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生演奏を絡めたドラムンベース名作 ロンドン・エレクトリシティ [ブリテン諸島]

London Elekttricity  PULL THE PLUG.jpg

年明け早々、ピンクパンサレスをきっかけに、
昔のドラムンベースを聴き直していたら、タイミングよくというか、
『ミュージック・マガジン』2月号の「ニュー・スタンダード2020s」で
ドラムンベースが特集されました。

門外漢のジャンルだと、ディスク・ガイドに載っているアルバムを
1枚も見たことすらないという体たらくを示す当方ですが、
ドラムンベースのディスク・ガイドは、30枚でまったくの見ず知らずは3枚のみ。
流行ものにウトい当方にしては、超レアな高認知率でありました。

その3枚のうちの1枚、ロンドン・エレクトリシティを、
先日叩き売りセールのワゴンの中から100円で発見。
クラブ系はよほどの名盤でないと、いまじゃ捨て値が付けられているんですね。
使用感のないほぼミント・コンディションのCDでしたが、
ジャケットの雰囲気がもろに90年代ロンドンです。

あらためて調べてみれば、
ロンドン・エレクトリシティはホスピタルというレーベルを主宰する
トニー・コールマンとクリス・ゴスの二人によるプロジェクト。
99年のこのデビュー作を出した後、
クリス・ゴスがレーベル経営に専念するため脱け、
トニー・コールマンのソロ・プロジェクトになったとのこと。

いや、めちゃくちゃ、カッコいいじゃないですか。
ウッドベースにホーン・セクションやストリングス、生のドラムスなど、
生演奏をふんだんに取り入れているほか、
ジャズ・ヴォーカリストのリアン・キャロルをフィーチャーするなど、
ドラムンベースのプロデューサーらしからぬジャズのセンスを持ち合わせていますね。
サンプラーで制作するDJとは出自の違う、楽器演奏ができる人だろうな。

ウワモノがめちゃめちゃニュアンスに富んでいるものだから、
ドラムンベースにありがちな単調さが微塵もない。
四半世紀経った今聴いても、このグルーヴは通用しますよ。
うん、これは名作ですね。

London Elekttricity "PULL THE PLUG" Hospital NHS12CD (1999)
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この人もトゥモローズ・ウォリアーズ出身 ジュリー・デクスター [ブリテン諸島]

Julie Dexter  PEACE OF MIND.jpg   Julie Dexter  DEXTERITY.jpg

ピンクパンサレスから、フェルナンダ・ポルトそしてDJパチーフィと
ブラジルのドラムンベースに飛び火したんですが、
UKブラックで前にもこんな人がいた記憶があるんだけど、誰だっけなあと、
ずーっと気になっていて、やっと思い出しました。
ジュリー・デクスターです。
ジャマイカ人両親のもとにバーミンガムで生まれ育った、
UKブラックのシンガー・ソングライター。

99年にアメリカへ渡ってアトランタに移住し、
自身のレーベル、ケッチ・ア・ヴァイヴを立ち上げてデビューした人です。
2000年に出たジュリーのデビューEPの1曲目 ‘Ketch A Vibe’ を聴いて、
ノック・アウトを食らったんだよなあ。ドラムンベースを下敷きにしたトラックが、
なるほどUKブラックだからなのねとナットクしたものでした。

ジュリーのスウィートな歌い口とチャーミングな表情にマイってしまって、
その後02年に出たフル・アルバムの“DEXTERITY” ともども、当時ヘヴィロテしました。
‘Ketch A Vibe’ は “DEXTERITY” にも再収録された
ジュリーのシグニチャー・ソングだったので、
ドラムンベースのイメージがことさら強く記憶に残ったのでした。

ところが久しぶりに棚から取り出して、ライナーを眺めてみたら、あれっ?
‘Ketch A Vibe’ は、ドラムスにホワイリーキャットという名前がクレジットされてますよ。
これウチコミじゃなくて、生演奏だったのか!
そうか、出だしのドラミングを聴けば、ウチコミじゃないのは歴然だよな。
ドラムンベースを生演奏にトレースしたトラックだったのかあ。

あらためてライナーのクレジットをじっくりチェックしてみれば、
ウチコミを使ったトラックもあるものの、ほぼ生演奏主体じゃないですか。
当時ジュリー・デクスターは、オーガニックなテイストのネオ・ソウル・シンガーという
受け止めでしたけれど、この本格的なジャジーなセンスはひょっとしてと、
バイオを調べてみたら、びっくり。

なんと、トゥモローズ・ウォリアーズに通っていた人だったんですね。
ジャズ・ウォリアーズのメンバーのサックス奏者ジェイソン・ヤードに誘われて、
キャムデン・タウンのジャズ・カフェのサンデー・セッションで歌っていたとのこと。
そこでベーシストのゲイリー・クロスビーと知り合い、ゲイリーが91年に設立した
トゥモローズ・ウォリアーズに通う初期のメンバーだったそうです。
コートニー・パインにフックアップされて、
バンドのヴォーカリストとして世界ツアーにも参加していたとは、ビックリ。

そうかあ、ジュリーはR&Bじゃなくて、ジャズの人だったのね。
トゥモローズ・ウォリアーズのワークショップ・プロジェクトから生まれた、
ジェイソン・ヤード率いるJ.ライフにヴォーカリストとして参加して成功を収め、
J.ライフは98年のヤング・ジャズ・アンサンブル・オヴ・ザ・イヤーでペリエ賞を受賞し、
ジュリーはヤング・ジャズ・ヴォーカリスト・オヴ・ザ・イヤーで
ペリエ賞を受賞したそうです。

あらためて “DEXTERITY” のクレジットをチェックしてみれば、
全曲生演奏じゃないですか。
EPでは数曲プログラミングのトラックもありましたけれど、
フル・アルバムはすべて人力だったとは、うわぁ、ぜんぜん意識していなかったなあ。
フィラデルフィアのR&B/ヒップ・ホップ・ドラマー、
リル・ジョン・ロバーツも起用されているじゃないですか。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-08-03
R&Bとジャズを横断するミュージシャンたちが、
ジュリーをバックアップしていたんですね。
ジェイソン・ヤードも名前を連ねていますよ。

当時オーガニックなネオ・ソウルという側面からしか評されていませんでしたけれど、
トゥモローズ・ウォリアーズ出身のシンガー・ソングライターとわかれば、
グッと聞こえ方が変わってきますね。

Julie Dexter "PEACE OF MIND" Blackbyrd 506125-2 (2000)
Julie Dexter "DEXTERITY" Ketch A Vibe KAV002 (2002)
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厳寒期はドラムンベース オムニ・トリオ [ブリテン諸島]

Omni Trio  EVEN ANGELS CAST SHADOWS.jpg

ドラムンベースって、冬の寒さが厳しくなる頃になると、
棚から取り出してくるんですけれど、その筆頭作がオムニ・トリオの01年作。
今回は歌ものじゃなくて、ドラムンベースど真ん中の作品です。
高速に疾走する硬質なジャングル・ビートとピアノの耽美な響きが、
頬にあたる凍てつく空気の中を歩くのに、すごいフィットするんですよね。

オムニ・トリオはトリオでもなんでもなく、
ジャングリストのロブ・ヘイのソロ・プロジェクト。
ドラムンベースのレーベル、ムーヴィング・シャドウの看板アーティストでした。
当時ドラムンベースやハウスは、作品単位で聴いていたので、
一人のアーティストをずっとチェックするようなことはしてなかったんですが、
ドラムンベースのオムニ・トリオと
ハウスのラリー・ハード(ミスター・フィンガーズ)だけは、
例外的にフォローしていた人たちでしたね。

オムニ・トリオも、95年のムーヴィング・シャドウ初作からずっと聴いていました。
初期は無機質な冷たさがあったものの、
だんだんと温もりのあるメロディアスで幻想的なサウンドスケープを描くようになって、
コズミックでフューチャリスティックな世界を完成させたのが、この01年作でした。
うん、やっぱりこれがオムニ・トリオの最高傑作じゃないかな。

当時オムニ・トリオや、LTJブケム、4ヒーローといったドラムンベースは、
アートコアと呼ばれていましたけれど、いまでもこのジャンル名は通用するのかしらん。
アンビエント・ドラムンベースというか、メロディアスなのが特徴でした。

本作のきらきらとしたピアノの響きや荘厳なストリングスに、
高速ビートのループが絡んで生み出されるスペイシーでヒプノティックなムードは、
クラブよりリスニング・ルーム向けであったことも、ぼくが惹かれた要因だったと思います。

Omni Trio "EVEN ANGELS CAST SHADOWS" Moving Shadow ASHADOW26CD (2001)
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UKブラック新世代のベッドルーム・ポップ ピンクパンサレス [ブリテン諸島]

PinkPantheress  HEAVEN KNOWS.jpg

うわー、めっちゃキュートな歌声。
新世代UKブラックの登場ですか。
なんの予備知識もなく、そのスウィートな歌い口にヤラれて買いましたが、
Y2Kリヴァイヴァルのムーヴメントで注目を集めるようになった人なんだとか。

Y2Kリヴァイヴァルってなんじゃ?と思ったら、
ドラムンベース、UKガラージ、2ステップといった90年代から00年代前半あたりの
クラブ・ミュージックが、数年前から再注目されるようになっているんですってね。
どうりで、最近やたらとドラムンベースを耳にすることが多くなったわけだ。
流行の30年周期って、ホントに当たってるんだなあ。
このテの音楽はぼくも当時よく聴いてたから、
ピンクパンサレスに反応したのも、不思議じゃないわけか。

とまあ、ジジイの回顧なんですが、
ベッドルーム・ミュージック仕様のドラムンベースのオープニングから、もう大好物。
ピンクパンサレスことヴィクトリア・ビヴァリー・ウォーカーは、
22歳のUKブラックのソングライターにしてプロデューサー。
プログラミングもみずからてがけていて、プロデューサーの才はズバ抜けていますよ。

