SSブログ
南アメリカ ブログトップ
前の30件 | -

ギュイヤンヌ・フランセーズの新しいミューズ サイナ・マノット [南アメリカ]

Saïna Manotte  KI MOUN MO SA.jpg   Saïna Manotte  DIBOUT.jpg

サイナ・マノットというステキなクレオール・ポップのシンガーを知りました。
20年にデビュー作を出し、22年にセカンドを出しているんですが、
日本に入ってきたことがなく、お目にかかったことはありませんでした。

今年は寒さが厳しくなったあたりから、
アラブのシャバービーの女性歌手まつりが続いていたんですけれど、
サイナ・マノットはそれと似たテイストの人で、
フランス領ギアナのクレオール・ポップとしては珍しく、
哀感を強調するせつな系の歌い口のシンガーです。

サイナ・マノットは、92年フランス領ギアナの首都カイエンヌの生まれ。
17年に結婚したマキシム・マノットともに作曲・プロデュースしたデビュー作で、
ギュイヤンヌ・フランセーズの新しいミューズとして大きな注目を浴びました。
ラ・シガールで開かれたマラヴォワのコンサートのオープニング・アクトを務めたほか、
デデ・サン=プリのオープニング・アクトも務めたのだとか。

そのデビュー作では、サイナ・マノットがピアノ、シンセを弾き、
サイナの夫のマキシム・マノットがギター、ベース、アレンジを担い、
あともう一人のパーカッションの3人でサウンドを作っています。
あと曲によって、別のギタリストのサポートが付くだけですね。

22年のセカンドでも、サイナ以外の別の人が鍵盤をサポートしているものの、
少ない人数で制作している点は変わらず。
ヌケのあるサウンドが風通しよく、ヴァラエティ豊かな楽曲を
さまざまに料理していて、3人という少人数の制作とは思えないほど。
2作に共通するのは、楽曲の良さですねえ。

サイナのチャーミングな歌声が哀愁たっぷりの楽曲と絶妙にマッチして、
フレンチ・カリブのズークより、アンゴラのキゾンバに親和性を感じさせるこの2作、
日本で知られないままではもったいない。
輸入業者さん、ぜひ仕入れてください。

Saïna Manotte "KI MOUN MO SA" Aztec Musique CM2659 (2020)
Saïna Manotte "DIBOUT" Aztec Musique CM2805 (2022)
コメント(0) 

94歳で初ソロ作を出したアフロ・コロンビア音楽の名作曲家 マヒン・ディアス [南アメリカ]

Magín Díaz  EL ORISHA DE LA ROSA.jpg

前回記事のアルバムをきっかけに始めたコロンビア盤輸入作戦でしたけれど、
まさかこのCDを入手できるとは思っていませんでした。
既に入手困難で、レアCDになっていると聞いていただけに、
「あるよ」の返事をもらった時は、思わずガッツ・ポーズしちゃったもんねえ。

マヒン・ディアスが誰かも知らず、いい味出してるオヤジが写ったジャケットに、
これ、ゼッタイいいヤツ!とヨダレを垂らしてたんですが、
いやぁ、手に入れてみて、想像をはるかに超えたトンデモ級の大傑作で、
大カンゲキしちゃいました。

Magín Díaz  EL ORISHA DE LA ROSA package.jpg

まずCDが届き、外装フィルムをはがして、装丁の豪華さにビックリ。
観音開きになっている左右には、上下に開くポケットが付いていて、
計4つのポケットには、それぞれCD、ブックレット、
18枚のアートカードを封入した、二つのエンヴェロップが入っています。
ひと昔前のコロンビアではとても考えられないような、
アーティスティックなパッケージに、ドギモを抜かれました。

ボーナス・トラックの2曲を含む全18曲、収録時間78分40秒に及ぶこのアルバム、
四大陸13か国から、100人におよぶミュージシャンとエンジニア、
19人のグラフィック・アーティストが参加して、
4年をかけて制作されたという、壮大なプロジェクト作品。
力作なんて言葉じゃ足りないくらいの、タイヘンなアルバムです。

マヒン・ディアスって、いったいどういう人?とあらためて調べてみると、
アフロ・コロンビア音楽の名曲を数多く生んだ歌手だったんですね。
22年、コロンビア北部ボリバル県マアテス市ガメロ村の生まれ。
貧しい家に生まれ、サトウキビ刈りの父親は歌手でダンサー、
製糖工場でコックをする母親はパレンケの女性が歌う
ブジェレンゲの名歌手だったというのだから、彼もまたパレンケーロなのでしょう。

読み書きを学ぶこともなく、幼い頃から製糖工場で働き、
工場でキューバからやってきた出稼ぎ労働者にキューバの曲や音楽を学び、
父親から歌や作曲、タンボーラを習って、音楽の才能を伸ばしていきました。
そんな少年時代にキューバ人から覚えたのが、
セステート・アバネーロが1927年に発表した ‘Rosa, Qué Linda Eres’ でした。
マヒン少年はこの曲を、ソンからチャルパの形式に変え、
自作の詩を付けて‘Rosa’ と題して歌いました。

のちにマヒンの代表曲となったこの曲が、本作のオープニングにも置かれ、
コロンビアの大スター、カルロス・ビベスとトトー・ラ・モンポシーナを迎えて、
マヒンは力強く歌っています。
オリジナルのアバネーロのヴァージョンにあった、悲痛なエレジーは消え失せ、
マリンブラの伴奏が祝祭の彩りを強調しているのは、
逃亡奴隷が自由を勝ち得たパレンケが、
この曲に新たな息吹を与えたことを示しています。

マヒンは、80年代にロス・ソネーロス・デ・ガメロのメンバーとなるまで、
レコーディングとは無縁に過ごしてきました。
コミュニティの外の世界では無名だった彼が、
作曲家として光があたるようになったのは、90歳を過ぎてからのことです。
12年に初のレコーディングを経験したあと、本作の制作が企画され、
17年に94歳で初アルバムを完成させました。

本作によってコロンビア政府は、アーティストに与える最高の評価である
文化省の「国家生活・労働賞」をマヒンに授与し、
その年のラテン・グラミー賞のベスト・フォーク・アルバムと
ベスト・パッケージ・デザイン・アルバムの二部門にノミネイトされました。
マヒンは、息子のドミンゴ・ディアスとともに、グラミー賞授与式に出席するため
ラス・ヴェガスへ向かい、最優秀フォーク・アルバム賞は逃したものの、
最優秀パッケージ・デザイン・アルバム賞を獲得したのです。

本作に参加した数多くのミュージシャンのなかで、
目立ったところだけ取り上げると、ブジェレンゲの名歌手ペトローナ・マルティネス、
アフロ・コロンビアン・エレクトロのシステマ・ソラール、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-08-10
コロンビア版マヌーシュ・スィングのムッシュ・ペリネ、
メキシコはモンテレイのクンビア王、セルソ・ピーニャ、
元OK・ジャズの名ギタリスト、ディジー・マンジェク(18年にバロジと来日!)
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-03-27
DJ/トロピカル・ブレイクビーツ・メイカーのキャプテン・プラネットなど、
新旧世代の多士済々がマヒンを守り立てています。

マヒン自身も、90歳を超す年齢とは思えないパワフルな歌声で、
フィーチャリングされた歌手たちに負けない存在感を示していて、
圧巻の一語に尽きます。声を張り上げて高音を伸ばし続けて歌うさまに、
90年の人生を賭して初アルバムに駆ける鬼気すら感じて、
ゾクゾクしてしまいました。

マヒンはグラミー賞授与のために訪れたラス・ヴェガスで体調を崩して入院し、
病院で受賞を知った後に亡くなりました。
あと2日で、95歳を迎えようという日のことだったそうです
(12/30/1922 - 12/28/2017)。
これほどの素晴らしい大作を、生涯の最後に作り上げて逝くなんて、
これ以上ない音楽人生のフィナーレといえないでしょうか。

Magín Díaz "EL ORISHA DE LA ROSA" Noname/Chaco World Music no number (2017)
コメント(0) 

アフロ・コロンビア音楽の饗宴 トトー・ラ・モンポシーナ、グルーポ・バイーア、オルケスタ・デ・ルーチョ・ベルムーデス [南アメリカ]

Totó La Momposina, Grupo Bahía, Orquesta De Lucho Bermúdez  OJO DE AGUA.jpg

トトー・ラ・モンポシーナの新作が19年に出ていると聞いて、
欲しいなぁ~と思っていたんですが、
コロンビア国内でしか売っていないというので、クヤし涙をのんでおりました。
なんだかここ2・3年、コロンビア国内のみで流通している作品が
目に付くようになってきたなあ。

こりゃあ、なんとかせにゃいかんと、
「コロンビア盤輸入作戦本部」を立ち上げて、対策に乗り出しましたよ。
てのはウソですが、本腰を入れて入荷ルートを開拓しなければと。
根気よくお店をあたり続けて、オファーを受け入れてくれるところを
ようやく見つけ、オーダーしました。

初めてのお店だったので、遅配などのトラブルを防ぐため、
DHLで送ってもらったんですけれど、案の定というか、税関で開封され、
税関御用達の補修テープぐるぐる巻きで届きました。
う~む、税関って、DHLだろうが容赦ないのね。
コロンビアからCDを輸入すると、毎回必ず税関に開封されるんだけど、
これって、何を疑ってんの? 麻薬?
ペルーからの荷もときどき開封されるけれど、ブラジルは一度もないな。

で、届いたこのアルバムなんですが、トトー・ラ・モンポシーナの新作ではなく、
グルーポ・バイーア、オルケスタ・デ・ルーチョ・ベルムーデスという、
アフロ・コロンビア音楽を代表する三者による、豪華共演作だったんですね。
オープニングのルーチョ・ベルムーデス作のマパレ ‘Prende La Vela’ で、三者が共演。
39年結成のコロンビアの名門、ルーチョ・ベルムーデス楽団をバックに
トトーが歌うのなんて、初めて聴くなあ。
コスタ(カリブ海沿岸)の音楽を現代化するグルーポ・バイーアも加わって、
ここでしか聴けない贅沢なサウンドになっています。

ルーチョ・ベルムーデス楽団は、管楽器だけで、サックス5、トランペット5、
トロンボーン4もいる大編成。複数の男女歌手を擁していますけれど、
女性歌手の一人が、めちゃチャーミング♡
クレジットに二人の女性の名前があるものの、特定できないのが残念であります。

