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ナイト・ムード 薛詒丹 [東アジア]

薛詒丹  太安靜.jpg

『アジア都市音楽ディスクガイド』掲載ディスク第2弾。
手元に届いたら、たった3曲しか入っていないEPで、ちょっと肩透かしでしたけれど、
デジパックのマンガの雰囲気がすごく良くて、気に入りました。
裏ジャケットの絵と、CDレーベルもシャレているので、一緒に載せておきますね。

薛詒丹  太安靜  裏.jpg   薛詒丹  太安靜  CD label.jpg

薛詒丹(ダン・シュエ)は、台湾南部、高雄出身のジャズ・ヴォーカリストで、
19年に出した本作が初アルバム(EPだけど)。
本作は、ソロ・アクトのシンガー・ソングライターとして、
新たなキャリアを踏み出した一作だったようで、
すでに実績十分の実力ある歌手だったんですね。

学生時代にア・カペラ・グループ、モーメント・シンガーズを結成して、
多くのコンテストで受賞を勝ち取り、プロのア・カペラ・グループ、
O-Kai Singers に引き抜かれ、台湾および世界16カ国で
250本に及ぶツアーを経験しています。
その後も、有名歌手のバック・コーラスやア・カペラの指導をしていて、
15年から、ジャズ・ヴォーカリストとしてライヴ活動を始めたとのこと。
なんと17年には、ベーシストの安ヵ川大樹トリオをバックに、日本ツアーも
していたんですね。そのときは、ターニャ(薛詒丹)と名乗っていたようです。

ジャケットそのままのナイト・ムード溢れるアルバムで、
低めの落ち着きのある声で歌う、アダルトなジャジー・ポップ。
1曲目の「糖衣」では、浮遊するシンセとワウの利いたギターが、
ビターな都会の夜を演出します。

2曲目の「回來」は、蒼い水中を潜水するかのようなシンセの幽玄なサウンドに導かれ、
アクースティック・ピアノが限られた音数で、
美しい響きをぽつりぽつりと置いていくのが印象的。
クレジットを見たら、このピアノを弾いているのは、
台湾の新世代ジャズを代表する女性ピアニスト、許郁瑛(ユーイン・シュー)ですよ。

3曲目のタイトル曲「太安靜」は軽快にハネるドラムスのビートが心地良い、
まさしくシティ・ポップといえる一曲。ギターがサウンドにぴったりと合った
職人芸的プレイを聞かせてくれます。

YouTube には新曲「南門路上」もあがっていて、これまたメロウないい曲。
フル・アルバムが待ち遠しいですね。

薛詒丹 「太安靜」 好有感覺音樂 DH1901 (2019)
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気品のあるラヴ・ソング集 ペク・イェリン [東アジア]

Yerin Baek  EVERY LETTER I SENT YOU..jpg

『アジア都市音楽ディスクガイド』、参考にさせてもらっています。
「お、シーラ・マジッドの“WARNA”がちゃんと選ばれてる」とか、
「おい、おい、ルース・サハナヤの“...UTHE!”をセレクトしないのかよ」などと、
一人ツッコミしながら楽しませてもらいましたが、
なんといっても未知のアルバムで、自分好みのものを発見するのが、最大の眼目。
00年代以降なんて、見たこともないアルバムが、ずらっと並んでいるんだからねえ。
図書館の返却期限までにウォント・リストを作って、
オンライン・ショップでCD探しにいそしみました。

で、真っ先に手に入れたのが、韓国の女性シンガーの本作。
化粧箱入りの布張ハードカヴァー写真集という豪華さに、びっくりしました。
歌詞入りの92ページの写真集には、ポストカードも入っていて、
CD2枚が封入されています。収録時間的には1枚で十分なはずなんですが。
この装丁でフツーのCD1枚分のお値段というのは、格安じゃないですかね。

前回の台湾の藍婷(ラン・ティン)に引き続いて、
CD本体より外身に圧倒されてしまいましたが、こちらもインディ制作ですね。
シックな大人の女性像をイメージする歌声で、ネオ・ソウルやアンビエントR&Bを
バックグラウンドとしたサウンド・プロダクションにのせて、クールに歌っています。
ペク・イェリンの実年齢が22と知って、驚きました。
落ち着きのある成熟した歌声は、とてもそんな若さとは思えなかったものだから。

なんでもK-POP大手の事務所に所属して、
メジャーな世界で活躍していた人なんだそうですが、なかなか思い通りの活動ができず、
インディに移籍してリリースしたのが本作だとのこと。

ひけらかすような歌いぶりはみせないものの、しっかりとした歌唱力がうかがえ、
ディスク2の終盤で1曲だけ(‘Square’)、歌唱力を爆発させて、
ホイットニー・ヒューストンばりのダイナミックな唱法で、実力を発揮しています。
また1曲をのぞき、全曲英語で歌っているというのも、珍しいんじゃないですかね。
K-POP事情に明るくないので、よくわかりませんが。

ゆっくりと流れゆく雲を見つめながら、
ただ時が過ぎていくのに身をまかせながらたたずむ、
孤独な心を映した心象風景のような曲が並びます。
傷つきやすい臆病な心を隠すかのような、ひそやかなメロディは、
メロウなビートにのせて、ほろ苦い余韻を残します。
ヒリヒリとした表現にならないラヴ・ソングが、とてもいとおしく、
恋心に揺れる不安定な感情が、静かに聴き手に伝わってきます。

これほど気品のあるラブ・ソング集は、なかなか出会えるもんじゃありません。
このデリカシーは、シャーデーの“LOVE DELUXE” に比肩しますよ。
聴けば聴くほどに、惹き込まれます。

こういう上質のアルバムは、インディだから作れるんでしょうね。
K-POPのようなビッグ・セールスには、つながらんだろうけど。
なんて勝手な感想を抱いていたら、
発売から3週間でアルバム・チャート1位になったんだとか。
スゴイな、韓国。

Yerin Baek “EVERY LETTER I SENT YOU.” Blue Vinyl no number (2019)
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耳で読む絵本 藍婷 [東アジア]

藍婷  旋轉的蘇菲.jpg

6月に日本でもデジタル・リリースされた
台湾のシンガー・ソングライター、藍婷(ラン・ティン)のデビュー作。
ここ最近、台湾インディ・シーンが活況だということは、
通りすがりでつまみ聴きしている、ぼくのような者でも十分実感していましたが、
これはフィジカルで持っていたい!と手が伸びました。