それぞれ異なる表情を持つ2分程度の短い曲が13曲も並んでいるんですが、
アルバムを通して浮遊感のあるサウンドスケープが一貫しています。
そのドリーミーなアンビエンスにウットリしますよ。
ケレラをゲストに迎えた曲など、ティンバランドを下敷きにしたトラックも多く、
たしかにY2Kリヴァイヴァルを感じさせるものの、
ネオ・ソウルのデリカシーを備えたところに、21世紀の現在地を感じます。

PinkPantheress "HEAVEN KNOWS" Warner 5054197766053 (2023)
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みずみずしいスーパー・ゲーリック・バンド ダイヴ [ブリテン諸島]

Dàimh  SULA.jpg

「ダイヴ」と発音するバンド名は、スコットランド・ゲール語で「親族」の意。
98年結成で、西ロッホアーバーとスカイ島を拠点に、
はや四半世紀も活動しているんですね。
メンバー各自の出身はケープ・ブレトンやカリフォルニアなどとバラバラですが、
全員がスコットランド、ハイランド地方にルーツを持つという
同胞としての共感から結成された、スーパー・ゲーリック・バンドだそうです。

バグパイパーのアンガス・マッケンジーは、ケープ・ブレトン島に生まれ、
ゲール語を母国語として育った人。
幼い頃からパイプスを演奏して数多くのコンテストで優勝し、
本格的にハイランド音楽を演奏するべく、スカイ島に移住しています。
フィドラーのゲイブ・マクヴァリッシュは、
ハイランドからノヴァ・スコシアそしてカリフォルニアへと移り住んだ家族のもとに生まれ、
17歳の時に曾祖父が暮らしていたハイランドの地へ渡り、
現在はスカイ島の南に位置する、住民わずか100人のエッグ島に居を置いています。

さらにこのバンドの音楽を引き立てているのが、歌手エレン・マクドナルドの存在です。
18年の7作目から加わったというエレンのシンギングは、
スコティッシュの伝統を見事にひいていますね。
ハイランド最大の都市インヴァネス(イニリ・ニシ)育ちの彼女は、
スカイ島にあるスコットランドゆいいつののゲール語大学へ入学して、
ゲーリック・ソングを歌い続けてきた筋金入り。
チャーミングな声質を持ちながら、素朴な味わいを失わないシンギングが魅力です。

ハイランドの伝統音楽を継承して、
現代のゲール音楽としてリフレッシュさせるダイヴは、
すでにヴェテラン・バンドの域にあるともいえるのに、
その音楽のみずみずしさ、若々しさに圧倒されます。
それは内なるゲール文化を強く意識しながら、ハイランドの外から
ハイランド音楽を希求してきた時間の長さや、思いの強さのなせる業のように思えます。

Dàimh "SULA" Goat Island Music GIMCD006 (2023)
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UK産無国籍アフリカン・ポップの伝統 オニパ [ブリテン諸島]

Onipa  OFF THE GRID.jpg

おぅ、新作はリアル・ワールドからだよ。
オニパ、出世したなあ。

パチモン・ジャケットのデビュー作から、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-02-02
ストラットに移って出したセカンド作は、宇宙へ飛び出してしまったと思いきや、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-30
リアル・ワールドにフックアップされた本作は、地球に帰還した印象。

アフロフューチャリズムに傾倒してエレクトロに振り切った前作とは趣向を変え、
パーカッションの生音を強調して、各種シンセとブレンドさせていますね。
フィン・ブースのドラムスも、前作より格段に存在感を増しています。

ジャケットも前作のアフロフューチャリスティックなデザインから、
ガーナの新進フォトグラファー、ローステッド・クウェクの写真を起用。
ローステッド・クウェク(本名アウク・ダルコ・サミュエル)は、
97年ガーナ、スフム生まれ。
K.O.G のソロ・デビュー作のジャケットも手掛けていた人です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-08-17
新時代のアフリカン・コンセプチュアル・フォトグラフをリードする才能で、
電話機を主題に据えたこの写真も、インスピレーションが素晴らしいですね。

バラフォン、ンビーラ、コラなどのアフリカの楽器音をまぶしつつ、
エレクトロなダンス・ミュージックに回収するというオニパのコンセプトは、
デビュー作から一貫しています。
今作はムーンチャイルド・サネリー、ダヴィッド・ウォルターズ、デレ・ソシミ、
テオン・クロスといったゲストを迎え、
洗練されたダンス・ポップにさらに磨きがかかっています。

ふと思ったんだけど、UK産無国籍アフリカン・ポップというコンセプトは、
オシビサ以来のUKポップの伝統なんでしょうかね。

Onipa "OFF THE GRID" Real World CDRW253 (2023)
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ディスコ・ハウスの意外な使い道 ノヴァ・フロンテイラ [ブリテン諸島]

Nova Fronteira  FULL FRONTEIRA.jpg

すっかりコロナが明けてしまった後ではあるんですが、
今頃になってリモート・ワークを始めるようになりました。
家で仕事をするのは、あまり気が進まないんですけれども。
これまで自分が担当していた仕事が、リモート不能な業務ばかりだったので、
コロナ蔓延中もずっと通勤していたんですが、システム環境が整い、
業務プロセスも見直されたため、週2日在宅勤務をすることになりました。

ゆいいつ在宅勤務のいいのは、音楽を聴きながら仕事ができることですかね。
こればっかりは、職場じゃできないからねえ。
でも昔にも、音楽を聴きながら仕事をしていたことが、わずかにありました。
20年前、監査の部署にいたときのことです。
各地の事業所を4泊5日で監査して、年100日近く出張する
ドサ回り生活をしてたんですが、なかなか得難い経験でした。

事業所の実査を終えた最終日前日の夜が、いちばんキツかったんですよ。
ビジネス・ホテルの部屋に缶詰めで、
監査調書を徹夜で仕上げなければならなかったんです。
その夜はエナジー・ドリンク代わりに、
アッパーな音楽をイヤホンで流し込みながら、
1万字超の報告書と関係データをグラフ化した参考資料を仕上げるのに、
悪戦苦闘しました。

この部署には都合3年いましたが、
少し慣れた2年目から少し睡眠をとれるようになったものの、
最初の年なんて、ほんとに一睡もできなかったですもん。
朝になってもまだ仕上げられなくて、朝メシ抜きで
カタカタとキーボード叩いてたもんなあ。

調書を書くBGMで最適だったのは、
気分をハイ・テンションに持っていけるイケイケのディスコ・ハウスでした。
耳から爆音を流し込めば、強烈なグルーヴに、
身体の血流も上がって、足や肩が勝手にリズムをとりながら、
指が快調にキーボードを叩いてくれたもんです。
ディスコ帝王ジョーイ・ネグロのサンバースト・バンドとか、
Z・レコーズの諸作は、本当にお世話になりましたねえ。

UKのDJ、ジョーイ・ネグロは、ハウス・ミュージックに
ディスコ・サンプルを組み込んだ最初のアーティストで、
数えきれないアルバムを制作したダンス・ミュージック・シーンの重鎮。
90年代後半から00年代になると、リミキサーとしての活躍もめざましく、
ダイアナ・ロスやペット・ショップ・ボーイズなど名だたる人気アーティストの
リミックスをてがけ、名プロデューサーの地位を確立しましたね。

徹頭徹尾ダンス・フロア向けに作られた、
ジョーイ・ネグロのレーベル、Z・レコーズにこんな使い道があるとは、
ジョーイ・ネグロもまさか思いつくめえ(笑)。
安ビジネス・ホテルのシングルなんて、デスクはちっぽけだし、
照明は暗いし、およそ仕事をするような環境じゃないんだけど、
そこを無理やりアドレナリン放出させて一晩格闘するには、
強烈にブギーなハウスが必需品だったんですよ。

Earth, Wind & Fire  LIVE IN RIO.jpg

ちょうどこの頃、EW&Fの全盛期といえる
82年未発表ライヴ “LIVE IN RIO” が突然出て、
絶好のBGMになってくれたものですけれど、
ノヴァ・フロンテイラの本作はEW&Fをも凌ぐグルーヴで、
この2枚は監査中のホテルの夜のお供盤として鉄板になりました。

ひさしぶりに聴いたけど、いやぁ、アガる、アガる。
とびっきりディスコなトラックをアレンジしてるのは、
デイヴ・リー(ジョーイ・ネグロ)だしねえ。
ミケーレ・キアッヴァリーニのユニット、ノヴァ・フロンテイラは、
このアルバム以外知りませんが、Z・レコーズの最高傑作でしょう。

ラテン・フュージョンやブラジリアン・フュージョンを練り込んで、
ひたすらアップリフテイングなトラックで攻めまくる70分。
サマー・アンセムとしていまなお通用するディスコ・ハウスの逸品です。

Nova Fronteira "FULL FRONTEIRA" Z ZEDDCD04 (2002)
Earth, Wind & Fire "LIVE IN RIO" Kalimba 9730012 (2002)
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ロンドンでデビューしたニュー・オーリンズのソウル・シンガー アカンサ・ラング [ブリテン諸島]

Acantha Lang  BEAUTIFUL DREAMS.jpg

もう1枚UKから届いた女性シンガーのデビュー作。
こちらは70年代スタックスのサウンドを思わす
サザン・ソウル・フィールたっぷりのアルバム。

アカンサ・ラングはロンドンを拠点に活動する人ですが、出身はニュー・オーリンズ。
ニュー・ヨークに進出してナイト・クラブ、ザ・ボックスの初代MCの座を勝ち取り、
それが縁でザ・ボックスのロンドンの姉妹店でレジデントを務めることになり、
ロンドンをベースに活動してレコーディングに至ったのだそう。

おだやかな低音の歌い始めから、曲の中盤の盛り上がりに従って、
ハスキーな高音を織り交ぜながら歌う人で、そのハスキーな歌声に
サザン・フィールがしたたり落ちます。う~ん、実にいい味わいじゃないですか。

