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ネイト・ウッドが加わったニュー・トリオ ティム・ミラー [北アメリカ]

Tim Miller  SYNERGY.jpg

ごひいきのギタリスト、ティム・ミラーの新作が出ました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-05-06
前回の記事で書いた08年作“TRIO²” から、ずいぶん間が空いたなと思ったら、
5年前に“TRIO VOL.3” が出ていたんですね。気付きませんでした。

トリオ第1作・第2作からベースとドラムスが交替し、
ネイト・ウッドが新ドラマーとなっています。
前作のトリオ第3作でメンバーが替わったのは、
初代ドラマーの鳥山健明(TaKe Toriyama)が07年5月28日、
38歳の若さで急逝してしまったからだったんですね。
08年のトリオ第2作は、鳥山の死後にリリースされた作品で、
鳥山を追悼するメッセージが、ジャケット内に添えられていました。

ネイト・ウッドが加わって、このトリオのサウンドも変化をしましたよ。
ギターがより前面に押し出され、ドラムスはアンサンブル全体を引っ張り、
グルーヴを生み出す役割に徹するようになっています。
ネイトのふくよかなドラミングが、アンサンブルのダイナミクスを支配していて、
サウンドに浮遊感を与えているのが印象的。ギターのクリーンなトーンが、
天高く飛翔していくように響くのも、ネイトのドラミング効果ですね。

ネイトのドラミングは、めちゃくちゃ手数が多いのに、ぜんぜんうるさくならないのは、
ダイナミクスのコントロールが絶妙だからでしょう。ブラシとスティックを使い分けながら、
音量ばかりでなく、音圧もコントロールしてみせるネイトのドラムスは、
主役を引き立てながら、アンサンブルのリズムをデザインする能力にたけています。

う~ん、こういうドラミングを聴いていると、
ウェイン・クランツ、ティグラン・ハマシアン、ベン・ウェンデル、挾間美帆などなど、
各方面からネイトがひっぱりだこになるのも、よくわかるなあ。

独特のヴォイシングで豊かなハーモニーを彩る、ティナのギターも冴えまくり。
ピック弾きとフィンガー・ピッキングを合わせたハイブリッド・ピッキングも正確無比で、
ギターのサウンドも場面場面で使い分け、アグレッシヴに迫るプレイも楽しめます。
今回はアクースティックを弾かず、エレクトリックに徹しています。

ニュー・トリオでのティム・ミラーもスゴイ。
こりゃあ、17年の“TRIO VOL.3” も手に入れなきゃ。

Tim Miller "SYNERGY" no label no number (2022)
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ギリシャ歌謡の多様性を示すエンテクノ ヴィオレタ・イカリ [東ヨーロッパ]

Violéta Íkari & Nikos Xydis.jpg

ヨーロッパの深い森を舞台にした絵本の実写版(?)みたいな
ジャケットに戸惑いをおぼえたものの、聴いてみたら、これが面白い。
これはライカじゃなくって、エンテクノですね。

エンテクノは、ミキス・セオドラキスやマノス・ハジダキスなどの作曲家によって、
50年代後半から広まったギリシャのオーケストラ音楽で、
ギリシャ各地の民謡のメロディやリズムを取り入れた音楽を指します。
日本では商業化・芸術化したレンベーティカという評価を下されて完全無視され、
その名が使われることがありません。ぼくは、これ、ハジダキスをディスってた、
とうようさんの悪影響のように思えてならないんですけど、違うかな。

ハジダキスがツマンないのは確かだけれど、ギリシャ歌謡のなかで
エンテクノの位置づけは、きちんと評価すべきなんじゃないのかなあ。
ヨルゴス・ダラーラスに代表されるとおり、
バルカン半島を俯瞰した東欧音楽としてのギリシャ歌謡を捉え直す機運から、
エンテクノにスポットを当てた作品が増えているだけにねえ。

エレフセリア・アルヴァニターキなんて、
コンテンポラリー・エンテクノのシンガーと呼んだっていいと思うんですけれど、
日本ではそのジャンル名を使って説明されることはありません。
しかし本作は、多様な民族が往来したギリシャ歌謡のルーツ還りをうかがわせる、
エンテクノらしい作品といえます。

本作は、歌手のヴィオレタ・イカリと共同名義扱いになっている
ニコス・クシーディスという人の曲集で、
ジャケットに写っている髭面のオッサンがニコスのようです。
ベンディールが打ち鳴らされて、バルカン色濃厚なメロディが繰り出され、
ジプシー的なクラリネットやトランペットがひらひらと舞うという、
東欧色の強いサウンドが強調されています。

アクースティックな音づくりになっているんですけれど、
そこにアート・リンゼイみたいなノイズ・ギターが忍び込み、
不穏なムードを作っているんですね。
どうやらこのノイズ・ギターを弾いているのが、ニコスのようです。

そして、主役のヴィオレタ・イカリのぶっきらぼーなヴォーカルがいいんですよ。
これぞ、ギリシャ歌謡の本髄! グローバル・ポップの傾向に背を向けた、
この武骨な歌いっぷりは、ギリシャ歌謡の真骨頂でしょう。

いったいどういう人?と調べてみたら、
エレフセリア・アルヴァニターキと同じイカリア島出身の人でした。
18年にデビュー作“ELA KAI RAGISE TON KOSMO MOU” を出して、
本作が2作目とのこと。
貫禄のある歌いっぷりに、もっとキャリアのある人かと想像していたんですけども。
2年前に出た、ダラーラスのデビュー50周年記念ライヴの
デュエット・アルバムにも客演していました。
こういう歌いっぷりの若手が出てくるところに、
ギリシャの美学が脈々と息づいてるのを感じます。

Violéta Íkari & Nikos Xydis "PORTOKALI" Walnut Entertainment WAL055 (2022)
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抑制の美学 リア・サンパイ [南ヨーロッパ]

Lia Sampai  AMAGATALLS DE LLUM.jpg

カタルーニャのインディ・レーベル、ミクロスコピの作品が初入荷。
入荷した全タイトルをチェックして、アンテナにひっかかった2作品を買ってみました。
その1枚が、前回のジャズのアルバ・カレタ・グループだったんですけれど、
もう1枚は、女性シンガー・ソングライターのリア・サンパイ。