グルーポ・バイーアは、リーダーのウーゴ・カンデラリオが弾く
マリンバがトレードマークで、このアルバムでもサウンドのキーとなっていますね。
ウーゴ・カンデラリオは、アフロ・コロンビア音楽を広める文化活動として、
このグループを結成しましたけれど、コロンビアを代表するグループとして、
海外の国際的な場で演奏をしてきた25年の実績があります。

トトーが歌うガイタの ‘Margarita’ のグルーヴなんて、やっぱり最高ですね。
縦笛のガイタ・エンブロも大活躍していますよ。
これぞアフロ・コロンビア音楽の饗宴。
こういうアルバムこそ、全世界に流通させなきゃいけません。

Totó La Momposina, Grupo Bahía, Orquesta De Lucho Bermúdez "OJO DE AGUA" Acento Mestizo no number (2019)
コメント(0) 

あなたはだあれ? イグナシオ・マリア・ゴメス [南アメリカ]

Ignacio Maria Gomez  BELSIA.jpg

ノー・インフォメーションで買ってきたCD。
ワールド関係の試聴機の棚に並べてあったものの、
お店のポップがついておらず、どこの国の歌手かもわからず、
CDをいくら凝視しても、ヒントになりそうな記述は皆無。どなたさまでしょ?
う~ん、ひさしぶりに味わう、このドキドキ感、いいなぁ。
ネット時代になって、みずてんで買うなんてことがなくなっちゃったもんねえ。

試聴してみると、アフリカらしく、リシャール・ボナやロクア・カンザを連想させる、
洗練されたコンテンポラリー・センスの持ち主のよう。
アーティスト名も曲名もスペイン語というのが謎で、
アフリカでスペイン語といったら、赤道ギネアと西サハラしかない。
???のまんま、家にお持ち帰りし、あえてネット検索などしないまま、
ひととおり聴いてみました。

試聴機では、中性的な声に、男性か女性かすら判然としなかったんですけれど、
デジパックを開くと、ギターを抱えたむさくるしい感じの男が写っていて、
レユニオンあたりのインド洋の人に見えなくもない。
じっさい、1曲目はインド洋音楽ぽくあるんですけれど、
風貌に似合わず、歌声は繊細なシンガー・ソングライターといった雰囲気。
ノー・フォーマット!レーベルあたりの、フランス人好みのサウンドです。

続く2・3曲目の浮遊感のあるメロディや歌声は、リシャール・ボナみたいだし、
4曲目はサンバ、8曲目はボサ・ノーヴァという具合で、???
結局、耳だけではまったく素性がわからず、あきらめてネット検索。
すると、なんとアルゼンチンのシンガー・ソングライターのデビュー作だとわかり、驚愕。

はぁ? アルゼンチン人が、なんでこんなアフリカっぽいの?と思ったら、
12歳の時にメキシコに移り住み、ギネアの音楽家たちのコミュニティと出会って
マンデ音楽を学び、音楽的感性を育んだとのこと。
え? メキシコにギネア人のコミュニティがあるの?
でも、このアルバムにマンデ音楽の要素はないよねえ。
ラスト・トラックで、本人がバラフォンを叩いて歌ってはいるけど。

なんだか、想像がまるで及ばない経歴ですけれど、
この音楽を聴けば、マンデ音楽はさておき、リズム・センスはたしかにアフリカだし、
不思議なミクスチャーも腑におちるような、そうでもないような。

音数の少ないシンプルな伴奏は、なかなかに上質。
誰でしょう?とクレジットをみると、
コラを演奏しているのはバラケ・シソコで、チェロはヴァンサン・セーガル。
うわぁ、予備知識なしで、かえって良かったと思われるお二人が参加
(ファンの方はごめんなさい。ぼくはこの二人が苦手)。
それがわかってたら、たぶん試聴すらしなかったと思います、自分。
なにも知らなかったから出会えた、ラッキーな一枚でありました。

Ignacio Maria Gomez "BELSIA" Hélico HWB58135 (2020)
コメント(0) 

コロンビア伝統ポップの達人 カルロス・ビベス [南アメリカ]

Carlos Vives Cumbiana.jpg

映画のワン・シーンのような印象的なジャケット。
サウンドトラックかと見紛うのは、
コロンビアのヴェテラン・ポップ・シンガー、カルロス・ビベスの新作です。
『クンビアーナ』という魅力的なタイトルに、ソッコーいただいてまいりました。

カルロス・ビベス、いい男ですねえ。
もとはロック・シンガーからスタートした人ですけれど、
バジェナートの先達に敬意を表して、オールド・スクールなバジェナートを
真正面から取り組んだアルバムを93年に出すと、
その後オーセンティックなバジェナートをアップデートして、
オシャレな若者でも楽しめるポップスに仕上げ、一躍不動の人気を勝ち取りました。

新作は、バジェナートではなくクンビアをテーマに、
クンビアで使われる笛や太鼓などの楽器に、
アコーディオンやブラスバンドなどをまぶしながら、
親しみのあるトロピカル・ポップに仕上げています。

クンビアの田舎臭さを嫌うヒップ・ホップ育ちの若者でも抵抗なく聞けるよう、
アルバム全体をレゲトンのビートで貫きながら、
はしはしでデジタル・ビートから生音の太鼓のアンサンブルへと
シームレスに繋ぎ、両者を違和感なく聞かせています。
そうしたリズム処理や、クンビアのメロディやサウンドを巧みに散りばめるところは、
まさにコロンビア人のハートをつかむ手練といえます。

レゲトンばかりでなく、ヒップ・ホップ/R&B、ラガマフィン、フラメンコ、サルサを
フィーチャリング・ゲストを迎えながら取り入れるところも、
ポップスのツボを知り尽くしたビベスならではの手腕ですね。
ゲストにルベーン・ブラデス、ジギー・マーリー、
スペインのアレハンドロ・サンスのほか、
コロンビア系カナダ人シンガーのジェシー・レジェスに、
プロビデンシア島出身のエルキン・ロビンソンが参加しています。
ルベーン参加のクンビア・サルサは、なかなかの聴きものです。

アルバム・ラストは、エレクトロにクンビアの笛(ガイタ)を絡ませたインスト曲で、
クンビア・アンビエントとでも呼びたい仕上がり。
笛はちゃんとクンビアの伝統形式にのっとって、ベース・ラインを吹く笛、
メロディを吹く笛、即興を奏でる笛の三重奏を、多重録音で作り出していますよ。

コロンビアのフォークロア愛を溢れさせる、ラテン・ポップスの大スターが、
ヒット曲を生み出す職人的手腕も十二分に発揮した、会心のアルバムです。

Carlos Vives "CUMBIANA" Sony Music Latin 19439775642 (2020)
コメント(0) 

伝統クンビアのポリリズムに酔いしれる ロス・ガイテーロス・デ・サン・ハシント [南アメリカ]

Los Gaiteros De San Jacinto  TOÑO GARCÍA.jpg

電子音楽にうつつを抜かしていたら、
生音のパーカッションが爆裂する一枚に、ぶっ飛ばされてしまいました。

コロンビアはクンビアの老舗楽団、
ロス・ガイテーロス・デ・サン・ハシントのアルバムです。
もっともオーセンティックなスタイルの伝統クンビアを継承している名門楽団で、
太鼓の弾けるビートが生み出すグルーヴが、もう凄まじいんです。

タンボーラ、アレグレ、ジャマドールという大・中・小の太鼓に、
マラカスが絡み合うポリリズムは、単純な4分の2拍子を、
とてつもなく複雑なリズムに変貌させます。
複数のガイタ(縦笛)はメロディを奏でつつ、反復フレーズをループする
リズム楽器としての役割も担っているので、
とびっきりリズミックなサウンドになるんですね。
これぞ人力のパーカッション・ミュージックの醍醐味でしょう。

昨年の暮れ、6人組のソン・デ・ラ・プロビンシアのアルバムで
ひさしぶりに伝統クンビアを味わったばかりですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-12-03
あちらより楽団の人数も多く、迫力満点・野趣なクンビアの味を堪能できます。

全15曲77分超というヴォリューム感たっぷりの本作、
嬉しいのはフォークロアな伝統クンビアばかりでなく、歌謡化したクンビアも楽しめること。
アルバム終盤の2曲で、アコーディオンとエレキ・ベースが加わり、
ぐっと大衆歌謡寄りのクンビアをやっているんですね。
エレキ・ベースが♪ぶん・ぶん・ぶぱっ!♪と重く粘っこいグルーヴを醸し出し、
アクセントを付けているところなど、聴きものです。

Los Gaiteros De San Jacinto "TOÑO GARCÍA: EL ÚLTIMO CACIQUE" Llorona no number (2019)
コメント(0) 

知られざるチリの都市大衆歌謡 [南アメリカ]

CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2  FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA.jpg

SP時代のチリ音楽を編集した2枚組CDですって?
「1927年から1957年」とあるので、
第二次世界大戦をはさんだ前後30年間の録音ということになります。

へぇ~、そんな時代の音源なんて、聴いたことがありませんねえ。
だいたいチリの音楽じたい、ビオレッタ・パラが歌った民謡とか、
クエッカやトナーダといったフォルクローレのレコードくらいしか
聴いたことがないんだから、ほとんど知らないに等しいもんです。

しかも、タイトルを見ると、フォルクローレを集めたものではなく、
どうやら都市歌謡に焦点を当てたもののよう。
チリの都市大衆歌謡??? 思い当たるところでは、
メキシコへ渡って大スターになったルーチョ・ガティーカとか、
アルトゥーロ・ガティーカといったチリ人歌手は確かにいますけど、
ああいった汎ラテン的歌手が歌った大衆歌謡を集めたものなんでしょうか。

う~ん、どんな歌を収録しているのやら、聴く前からワクワクしていたんですが、
こりゃあ、スゴイ。チリの大衆歌謡がこれほどヴァラエティ豊かなものだとは、
まったく知りませんでした。自国のクエッカ、トナーダ、バルスはじめ、
タンゴ、ルンバ、サンバ、ボレーロなどチリ周辺国のレパートリーはもちろんのこと、
フォックス・トロット、ポルカ、スウィング、ブギウギまで飛び出してくるんです。

うわぁ、こりゃ、まるでチリの「ジャズソングス」じゃないですか。
ブギウギはさすがにアメリカ産ですけれど、
ヴァイオリンとアコーディオンが加わっているところがミソで、
アメリカ音楽より、ヨーロッパの影響が強く感じられます。
フォックス・トロットやワン・ステップのレパートリーの演奏に、
ヨーロッパ経由を感じさせるほか、
ディスク2のキンテート・スウィング・ホット・デ・チレは、
ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリの
フランス・ホット・クラブ五重奏団をまんまコピーしています。
フランスからの影響がこれほど強いとは知りませんでしたねえ。

