ムード・テナーみたいな演奏のアルバムでした。
ストリングスを施した甘ったるさもいただけず、とっくに売却処分してしまったので、
今回見つけた12年作も、ちょっと警戒して聴き始めたのでした。

ところが、出だしから、気合の入ったテナー・サックスのブロウで始まり、
おおっと身を乗り出しちゃいました。
ベースのジム・ジョブとドラムスのカル・モンテイロが
アレンジとプロデュースを務めていて、
レコーディングも二人の名前のスタジオで行われています。

アメリカで作られた自主制作盤で、
ミュージシャンに知っている名前はまったくありませんが、
アメリカ在住のカーボ・ヴェルデ人たちなのでしょうね。
モルナ、コラデイラを中心とした爽やかなインスト集で、
小編成のバックが、緩急の利いた演奏を繰り広げています。

トティーニョの歌ごころに富んだ吹奏はギミックもなく、
ストレイトに演奏していて、甘さに流れることなく、気持ちよく聴けますね。
ヴァオリンとチェロの弦セクションをフィーチャーして、
軽快なリズムを刻むコラデイラでは、ソプラノを爽やかに吹いていて、
吹き抜ける潮風を頬に感じます

Totinho "NHA HOMENAGEN" Antonio Domingo Gomes Fernandes & Fulan Productions no number (2012)
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リスボン郊外発の伝統フナナー ライス・ジ・フナナー [南ヨーロッパ]

Raiss Di Funaná  DJA BEM PA KA PARA.jpg

うーん、胸をすくフナナー・アルバムですねえ。
のっけから、ガイタ(アコーディオン)とフェローが急速調のリズムを刻む、
痛快なフナナーが飛び出して、アルバム最後まで突っ走ります。

いやぁ、このエネルギーはスゴイですよ。
よくまあ飽きさせず、同じBPMのフナナーを12曲も聞かせるなあというか、
それだけの実力が、このグループにはありますね。
なんといっても、集中力が圧倒的ですよ。

歌手が3人いるんですけど、一番多くの曲を歌っているゼゼー・ジ・ジョアナが、
野趣に富んだノドをしていて、いい味を出しているんだなあ。
(ジャケット中央の、女性と顔を寄せている男性がゼゼー・ジ・ジョアナです)
奴隷文化が育んだフナナーのアフロ成分たっぷりの歌いっぷりですね。

メンバーはジャケットに写る8人。ガイタ(アコーディオン)とフェローに、
リズム・セクションがつくだけの、伝統フナナーの編成なんですが、
じっくり聴いてみると、パーカッション音を打ち込みで補強しているなど、
クレジットには記されていない、工夫の跡がうかがえます。

グループのバイオがよくわからないんですが、
いかにも自主制作ぽい、冴えないジャケットの旧作3枚の写真を見つけました。
サンティアゴ島のローカル・グループなのかなあと思ったら、
リスボン郊外のカーボ・ヴェルデ移民コミュニティから
出てきたグループだそうです。

YouTube にあがっている、寒々とした空の下の街角で、
ライス・ジ・フナナーの演奏にのって厚着した人々がダンスをしている
街角の舞台は、きっとリスボンなのですね。

Raiss Di Funaná "DJA BEM PA KA PARA" no label no number (2014)
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ボサ・ノーヴァ・ギターにあらず ボラ・セッチ [ブラジル]

Bola Sete  SAMBA IN SEATTLE.jpg

59年にアメリカへ渡ったブラジル人ギタリスト、
ボラ・セッチの未発表ライブ録音が出ました。

66年、67年、68年にシアトルのジャズ・クラブ、ペントハウスで録音された音源で、
ヴァーヴから出た66年のモントレー・ジャズ・フェスティヴァルの
ライヴ盤と同時期のもの。
ディスク1が66年12月1・8日、ディスク2が67年10月13・20日、
ディスク3が68年7月26日、8月2日の録音です。

メンバーもヴァーヴ盤と同じ、セバスチアン・ネトのベースと、
パウリーニョ・マガリャエスのドラムスなので、ヴァーヴ盤が好きな人なら、
手に入れておきたい3枚組でしょう。

ボラ・セッチは、62年11月のカーネギー・ホールでの歴史的コンサートにも
参加したギタリストとして有名ですね。ジャジーなタッチを得意としたギタリストで、
バーデン・パウエルの人気には及びませんが、
バーデンの神がかった鬼気迫るギター・プレイや、
クラシックのレパートリーが苦手なぼくは、ボラ・セッチの方が好みなのです。

ただ、バーデンとの共通点という意味では、
二人とも独自のサンバ・ギターの奏法を確立したことでしょうね。
どういうわけなんだか、バーデン・パウエルもボラ・セッチも、
ボサ・ノーヴァ・ギタリストという安直な紹介をされますけれど、
二人ともいわゆるボサ・ノーヴァとは異なったギター・スタイルを開発した人です。
その意味では、ルイス・ボンファだって、独自の個性のギタリストでしたよね。