カタルーニャの女性シンガー・ソングライターといえば、
シルビア・ペレス・クルースが大人気ですけど、
実はぼく、彼女がまったくダメなんですよ。
現代っ子特有の発声や、自意識の強い歌いぶりが、超苦手。
そんなわけで、警戒しつつ聴いてみたんですが、このリア・サンパイは大丈夫でした。

気取りのない、抑制の利いた歌いぶりに、まず好感。
ひらひらと蝶のように舞う歌い回しが軽やかで、耳に心地良く響きます。
声高なシルビア・ペレス・クルースとは大違い、なぞといらん憎まれ口を叩いたりして。
繊細だけど力強さのある、豊かで深みのある歌唱を聞かせます。

そして、リアのパートナーであるアドリア・パジェスのギター伴奏が素晴らしい。
クラシック・ギターの奏法がベースとなっているものの、
ナイロン弦の響きがどこまでも柔らかで、エッジの立った音は出てきません。
ハーモニクスを多用した奏法を聞かせたりと引き出しの多い人で、
フラメンコ的な表現が借用される場面でも、ギターのタッチはまろやかで、
パルマをゆったりとさせたような手拍子もおだやか。
エレクトリック・ギターを使った曲でも、そのギター・トーンは甘やかです。

アドリアのアレンジは、シンプルなギター伴奏の静謐なサウンドを保ちながら、
ヴァイオリンとチェロの弦セクションや、
ピアノやグロッケンシュピールを効果的に使って、
ぬくもりのある音楽世界を織り上げています。
抑制の美学を感じさせますねえ。

そんなリアの音楽をヴィジュアル化したジャケットも、すごく気に入っています。
ピクトリアリズム調のポートレイト写真は、気品がありますねえ。
視線を落としたリア・サンパイのうつろな表情が、またいいんだな。
スティーグリッツが撮ったオキーフみたいでさ。
画質は、メイプルソープが撮ったパティ・スミスみたいなシャープさ。
ファイン・アート・フォトグラフが好きな人なら、ほっとけないでしょう、これ。

Lia Sampai "AMAGATALLS DE LLUM" Microscopi MIC189 (2021)
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カタルーニャ発グローバル・ジャズ アルバ・カレタ・グループ [南ヨーロッパ]

Alba Careta Group  ALADES.jpg

カタルーニャの小さな町アヴィニョから登場した、新進トランペット奏者のグループ。
小学校の音楽教師を母親に持つアルバ・カルタは、
18歳年の離れたジャズ・ギタリストの兄の影響からジャズに興味を持ち、
トランペットを演奏するようになったといいます。

カタルーニャではジャズを本格的に勉強する環境がなかったことから、
オランダへジャズ留学し、ハーグの音楽院で学びながら、自己のグループを結成、
18年に早くもファースト・アルバムを出したとのこと。
その後、アムステルダムに移って、オランダの名門、
アムステルダム国立音楽院でジャズ・トランペットの修士号を取得しています。

2作目となる本作では、オランダ留学時代の体験をインスピレーションに、
作曲に力を入れたとアルバは語っています。
トランペット、サックス、ピアノ、ベース、ドラムスのメンバー各自が、
自由闊達に押し引きしあって、緩急をつけながら、
アンサンブルの緊張度を高めていくのに、恰好のマテリアルが並んでいますね。
リズムがひんぱんに変化する構成が巧みで、ピアノとドラムスに顕著に聴き取れる、
メンバーの資質に合わせたアレンジの工夫を感じます。

特に聴きものなのが、‘Oceans’。
冒頭から推進力のあるドラムスにのせて、トランペットとサックスがテーマを合奏し、
ブロック・コードでガンガン打ち付けていくピアノをバックに、
トランペットとサックスがソロを応酬し合います。
中盤のカデンツァでリズム・セクションが退くと、サックス・ソロのバックで
ピアノがフリーに動き始め、やがてピアノが音を止めると、
トランペットの無伴奏ソロへと場面は展開。
そのトランペットがすっと音を消した瞬間、冒頭のテーマが炸裂します。

スケール感のあるこの曲、ミュージック・ヴィデオも制作されています。
青いプールにサイド・テーブル、ナイト・スタンド、ベッドが沈められていき、
目隠しをしたアルバがベッドの方へと沈んでいきます。
アルバは沈んだトランペットを手に取り、水中で演奏を始めます。
そのシュールな映像は夢想的で、楽想とはまた異なる世界を見せてくれます。
赤・白・青を基調としているのは、オランダ国旗の色を暗示しているのかな。

このアルバムでアルバの自作曲でないのは、カタルーニャの詩人ペレ・クアルトが
47年に亡命先のチリで書いた詩に、シンガー・ソングライターでカタルーニャ独立運動家の
リュイス・リャックが曲をつけた‘Corrandes d'exili’ の1曲。
スペイン内戦後、フランスに強制移住させられたカタルーニャ人を描いたこの曲を、
アルバ自らが歌い、カタルーニャ人としての立ち位置を確かめています。

奇しくも、カタルーニャ出身の女性トランペッター(しかもアルバと同い年!)で、
シンガーとしても人気の高いアンドレア・モティスが新作を出したばかり。
アンドレアはオーソドックスなジャズですけれど、アルバはバリバリの新世代ジャズ。
グローバル・ジャズ最前線に飛び出したカタルーニャの硬派の才能、要注目です。

Alba Careta Group "ALADES" Microscopi MIC164 (2020)
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未来に開かれたジャズ コマ・サクソ [北ヨーロッパ]

Koma Saxo with Sofia Jernberg  KOMA WEST.jpg

ウィ・ジャズというフィンランドのレーベル、面白いなあ。
年初め、リンダ・フレデリクソンのユニークな作品に感じ入ったんですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-01-23
続き番号でリリースされた、ベルリンで活動するスウェーデン人ベーシスト、
ペッター・エルドのユニットの新作が、これまた輪をかけてユニーク。
このレーベルからは、目が離せなくなりそうですね。

コマ・サクソは、ベース、ドラムスに3管サックスのクインテット。
このメンバーで19年にデビュー作を出しているそうで、そちらは未聴なんですが、
今作はソフィア・イェルンベリのヴォイスを全面的にフィーチャーして、曲により
ピアノ、ヴァイオリンとチェロ、アコーディオン(ペッター・エルドのお母さん!)が
加わった作品となっています。