大手のレーベルじゃ制作費がかかりすぎて、とても実現しそうにない、
インディならではの凝ったパッケージ。愛情の込め方が、半端ないですね。
二つ折りのパッケージの左側にCDが、右の型抜きされたホルダーに、
六つ折りされたポスター(裏は歌詞カード)と、
24ページのブックレットが挿入されています。

寓話的世界をヴィジュアル化したアートワークを手がけたのは、
ソフィア・ジというイラストレーターさん、
有元利夫みたいな色使いが、ぼく好みだなあ。
(中国語ではグラフィック・デザインを「平面設計」と書くんですね。
クレジットを見て、初めて知りました)
温かみのある色をくすませて使い、
柔らかな筆致でファンタジーな世界を表現しています。
繊細な筆触に感心して、絵の隅々まで舐めるように見入ってしまいました。

さて、そんな、手にしただけで顔がほころんでしまうCDなんですが、
ハイ・クオリティのヴィジュアルにふさわしい、
デリカシーに富んだサウンド・プロデュースが、
すみずみまで行き届いたアルバムに仕上がっているんですね。
ラン・ティンのキューティ・ヴォイスが、ドリーミーな音世界のなかで
ふわふわと浮かびながら弾むように歌われます。
スタッカートの利いた発声が心地良く、少し鼻にかかった甘い声が、
少女の見る浪漫世界を表現するのに、もっともふさわしい資質を示しています。

アコーディオンをフィーチャーして、ノスタルジックな世界を描いた「老派約會」や、
フランジャーを利かせたギターが夢見心地にさせるバラードの「格林威治」など、
音数を少なく抑えた連強(ジョン・リエン)のアレンジにもグッときましたけれど、
「Shadow Lover」の雷撃(レイチン)のアレンジが、これまた特筆もの。

レイチンは数多くのバンドのサポート・ドラマーとして活躍し、ネオ・ソウルの新星として
注目を集めていると聞きましたが、この人のセンスは、抜きん出ていますね。
リン・ティンのハミングに始まるイントロで、はや鳥肌が立ちました。
このメロウネスは、アメリカとも日本ともテイストが違っていて、
台湾独自のセンスを感じます。

ヒップ・ホップ・アーティストの李英宏(リー・インホン)がアレンジした
「愛我就要愛我的全部」のメロウなシティ・ポップぶりもいいなあ。
この曲では、ラン・ティンが少女から大人に成長した姿をみせていて、
物語を締めくくるアルバム・ラストを飾るにふさわしく仕上げています。

一曲一曲を丁寧にプロデュースして制作された本作は、
まさにネライどおりの「耳で読む絵本」そのもの。
おだやかに、無言でそばに寄り添ってくれるアルバムです。

藍婷 「旋轉的蘇菲」 宇宙信號 SB001 (2022)
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インドネシアの新世代ジャズ・ヴォーカリスト アメリア・オン [東南アジア]

Amelia Ong.jpg

こりゃ、オドロいた。
こんなステキなシンガー・ソングライターが、インドネシアにいたなんて。
この人もまた、グレッチェン・パーラト以降の新世代ジャズ・ヴォーカリストですね。
日本初入荷なんですが、なんと7年も前の作品なのか。
これまで話題に上らなかったのは、インドネシアという地の利の悪さのせい?
新世代ジャズの文脈でも、アジアのシティ・ポップという文脈でも、
見逃せないスゴイ逸材ですよ。

なんでも父親が熱烈なジャズ・ファンで、4歳からピアノとサックスを演奏し、
やがて歌も勉強して、10代からステージに立っていたというキャリアの持ち主。
11歳で著名な音楽トレーナーに才能を見出され、
13歳からさまざまなジャズ・フェスティヴァルに参加、
16歳になってオーストラリアへ留学し、
西オーストラリア・パフォーミングアート・アカデミーで、
本格的な音楽教育を受けています。
8年間のオーストラリア生活を経て帰国し、このデビュー作をすぐに録音したわけね。

‘Take Five’ のリフを思わすピアノのイントロで
スタートする1曲目から、ハッとさせられます。
テクニカルな変拍子曲で、ヴァースが5+6の11拍子、ブリッジが6拍子という構成。
細かくビートを割っていくドラムスがピアノと絡みあうインプロヴィゼーションを、
たっぷりと繰り広げるんですが、その前後を温かなアメリアの歌声がサンドイッチしていて、
これ、ジャズ・ファンにはたまらない構成ですね。曲作りのツボを知っている人です。

2曲目はローズのメロウな響きとウッド・ベースの深い音色にのせて、
ゆったりと穏やかな歌声を聞かせるジャジー・ポップ。
う~ん、沁みますねえ。

スウィンギーなリズムへのノリもバツグンで、ふくよかで丸みのある美声が、
コンテンポラリーなサウンドとベスト・マッチングですね。
どの曲もたっぷりとインプロヴィゼーションのパートを設けていて、
イントロで‘Here we go’ とメンバーに声をかけ、
エンディングを決めたあと小さく‘yes’ とつぶやく3曲目でも、
ヴォーカル曲であることを忘れさせるほど、ジャズのスリル十分。
ミュージシャンは全員インドネシア人のようですが、
実力者揃いで聴き応えがあります。

ガーシュインの‘Someone To Watch Over Me’ をのぞいて、
6曲すべてアメリアのオリジナル。
歌い手としても、コンポーザーとしても、ずば抜けていて、
16年にクリスマス・アルバムを出したようですが、その後の新作はまだかな。
楽しみに待ちましょう。

Amelia Ong "AMELIA ONG" Demajors no number (2015)
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肉声の聞こえる第6作 バーナ・ボーイ [西アフリカ]

Burna Boy  LOVE, DAMINI.jpg

バーナ・ボーイの前作“TWICE AS TALL” は、
パンデミックの憂鬱な気分を増幅されるようで、とても繰り返し聴く気になれず。
なんかこの人って、暗いんだよなあ。力作なのはよくわかるんだけどさあ。
大ブレイクした“AFRICAN GIANT” もそうだったけど、
なんでこんなに暗いのが売れるのかしらん。

そんな相性の悪いバーナ・ボーイなんですけれど、
6作目となる新作は、なんか軽やかになったんじゃない?
レディスミス・ブラック・マンバーゾと共演した出だしの1曲目から、
重苦しさのとれた声がカラッとした印象を与えていて、耳をそばだてられました。