ボサ・ノーヴァのレパートリーを弾いていれば、
なんでもボサ・ノーヴァ・ギターと呼んできたことは、
けっこう誤解を広げてきたと思うなあ。
アフロ・サンバ探究のなかで、バツカーダをギターに取り入れたバーデンとは、
また異なるアプローチでサンバ・ギターに取り組んだボラ・セッチですけれど、
そのボラのギターの魅力を堪能できる3枚組です。

40ページにおよぶライナーには、音楽評論家グレッグ・カズーズのほか、ラロ・シフリン、
ジョージ・ウィンストン、ジョン・フェイヒーが寄稿しているほか、カルロス・サンタナ、
ボラ・セッチの未亡人アン・セッチのインタヴューが掲載されています。

Bola Sete "SAMBA IN SEATTLE" Tompkins Square TSQ5852
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古典ファドを歌い継ぐ フランシスコ・サルヴァソーン・バレート [南ヨーロッパ]

Francisco Salvação Barreto  HORAS DA VIDA.jpg

リスボンのファド博物館が16年にスタートさせたレーベルから出た
男性ファディスタのデビュー作。
アンドレー・ヴァス以来といえる伝統ファドの逸材登場に、
いやぁもう、頬もゆるむというか、ズイキの涙を流すしかないですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-11-07

新世代ファド歌手として注目を浴びる、なんてのは、
ファドの現場であるカーザ・デ・ファドから遠く離れた音楽業界から発信されるもので、
ファドが息づく現場からみたら、別世界の出来事にすぎません。
昔と変わらぬ伝統ファドは、ディスク化されることすら稀有だという事情は、
ファド・ファンは重々承知しています。

年寄りと観光客の音楽とみなされてしまった伝統ファドだからこそ、
アーカイヴばかりでなく、才能豊かな若手を応援しようという
ファド博物館のような確かな目利きのレーベルの登場には、
惜しみない拍手を贈りたいですよ。

そんなファド博物館が送り出したフランシスコ・サルヴァソーン・バレートは、
デビュー作といっても82年生まれ。発表当時36歳で、
ヴェテラン・ファディスタのマリア・ダ・フェーが経営するカーザ・デ・ファドで
専属歌手として歌ってきたというのだから、実力はもう十分すぎるほどです。

ライスから出た日本盤の解説を書かれたギターラ奏者の月本一史さんによれば、
「既に素晴らしいファドの録音が聴ききれないほど存在する中で
自分がそれらを焼きなおす必要はないと思っていた」というのだから、
そういう慎みある発言をする人のファドこそ、ぜひ聴いてみたいと思うのが、
ファド・ファンというものじゃないですか。

もうひとつ、月本さんの解説のなかで目を奪われたのが、
フランシスコ・サルヴァソーン・バレートがファドに開眼したきっかけ。
なんでも、おじいさんがクラシック、ジャズ、ファドなどのレコード・コレクターで、
14歳の夏休みに、ジョアン・フェレイラ=ローザのレコードを聴いて衝撃を受け、
おばあさんにジョアン・フェレイラ・ローザの“ONTEM E HOJE” を買ってもらい、
古典ファドの世界にのめりこんでいったんだそうです。

80年代生まれの若者が、17歳という若さでカーザ・デ・ファドに通って
ファド歌手を目指すなんて、奇特としか言いようがありませんよ。
神田伯山が講談師になったのと、同じくらいのインパクトじゃないですかね。
神田伯山は83年生まれと、フランシスコ・サルヴァソーン・バレートのひとつ年下です。
古臭い芸能と誰もがみなしていたものを、二人の若者は志したんでした。

João Ferreira-Rosa  EMBUÇADO.jpg

そしてなにより、ジョアン・フェレイラ=ローザに衝撃を受けたというのが、
ぼくにはグッとくる話です。おばあさんが買い与えたという“ONTEM E HOJE” は、
96年に出た2枚組のベスト盤で、今回のデビュー作でカヴァーされた
‘O Meu Amor Anda Em Fama’ もそこに選曲されていますが、
その曲が収録された65年作の“EMBUÇADO” は、ぼくの大愛聴盤です。

月本さんがライス盤の解説で、ジョアン・フェレイラ=ローザのことを、
「質朴の天才」と形容したのには、思わず膝を打ちました。
まさしくこれ以上ないというくらい、的を得た表現です。
ジョアン・フェレイラ=ローザのファドは、堂々としているのに、
まったく威圧感を与えないのは、自己を消して歌の世界に没しているからでしょう。
豪胆で融通の利かないともいえるその唱法は、いぶし銀の味わいがあり、
そんなシブい歌手に14歳で衝撃を受けたんだから、その出発点からしてホンモノですよ。