ホーン・セクションに女性コーラスもフィーチャーしたバックも見事。
マッスル・ショールズのサウンドが再現されていて、
これが全員ロンドンのミュージシャンで、
ロンドンでレコーディングされたものとは、にわかに信じがたいほど。
ジャケットだって、まるで70年代のスタックスみたいじゃないですか。

父親との再会を歌った ‘Come Back Home’ や、
母親にオマージュを捧げた ‘Lois Lang’ など、自叙伝的なアルバムらしく、
歌詞カードにも幼い時のアカンサの写真が載せられています。
そしてこのアルバムのハイライトは、ラスト・トラックの ‘Ride This Train’。
曲の最後にホーン・セクションがセカンド・ラインを奏でて、
アルバムが締めくくられます。
めちゃハッピーな聴後感がサイコーです。

Acantha Lang "BEAUTIFUL DREAMS" Magnolia Blue MBR001CD (2023)
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新世代UKジャマイカン・ジャズ・ヴォーカリスト シェリス [ブリテン諸島]

Cherise  CALLING.jpg

なんて麗しい声。このみずみずしさが、まず才能だなあ。
そして品があるよね。たおやかな歌いぶりのたたずまいに、惹きつけられました。

UKから登場した新進ジャズ・シンガー・ソングライター、シェリスのデビュー作。
名門トリニティ・ラバン・コンセルヴァトワール大学を卒業し、
19年にジャズFMのヴォーカリスト・オヴ・ザ・イヤーを受賞したシェリスの歌声は、
これまでシード・アンサンブルやヌビアン・ツイストのアルバムでその声を聴いていました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-06-24

満を持してのデビュー作、期待をしのぐ素晴らしい出来じゃないですか。
北米R&Bとは一線を画す、UKソウルの風合いを強く持ったシンガーです。
アニタ・ベイカー、トニ・ブラクストン、サム・クック、スティーヴィー・ワンダーといった
ソウル・シンガーが好きで、ジャズ・ヴォーカリストを目指してからは、
エラ・フィッツジェラルドにもっとも影響を受けたといいます。
この人もまた、トゥモロウズ・ウォリアーズでトレーニングを受けたんですね。

本デビュー作はキーボード、ギター、ベース、ドラムスという
シンプルな編成をバックに歌っていて、シャーデーを思い浮かべる人が多いかも。
キーボード奏者がアレンジしたストリングスをフィーチャーした曲の仕上がりも極上。
こんな上質のアルバムが、自主制作でしか出せないというのがなんだかなあ。

アルバムの中で、21年に亡くなったシェリスの祖母
イヴリン・ハダサ・バーネットのモノローグがあちこちでフィーチャーされています。
歌詞カードの最後にイヴリンへの献辞のクレジットがあり、
ジャマイカ生まれと書かれているので、シェリスはUKジャマイカンなのですね。

そんなルーツに誇りを持ちつつ、家族への感謝も歌に綴られています。
心に沁み入るスポークン・ワードを聴いていると、
この人の育ちの良さが感じられて、すごく親しみをもてます。

Cherise "CALLING" Cherise Adarams-Burnett CAB001CD (2023)
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UKブラックのニュー・クラシック・ソウル名盤 リンデン・デイヴィッド・ホール [ブリテン諸島]

Lynden David Hall  MEDICINE 4 MY PAIN.jpg

ネオ・ソウルのディスク・ガイド回想話も、今回で最後。
南ロンドン出身のシンガー、リンデン・デイヴィッド・ホールの97年デビュー作です。

これも当時惚れ込んだアルバムで、ヘヴィロテしたんだけど、すっかり忘れていたなあ。
リンデンが06年に、31歳という若さで亡くなってしまったからでしょうか。
次第にリンデンの名を聞くこともなくなり、
このアルバムも、CD棚の奥にしまいっぱなしになっていました。

リンデン・デイヴィッド・ホールは、マルチ・プレイヤーで、
作曲作詞、アレンジ、プロデュースも全部こなす、
才能あふれるUKソウルの新人として登場した人。
前々回・前回で記事にした2枚とは違って、本作は当時も話題を呼びました。

「UKのディアンジェロ」といった紹介をされていましたけれど、
ディアンジェロとは違う資質のシンガーだよなあ。
ファルセットの軽やかさと温もりのあるサウンドは、UKブラックの良さでしょう。
情のこもった歌いぶりに、湿度のあるセクシーさが漂い、酔わせてくれます。

この当時、まだネオ・ソウルというタームはなく、
ニュー・クラシック・ソウルと呼ばれていましたけれど、
間違いなくリンデンは、アメリカのニュー・クラシック・ソウル・シーンへの、
UKからの回答だったことは確かでしたね。

リンデンが血液のガンに侵されて早逝していなかったら、
あれほどの才能、どんな成熟をみせていただろうと思うと、
ためすがえす残念でなりません。

すっかりこのアルバムを忘却していたことを反省して、早速リッピングしましたよ。
お気に入りの定盤として、リンデンの人肌のむくもり伝わる歌とサウンドを、
これからも聴き続けたいと思います。

Lynden David Hall "MEDICINE 4 MY PAIN" Cooltempo 724382316022 (1997)
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声とハープ ルース・ケギン&レイチェル・ヘア [ブリテン諸島]

Ruth Keggin & Rachel Hair  LOSSAN.jpg

マン島のゲーリック・シンガー、ルース・ケギンの新作。
14年に出た彼女のデビュー作を、以前ここで書いたことがあります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-05-21
デビュー作と同じメンバーで16年に2作目を出していて、
姉妹盤という趣でしたけれど、それから6年ぶりとなる新作は、
スコティッシュ・ハープ奏者で、マンクス・ハープ音楽の第一人者でもある、
レイチェル・ヘアとの共演作になりました。

ルースとレイチェルの二人がマン島でレコーディングしたあと、
スコットランドでフィドル、ブズーキ、バウロンを、3曲オーヴァーダブしたんですね。
ブズーキを弾いているのは、レイチェル・ヘアの夫のアダム・ローズ。
アダムは、マン島のフォーク・トリオ、バルーのメンバーです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-12-20

アクースティックな音づくりで、「声とハープ」というシンプルなプロダクション。
前2作より格段に軽やかとなったルースのヴォーカルには、ちょっと驚きました。
最初聴いた時は、別人かと思ったもん。

クリスマスの子守唄2曲をメドレーにしたオープニングは、
まさに今の季節にどんぴしゃ。
透明感のあるルースの歌声と、氷の粒が響くようなレイチェルのハープの音色が、
冬の情景を拡げてくれます。

レパートリーはマン島のトラッドばかりでなく、
3曲目の ‘Tri Nation Harp Jigs’ の曲名が示すとおり、
スコットランド、マンクス、アイルランドの順で演奏されるジグ・メドレーもあります。
エレガントなマンクス・フォークばかりでなく、
美しく気品のあるケルティック・フォークに仕上がりました。

Ruth Keggin & Rachel Hair "LOSSAN" March Hair MHRCD006 (2022)
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ブラック・ロンドンが生んだUKレゲエ ソウル・リヴァイヴァーズ [ブリテン諸島]

Soul Revivers  ON THE GROVE.jpg   Soul Revivers  GROVE DUB.jpg

なんだ、この写真?
ジャケットの白黒写真に漂う不穏な空気に、ピンとくるものがあって、ジャケ買い。
クレジットを見たら、おぉ、チャーリー・フィリップスの写真じゃないですか。

オネスト・ジョンズの『ロンドンはおいら向きの場所』シリーズ第2集の、
白人女性と黒人男性カップルのジャケット写真、覚えてます?
あの写真を撮ったのが、チャーリー・フィリップスですよ。

LONDON IS THE PLACE FOR ME 2.jpg

チャーリー・フィリップスは、44年ジャマイカ、キングストンの生まれ。
11歳の時、ロンドンでレストランを経営していた両親と合流し、
西ロンドンのノッティング・ヒルで育ちました。
ロンドンで暴動や黒人差別を体験しながら、
ブラック・ロンドンをドキュメントするフォトグラファーとなった人です。

そのチャーリー・フィリップスの写真をあしらった本作のクレジットによれば、
70年代のロンドンで、リプケがノッティング・ヒル・カーニヴァルに向け、
サウンド・システムをセット・アップしているところを撮ったものだそう。
様子をじっとうかがう警官二人が、これからひと悶着ありそうな雰囲気ですね。

リプケといえば、UKレゲエ・ファンにはおなじみのDJ、リロイ・アンダーソン。
リタ・マーリー(ボブ・マーリー夫人)の弟としても知られる
リロイ・アンダーソンは、80年にUK初の黒人音楽専門海賊ラジオ局、
ドレッド・ブロードキャスティング・コーポレーション(DBC)を開局し、
ラドブローク・グローヴやニーズデンなどの西ロンドンのリスナーに向けて、
84年まで放送した伝説のDJ。
この写真のロケーションも、ラドブローク・グローヴなのだそうです。

ラドブローク・グローヴといえば、レゲエの街。
ラドブローク・グローヴ駅のすぐ脇にあるレゲエのレコード専門店、
ダブ・ヴェンダーは、レゲエ・ファンなら知らぬ人はいないでしょう。
ぼくも90年にロンドンに訪れたさい、ダブ・ヴェンダーで、
ラヴァーズ・ロック・シンガーのコフィとばったり出くわしたんですよねえ。
すんげえ美人で、カメラを携えていなかったのは、痛恨でありました。

ジャケット写真だけでも、語らなきゃいけないことの多いアルバムなんですが、
ジャケット内側にも、ノッティング・ヒル・カーニヴァルのサウンド・システムや、
キングストンのタフ・ゴング・スタジオなど、ロンドンとキングストンで撮られた写真が
9点飾られています。

で、ようやく本題。
ソウル・リヴァイヴァーズって、何者?という話なんですが、
UKダブのパイオニア、ニック・マナッサと、ディープ・ハウスの名門レーベル、
ニューフォニックを主宰するデイヴィッド・ヒルによるプロジェクトとのこと。