聴き進むほどに、驚きが連続するアンソロジー。
意外なほどに欧米音楽の影響が強く、洗練された都市歌謡が存在していたことに合わせて、
チリ独自の音楽が発展しなかった理由も垣間見れるところが面白い。
フォルクローレだけを追っかけていたら、
けっして発見できないチリ都市歌謡の魅力満載です。

いやあ、こりゃ、とんでもないお宝もののリイシュー・アルバムですね。
サンティアゴ・デ・チレ大学ラジオ局による制作とのことで、
教育機関が大衆歌謡にスポットをあてることも、驚くべきことじゃないですか。
フォルクローレならいざしらず、アカデミズムが一番敬遠しがちなテーマだというのに。
このアンソロジーは、今後チリ音楽を語るのに、
常に参照されることになることウケアイですね。
2020年ラテンのベスト・ディスカバリー・アルバムです。

v.a. "CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2: FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA, 1927-1957"
Radio Universidad De Santiago no number
コメント(0) 

モンテマリアナのガイテーロ ソン・デ・ラ・プロビンシア [南アメリカ]

Son De La Provincia.jpg

コロンビアからもう1枚嬉しいアルバムが届きました。
6人組のソン・デ・ラ・プロビンシアは、
縦笛ガイタ2本と打楽器3台でオーセンティックなクンビアを聞かせるグループ。
メンバーの出身はさまざまのようですが、ガイタの二人は、
クンビアを生んだマグダレーナ川に近いカルメン・デ・ボリバルだそうで、
北部山岳地域のモンテス・デ・マリアで12年に結成されたそうです。

メロディを担当するガイタのエンブラが、軽快に吹き始めると、
すぐそのあとを、タンボーラ、アレグレ、ジャマドールの太鼓3台と、
もう1本のガイタでリズムを担当するマチョが追いかけるように
リズムを疾走させていくという、伝統的なクンビアを聞かせます。
かけ声も威勢よく、なんともフレッシュじゃないですか。

YouTubeを観たら、軽快なマラカスは、マチョを左手で操って吹きながら、
右手で振っているんですね。
マチョは穴が一つか二つしかないリズム楽器だから、こういう芸当ができるのか。

昔ながら変わらない伝統クンビアですけれど、いまや民俗音楽のディスクぐらいでしか、
なかなか聴くことができなくなってしまっているので、
これは貴重なCDじゃないでしょうか。
パーカッション・ミュージック好きにはたまらない、
アフロ・コロンビアーノの味を堪能できる嬉しい1枚です。

Son De La Provincia "LA CAJITA DE LA ENCOMIENDA" Mambo Negro no number (2018)
コメント(0) 

ラップ・フォルクロリコ・パレンケロ コンビレサ・ミ [南アメリカ]

Kombilesa Mi  ESA PALENKERA.jpg

こりゃあ、スゴイ!
コロンビアの逃亡奴隷の解放区、パレンケの末裔にあたる若者たちが、
パレンケの言語とリズムでヒップ・ホップした大傑作!

カルタヘナ南東の丘陵地帯にあるパレンケ・デ・サン・バシリオは、
人口約3,500人の村。かつては数多くあったパレンケも、スペイン人に破壊され、
現存する村はここただ一つとなってしまったものの、
ユネスコの世界遺産にも登録されて、その存在が広く知られるようになりました。

奴隷制、植民地時代、そして今も続く軍やゲリラとの武力紛争と、
400年にわたるコロンビアの暴力の歴史にさらされてきたサン・バシリオの住民にとって、
コミュニティを維持することが、パレンケの文化的一体性を保つことにもなったんですね。
ラテン・アメリカの中でアフリカを作り上げるというパレンケの目標に向かって、
最前線にいるグループが、彼らコンビレサ・ミなのではないでしょうか。

特殊仕様の変型ジャケットに収められた
ブックレットのメンバー9人の写真が、グッときます。
メンバーのファッションやヘア・スタイルからは、同時代性のセンスとともに
闘いの歴史を経てきた祖先から受け継いだ抵抗の精神が、
びんびんと伝わってくるようじゃないですか。
居並ぶメンバーの立ち姿の自信に満ち溢れた表情からも、彼らの気概が伝わってきますよ。

マリンブラの弦をはじく低音が、ぐいんぐいんとリズムを前に押し出し、
伝統的な打楽器が叩きだすアフロ系のリズムにのせて、
9人のメンバーのラップが行きかうビートが快感です。
高中低音バランスのとれたパーカッション・アンサンブルは、
奥行きがありつつ十分なスペースがあり、
自在にリズムを変えていく合間を縫うようにラップのフロウが泳いでいくところは、
コール・アンド・レスポンスの歌とコーラス以上に、伝統的です。

ミュージック・マガジン11月号の
「ラテン/カリブ音楽オールタイム・アルバム・ベスト」で、
未来の希望につながるラテン音楽がぜんぜん見当たらないとうなだれましたが、
ようやく出会えましたね。今年のラテン・ベスト、文句なしでっす!

Kombilesa Mi "ESA PALENKERA" Kombilesa Mi no number (2019)
コメント(0) 

クレオール・ケイジャンの伝統と現代 ロスト・バイユー・ランブラーズ [南アメリカ]

Lost Bayou Ramblers  RODENTS OF UNUSUAL SIZE.jpg   Lost Bayou Ramblers  KALENDA.jpg

戦前ケイジャンをそのまま再現するような演奏ぶりなのに、
ちっとも古臭くないどころか、すごくヴィヴィッドなサウンドに
いつも目を見開かされ思いのする、ロスト・バイユー・ランブラーズ。
フィドルのルイ・ミショーとアコーディオンのアンドレ・ミショーの兄弟を中心に、
パワフルでディープな伝統ケイジャンを奏でるグループです。

ポピュラー音楽の基礎となったカリブ海発祥のリズム「カリンダ」をタイトルにした
17年の前作から2年、ドキュメンタリー映画のサウンドトラックという新作が届きました。
ジャケットに描かれているビーバーに似たヌートリア、一見カワイく見えますけれど、
これが水辺の植物を食べ尽くす害獣で、
繁殖力が高く、ルイジアナでも深刻な被害で問題視されています。

サウンドトラックということで、
ルイ・ミショーの唾が飛び散るようなヴォーカルが聞けるトラックは少なめですけれど
映像的なサウンドをふんだんに表した本作は、
ロスト・バイユー・ランブラーズの新境地といえ、
アイディアに富んだ短めの22曲を詰め込んだアルバムは、聴きものです。

そのなかでも、変わらないのは、ルイ・ミショーの荒々しいフィドル。
世の中のサウンドがおしなべてスムースにきれいになっていくなかで、
こんなにプリミティヴな味わいをデビュー当時から保ち続けているのは、嬉しいですね。
トランペットをゲストに迎えた2曲で、
ノスタルジックなダンスホールの雰囲気を横溢させるほか、
ヒップ・ホップ・トラックもあり、ゴリゴリの伝統と現代性を共存させる手腕が鮮やかです。

Lost Bayou Ramblers "RODENTS OF UNUSUAL SIZE (Music From The Motion Picture)" Lost Bayou Ramblers no number (2019)
Lost Bayou Ramblers "KALENDA" Lost Bayou Ramblers no numer (2017)
コメント(2) 

ギュイヤンヌのクレオール・リズム ヴァレリー・ジョアンヴィユ [南アメリカ]

Valérie Joinville et Les Sapotilles.jpg

フランス領ギアナのCDをあれこれ買ったのは、
ヴァレリー・ジョアンヴィユの80年作がCD化されたのを知ったからでした。
せっかくだから、ほかにも何かないかなと探して、網に引っ掛かったのが、
スフランとフェルミエやヴィクトール・クレだったんですね。

で、そのお目当てのヴァレリー・ジョアンヴィユの80年作、
フランス領ギアナの伝統音楽に関心がある人なら、見逃せない名作なんですよ。
太鼓と歌というシンプルなフォーマットの、
コーラスとのコール・アンド・レスポンスの音楽ですけれど、
トトー・ラ・モンポシーナが好きな人だったら、ゼッタイ気に入りますよ。

フランス領ギアナに伝わるクレオール・リズムには、
カセーコ、グラジェ、レロール、カムゲ、デボ、ベリア、グラジェヴァル、
ジャンベル、ムララ、カラジャ、ジュバなど、数多くのリズムがあります。
このうちヴァレリーは、最初に挙げた6つの代表的なリズムを取り上げた曲を
メドレー形式で歌っていて、各リズムの特徴をはっきり聴き取ることができます。

カムゲとベリアは奴隷時代に遡るワーク・ソングを起源とするリズムで、
ベリアはフルベ(プール)人が伝えたリズムだとのこと。
グラジェとレロールはアフリカとフランスが混淆したリズムで、
グラジェはワルツ、レロールはカドリーユを、
アフリカのテイストでミックスしたリズムです。

グラジェはフレーム・ドラムで演奏され、このリズムで踊られるサロンは、
人々をダンスに招き入れるイントロダクションの役割を果たし、
このアルバムでも1曲目で演奏されています。

デボはセント・ルシア島から伝わったムララが起源のリズムで、
基本パターンはカセーコと変わりありませんが、
歌やソロの場面では違いが出るといいます。

そして、フランス領ギアナを代表する
アフロ=ガイヤネーズ文化が生み出しリズムがカセーコですね。
西隣のスリナムでブラス・バンドと結びつき、
ポピュラー化したジャンル名として有名になりましたけれど、
もとはギュイヤンヌ発祥のクレオール・リズムなのです。

ヴァレリーはギュイヤンヌの伝統音楽を継承するため、
75年にレ・サポティーユを結成し、国内ばかりでなく海外にも招聘されて演奏し、
フランス、イゼール県のモンセーヴルーで開催された
国際フォーク・フェスティヴァルに出演した時に、本ライヴ録音が残されたのでした。
野性味溢れる太鼓のサウンドを生々しく捉えた録音もバツグンなら、
当時44歳のヴィヴィアンの歌声にも華があり、ギュイヤンヌ音楽の名盤となりました。

GUYANE HERITAGE 1ER DEGRÉ.jpg

82歳となった今もヴァレリーは現役で歌い続けていて、
今年リリースされたギュイヤンヌの伝統音楽集でも、
ヴァレリーの歌が2曲収録されていました。
ちなみにこのギュイヤンヌの伝統音楽集では、全16曲中13曲がカセーコ、
ベリアが1曲、カラジャが1曲、デボが1曲と、カセーコがほとんどを占め、
ギターやベースが伴奏に付く曲が多くなっています。