3分前後の短い14曲が収録されているんですけれど、
ミニマル・アートを思わせるようなアルバムですね。
サックス3管の武骨なリフに、ソフィアのヴォイスが
ソプラノ・サックスのように絡みつくアレンジや、
ギクシャクしたビートとルバートのパートを、巧みに楽曲に構成するなど、
作曲とアレンジに詰め込まれたアイディアが聴きどころ。

曲はどれもしっかりと構成されているんですけれど、演奏には自由度があり、
ビート・ミュージックを展開する曲あり、フリ-・ジャズの展開をみせる曲ありで、
多彩な楽曲に対応する、柔軟な演奏力が発揮されています。

ペッター・エルドはベースだけでなく、
サンプラー、ピアノ、パーカッションも演奏しているんですね。
ヴァイオリンとチェロの二重奏で始まり、ソフィアのヴォイスが絡む
室内楽的な曲など、美しい印象画を観るかのようで、
サウンドトラックにも使えそうな曲が、このほかにもあります。

本作は、ペッター・エルドが育ったスウェーデン西海岸の民謡をモチーフとして
作曲したのだそうで、ミニマルな技法を使った作品でありながら、
どこか牧歌的で親しみやすさをおぼえるのは、伝統的なメロディゆえなのですね。
物語を生み出す楽曲とアレンジ、未来に開かれたアンサンブルが、
新しいジャズの風景を拡げているのを実感させてくれる作品です。

Koma Saxo with Sofia Jernberg "KOMA WEST" We Jazz WJCD41 (2022)
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UKブラックのストーリーテラー コージー・ラディカル [ブリテン諸島]

Kojey Radical.jpg

やっぱ、声がいいよなあ。
このアルバム、聴き始めの頃は、
インパクト弱いかなあとか思ってたんですけどね。
つい何度も聴くうちに、結構気に入っている自分に気付いて、
ちょっと書いておこうかという気になりました。

グライム・シーンから登場した、ガーナにルーツを持つUKラッパー、
コージー・ラディカルの初フル・アルバム。
ざらりとした野太い声が、ぼく好みなんであります。
粘り気のあるフロウに味があって、ずっと聴いていられるタイプですね。

この人のラップを聴いたのは、たぶんルディメンタルが最初。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-11-02
あと、ブルー・ラブ・ビーツにもフィーチャリングされてましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-03-30
客演王とか呼ばれてるみたいですけど、
それほど熱心にこのテの音楽を聴くわけでない自分でも
よく耳にしているということは、売れっ子の証拠なんでしょう。

あと、ついつい何度も聴きたくなるのは、楽曲がいいからだな。
メロウなネオ・ソウルやジャジーなトラックと、
コージーの濁りのあるラップのバランスが絶妙で、
甘ったるくもならなければ、尖りすぎもしない塩梅が、たいへんよろしい。

生演奏中心のプロダクションも、聴きごたえがあります。
ドラムスは、生演奏とプログラミングの重ね使いをしているし、
弦8人、管3人を使って厚みのあるサウンドを生み出して、
そこにヘヴィーなシンセ・ベースを絡ませて、ぶっといグルーヴを醸し出しています。
Pファンクを参照したようなトラックもありますよ。

マセーゴをフィーチャーした‘Silk’ も、スムースなんだけど、ガッツがあるよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-05-05
トロンボーン奏者のトレヴァー・マイルズがスーザフォンを吹く‘Payback’ も、
フック利いてるなあ、

アルバム冒頭や中盤、そしてラストに、
ガーナからUKに移住してきたことについて語る母親と父親のナレーションを挟み込み、
最後に自分のために犠牲を払ってくれた両親を、
ロック・スターになぞらえる‘Gangsta’ でアルバムを締めくくっています。
UKブラックのストーリーテラーという気概を、
キラッキラのポップ・センスの中に宿しているコージー、気骨あるね。

Kojey Radical "REASON TO SMILE" Atlantic 0190296403651 (2022)
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自由と民主のシンボル ウム・サンガレ [西アフリカ]

Oumou Sangaré  TIMBUKTU.jpg

ノー・フォーマット!に別れを告げ、
古巣のワールド・サッキットに戻って新作を出した、ウム・サンガレ。
うん、それが正解だよね。
ノー・フォーマット!みたいなスカしたレーベルじゃあ、ウムの良さを生かせませんよ。

ノー・フォーマット!から17年に出した“MOGOYA” を、
ポンコツとまで酷評するのは、ぼくくらいなもんでしょうけど、
同じレパートリーを3年後にわざわざ再録音、すなわち、やり直したってことは、
“MOGOYA” の制作陣への強烈なダメ出しってことでしょ。
プロデューサー不在の生音編成のイッパツ録りの方が格段に良いんだから、
“MOGOYA” の制作陣は、マジで反省すべきですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-09-10

というわけで、“MOGOYA” のプロデューサー陣は全員クビになり、
今回はウムのほか、フランス白人のニコラ・ケレと、
在仏グアドループ人ギタリスト、パスカル・ダナエがプロデュースを務めています。
ママドゥ・シディベのンゴニと、パスカル・ダナエのスライド・ギターを中心に、
バラフォンやプールの笛、ジェンベほかの打楽器といった西アフリカの楽器に、
キーボード、モーグなどの鍵盤や、クラリネット、スーザフォンなどの西洋楽器を、
曲によって使い分けしながら、アンサンブルを構成しています。

ウムは、20年に短期滞在でアメリカにいた折にロックダウンで足止めをくらい、
マリの政情不安から故国に戻ることもできなくなったんですね。
そこで思い切ってアメリカで暮らすことを考え、
仕事をしていたニュー・ヨークにほど近いボルチモアに家を見つけて買い、
一人暮らしを始めたのだそうです。
本作の曲は、ワスルの伝統曲にアダプトした
ラスト・トラックの‘Sabou Dogoné’ を除いて、
ボルチモアの家に一人こもって、書き上げたと語っています。

そしてボルチモアの自宅に、
ンゴニ奏者のママドゥ・シディベをロス・アンジェルスから招き、
3か月間、曲作りからベーシック・トラックの録音までを共同作業で行ったんですね。
ちなみにママドゥは、ウムの最初のンゴニ奏者だったという旧知の仲。
ワスル音楽の人気歌手でウムの最大のライヴァル、
クンバ・シディベのグループに引き抜かれて、クンバと共にアメリカへ渡っていたんですね。
しかし、クンバが09年5月10日ブルックリンで亡くなってしまい、
ママドゥはロス・アンジェルスに移住していたそうです。

