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ダンソーン神話時代のマタンサスを想って オルケスタ・ファイルデ [カリブ海]

Orquesta Falide  JOYAS INÉDITAS.jpg

ダンソーンにヨワいんだなあ、じぶん。
8年前、ピケーテ・ティピコ・クバーノにボロ泣きして、
インスト演奏でこんなに泣けるものかと、自分でも驚いたんですけど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-11-27
ダンソーンを聴くと、こみあげるものが抑えられなくなるみたいです。

そんなことをまた思い出させられたのが、オルケスタ・ファイルデなる、
ダンソーンの創始者ミゲール・ファイルデの名前を冠したオルケスタ。
ミゲール・ファイルデ(1852-1921)の血を引くフルート奏者、
エティエル・ファイルデが12年に立ち上げたオルケスタだというのだから、
こりゃホンマモンです。

一世紀の時を超えて蘇るダンソーン。
ミゲール・ファイルデがダンソーンを生み出した
当時の標準編成のオルケスタ・ティピカより少し時代が下った、
ピアノを導入してフルートとヴァイオリン2台を中心とした、
チャランガ・フランセーサの編成で演奏しているんですね。
チャランガ時代と違うのは、クラリネット、トランペット、トロンボーンのほか、
ティンパレスがいるところで、そこが19世紀末のダンソーンを思わせるところ。

いにしえの編成で演奏される曲は、もちろんミゲール・ファイルデの曲。
さらに1曲、ミゲール・ファイルデ楽団のオフィクレイド奏者
アニセート・ディアス(1887-1964)が作曲したダンソネッテ(歌入りのダンソーン)を
取り上げ、オマーラ・ポルトゥオンドが歌っています。

アニセート・ディアスは、ミゲール・ファイルデ楽団を退団後、
14年に自身の楽団を結成して、19年から歌入りのダンソーンを試み始めた人で、
オマーラが歌う‘Rompiendo La Rutina’ は、29年6月8日にマタンサスで発表した
ダンソネッテの第1号曲。この曲が大流行して、
30年代にダンソネッテが大ブームを巻き起こした記念碑的な曲です。

エレガントなメロディを、フランスからハイチを経由して入ってきたハーモニーが
豊かに彩り、ゆったりとした慎しまやかなリズムが優雅なダンスに誘うダンソーン。
ダンソーン神話時代のマタンサスを想わせる、またとないアルバムです。
収録時間21分49秒という短さが惜しく、もっともっと聴きたくなって、
またアタマからリピートしてしまいます。

Orquesta Falide "JOYAS INÉDITAS" Egrem CD1780 (2021)
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いつまでもオマーラ オマーラ・ポルトゥオンド [カリブ海]

Omara Portuondo  OMARA SIEMPRE.jpg

うわぁ、これは痛恨の聴き逃し案件であります。
キューバの名歌手オマーラ・ポルトゥオンドの18年作。
18年に聴いていたら、これ、ぜったい年間ベストに入れたなあ。

何が素晴らしいって、オマーラの歌唱ですよ。
録音時87歳というオマーラですけれど、
本作を聴いて、本当に大歌手だなあと、しみじみ感じ入ってしまいました。
というのは、みずからの老いに抗わず、強く声を張るなど、
昔と同じ歌唱をする無理はしないで、引いた歌い方をしているんですね。

昔だったら、もっとキリッと歌い切っただろうなあと思われる箇所も、
ふわっと着地させるような歌い方に変えているんです。
今の自分がもっとも映える歌唱スタイルを考えて、
しっかりと歌唱の方向性を見直しているんですね。
多くの歌手が老いに立ち向かうなかで苦労するところを、
オマーラは、見事にその課題をクリアしています。
それが簡単なことではないのをよく知るだけに、余計に尊敬の念を深くします。

Omara Portuondo  PALABRAS.jpg

それを痛感したのが、‘Y Tal Vaz’ の再演。
95年の傑作“PALABRAS” に収録されていた、忘れられない名曲です。
バン・バンとの共演で、ジャジーなボレーロにアレンジしていて、
そのアレンジにもハッとさせられましたが、
オマーラが見事に力の抜けた歌唱を聞かせていて、トロけました。
この曲をこんなメロウに変えて聞かせるのは、
いまのオマーラならではといえるんじゃないですかね。

スローなボレーロばかりでなく、セプテ-ト・サンティアゲーロをフィーチャーした
ソンの‘La Rosa Oriental’ でもキレのあるビートに負けず、
力のある歌いぶりを聞かせつつ、カドの取れた声にグッとくるわけですよ。
オマーラ節はちっとも変わっていないのに、
発声など声量のコントロールを変えて、「老いを隠す」のではなく、
「老いを味方に変え」ているんですね。スゴくないですか。

そんな進化を続けるオマーラに、伴奏陣も見事に応えています。
アレンジは、イサック・デルガドやチューチョ・バルデースをはじめ、
スペインでジャズやフラメンコ・シーンでも活躍するベーシストのアレイン・ペレスが担当、
ロランド・ルナが冴えたピアノを聞かせていて、‘Sábanas Blancas’ のリフや、
‘Para El Año Que Viene’ のソロで聞かせるタッチに、ホレボレとしました。
ゲストも豪華で、先に挙げたバン・バン、ベアトリス・マルケス、ディアナ・フエンテス、
アイメー・ヌビオラほか、ボーナス・トラックではリラ・ダウンスとデュエットしています。