ロンドンとキングストンとのつながりを描いた、ジャマイカ系イギリス人作家、
ヴィクター・ヘッドリーのベスト・セラー作 “YARDIE” を、
イドリス・エルバが映画化するにあたって、
デイヴィッド・ヒルが音楽コンサルタントとして参加したことをきっかけに、
マナッサと組んでレコーディングすることになったのだそうです。

ニック・マナッサがベース、キーボード、ギター、パーカッション、
プログラミングを担当し、曲ごとにさまざまなミュージシャンをフィーチャー。
レゲエ・シンガーのアール・シックスティーン、ヴィンテージ・ソウル・シンガーの
アレクシア・コーリー、アフロ・ジャズ・バンド、ココロコのトランペット奏者
ミズ・モーリスのほか、話題を呼びそうなのが、
アーネスト・ラングリンとケン・ブースの起用。
二人の録音はジャマイカで行われています。

レコーディングとミックスは、ラドブローク・グローヴのスタジオで行なわれていて、
アルバム・タイトルとラドブローク・グローヴのリプケの写真を
ジャケットに選んだのも、それゆえなのですね。
洗練されたサウンドは、BGMのように聞けてしまうなめらかさで、
緊張感はありませんけれど、UKレゲエのツボを押さえた、
この二人らしい作品といえます。

Soul Revivers "ON THE GROVE" Acid Jazz AJXCD604 (2021)
Soul Revivers "GROVE DUB" Acid Jazz AJXCD648 (2022)
Young Tiger, Ambrose Campbell, West African Rhythm Brothers, Lord Kitchener, Lord Beginner, The Lion and others
"LONDON IS THE PLACE FOR ME 2: CALYPSO & KWELA, HIGHLIFE & JAZZ FROM YOUNG BLACK LONDON"
Honest Jon’s (UK) HJRCD16
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ロンドンのジャム・バンド エズラ・コレクティヴ [ブリテン諸島]

Ezra Collective  WHERE I’M MEANT TO BE.jpg   Ezra Collective  YOU CAN’T STEAL MY JOY.jpg

エズラ・コレクティヴって、ジャム・バンドなんじゃないのかなあ。
そんなこと誰も、言ってないんだけれども。
世間一般では、ロンドンの新世代ジャズ・バンドという紹介の仕方をされてますけど、
ジャズ・バンドという枠に閉じ込めちゃうと、
彼らの豊かな音楽性を狭めちゃうようで、もったいない気がするんですよね。

この曲はアフロビート、この曲はレゲエ、この曲はジャズ、この曲はネオ・ソウルと、
楽曲の性格ごとに演奏スタイルを使い分けているのが、彼らの流儀。
多彩な音楽要素をミックスするのではなく、軸となるスタイルをベースに、
グライム以降の新しいサウンドを練り込んでいくという手法で、
そこにジャズから学び取ったスキルを感じさせます。
ジャズ出身者らしい器用さといってしまえば、それまでだけど、
それが鼻につかないのが、彼らの良さ。

ヒップ・ホップは当然のこと、グライムなどのクラブ・カルチャーが血肉化している
ハイブリッドなセンスは、いかにもロンドンらしいバンドというか、
どうやっても、オシャレになっちゃうような。
19年のデビュー作も気持ちよくって、ずいぶん聴いたけれど、
記事にしたくなる意欲が湧かなかったのは、ヌビアン・ツイストと同じ理由かな。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-08-17
どうもスタイリッシュな音楽って、カッコいいだけで、心が入り込めないというか。

でも、新作で聞かせるリーダーのドラマー、フェミ・コレオソの
トニー・アレンをトレースしたドラミングには、降参しました。
前作でもアフロビート・ジャズを試みていたけれど、今作のは完成型。
さすがにこれは、素直に称賛しなくちゃいかんでしょう。
トニーへのリスペクトが、ちゃんと伝わってきますよ。
たしかこの人、トニー・アレンのドラム・レッスンを受けるために、
パリ通いもしたんだよね。

サンパ・ザ・グレート、コージー・ラディカル、ネイオをフィーチャーして、
コンパクトにまとめた曲が並んだ本作。
セロニアス・モンクのジャケットをパロっちゃうあたりのセンスも含めて、
どこまでもスマート&クールな連中であります。

Ezra Collective "WHERE I’M MEANT TO BE" Partisan/Knitting Factory PTKF3020-2 (2022)
Ezra Collective "YOU CAN’T STEAL MY JOY" Enter The Jungle ETJ006CD (2019)
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スマートなアフリカン・ポップ K.O.G [ブリテン諸島]

K.O.G  ZONE G, AGEGE.jpg

UKのアフロ・ポップ・ユニット、オニパのヴォーカリストK.O.Gのソロ・デビュー作。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-02-02
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-30
プロダクションがバツグンによく出来ていて、
いかにもUKらしい、スマートなアフリカン・ポップに仕上がっています。

プロデュースは、オニパでギターとエレクトロニクスを担当していたトム・エクセル。
トム・エクセルは、ヌビアン・ツイストやエゴ・エラ・メイの
プロデューサーとしても知られていますね。
そういえば、K.O.Gは、ヌビアン・ツイストの19年作“JUNGLE RUN” で
2曲(‘Basa Basa’ ‘They Talk’)客演していたんだっけ。

Nubiyan Twist  JUNGLE RUN.jpg

“JUNGLE RUN” は、UK産アフロ・ジャズとしても出色の仕上がりでした。
ここでは取り上げそこねちゃいましたけど、ミクスチャー・センスがバツグンで、
アフリカ音楽になじみのないファンにもアピールする、
スタイリッシュなダンス・ポップの快作となっていましたね。
トニー・アレンやムラトゥ・アスタトゥケといったレジェンド・クラスのゲストも、
それぞれの魅力が映える楽曲にフィーチャリングしていて、
トム・エクセルのプロデュース力に恐れ入ったものです。

ジャケットのアートワークからして、
オニパのデビュー作のいんちきエスニックとは、ケタ違いのセンスで、
これぞアフリカ新時代をイメージするヴィジュアルじゃないですか。
あらためてチェックしたら、あのいんちきエスニック画、
トム・エクセルが描いたものだったのか。デザインの才はないけれど、
プロデュースの手腕が確かなのは、今作でも証明されています。

‘Shidaa’ はアフロビート+ヒップ・ホップ、
ジャマイカ人ダンスホールMCのフランツ・フォンをフィーチャーした
‘Lord Knows’ は、ジャジー・ヒップ・ホップ・テイストのアフロ・ジャズでスタートし、
中盤にブレイクを挟み、妖しいメロディのグナーワへと変わるユニークなトラック。
ジェドゥ=ブレイ・アンボリーが参加した‘No Way’ はスークース。
アクースティック・ギターと小物打楽器で歌われる
アフリカン・フォーキーな‘Adakatia’ は、
♪ Highlife music ♪~ とコーラスが連呼するけど、ハイライフとは似ても似つかぬ曲。

つまりトム・エクセルがデザインするのは、
無国籍なアフリカン・ミュージックなんですね。
アフリカン・ポップスのさまざまな要素を抽出して、ジャズやファンク、
ヒップ・ホップ、ダンスホール、ダブとミクスチャーすることにネライがあるので、
アフリカ通を喜ばすような本格的な方向に行くことはありません。
‘Adakatia’ のアクースティック・ギターだって、パームワインかと思いきや、
4分の4拍子のスクエアなリズムだし、ギターのリックにもメロディにも、
パームワインを連想させる要素はないしね。

フランスのトロピカル・ダンス・ポップのレーベルから出ているとおり、
メロウネスに富んだサウンド・プロデュースは、まさしくUKソウル・マナー。
ハチロクで前のめりに突進していく‘Gbelemo’ など、
4分の4拍子にスロー・ダウンするブリッジを挟んだ曲構成が、実にクール。
ラストのファンキー・ハイライフの‘Yaa Yaa’ まで、シャレオツに仕上げたアルバムです。

K.O.G "ZONE G, AGEGE" Heavenly Sweetness/Pura Vida Sounds PVS018CD (2022)
Nubiyan Twist "JUNGLE RUN" Strut PVS018CD (2019)
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UKブラックの内省と孤独 ドゥームキャノン [ブリテン諸島]

DoomCannon  RENAISSANCE.jpg

音楽に込められた、作者の意思の熱量がスゴイ。
演奏が伝えようとするメッセージの内容を、まったく知らずに聴いているだけなので、
きわめてあいまいな感想にすぎませんが、ストーリー性のある楽曲が並んでいて、
聴き応えがスゴイ。圧のある作品ですよ。

南ロンドン出身のマルチ奏者でコンポーザー兼プロデューサーのデビュー作。
制作に4年かけたというのもナットクの緻密さで、ストリング・アレンジを含めて、
1曲ごと作曲・アレンジの段階で考え抜かれているのを感じます。
その一方、演奏には自由度があり、プレイヤーもフレキシブルに演奏しています。
精緻な設計と現場での工事監理が、理想的に行われているような作品じゃないですか。

各曲のタイトルから察するに、
UKブラックとしてのアイデンティティを問うた作品のようですね。
曲の始まりは静かでも、リズム・セクションがドラマティックに展開していく曲が多く、
エネルギーをほとばしらせているんですよ。

曲の入口こそスムーズなサウンドなのに、
中盤からドラムスが大暴れし始めて手に汗握っていると、
終盤にさあーっと熱が引いていく曲もあれば、
終盤にかけて、シンフォニックなクライマックスへ展開していく曲もあり。

孤独感と内省を沈殿させた楽曲には、光と影のそれぞれの側面が備わっていて、
それが深い物語性を演出しているんですね。
メロウなウーリッツァーの響き、J・ディラの影響あらかたな細分化されたビート、
シルキーなサックスの音色など、新世代UKジャズの魅力が、
優れたマテリアルにのせて発揮されている作品です。