重厚なブルース・サウンドでスタートするオープニングの‘Wassulu Don’ で、
西欧リスナー向けの演出を施したのは、スライド・ギターを弾くパスカル・ダナエ。
フランスにいるパスカル・ダナエとは、パンデミック下のファイル交換で
ミックス作業を繰り返したそうです。そうしたミックス作業を重ねていても、
ウムのワスル音楽の軸はまったくぶれておらず、
カマレ・ンゴニのリズムがしっかり息づいているのがわかりますよね。
ウムは当初、あまりに西欧リスナー向けに仕上がったこの曲の
アフリカでの反応を心配したそうですが、故国マリでも大絶賛されたそうです。

トンブクトゥを憂えたタイトル曲も、ウムの息子がアラブにルーツを持った女性と結婚して
お孫さんが生まれ、トンブクトゥの文化と無縁でなくなったことが動機になったとのこと。
マリ北部紛争で破壊されたトンブクトゥを再建するだけにとどまらず、
トンブクトゥの歴史の再構築が必要なことを、あらためて強く意識するようになったと、
ウムはインタヴューで語っています。
自由と民主を希求して闘ってきた、ワスルの活動家ならではの発言でしょう。

フェスティヴァルなどでは、アフリカのスーパー・スター扱いされるウムですけれど、
マリ民主化運動のシンボルとして登場したワスル音楽家としての原点が、
いまも揺らぎがないからこそ、ぼくはウムを支持しています。
グリオがいないワスル社会では、誰でも音楽を歌ったり演奏することができます。
ウムは、そんなワスルの自由な気風を一身に受け継いで、
世界的に成功した初のシンガーなのですよ。

いらぬ心配かも知れませんが、ウムには、ミリアム・マケーバや
アンジェリーク・キジョのようなアフリカ文化大使の役割を担って、
足をすくわれることのないよう、願いたいですね。

Oumou Sangaré "TIMBUKTU" World Circuit WCD101 (2022)
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古き良きビルマ時代のラヴ・ソング コー・ミンナウン [東南アジア]

Ko Min Naung  CHIT MOE GYI.jpg

ミャンマーCDを買う楽しさは、ジャケ買いにありますね。
今日びジャケットを睨んで、あてずっぽうに買うしかないほど、
事前情報がない音楽なんて、ミャンマー音楽くらいのもんですよ。
だからこそのワクワク感、情報洪水のネット時代ではなかなか味わえない、
半世紀近く前のアフリカ音楽を聴き始めた頃の冒険心をくすぐられます。

で、このCD、電子ピアノに向かう老人と、その脇に立つ初老の男を捉えたジャケット。
これを見てピンときたのが、サンダヤー・ チッスウィです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-06-17
しかし、サンダヤー・ チッスウィよりはるかに年配にみえる二人なので、
往年のビルマ歌謡時代の曲集なのではと、期待がふくらみます。

二人がどこの誰やらかもわからず、買ったわけなんですが、
聞いてみると、サンダヤー(ピアノ)とリズム・キーパーの
シー(ミニ・シンバル)・ワー(ウッド・ブロック)のみの伴奏で歌っているんですね。
サンダヤー・ チッスウィのようなミャンマータンズィンではなく、
シンプルな「声とサンダヤー」アルバムで、
レパートリーもいかにも古そうなビルマ時代の曲に聞こえます。

調べてみると、47年から音楽活動を始めたという大御所の歌手、
コー・ミンナウンという人でした。30年ヤンゴン生まれというので、
日本なら三橋美智也と同い年の人です。いまもご存命らしく、
このアルバムは02年に出たものなので、72歳のときのアルバムですね。

そして、サンダヤーを弾いている人が、これまたミャンマー音楽家の重鎮でした。
その名は、ギータルーリン・マウンコーコー(1928-2007)。
ギータルーリンとは「音楽青年」という敬称で、マウンコーコーで通じます。
第二次世界大戦前から無声映画のバンド・リーダーを務めて、
映画音楽やラジオ放送の活動をし、戦後を通じて数多くの名曲を残した作曲家とのこと。
50年にウィンウィン劇場で音楽監督を務め、
66年にはミャンマー音楽評議会の議長に就任しています。

93年にはニュー・ヨークのアジア文化評議会の客員教授に迎えられ、
その後、北イリノイ大学、ウィスコンシン大学、ケント州立大学、
カリフォルニア大学バークレー校、モントリオール大学ほか数々の大学で、
ミャンマー音楽と楽器を教えているんですね。
晩年には、ミャンマー映画アカデミーの音楽最優秀賞を
3回(91・94・02年)受賞したほか、07年10月10日に亡くなる直前の8月10日、
ヤンゴンの国立芸術文化大学教育部から、名誉音楽博士号を授与されています。

タイトル曲の‘Chit Moe Gyi’ は、ヤンナインセインが作曲し、
テイテイミンが歌った不朽のラヴソング。
マーマーエー、トゥーマウン、ピューティーなど、多くの歌手にカヴァーされています。
無声映画時代のラヴ・ソングには、いい曲が多いんですね。
マウンコーコーの粒立ちのよいピアノのタッチにのせて、
少し枯れた味わいもあるコー・ミンナウンの歌が、
古き良きビルマ時代のメロディの良さを再現しています。

マウンコーコー最晩年にあたる本作(ラスト・レコーディング?)は、
この二人だから残せた名盤ではないでしょうか。

Ko Min Naung "CHIT MOE GYI" Cho Kyi Tha no number (2002)
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伝統歌謡とミャンマータンズィンの旧作 ソーサーダトン [東南アジア]

Soe Sandar Htun  THETA YE SIN.jpg   Ba Nyar Han & Soe Sandar Htun.jpg

ミャンマー伝統歌謡の名花ソーサーダトンの旧作もありました。
ソーサーダトンのアルバムはかなりの数を持っていますが、
このアルバムは見おぼえがありません。
ミャンマーのCDで困るのは、制作年や発売年の表記がないことで、
手元に20枚以上あるソーサーダトンのCDも、
リリースの順番がよくわからないんですよねえ。

このアルバムも、ジャケットの容姿や声の若々しさから、
00年代前半のものだろうと思うんですが、果たしてどうかなあ。
ぴちぴちと弾けるような声に、若さが溢れ出ていて、
ソーサーダトンに夢中になり始めの頃を思い出します。