でも、悪いけど、そんな豪華なゲストに耳が奪われる場面はほとんどなく、
オマーラの歌いっぷりに、ひたすら感じ入ってしまうばかり。
むしろゲストたちととの交歓ぶりは、付属DVDのレコーディングのメイキング・ヴィデオで
たっぷりと楽しめ、本当にいいレコーディングだったんだなあと、実感しました。
タイトルがいみじくも示すとおり、「いつまでも<大歌手の>オマーラ」であります。

[CD+DVD] Omara Portuondo "OMARA SIEMPRE" Egrem CD+DVD1512 (2018)
Omara Portuondo "PALABRAS" Nubenegra NN1.011 (1995)
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イニシエーションの催眠音楽 パペ・ンジェンギ [中部アフリカ]

Papé Nziengui et Son Group.jpg

うわぁ、面白いアルバムを発掘してきたなあ。
オウサム・テープス・フロム・アフリカの真骨頂というべきディスカヴァリーですね。
ガボンの8弦ハープ、ンゴンビを弾き歌うパペ・ンジェンギが89年に出したカセット。

ンジェンギが弾くンゴンビに、相方のイヴォン・カセが口弓のムンゴンゴと
太鼓ンゴモを演奏し、女性コーラスとコール・アンド・レスポンスをするもの。
この音楽は、ブウィティと呼ばれる伝統宗教の通過儀礼で演奏されるものなんですが、
そこにシンセ兼プログラミング奏者とギタリストが加わって、
強引ともいえるモダナイズが図られています。

伝統と現代がしっくりと融合するのではなくて、
両者が衝突してスパークするところに面白味を発見する、
オウサム・テープス・フロム・アフリカらしい流儀が発揮されたアルバムですね。
カセットのA面とおぼしき前半にその強引な折衷が聞かれ、
B面と思われる後半は、シンセなどの洋楽器が消えた伝統様式の演奏で、
この音楽の構造を、わかりやすく理解できるようになっています。

ンゴンビの弦さばきが生み出す細かいビートに、
口弓のムンゴンゴが不規則なリズムを加えていき、
太鼓ンゴマがフィルもたっぷりに叩いて、複雑なクロス・リズムを生み出していきます。
おそらく足首に巻き付けていると思われるンケンドと呼ばれる鈴が、
ステディなリズムを鳴らしているのが、耳残ります。

前半は、そこにシンセやエレクトリック・ギターが割って入ってサウンドを占有し、
ドラム・マシンがビートを単純化して、シンセ・ベースがもとの演奏にはない、
大きなうねりを与えているんですね。

なんせ、ワン・コードかツー・コードという、単調極まりない音楽なので、
こういうふうにサウンドを整理しないと、
現代人の耳にはなじめないってことなんだろうけど、
弦楽器の絡みと太鼓が生み出すクロス・リズムだけで、十分に面白味を感じ取れる者には、
ずいぶん説明的な「現代化」だなあと、思えなくもないですね。

ところで、パペ・ンジェンギは、58年頃ガボン南部ングニエ州都のムイラ近郊で生まれた
ツォゴ人ということを知ったとき、えっ?と個人的な興味をひかれました。
音楽とは関係ない話になりますけれど、数年前、ツォゴの彫像が、
アフリカン・アート好きの間で話題になったん(日本ではないですけど)です。

Tsogho, les icônes du Bwiti.jpgガボンのマスクや彫像というと、ファング、
クエレ、プヌ、コタが有名ですけれど
(『音楽航海日誌』をお持ちの方は、
571ページを見てくださいね)、
ツォゴのマスクや彫像は、これまで体系的に
紹介されたことがなかったんですね。それが16年に
出版された“TSOGHO, Les Icônes du Bwiti” で、
ツォゴ人の伝統宗教ブウィティで使われる彫像が
まとまって紹介されたのです。
パペ・ンジェンギの演奏する音楽が、
まさしくこれなので、びっくらぽんだったのです。

Papé Nziengui et Son Group "KADI YAMBO" Awesome Tapes From Africa ATFA029 (1989)
[Book] Bertrand Goy "TSOGHO, Les Icônes du Bwiti" Gourcuff Graden (2016)
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伝統と現代を拮抗させて フェミ・ソーラー [西アフリカ]

Femi Solar  Spot On.jpg

ここのところずっと1年遅れで聴いている、ナイジェリア、ジュジュのフェミ・ソーラー。
前作“HIGHRISE” を記事にしたとき、すでに現地では本作“SPOT ON” が発売済。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-04-10
昨年のミュージック・マガジン6月号で、深沢美樹さんがレヴューされていて、
配信で聴けはしたものの、ようやくフィジカルCDが手に入りました。

前作は、人気ラッパーをゲストに迎えて、
アフロビーツをやるような変化球がありましたけれど、
今作はジュジュ直球6番(曲)勝負のアルバムとなっています。

4曲目をのぞいて、細かい譜割りのメロディと、軽やかにホップするリズムを特徴とする、
フェミ・ソーラー十八番のジャサと呼ぶスタイルのジュジュ。
4曲目だけはテンポをやや緩め、キーボードがゆったりとリフを弾く、
キング・サニー・アデとよく似たタイプのジュジュで、要所要所に低い声で
♪アーッ!♪ と、短い感嘆符のようなかけ声をかけるところなんて、
アデそっくりですね。