2曲目以降は、この人らしい内省的なメロディの曲が続き、
ネクラな体質は変わってないなと感じるものの、
サウンドのヌケが良くなり、適度にスキマのある音像とあわさって、
重苦しい印象が消えましたね。

前々作、前作の大作主義的な作品に共感できなかったのは、
この人の素顔が、あまりよくうかがえなかったからなのかも。
曲に込めたメッセージが、音楽をジャマしてたんじゃないのかなあ。
本作では、バーナ・ボーイの肉声がよく聞こえてきて、
あらためて魅力的な声質と、豊かな感情表現の持ち主であることを
再認識しました。

ちなみにぼくが入手したCDは、配信の11曲目‘Toni-Ann Singh’ が未収録。
オルタナティヴ・カヴァーのヴァージョンを買ったのがイケなかったか。失敗。
3種類あるオルタナティヴ・カヴァーのヴァージョンには、
どれもこの曲が未収録のようなので、ご注意あれ。

Burna Boy "LOVE, DAMINI Alternative Cover 3" Atlantic 075678632006 (2022)
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ブラック・ミュージックとしてのジャズ トゥミ・モゴロシ [南部アフリカ]

Tumi Mogorosi  GROUP THEORY BLACK MUSIC.jpg   Max Roach  IT'S TIME.jpg

60年ぶりによみがえった、マックス・ローチの“IT'S TIME”!
これを聴いたら、ジャズ・ファンの誰しもがそう思いますよね。
アイディアの源はそれとわかっても、
本作はあのアルバムの焼き直しでも、イミテイションでもありません。
ここに込められたエネルギーは、公民権運動に呼応したマックス・ローチの気概を、
現代に受け継いだものと、はっきり伝わってくるじゃないですか。
これぞ、ブラック・ミュージックとしてのジャズでしょう。

いやぁ、度肝を抜かれましたねえ。
ジャケ写にただならぬ雰囲気を感じたとはいえ、これほどの内容だとは。
ンドゥドゥーゾ・マカティーニの新作にぶっ飛んだばかりというのに、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-06-08
またしても南アから、黒人意識を鮮明にしたジャズ作品が登場しました。

奇しくも、シャバカ・ハッチングスのジ・アンセスターズで、
ンドゥドゥーゾとともに活動しているドラマー、トゥミ・モゴロシのリーダー作であります。
ピアノ、ベース、ドラムス、アルト・サックス、トランペット、ギターのセクステットに、
テンバ・マセコ指揮による9人の合唱団が加わって制作されています。

Donald Byrd  A New Perspective.jpg   Andrew Hill  LIFT EVERY VOICE.jpg
Billy Harper  CAPRA BLACK.jpg   King Kong.jpg

合唱団を活用したジャズ作品は、マックス・ローチの“IT'S TIME” 以降も、
ドナルド・バードの “A NEW PERSPECTIVE”、
アンドリュー・ヒルの“LIFT EVERY VOICE”、
ビリー・ハーパーの“CAPRA BLACK” があり、
アフリカン・ディアスポラのブラック・ジャズの伝統といえますね。
南ア音楽史においても、オール黒人キャストのジャズ・オペラ
“KING KONG” があるように、トゥミ・モゴロシはそうした先人たちの
スピリットを受け継いでいるといえます。

Salim Washington.jpg

トゥミのオリジナル曲に加えて、スピリチュアルの名曲
‘Sometimes I Feel Like A Motherless Child’ を取り上げたのも、
大西洋を隔てながら、黒人同士の連帯を確かめようという意志を感じます。
ラスト・トラックで、南ア詩人のレセゴ・ランポプロケンが朗読して、
このアルバムのフィナーレを飾っていますが、レセゴ・ランポロケンは、
アメリカのサックス奏者サリム・ワシントンが、
南アのジョハネスバーグでレコーディングした
17年作“SANKOFA” (デジタル・リリースのみ)にも参加していましたね。
このアルバムには、トゥミのほか本作のベーシストのダリス・ンドゥラジに、
ンドゥドゥーゾ・マカティーニも参加していたので、
本作の制作のヒントになったのかもしれません。

不安と不協和を示す男女合唱が終末感を漂わせる一方、
点描的なドラミングがアンサンブルを自由に動かし、
両者の相互作用を引き出していきます。
セクステットがパンチの利いた即興を奏でている間、
じっさいは合唱隊は休んでいるのに、恐怖を暗示する合唱隊の声が
背後から聞こえてくるような気がして、トゥミのアレンジのたくらみを感じます。

Tumi Mogorosi "GROUP THEORY: BLACK MUSIC" Mushroom Hour Half Hour/New Soil M3H010/NS0023CD (2022)
Max Roach His Chorus and Orchestra "IT'S TIME" Impulse! IMPD185 (1962)
Donald Byrd "A NEW PERSPECTIVE" Blue Note CDP7-84124-2 (1964)
Andrew Hill "LIFT EVERY VOICE" Blue Note 7243-5-27546-25 (1970)
Billy Harper "CAPRA BLACK" Strata-East SECD9019 (1973)
v.a. "KING KONG: ORIGINAL CAST" Gallo CDZAC51R
Salim Washington "SANKOFA" (2017)
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南ア版ブッカー・T&ジ・MGズ ザ・ムーヴァーズ [南部アフリカ]

The Movers  1970-1976.jpg   The Movers  GREAT SOUTH AFRICAN PERFORMERS.jpg

う~ん、いいジャケットですねえ。
70年代南アで人気を博したインストゥルメンタル・ソウル・バンド、
ザ・ムーヴァーズのコンピレーションです。
以前、オルガン・ソウル・インスト・バンドのブラック・ディスコの記事を書きましたが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-07-09
ザ・ムーヴァーズこそ「南アのブッカー・T&ジ・MGズ」と呼ぶにふさわしいバンド。
腕利きのミュージシャンがスタジオに集まったといった風情のジャケットは、
いつまでも眺めていられる写真ですね。

アナログ・アフリカにとっては、初の南アものになりますけれど、
最近はいろいろなレーベルが南ア音楽の遺産を掘り起こすようになりましたね。
南アにはまだ山ほどお宝が眠っているので、歓迎すべきことではあるんですけれど、
個人的な関心からするとビミョーに掘削ポイントがずれていて、
う~ん、ソコじゃないんだけどなあ、というボヤキもあるんですけれども。