そんな古典ファドを歌い継ぐことに真摯に取り組んできた
フランシスコ・サルヴァソーン・バレートを伴奏する、
ギターラ奏者のベルナルド・コウトがまたスゴイ。
1曲目の‘Horas Da Vida’ で、主役を食うような華麗な技を繰り出し、
おいおい、デビュー・アルバムの伴奏なんだぜ、
少し抑えろよ、と思わず言いたくなってしまいました。
ちょっと弾きすぎ、目立ちすぎの場面が気にならないじゃないですけど、
それだけ主役・伴奏とも力のこもった、
古典ファドを現代に受け継いだ大力作です。

Francisco Salvação Barreto "HORAS DA VIDA" Museu Do Fado MF005 (2018)
João Ferreira-Rosa "EMBUÇADO" Som Livre/EVC VSL1093-2 (1965)
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古典声楽家が歌う民謡 ヨズガトル・ハーフィズ・スレイマン [西アジア]

Yozgatlı Hafız Süleyman    CÂNÂN ELİ.jpg

ヨズガトル・ハーフィズ・スレイマンの復刻集!
う~ん、何十年待たされたことか。

30年代に活躍した、トルコ中部、中央アナトリア地方ヨズガト県出身の古典声楽家です。
古典ばかりでなくガザルや、出身のヨズガト地方の民謡やカイセル民謡のボズラックなど、
地方の音楽を初めて歌った古典声楽家として名を馳せた人です。

その昔、トルコ古典音楽の入門に役立った
ラウンダー盤の“MASTERS OF TURKISH MUSIC” で
この人の‘Bozlak And Halay’ を聴き、そのコブシの美しさに魅せられたんでした。
ヨズガトル・ハーフィズ・スレイマンの名をすぐさま覚えましたが、
ほかにこの人の録音を聴くことができず、
その後20年も経ってから、オネスト・ジョンズ盤の“TO SCRATCH YOUR HEART” で、
もう1曲‘Ben Nasil Ah Etmeyeyim’ がようやく聴けたんですよね。
それが今回はまるまるアルバム1枚のリイシューなんだから、感涙ものです。

堂々たるコブシ回しが、ハーフィズ・スレイマンの持ち味。
この時代の古典声楽家ならではといえる、男っぷりを聞かせてくれるんですが、
けっして威圧的にならず、抜けるような美しさがあるところが、最大の魅力。
それがボズラックなどの民謡の特徴である、
ウズン・ハワ様式の自由リズムで存分に発揮されていて、
はじめに高い声で張り上げ、続いて炸裂するコブシで、
聴く者の胸をつかまえてしまいます。

その華麗な技巧は、フォークロアな民謡歌手とは異なる出自をくっきりと示していて、
古典声楽のマスターぶりを表していますよね。
また30年代に流行したガザルを詠むのにも、その美声はもってこいで、
このアルバムでもそんな美しいガザルを聴くことができます。

曲ごとにカーヌーン、ヴァイオリン、タンブール、ウード、ケメンチェ、ネイなど、
さまざまな楽器が伴奏するものの、リズム楽器は加わらないところが肝。
音質はクリアで、ノイズを取りすぎているようにも思えますけれど、
ハーフィズ・スレイマンの鮮やかな歌唱を堪能するのには、もってこいです。

Yozgatli Hâfiz Süleyman "CÂNÂN ELİ" Kalan 801
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デリカシーに富んだフォーク・ジャズ エリ・ストルベッケン [北ヨーロッパ]

Eli Storbekken  TIDLØSE TONER.jpg

寒い日々が続きますねえ。

「新しい日常」なんぞどこ吹く風で、
あいもかわらぬ、ウォーキング30分+電車50分の通勤生活を送っていますが、
さすがに雪が降ると、早足ウォーキングは足元不安となるので、事故が怖い。
この冬は、東京でもたびたび雪に見舞われているから、なおさらなんですけど、
家で仕事するのはまっぴらなので、「リモート・ワークお断り」を貫いているのです。

今日は家に帰ったら、何を聴こうかなあと考えるのが、
退社間際のルーティンというか、お楽しみですけれど、
寒い毎日にぴったりの、北欧もののいいアルバムと出会えたんですよ。

それがこのノルウェイのフォーク・シンガー、エリ・ストルベッケンの新作。
今回初めて知った人なんですが、ぼくより5つも年上で、
数々の受賞歴を誇るヴェテランなんですね。
父親のエギル・ストルベッケンはノルウェイの著名な音楽家で、
さまざまな民俗楽器を制作・演奏し、作曲活動のほか、
数多くの伝統歌を採集した研究家だったそうです。

親子二代でノルウェイを代表する伝統音楽家となったエリですが、
新作は、デンマークの二人の司祭トーマス・キンゴ(1634-1703)と
ハンス・アドルフ・ブロルソン(1694-1764)が書いた賛美歌を中心に、
古い宗教的な民謡を歌っています。

伴奏を務めるのが、フォーク系のミュージシャンでなく、
ジャズ・ミュージシャンというところが今回の目玉。
ノルウェイはフォークとジャズの相性が良くって、
ジャズのイディオムが素材を壊すことなく、
きちんと引き立てるメソッドをもっているんですね。
以前にも、ここでそんな好作を取り上げたことがあります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-02-19