サイン・ワイン楽団に、サンダヤー(ピアノ)が大きくフィーチャーされ、
フネーやヴァイオリンと掛け合うインプロヴィゼーションは、
いつ聴いても、スリリングですねえ。
曲が盛り上がるパートでは、オーケストレーションを代用した
シンセの荘厳なサウンドでアクセントを付けていて、
サンダヤーとシンセがレイヤーされる、
ミャンマー伝統歌謡独特のアレンジを楽しめます。

もう1枚入手した男性歌手バニャーハンとの共演作は、
15年頃のアルバムのようですね。
こちらのアルバムはミャンマータンズィンで、
二人それぞれがソロで歌う曲のほか、デュエットする曲もあります。
サックスやエレクトリックギターをフィーチャーして、
サイン・ワインの伝統パートとスイッチしながら、
華々しくもきらびやかなサウンドを展開しています。

さすがに先の旧作より10年以上が経過しているので、
サウンドはぐっとアップデイトしていますね。
ミャンマー独特のアカヌケなさ加減は、変わんないですけれど。
それにしても、このジャケットのソーサーダトンの垂髪、スゴイな。
まるで平安貴族の女性みたいじゃないですか。

Soe Sandar Htun "THETA YE SIN" Yadanar Myaing no number
Ba Nyar Han & Soe Sandar Htun "ZEYATU SHWE TAGU THINGYAN" Cho Kyi Tha no number (2015)
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イノセントな伝統ポップ エーミャートゥー [東南アジア]

Aye Mya Thu  PYAN SONE KYA SOE MWAY HTAR NI.jpg

今回のミャンマー入荷品で、真っ先に目に飛び込んできたのが、コレ。
誰だ、この見たことのない少女は、と。
すわ、メーテッタースウェ、キンポーパンチ、トーンナンディに続く、
伝統歌謡の新人登場かと、イロメキ立ったわけなんですが、
いやぁ、その予想は大当たりでしたねえ。

少女の名は、エーミャートゥー。
05年5月5日、エーヤワディ川沿いの都市ヘンザダの生まれで、
このデビュー作が発売された20年2月5日の時点で、まだ14歳ですよ。
次から次へと少女歌手がデビューする、
ミャンマーの伝統ポップ・シーン、ほんとにスゴイなぁ。
世界各地で伝統歌謡を受け継ぐ若手が先細りの傾向をみせているなか、
ミャンマーだけは、そんな世界の趨勢と逆行するかのようです。

アルバム冒頭、鶏の泣き声に鳥のさえずり、
寺院の鐘の音や太鼓の響きがコラージュされて始まるサイン・ワイン楽団の演奏、
そこにシンセがレイヤーされて歌い出すエーミャートゥーの第一声で、
ゾクッとしてしまいました。伝統歌謡のコブシ使いも達者な歌声に、
幼さはみじんも感じられません。

ポップな曲でも伝統歌謡と同じで、まっすぐな歌い方がいいよなあ。
アイドル歌謡みたいな媚を含んだ発声を、ミャンマーの女性歌手はしないもんね。
ぼくがミャンマーの女性歌手に惹かれるのは、ここにあるのかもしれないなあ。
スレていないというか、イノセントなミャンマーの伝統ポップの良さが、
このエーミャートゥーのデビュー作でも、存分に発揮されています。

ところで、ちょっとビックリなのが、若手伝統女性歌手たちのSNS事情。
フェイスブックのフォロワー数がスゴくって、メーテッタースウェが68万人、
キンポーパンチ53万人、トーンナンディ29万人って、とてつもない数なんだけど、
なんとエーミャートゥーのフォロワー数はダントツで、なんと98万人。
デビューまもない彼女が、メーテッタースウェよりも多いのに驚愕しました。

Aye Mya Thu "PYAN SONE KYA SOE MWAY HTAR NI" Man Thiri no number (2020)
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歌謡ロッカーのミャンマータンズィン ミャンマーピー・テインタン [東南アジア]

Myanmar Pyi Thein Tan  YADANARPON.jpg   Myanmar Pyi Thein Tan  SHWE THONE DARI.jpg

ミャンマーの伝統ポップスのかつての盛り上がりも、今はどうなってるのか、
去年2月のクーデターによって情報は完全に遮断されてしまい、
まったくわからなくなってしまいました。
新作の入手はおろか、旧作含めCDの入荷が途絶されて、
すでに1年半以上が過ぎています。

市民に対する軍の残虐行為に、怒りをおぼえてなりませんけれど、
世間の関心がすっかりウクライナに移ってしまっていることも、気がかりです。
市民が音楽を楽しめるようになるまで、あとどれほどの時間がかかるのでしょうか。
社会の平穏を願いながら、こちらの喉も渇ききっていたところに、
久しぶりにミャンマーからの荷が届いたとの知らせに、
思わず飛びついてしまいました。

そのなかに、ヴェテランのポップ・シンガー、
ミャンマーピー・テインタンの新作がありました。
エーヤワディー川沿いの風景写真に、
赤のストラトキャスターを抱えたステージ写真をコラージュしたジャケットで、
歌謡ロック・スターといった出で立ちが、なんともこの人らしいところです。

ミャンマーピー・テインタンは、もともと洋楽コピー・バンドのプレイボーイで
リード・ギターを務めていた人。歌手として独立後、
自身のバンドL.P.J.(Love Peace and Joy)を結成して活動を始め、
洋楽コピー曲とミャンマータンズィンの両方を歌ってきました。

ずいぶん昔に、ぼくはテインタンの洋楽コピーのCDを買って、
そのあまりの稚拙な演奏ぶりに、アタマを抱えたことがありました。
以来この人を敬遠するようになっていたんですけれど、
テインタンは洋楽コピーばかりでなく、ミャンマータンズィンを取り入れた
自作のオリジナル曲を歌ったアルバムもあることを、後になって知ったんですね。
それが、今回新作と一緒に入ってきた『黄金のトウンナリー』で、
これ幸いと買ってみましたよ。こちらは、ブルース・リーばりの
テインタンのポートレイトの油彩が、ジャケットを飾っています。

