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半世紀を経て再評価 パット・マッシキザ [南部アフリカ]

Pat Matshikiza  SIKIZA MATSHIKIZA.jpg

『ミュージック・マガジン』が「南アフリカのジャズ」を特集したのは、時宜を得た好企画。
吉本秀純さんの概説が素晴らしいので、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思います。
ジャズ評論家は南ア音楽を知らないし、
ワールド・ミュージック評論家はイマのジャズを知らないから、
両方に精通して解説できるのは、日本じゃ吉本さんしかいないんじゃないかな。

ところで、特集記事のアルバム選ではないんだけれど、同号の輸入盤紹介に、
パット・マッシキザの75年作”TSHONA!” が載るとは、こりゃまたなんて奇遇な。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-06-26
以前ザ・ヘシュー・ベシュー・グループをリイシューしたカナダのレーベルが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-11-29
500部限定でLPリイシューしていたのか。へぇ~。
でも、CDは作っていないんだね。うしし、ワタクシが入手した南ア盤CDのレア度は、
下がっておりません(←マニア根性ムキ出しでイヤらし)。

このレーベルでは、アッ=シャムス・アーカイヴ・シリーズと銘打って、
アッ=シャムス原盤の計4タイトルをLPリイシューしていたんですね。知らなかったなあ。
カタログを見たら、パット・マッシキザが”TSHONA!” に続き、
76年に出した“SIKIZA MATSHIKIZA” もリイシューされているじゃないですか。
“SIKIZA MATSHIKIZA” のCDは、昔から持っていたんだよね、えへん。

たぶんこのCDを持っている日本人なんて、ぼくだけなんじゃないかな。
日本どころか、Discogs にだって、この南ア盤CDの記載はないし。
それくらい南ア・ジャズは、ジャズ・マニアにも、
ワールド・マニアにも知られざる存在だったんですよ。

パット・マッシキザがアパルトヘイト下の南アにとどまり続けて、
苦難の人生を送ったことは、以前の記事でも触れましたけれど、
ソロ・アルバムは75年と76年の2作と、晩年の05年に残したたった3作しかありません。
あとは若き日の64年に、ドラマーのアーリー・マブザ・カルテットの一員として録音した、
“CASTLE LAGER JAZZ FESTIVAL 1964” の片面(B面)5曲があるのみ。

Dollar Brand  MANNEBERG.jpg   Mankunku Yakhal' Inkomo.jpg

南ア・ジャズの傑作として名を残した”TSHONA!” のタイトル曲は、
反アパルトヘイトを象徴するアンセムとして、多くの南ア人の記憶に残る
3大ジャズ・チューンのひとつになりました。
残りの2曲は、ダラー・ブランドの‘Mannennberg’ で、これはソウェトに並ぶ、
黒人たちが強制移住させられた居住地の地名ですね。
もう1曲はウィンストン・マンクンク・ンゴジの‘Yakhal' Inkomo’。
こちらは屠殺場に向かう牛の咆哮で、自由を奪われる黒人たちを暗喩したものでした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-06-20

”TSHONA!” の翌年に出した“SIKIZA MATSHIKIZA” も、
50年代に在籍していたザ・ジャズ・ダズラーズ時代からの盟友
アルト・サックスのキッピー・ムケーツィが参加。
ほかのメンバーは”TSHONA!” とは交替していて、
スピリッツ・リジョイスのメンバー、ギルバート・マシューズ(ds)、シフォ・グメデ(b)、
ドゥク・マカシ(ts)、ジョージ・タイフマニ(tp)に、
ギタリストのサンディル・シャンジが参加。
このサンディルのギター・ソロが、聴きものです。

パットはピアニストの名家に生まれた、ピアニストになるべくしてなった人。
父のミークリー“フィンガーチップ”マッシキザは、
東ケープ州のクイーンズタウンで開催される
アイステッドフォッド(国立のコンクール)の公式ピアニストで、
父方の叔父トッド・マッシキザは、
ミュージカル、キング・コングに曲を提供した名ピアニストにしてジャーナリストで、
パットもトッドにピアノを教わったそうです。
パットの6人兄弟も全員、幼い頃からピアノを習い、演奏していたとのこと。

そんな環境も才能にも恵まれたパットでしたけれど、
そのすべてをアパルトヘイトに阻まれた生涯を送りました。
晩年は貧困のなか、体調を崩して車椅子生活を送り、
妻に先立たれた1週間後、心臓発作でこの世を去ります。
14年12月29日のことでした。

こうして振り返ると、70年代半ばにわずか2作といえど、
録音を残せたのは恵まれたといえるのかもしれません。
タウンシップの誇り高い名作を、半世紀を経て再評価されるようになったことを、
素直に喜びたいと思います。一人でも多くの人の耳に届くことを願って。

Pat Matshikiza "SIKIZA MATSHIKIZA" As-Shams/EMI CDSRK(WL)786161 (1976)
Dollar Brand "MANNEBERG - ‘IS WHERE IT’S HAPPENIING’" As Shams/EMI CDSRK (WL)786134 (1974)
Mankunku "YAKHAL’ INKOMO" Gallo CDGSP3123 (1968)
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