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ギリシャ歌謡の多様性を示すエンテクノ ヴィオレタ・イカリ [東ヨーロッパ]

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ヨーロッパの深い森を舞台にした絵本の実写版(?)みたいな
ジャケットに戸惑いをおぼえたものの、聴いてみたら、これが面白い。
これはライカじゃなくって、エンテクノですね。

エンテクノは、ミキス・セオドラキスやマノス・ハジダキスなどの作曲家によって、
50年代後半から広まったギリシャのオーケストラ音楽で、
ギリシャ各地の民謡のメロディやリズムを取り入れた音楽を指します。
日本では商業化・芸術化したレンベーティカという評価を下されて完全無視され、
その名が使われることがありません。ぼくは、これ、ハジダキスをディスってた、
とうようさんの悪影響のように思えてならないんですけど、違うかな。

ハジダキスがツマンないのは確かだけれど、ギリシャ歌謡のなかで
エンテクノの位置づけは、きちんと評価すべきなんじゃないのかなあ。
ヨルゴス・ダラーラスに代表されるとおり、
バルカン半島を俯瞰した東欧音楽としてのギリシャ歌謡を捉え直す機運から、
エンテクノにスポットを当てた作品が増えているだけにねえ。

エレフセリア・アルヴァニターキなんて、
コンテンポラリー・エンテクノのシンガーと呼んだっていいと思うんですけれど、
日本ではそのジャンル名を使って説明されることはありません。
しかし本作は、多様な民族が往来したギリシャ歌謡のルーツ還りをうかがわせる、
エンテクノらしい作品といえます。

本作は、歌手のヴィオレタ・イカリと共同名義扱いになっている
ニコス・クシーディスという人の曲集で、
ジャケットに写っている髭面のオッサンがニコスのようです。
ベンディールが打ち鳴らされて、バルカン色濃厚なメロディが繰り出され、
ジプシー的なクラリネットやトランペットがひらひらと舞うという、
東欧色の強いサウンドが強調されています。

アクースティックな音づくりになっているんですけれど、
そこにアート・リンゼイみたいなノイズ・ギターが忍び込み、
不穏なムードを作っているんですね。
どうやらこのノイズ・ギターを弾いているのが、ニコスのようです。

そして、主役のヴィオレタ・イカリのぶっきらぼーなヴォーカルがいいんですよ。
これぞ、ギリシャ歌謡の本髄! グローバル・ポップの傾向に背を向けた、
この武骨な歌いっぷりは、ギリシャ歌謡の真骨頂でしょう。

いったいどういう人?と調べてみたら、
エレフセリア・アルヴァニターキと同じイカリア島出身の人でした。
18年にデビュー作“ELA KAI RAGISE TON KOSMO MOU” を出して、
本作が2作目とのこと。
貫禄のある歌いっぷりに、もっとキャリアのある人かと想像していたんですけども。
2年前に出た、ダラーラスのデビュー50周年記念ライヴの
デュエット・アルバムにも客演していました。
こういう歌いっぷりの若手が出てくるところに、
ギリシャの美学が脈々と息づいてるのを感じます。

Violéta Íkari & Nikos Xydis "PORTOKALI" Walnut Entertainment WAL055 (2022)
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