大ヒットを呼んで、テインタンの代表作とされるこのアルバム、
なるほど洋楽ポップス側の歌手がアプローチしたミャンマータンズィンらしく、
伝統歌謡の歌手が歌うミャンマータンズィンとは、テイストが違います。
バンド・スタイルのパートが「主」で、伝統歌謡のパートは「従」という主従逆転のほか、
ミャンマータンズィンのメロディが洋楽スタイルによく馴染んでいて、
接ぎ木形式の極端な違和感がありません。
毒のない、ほがらかなミャンマー独特のメロディが、いかにものほほんとしています。

伴奏にヴァイオリン、サロン、サンダヤーが使われているほか、
スライド・ギターがフィーチャーされるのも、耳を奪われるところで、
これって、ひょっとして、ウー・ティンが弾いているんじゃないんでしょうかね。
アルバム最後は、パッタラー(木琴)をフィーチャーした、
サイン・ワインの短い演奏曲で締めくくられています。

なるほど先にこのCDを聴いていたら、
テインタンの印象もだいぶ違ったろうなと思いましたが、
新作もまさしくこの路線のミャンマータンズィンですね。
フォーク・ロック調のちょいダサなサウンドに、テインタンの甘い声がよく合います。

Myanmar Pyi Thein Tan "YADANARPON" Man Thiri no number
Myanmar Pyi Thein Tan "SHWE THONE DARI" Nasa Music Production NSCD9058
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お母さんが引き上げてくれた トロンボーン・ショーティ [北アメリカ]

Trombone Shorty  LIFTED.jpg

なんていい写真!
ストリートを練り歩くセカンド・ラインを眺める母と子のショットに感動して、
サンプル試聴もせずに買った、トロンボーン・ショーティの新作。
これがとびっきりの会心作で、もう嬉しいったら、ありません。
こういうのを、ずっと待ってたんだよー。

トロンボーン・ショーティの作品って、いつも優等生的というか、
きれいにまとめすぎていて、もっと破れたところが欲しかったんですよね。
ライヴのパワフルなパフォーマンスを知っているだけに、
ステージの熱量がアルバムにはちっとも反映されていないのが、不満だったのです。
本作には、そのライヴ感いっぱいのエネルギーが溢れていますよ。

なんといっても、トロイ・アンドリュース(トロンボーン・ショーティ)自身の
ヴォーカルが、グンと逞しくなっているじゃないですか。
コーラスとともに、拳を突き上げるかのように歌う、パワフルな歌唱が胸をすきます。
ルイジアナ出身のクリスチャン・ミュージック・シンガー、ローレン・デイグルとの
デュエットでも、唾を飛ばしまくるような奔放な歌いっぷりが、実に生々しい。

バイユー・ファンクにロックのエネルギーを注ぎ込んだバンド・アンサンブルも、
吹っ切れていて、ライヴ・ステージの興奮をよく再現しています。
ゲイリー・クラーク・ジュニアのヘヴィーなロック・ギターが唸る
‘I'm Standing Here’ では、ショーティのトロンボーンもいつにも増して、
豪放なソロをキメていますよ。

ニュー・ブリード・ダンス・バンドを迎えた‘Everybody in the World’ のグルーヴ、
タイトル曲‘Lifted’ のロックに寄せてドライヴするダイナミズムも、サイコー。
エネルギッシュな曲のあとで、スウィートなポップ・ソウル‘Forgiveness’ に
展開するところも、ニクいアルバム構成ですね。
アップタウン・ファンクの‘Miss Beautiful’ には、ディスコ魂を刺激されちゃいましたよ。

それにしても、このジャケット写真、
マグナム・フォトのアーカイヴからチョイスしてきたのかなと思ったら、
写っているのは、本物のトロイ母子だというのだから、びっくり。
こんな写真を撮れるのは、きっと名のあるフォトグラファーに違いないと思ったら、
なんと、マイケル・P・スミスじゃないですか。ニュー・オーリンズ出身の写真家で、
ニュー・オーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバルでの
数々の名写真を残している人ですよ。マイケルの名を知らない人でも、
ジェイムズ・ブッカーやプロフェッサー・ロングヘアの写真を知らない人はいないはず。

そうか、トロイはわずか4歳でニュー・オーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバルに
出演して、ボ・ディドリーと共演している神童ですからね。
マイケルが撮っていても不思議はないんですね。
このアルバムは、ここに写る母ロイス・ネルスン・アンドリュースに捧げられていて、
タイトルどおり、まさにこの母に引き上げられて、いまの自分があると、
愛と感謝を送ったアルバムなのですね。

ロイスは、ニュー・オーリンズR&Bの大物シンガー、ジェシー・ヒルの娘。
トロイはまさにニュー・オーリンズの音楽文化のただ中から誕生した神童だったのです。
お母さんの背筋を伸ばしてきりりと立つ姿と、澄んだ瞳が印象的です。
後ろに写るセカンド・ラインの演奏者たちのボケ味も最高で、
眺めれば眺めるほど味の出る写真です。

オリジナル・プリントが欲しくなって、
RequestAPrint のマイケルのページをチェックしてみたんですけど、
この写真は販売されていませんでした。
ボ・ディドリーに見守られてトロンボーンを吹く、
4歳の時のトロイ少年のバックステージでの写真はあったんですけどね。
このアルバムに使われたのを機に、販売されないかなあ。
しばらくしてから、またチェックしてみようっと。

Trombone Shorty "LIFTED" Blue Note B003456902 (2022)
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知られざるアフガニスタン古典歌謡 ムハンマド・フセイン・サラハン [西アジア]

Hussin Sarahung  MUQAME HUNER  SMCD6.jpg   Hussin Sarahung  SHABE BAYDEL  SMCD7.jpg
Hussein Sarahang  SABHODAM.jpg   Hussein Sarahang  LIVE IN CONCERT.jpg
Ustad Sarahang  KHARABAT MOGHAN  AM9802.jpg   Ustad Sarahung  GANJ HAZAL  NM164-98.jpg
Ustad Sarahung  KHARABAT NM170-99.jpg   Ustad Sarahang  LIVE.jpg

ジャズやファンクのほか、アフリカやカリブ方面のリイシューを専門とするストラットが、
どういう風の吹き回しか、アフガニスタンのガザル歌手のアンソロジーをリリース。
これまでアフガニスタン古典歌謡のアーカイヴが世界に紹介されることなど、
皆無だっただけに、これは貴重な復刻と、思わず目をむきました。

ナシェナスという歌手は、今回初めて知りましたが、
アフガニスタン古典歌謡の先達たち同様、インド古典音楽の教育を受けた、
軽古典の歌手のようですね。端正な歌い口でガザルを歌っていますけれど、
う~ん、とりたてて秀でた才を感じさせる人じゃないですねえ。
この程度の歌手なら、いくらでもいたんじゃないの?