カラフルなギュイヤンヌのクレオール・リズムと、
オーセンティックなパーカッション・ミュージックの良さを双方味わえる
ヴァレリーの80年作は、またとないアルバムです。

Valérie Joinville Et Les Sapotilles "VALÉRIE JOINVILLE ET LES SAPOTILLES" Sun Studio SUN199013 (1980)
v.a. "GUYANE HERITAGE 1ER DEGRÉ" Patawa KK11 (2019)
コメント(0) 

ギュイヤンヌのおちんちん ヴィクトール・クレ&ブルー・スターズ [南アメリカ]

Quéquette des Blue Stars  AN NOU ROULÉ.jpg

ギュイヤンヌのカーニヴァルの季節になると、
仮面をつけ着飾ったダンス・パーティーが、
首都カイエンヌのあちこちのダンスホールで行われるんだそうです。

カイエンヌでもっとも有名なダンスホール、ル・ソレイユ・レヴァン=シェ・ナナを所有する
ヴィクトール・クレは、彼のバンド、ブルー・スターズとともに、
カーニヴァル・シーズンを盛り上げるのに、なくてはならない人気歌手。
ブルー・スターズは、今年でバンド創立50周年を迎えたヴェテラン・バンドで、
今年のカーニヴァルは、さぞ盛り上がったんでしょうねえ。

近作がすべて売り切れだったのは、売れっ子の証拠なのかな。
ゆいいつ10年作の在庫があったので、
スフランとフェルミエの兄ちゃんコンビと一緒に買ってみました。

コンパから始まるこのアルバム、レパートリーはマズルカが多く、
ビギンももちろんやっていて、クレオール・ポップ満開のアルバムです。
フランス領ギアナのポップスらしい。
打ち込み不使用・生演奏保証の総天然色サウンドで、
サックスの鳴りも痛快なら、バンジョーらしき音もカクシ味で利いています。
ヴィクトール・クレも、エンタテイナーらしい吹っ切れた歌いぶりを聞かせてくれますよ。

ところで、ジャケットにも大きく掲げられているヴィクトールのニックネーム、
Quéquette とは、なんと、おちんちん(!)。
地元民から愛情込めてそう呼ばれているそうですけれど、
名付ける方も、それを受け止める方も、スゴいなギュイヤンヌ人。

Victor “Quéquette” Clet des Blue Stars "AN NOU ROULÉ!" Vhc Studio OBFS24 (2010)
コメント(0) 

ギュイヤンヌのカーニバル スフラン・ケ・フェルミエ [南アメリカ]

Souffrans Ké Fermier  TCHIMBÉ POSON.jpg

フランス領ギアナの音楽というと、
マルチニークの音楽をイナタくしたという印象が強いんですけれど、
スフランとフェルミエというコンビの新作なんて、まさにそのもの。

ギターのカッティングや、ぴちぴちと弾けるリズム・セクションを聴いていると、
ラ・ペルフェクタとかパカタクといったあたりの
80年代マルチニークの伝統ポップ・サウンドが思い浮かんで、
なんだか懐かしくなりますねえ。

ちょっと古い感じのシンセの音色にも、和んでしまいますよ。
サックスとトロンボーンの2管が舞う生音サウンドも、嬉しいじゃないですか。
主役の二人を囃すコーラスがまた、サウンドを一層楽しくしています。
どこまでもハッピーで、哀愁だとか、憂いなんて、みじんもない音楽ですね。

お子様向けなジャケット・デザインは、
どうやらタイトル曲「魚を捕まえろ」をヴィジュアル化したもののよう。
そのタイトル曲のYouTubeを観ると、
二人が川や海で漁をしたり、市場でさばいた魚を売ったりという、
日常生活感たっぷりのヴィデオで、近所の兄ちゃん的な雰囲気そのものですね。

いずれもカーニヴァル向けのアッパーな曲ばかりで、
カラオケ用のインスト・ヴァージョン2トラックを含む全7曲を収録。
カラフルな仮装衣装で飾られたギュイヤンヌのカーニヴァルのスペクタクルが、
目の前を通り過ぎていくのを目撃するかのようで、
あっという間に終わってしまう短さに、
どこか夢うつつの幻を見たかのような思いを覚えます。

Souffrans Ké Fermier "TCHIMBÉ POSON" Patawa KK12 (2019)
コメント(0) 

黒いフルート オマール・アコスタ [南アメリカ]

20181103_Omar  Acosta_Venezolada 1992.jpg   20181103_Omar  Acosta_Latitud 2017.jpg

ベネズエラの経済崩壊、いったいどうなってしまうんでしょうか。
年末にはインフレ率が100万パーセントに達する見通しをIMFが出していて、
08年のジンバブウェの悪夢がよみがえります。
すでに300万人がコロンビアや周辺国へ脱出していて、
国家崩壊の様相さえ呈していますね。

これでは音楽どころではない国内事情でしょうが、
ひさしぶりにベネズエラ音楽を聴ける機会がありました。
日本でベネズエラ音楽の普及に務める東京大学の石橋純さんの企画で、
フルート奏者オマール・アコスタのトーク&ミニ・ライヴが開かれました。
場所は石橋さんのホームグラウンド、東大駒場キャンパスのホールです。
ここに来るのは、12年にチェオ・ウルタードを招いた公演以来ですね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-07-02

スペイン国立バレエ団の来日に帯同してやってきたオマール・アコスタが、
石橋さんに連絡を入れてきたことで、今回のライヴが実現したんだそう。
オマール・アコスタは98年にスペインへ渡り、フラメンコのグループで演奏活動を行い、
12年から16年にかけてスペイン国立バレエ団の音楽監督を務めていたんだそうです。
今回は監督ではなく一演奏家としての来日だったので、自由も利いたんでしょう。
同じスペイン国立バレエ団で来日し、オマール・アコスタ・トリオの一員でもある、
アルゼンチン人ギタリストのセルヒオ・メネンとのデュオ演奏を聞かせてくれました。

4369.jpg4378.jpg

オマール・アコスタが92年に出したデビュー作は、
ベネズエラの都市弦楽に夢中になっていた時期に、
アンサンブル・グルフィーオなどとともに愛聴した、忘れられないアルバムです。
その1曲目に収録されているユーモラスなメレンゲ
‘El Cucarachero’ を演奏してくれたのは、嬉しかったなあ。
終演後、このCDをオマールに差し出したら、オマールは大きな声をあげて、
「わお! このCD、ぼく持ってないんだよ!」だって。
古いレコードやCDにサインをもらう時の、あるあるですね。

オマールのフルートが黒いので、最初木管かなと思ったら、
特殊な合成樹脂製で、特許を持つ台湾の工房で作られているものだそう。
オマール自作のショーロ‘Choreto’ では、後半の倍テン(ダブル・タイム)にしたところから
白いピッコロに持ち替え、急速調のリズムにのせて鮮やかなタンギングを披露していました。

ホローポ、ダンソン、バルス、(アルゼンチンの)サンバ、タンゴに、
バッハ曲をオンダ・ヌエバ(ベネズエラ流ジャズ)で演奏するなど、
自在に吹きこなすオマール・アコスタの妙技を堪能した秋の午後でした。

4366.jpg

Omar Acosta Ensemble "VENEZOLADA" Producciones Musicarte MS090CD (1992)
Omar Acosta Trio "LATITUD" no label M3878 (2017)
コメント(0) 

ペルーのソングライター アンドレス・ソト [南アメリカ]

Andrés Soto  EL BRIBÓN.jpg

去る7月7日に68歳でこの世を去った、
ペルーのヴェテラン・シンガー・ソングライター、アンドレス・ソトの14年作。
長くステージやレコーディングから離れていたため、
復帰作として歓迎されたアルバムだったにもかかわらず、
これが遺作となってしまったようです。

本作はアンドレス・ソトの代表曲“Negra Presuntuosa” “El Tamalito”
“Quisiera Ser Caramelo” “El Membrillito” などに、
新たに書き下ろした曲を、若手ミュージシャンをバックに歌っています。
ピアノ、ヴァイオリン、サックス兼クラリネット兼フルート、ギター、
ベース、カホンに女性コーラスという編成で、
クリオージョやアフロペルーを取り入れた
ペルービアン・ジャズの洗練されたサウンドを聞かせます。

ウィキペディアによれば、
チャブーカ・グランダやノーベル賞作家のバルガス・リョサから賞賛されたとのことで、
エバ・アイジョンやスサーナ・バカ、タニア・リベルタ、フリエ・フレウンドなど、
多くの歌手が彼の作品を歌っているんですね。

ちょっとキューバのヌエバ・トローバのペルー版みたいな立ち位置の人で、
歌はうまくないし、その歌い口も、正直、ぼくの苦手なタイプではあります。
不安定な歌いぶりの“Camina Negro Trabaja” など、一瞬耳を覆っちゃいました。
やはり歌手ではなく、作曲家の人ですね。
それでもバックのセンスのいいサウンドに、全体を通して抵抗感なく聴き通せます。
ヴァイオリンの艶やかな響きが、すごくいいアクセントになっています。

ブルース・ロック調にアレンジしたタイトル曲の“El Bribón” など、
この人らしい面白い仕上がりですね。
個性的な作風をもつアンドレス・ソトのソングライターとしての良さを引き出した一枚です。

Andrés Soto "EL BRIBÓN" Liliana Schiantarelli Producciones no number (2014)
コメント(0) 

街の声・山の音楽 ロサ・グスマン [南アメリカ]

Rosa Guzmán León Y Rolando Carrasco Segovia.jpg

いったい、どれくらい聴いたかなあ、ロサ・グスマンの2枚組。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-12-17
伴奏はギターとベースだけという地味なアルバムで、
しかも2枚組というヴォリュームにかかわらず、
半年間くらい毎日聴き続けたもんなあ。
この人の滋味な歌声には、ホントに惚れこみましたねえ。

そんな夢中になったロサ・グスマンですけれど、
その後音沙汰なくって寂しく思っていたら、嬉しい新作が届きました。
デビュー作がジャズ・ミュージシャンを起用した新感覚のクリオージョ音楽だったので、
今度はオーセンティックなクリージョ音楽で迫るのかなと思っていたら、
意外や意外、なんと「街の音楽(クリオージョ音楽)」ではなく、
「山の音楽(アンデス山岳地帯の音楽)」ウァイノを歌っているのでした。