DoomCannon "RENAISSANCE" Brownswood Recordings BWOOD0275CD (2022)
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カメレオンなキャラクター オボンジェイアー [ブリテン諸島]

Obongjayar.jpg

リトル・シムズやギグス、パ・サリュの新作など、
各方面からひっぱりだこという注目のUK新人、まずその名前に惹かれました。

オボンジェイアーって、ぜったいナイジェリア人でしょ。
と思ったら案の定で、本名スティーヴン・ウモー。
ナイジェリア南東部クロス・リヴァー州カラバール育ちで、
17歳でイギリスへ渡り、本格的に音楽活動を始めるにあたって、
父親の名前にちなんで jayar をとり、地元の王様を指す obong を接頭辞につけ、
ステージ・ネームにしたんだそうです。

オボンというのはイボ人の伝統的首長(王)のことだから、
ウモーはイボ人なのかな。カラバール育ちということは、イビビオ人かも。
イビビオ人の母のもとロンドンで生まれた女性シンガー、
イーノ・ウィリアムズのバンド、イビビオ・サウンド・マシーンなんて例もあるしね。

R&B、ヒップ・ホップ、アフロビート、ダブ、ベース・ミュージックが混然一体となった、
エッジの利いたサウンドが強烈で、これがいまのロンドンの最先端なんでしょうか。
ゲストのヌバイア・ガルシアのサックスが、ここぞというスペースを与えられて、
際立って聞こえるところも、アルバムのハイライトになっていますね。
作り込まれたプロダクションが、複雑なテクスチャを持っていて、
こんな音がここに配置されていたのかと、聴くたびに新しい発見があります。

リヴァーブのかかったふくよかなシンセ、キラキラ音のエレクトロ、飛び道具のようなEQ、
妖しくうごめくシンセ・ベース、サンプリング・パーカッションの生っぽい響き、
不吉なドリル・ビートなどなど、アルバム全体はリリシズムに富んだ
優美なサウンドで占められているものの、随所で不穏や怒りが顔をのぞかせます。

カメレオンのようなサウンドを凌駕するのが、オボンジェイアーのヴォーカルとラップで、
甘いファルセットで歌ったり、温もりのある柔らかな声でソフトな唱法をする一方、
ダミ声でピジン・イングリッシュを歌ってみたり、
粗削りな声でラップするざらりとしたフロウなど、
両極端に振れた声を、巧みに使い分けています。
パーカッシヴなディクションにも、耳を奪われますね。

波打つようなメロディや、レイヤーされたサウンドにのる、
豊富なヴォキャブラリーのヴォーカルに、ただただ感心するばかり。
洗練と野性、硬質なのに甘美といった両極端が、無理なく同居している不思議さ。
ヴォーカル、サウンドともにカメレオンのようなキャラクターは
とても謎めいていて、惹かれずにはおれない音楽です。

Obongjayar "SOME NIGHTS I DREAM OF DOORS" September Recordings SEPCD008 (2022)
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UKブラックのストーリーテラー コージー・ラディカル [ブリテン諸島]

Kojey Radical.jpg

やっぱ、声がいいよなあ。
このアルバム、聴き始めの頃は、
インパクト弱いかなあとか思ってたんですけどね。
つい何度も聴くうちに、結構気に入っている自分に気付いて、
ちょっと書いておこうかという気になりました。

グライム・シーンから登場した、ガーナにルーツを持つUKラッパー、
コージー・ラディカルの初フル・アルバム。
ざらりとした野太い声が、ぼく好みなんであります。
粘り気のあるフロウに味があって、ずっと聴いていられるタイプですね。

この人のラップを聴いたのは、たぶんルディメンタルが最初。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-11-02
あと、ブルー・ラブ・ビーツにもフィーチャリングされてましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-03-30
客演王とか呼ばれてるみたいですけど、
それほど熱心にこのテの音楽を聴くわけでない自分でも
よく耳にしているということは、売れっ子の証拠なんでしょう。

あと、ついつい何度も聴きたくなるのは、楽曲がいいからだな。
メロウなネオ・ソウルやジャジーなトラックと、
コージーの濁りのあるラップのバランスが絶妙で、
甘ったるくもならなければ、尖りすぎもしない塩梅が、たいへんよろしい。

生演奏中心のプロダクションも、聴きごたえがあります。
ドラムスは、生演奏とプログラミングの重ね使いをしているし、
弦8人、管3人を使って厚みのあるサウンドを生み出して、
そこにヘヴィーなシンセ・ベースを絡ませて、ぶっといグルーヴを醸し出しています。
Pファンクを参照したようなトラックもありますよ。

マセーゴをフィーチャーした‘Silk’ も、スムースなんだけど、ガッツがあるよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-05-05
トロンボーン奏者のトレヴァー・マイルズがスーザフォンを吹く‘Payback’ も、
フック利いてるなあ、

アルバム冒頭や中盤、そしてラストに、
ガーナからUKに移住してきたことについて語る母親と父親のナレーションを挟み込み、
最後に自分のために犠牲を払ってくれた両親を、
ロック・スターになぞらえる‘Gangsta’ でアルバムを締めくくっています。
UKブラックのストーリーテラーという気概を、
キラッキラのポップ・センスの中に宿しているコージー、気骨あるね。

Kojey Radical "REASON TO SMILE" Atlantic 0190296403651 (2022)
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ロンドン新世代のエレクトロ・フュージョン ブルー・ラブ・ビーツ [ブリテン諸島]

Blue Lab Beats  Motherland Journey.jpg

ビートメイカーでプロデューサーのNK-OK(ナマリ・クワテン)と、
マルチ・プレイヤーのMr DM(デイヴィッド・ムラクボル)のデュオ、
ブルー・ラブ・ビーツのブルー・ノートからの新作。

二人のキャリアから、UKジャズとして取り沙汰されてますけど、
ブルー・ラブ・ビーツのサウンドは、フュージョンそのもの。
RC&ザ・グリッツのジャズ・ファンクに通じる、
ローファイなヒップ・ホップ・センスは、もろ当方の好みなのであります。

もはやドラムスが生演奏なのかプログラミングなのかも、
聴いているだけでは、まったく聞き分けができませんね。
プログラムのヴァージョン・アップや、プログラミング・スキルの向上ばかりでなく、
生演奏側も、マシン・ビートを正確にトレースする腕を磨きあげてきたので、
その境目を判別するのは、もう無理というものでしょう。

それにしても、なんて心地よいサウンドなんでしょうか。
‘Gotta Go Fast’‘A Vibe’ のギター・サウンドなんて、
まるでポール・ジャクソン・ジュニアを聴いているかのよう。
ベースがハーモニクスのループ・フレーズのうえで、ベース・ソロをプレイする
‘Inhale & Exhale’なんて、ジャコ・パストリアスからマーカス・ミラーに至る
テクニックを習得してきた証しで、Mr DMはフュージョンの申し子ですね。

さらにアルバム中盤では、2曲連続でアフロビーツが登場。
バーナ・ボーイならぬゲットー・ボーイというヴォーカリストが
フィーチャーされてるんですけど、ピジンくさい英語使いの主は、誰?
調べたら、ロンドン生まれのガーナ/カメルーン・ダブルのシンガー/ラッパーだそう。
アクラとハックニーを行き来してるそうで、ラップはアカン語のよう。
とにかく、この2曲、めちゃくちゃカッコいいんだわ。

さらに、さらに。アフロビーツに続くのは、
フェラ・クティの‘Everything Scatter’ をサンプリングしたローファイ・ヒップ・ホップ。
フェラのヴォーカルを切り刻んで、こんなにオシャレなトラックにしてしまっていいのか、
いや、いいのだ!とバカボンのパパ状態で、狂喜乱舞しております。

キーファーをフィーチャーした‘Dat It’ は、
ブルー・ラブ・ビーツの音楽性とバツグンの相性を示しています。
ほかにも、女性シンガーをフィーチャーしたネオ・ソウルあり、
グライムを通過したクラブ・サウンドありで、
ロンドン新世代のクロスオーヴァー・センスが、
エレクトロ・フュージョンのサウンドに結実した傑作です。

Blue Lab Beats "MOTHERLAND JOURNEY" Blue Adventure/Blue Note 0602438891528 (2022)
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ごっついUKカリビアン・サウンド・システム テオン・クロス [ブリテン諸島]

Theon Cross  INTRA-I.jpg

シャバカ・ハッチングス率いるサンズ・オヴ・ケメットのメンバーとして頭角を現し、
ヌバイア・ガルシア、モーゼズ・ボイド、エズラ・コレクティヴとのコラボで、
ジャズ・シーンにチューバを前景化させてきたテオン・クロス。

<その他楽器>好きとしては、応援しないではいられない逸材ですが、
名刺代わりのデビュー作は、ぼくには物足りず。
でも、これほどの才能、慌てなくても、もっとスゴイ作品を作ってくれるはずと思ってたら、
はや2作目で、キちゃいましたねえ~。
アフロフューチャリズムを示唆するジャケットからして、攻めまくってるじゃないですか。
こういうのを期待してたんですよ。

テオンとドラマーのエムレ・ラマザノグルの二人によるプログラミングを主軸に、
ポエットのレミ・グレイヴズ、ジンバブウェ出身MCのシュンバ・マーサイ、
テオンが参加するスチーム・ダウンのリーダーでサックス奏者のアナンセ、
UKブラック・ラッパーのアフロノート・ズー、コンセンサスをゲストに迎えて、
制作しています。

スポークン・ワードやラップをフィーチャーしながら、
グライムとソカ、レゲエ、ダブを<ガンボ>した、
言うならば、ロンドン発のUKカリビアン・サウンド・システムでしょうか。
さまざまなアイディアが施された各曲は、トラックごと表情は異なるものの、
ファットなビートとウネるグルーヴのなかから、
肉感的なチューバのメロディが湧き出すところは、全曲共通。