せっかくアフガニスタンのガザル歌手のアンソロジーを作るなら、
もっと先に紹介すべき大事な人がいるだろと、鼻息荒く、
昔夢中になった人のCDを、棚から引っ張り出してきました。
それが、ムハンマド・フセイン・サラハン(1924-1983)。
ぼくがサラハンを知ったのは20年くらい前で、当時すでに故人でしたけれど、
アフガニスタンにこんなスゴイ歌手がいたのかと、ビックリしたものです。

多くのアフガニスタンの古典声楽家と同様、
サラハンも幼い頃から北インドへ音楽修行の旅へ出て、16年間の修行をしています。
25歳になってようやくカブールへ帰郷し、ヒンドゥスターニー声楽のカヤール、
軽古典のトゥムリー、恋愛詩のガザルなど、さまざまなレパートリーを歌って人気を博し、
アフガニスタンを代表する巨匠に登りつめたのでした。

たっぷりとした声量に、深みのある声がもう素晴らしくって、
硬軟を使い分ける歌いぶりに、ホレボレしますよ。
さりげないサレガマの発声ひとつとっても味があるし、
即興で高い声をころがしながらテクニカルなフレーズを歌うところなど、
カッワーリーをホウフツさせます。

これほどの人なのに、正規版のCDがなく、国外ではまったく知られていません。
LP時代では、インド盤や旧ソ連盤を別にすると、
61年のフォークウェイズ盤『アフガニスタンの音楽』(FW04361)所収の1曲くらいしか
知られていないんじゃないかな。

昔ぼくが夢中になって集めたのは、
亡命したアフガニスタン人が持ち出した音源から制作したとおぼしき私家盤CDです。
内容は、ラジオ録音と思われるものから、家庭用レコーダーで
客席から録ったような粗悪な録音まで、さまざまあります。
ライヴDVDは、アフガニスタンでテレビ放映されたものなんじゃないかと思うんですが、
編集もしっかりしていて、往時のサラハンのパフォーマンスをじっくり堪能できます。
どれも2000年代の初めに、
在米アフガニスタン人のオンライン・ショップから買ったものです。

ナシェナスのアンソロジーは、カブールのラジオ・アフガニスタン・スタジオで
録音された放送用音源がソースだったようですけれど、
サラハンの音源は残っていないんでしょうか。
タリバーンに破壊しつくされたアフガニスタンで、
こうした音源がもし残っているのであれば、ぜひ発掘してもらいたいものですねえ。

Ustad Mohammad Hussin Sarahung "MUQAME HUNER" Sartaj Music SMCD6
Ustad Mohammad Hussin Sarahung "SHABE BAYDEL" Sartaj Music SMCD7
Ustad Mohammed Hussein Sarahang "SABHODAM" Marcopolo International Enterprises no number
Ustad Mohammed Hussein Sarahang "LIVE IN CONCERT - NAZI JAN" Nala Studio no number
Ustad Sarahang "KHARABAT MOGHAN" Afghan Music AM9802
Ustad Sarahung "GANJ HAZAL" Nillab Music NM164-98
Ustad Sarahung "KHARABAT" Nillab Music NM170-99
[DVD] Ustad Sarahang "LIVE" MPI Enterprises no number
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ハーモニカとフェンダー・ローズの饗宴 トゥーツ・シールマンス [西・中央ヨーロッパ]

Toots Thielmans Live 2.jpg   Toots Thielmans Live 3.jpg

トゥーツ・シールマンスのハーモニカを初めて聴いたのは、
ポール・サイモンの“STILL CRAZY AFTER ALL THESE YEARS”(75)の
A面最後に収められた‘Night Game’ でした。
この1曲にヤラれて、トゥーツのレコードを集め始めたんだっけなあ。
大好きなアルバムはいろいろあるんですけれど、
集めたての頃に買った76年の“LIVE 2” が、一番愛着がありますね。
いまだにCD化されてなくて、たいへん遺憾ではありますが。

オランダのポリドールから出たライブ3部作のうちの1枚で、
第1集はイマイチなんだけど、第2集から超絶技巧のベーシスト、
ニールス・ヘニング・エルステッド・ペデルセンが入って、
がぜん演奏が引き締まったんでした。
ペデルセンがエレクトリック・ベースを弾いているというのが、
なかなかレアでしたね。

で、このアルバムを気に入っている理由は、トゥーツのプレイは言うに及ばず、
ロブ・フランケンが弾くフェンダー・ローズのサウンドとハーモニカの相性が
絶品だったからです。“LIVE 2” でプレイしたポール・サイモンの
‘I Do It For Your Love’ なんて、オリジナルが霞むほどの名演でした。
そんなハーモニカとフェンダー・ローズの相性の良さは、
ブラジルのマウリシオ・エイニョルンの“ME” でも証明されてましたよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-04-04

Toots Thielemans meets Rob Franken  STUDIO SESSIONS.jpg

そんなトゥーツとロブ・フランケンのコンビを愛するぼくにとって、
宝物のような発掘音源が出たんですよ!
この二人のコンビで、73年から83年の間に6回にわたって行われたという
セッションを収録した3枚組です。

リイシュー・プロデューサーのフランク・ヨケムセンの解説によれば、
FUMU・セッションズと呼ばれたこのセッションは、ホテルのロビーや空港、
ショッピング・モールで流すためのファンクショナル・ミュージック(実用音楽)、
いわばBGMのレコーディングだったようです。
よく知られたスタンダード曲を、なんの準備やリハーサルもなしにワン・テイクで仕上げ、
2時間でレコーディングを終えるというセッションだったそうです。

いわゆる、ジャズ・ミュージシャンにとっての<お仕事>だったわけなんですが、
これが<やっつけ>どころか、とんでもなく充実した演奏になっているんです。
トゥーツは、このセッションを仕切った若き鍵盤奏者ロブ・フランケンに大きな影響を受け、
このセッションの録音を持ち帰り、ロブのソロだけを集めて研究するほど、
感化されたんだそうです。
そんな逸話も納得できるパフォーマンスで、ファンにはたまらない贈り物です。