ザ・ムーヴァーズも、南ア色の薄い北米ソウルのコピー・バンドなので、
ぼくが即飛びつくタイプの音楽じゃありませんが、
初期の録音をまとめたアナログ・アフリカは、さすが掘り所がわかっていますね。
以前サウンドウェイがストレート・リイシューした79年作の“KANSAS CITY” なんて、
メンバーがすっかり入れ替わった後期のアルバムで、中身は単なるディスコ。
こんなもんリイシューする価値なんて、ありません。

デビュー作をリリースした70年から76年までのシングル曲をコンパイルした本作、
サミー・ベン・レジェブによるライナー・ノーツの解説がなにより貴重で、
これまでまったく情報のなかったバンドの来歴を知ることができました。
インスト・バンドながら、本作には歌入りの曲も5曲収録されていて、
ガロのベスト盤CDにも収録されていた‘Soweto Inn’ は、
76年のソウェト暴動の日、レコーディングしていたスタジオの二階の窓から、
黒煙があがるソウェトを目の当たりにして、急遽タイトルを付けたことを知りました。

この‘Soweto Inn’ や‘Kudala Sithandana’ などの歌ものは、
ンバクァンガを思わせる南アらしさがありますね。
女性歌手が歌う‘Ku-Ku-Chi’ なんて、レッタ・ンブールに匹敵する魅力あり。
ライナー・ノーツに書かれていて知りましたが、
歌入りの曲でザ・ムーヴァーズの初ヒットとなった70年の‘Hopeless Love’ は
まだ14歳だったブロンディ・マケネが歌ったものだったそうです。
この曲やデビュー作のタイトルともなった‘Crying Guitar’ については、
解説でも言及されているのに、なんで収録しなかったんでしょうね。

収録時間39分44秒というのは、いかにも物足りず、上の2曲や
マラービ調のメロディが嬉しい‘Bump Jive’ あたりは選曲してほしかったなあ。
ちなみにこの3曲はガロのベスト盤CDに収録されていて、
アナログ・アフリカ盤とのダブリは3曲のみとなっています。

The Movers "THE MOVERS 1970-1976" Analog Africa AACD095
The Movers "GREAT SOUTH AFRICAN PERFORMERS" Gallo CDPS104
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スマートなアフリカン・ポップ K.O.G [ブリテン諸島]

K.O.G  ZONE G, AGEGE.jpg

UKのアフロ・ポップ・ユニット、オニパのヴォーカリストK.O.Gのソロ・デビュー作。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-02-02
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-30
プロダクションがバツグンによく出来ていて、
いかにもUKらしい、スマートなアフリカン・ポップに仕上がっています。

プロデュースは、オニパでギターとエレクトロニクスを担当していたトム・エクセル。
トム・エクセルは、ヌビアン・ツイストやエゴ・エラ・メイの
プロデューサーとしても知られていますね。
そういえば、K.O.Gは、ヌビアン・ツイストの19年作“JUNGLE RUN” で
2曲(‘Basa Basa’ ‘They Talk’)客演していたんだっけ。

Nubiyan Twist  JUNGLE RUN.jpg

“JUNGLE RUN” は、UK産アフロ・ジャズとしても出色の仕上がりでした。
ここでは取り上げそこねちゃいましたけど、ミクスチャー・センスがバツグンで、
アフリカ音楽になじみのないファンにもアピールする、
スタイリッシュなダンス・ポップの快作となっていましたね。
トニー・アレンやムラトゥ・アスタトゥケといったレジェンド・クラスのゲストも、
それぞれの魅力が映える楽曲にフィーチャリングしていて、
トム・エクセルのプロデュース力に恐れ入ったものです。

ジャケットのアートワークからして、
オニパのデビュー作のいんちきエスニックとは、ケタ違いのセンスで、
これぞアフリカ新時代をイメージするヴィジュアルじゃないですか。
あらためてチェックしたら、あのいんちきエスニック画、
トム・エクセルが描いたものだったのか。デザインの才はないけれど、
プロデュースの手腕が確かなのは、今作でも証明されています。

‘Shidaa’ はアフロビート+ヒップ・ホップ、
ジャマイカ人ダンスホールMCのフランツ・フォンをフィーチャーした
‘Lord Knows’ は、ジャジー・ヒップ・ホップ・テイストのアフロ・ジャズでスタートし、
中盤にブレイクを挟み、妖しいメロディのグナーワへと変わるユニークなトラック。
ジェドゥ=ブレイ・アンボリーが参加した‘.No Way’ はスークース。
アクースティック・ギターと小物打楽器で歌われる
アフリカン・フォーキーな‘Adakatia’ は、
♪ Highlife music ♪~ とコーラスが連呼するけど、ハイライフとは似ても似つかぬ曲。

つまりトム・エクセルがデザインするのは、
無国籍なアフリカン・ミュージックなんですね。
アフリカン・ポップスのさまざまな要素を抽出して、ジャズやファンク、
ヒップ・ホップ、ダンスホール、ダブとミクスチャーすることにネライがあるので、
アフリカ通を喜ばすような本格的な方向に行くことはありません。
‘Adakatia’ のアクースティック・ギターだって、パームワインかと思いきや、
4分の4拍子のスクエアなリズムだし、ギターのリックにもメロディにも、
パームワインを連想させる要素はないしね。

フランスのトロピカル・ダンス・ポップのレーベルから出ているとおり、
メロウネスに富んだサウンド・プロデュースは、まさしくUKソウル・マナー。
ハチロクで前のめりに突進していく‘Gbelemo’ など、
4分の4拍子にスロー・ダウンするブリッジを挟んだ曲構成が、実にクール。
ラストのファンキー・ハイライフの‘Yaa Yaa’ まで、シャレオツに仕上げたアルバムです。

K.O.G "ZONE G, AGEGE" Heavenly Sweetness/Pura Vida Sounds PVS018CD (2022)
Nubiyan Twist "JUNGLE RUN" Strut PVS018CD (2019)
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70年代サンバ・ファン感涙の最高作 ニルジ・カルヴァーリョ [ブラジル]

Nilze Carvalho  VERDE AMARELO NEGRO ANIL.jpg

Nilze Carvalho "VERDE AMARELO NEGRO ANIL" Rob Digital RD178 (2015)

今回のセールで、最高のディスカヴァリー。
リオ下町ラパの新世代サンバ・グループ、スルル・ナ・ローダで、
14年と17年に二度来日してお馴染みのニルジ・カルヴァーリョの15年作。
ニルジ・カルヴァーリョは、80年にバンドリンの天才少女としてデビューして以来、
ずっとリアルタイムで聴いてきた人。その後ショーロ演奏家からサンバ歌手に転向して、
90年代には渋谷のシュラスコ・レストラン、バカナへの出演で
日本に長期滞在し、レストランが制作したCDも残しているんですよ。