それにしても圧巻なのは、ジャサ・スタイルの曲ですね。
トーキング・ドラムのアンサンブルとドラムスのキメ、
ギターとサックスがユニゾンでキメるフレーズが、ますます複雑精緻になり、
これまで以上にスピード・アップしています。
なんかもうこのキメって、全盛期のカシオペアみたいじゃない?
そういや、カシオペアはデビュー当初、
「スリル・スピード・スーパー・テクニック」をウリにしていたけれど、
それはそのまんま、フェミ・ソーラーのジュジュにもあてはまるような。

さて、今回気になったのは、フェミのヴォーカルやコーラス隊とは別に、
フェミのヴォーカルにちゃちゃを入れるように、かけ声をかけている人物の存在。
これまでのフェミのアルバムにも登場していましたけれど、
ルンバ・ロックのアニマシオンみたいな、
なんかしゃべくってるヤツがいるくらいにしか認識してませんでしたが、
かけ声とか合いの手とは、別物のように思えてきたんですね。

今作を聴くと、単なるかけ声ではなく、
明らかにドラム・ランゲージ(太鼓ことば)をしゃべっていると思われる場面が
ちょくちょく出てくるんですよ。
トーキング・ドラムのフレーズ、すなわちドラム・ランゲージをしゃべった後に、
トーキング・ドラムが追随する(同じフレーズを叩く)場面があるかと思えば、
ドラム・ランゲージをしゃべったあとで、それに返答するような形式で、
トーキング・ドラムが叩くなどの掛け合いが聞かれるんですね。

これって、いわば、
ドラム・ランゲージ・スピーカーというべき役割の人なんじゃないのかな。
アデやオベイの時代でも、コーラス隊とトーキング・ドラムが、
ドラム・ランゲージで掛け合うのを、インタープレイの場面で聞けましたけれど、
フェミが歌っている矢先で、ちゃちゃを入れ続けるようにしゃべりまくって、
トーキング・ドラムを煽るというのは、すごく耳新しく聞こえました。

ヨルバのドゥンドゥン・アンサンブルでは、いわゆる歌手が、
ドゥンドゥン(トーキング・ドラム)と掛け合うのに、
このドラム・ランゲージを使う伝統がありますけれど、
これを大胆に取り入れたのが、このドラム・ランゲージ・スピーカーなんじゃないかな。

それが、ヨルバのドゥンドゥン・アンサンブルといった伝統のワクからはみ出た
ジュジュ最新のサウンドのなかで発揮されると、
ラッパーのフロウのようにも聞こえて、すごく耳新しく響きますよね。
こんなところにも、フェミ・ソーラーのジュジュが伝統と現代を拮抗して、
新たな地平をみせているのを感じさせます。

Femi Solar "SPOT ON" FS7 Music/Golden Point Music no number (2021)
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エチオピアン・コンテンポラリーR&Bの新星 ニーナ・ギルマ [東アフリカ]

Nina Girma  MAJETE.jpg

いよいよエチオピアでも、アフロビーツ世代の登場ですね。
これまで発表したシングル3曲ではラップを披露していたニーナ・ギルマですが、
エチオピアで2月17日に発売されたデビュー作は、
ラッパーにとどまらず、シンガーとしての魅力をアピールしています。

まず聴く前から、ジャケットのヴィジュアルに感じ入っちゃいました。
欧米のポップスとなんら遜色のないデザイン・センスは、
これまでのエチオピアン・ポップとは、がらりイメージの変わるもの。
それでいて、ニーナのファッションを見れば、耳飾りやラフィアで編んだ帽子に、
エチオピアの伝統が取り入れられていて、
伝統とモダンの鮮やかな融合が見て取れます。
こうしたアフリカのイメージを刷新するモダンなヴィジュアルは、
近年のアフリカのファッション界のトレンドでもありますね。

そんな秀逸なジャケットが、アルバムの音楽性を匂わせるとおり、
コンテンポラリーなR&B/ヒップホップ色の強いサウンドにのせて、
ニーナのチャーミングなヴォーカルが、いきいきとハジけています。
そしてジャケットが暗示するとおり、マシンコ、クラールといった
エチオピアの伝統楽器を使ってエチオピア民俗色を溶け込ませることも
忘れておらず、ダンスホール/ラガやアフロビーツと親和性の高いサウンドに、
エチオピアのアイデンティティを刻印しています。

本作を制作したのが、活躍目覚ましい若手プロデューサーのカムズ・カッサ。
ぼくがカムズに注目するようになったのは、
ティギスト・ウォーイソのアルバムがきっかけでしたけれど、
ティギスト・ウォーイソの09年作が、カムズのプロデュース初仕事だったとのこと。
今回初めて知りましたが、その後二人は結婚したんですね。
カムズは、ティギストと同じ南部ワライタの出身なんだそうです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-07-07
(『音楽航海日誌』のサンプラーで、ティギスト・ウォーイソが聞けます)

カムズは、10年代からエチオピアのミュージック・シーンで活躍を始め、
アスター・アウェケ、テディ・アフロ、ハメルマル・アバテなど、
多くの歌手を手がける敏腕プロデューサーへと成長しました。
そのカムズが全面バックアップしたことは、CD背表紙にもカムズの名が書かれ、
インナーの裏表紙にカムズの写真がでかでか載っていることにも、よく表れています。

3年前、チェリナのデビュー作に、
エチオピアン・ポップの世代交代を実感したものですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-01-06
ニーナ・ギルマがそれに次ぐ大型新人であることは、間違いないですね。

Nina Girma "MAJETE" Shakura no number (2022)
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フジ声降臨 ティリ・レザー [西アフリカ]

Tiri Leather  WISE UP.jpg   Tiri Leather  TASTY.jpg
Tiri Leather  MALABO LIKE EUROPE.jpg