これにはびっくりですね。
バリオという生粋のクリオージョ文化の中で育った人なのに、ウァイノも歌えるとは。
思えば、ロサがデビュー作で聞かせた魅力といえば、
バリオ育ちのクリオージョ歌手が持つ野趣な味わいとは違って、
「アフロ・クール」とも呼ぶべき独特の感覚にありました。
ドラマティックに歌い上げない、肩の力が抜けた自然体の歌い回しの中に、
クリオージョが持つ情愛をしっかりと滲ませることのできる人で、
そのさりげなさに、現代性が備わっているのを感じさせました。

そんなロサの魅力が、アンデス音楽を取り上げた本作でも、しっかりと表われています。
今回も伴奏はミニマムで、ギタリスト一人だけ。
アンデス・ギターの至宝ラウル・ガルシア・サラテと、
クリオージョ音楽の名ギタリスト、フェリックス・カサヴェルデに学んだ
若手ギタリストのロランド・カラスコ・セゴビアです。

アフロ・クールなロサの街の声が歌う、
アヤクーチョのウァイノ、アレキパのヤラビ、フニンのウァイノといった山の音楽は、
また独特の清廉な味わいがあります。
オーガニックな温かみは、クリオージョもウァイノでも変わらないロサの歌の良さですね。
2曲だけ、ベースとカホンが参加して歌うヴァルスもあって、
温もり溢れる滋味に富んだ歌声に、ああ、いいなぁと、思わず涙腺がゆるみます。

Rosa Guzmán León Y Rolando Carrasco Segovia "SONQOLLAY" Paqcha Sirena Producciones no number (2016)
コメント(2) 

魔法にかかったリマ [南アメリカ]

Lima Bruja.jpg

先週の土曜日、四谷いーぐるで、ペルー音楽研究家の水口良樹さんと、
ペルーで現地録音した経験もお持ちのアオラ・コーポレーションの高橋めぐみさんによる、
「ペルー音楽映画とその周辺」と題したイヴェントが開かれました。

サヤリー・プロダクションを主宰するラファエル・ポラール監督による
『リマ・ブルーハ』の上映を目玉にしたイヴェントで、
『ラ・グラン・レウニオン』にカンゲキした音楽ファンとしては、
ずうっと観たくてしょうがなかった映画。喜び勇んで、馳せ参じましたよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-09-17

映画は11年に公開され、ペルーで12年に数々の映画賞を受賞していて、
15年にDVD化もされていたようなんですが、
日本にはまったく入ってこなかったんですよねえ。
今回のイヴェントに合わせ、アオラ・コーポレーションが
DVDとブルー・レイの両仕様を輸入し、会場で販売していたので、
さっそくDVDも購入させていただきました。
ちなみに、DVDはオール・リージョンのNTSC方式。
しかも、なんと嬉しい日本語字幕付であります!

水口さんの解説によれば、リマの古老たちをレコーディングした
サヤリー・プロダクションのフェルナンド・ウルキアガは、このプロジェクトを
「ペルー版ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」と称されるのを嫌っているとのこと。

ブエナ・ビスタは、キューバ音楽を欧米人が発見したものでしたけれど、
このプロジェクトは外国人ではなく、同国人が見出したという点がまず違うし、
ブエナ・ビスタがプロの音楽家たちであったのに対し、
こちらはアマチュアの音楽家たちであることが、決定的に違うと指摘していたそうです。

ぼくも「ペルー版ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」と安易に書いていたので、
映画を観ながら、なるほどなと反省させられました。
リマという同じ街に生まれ育ちながらも、
こんな音楽文化が存在することをまったく知らずにいたというラファエルの証言は、
ブエナ・ビスタではなく、
むしろ70年代ブラジルのサンバ復興と共通するものがありますね。

リマ庶民の普段着姿のクリオージョ音楽が「発見」された場所は、
リマに暮らす住民といっても、おいそれと簡単には近づけない危険地帯。
まさしくリオのファベーラと同じように、
隔絶されたコミュニティの結社のような組織の中で、
クリオージョ音楽が育まれていたわけで、
リマの一般住民が知ることはできなかったわけです。

クリオージョ音楽とサンバを育んだ土壌の共通性を挙げてみれば、
リマのバリオとリオのファベーラ、
ペルーのハラナとブラジルのパゴージがありますね。
そこで歌う古老たちの顔だって、よく似てるじゃないですか。
黒サングラスのレンチョなんてカルトーラみたいだし、
ネルソン・サルジェントやベゼーラ・ダ・シルヴァそっくりのオッサンもいたぞ。

ま、それはともかく、20世紀初頭から都市の音楽として生まれ、
20~30年代に花開いた黄金時代を迎え、
劇場からラジオというメディアの発達とともに、大衆文化の一翼を担ったこと。
その後、商業化が進んで、大スターたちが活躍する華やかな芸能界とは別世界で、
貧しい庶民のコミュニティの中で音楽が育まれていったところは、
クリオージョ音楽もサンバも、同じ道のりを歩んだといえます。

そうか。ということは、“LA GRAN REUNION” は、70年代サンバ・ブームの再評価で、
俗に言う「裏山のサンバ」の記念碑となった
“ENCONTRO COM A VELHA GUARDA” のペルー版だったといえるのかもしれませんね。

【訂正とおわび】
水口さんから、サヤリー・プロダクションの主宰者は、
「映画でもカスタネットやカホンを叩いていたフェルナンド・ウルキアガ氏です。
ラファエル・ポラールは、フェルナンドに依頼されて
グラン・レウニオンのPVを作ったことから
このドキュメンタリーを作ることとなった若手映画監督です」とのご指摘をいただきました。
記事の該当箇所を訂正させていただきます。水口さん、ありがとうございました。

[DVD] Dir: Rafael Polar "LIMA BRUJA : Retratos De La Música Criolla" Sayariy Producciones y Tamare Films no number (2011)
コメント(0) 

アフロペルーのダイナマイトな夜 マヌエル・ドナイレ [南アメリカ]

20170106_Manuel Donayre.jpg

ダイナマイト! シビれたぁ~♪
新年早々、松が明ける前に、こんな素晴らしいアフロペルーのライヴを堪能できるなんて。
どうするよ、いきなり、こんなスゴいもん、観ちゃって。
今年は幸先のいいスタートが切れたなあ。

クリオージョ音楽/アフロペルーのヴェテラン歌手
マヌエル・ドナイレが来日するというニュースが飛び込んできたのが、昨年暮れのクリスマス。
栃木の真岡でペルー料理レストランを営んでいる在日ペルー人が招聘するとのことで、
事前に情報がキャッチできたのは、ラッキーでした。
こういうコンサートは、在日外国人コミュニティの間でしか情報が伝わらず、
いつも後になってから知って、地団駄を踏むってのがパターンでしたからねえ。

本場クリオージョ音楽の歌手の生を体験できるのは、
95年のエバ・アイジョン以来だから、なんと22年ぶりであります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-11-14
1月6日、下北沢Com.Cafe 音倉。いやー、楽しみだなあ~。
なんちゃって、いきなり声がちっちゃくなっちゃうんですけど、
実はここだけの話、マヌエル・ドナイレのLPもCDも、手元にないんです(汗)。

え、え~と、97年にソノ・ラジオから出たベスト盤CDと、
もう1枚、ギターを持って座っている写真のCDもあったけど、どっちも処分しちゃったんです。
うわぁ~~、ごめんなさい、ごめんなさい。
だってね、CDで聴いたマヌエルの声、ちょっと変わっていて、え? この人、男だよね??
女声的というのか、テナー・ヴォイスというのともちょっと違う、中性的な不思議な声。
アルトゥーロ・サンボ・カベーロのような黒人的な声に夢中になっていたせいか、
マヌエルの声質は違和感が強く、好みじゃないやと、手放しちゃったんです! ごめんなさいっ!!

当時聴いた録音からすでに35年以上、現在のマヌエルの声はだいぶ変わって、
以前のような違和感はまったく感じられなくなっていました。
それどころか、こんなスゴい歌手だったとは。
オノレの不明に恥じ入るばかりです。

なんといっても、そのたっぷりとした声量といったらもう、
マイクなんて、いらないんじゃないかというほど。
そしてまた、歌いっぷりたるや、北島三郎と二重写しの「アフロペルーのサブちゃん」。
粘りに粘り、ぐう~っと引っ張る歌い方は、まさしくど演歌の世界。
泣き節でため込んだ激情を解き放つように歌う、ソウルフルな絶唱は圧巻でしたよ。

歌の世界に没入していく身振りは、オーティス・クレイのライヴを思い出すような
ソウル・ショウそのもの。いやあ、恥ずかしながら、
なぜこの人が「ダイナマイト・ネグロ」の異名をとるのか、やっと理解することができました。
名曲“Toro Mata” での即興や、客席とコール・アンド・レスポンスで巻き込んでいく煽りなど、
いまこの場に自分がいられる多幸感に、心底酔いしれました。

伴奏はギターとカホンの二人という最小限の編成でしたけれど、カンペキでしたね。
在日ペルー人最高のギタリスト、ヨシオ・ロリ・アゲナの堅実なプレイは、
どんなレパートリーも弾きこなす柔軟さが鮮やかだったし、
サンティアゴ・エルナンデスのカホンもダイナミックで、ソロも聴きごたえがありました。

20170106_1.jpg
20170106_2.jpg
20170106_4.jpg
20170106_5.jpg

サンティアゴがステージの最後に歌ったアウグスト・ポロ・カンポスの名曲“Contigo Perú” では
素晴らしいノドを披露してくれて、もう自分が下北沢にいることさえ、忘れちゃいましたね。
ここはリマのペーニャかってな、夢うつつの気分でした。
ペルー人の男の子と女の子がマリネーラ・ノルテーニャを踊る演出も楽しく、
大カンゲキ、最高の一夜でしたよ。

20170106_3.jpg

会場で販売していたCDは、なんとかつてのソノ・ラジオのベスト盤を、
マヌエルが自主制作で出し直したCD-R。
処分してしまったことを懺悔して買い直し、マヌエルのサインをいただきましたが、
こんな古いCDを手売りするということは、ほかにCDがないことの証左でもあります。

マヌエルは、ハイパー・インフレとセンデロ・ルミノソのテロで荒廃したペルーを92年に離れ、
以後ずっとアメリカで活動してきたんですね。
在米ペルー人コミュニティで歌い続けてきたとはいえ、
レコーディングからずっと遠ざかっているのは、あまりに残念すぎます。
円熟の頂点に立っている今こそ、がんがん録音を残してほしい人で、
ぜひとも新作の制作を熱望しておきたいと思います。

Manuel Donayre "GRANDES EXITOS" no label no number
コメント(0) 

マリネーラ愛 フリエ・フレウンド [南アメリカ]