Sururu Na Roda  CHORINHO & SAMBA DE RAIZ.jpg   Nilze Carvalho  SOM NA BACANA VOL.1.jpg

Sururu Na Roda "CHORINHO & SAMBA DE RAIZ" Futura FUT45011-2 (2004)
Nilze Carvalho "SOM NA BACANA VOL.1" Ocelot SB001 (1993)

それにしても、こんなアルバムが出ていたなんて、ぜんぜん知らなかったー。
15年というと、この頃のニルジ・カルヴァーリョは、フィーナ・フロールから
アルバムを出していたはずなのに、ロブからも出していたんですねえ。
気付かずにいたのは痛恨の極みですけれど、
でも、聞き逃さずに済んで、ホントに良かった。
全曲耳馴染みのサンバがずらっと並んでいるんですよ。
まるでぼくのために選曲してくれたかのようなレパートリーに、
1曲目からいきなり破顔しちゃいました。嬉しすぎて、もうどーすりゃいいのやら。

Beth Carvalho  NO PAGODE.jpg   Leci Brandão  ANTES QUE EU VOLTA A SER NADA.jpg

Beth Carvalho "NO PAGODE" RCA 7432137428-2 (1979)
[LP] Leci Brandão "ANTES QUE EU VOLTA A SER NADA" Marcus Pereira MPL1027 (1975)

だって、1曲目から、ベッチ・カルヴァーリョが79年の最高傑作“NO PAGODE” で
歌っていた‘Samba No Quintal’ ですよ。
そして2曲目は、レシ・ブランダンの75年デビュー作のタイトル曲
‘Antes Que Eu Volte A Ser Nada’。
どんくらい、あのマルクス・ペレイラ盤を聴いたことか。
80年11月に来日して裸足で歌ったレシの立ち姿が、まざまざとよみがえります。

Riachão  HUMANENOCHUM.jpg   Ademilde Fonseca  A Rainha Ademilde & Seus Chorões Maravilhosos.jpg

Riachão "HUMANENOCHUM" Caravelas 270099 (2000)
[LP] Ademilde Fonseca "A RAINHA ADEMILDE & SEUS CHORÕES MARAVILHOSOS" Museu Da Imagem E Do Som MIS024 (1977)

バイーアのチョイ悪サンビスタ、リアショーンの‘Retrato Da Bahia’。
77年の映像と音の博物館盤に録音された、
ショーロ・ヴォーカリストのアデミルジ・フォンセカの
名唱が忘れられない‘Teco Teco’ (CDは↓のベスト盤に収録されています)。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-07-24
イヴァン・リンスとヴィトール・マルチンスのコンビの名曲‘Roda Baiana’ は、
レニーアンドラージの名カヴァーがありましたよねえ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-08-15

Nelson Sargento Encanto Da Paisagem.jpg   Wilson Moreira  PESO NA BALANÇA.jpg

[LP] Nelson Sargento "ENCANTO DA PAISAGEM" Kuarup KLP025 (1986)
Wilson Moreira "PESO NA BALANÇA" Atração ATR31239 (1986)

ネルソン・サルジェントの‘Vai Dizer A Ela’ と
ウィルソン・モレイラの‘Peso Na Balança’ は、田中勝則さんが86年に
プロデュースした二人のソロ・アルバムにそれぞれ収録されていた曲。

Jair Do Cavaquinho  SEU JAIR DO CAVAQUINHO.jpg   Paulinho Da Viola e Elton Medeiros  SAMBA NA MADRUGADA.jpg

Jair Do Cavaquinho "SEU JAIR DO CAVAQUINHO" Phonomotor/EMI 5375752 (2002)
Paulinho Da Viola e Elton Medeiros "SAMBA NA MADRUGADA" RGE 341.6007 (1966)

そして極め付けは、ジャイール・ド・カヴァキーニョの‘Atraso Em Meu Caminho’、
パウリーニョ・ダ・ヴィオラとカスキーニャの共作‘Recado’、
モナルコの‘Lenço’ のメドレー。
なんとモナルコがかけつけて、ゲストで歌っているんですよ!
‘Lenço’ についての思い出は以前書いたので、下の記事をお読みください。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-11-16

Nilze Carvalho Choro De Menina.jpg   Nilze Carvalho Choro De Menina Vol.2.jpg
Nilze Carvalho Choro De Menina Vol.3.jpg   Nilze Carvalho Choro De Menina Vol.4.jpg

[LP] Nilze Carvalho "CHORO DE MENINA" Cid LPCID8036 (1980)
[LP] Nilze Carvalho "CHORO DE MENINA VOL.2" Cid LPCID8043 (1981)
[LP] Nilze Carvalho "CHORO DE MENINA VOL.3" Cid LPCID8046 (1982)
[LP] Nilze Carvalho "CHORO DE MENINA VOL.4" Cid LPCID8060 (1983)

ゆいいつのインスト・ナンバー‘Choro De Menina’ は、
ニルジの少女時代のテーマ曲。う~ん、懐かしすぎる。
『少女のショーロ』シリーズ第2弾の81年作で披露された、
ニルジのオリジナルのショーロですけれど、
シリーズ4枚中ぼくが一番好きなのが、この第2集だったんですよねえ。
‘Brasileirinho’ ‘Assanhado’ のバンドリン演奏は見事でした。
再演された‘Choro De Menina’ は、若い時の気負いがなくなり、
バンドリンのプレイが円熟したのを感じさせます。

個人的に思い出深い、メロディアスなサンバ佳曲を並べた選曲にウナりましたが、
伝統サンバの芯をしっかりと持ちながら、
シャープなリズム・アレンジに現代性を表わしつつ、ポップなセンスも発揮した快作。
ニルジ・カルヴァーリョの最高作です。
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クリチーバのバンドリン奏者 ダニエル・ミグリアヴァッカ [ブラジル]

Daniel Migliavacca  TOCANDO À VONTADE.jpg

ダニエル・ミグリアヴァッカというバンドリン奏者は、初めて知りました。
スゴ腕ですねえ、この人。相当な実力者とお見受けしました。
なんか前にも、このジャケットと構図そっくりの
バンドリン奏者のアルバムがありましたよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-09-26