ジャケ写をチラ見して、ダメだ、コレと無視して、
長年試聴すらせずにいたという原田さんの気持ち、よーーーっく、分かります。
「ずっと聴きもしないで、ほったらかしてたんですけど、スゴいんですよ、この人」
と勧められ、第一声でドギモを抜かれました。
強烈にドスの利いた声。
こんな童顔の兄ちゃんが、これ歌ってんのか! マジで? 別人なんじゃないの!?
信じらんない気持ちで、ジャケットをまじまじのぞきこんじゃましたよ。

ぼくも、エル・スールに新着のナイジェリア盤は、全部チェックしてきましたけれど、
この人をずっと気付かずにいたのは、原田さんとおんなじ理由だったと思いますよ。
ジャケットの顔を見て、こんなひょろっとした若造じゃあ、
まともなフジなんて歌えるわけないと決めつけ、試聴しなかったんでしょう。
あぁ、これまた、自分の内にあるルッキズムなのかあ。
フジのシンガーといったら、凶悪な面構えのゴツイ顔ほど、
「歌える人」という先入観があるもんなあ。反省しきりです。

で、ジャケ買いならぬジャケ無視してた在庫の3作を全部もらってきたんですが、
どれもスゴいんだわ。これぞホンマモンの純正フジ声。
もうこの声だけで、ご飯3杯いける的な。
いつ出たのか判然としない“MALABO LIKE EUROPE” のみ、
41分5秒の1曲のみの収録。終盤でキーボードがうっすらとコードを鳴らすほかは
旋律楽器はまったく登場しない、パーカッション・アンサンブルのみの純正フジです。

ティリ・レザーのバイオがよくわからないんですが、
イバダンを拠点に歌っている、イバダン出身のシンガーのようです。
ワシウ・アラビ・パスマがフック・アップした人なのか、舎弟なのか、
パスマのライヴにフィーチャーされている映像がたくさん上がっていますね。
パスマのフォロワーであることは、その歌声からもよく伝わってきますよ。

Wasiu Alabi Pasuma  2020.jpg

パスマといえば、ヒップ・ホップと純正フジを同時発売したアルバム以来、
ずっとご無沙汰でしたが(リリース量が多すぎてフォローしきれません)、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-04-14
新作の“2020” でも、ガラガラ声のドスの利いたフジ声は健在でした。
そしてそのパスマとの連続聴きでも、ぜんぜん聴き劣りしないんだから、
ティリ・レザーがいかに大器か、わかろうというものでしょう。

Alh. Tiri Leather "WISE UP" Igi Nla Music no number (2020)
Alh. Tiri Leather "TASTY" Igi Nla Music no number (2020)
Alh. Tiri Leather "MALABO LIKE EUROPE" O.Y Music no number
Alh. Wasiu Alabi Pasuma "2020" Wasbar/Sarolaj Music & Films no number (2020)
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クレオールの誇り ジョー・ホール [北アメリカ]

Joe Hall & The Cane Cutters  AYE CHER CATIN.jpg   Joe Hall & The Louisiana Cane Cutters  PROUD TO BE A CREOLE.jpg

ザディコだけでなく、ケイジャンを含む
幅広いクレオール・ミュージックを身上とするジョー・ホール。
19年作の“AYE CHER CATIN” では、ジョーが弾くアコーディオンに、
ツイン・フィドル、ギター、ベース、ドラムスによるほがらかなグルーヴが、
なんともほっこりとしていて、田舎気分を味わえるアルバムでした。
ときどき調子ぱずれになる武骨なヴォーカルも、ほほえましかったなあ。

そのジョー・ホールの新作タイトルは、「クレオールであることを誇りに思う」と、
まさにジョー・ホールらしいマニフェストを謳っていますよ。
前作とメンバーが変わり、ベースにザティコのヴェテラン、
チャック・ブッシュが入ったことで、バンド・サウンドがグッと引き締まりました。

チャック・ブッシュは90年代のザディコ・シーンを賑わせたボー・ジャックのバンドで、
ボーとともにヌーヴォー・ザディコを作り上げた立役者。
大きくうねるチャック・ブッシュのベースが入ったことで、
ポール・レイヴェンのドラムスもすごくタイトになりました。
また、ゲストにセドリック・ワトソンのフィドルが加わったのも嬉しい。
このアルバムでは、フィドルばかりでなく、ラブボードもプレイしています。

レパートリーは、クレオールのマルディ・グラ賛歌‘Creole Mardi Gras’ から、
ボー・ジャックの‘Chere Mgnonne’‘Don't Tell Your Ma, Don't Tell Your Pa’、
ブーズー・チェイヴィズの‘Jolie Catin’ といったザディコ・ナンバー、
ケイジャン・フィドラー、キャンレィ・フォンテノーの‘Ta Robe Barrée’、
そしてケイジャンの大ヴェテラン、
カメイ・ドゥセットの代表曲‘Hold My False Teeth’ まで。
このオールド・ケイジャン2曲の選曲は、
セドリック・ワトソンの参加があってこそだったんじゃないかな。

ルイジアナで脈々と生きる、伝統クレオール・ミュージックを堪能できる
好アルバムです。

Joe Hall & The Cane Cutters "AYE CHER CATIN" Fruge FR20194 (2019)
Joe Hall & The Louisiana Cane Cutters "PROUD TO BE A CREOLE" Fruge FR20215 (2021)
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キューバ生まれ、モスクワ育ちのラテン・ジャズ アレクセイ・レオン [カリブ海]