Julie Freundt  ARINERA VIVA.jpg

なつかしや、フリエ・フレウンド。
クリオージョ音楽は、濃い口の歌手でこそ聴き応えがある、な~んて言ってたそばから、
フリエちゃんのアイドル声もたまんないんっす、なぞとやにさがるワタクシであります。

いやー、変わんないねぇ。とってもかわいい、その歌声♡
「かわいい」なんていう歳では、すでにないはずですけれど、
歌いぶりのチャーミングさは、90年のデビュー作からちっとも変わっていない。
だいたいこのキュートな歌声で、オーセンティックなクリオージョ音楽や
アフロペルー音楽を歌い続けてきたんだから、変わり種というか、なんというか。

リマのペーニャのような大衆的な味わいを持つ歌手とは出自がぜんぜん違う、
育ちのいい山の手のお嬢さんのような雰囲気は、
てやんでぇ、そんな声でバルスが歌えるもんかい、とケチをつけたくなるところなんですけど、
なぜかこの人は、昔から憎めなかったんだよなあ。

その清廉な雰囲気というか、およそ下町庶民とは育ちの違う人ながら、
伝統的なペルー音楽と真摯に向き合い、愛情を注ぎこんできたことの伝わってくる歌声は、
とても共感できたんですよねえ。
同じように、真摯にアフロペルー音楽に向き合ってきた人で、
フリエ以上に学究的というか、インテリ・タイプのスサナ・バカがいますけど、
ぼくはスサナ・バカは受け入れられませんでした。

だって、スサナ・バカの歌って、味もへったくれもないじゃないですか。
さらに、サウンドづくりの観念的なところなど、
あー、インテリはこれだからなあと、鼻白んじゃうんですよねえ。
知的な外国人にはウケても、リマの庶民からは支持されないタイプというか、
メルセデス・ソーサあたりと似た立ち位置の人って感じがしますね。
あ、ぼくは、メルセデス・ソーサも大の苦手です。

一方、もっとポピュラー寄りの人に、タニア・リベルタなんて歌手もいて、
アフロペルー音楽に挑戦したアルバムを出してたんですけど、これまたぼくはダメ。
素材として取り上げているだけなのが見え透いていて、シラけるんですよ。
フリエ・フレウンドの歌だって、伝統的な歌い回しとは全然違う淡泊な歌いぶりなのに、
それでもなお彼女に魅力を感じる理由は、伝統音楽に対する愛情が、
きちんとこちらに伝わってくるからだと思います。

新作はマリネーラ集。
マリネーラ・リメーニャとマリネーラ・ノルテーニャの両方を歌っていて、
ノルテーニャではサックスをちゃんと使っているところが盛り上がりますねえ。
面白いのは、楽譜集とセットになっていることで、全曲の譜面に合わせて、
マリネーラとトンデーロの解説が載っています。

チャブーカ・グランダの“Fina Estampa”のチャーミングな歌いぶりなんて、
まさにフリエ・フレウンドならではといったところで、すっかりお気に入りとなっています。

Julie Freundt "ARINERA VIVA" Acordes Producciones no number (2015)
コメント(0) 

クリオージョ音楽の華麗なる名作 バルトーラ&ロス・エルマノス・バルデロマール [南アメリカ]

Bartola Y Los Hnos. Valdelomar.jpg

コサ・ヌエストラの新作にやや不満を抱きながら、
一緒に手に入れたこちらを続けて聴いたら、思わず満面笑顔になってしまいました。
そうそう、コサ・ヌエストラの新作に欲しかったのは、この濃厚な味わいなんですよ。
どんどん洗練されて薄口になるラテン世界のなかで、
ペルーのクリオージョ音楽は、唯一無二といえる野趣な味わいを保つ、希有な大衆音楽。
その稀少性に感じ入っているからこそ、ぜひその良さを生かしてほしいと願うファンには、
まさしくうってつけのアルバムなのでした。

しかも、歌っているのが、前回話題にあげたばかりのバルデロマール兄弟と
女性歌手のバルトーラなのだから、役者は揃ったってなもんです。
3人とも堂々たる歌いっぷりで、ディープな味わいながら、
けっして暑苦しくならない歌い口とキレのよさに、1曲終わるたび、タメ息がもれます。

特に嬉しかったのが、ぼくのごひいきのバルトーラが、
以前と変わらぬ歌いっぷりを聞かせてくれていること。
かつて、クリオージョ音楽という枠を超えて、
ラテン世界で最高の女性歌手と入れ込んでいたエバ・アイジョンが、
2010年前後あたりのアルバムから、声に衰えを隠せなくなり、
それを補うためか歌いぶりが粗くなってきたのを、とても残念に思っていただけに、
バルトーラの太く揺るがない声の魅力に、嬉しくなりました。

これまでぼくは、バルトーラがエバ・アイジョンの後進の歌手だとばかり思っていたんですけれど、
調べてみたら、なんとエバよりひとつ年上なんですね。これには、びっくり。
バルトーラのソロ作を聴いたのは、02年のイエンプサ盤が最初で、
すでにヴェテランの域を感じさせる歌声に、相当なキャリアを持つ人と思えましたけれど、
ソロ作が少なく、どういう経歴か知らないままだったんですよね。

本作では、ニコメデス・サンタ・クルース、ラファエル・オテロ・ロペス、カルロス・アイレといった
クリオージョ音楽の名作曲家たちによるバルスを中心に、フェステーホ、ポルカなども歌っています。
切れ味たっぷりのギターの音色に加えて、フェリックスが叩くカホンに、
カスタネット、カヒータの響きがサウンドをさらに華麗にしていて、う~ん、血が沸き立ちますねえ。
季節が秋めいて、乾いた風がひんやりと感じる今日この頃にぴったりの、
クリオージョ音楽ファンに最高の名作です。

Bartola Y Los Hnos. Valdelomar "LLÉVAME CONTIGO" no label no number (2013)
コメント(3) 

サルサ・クリオージャは濃い口の歌手で コサ・ヌエストラ [南アメリカ]

Cosa Nuestra  PREGONEROS DE LA CALLE.jpg

時代錯誤ともいえるサボール・イ・コントロールのサウンドに比べると、
クリオージョ音楽の才人といえる、
プロデューサーでギタリストのティト・マンリケ率いるコサ・ヌエストラは、
まさしく現代らしいオルケスタといえるでしょうね。
その洗練されたサウンドのテクスチャは、21世紀ならではという手触りがあります。
それゆえ、サボール・イ・コントロールのようなストリート感はありません。

新作も、懐かしのサルサ名曲をクリオージョ音楽のバルス・マナーでアレンジするという、
ティト・マンリケがコサ・ヌエストラで意図する、
サルサ・クリオージャのコンセプトに従った仕上がりとなっています。
今回の目玉は、なんといっても「アナカオーナ」でしょう。

ティテ・クレ・アロンソの名曲で、チェオ・フェリシアーノの名唱が忘れられない、
サルサ・ファンにはおなじみの曲ですが、これをバルスにアレンジすると、
えぇ? これが「アナカオーナ」?といぶかるような不思議な仕上がりで、
まったく別の曲のように聞こえます。
たしかにメロディは「アナカオーナ」なんだけど、
3拍子にすると、こうも雰囲気が変わるかという驚きのアレンジで、
コロの入り方も、チェオでおなじみのヴァージョンとは違っています。
ちなみに、曲名も“Anacaona” でなく、“Ana Caona” と書かれていますね。

ほかには、「トロ・マタ」に注目が集まるかな。
もっとも、この曲については、里帰りヴァージョンというべきものでしょうね。
もともとカイトロ・ソトが作曲したアフロ・ペルーの名曲を、
サルサにアレンジしてセリア・クルースが歌い、大ヒットとなったんですからね。
サルサに生まれ変わり、多くのシンガーにカヴァーされた「トロ・マタ」が里帰りしたというか、
これが本場のオリジナルといった仕上がりでしょう。

この新作は、ティト・マンリケらしい才が冴えた快作と認めつつも、
個人的に残念なのは、多くのゲスト歌手の参加によって、
クリオージョ音楽のディープな味わいが薄まってしまったことです。
13年の前作にもその傾向があったんですが、今回も起用された歌手によって、
他の歌手だったらよかったのにという曲があることは否めません。
マイケル・スチュアートやマジート・リベーラなんて歌手じゃ、
クリオージョ音楽の味わいを出すなんて、どだい無理。
明らかなキャスティング・ミスですね。

Tito Manrique Y Cosa Nuestra  SALSA CRIOLLA 1.jpg

ぼくがティト・マンリケのサルサ・クリオージャというコンセプトに
ノックアウトされたのは、“SALSA CRIOLLA 1” でした。
クリオージョ音楽の粋ともいうべき、素晴らしくコクのあるノドを持つ
フェリクス・バルデロマールとホセー・フランシスコ・バルデロマールの二人を起用して、
サルサ名曲を歌うというオドロキが、あのアルバムを感動的なものにしていました。

その後、ティト・マンリケがアフロ・ペルー寄りの選曲をするなど軌道修正するなかで、
前作からバルデロマール兄弟の起用をやめてしまったのは、
ためすがえすも残念でなりません。
単にコサ・ヌエストラが、サルサ名曲をクリオージョ音楽にアレンジして、
さまざまな歌手に歌わせるプラットフォームにするのではなく、
濃い口のクリオージョ音楽の歌い手に歌わせるところに、
この企画の良さがあったことを、ティト・マンリケに再考してもらいたいですねえ。

Cosa Nuestra "PREGONEROS DE LA CALLE" Play Music & Video no number (2016)
Tito Manrique Y Cosa Nuestra "SALSA CRIOLLA 1" Sayariy Producciones 7753218000074 (2011)
コメント(0) 

やんちゃなサルサ復活 サボール・イ・コントロール [南アメリカ]

Sabor Y Control  CRUDA REALIDAD.jpg

うわー、こんなサルサ・バンドがペルーから出てくるとは。

「サボール・イ・コントロール」なるバンドのネーミングにも、
ありし日のサルサを知る者には、グッとくるものがありますけれど、
サウンドにみなぎる70年代当時のままの熱っぽさは、まさに感動的です。

バンド・リーダーで音楽監督を務めるサックス奏者ブルーノ・マチェルは、
70年代サルサの復活を目論見、00年にサボール・イ・コントロールを結成したとのこと。
達者なプレイヤーを集めて、往年のサウンドを復活させることはできても、
あの当時のギラギラとしたストリートの雰囲気や、
サルサにかける情熱に溢れた空気感を生み出すのは、そうたやすいことではありません。