亡き父へ贈った葬送曲‘Watching Over’ をのぞき、
サンズ・オヴ・ケメットの前任チューバ奏者、オーレン・マーシャルとの
チューバ・デュオでアルバムを締めたラスト・トラックまで、
アルバム全体を支配するサウンドのごっつさに、感じ入っちゃいました。

『内なる自己』というタイトルが示すとおり、
アフロ・ディアスポラを自覚するテオンが各曲に込めたテーマは、
内省的で思索的。しかし、祖先と対話するシャーマニズムを
現代性に満ちたサウンドのなかに展開することで、
その音楽をとびっきり開放的で、生命感に満ちたものにしています。

期待にたがわぬ新作ですけれど、
それでもまだまだ発展途上と思わせるところが頼もしい。
伸びしろの計り知れなさを予感させる本作、ますます目が離せない存在ですね。

Theon Cross "INTRA-I" New Soil NS0015CD (2021)
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オーガニックなUKソウルのシンガー・ソングライター クレオ・ソル [ブリテン諸島]

Cleo Sol  MOTHER.jpg

赤ちゃんを抱っこしたまま、ソファに身体をうずめているお母さんは、
家事でヘトヘトになったのか、リラックスしているというより、
身体を投げ出しているといったふう。
リヴィングに降り注ぐ温かな日差しに包まれた母子の写真が、
幸せに満ちた音楽を、雄弁に語っていますね。

ちまたではすでに話題沸騰、クレオ・ソルのセカンドです。
これはなにがなんでもフィジカルにしてくれなくっちゃと、強く願っておりました。
何度も入荷が延期になって、ヤキモキしていたんですが、
ようやくCDが手元に届きましたよ。
昨年中に入手していたら、ベスト・アルバム入り確実だったんだけど。

柔らかで、あたたかなこのグルーヴ。
ひそやかなコーラスが美しいハーモニーを織り上げ、
ミニマルなフレーズの反復がこのうえなく、ここちよい。
ピアノやシンセにアクースティック・ギターが過不足なく配置されていて、
余計な音はいっさい出てこない、デリカシーに富んだプロダクション。
もうタメ息しか出ません。

誰もが連想するとは思いますが、70年代のキャロル・キングですよね。
コロナ禍の暗い気分を一掃させる、新たな生命の誕生に感謝せずにはおれない、
幸福感に満ちたアルバムです。
UKナイジェリアンのラッパー、リトル・シムズとも関係の深い、
グライム世代ど真ん中の彼女が、
こんなシンガー・ソングライター・アルバムを作るとは意外でした。
キャロル・キングを、グライムのビート・センスで更新したともいえるのかな。

ジャマイカ人の父にセルビアとスペインの血を引く母のもと、
ラドブローク・グローヴに生まれ、
ノッティング・ヒル・カーニバルで育ったクレオ。
「ラドブローク・グローヴ」や「ノッティング・ヒル」と聞いただけで、
耳がピクンと立ってしまう当方ですが、そんなUKカリビアン的な資質も、
ほのかなコンガの響きや、ちょっと崩れたようなチャチャチャのリズムに表われています。

フォーキーな音感をいかしながら、控えめなオーケストラのアレンジも加え、
ゴスペル・クワイアも取り入れたサウンドは、ネオ・ソウルのフレイヴァーもあり、
その優美なサウンドは極上です。
淡々と語りかけるようなクレオの繊細なヴォイス、その平熱感に夢見心地となります。

Cleo Sol "MOTHER" Forever Living Originals FLO0007CD (2021)
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移民のやるせないさみしさに ニティン・ソーニー [ブリテン諸島]

Nitin Sawhney  IMMIGRANTS.jpg

20年ぶりに聴いた、ニティン・ソーニーの新作。
デビュー当初からまったく変わることのない音楽性と、
一貫した世界観に感じ入りました。

インド移民二世として生まれたニティン・ソーニーは、
大学生時代にアシッド・ジャズのジェイムズ・テイラー・カルテットに加わり、
のちにUKエイジアンのタブラ奏者タルヴィン・シンとグループを組み、
93年にソロ・デビューしたマルチ奏者のシンガー・ソングライター。
95年のセカンド“MIGRATION” でファンになったんですが、
新作は、まさにこのセカンドと呼応するタイトルとなっています。

Nitin Sawhney  MIGRATION.jpg   Nitin Sawhney  DISPLACING THE PRIEST.jpg

ニティンがデビューした90年代半ばは、
UKインディアンによる音楽が盛り上がった時代でした。
ブレイクビーツ/ヒップ・ホップ・グループのファン=ダ=メンタルや、
ジャングルのエイジアン・ダブ・ファウンデーションなどの政治色の濃いグループに、
レゲエDJのアパッチ・インディアンやバングラ・ビートのダンス・ミュージックなどなど、
多彩な才能がシーンをにぎわせていました。

そのなかで、ニティン・ソーニーは異色の存在で、
イギリスで移民の子孫として暮らす人々の内的世界を描写した、
孤独感を色濃く滲ませた音楽をやっていました。
やるせなく、さみしいニティンの音楽はあまりに切実で、
強い疎外感がその底に沈殿しているのを聴きとることができます。

ヒンドゥスターニー(北インド古典音楽)、フラメンコ、ジャズ
ヒップ・ホップ、ドラムンベース、ダウンテンポなどをミックスした音楽性は、
デビュー当時すでに完成していました。
アルバムを重ねるごとに、プロダクションの完成度が高まり、
サウンドにわずかな変化をもたらしてはいても、
ニティンの音楽性の本質を揺らがすことはありませんでした。

Nitin Sawhney  PROPHESY.jpg   Nitin Sawhney  PROPHESY  DVD.jpg

ぼくは01年作の“PROPHESY” を最後に聴いていなかったんですが、
その後ニティンは、50を超す映画/演劇音楽をてがけ、
ポール・マッカートニーやスティングなどとも共演して、
大英帝国勲章をはじめに30にも及ぶ芸術賞を受賞する、
ビッグ・ネームになっていたんですね。

そんな大物になったとて、この人が抱える疎外感は癒されることはなく、
新作が示すさみしさの手触りは、デビュー時とまったく変わるところがありません。
ニティンは、10代の多感な時期に、極右の国民戦線が台頭し、
人種差別的な罵声を浴びせられ、暴力を振るわれてきたといいます。
ブレグジット後のイギリスにおいて、外国人や移民に向けられるまなざしに、
緊張感が増していることは想像に難くなく、ニティンはこのアルバムで、残忍な差別や、
容赦ない偏見を受ける人々の孤独、絶望、憎しみといったさまざまな感情に、
声を与えようとしています。

曲間に間奏曲をあてがい、
移民に関するニュースのナレーションが挿入するほか、
‘Tokyo’ という間奏曲では、JR駅のホームで流れる電子音のサンプリングや、
女性アナウンスを模した合成音声が使われています。
そして、最後には、映像的な弦楽奏をバックに、
インタヴューに応える人々の声をコラージュしています。

ロンドンの冬を想わす極寒のサウンドスケープに、
揺れる女声のサレガマ(音度名)がのっていく。
南アジアの濃厚なニュアンスを加えた幻想的な音楽には、
多くの移民の心の痛みが秘められています。

Nitin Sawhney "IMMIGRANTS" Masterworks/Sony Music 19439733222 (2021)
Nitin Sawhney "MIGRATION" Outcaste CASTECD001 (1995)
Nitin Sawhney "DISPLACING THE PRIEST" Outcaste CASTECD002 (1996)
Nitin Sawhney "PROPHESY" V2 VVR1015912 (2001)
[DVD] Nitin Sawhney "PROPHESY" V2 VVR6017659 (2002)
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物語に昇華した歌は時を越えて カリーン・ポルワート [ブリテン諸島]

Karine Polwart  FAIREST FLOO’ER.jpg   Karine Polwart  TRACES.jpg

カリーン・ポルワートは、スコットランドのシンガー・ソングライター、
そしてまた、優れた伝承歌の歌い手でもある人ですね。
個人の感情を歌いつづることと、土地や人々に息づいた伝承の語り部となることは、
二律背反であるものなのに、両者を成り立たせる稀有な歌手が
世の中にはちゃんといて、カリーン・ポルワートもその一人といえます。

カリーン・ポルワートには、忘れられないアルバムがあります。
マリンキーから独立して、ソロとなって出した
07年の“FAIREST FLOO’ER” と、12年の“TRACES” です。
“FAIREST FLOO’ER” はラストの自作曲以外はすべてトラディショナル。
ほとんどの曲をカリーンの弟のスティーヴンがギターを弾き、
2曲だけキム・エドガーがピアノを弾くという、
超シンプルな伴奏で仕上げたアルバムです。

一方“TRACES” は、スティーヴン・ポルワートのギターと
インゲ・トムソンのアコーディオンを核に、
プロデューサーのイアン・クックのキーボードのほか、
マリンバ、ヴァイブ、管楽器などのゲスト・ミュージシャンを加えて、
自作の物語にふさわしいサウンド・アートを創り出しています。
音響的なサウンドスケープを含め、静謐なたたずまいを崩していないのは、
イアン・クックの手腕でしょう。

この二つの作品からは、伝承歌と自作曲を歌う、
カリーンの歌い手としての独特の資質を聴き取ることができます。
カリーンは伝承歌を歌うさいに、歴史を遡るような素振りを見せず、
まるでいま出来上がった歌のように歌うんですね。
その一方、自作の物語を歌うときには、過去と対話しながら、
死者と生者の世界を繋ぐように歌います。

こうした歌へのアプローチは、従来の伝承歌を歌うフォーク・シンガーには
みられなかったもので、カリーン独自の歌解釈は、
古い歌に現代の問題を扱うような生々しい感情を与えるとともに、
新しい歌に過去の歴史を宿すことに成功しています。
はぁ、こんな表現方法もあるのかと、
カリーンの歌世界には新鮮な驚きがありました。