Alexey León  INFLUENCIADO.jpg

う~ん、楽しい!
こんなに明快なラテン・ジャズ作は、今日び貴重なんじゃないですかね。
ボビー・ティモンズのファンキー・チューン‘Dot Dere’ でスタートするなんて、
オールド・スクールにも程があるけど、素直にカッコよく思えるのは、
時代がもう一巡りも二巡りも(もっとか?)したからなんでしょう。

主役のアルト・サックス兼フルート奏者、アレクセイ・レオンは、
キューバのマンサニージョで生まれ、ロシアのモスクワで育ったという人。
これが4作目だそうですが、コンテンポラリーの影響を感じさせない、
ハード・バップ・スタイルのラテン・ジャズを聞かせる人です。

ゆいいつタイトル曲の‘Influenciado’ に、
ハードバップをはみ出たハーモニーが聴き取れますけれど、
本領はオーソドックスなジャズでしょうね。
でも、これがちっとも古臭くなくって、フレッシュなんです。
若い世代によるアフロ・キューバン・ジャズの新解釈といった感じが、いいんです。

メンバーはキューバ人ミュージシャンが中心で、
カラメロ・デ・クーバことハビエル・マソー“カラメロ”のピアノが好演。
ドラマーは、キューバ人とスペイン人ドラマーの二人が起用され、交替で叩いています。

レパートリーは、アレクセイのオリジナル8曲に、さきほどのティモンズ作と、
ジェローム・カーンの「今宵の君は」の全10曲。
フレッド・アステアで有名な「今宵の君は」を選曲するあたりも、
イマドキの若者らしからぬシュミですねえ。

アレクセイのオリジナルで面白いのが、
セカンド・ラインのビートを取り入れた‘Guarachando’。
グァラーチャを曲名に織り込んだとおり、陽気でポップな曲です。
セカンド・ラインとアフロ・キューバンって、クラーベという共通性もあって、
めっちゃ親和性が高いわけですけれど、こういう試みを聴いたのは初めてかも。

反対に、思わず背中に冷たいものが走るタイトルは、‘Kiev Station Blues’。
いまのキーウの惨状、とりわけブチャ虐殺の映像を見た者には、
冷静ではいられなくなる曲名です。こんなシャレたブルースは、
いまのキーウに、あまりにも似つかわしくないものとなってしまいました。

Alexey León "INFLUENCIADO" One World ALCV2021 (2021)
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アソウフ溢れるトゥアレグ・バンド ダグ・テネレ [西アフリカ]

Dag Tenere  ISWAT.jpg

エトラン・ド・ルアイルの新作が届いて間もないんですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-03-04
また新たなるニジェールのバンドの新作が届きました。
といっても、昨年出ていたのを、今になって気付いたんですけれども。

タマシェク語で「砂漠の子供たち」を意味する
ダグ・テネレというバンドで、女性二人を含む7人編成。
元エトラン・フィナタワのギタリスト、グマル・アブドゥル・ジャミルと、
イブラヒム・アフメド・ギタのツイン・リード・ギター、ツイン・リード・ヴォーカルで、
作曲も二人がしています。

ニジェール、ブルキナ・ファソ、マリ出身のトゥアレグが集まったバンドで、
ニアメーを拠点に活動しているとのこと。
18年にデビュー作をデジタル・リリースして、今回の2作目となるEPは、
アフリカ文化基金(ACF)の支援を得られたからなのか、CDも制作されました。

クレジットをみていて、あれ、と思ったのが、瓢箪の水太鼓の名で、
アサカラボと書いてありますね。こういう呼び名を聞くのは初めてだったんですが、
タマシェク語の呼び名なんでしょうか。

ちなみに、水太鼓を知らない方のために、一応説明すると、
半分に切った大きな瓢箪に水を入れ、それより小さいサイズの
半切りの瓢箪を水に伏せて浮かべ、その瓢箪の表面を
バチで叩く打楽器なんですが、一般に女性が演奏します。
女性が皮の膜面を持つ打楽器を叩くのはタブー視する社会が多いため、
水太鼓やガラガラが、西アフリカでは女性用の打楽器となっているんですね。

ブルージーなギター・サウンドを前面に出したダグ・テネレは、
タカンバ色の濃いエトラン・ド・ルアイルとはだいぶ異なり、
ティナリウェンやタミクレストに通じる、
アソウフ(トゥアレグにとっての郷愁や思慕)の情感を色濃く表すバンドですね。

全6曲わずか17分50秒の収録時間ですけれど、各曲の曲想が豊かなのが印象的。
男声のドローンのような反復と、女声のウルレーションが、
トランシーな催眠をもたらすラストのタイトル曲が、2分にも満たないのは残念です。
このトランシーなグルーヴは、少なくとも5分くらい、
できれば15分以上、たっぷりと溺れてみたい曲です。

Dag Tenere "ISWAT" Dag Tenere D.L.B7752-2021 (2021)
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フランス人ギタリストのアフロ・ポップ ヨアン・ル・フェラン [西・中央ヨーロッパ]

Yohann Le Ferrand  YEKO.jpg

フランス人ギタリスト、ヨアン・ル・フェランによる、マリ・プロジェクトの初作。
冒頭から、ハイラ・アルビーのヴァイタルな歌声が飛び出して来て、
いきなり破顔しちゃいましたよ。

ベンディールのパーカッシヴな打音に、ノイジーなギターが被さって
ハイラ・アルビーが歌い出すと、やがて一弦フィドルのソクが絡み始めて、
ハイラとバック・コーラスが引き継いでいく。

なんなんすか、この出だしのカッコよさ!
まさに、つかみオッケー(死語?)なオープニング。
主役のファンキーなリズム・カッテングが、キレのあるビートをはじき出し、
ホーン・セクションが乱舞するアレンジも、実に鮮やかです。
う~ん、グルーヴィ !!!