過去のポピュラー音楽を再現するのに一番高いハードルは、
時代を背負った空気感の再現で、こればかりは演奏家のテクニックや
エンジニアリングだけで解決できる問題ではありませんよね。
社会が変化し、音楽のバックグラウンドが変容している状況のもとでは、
いくらサウンドだけを再現したところで、その音楽が持つテクスチャを蘇らせることは不可能です。

12年作の“CRUDA REALIDAD” を聴いてぶったまげたのは、
その不可能とも思える空気感が、リアルに蘇っていたからでした。
これって、70年代ニュー・ヨークの若いラティーノたちが置かれていた境遇と、
現代のペルーのリマの若者たちが抱える現実とが、
共振しあう<何か>があってのことなんですかねえ。

Sabor Y Control  ALTA PELIGROSIDAD  09.jpgSabor Y Control  Barrio Bendito 10.jpgSabor Y Control  EL MÁS BUSCADO  11.jpg

そのナゾを知りたくなり、旧作のバック・オーダーをお願いしていたところ、
1年以上かかって、09・10・11年作がようやく入荷。
いずれも12年作と変わらぬ濃密な70年代サルサが詰まっていて、またもウナらされました。
サックス2、トロンボーン2の編成が生み出すサウンドは、
特定のオルケスタをお手本にしたようには思えませんが、
雰囲気はエクトル・ラボー在籍時のウィリー・コロン楽団に、とてもよく似ています。
やんちゃな若者といったムードが、ね。

初期のウィリー・コロン楽団といえば、技術的にはあまり高くなく、
そのラフなアンサンブルこそに、
むせかえるようなストリート臭が溢れていたバンドでした。
サボール・イ・コントロールのジャケットも、ガラの悪そうな雰囲気が、
演出であるにせよ、あの頃のコロン楽団と共通しているじゃないですか。

全曲リーダーのブルーノ・マチェルの作曲。
なぜこれほどまでに70年代の空気感を再現できるのかは、結局わかりませんでしたけど、
デスカルガにおけるブルーノのブロウがとびっきり熱く、
ブルーノのミュージシャンシップがメンバーたちを鼓舞しているのを、強く感じさせます。

Sabor Y Control "CRUDA REALIDAD" Descabellado no number (2012)
Sabor Y Control "ALTA PELIGROSIDAD" Play Music & Video no number (2009)
Sabor Y Control "BARRIO BENDITO" Play Music & Video no number (2010)
Sabor Y Control "EL MÁS BUSCADO" Play Music & Video no number (2011)
コメント(0) 

オーガニック・ジャジー・ポップ カミラ・メサ [南アメリカ]

Camila Meza.jpg

ジョイスの“FEMNINA” を思い起こさせる、みずみずしいスキャット。
ブラジル人かと思いきや、チリ、サンティアゴ出身とおっしゃる女性歌手。
ニューヨークのおしゃれジャズ・レーベル、サニーサイドからのリリースで、
ジャズ・ヴォーカリストとして括るには、なんともすわりが悪く思えます。
ことさら「新しいジャズ」などと言わず、「新しいポップス」でいいんじゃないですかね。

要するに、レベッカ・マーティンやベッカ・スティーヴンズの系譜に連なる人といえますが、
カミラ・メサ嬢の場合、ジャズ・ギタリストでもあるので、ジャズ色はより濃厚です。
そのギター・プレイは、コンテンポラリー・ジャズのような先進性はなく、
伝統的なジャズ・フォーマットにのっとった、保守的なソロ・ワークを聞かせます。

やっぱりこの人の魅力は、清涼感溢れる歌声とソングライティングでしょうか。
第一印象がジョイスだったように、オーガニックなサウンドが一番の持ち味といえます。
ペドロ・アズナールと一緒にやってた頃の、パット・メセニーが好きな人にも喜ばれそう。
カミラ自身の曲のほか、ジャヴァンや故国の英雄ビクトル・ハラの曲を取り上げています。

バックは、今をときめく新世紀ジャズの精鋭たちがずらり。
キーボードのシャイ・マエストロにベースのマット・ペンマン、ドラムスのケンドリック・スコットと
豪華な布陣で、マット・ペンマンはプロデュースも務めています。
このメンツが揃えば、ただの歌伴で終わるはずもなく、あくまで歌を引き立てつつも、
随所でおおっと前のめりにさせる聴きどころを作っています。

特に、“Amazon Farewell” で聞かせるケンドリック・スコットの猛烈なドラミングといったら。
ドラムスは歌のはるか後方に配置され、音量も抑え目なミックスになっているのに関わらず、
強烈にプッシュするケンドリックのドラミングの煽りっぷりに、ハラハラ、ドキドキ。
う~ん、やっぱ、こういうスリルって、ジャズの醍醐味かなあ。

Camila Meza "TRACES" Sunnyside SSC1439 (2016)
コメント(0) 

フランス領ギアナのクレオール・ポップ ルッシ [南アメリカ]

L’Si  RÉALITÉ DE LA VIE.jpg

どっかーーーーん。
ド迫力な黒人女性マスクに、たじたじ。
その昔アフロ・ブラジリアン宗教音楽/サンバ女性歌手アパレシーダのシッド盤LPを
手にした時のことを思い出しました。

Aparecida  Foram 17 Anos.jpgドロドロのマクンバかヴードゥーでも出てきそうな
表紙にビビっていたら、
ヴィデオ・クリップでは、
ニコニコと愛嬌たっぷりに歌っていて、
シロウトに毛が生えた素朴な歌い口は、
なかなか愛らしいところもあります。
ケースを開けてCDを取り出すと、トレイの下には、
にこやかなルッシが写っていて、
おっかない熊みたいなブッちょずら(失礼)の表紙は、
インパクト狙いなんでしょうか。意味不明ですね。

さて、ひと安心して聴いてみれば、シャープな高音を響かせる太鼓のタンブーに、
アコーディオンが絡むビギンふうの1曲目から、いい感じです。
こりゃ、マルチニーク/グアドループ音楽ファンにはたまらんでしょう。
と思いきや、ルッシは、フランス領ギアナの女性シンガーなんですって。

ビギンふうと思った1曲目のリズムは、
ライナーには「カセ・コ・コイ・カセ」と書かれていて、カセーコなんですね。
カセーコは、ギュイヤンヌ(フランス領ギアナ)の代表的なクレオール・リズムです。
もう1曲クラリネットをフィーチャーしたカセーコも、
ユジェーヌ・モナの田舎のビギンふうで、
マルチニークに繋がるクレオール・ミュージックであることがはっきりとわかります。

ほかにマズルカなども歌っていますが、
ズーク・ラヴやコンパ・ラヴのほか、バチャータも1曲歌っていて、
表紙からはとても想像つかない、ポップなアルバムに仕上がっているんでした。
そういえばアパレシーダだって、中身はけっこうポップで、意外に思ったんだっけ。

全曲ルッシことマチュー・テオドール・エルシの作詞作曲となっていますが、
5曲目は、まごうことなきカーペンターズの「トップ・オヴ・ザ・ワールド」。
うわはは、これを自作曲とクレジットしちゃうの、すごいな。

L’Si "RÉALITÉ DE LA VIE" Debs Music no number (2015)
[LP] Aparecida "FORAM 17 ANOS" Cid 8015 (1976)
コメント(0) 

真夏のブラスバンド パレンケ・ラ・パパジェーラ [南アメリカ]

Palenque La Papayera.jpg

いぇ~い、真夏にぴったりの1枚じゃないですか。
パパジェーラといえば、コロンビアのバランキージャ特産ブラスバンド音楽ですよね。
お祭り好きがこれを聴いたら、じっとなんかしてらんないでしょう。

ぎらぎら照り付ける太陽の真下で、
極彩色の衣装や仮面を付けたバランキージャのカーニバルは、
いつだかテレビ番組で観た覚えがありますけど、
パレードで踊っている女のコが美人ばっかりだったのが忘れられません。
男なら一度は体験してみたいものですねえ、バランキージャのカーニバル。

コロンビアは南米の美女大国として有名ですけれど、
なかでもバランキージャは美女の産地として知られています。
そういえばシャキーラも、バランキージャの生まれでしたよね。
アメリカ生まれのレバノン系マケドニア人の父と、
カタルーニャ系の母のもとでシャキーラが生まれたように、
バランキージャは、インディオ、ムラート、黒人ばかりでなく、
さまざまな民族が混淆した文化を持つ町です。

そのバランキージャで育まれたパパジェーラと、
逃亡奴隷のコミュニティであるパレンケを結び付けたバンド名に、
おやと思いましたが、バランキージャはパレンケの住民が出稼ぎしたり、
移住した町でもあったんですね。知りませんでした。

さて、そのパレンケ・ラ・パパジェーラですが、コロンビアのバンドでなく、
なんとスイスのジュネーヴで05年に結成されたというのが面白い。
確かに今のコロンビアじゃあ、こんなルーツ・コンシャスな音楽はCDにならんもんなあ。
せっかくのクァンティック人気を、本家本元でフィードバックできない
ボンクラなコロンビア音楽界にはがっかりですよ。

コロンビアからの移民を中心に、ヨーロッパ人も加えたこのプロジェクト、
クンビア、ポロ、プイヤ、バンブーコ、ファンダンゴをレパートリーに
行進するパパジェーラを広めようと、
各地のフェスティバルで祝祭感イッパイの演奏を繰り広げ、人気沸騰中だとか。
野外フェスにこれほど似合う連中はいませんよ。
来年の夏、誰か呼びません?