経歴を見ると、サン・パウロ生まれで、2000年にクリチーバに移住してから、
この地で活躍するショーロ・ミュージシャンとなったようです。
なんだかここ4・5年、クリチーバのショーロ音楽家の活躍が目立ってきましたねえ。

クリチーバ室内管弦楽団の客演ソリストとして演奏したり、
クリチーバMPB音楽院でショーロ・アンサンブルの講師を務めるほか、
クリチーバのパイオール劇場でのコンサートを企画したり、
ガフィエイラの音楽監督やプロデューサーもしているそうです。
ソロ・アルバムもすでに5作出していて、共同名義作も2作あるんですね。
いやあ、知りませんでした。

13年の本作は、ダニエルのバンドリン、7弦ギター、ベース(タテ・ヨコ)、
ドラムスの4人で、自作のショーロ・ナンバーを中心に、
エルメート・パスコアールの‘Nas Quebradas’
ジャコー・ド・バンドリンの‘O Vôo Da Mosca’ といった曲を演奏しています。

ベースとドラムスがいる編成ですけれど、ジャズ色はなく、
伝統ショーロの音楽性を基礎に置いた演奏となっています。
ダニエルが書くショーロは、歌心が零れ落ちる‘Manhãs’ のような美しい曲あり、
高速ソロを展開するテクニカルな‘Santo Forte’ ありで、
ジャズの語法を借りずとも、現代ショーロらしさを十分に発揮しています。

エルメートの‘Nas Quebradas’ は初めて聴きましたが、とても楽しいフレーヴォ。
中盤で不協和音の複雑なパッセージが登場するところが、エルメートらしい。
ジャコーの‘O Vôo Da Mosca’ は、6弦エレクトリック・ベースとのデュオで、
集中力のあるスリリングな演奏を聞かせます。

ただ、ちょっと首をひねったのは、超有名曲の‘Manhã De Carnaval’。
この曲だけ、ジルソン・ペランゼッタがゲストでピアノを弾いていますが、
ショーロ・アルバムには場違いな感が否めません。
このトラックは、なくても良かったんじゃないかな。

Daniel Migliavacca "TOCANDO À VONTADE" Gramofone GRAMO01CD2013 (2013)
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カヴァキーニョでサン・ジョアン祭 セルジオ・シアヴァッゾリ [ブラジル]

Sergio Chiavazzoli  SÃO JOÃO DE CAVAQUINHO.jpg

アウトレット・セールで、ブラジル盤をまとめ買いしちゃいました。
日頃のチェックで気になったブラジル音楽のCDは、
おおむね買っているつもりなんだけど、
けっこう見落としているアイテムがあるんですねえ。
ここ10年分くらいの在庫一掃セールのリストを眺めていたら、
何だコレ?とまったく見覚えのないものが、ちょこちょこありました。

まず、ビスコイト・フィーノから16年に出ていた、
『カヴァキーニョでサン・ジョアン祭』。
ノルデスチの庶民文学の小冊子、リテラトゥーラ・デ・コルデルの木版を
デザインしたジャケットが、北東部音楽好きのココロをくすぐります。
主役のカヴァキーニョ奏者、セルジオ・シアヴァッゾリという名は初耳。

ショーロのカヴァキーニョ奏者で、北東部音楽を演奏した人といえば、
その昔はヴァルジール・アゼヴェードがバイオーンをよく援用していました。
フレーヴォを演奏したジャカレーなんて人もいましたけれど、
セルジオ・シアヴァッゾリはこのアルバムで、
フルート(ピファノ?)、ベース、ザブンバとともにフォローを演奏しています。
ちなみにザブンバを叩いているのは、
元ノーヴォス・バイアーノスのジョルジーニョ・ゴメスですよ。

レパートリーは、30年代に数多くのカーニヴァル・ヒットを放った
ラマルチーニ・バボが作曲し、カルメン・ミランダが歌ったマルシャの
‘Chegou A Hora da Fogueira’ ‘Isto É Lá Com Santo Antônio’ や、
ベネジート・ラセルダ、ルイス・ゴンザーガといった通好みの選曲。
アルバム最後に、タイトルとなっているセルジオのオリジナル曲を演奏しています。

レコーディングは16年4月9日のたった一日で、10曲を一気に録り終えていて、
なるほど4人の息の合った演奏の絶好調ぶりが、伝わってくるようじゃないですか。
フォローの快調なツー・ビートが、腰に刺さります。
カヴァキーニョの演奏も痛快そのもので、楽しいったらありません。

セルジオ・シアヴァッゾリという人をチェックしてみると、
どうやらショーロ・ミュージシャンじゃないようですね。
ジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタ、ジャヴァン、
ミルトン・ナシメント、カルリーニョス・ブラウン、イヴェッチ・サンガロほか、
錚々たるミュージシャンのバックを務めてきたマルチ弦楽器奏者で、
ユッスー・ンドゥールやシェブ・マミとの共演歴まである人でした。

過去作を見ると、クリスマス・アルバムなど企画作を多く出している人なんですね。
どんな求めにも応じられる、裏方のヴェテラン・プレイヤーなのかなあ。
本作も、ビスコイト・フィーノのリクエストに応じて制作されたものなのかもしれません。

Sergio Chiavazzoli "SÃO JOÃO DE CAVAQUINHO" Biscoito Fino BF435-2 (2016)
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イノヴェイティヴなフィンガースタイル・ギター ヤスミン・ウィリアムズ [北アメリカ]

Yasmin Williams  URBAN DRIFTWOOD.jpg

ひさしぶりにスラック・キー・ギターのアルバムを
いろいろ聴いていたのが呼び水になったのか、
ステキなアクースティック・ギターのアルバムと出会えました。

サリー・アン・モーガンのインタヴュー記事で、
最近聴いているアルバムとして挙げられていた、
アクースティック・ギタリスト、ヤスミン・ウィリアムズの20年作です。
18年にデビューした新進のフィンガースタイル・ギタリストで、これが2作目。
サリーがジャケットのレイアウトとデザインをしていて、親交があるようですね。

カントリー・ブルースをベースにゴシックな表現をするジョン・フェイヒーや、
ジャズやクラシックを越境するラルフ・タウナーといったタイプではなく、
マイケル・ヘッジスのようなニュー・エイジ系ギタリストといっていいのかな。
ブルース、フォーク、ジャズ、いかなる伝統にも縛られない音楽ですね。
このタイプのアクースティック・ギタリストで、アルバム一枚聴き通せる作品に、
あまり出会えた試しがないんですけれど、これは満足しました。
スラック・キー・ギター・ファンにもオススメできますよ。