18年に亡くなったハイラ・アルビーが歌っていることからもわかるように、
本作は長い時間をかけ、バマコで録音してきたものをまとめたアルバム。
主役のギタリスト、ヨアン・ル・フェランがバマコに連れて行った
ドラムス、ベース、ホーン・セクションのフランス人メンバーと、
マリの歌手やラッパー、音楽家たちとコラボした計6曲が収録されたEPです。

ヨアン・ル・フェランは12年にマリへ旅してから、
この地の音楽に深くコミットをするようなったそうで、
ロキア・トラオレ、ティケン・ジャー・ファコリーとの共演歴もあります。

マリのラッパー、ミルモを迎えた2曲目は、
ジャジーなコード進行がシャレのめしたアフリカン・ヒップ・ホップ。
アクースティック・ギターにタマが絡む生演奏のイントロから、
ヒップ・ホップ・ビートへとスムーズに滑り込み、フックの利いたメロディが、実にニクい。
キャッチーなコーラスといい、ヨアンのソングラティングのクオリティも高いなあ。
短いながら、ヨサンの弾くギター・ソロもキマってるしね。

チェロをフィーチャーして、悠久のサヴァンナをイメージする3曲目は、
サリマタ・ティナ・トラオレの柔らかな歌声が美しいマンデ・バラード。
ソクとンゴニをフィーチャーしたマンデ・ロックの4曲目は、
バンド・アンサンブルに映えるママニ・ケイタの歌声がシャープで、引きつけられます。
ラスト・トラックは、ブルキナ・ファソで活動するコート・ジヴォワール出身の
新進アフロ・ポップ・シンガー、カンディ・ギラを迎えた曲で、ハジケたポップがもうサイコー。
プロダクションが華美にすぎたカンディ・キラの新作より、
このトラックの方が、断然出来がいい。

わずか23分25秒の短さがもどかしく、ぜひフル・アルバムの続編を期待します。

Yohann Le Ferrand "YEKO" Back2Bam Production Y001 (2022)
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オリエンタル・サイケ・ジャズの成熟 ブラック・フラワー [西・中央ヨーロッパ]

Black Flower  ARTIFACTS.jpg   Black Flower  MAGMA.jpg

エチオ・ジャズに触発されたバンドが、世界中から登場するようになって、はや10年。
数あるバンドのなかでも、充実した作品を出し続けているのが、
ベルギーのブラック・フラワーです。

以前、14年のデビュー作を紹介しましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-04-30
記事にしそびれた16年のセカンド作“ARTIFACTS” が、すんごい傑作でした。
エチオピア旋法のメロディをリードするオルガンとアフロビートが合体し、
サイケデリックなエフェクトやダブも入り混じって、
エチオ・ジャズを超越した世界を展開していましたね。
デビュー作の音楽性をさらに深化させた、濃密で、ミスティックなアルバムです。

ブラック・フラワーに感心させられるのは、曲やアレンジにフェイクが皆無なところ。
西洋人がイメージするエキゾティックな着想という次元を、
完全に乗り越えているんですよ。
それこそ、エリントンの「キャラヴァン」とか、
ガレスピーの「ナイト・イン・チュニジア」の通俗・陳腐なオリエント趣味から、
半世紀以上を経て、西洋人もここまで到達したのかという感を強くします。

エチオピア人よりもエチオピアらしいとすら感じることもある彼らの楽曲ですが、
とはいってもやはりエチオピア人ではできないであろう、
他の文化圏の民俗音楽も参照しながら、エチオピア音楽を俯瞰する視点が、
彼らの強みのように思えます。
それが、新作でさらに発揮されていますね。

これまでになく内省的な曲が並んだ新作ですけれど、
タイトルの『マグマ』がいみじくも暗示するかのような、
内にエネルギーをぐっと圧縮させたパワーを感じさせる演奏です。
19年作“FUTURE FLORA” では、楽曲が地味だったのと、
演奏がやや淡白でしたけれど、今作はだいぶ印象が違いますね。

前任のオルガン奏者のサイケデリックなトーンから、
一変したサウンドを生み出しているのは、
新加入のキーボーディスト、カレル・クエレナエール。
浮遊するようなサウンドスケープが、このバンドに新たな景色を与えています。
また今回、初めてヴォーカリストをフィーチャーしたのも白眉ですね。

ラストのワシントを吹く曲は、エチオピアと日本とインドネシアがミックスしたような、
なんとも魔訶不思議なメロディとリズムの曲。
ワシントがスリンのように聞こえるのは、5音音階がなせるわざなんですけれど、
インドネシアのペロッグやサレンドロを参照しているのかも。
そういえば、“ARTIFACTS” では、インドネシアの民俗楽器アンクロンを使っていたっけ。

サックス奏者のナタン・ダムスは、デビュー作以来、
ワシントのほかにバルカンの笛カヴァルも吹いていますけれど、
アルバムを重ねるごとに、ますます独自のオリエンタル・ジャズのサイケ表現を深め、
いまや成熟の域に達しているのを感じます。

Black Flower "ARTIFACTS" Zephyrus SDBANUCD02 (2016)
Black Flower "MAGMA" Zephyrus SDBANUCD22 (2022)
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エレクトロ・イサーン・ソウル ラスミー [東南アジア]