ピアノのアンドレアス・ウルヴォを中心に、
ベース、パーカッション、トランペット、フィドルの編成。
アンドレアスがアレンジやプロデュースにも携わり、キー・パーソンのようです。
アンドレアスは、たしか何回か来日してますよね。

エリの凛としたシンギングに、伴奏陣は努めてデリケイトなバックアップに徹しています。
インタールードに移っても、ピアノとトランペットが歌のメロディをなぞったり、
ピアノの分散和音を背景にフィドルがメロディを奏でるなど、
歌のパートと演奏のパートに温度差を作らないようにして、
純度の高いエリの音楽世界に寄り添い続けています。

パーカッションがドラム・キットのシンバル、スネア、タムを使っているようなんですけど、
キックの音が聞こえてこないので、アンサンブルとしてのリズムは作らず、
アクセントを加えることに終始しています。
フィドルは、まるでチェロのような響きを想起させる、悠然としたプレイを聞かせます。

聴いていると、古い賛美歌を題材としているのを忘れるほど現代性に溢れていて、
鳥のさえずりでアルバムを終える聴後感もいいですねえ。
デリカシーに富んだ、ノルウェイのフォーク・ジャズを堪能できるアルバムです。

Eli Storbekken "TIDLØSE TONER" Grappa HCD7378 (2021)
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憑依儀礼ザールの音楽がみえてきた。 [中東・マグレブ]

ZAR SONGS FOR THE SPIRITS.jpg

中東から東アフリカにかけて広く伝わる憑依儀礼のザールは、
古代エチオピアで発祥したと、一般によく言われています。
ザールに関する最初の記録は、17世紀のエチオピアで書かれたもので、
現地の典礼語であるゲエズ語で書かれているというのがその理由で、
西洋人による記録も、エチオピアで活動していたキリスト教宣教師によって、
1839年に記述されたのが初とされています。

ところが、当のエチオピアでは、ザールの起源は中東から伝わってきたもので、
ザールのメッカとされるゴンダールでは、
エチオピア正教会から悪魔の宗教とみなされていることを、
エチオピアで長く研究されている川瀬慈さんが
著書『エチオピア高原の吟遊詩人』(音楽之友社、2020)の中で書かれていました。

ヘブライ語でザールが「外国」を意味するように、ザールが伝わった各地域で、
外の世界からもたらされたことを示唆する痕跡が多く見つかるのは、
アラビア半島からイエメン、そして紅海を渡って
古代アビシニアへと奴隷が移動したことと、密接に関係しているのでしょうね。
エチオピアやスーダンの奴隷が北上して、エジプトにザールがもたらされたという、
数百年に及ぶ人口移動を示唆しています。

そのエジプトのカイロの片隅で、
今も生き残る3つのザールをドキュメントしたアルバムがリリースされました。
憑依儀礼のフィールド・レコーディングというと、
スーフィーやハイチのヴードゥーのレコードがイメージされ、
どうしても民族誌の音資料的な退屈なものなんじゃないかと想像しがちなんですが、
これが存外に音楽的なんですね。

アルバム前半がザールの音楽家を集めたスタジオ録音で、
ザールのさまざまな音楽を披露していて、
後半の儀式をドキュメントしたフィールド録音で、そうした音楽が儀式の場で
どのように演奏されているのかが、よくわかります。

Rango  BRIDE OF THE ZAR.jpg

録音された音楽家のクレジットを見ていたら、
ザールの儀式に使われる木琴のランゴを復興した、
ハッサン・ベルガモンがいるのに気付きました。
10年くらい前、ハッサン・ベルガモンが結成したグループのランゴが
『ザールの花嫁』というアルバムを出しましたが、そこで聞けるザールは、
宗教儀礼の音楽といわれても、まるでピンとこない、
世俗的なダンス・ミュージックのような内容でした。

その意味では、17年から19年にかけて録音された本作は、
ザールの憑依儀礼らしいトランシーな側面がよくわかる貴重な内容です。
女声のリードと男声コーラスが、ゆったりとした太鼓のリズムにのせて、
コール・アンド・レスポンスしながら、やがてテンポをあげていくところは、
精霊が降りてくるような雰囲気に満ちています。
終盤に収められた儀式中のフィールド録音は、これがさらに激しいものとなっていて、
途中でスイッチが入るかのように、テンポが急速に上がるなど、
憑依儀礼らしいトランシーさをたっぷりと堪能できます。

一方、ザールの主要楽器であるスーダン発祥の6弦の弦楽器、
タンブールを弾きながらハッサン・ベルガモンが歌う曲では、
シェイカーや太鼓が歌を鼓舞していて、
グナーワのゲンブリとカルカベが生み出す陶酔に通じるものがありますね。

このほか、カワラ(笛)の独奏あり、
ランゴ(木琴)を中心としたコール・アンド・レスポンスありと、
ザールの音楽性というのは、なかなかに豊かで、
10年前のランゴのアルバムでは、実体をよくつかめなかったザールの全体像が
ようやく見えるようになった貴重なアルバムです。

Madiha Abu Laila, Hassan Bergamon, Hanan, Abdalla Mansur, Hassan Rango Rhythm, El Hadra Abul Gheit
"ZAR: SONGS FOR THE SPIRITS" Juju Sounds JJ03 (2021)
Rango "BRIDE OF THE ZAR" 30IPS HOR21948 (2010)
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センシュアルなポップ・スター ティナーシェ [北アメリカ]

Tinashe  333.jpg

うわ~ん(大泣)。
ティナーシェの新作“333” がフィジカル化!