こういうギター音楽って、どうしても超絶技巧だとか、独創的な奏法が売りになって、
ギターのための音楽になってしまうところが、手段の目的化そのもの。
ギターは音楽の道具であって、その逆じゃないですからねえ。

ヤスミンは、膝の上にギターを置いてタップして弾くのと、
アップライトに持ち替えて通常のフォームで弾くのをシームレスに切り替え、
曲のパートによって奏法を使い分けています。
さらに、ギターのボディにカリンバを貼り付け、
右手でカリンバ、左手で指盤をタップしながら演奏もしているんですね。

YouTube で観ると、どうしてもその演奏法ばかりに目が釘付けになり、
肝心の音楽が右から左へ抜けていってしまいます。
曲弾きのように思われるのは、ヤスミンにとっても本意ではないはずなので、
ライヴを観るより、音だけを楽しむ方が正解でしょうね。

じっさい、ぼくが本作に惹かれたのも、
この音楽が作曲優先で制作されているのが、きちんと伝わってくるからです。
ギターの奏法優先で作られた曲とは、アンビエンスがぜんぜん違いますもん。
歌を感じさせるメロディが落とし込まれたコンポジションを、
イマジネイティヴなパフォーマンスによって、幽玄なサウンドをクリエイトしたり、
優美で繊細な表情を見せたり、パーカッシヴな生々しいエネルギーを噴出したりと、
さまざまなテクスチャで表現しています。

チェロとジェンベがゲストで参加する2曲を聴くと、
このイマジネイティヴな才能は、ソロ演奏にとどまらず、
さらにアンサンブルで豊かな才能を開花させていきそうで、これからも期待できますね。

Yasmin Williams "URBAN DRIFTWOOD" Spinster SIS0006 (2020)
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UKブラックの内省と孤独 ドゥームキャノン [ブリテン諸島]

DoomCannon  RENAISSANCE.jpg

音楽に込められた、作者の意思の熱量がスゴイ。
演奏が伝えようとするメッセージの内容を、まったく知らずに聴いているだけなので、
きわめてあいまいな感想にすぎませんが、ストーリー性のある楽曲が並んでいて、
聴き応えがスゴイ。圧のある作品ですよ。

南ロンドン出身のマルチ奏者でコンポーザー兼プロデューサーのデビュー作。
制作に4年かけたというのもナットクの緻密さで、ストリング・アレンジを含めて、
1曲ごと作曲・アレンジの段階で考え抜かれているのを感じます。
その一方、演奏には自由度があり、プレイヤーもフレキシブルに演奏しています。
精緻な設計と現場での工事監理が、理想的に行われているような作品じゃないですか。

各曲のタイトルから察するに、
UKブラックとしてのアイデンティティを問うた作品のようですね。
曲の始まりは静かでも、リズム・セクションがドラマティックに展開していく曲が多く、
エネルギーをほとばしらせているんですよ。

曲の入口こそスムーズなサウンドなのに、
中盤からドラムスが大暴れし始めて手に汗握っていると、
終盤にさあーっと熱が引いていく曲もあれば、
終盤にかけて、シンフォニックなクライマックスへ展開していく曲もあり。

孤独感と内省を沈殿させた楽曲には、光と影のそれぞれの側面が備わっていて、
それが深い物語性を演出しているんですね。
メロウなウーリッツァーの響き、J・ディラの影響あらかたな細分化されたビート、
シルキーなサックスの音色など、新世代UKジャズの魅力が、
優れたマテリアルにのせて発揮されている作品です。

DoomCannon "RENAISSANCE" Brownswood Recordings BWOOD0275CD (2022)
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ネット世代のシティ・ポップ ぷにぷに電機 [日本]

ぷにぷに電機.jpg

YouTube で「君はQueen」を観て、惹き込まれました。
ネット世代のシティ・ポップといえばいいんでしょうか。
クセのあるディクションで歌う、女性シンガー・ソングライターなんですけれど、
それが気取った感じに響いてこない。こういうタイプって、スカしたイヤミな感じに
聞こえることがほとんどなのに、それがまったくないのは得難い個性です。

ヴォーカルにすごい訴求力があって、YouTube を流し聴きしている耳をグイッとつかまえ、
PC画面に振り向かせて、最後まで視聴させるパワーがあります。
がぜん興味が沸いて、「ずるくない?」というMVも観てみたら、
以前から注目していた kan Sano とのコラボで、これまたエモい仕上がり。

やるせない雰囲気で、流し歌いしているような風情を装いながら、
その歌には意志の強さをうかがわせる芯があり、コシの強さが魅力です。
ストレイトなジャズ・ヴォーカルを歌っても、イケるんじゃないのと思ったら、
じっさい出自はジャズなんだそう。あぁ、やっぱり。

ぷにぷに電機というお名前は、あいみょんとかものんくるとか、
21世紀日本らしい脱力ぶりですけれど、研ぎ澄まされたセンスに、
上質なサウンド・プロダクションで、申し分ないデビュー作じゃないですか。

サウンド・メイキングしている人たちは、若手の俊英揃いとのこと。
まったく疎いために、 kan Sano 以外はどなたも存じ上げませんが、
Mikeneko Homeless、PARKGOLF、80KIDZ、Shin Sakiura といった人たちが、
デリカシーに富んだサウンドを施しています。
ゆいいつの難は、「Deeper」のYohji Igarashi のハウス・ビート。
音色の選択が凡庸すぎて、デリカシーに富んだ音像が、これじゃぶち壊し。

今後、エレクトロなラップトップ・ミュージックに向かうのか、
生演奏に寄せてくのか、まだまだわからない未知な才能ですけれど、
新世代ジャズ・ミュージシャンとのコラボを聴いてみたい気がします。

ぷにぷに電機 「創業」 Tsubame Production/PARK PNDN010 (2022)
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フュージョン・ヴァイオリンの名作 ミハウ・ウルバニャク [北アメリカ]

Michal Urbaniak  SERENADE FOR THE CITY.jpg

「マイケル・ウルバニアク」と書かれることがもっぱらの、
ポーランド出身のジャズ・ヴァイオリニスト。
「ミハウ・ウルバニャク」と書いた方がいいんじゃないかと思うんですが、
この人のフュージョン作で、80年にモータウンから出たアルバムを、
その昔愛聴していました。