Palenque La Papayera "RAMON EN PALENQUE" Buda Musique 860272 (2015)
コメント(0) 

フランス領ギアナのマルチニーク人シンガー ムリエール・フレリアグ [南アメリカ]

Murielle Fleriag  TOLOMAN.jpg   Murielle Fleriag  TRANSPARENCE.jpg

うわー、ごぶさたー! 
ムリエール・フレリアグ、今も歌ってたんだぁ。

フランス領ギアナの女性シンガーなんですが、ご存じでしょうか。
二十年ぶりにCDを見ましたけど、2年前に出ていたようで、これが4作目だそうです。
この人を知ったのは、95年のデビュー作“TRANSPARENCE”。
ズークというふれこみでしたけれど、エレガントなビギンも多く歌っていて、
アクースティックな音づくりとジャジーなムードに、いっぺんでファンになりました。

経歴が変わっていて、生まれはマルチニークながら、
フランス領ギアナへ渡り、長らくピアノ・バーで歌ってきたシンガーなんですね。
ジャジーな味わいは、クラブ・シンガーのセンスなのかもしれません。
フランス領ギアナという地の利のなさゆえ、知名度こそないものの、
歌手としての魅力は、エディット・ルフェールにも劣らないとぼくは思っています。

本作のプロダクションも、ストリングスをシンセで代用するなど、
予算をかけられないウラミは残るものの、
エレガントなビギンのメロディ、とろけるようなムリエールの歌い口は、
エディット・ルフェールを思わすところがあります。

デビュー作のちょっとクセのある声質も、
円熟してビター・スウィートないい味わいになりましたね。
パーカッションとコーラスをバックにしたベレなども歌っていて、
よりマルチニークの伝統寄りなサウンドも楽しめる本作、お気に入りとなりました。

Murielle Flériag "TOLOMAN" no label no number (2013)
Murielle Fleriag "TRANSPARENCE" MCA Production MDF13078 (1995)
コメント(0) 

クリオージョ歌謡の次はアフロペルー ホルヘ・パルド [南アメリカ]

Jorge Pardo AFRODELICO  PERUVIAN SOUL.jpg

やるなぁ、ホルヘ・パルド。
前作のクリオージョ歌謡に続いて、今度はアフロペルーへの挑戦です。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-01-25

前回がオーソドックスなクリオージョ音楽のスタイルを貫いた直球勝負だったので、
今度も同様のアプローチだとすると、ちょっと無理筋じゃないかなあと心配していたのです。
なんせホルヘはもともと、バラーダやソウルなどのポップスを歌っていた歌手。
前回は真摯な歌いぶりで、クリオージョ音楽を丁寧に歌いこなしていましたけれど、
アフロペルーのようなコクの深い歌を歌うには、いささかハードルが高すぎ。

でも、その課題をなんなくクリアしましたね。
アフロペルーのレパートリーを、真正面からオーセンティックなスタイルで歌うのではなく、
ポップなプロダクションで、アフロペルーの要素を溶け込ませながら歌っています。
こういうやりかたなら、ポップス・シンガーとしての柔軟さも生きるし、
このアプローチは大正解ですね。

エレピやハモンド・オルガン、ホーン・セクションなどもフィーチャーして、
ソウルにファンク、ブルース、ティンバにボサ・ノーヴァなどの要素も加えた本作は、
ヒネリの利いたアレンジで聞かせた名曲“Toro Mata” など、
変化球もありの巧みな作りで楽しませてくれます。
また、アフロペルーばかりでなく、ウァイノをラストの曲でさらりと登場させたりと、
ペルー伝統音楽への愛情がアルバムの端々から溢れ出ていて、嬉しくなりました。

ノーバリマの女性歌手ミラグロス・ゲレーロや、
14年に52歳の若さで早世したアフロペルーの名歌手ペペ・バスケスもゲストで参加しています。
サブ・タイトルの「ペルビアン・ソウル」が示すとおり、
ホルヘの気概がそのソウルフルな歌いっぷりによく表れた快作です。

Jorge Pardo "AFRODELICO : PERUVIAN SOUL" Play Music & Video no number (2013)
コメント(0) 

リマの名門音楽一家 [南アメリカ]

López Y Díaz  DE FAMILIA.jpg   Campos Y Nicasio  DE FAMILIA.jpg

アルバムの出だし、ギターの一音が流れてきただけで、もう背中がぞっくぞく。
ペルーの首都リマの下町で息づいてきた、バルスやアフロペルーの味わいは、
一世紀を経たいまなお、ヴィンテージの味わいをまったく失っていません。
いや、それどころか、時代が下るほどに、濃厚になっているようにさえ思えます。
これって、奇跡的なことじゃないでしょうか。

だって、キューバのソンやブラジルのサンバを考えてみてくださいよ。
現在のソンやサンバは、世代交代を繰り返すなかでかつての味わいが薄れ、
その味わいの質もだんだんと変質していることは、誰もが感じていますよね。
21世紀の現在に、アルセニオ・ロドリゲスやシロ・モンテイロと同じ味を求めたところで、
そんなの無理に決まっているじゃないですか。
ところが、それを叶えているのが、今のペルーですよ。

サヤリー・プロダクションによる“DE FAMILIA” シリーズの第3・4弾を聴いて、
あらためてそういう感慨にとらわれました。
今回リリースされた二作、ディアス家とロペス姉妹の方はバルス中心のレパートリー、
カンポス家とニカシオ家の方はアフロペルーと、それぞれ趣向は違いますが、
どちらも濃密な情感あふれる歌い口で、その芳醇なコクに酔いしれるほかありません。
これほど魂をふるわせる大衆音楽は、世界を見渡したって、そうそうあるもんじゃありません。

歌ばかりでなく、伴奏についてもそうです。
ヴィンテージ時代に比べ、ギターはより技巧的となり、
洗練された表現を獲得しているのにも関わらず、サウンドが軽くすっきりとするどころか、
むしろ逆に深みを増して濃厚になっているのだから、嬉しいじゃないですか。
世の音楽がおしなべて、薄味でさっぱりとしていくなかで、
真逆をいくこういう伝統の継承もあるのかと、感心してしまいます。

こういう音楽が存在する限り、それを録音して販売することは、
たとえ大きなセールスを期待できないにせよ、音楽関係者にとっては使命といえますね。
その仕事を真摯に果たしているサヤリーのスタッフには、
本当に賛辞を送りたい気持ちでいっぱいで、応援する声も大きくなろうというものです。

下町のおばちゃん然としたロペス姉妹が聞かせる、鍛え抜かれたノドも素晴らしければ、
マルコ・カンポスのまろやかな節回しにも陶然とします。
カンポス家といえば、69年にペルー・ネグロを創立したロナルド・カンポスを輩出した、
アフロペルー文化を代表する名門一族ですよね。
カホンやコンガを叩くロニー・カンポスは、
ロナルド亡き後ペルー・ネグロの監督を引き継いでいます。

リマの名門音楽一家が伝えてきた音楽遺産。
2014年のベスト候補作に、はや一番乗りです。

López Y Díaz "DE FAMILIA : PUREZA DE UNA TRADICIÓN" Sayariy Producciones/Enjundia 7753218000210 (2013)
Campos Y Nicasio "DE FAMILIA : PUREZA DE UNA TRADICIÓN" Sayariy Producciones/Enjundia 7753218000265 (2013)
コメント(0) 

サルサへペルーからの返礼 コサ・ヌエストラ [南アメリカ]

Cosa Nuestra  SALSA CRIOLLA  LA RUMBA FINAL.jpg

ペルーでもサルサが盛んなことは承知していますけれど、
現在のサルサに興味が薄れているせいで、
ペルーの「サルサ・クリオージャ」なるアルバムまで、とても手は回らず。
クリオージョ音楽の良質アルバムをリリースするサヤリー・プロダクション制作とはいえ、
なんとなくやりすごしていたら、「サルサ・クリオージャ」シリーズ第3弾は、
レーベルを移してリリースされ、日本盤まで出たのは正直意外でした。

それではと聴いてみたら、その新鮮な内容にびっくり。
まさしくその名のとおり、ペルーのクリオージョ音楽やアフロペルー音楽と
サルサをミックスしたものなんですけれど、
よく練り上げたアレンジで、ペルーらしい濃厚なサボールがあふれ出ていて、
イマドキのちゃらいサルサとは大違いの、コクのあるサウンドを聞かせてくれます。

3拍子系のペルーのクリオージョ音楽とサルサとのミックスゆえ、
サルサの肝であるクラーベは外れているんですが、そこに妙味があるんですね。
これまで脱クラーベといえば、キューバのティンバになってしまうパターンしかなく、
だからイマドキのサルサなんて聞く気がしないよ、となっていたわけですけれど、
サルサ・クリオージャは、ハチロクで脱クラーベの新たな方法論を提示したといえます。

オープニングのイスマエル・ミランダの“Abran Paso” に始まり、
ティテ・クレ・アロンソやラファエル・イティエールといった名作曲家たちによる
70年代サルサ・クラシックを数多くレパートリーに取り上げているのも、
単なる過去の再現にとどまらず、サルサを生み出したブロンクスのバリオ魂を
蘇えらそうとする気概を感じます。リマのペーニャ魂と共振するものがあったんでしょうね。

思えば、70年代サルサの歴史的傑作“CELIA & JOHNNY” で、
セリア・クルースがアフロペルーの名曲“Toro Mata” をサルサ・アレンジで歌ったんでした。
セリアのあの名唱は、多くのサルサ・ファンにとって忘れられないものとなりましたが、
サルサ・クリオージャは、セリアの“Toro Mata” に対するペルーからの返礼なのかもしれません。

Cosa Nuestra "SALSA CRIOLLA - LA RUMBA FINAL" Play Music & Video no number (2013)
コメント(0) 

ベネズエラ都市弦楽のニュー・フェイス シンコ・ヌメラオ [南アメリカ]

5 Numerao.JPG

ひさしぶりに届いたベネズエラ都市弦楽の新作。
おととしのカラカス・シンクロニカ来日以降、とんと聴くチャンスがありませんでした。
南米のコンテンポラリー・フォークといえば、アルゼンチンやウルグアイには注目が集まるけど、
ベネズエラにはあいかわらず光が当たりませんね(しくしく)。

クラリネット、フルート、ギター、クアトロ、ベースの5人からなるシンコ・ヌメラオは、
05年に結成された新しいグループで、12年にリリースされた本作がデビュー作。
ラストのメドレー中の1曲をのぞき全曲がオリジナルで、
カラカスのメレンゲ、バルス、ダンサ・スリアーナなど、
ベネズエラの伝統形式に沿った演奏を聞かせます。

聴きものはやはり、対位法を駆使したメレンゲ(ドミニカのメレンゲとは関係ありません。念のため)。
演奏に即興の部分があるのかどうか不明ですが、仮にすべて譜面に書かれているとしても、
メンバー全員のびのびとプレイしていて、アレンジのキュークツさを感じさせません。
バルスではメランコリックなメロディをしみじみと聞かせ、曲作りの上手さが光ります。

クアトロのリズム・カッティングがおだやかなせいか、
全体にクラシックぽい雰囲気がしますが、ラストのメドレーだけ、
チェオ・ウルタード・スタイルのパーカッシヴなリズム・カッテイングを披露しています。
ビートを利かせた奏法はあえて控えめにしているようで、ほかにも引き出しがまだありそう。
才能あふれる若き5人組の今後が楽しみです。

ベネズエラ大使館殿。ベネズエラ文化週間への招聘を熱烈希望いたします。

5 Numerao "VOLUMEN 1" no label FD07420111051 (2012)
コメント(0) 
前の30件 | - 南アメリカ ブログトップ