前作はとうとうフィジカルにならなかった、とばかり思いこんでいたら、
僅少プレスされてひっそりと出回ったことを後で知り、ホゾを噛んだんでした。
絶滅危惧種のCDラヴァーとしては、今度こそ取り逃してはなるまいぞと、
息を詰めてウォッチしていたんですが、アタリを逃さず、釣り上げました(悲願達成)。

今作は、ティナーシェの通算5枚目を数えるアルバムですけれど、
新世代ストリート・クイーンとして、世界的な成功を収めたあと、
メジャーを蹴ってインディに身を置くことになっての第2作ですね。

アンビエントR&Bに感じ入るようになったのは、ジェネイ・アイコからなので、
ぼくにとってはここ最近のことなんですけれど、
考えてみると、ティナーシェがデビューした10年代から、
すでにリヴァーブやエコーなどの空間系エフェクトをレイヤーしたサウンドが、
オルタナティヴなR&Bサウンドの主流になっていたんですね。

でも、その頃から比べてティナーシェも、すっかり大人びたよなあ。
キュートでセクシーなストリート・ダンサーといったイメージから、
キャリアに応じた軌道修正を図っていますよね。
そのヴォイスにも官能性が増して、ぐっとセンシュアルになりましたよ。

サウンド・プロダクションも、アンビンエントR&B一辺倒ではなく、
ボトムの利いたハウス・トラックあり、トラップあり、
懐かしいドラムンベースまであって、
ポップ・スターらしい彩り豊かなアルバムとなっています。

これまでのティナーシェのアルバムの作風どおり、
今作でもインタールードの曲を多く挿入していて、
作家性のある作品主義を貫いています。
ソングライターとしての気概の表れでしょう。
映画を鑑賞しているような物語性に引き込まれます。
ぼくは、メロウなスロウ・ジャムの‘Last Call’ に涙腺をヤられちゃいました。

思えばぼくが彼女に興味を持ったのは、「ティナーシェ」というその名前。
「神と共にある」を意味するショナ語だというので、へーえ、と思ったんですけど。
お父さんがジンバブウェのショナ人なんですね。
お母さんは北欧人だそうで、ティナーシェが生まれたのは、ケンタッキーのレキシントン。

ついでながら、今作のシングル曲‘Undo’ でフィーチャリングされている
ワックス・モチーフは、オーストラリア出身のDJですけど、
もろ東洋人な顔立ちなのは、父親が上海人で、母親が香港人だから。
本当に今のアメリカのエンタメを動かしている才能というのは、
多文化共生なんてキレイごとのお題目じゃなくって、
こういうマルチカルチュラルな人々なんだっていう現実を実感します。

Tinashe "333" Tinashe Music Inc. no number (2021)
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ごっついUKカリビアン・サウンド・システム テオン・クロス [ブリテン諸島]

Theon Cross  INTRA-I.jpg

シャバカ・ハッチングス率いるサンズ・オヴ・ケメットのメンバーとして頭角を現し、
ヌバイア・ガルシア、モーゼズ・ボイド、エズラ・コレクティヴとのコラボで、
ジャズ・シーンにチューバを前景化させてきたテオン・クロス。

<その他楽器>好きとしては、応援しないではいられない逸材ですが、
名刺代わりのデビュー作は、ぼくには物足りず。
でも、これほどの才能、慌てなくても、もっとスゴイ作品を作ってくれるはずと思ってたら、
はや2作目で、キちゃいましたねえ~。
アフロフューチャリズムを示唆するジャケットからして、攻めまくってるじゃないですか。
こういうのを期待してたんですよ。

テオンとドラマーのエムレ・ラマザノグルの二人によるプログラミングを主軸に、
ポエットのレミ・グレイヴズ、ジンバブウェ出身MCのシュンバ・マーサイ、
テオンが参加するスチーム・ダウンのリーダーでサックス奏者のアナンセ、
UKブラック・ラッパーのアフロノート・ズー、コンセンサスをゲストに迎えて、
制作しています。

スポークン・ワードやラップをフィーチャーしながら、
グライムとソカ、レゲエ、ダブを<ガンボ>した、
言うならば、ロンドン発のUKカリビアン・サウンド・システムでしょうか。
さまざまなアイディアが施された各曲は、トラックごと表情は異なるものの、
ファットなビートとウネるグルーヴのなかから、
肉感的なチューバのメロディが湧き出すところは、全曲共通。