82年と81年のセッションを収録したディスク1はフュージョン、
78年と74年のセッションを収録したディスク2はオーソドックスなジャズ、
73年と82年のセッションを収録したディスク3はジャズ・ロック調の曲で始まり、
クロスオーヴァーなムードがあるなど、それぞれテイストの異なるサウンドながら、
いずれもロブ・フランケンのメロウなローズが要となっていて、
もう、極楽というほかありません。

そういえば思い出したけど、
トゥーツのレコードをいろいろ買い集めてた頃に、トゥーツが初来日したんだっけなあ。
79年7月、単身で日本にやってきて、日比谷公会堂でコンサートをしましたね。
大学3年生だったぼくは、当時付き合っていた彼女を誘って一緒に観に行ったんですけど、
チケットを忘れる大ポカをやらかし、当日券料金を払って入ったんでした(恥)。

あのコンサートでは、山本剛トリオがバックを務めていました。
コンサートのあと、このメンバーでデンオンに録音し、アルバムを1枚出しましたよね。
山本剛が弾いたのがエレピではなかったからか、
ぼくはそれほどコンサートにカンゲキはしなかったですけど、
松任谷正隆が「僕が観たベストライヴ」と、自伝に書いてましたっけ。
(「僕の音楽キャリア全部話します」松任谷正隆 新潮社 2016 25ページ)

この初来日のときには、松岡直也のグループ、ウィシングともセッションをしていて、
トゥーツと松木恒秀の共同名義のアルバム“KALEIDOSCOPE” を残したんですよね。
このアルバムは、ぼくも大好きでした。

話がすいぶん脱線しちゃいましたけど、
この3枚組、ハーモニカばかりでなく、トゥーツお得意の口笛ギターが、
メロウなローズのサウンドにのせて弾かれるトラックもそこかしこにあって、
もう至福というほかありません。

[LP] Toots Thielemans "LIVE 2" Polydor 2441063 (1976)
[LP] Toots Thielemans "LIVE 3" Polydor 2441076 (1978)
Toots Thielemans meets Rob Franken "STUDIO SESSIONS 1973-1983" Nederlands Jazz Archief NJA2201
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無謀な憧れ ジョー・パス [北アメリカ]

Joe Pass  INTERCONTINENTAL.jpg

ジョー・パスの『インターコンチネンタル』がCD化!
うわー、めっちゃ懐かしい。ぼくがジャズ・ギターに憧れるきっかけになった、
青春の思い出のアルバムです。

日本盤ではとっくにCD化していたけれど、ドイツMPS盤のCDは、これが初。
いや、正確には、「初」じゃないんだけど、前にドイツで出た時は
ジャケットが差し替えられていたので、
オリジナル・ジャケットどおりのCD化はこれが初なのですよ。

個人的な思い出話になっちゃって恐縮なんですけど、
このアルバムに憧れて、高校3年の時に、ジャズ・ギターを習い始めたんでした。
こんなジャズ・ギターを弾いてみたい!ってね。無謀な憧れであることも気付かずに。
ジャズ教室の個人レッスンに半年間、週一で通ったんだけど、見事に挫折。
自分でも呆れるくらい、ヘタっぴでありました。いくら練習しても、上達しなくって。
まあ、ジャズの基礎理論を学べたのが、せめてもの救いだったんだけど。
それにしても、センス・ゼロだったなあ、じぶん。とほほ。

さて、ギター・トリオのお手本のようなこのアルバム、
1曲目の‘Chloe’ から、ジョー・パスのギター・プレイに悶絶します。
テーマのヴォイシングがスゴすぎる。それがわかるようになったのは、
ジャズ教室に通った成果ですかね。こんなん、弾けるわけないやん!

いやぁ、パット・マルティーノとかだったら、レコード聴いてるだけで、
こんなの無理とすぐにわかるけど、ジョー・パスのギターなら、
猛練習すれば弾けるんじゃないかと、思っちゃうんですよねえ。
なんにもわかってない高校生だったからねえ、甘かったですねえ。

ソロに移ると、温かなシングル・トーンで、なにげに16分音符の連続フレーズを弾き、
余裕シャクシャクでそんなピッキングを繰り出せるからこその、絶妙なスウィング感。
もう憎たらしいくらい、so cool! ‘I Cover The Waterfront’ のイントロなんて、もう!

ジョー・パスはのちに、パブロから『ヴァーチュオーゾ』シリーズを出して、
そちらもリアルタイムで聴いてましたけど、リヴァーブを深めにかけた、
このMPS盤のギター・トーンがすごく好きだったんです。
CDが出て、30年以上ぶりに邂逅したわけなんですが、
必死にギターを練習した日々を思い出して、胸の奥がモヤっちゃいましたよ。

Joe Pass "INTERCONTINENTAL" MPS 0215912MSW (1970)
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ペパーミントのハーモニー ドゥオ・イリス [カリブ海]

Duo Iris  MI SUERTE.jpg

なんて清涼な音楽なんでしょう。

タンポポの綿毛が、風にのって舞うような軽やかな女声と
その女声をやさしく包み込む男声が生み出すハーモニー。
その清らかな美しさに、思わず息を呑みました。
こんな洗練されたポップスが、キューバから出てくるんですねえ。

ダジャミ・ペレス・サンチェスとハビエル・ロペス・エリアスの男女デュオ、
ドゥオ・イリスのデビュー作。
ペパーミントのハーモニーと呼びたくなる男女デュオです。
ダジャミの歌声に惚れてしまったのは、全世界的な傾向になっている、
媚を含んだアイドル声的ニュアンスが、彼女の声にはまったくないからです。

二人のつつましい歌声を、ゆったりとしたテンポで、
ギター、ピアノ、チェロなどのアクーステッックな音感を基調とした
デリケイトな伴奏が、美しくバックアップします。
わずかに登場するエレクトリック・ギターのトーンもクリーンで、
ミントの香りを運んでくるかのよう。
オーケストレーションを置き換えたようなプログラミングも鮮やかで、
オーガニックなサウンドに彩を与えています。

いやぁ、なんの知識もなくこの音楽を聴いて、キューバとわかる人がいるかしら。
それほど、キューバ、いや、ラテンからも遠い音楽に聞こえます。
‘Solo Ves’ のカントリー調のリズムなんて、
これをキューバ人がやっているなんて、信じられないほど。
聴く者を夢見心地にさせてくれる、オアシスのような音楽です。

Dúo Iris "MI SUERTE" Egrem CD1790 (2021)
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