Rasmee  THONG LOR COWBOY.jpg

うわぁ、こりゃあ面白い才能が出てきましたね。
タイ東北部イサーン出身のシンガー・ソングライターという、
ラスミー(・ウェイラナ)の新作。

「タイのオルタナティヴ」という紹介をされている人のようですけれど、
本作を聴くかぎり、新世代ジャズ・ヴォーカリストの文脈で紹介した方が、
より注目が集まるんじゃないのかしらん。
いや、じっさいのところ、この人にジャズの資質はないんだけど、
フーン・タン(ヴェトナム)、エリーナ・ドゥニ(アルバニア)、
ジェン・シュー(台湾/アメリカ)といった人たちと並べても、
まったく違和感ないサウンドに仕上がっているんですよ。

ラスミーの過去作を聴いたことがないので、あくまで本作を聴いた者の感想ですけれど、
ケーンやピンといった伝統モーラムの楽器が、
エレクトロな音感と見事に調和しているのに驚かされます。
エレクトロ・モーラムといった趣の‘Chomsuan’ ばかりでなく、
イサーン方言のタイ語と英語の両方で歌われる‘I Wanna Love You’ では、
イサーンのこぶし回しが西洋ポップスのサウンドの中に溶けていく
絶妙なブレンド具合にウナらされます。

このサウンドを生み出しているのは、プロデューサーのサーシャ・マサコフスキー。
ニュー・オーリンズ出身の新世代ジャズ・ヴォーカリストのサーシャは、
このアルバムで、シンセサイザーとプログラミングを担当していて、
ニュー・オーリンズから、ローズとウーリッツァを弾く
アンドリュー・マクゴーワンも呼び寄せられています。
ほかに、サーシャの父でジャズ・ギタリストのスティーヴ・マサコフスキーと、
弟のベーシスト、マーティン・マサコフスキーも演奏に参加しています。
サーシャがこんなプロデュースの才のある人とは、知りませんでした。

ラスミーの父親はモーラム楽団の座長だったらしく、
ラスミーも幼い頃から歌ってきたというのだから、イサーン独特の歌い回しは真正です。
ラスミーが書くメロディにも、イサーンの臭みがたっぷり溢れていて、
モーラムで聞き慣れたフレージングが、そこかしこに顔を出します。

ラスミーとサーシャ・マサコフスキーがどのようにして出会ったのか知りませんが、
フーン・タンとグエン・レが出会った“DRAGON FLY” に匹敵する、
ハイブリッドなポップ作品であることは、間違いありません。
なにより、アルバム全体を通じてクールなサウンドのテクスチャが、
“DRAGON FLY” とクリソツ。アジア歌謡の新たなる名盤誕生です。

Rasmee "THONG LOR COWBOY" no label no number (2021)
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10年の沈黙を破って ニュ・クイン [東南アジア]

Như Quỳnh  NGƯỜI PHỤ TÌNH TÔI.jpg

アメリカの越僑社会が生んだヴェトナム歌謡の最高峰、
ニュ・クインが沈黙して、はや十年以上。
ソロ・アルバムは11年の“LẠ GIƯỜNG” が最後となり、
フイン・ジャ・トゥアンと共同名義で出した12年作以降、
クインの歌声を聴くことができなくなってしまいました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-04-05

ファンが新作を待ちわびる間に、本国ヴェトナムのシーンの方が活性化して、
越僑社会のレーベルが制作するプロダクションをしのぐ勢いとなりましたよね。
レー・クエンがヴェトナム戦争前に書かれた抒情曲を歌って、
ボレーロ・ブームを生み出したことは、このブログの読者ならば、よくご承知のはず。

そんなニュ・クインですけれど、20年8月に待望のシングルをリリース(配信のみ)し、
MVも同時発表となり、新作のリリースがアナウンスされました。
ところが、その後ぷっつりと、新作の話は消えてしまったんですよね。
お~い、あの新作の話、いったいどうなったんだよぉ、と思ってたんですが、
昨年4月、新作のジャケットがとうとう発表され、チュオン・ヴーとデュエットした
タイトル曲‘Người Phụ Tình Tôi’ もトゥイ・ガのYouTube チャンネルに上がりました。

ついに出るぞと、胸を躍らせたんですが、待てど暮らせど、新作の発売日は発表されず。
パンデミックのロックダウンが影響して、発売が延期されてしまったんですね。
そんなこんなで焦らしに焦らされ続けましたが、ようやく先月3月、発売されましたよ。
しかもヴェトナム本国との同時リリースで、
ヴェトナムでニュ・クインのアルバムが出るのは、これが初のことです。
ヴェトナムではニュ・クインの海賊版がトップ・セールスになっていたので、
大歓迎されるんじゃないでしょうか。
ちなみにヴェトナム盤は、レー・クエンでおなじみのDVDサイズの
ホルダー・ケース仕様で、歌詞カードの美麗カードが付いているようです。

さて、“LẠ GIƯỜNG” 以来となる11年ぶりの新作(山下達郎とおんなじ!)の
レパートリーは、近年のボレーロ・ブームを反映して、
ヴェトナム戦前の古い曲を中心に選曲されています。
ノスタルジックなメロディばかりでなく、シャレた都会的なムードの曲もあって、
「イースト・ミーツ・ウェスト」的な洗練されたコード進行の
ガン・ヅアン(1946-2009)作、‘Chờ Đông’ など、
アルバムのいいフックとなっています。