亡き父へ贈った葬送曲‘Watching Over’ をのぞき、
サンズ・オヴ・ケメットの前任チューバ奏者、オーレン・マーシャルとの
チューバ・デュオでアルバムを締めたラスト・トラックまで、
アルバム全体を支配するサウンドのごっつさに、感じ入っちゃいました。

『内なる自己』というタイトルが示すとおり、
アフロ・ディアスポラを自覚するテオンが各曲に込めたテーマは、
内省的で思索的。しかし、祖先と対話するシャーマニズムを
現代性に満ちたサウンドのなかに展開することで、
その音楽をとびっきり開放的で、生命感に満ちたものにしています。

期待にたがわぬ新作ですけれど、
それでもまだまだ発展途上と思わせるところが頼もしい。
伸びしろの計り知れなさを予感させる本作、ますます目が離せない存在ですね。

Theon Cross "INTRA-I" New Soil NS0015CD (2021)
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妻が送ったサプライズ・プレゼント ジェーン・ホール [北アメリカ]

Jane Hall, Ed Bickert  WITH A SONG IN MY HEART.jpg

うわぁ、これ、日本盤で出したのか!

5年前にこのCDが出た時は、なんとも好事家向けというか、
極め付きの趣味趣味アルバムだなあと思ったもんですけれど、
すでにコレクターズ・アイテム化していたらしく、入手不可能になっていたんですね。
こういうアルバムって、ちょっとほかに見当たらないし、
なんとも味のある内容なので、日本盤が出たのなら、ちょっと書いておこうかな。

ジム・ホールの妻、ジェーン・ホールが、ジムの55歳の誕生日のために、
こっそりとレコーディングして、プレゼントしたという作品なんですね、これが。
もとはカセットに録音されたもので、
家族だけが聴いていた、プライヴェート作品だったのです。
ジムの死後に、カセットの存在を知ったプロデューサーの
ブライアン・カメリオが、17年にCD化したのでした。

録音された85年は、ジェーンとジムが結婚して、ちょうど20年を迎えた年。
ジェーンはジムに内緒でこのサプライズ企画を思い立ち、
カナダの名ギタリスト、エド・ビッカートに伴奏を頼んで、
わずか1日のセッションで12曲を録り終えたのだそうです。

な~んて、美しい話なんでしょうか。
妻からこんなに想われるなんて、う・ら・や・ま、としか言いようがないですが、
ジムって、きっと家庭人としても、素晴らしい夫だったんでしょうねえ。

歌っているのは、超有名なスタンダード・ナンバーばかり。
ジェーンは、家ではジム・ホールのギターを伴奏によく歌っていたといいますが、
はっきりいって、歌手としての力量は、アマチュアを超えるものではありません。
音程すらおぼつかなくなる箇所もあったりするんですが、
そのシロウトぽい歌が、ぜんぜんマイナスに聞こえないんですよ。

愛する夫のために歌うという、シンプルでピュアな気持ちが、
これほどストレイトに伝わってくる歌はありません。
ラヴ・ソングとは、かくありきなんじゃないでしょうか。
どんなに歌唱力があっても、どんな技巧をもってしても、
これほど心のこもったラヴ・ソングにかなうものはありません。

かたわらに寄り添って、語りかけるように静かに歌うジェーンの歌いぶりに、
心を動かされない人はいないでしょう。
あまたのジャズ・ヴォーカリストたちによって、技巧を凝らされ続けてきた
スタンダード・ナンバーを、歌の原点に立ち戻らせたのは、
シロウトだからこそできたようにも思えてきますね。

歌い口の親密さと可憐な歌声、そしてどことなくはかなさを感じさせる歌は
バーバラ・リー、テディ・キング、ビヴァリー・ケニーといった、
往年の好事家が喜びそうな歌手ばかりが、なぜか思い浮かびます。
そんな第一印象から、極め付きの趣味趣味アルバムと感じたものの、
聴けば聴くほどに、従来のジャズ・ヴォーカルからは得られない
感慨が増していく、不思議な感触を残すアルバムでした。

二つ折りのペイパー・スリーヴは、まるでバースデイ・カードのようで、
鉛筆の書き味を残したレタリングも、手作り感がイッパイ。
なんとジュリアン・ラージが、絶賛コメントを寄せています。
これは、フィジカルで持っていたい1枚ですよね。
日本盤は見ていませんが、このハンドメイドの感触を、きちんと再現できたのかな。

Jane Hall, Ed Bickert "WITH A SONG IN MY HEART" ArtistShare AS0148
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忘れじのレコード屋さん その8 【ジョージア】 [レコード屋・CDショップ]

Dollar Brand  African Piano.jpg   Judy Mowatt  BLACK WOMAN.jpg

パイドパイパーハウスの記事でふれた雑誌『宝島』を読み返していて、
76年に開店した吉祥寺のジョージアについても、書いておきたくなりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-01-19
無垢材の内装が、パイドパイパーハウスにも通じる雰囲気のあるお店で、
ここもデート中に立ち寄れそうな場所だったんですけれど、
じっさいに彼女を連れていったことはありません。