Karine Polwart & Dave Mulligan  STILL AS YOUR SLEEPING.jpg

そんなカリーンらしい歌のアプローチを、また聴くことができました。
新作はジャズ・ピアニスト、デイヴ・マリガンとのコラボレーション。
え? ジャズ・ピアノで歌うの?と聴く前はいぶかしんだのですが、
さすがカリーン、予想のはるか上をいく作品となっていました。

デイヴ・マリガンという人のピアノを聴くのは、初めてですが、
ジャズ・ピアニストであることをおくびにも出さないプレイには感心しました。
冒頭の‘Craigie Hill’ で聞かせる、スキップするような愛らしいリフといったら!
童謡を伴奏するかのような、こんなモチーフを弾いてみせる
ジャズ・ミュージシャンって、なかなかいるもんじゃないですよ。
いっさいのテンション・ノートを避け、ジャズ的なアーティキュレーションも使わず、
ジャズを封印した演奏ぶりで、内部奏法を聞かせる曲でも、
ジャズの語法はまったく顔を出しません。

歌を物語に昇華させるカリーンの音楽性をよく理解したピアノを得て、
カリーンは死者と生者の世界を行き来するように、
静けさのなかで揺れ動きながら、川の流れのように歌っています。

Karine Polwart "FAIREST FLOO’ER" Hegri Music HEGRICD03 (2007)
Karine Polwart "TRACES" Hegri Music HEGRICD08 (2012)
Karine Polwart & Dave Mulligan "STILL AS YOUR SLEEPING" Hudson HUD025CD (2021)
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スコットランド・ゲール語の伝承歌集 マイリ・マクミラン [ブリテン諸島]

Màiri MacMillan  GU DEAS.jpg

しみじみ、いいアルバムだなぁと、ため息がこぼれました。
スコットランド、アウター・ヘブリディーズ諸島のサウス・ウイスト島から登場した、
マイク・マクミランのデビュー作。
美しく澄んだその歌声が、スコットランド・ゲール語を鮮やかに響かせます。

スコットランド・ゲール語の歌に囲まれ、何世代にもわたるゲール語文化の伝統を、
生活として学びながら育ってきた人であることが、
その歌いぶりにくっきりと刻印されていますね。

ライナーには、イシアベイル・T・マクドナルドから多くの歌を習ったとあり、
その女性がどのような人かはわかりませんが、
おそらく地元で高名な歌い手なのでしょう。
サウス・ウイスト島で女性たちが伝えてきた歌を教わりながら、
じっくりと時間をかけて、自分のものとしてきたんですね。
ライナーにゲール語と英語で、各曲の歌詞と歌の背景が書かれてあり、
マイリの歌に対する深い愛情が伝わってきます。

アルバムをプロデュース、アレンジしたマイリ・ホールが弾くピアノと
足踏みオルガンのハーモニウムに、フィドル、ギター兼バグパイプ、
ハープの4人が、繊細な表現力で歌の生命力を最大限に引き出していきます。
メンバーによるヴォーカル・ハーモニーも、
力強さと繊細さをあわせ持つ美しさがありますね。
ハープを弾くレイチェル・ニュートンは、ケルト・ハープのクラルサックと
エレクトリック・ハープを使い分け、伝統と現代を繋いでいます。

スコットランド・ゲール語による伝承歌集の名作が、またひとつ誕生しました。

Màiri MacMillan "GU DEAS" Màiri MacMillan MMM1CD (2021)
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ポップになったドラムンベース ルディメンタル [ブリテン諸島]

Rudimental  GROUND CONTROL.jpg

これが新作? 90年代の旧作かと思いましたよ。

ロンドンのドラムンベース4人組バンド、ルディメンタルの新作。
これが4作目だそうですけれど、バンド名を知るのも、これが初めて。
ジャケットのアートワークに惹かれて試聴してみたんですが、
世紀が変わって20年以上も経つというのに、
こんなサウンドを聞けるとは思わなんだ。しかも、バンドで。

それこそ、シティ・ポップの文脈としても聴けちゃいそうな、
メロウなトラックにスムースなサウンドがずらり。
ドラムンベースもここまで商業的に、ポップになったのかと思うと、
隔世の感をおぼえますね。

ドラムンベースの危険なアンダーグラウンドの匂いなどまるでなし。
オシャレなMJ・コールの流れをくむようなダンス・フロア向けのトラック揃いで、
ドラムンベースというより、ゲスト・シンガーを大勢招いたオシャレなハウスの趣で、
きわめて口当たりのいいサウンドを聞かせます。

ドラムンベースも、完全に音楽の一フォームとなったんですねえ。
90年代末から00年代の一時期、クラブ・ミュージックに夢中になったものの、
その後はすっかり離れてしまい、ダブステップもロクに聴いてないんですよね。
このバンドがどういう立ち位置にあるのかもぜんぜんわかっていないんですけれど、
2ステップなど90年代のUKガラージを思い起こさせるサウンドには、
年寄りの頬を緩ませます。

街で突然、20年前一緒に仕事をしていた仲間に出くわしたような気分。
昔とぜんぜん変わっておらず、かえって若返っているほどで、
懐かしくも嬉しい再会を果たせました。

Rudimental "GROUND CONTROL" An Asylum 0190296683947 (2021)
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厳しい時代だからこそ人は強くなれる ネイオ [ブリテン諸島]

Nao  AND THEN LIFE WAS BEAUTIFUL.jpg

うわぁ、まんま90年代R&Bじゃないですか。
ネイオの新作は、ブランディーやインディア・アリーを連想させる
90年代サウンドのフレーヴァーが横溢。
デビュー作のエレクトロ・ファンクは後退した感じかな。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-08-20

ネイオらしい、ネオ・ソウル調のドリーミーなオルタナティヴR&Bなど、
ミディアムをメインにした曲中心ながら、バラードの美しさは特筆もので、
ピアノやストリングスを効果的に使って、生音のオーガニックな空気を
生み出しているのが印象的です。

辛いことや困難なことがあっても、必ず乗り越えられるという
メッセージを込めたと、ネイオ自身が語るように、
パンデミックの困難な時代にも、ポジティヴな思考を貫いて
人生を乗り越えていこうとする強い意志が、ネイオの歌いぶりから伝わってきます。

コケティッシュな個性的な声は、デビュー当時から変わらないものの、
チャーミングさのなかに太い芯を宿すようになったのは、
ひとりの母として、彼女が人間的に大きく成長したからでしょうか。

新しく生まれた命を「時代の救済」と歌う、希望に満ちた‘Antidote’ は、
なんとナイジェリアのアデクンレ・ゴールドをフィーチャリングしたアフロビーツ。
まさかここでアフロビーツが聞けるとは思いもよりませんでしたが、
その意外さより、彼女のしなやかな強さに感じ入りました。
女性としてのプライドを主張した‘Woman’ での自信に満ちた姿にも、
それが表れているし、客演したリアン・ラ・ハヴァスとのコンビも絶妙です。
ネイオとリアン・ラ・ハヴァスの二人とも、母親がジャマイカ出身ですね。

聖歌隊のコーラスを取り入れた曲や
自作のバラード‘Amazing Grace’ の気高さに、
厳しい時代だからこそ人は強くなれるという、
ネイオの信念が溢れているじゃないですか。
オプティミズムを引き寄せるのは、ポジティヴな姿勢であることを
体現した傑作です。

Nao "AND THEN LIFE WAS BEAUTIFUL" Little Tokyo Recordings/Sony 19439900502 (2021)
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グルーミーなロンドンのメランコリー アルファ・ミスト [ブリテン諸島]

Alfa Mist  BRING BACKS.jpg

ジャズ・ピアニストで、ヒップ・ホップのMCで、シンガー・ソングライターという、
いかにも今のロンドンを象徴する音楽家のアルファ・ミスト。
新作はアンタイからで、CDもちゃんと出るというので、楽しみにしていました。
前作も前々作も、CDは日本盤でしか出なかったもんなあ。

UKジャズ・シーンのど真ん中にいる人とは違い、
トム・ミッシュやジョーダン・ラカイといった音楽家との共演など、
ポップ・シーンに寄せたフィールドで活躍する音楽家ですよね。
イギリス人には珍しくロバート・グラスパーに強く影響を受けたピアニストで、
ジャジーなネオ・ソウル・サウンドや、J・ディラのよれたビート使いは、
もろグラスパー・マナーといえます。

オープニングのフュージョン調のトラックに続き、
オーガニックなフォーキー・テイストのネオ・ソウル、
さらにジャジー・ヒップ・ホップと、
曲ごとにさまざまな音楽性を表出しながら、
アルバム全体をメランコリックなトーンでまとめ上げています。
グルーミーなムードが、いかにもロンドンらしくて、
このムードは、US産からはぜったい生まれないものでしょう。

ビル・エヴァンスを思わす美しいハーモニーのピアノや、
温かなローズのサウンドに絡んでくる、ジェイミー・リーミングの
キラキラしたアルペジオやオブリガードが効果的。
リチャード・スペイヴンのシャープなスネアが生み出す、
生演奏ならではのタイム感にウナるトラックもあれば、
ビートメイキングがクールな音像を結ぶトラックもあります。

ラップばかりでなく、ポエトリー・リーディングもフィーチャーされ、
クラシカルなチェロの室内楽演奏が登場するなど、おそろしく密度の濃いサウンドが
次々と展開していくにもかかわらず、そんな場面変化を意識させない
聴きごこちの良さが、本作最大の美点。
多彩な音楽要素をひと色に染め上げるプロデュース力は、スゴイですね。

ジャケット画のカーペットを敷き込んだ階段に、
31年前、ロンドンでひと月ほど滞在していたホスト・ファミリーのおうちを
思い出しました。今年の梅雨時の、良きBGMになってくれそうな一枚です。

Alfa Mist "BRING BACKS" Anti 87789-2 (2021)
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スコットランド伝統歌の旨味 フィンドレイ・ネイピア&ジリアン・フレイム [ブリテン諸島]