新しい曲は2曲のみで、20年にシングルで出て、MVも発表された
‘Buồn Làm Chi Em Ơi’ は、ラスト・トラックに収録されています。
もう1曲は、昨年YouTube にあがったタイトル曲の‘Người Phụ Tình Tôi’ ですね。
この曲は、ゼロ年代から活躍している作曲家タイ・ティンの作品で、
レー・クエンと共同名義作を出したこともあるように、
ノスタルジックな作風には定評のある人です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-05-12

ダン・バウ(一弦琴)やダン・チャン(筝)、ギター・フィムロンなどの、
ヴェトナム情緒を色濃く表すゆらぎ音をたっぷりとフィーチャーしているのは、
本国ボレーロとはひと味違う越僑シーンの音づくりですね。
王道のヴェトナム演歌のプロダクションは過不足なく、申し分ありません。

主役ニュ・クインの歌声も円熟の極みで、安定感たっぷり。
歌声から軽やかさが消えて、重みが出てきたのは加齢のためでしょうが、
かえって味わいが増して、コクが出たといえるんじゃないでしょうか。
15年に離婚した私生活も、歌の表現/説得力に影響を与えたのかもしれません。

待ち焦がれ続けたニュ・クインの新作、
長年の渇きをいやしてあまりある、素晴らしい傑作に仕上がっています。
ファンのみなさま、共に喜び、むせび泣きましょう。

Như Quỳnh "NGƯỜI PHỤ TÌNH TÔI" Thúy Nga TNCD627 (2022)
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絶好調のキゾンバ アンナ・ジョイス [南部アフリカ]

Anna Joyce  ANNA.jpg

もう1枚手に入れたのが、アンナ・ジョイス。
この人は典型的なキゾンバ・シンガーですね。
センバはまったくやっていません。
非キゾンバのバラードも歌っていて、ポップ寄りのシンガーといえそう。

アダルトなセクシーさと、キュートさをあわせ持ったシンガーで、
フェイクでしゃくリ上げるように、せつなく歌うところなんて、
アリーの魅力とも共通していて、もうマイっちゃうなあ。
この声と歌いぶりで、ご飯3杯いけちゃうでしょう。

87年ルアンダ生まれというから、アリーと年もひとつ違いで、
現地では良きライヴァルといったところなのかも。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-07-23
16年にデビュー作を出していて、本作が2作目です。

詞・曲もアンナ自身が書いていて、
全12曲中10曲は共作を含み、アンナが関わっています。
他人の曲の2曲のうち1曲が、アリーを育てたプロデューサーのヘヴィー・C作。
この曲が、アルバムゆいいつの非キゾンバのバラードというのが面白い。

アリーのセカンドで見せたヴァラエティは、アンナのアルバムにはなく、
むしろキゾンバで通したアルバムの統一感がすがすがしいといえます。
曲ごとにプロデューサーが違っているのに、この統一感は大したもんですよ。
どの曲もラグジュアリーなサウンドで、ハイ・クオリティだしね。
アンゴラのキゾンバ、あいかわらずの絶好調であります。

Anna Joyce "ANNA" LS & Republicano no number (2021)
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キゾンバ・シンガーのデビュー作 メルヴィ [南部アフリカ]

Melvi  TRIUNFO.jpg

昨年夏に入手したキゾンバ・シンガー、アリーのセカンドは、ほんとによく聴きました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-07-23
通勤時にヘヴィ・ロテとなる盤でも、長くて4か月で新しいアルバムと交替しますが、
アリーの12年作は、半年以上も聴き続けましたからねえ。
曲はいいし、チャーミングな歌いぶりがもうタマらなくって、
交替するのが忍びなかったのです。

またアリーのような良作との出会いを求めて、
ひさしぶりにアンゴラのキゾンバを入手したんですが、ありましたよ。
メルヴィという女性シンガーの13年デビュー作。
キューティ・ヴォイスが、かわゆい人です♡

冒頭2曲はキゾンバというより、典型的なズークの打ち込みサウンドで、
アコーディオンの音色をサンプリングした1曲目など、
ヌケのいい音が軽やかな風を送り込んでくるようで、とても爽やかです。

ズークに続くのがセンバで、アクースティック・ギターのイントロに始まり、
打ち込みのリズム・トラックの合間にディカンザが刻まれ、
サンプリングのアコーディオンがリズムを象って、センバのムードを盛り上げます。
エドゥアルド・パインとデュエットした‘Do Meu Jeito’ もセンバで、
ディカンザのリズムを強調して、コンガがセンバの特徴的なビートを叩き出していますね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-07-29

中盤はキゾンバらしい曲が並び、最後に、ルンバ・コンゴレーズの女性歌手、
ンビリア・ベルとデュエットした‘Doce De Coco’ のリミックスが収録されています。
この曲はメルヴィが08年の国営ラジオ曲のコンテストで、トップ10に残った曲だとのこと。
ちなみに、ブラジルのショーロ・ナンバーとは同名異曲です。
キゾンバで始まるものの、途中でルンバ・コンゴレーズにスイッチする
面白い仕上がりとなっています。

13年に本作を出したあと、メルヴィは、クラシック音楽の正規の教育を受け、
国立歌劇団に所属して合唱団の一員となっています。
17年には舞台女優としてデビューを果たし、演劇の世界へと進んだのか、
本デビュー作に続くアルバムは確認できませんでした。
いまはどうしているんでしょうね。

Melvi "TRIUNFO" ND Produções CD004 (2013)
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