というのは、吉祥寺はレコード屋巡りするお店がいっぱいあって、
レコード探しに集中しなきゃなんないから、
彼女を連れていくわけにはいかないんですよ。
だって、レコ掘りに熱中してたら、デートがそっちのけになっちゃうでしょ。
芽瑠璃堂へ行こうものなら、店の外で彼女を待たせることになっちゃうしね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2009-12-13

というわけで、吉祥寺へはいつも一人で行っていましたけれど、
ジョージアで買っていたレコードは、開店当初はジャズで、
しばらくしてから、第三世界の音楽がメインになりました。
開店当初に買ったレコードで忘れられないのが、
ダラー・ブランドの“AFRICAN PIANO” です。

ドイツのジャロが出した黒いジャケットで有名な名盤中の名盤ですけれど、
ドイツ盤とは正反対の、真っ白なジャケットのデンマーク盤がジョージアにあったんです。
聞いてみると、こちらがオリジナル盤だと教えてもらって、びっくり。
パイドパイパーハウスで雪村いづみを見つけた時みたいに、即買い直しです。
このデンマーク盤のオリジナルの存在は、当時も今も案外知られていなくって、
教えてくれた山崎さんには感謝しかありません。

開店当初、ロック方面は関心外のレコードしか置いてなかったので、
もっぱらジャズやジャズ・ヴォーカルの棚ばかり見ていたんですが、
のちに第三世界の音楽をプッシュするようになってからは、
その方面ばかり見るようになりました。

第三世界の音楽といっても、いまではピンとこないと思いますが、
手っ取り早くいえば、「ワールド・ミュージック」ですね。
非西欧のポピュラー音楽を指すネーミングで、
76~77年頃から使われるようになったタームです。

きっかけは、ハイチのタブー・コンボの名作『ニュー・ヨーク・シティ』でした。
写真家の浅井慎平がフランスで見つけて日本へ紹介したのがきっかけで、
河村要助が絶賛し、ジョージアがフランスのバークレイ盤を輸入したんですね。
当時ハイチの音楽は、すでに高円寺のアミナダブが、
ソノ・ディスク盤で輸入していましたけれど、
タブー・コンボはバークレイ盤だったせいか、アミナダブにはありませんでした。
オリジナルのアメリカ・ミニ盤が入るのは、もっとずっとあとのことです。

このほか、ジョージアで買った<第三世界の音楽>では、
ジャマイカ盤レゲエが多かったかな。ラス・マイケルとか、ジュディ・モワットとか。
ジュジュのエベネザー・オベイを、イギリス・デッカ盤で入れていたのも、ここでした。

サルサは、恵比寿のディスコマニアや池袋のメモリー・レコードで買うのが
もっぱらでしたけれど、ジョージアでも、プエルト・リコ・オール・スターズのセカンド
“LOS PROFESIONALES” や、ボビー・ロドリゲスの“LATIN FROM MANHATTAN” を
買ったのを覚えています。

あと、ジョージアと同じ通りの並びに、レコード・プラントというレコード屋さんがあって、
ジャズと第三世界の音楽を、競い合うように品揃えしていたっけなあ。
どちらもチェックが欠かせなかったお店でしたけれど、
レコード・プラントで買ったレコードに、
これ!と懐かしく記憶しているものが思い当たらないから、
収穫はジョージアの方が、断然多かったように思います。

[LP] Dollar Brand "AFRICAN PIANO" Spectator SL1005 (1970)
[LP] Judy Mowatt "BLACK WOMAN" Ashandan no number (1979)
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前線復帰したソノーラ・ポンセーニャ [カリブ海]

Sonora Ponceña  HEGEMONÍA MUSICAL.jpg   Sonora Ponceña  CHRISTMAS STAR.jpg

そして、パポ・ルッカ率いるソノーラ・ポンセーニャですよ。
そういえば、ルイス・ペリーコ・オルティスとパポ・ルッカって、同い年くらいなんでは。
ふと気になって調べてみたら、ペリーコは49年生まれ、パポは46年生まれでした。

天才少年ピアニストとして、パポは幼い頃から
父キケ・ルッカが設立したソノーラ・ポンセーニャで活躍し、
68年にわずか22歳で音楽監督となったんですからね。
実質的なリーダーとして70年代サルサのサウンドを先導し、
80年代のポンセーニャ黄金時代を築いたんでした。

さて、そんな話も、もはや昔話。
ソノーラ・ポンセーニャの名を見聞きしなくなってしばらく経ちますが、
パポ・ルッカが体調を崩していたようですね。
しばらく休養を取り、復調して万全の態勢で制作したという
9年ぶりのカムバック作“HEGEMONIA MUSICAL” と、
クリスマス・アルバムの“CHRISTMAS STAR” を聴くことができました。