ベースにマーカス・ミラー、ドラムスにバディ・ウィリアムズ、ヨギ・ホートンという、
当時のニュー・ヨークでファースト・コールのミュージシャンが参集。
このアルバムが出た同じ80年に、
マーカス・ミラーは渡辺香津美の『TO CHI KA』で、
バディ・ウィリアムズは川崎燎の『LIVE』で共演し、日本でも大人気でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-05-29

そして、ピアノにはケニー・カークランド、ギターはドック・パウエルが
参加しているんだから、このメンバーを見ただけで、買いでしたね。
ウルバニャクはクセのある音楽をやる人で、女房のウルシュラ・ドゥジャクの
エキセントリックなヴォーカルが興ざめなこともあり、長く敬遠してましたけれど、
本作は珍しく(?)ジャケットの趣味も良く、飛びついたんだっけ。

モータウンから出たフュージョン作という珍しさが災いしたか、
長らくCD化が実現しませんでしたけれど、
ウルバニャクの自主レーベルUBXから、CD化されました。
聴いてみると、知らない曲がいきなり飛び出して、びっくり。
なんと冒頭1曲目とラスト2曲に、LP未収録曲が追加されているんですね。
ソング・リストにもクレジットにも、追加に関してなんの説明もなくて、
この3曲、未発表曲だったってことなの?

最初聴いた時は、驚きはしたものの、
3曲それぞれが座りのいい曲順に配置されていて、
オリジナルLPを知らなければ、違和感なく聞けるんじゃないですかね。
キャッチーなコーラスが加わるポップな‘Bad Times’ を
アタマに置いたのなんて、大正解じゃないですか。
もともとこういう曲順で出す予定が、なんらかの事情でカットしたのかなあ。

というわけで、オリジナルより内容が良くなった本作、
40年ぶりに聞いても、まったく古さを感じさせません。
ウルバニャクのオリジナルに、マーカス・ミラーが作曲した曲や、
『ネフェルティティ』でよく知られるウェイン・ショーター作の‘Fall’ もやってます。
フュージョン・ヴァイオリンでは、ノエル・ポインターのデビュー作
“PHANTAZIA” とともに、忘れられない名作です。

ところで、追加された‘Bad Times’ ‘North One’ ‘French Kiss’ 3曲について
調べてみたところ、ストリーミングに上がっている“SOMETHING SPECIAL” という
タイトルのアルバムに収録されていることが判明しました。

81年リリースという表示があるものの、ミハウ・ウルバニャクの公式サイトにも、
ウィキペディアほかのディスコグラフィにも、このアルバムの記載がなぜかありません。
フィジカルの存在を調べてみると、“MICHAL URBANIAK” のタイトルで、
ヘッドファーストというMCA系列のレーベルから出ていたことがわかりました。

Michal Urbaniak  1981.jpg

ジャケットはストリーミングのものと違っていて、なんだか手抜きぽいデザイン。
なんとかCDを入手してみたんですが、“SERENADE FOR THE CITY” と
レコーディング・スタジオ、エンジニアも同じなら、
参加ミュージシャンの顔ぶれもほぼ同様です。
ところが、録音年月日の記載がないので、同時期の録音なのかどうかわかりません。

アルバムもう1枚分を録音していたのを、翌年にリリースしたものなのかなあ。
もうひとつ引っかかるのが、81年ならば、CDのみリリースというのは
考えにくいんですけれど、LPの存在が確認できないのも不可解です。
MCA系列のレーベルから出ているので、非公式な盤であるわけないでしょうが、
公式サイトも無視するこのCD、どうにもナゾですね。

Michal Urbaniak "SERENADE FOR THE CITY" UBX UBX10280 (1980)
Michal Urbaniak "MICHAL URBANIAK" Headfirst A635-2 (1981)
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オフィシャル・リリースされた名ブートレグ リトル・フィート [北アメリカ]

Little Feat  ELECTRIF LYCANTHROPE.jpg

リトル・フィート・ファンにはおなじみのブートレグが、ライノからオフィシャルCD化!
なんと、去年11月のレコード・ストア・デイの限定商品で、リリースされていたんですと。
レコード・ストア・デイとは縁がないもので、ぜんぜん知りませんでした。
即完売となったものの、数量限定で再流通したらしく、
ロック方面にウトい自分も、ようやくそれで気付くことができました。

音源は、74年9月19日、FMラジオWLIRの放送のために
ニュー・ヨークのレコーディング・スタジオで行われたスタジオ・ライヴ。
ブートレグ未収録の曲もたっぷり入った全11トラック、収録時間73分48秒。

実はこのブートレグ、高校生の時、持っていたんですよ。
その後、シンガー・ソングライター系のロックのレコードを大量処分したのに合わせて、
このブートレグも手放してしまったんですけれどね。
ブートレグのジャケットに貼られていたイラストと同じトナカイが、
ライノ盤でもデザインされていますね。

40年ぶりくらいの再会になるのかなあ。
もう記憶はあいまいですけれど、こんなにいい音じゃありませんでしたよ。
オフィシャル・リリースで、ミックスをやり直したんでしょう。
スタジオ録音にヒケをとらないクオリティに、びっくりしました。

特に嬉しいのが、リッチー・ヘイワードのヘヴィーなドラムス・サウンドが
ちゃんと再現されていること。
リトル・フィートというと、ローウェル・ジョージのスライド・ギターばかりに
スポットが当たるけれど、ぼくはリッチーが叩き出すスネアの、
どすっ!という重たいシンコペーションが大好物なんですよ。
リトル・フィートのバンド・サウンドの要は、リッチーのドラムスだって。

FMラジオWCBN放送の75年ライヴでも、
ここまでファットなサウンドが再現されなかったから、
やっぱ、ちゃんとミックスし直すと、こんなに良くなるんですねえ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-09-19

ブートレグLPには収録されていなかった
‘Sailin' Shoes’ や ‘Dixie Chicken’ も聴けて、大満足。
やっぱこの頃のローウェル・ジョージのヴォーカルは、最高ですよねえ。
77年のツアーを収録した“WAITING FOR COLUMBUS” では、
ローウェルからこういう輝きが失われていました。
ちまたで評判の8枚組のスーパー・デラックス・エディションは、ぼくには不要。
この74年ライヴだけで十分です。

Little Feat "ELECTRIF LYCANTHROPE: LIVE AT ULTRA-SONIC STUDIOS, 1974" Rhino R2 556518/081227943752
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