Findlay Napier & Gillian Frame with Mike Vass  THE LEDGER.jpg

ジェイムズ・テイラーを思わす
フィンドレイ・ネイピアの柔らかな歌声に惹かれました。
相方を務めるジリアン・フレイムの気品のあるシンギングとの相性も理想的。
テナー・ギター、フィドル、オルゴールを弾く
マルチ奏者のマイク・ヴァスがプロデュースを務め、
ベースとパーカッションが控えめにサポートしたこのアルバムは、
スコットランド伝統歌の旨味をたっぷりとたたえた、極上の内容に仕上がりましたね。

民俗学者ノーマン・ブッチャンが、50年代後半から60年代初めにかけ、
新聞スコッツマン紙にスコットランドの伝統音楽の記事を毎週掲載していたのを、
フィンドレイ・ネイピアのお祖父さんが、切り抜いてスクラップしていたのだそう。
アルバム・タイトルとジャケットに示されているとおり、
そのノートが本作制作の発端となってします。
60曲以上スクラップされていた記事の中から10曲が選ばれ、
ノートに張られた歌詞や楽譜に解説が、ブックレットに転載されています。

民俗学者ノーマン・ブッチャンによるこの新聞記事は、のちにまとめられて、
“101 Scottish Folks Songs - The Wee Red Book” として出版され、
スコットランド伝統歌集の名著となります。
オープニングの‘Bonnie George Campbell’ は、
チャイルド210番として知られる名バラッド。
ニック・ジョーンズやジューン・テイバーの英訳ヴァージョンで聞いていましたけれど、
本来のスコティッシュ・ゲール語で歌われているのを聴くのは、初めてかな。

‘Twa Recruitin' Segeants’ の後半でちらりと出てくる軍用ドラムなど、
音楽面のアイディアがストーリーテラーの歌い手をサポートしていて、
歌詞を解さずに聴いている外国人にも、音楽のイマジネーションを広げてくれますね。
フィンドレイとジリアンの軽やかなハーモニーが、
優美な伝統歌に現代性をもたらした傑作です。

Findlay Napier & Gillian Frame with Mike Vass "THE LEDGER" Cherry Groove CHERRY008 (2020)
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捕鯨航海を歌う アイリス・ケネディ [ブリテン諸島]

Éilís Kennedy  SO ENDS THIS DAY.jpg

アイルランド、西ケリー、ディングル半島出身のフォーク・シンガー、
アイリス・ケネディの4年ぶりの新作。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-04-25
アイリスは、マサチューセッツのニュー・ベッドフォード捕鯨博物館を訪れて、
19世紀の捕鯨航海の航海日誌や手紙を読みこみ、
そこから着想を得て作曲したという5曲が収録されています。

アイリスが01年のデビュー作“TIME TO SAIL” から、
一貫して海に生きる人々の歌を歌ってきたのは、
両親の仕事を継承したものだということを、今回初めて知りました。
船乗りにまつわる唄といってもシー・シャンティではないんですね。
今作では、1800年代の捕鯨の時代にさかのぼり、
漁師たちや陸に残された女房たちの悲喜を歌にしています。

捕鯨船員の歌のほかにも、投獄されたフェニアンの救出劇や北極圏の探検家たちなど、
海の冒険物語を丹念に掘り起こして歌うアイリスの歌声は、
感情を押し殺すようなシンギングで通していて、凛としたすがすがしさに胸を打たれます。
鯨を捕るためにバフィンズ湾へと船出した、フランクリンと勇敢な乗組員の物語
‘Lord Franklin’ をタイトルを変えて歌った‘Franklin's Crew’ は、その白眉でしょう。
ラストの無伴奏で歌った‘Row On, Row On’ の静謐な歌いぶりも、胸にしみます。

本作のプロデューサーに、ジェリー・オバーンを起用したのは大正解でしたね。
多くの歌手の伴奏を務めてきた名ギタリストのジェリー・オバーンですけれど、
6弦・12弦・テナー・ギター、ティプレなど各種弦楽器をオーヴァーダブした
繊細で透明感のあるサウンドは、アイリスの音楽性とベスト・マッチングです。

Éilís Kennedy "SO ENDS THIS DAY" Éilís Kennedy no number (2020)
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70年代カリビアン・クロスオーヴァー ハリー・ベケット [ブリテン諸島]

Harry Beckett  JOY UNLIMITED.jpg

へぇー、こんなレコードがCD化されるとは思わなかったなあ。
UKジャズの盛り上がりが、リイシューにも及ぶようになったんでしょうか。
ブリティッシュ・ジャズと呼ばれていた時代、
70年代のロンドンで活躍したトランペット奏者、
ハリー・ベケットの75年作がCD化されました。

Chris McGregor’s Brotherhood of Breath.jpg   Mike Osborne  OUTBACK.jpg

ぼくにとってハリー・ベケットといえば、
クリス・マグレガーのブラザーフッド・オヴ・ブレスでの活躍が、
真っ先に思い浮かぶところ。
南ア出身のトランペット奏者モンゲジ・フェザとハリー・ベケットは、
このビッグ・バンドの二枚看板のトランペッターでした。
そして、同じくブラザーフッド・オヴ・ブレスのメンバーだったアルト・サックス奏者、
マイク・オズボーンの70年作“OUTBACK” でのハリーの激烈なプレイも忘れられません。

そんなモーダルからフリーまで自在の、
先鋭的なミュージシャンというイメージが強いハリー・ベケットですけれど、
本作はそうしたイメージを大きく裏切る異色作です。
ハードコアな側面を封印した、ポップなクロスオーヴァー作なんですねえ、これが。

ベースがせわしなくトレモロするリフにのせて、キャッチーなテーマを持つ
オープニングの‘No Time For Hello’ からして、いつものハリー・ベケットとは大違い。
ぱあっとまばゆい陽の光が広がるサウンドに、意表を突かれます。

ずいぶん後になって知ったんですけれど、
ハリー・ベケットはバルバドス出身のミュージシャンだったんですね。
近年ではリアーナ、シャバカ・ハッチングスの出身国として、
急に通りが良くなったバルバドスですけれど、
トリニダード・トバゴの隣国で、同じ英連邦王国ということもあり、
文化面でも共通する両国、音楽面の共通項といえば、カリプソ。

本作では2曲目の‘Glowing’が、もろにカリプソのメロディなんですが、
ドラムスのリズムがカリプソになっていなくて、ちょっと残念。
イギリス人ドラマーは、本場のリズムのニュアンスがわからなかったみたい。
でもそのあと、アクースティック・ギター一本を伴奏に吹いた
短い‘Changes Are Still Happening’ がチルなムードで、これがまたいいんだな。

Joe Beck  BECK & SANBORN.jpg

当時の硬派なジャズ・ファンには、思いっきり無視された作品ですけれど、
ぼくにとっては、ジョー・ベックのクドゥ盤と並んで愛聴したレコードでした。
(写真はアメリカCBSから出たリイシューCD)

そうそう、このレコードでは、主役のハリー・ベケットが霞むほど、
ギターのレイ・ラッセルが弾きまくっていて、
そんなところも、ジョー・ベックのクドゥ盤と似通ってたんですよねえ。
どちらも75年のレコードで、ジャズ・ロックからクロスオーヴァーに
移り変わりつつあった時代を象徴していました。

なーんて当時のニュアンスを知らない今の方が、
素直に受け止めてもらえそうなアルバムです。

Harry Beckett "JOY UNLIMITED" Cadillac SGCCD017 (1975)
Chris McGregor’s Brotherhood of Breath "CHRIS MCGREGOR’S BROTHERHOOD OF BREATH" Fledg’ling FLED3062 (1971)
Mike Osborne "OUTBACK" Future Music FMRCDO7-031994 (1970)
Joe Beck "BECK & SANBORN" CBS ZK40805 (1975)
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フォーキー・ソウル・フロム・ロンドン リアン・ラ・ハヴァス [ブリテン諸島]

Lianne La Havas.jpg

ジャケ買いです。
縮れ毛で顔は隠れていても、チャーミングな表情に、一目惚れしちゃいました。
ぼくには初めての人で、すでにこれが3作目という、
ロンドンのシンガー・ソングライターとのこと。

お持ち帰りして、ファクトリー・シールをはがすと、見開きジャケットの内側には、
いかにもロンドンらしい風景をバックにした、モノクロームの写真が2枚。
エキゾティックな顔立ちで、めっちゃキュートな女性じゃないですか。
おとうさんはギリシャ人、おかあさんはジャマイカ人だそうで、
リンダ・ルイスみたいなポジショニングのシンガーでしょうか。

物憂げにつぶやくような歌い出しに、ムードのある歌声だなと思わせるんですが、
感情の高まりとともに、声量をたっぷりに、パンチのある声も繰り出せる人です。
振れ幅の大きな表現力を持っているんですけれど、
曲の流れのなかで、それがとても自然に移ろっていくので、
「歌い上げる」といった印象を与えないところが、ミソ。
のびやかで、ドラマのある歌を歌える人ですね。

ジャケットの粗い粒子のモノクロームが、音楽のマチエールをよく表しています。
ギターやベースの手弾き感やシンバルの響きがライヴ感たっぷりで、
ざっくりとした粗い音づくりに、ミックスの手腕を感じます。
ギターはリアン自身が弾いているんですね。
アルペジオやコード・バッキングのギター・ワークを聴いていると、
フィル・アップチャーチとかアーサー・アダムスといった
往年の歌伴の職人芸を思わせ、感心させられました。
ソングライティングも巧みで、5拍子のラスト・トラックなんて、
変拍子好きにはココロくすぐられます。

13年に来日して‘Tokyo’ なんて曲を作っていたり、東京で撮ったMVがあったり、
プリンスとも共演していたなんてエピソードも、いまごろようやく知りました。
17年にも来たそうなので、また観ることもできるかな。
その時を楽しみに待ちましょう。

Lianne La Havas "LIANNE LA HAVAS" Warner 0190295254889 (2020)
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