先に入ってきたのは、クリスマス・アルバムのほう。
これまでもポンセーニャはクリスマス・アルバムを3枚出していますけれど、
今回は80年の名作“NEW HEIGHTS” とジャケットが激似。
クレジットがありませんが、80年代のポンセーニャのジャケットを描いてきた
ロン・レヴィンによるもので間違いないでしょう。

サルサ・アレンジで仕上げたインストの‘Santa Claus In Comming’ が
パポ・ルッカならではの仕上がりで、頬がゆるんじゃいました。
これまでにも、ホレス・シルヴァーの‘Nica's Dream’ をマンボにしたり、
‘Night In Tunisia’ や‘Mack The Knife’ などのジャズ・チューンを
粋なサルサにして聞かせてきた、パポらしい快演になっています。

そして遅れて入ってきたのが、クリスマス・アルバムより先に出ていた
復活作の“HEGEMONIA MUSICAL”。
華やかなトランペット・セクションの鳴りや、スウィング感溢れるノリは、
これぞポンセーニャのサウンドですよ。
カンタンテ陣が「ソノーラ・ポンセーニャ」を連呼するなど、
前線復帰を高らかに宣言しているかのようで、嬉しくなるじゃないですか。

パポ・ルッカのピアノが大活躍するインスト演奏の‘Caminanndo Con Mi Padre’ は、
「父と歩む」の曲名のとおり、亡くなったキケ・ルッカへオマージュを捧げた曲。
コーラスが「パポ・ルッカ! パポ・ルッカ!」と煽って、
パポにソロをうながすく‘Nadie Toca Como Yo’ では、
ピアノ・ソロとユニゾンでスキャットを聞かせるウィットに富んだプレイが最高です。

Sonora Ponceña "HEGEMONÍA MUSICAL" La Buena Fortuna no number (2021)
Sonora Ponceña "CHRISTMAS STAR" La Buena Fortuna no number (2021)
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鮮度100%のサルサ ルイス・ペリーコ・オルティス [カリブ海]

Luis Perico Ortiz  SIGO ENTRE AMIGOS.jpg

ウィリー・モラーレス、いやぁ、よく聴きました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-09-15
秋から4か月、平日昼休みのヘヴィロテ・アルバムでしたからねえ。
やっぱこういうホンモノの歌力を持ったソネーロに出会えると、燃えるよねえ。
バックも実力者揃いの最高の演奏内容で、サルサ熱が再燃しましたよ。

さすがに4ヵ月も毎日聴き続けていると、
ほかのアルバムも聴きたくなってくるんですが、ちょうどタイミングよく年末に、
ルイス・ペリーコ・オルティスやソノーラ・ポンセーニャといった、
懐かしい名前のヴェテラン勢の新作が出ました。
そういえば、少し前にはエル・グラン・コンボの新作も出ていたっけ。

こういう名門クラスのヴェテランだと、過去の名盤がいくつも手元にあるので、
新作といっても、なかなか手が伸びないんですけど、
気分が盛り上がったところで、えいやっとばかり、まとめ買い。

というわけで、まずは、ルイス・ペリーコ・オルティス。
なんといったって、70年代サルサのサウンドを輝かせた名アレンジャーですよ。
ソロ作では、78年の“SUPER SALSA”、82年の“SABROSO!” が代表作ですけれど、
エクトル・ラボー、ティト・アジェン、イスマエル・キンターナといった
数多くの名歌手たちのアルバムで、斬新なアレンジをしていたのが忘れられません。
ニュー・ヨークのサルサ・サウンドを築き上げた一人ですよね。

なんと8年ぶりのアルバムだそうで、タイトル曲のオープニングから、ペリーコのほか、
トニー・ベガやジョニー・リベラなどのゲスト歌手5人が交替でヴォーカルをとっていて、
この軽快さはナニゴト!
ヴェテランのアルバムというより、いきのいい若手のアルバムのようで、
もぎたてのフレッシュさに富んだサウンドに、目を見開かされました。

この若々しさは、スゴイぞ。ペリーコのロトランペット・ソロもフィーチャーして、
この1曲目にして、はやツカミはオッケー。
ドミニカのメレンゲの女王ミリー・ケサーダをフィーチャーした曲は、
メレンゲではなく、ゴージャスなストリングスも入れたどストライクなサルサで、
ミリーの熱唱が聞けます。

ペリーコのアルバムにお決まりのインスト演奏も、聴きもの。
ラテン・ジャズにはせず、
ラテン・インストといったアレンジにするところが、いいんだなあ。
アルバム・ラストでは、プエルト・リカンの鬼才トランペッター、
チャーリー・セプルベーダや名フルーティストのネストール・トーレスを迎えて、
きらめく金管が際立つアレンジを施し、
マンボの殿堂パラディアムとマンボ・キングたちに捧げています。

ヴェテランらしからぬ、このみずみずしさ、絶品です。

Luis Perico Ortiz "SIGO ENTRE AMIGOS" LPO Events LPOE212631 (2021)
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