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ブラジルの正統派ジャズ・ヴォーカリスト アドリアーナ・ジェンナリ [ブラジル]

Adriana Gennari  SOBRE A COR DAS HARMONIAS.jpg

サン・パウロで活躍するシンガーだというアドリアーナ・ジェンナリ。
初めてその名を知りましたけれど、
いやぁ、実力派のジャズ・ヴォーカリストじゃないですか。
「ジャジーMPB」というお店のコピーに誘われて買ったんですけれど、
MPBじゃなくて、正統派のジャズ・ヴォーカリストですね、この人は。

これまでに6枚のCDを出しているといいますが、知るチャンスがなかったなあ。
すでに25年を数えるキャリアがあり、
いくつもの合唱団で歌唱指導や指揮をしてきたそうで、
ヴォーカル・コーチの経験が豊富というのもナットクできる歌唱力ですね。

エラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンといった
名ジャズ・ヴォーカリストたちから学んだのが聴き取れるアドリアーナの歌は、
音程がとてもしっかりしているのが美点で、
特にスキャットで聞かせる音程の正確さに、実力のほどがうかがえます。
語尾につくヴィブラートの過不足ない表現も、すごくいいですねえ。

Pó De Café Quarteto  AMÉRIKA.jpg

伴奏を務めるのは、
サックス、トランペットの2管を擁するセクステットのポー・ジ・カフェ。
サン・パウロの敏腕ミュージシャンが集い、08年に結成されたグループで、
トランペットにぼくが買っているルビーニョ・アントゥネスが参加しています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-13

ポー・ジ・カフェのメンバーによるオリジナル曲を歌い、
ピアニストのムリロ・バルボーザがアレンジし、
プロデュースと音楽監督はアドリアーナ自身が行っています。
ラストの英語曲はアドリアーナとロベルト・メネスカルとの共作で、
メネスカルもギターで参加しています。
この曲で聞かせるバラード表現も見事なものです。

ブラジルのジャズ・ヴォーカリストで、これほど本格派の人はマレですよ。

Adriana Gennari "SOBRE A COR DAS HARMONIAS" no label no number (2023)
Pó De Café Quarteto "AMÉRIKA" no label no number (2015)
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ブラジルのフォークロアを探りながら カロル・パネージ [ブラジル]

Carol Panesi  NATUREZA É CASA.jpg

カロル・パネージの新作が届きました。
前2作はブリックストリームからでしたが、今回は自主制作なんですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-08
新世代ブラジリアン・ジャズを聞かせたブラックストリーム時代とは
趣向を変えた作品となっていました。

メンバーのクレジットを見ると、
ブラックストリーム時代のベースとドラムスが交代して、
イチベレ・ズヴァルギの息子アジュリナ・ズヴァルギが
ドラムスとパーカッションを担い、ベースは不在となっています。

アジュリナのドラムスはジャズの語法を使わず、
パーカッション的なプレイに徹しているため、
ジャズからは後退してフォークロアなニュアンスが濃厚となりました。
ジャズのフォーマットで演奏しているのは、 ‘Pássaro Amarelo’ 1曲のみ。

カロルのヴァイオリンとファビオ・レアルのギター、
アジュリナのパーカッションという3人を軸に、
ブラジル先住民インジオの歌手によるヴォイスとマラカスや、
ピファノ、ドゥドゥク、中国の竹笛、アメリカ・インディオなど世界各地の笛、
タマやンビーラ、弦楽四重奏などのゲストを迎え、
カラフルなフォークロア・サウンドを創作しています。

前作ではフレーヴォ、エンボラーダ、マラカトゥといったノルデスチの音楽を
参照していましたが、本作では具体的な民俗音楽ではなく、匿名性が増した印象。
カロル自身のヴォイスを多重録音してハーモニーにしたトラックなど、
クラシックも内包したカロルの音楽性を発揮しています。

Carol Panesi "NATUREZA É CASA" no label no number (2023)
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4から19へ ダニ&デボラ・グルジェル [ブラジル]

Dani Gurgel & Debora Gurgel  DDG19 BIG BAND.jpg

日本で大人気のDDG4こと、ダニ&デボラ・グルジェル・クァルテート。
たしか去年も来ていたんじゃなかったっけ。
10年代にサン・パウロで大きなムーヴメントとなった、
ノーヴォス・コンポジトーレスの一翼を担うアーティストでありますね。
彼らの出世作 “UM” はもちろん聴いていたとはいえ、
ここで取り上げないままだったなあ。

庶民的な親しみ溢れるショーロがもともと好きなせいで、
大衆性に欠ける芸術音楽志向のノーヴォス・コンポジトーレスには、
耳は傾けども心はノレずみたいな気持ちで当初いたんですが、
その後のブラジル新世代ジャズにどんどん引き込まれていったせいか、
今回の新作、なんの抵抗感もなく楽しむことができました。

DDG4からDDG19と、
なんとクァルテートから19人編成のビッグ・バンドになったんですねえ。
これまでのレパートリーをビッグ・バンド・アレンジにして、
新たな衣替えで聞かせているんですけれど、
おっ!と思ったのは、クァルテートの時よりポップになっていたこと。

変拍子やブレイクのはさみ方など、リズム面はチャレンジングだけれど、
サックス・セクションとブラス・セクションが対峙して動くアレンジは、
トラディショナルなビッグ・バンドのスタイルで親しみやすく聴きやすいもの。
即興演奏は短いながら、しっかり聴きどころを生み出していますよ。
ダニのスキャット・ヴォーカルもチャーミングで、
華やかなビッグ・バンドのサウンドによく映えます。

ミシャエル・ピポキーニャがゲスト参加した曲では、
超絶技巧のベースを思いっきり披露しているのも嬉しい。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-09-11
ビッグ・バンドならではのゴージャスな楽しさを満喫できる一枚です。

Dani Gurgel & Debora Gurgel "DDG19 BIG BAND" Da Pá Virada DDG19 (2023)
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オトナ同士の会話 シコ・ピニェイロ & ロメロ・ルバンボ [ブラジル]

Chico Pinheiro & Romero Lubambo  TWO BROTHERS.jpg

シコ・ピニェイロとロメロ・ルバンボのお二人。
ブラジルからアメリカへ居を移したジャズ・ギタリスト同士ということで、
デュオをするのも必然だったのでは。

55年リオ生まれのルバンボが渡米したのは、85年のこと。
75年サン・パウロ生まれのシコ・ピニェイロが
ニュー・ヨークに移り住んだのは18年のことなので、まだ5年。
二人は12年前にサン・パウロですでに出会っていたそうです。

ジャジーなMPBのシンガー・ソングライターとしてデビューした
シコ・ピニェイロですけれど、ご本人の歌はシロウトの域を出ず。
奥方のルシアーナ・アルヴィスがすごく魅力的な歌い手なので、
歌はルシアーナに全部任せちゃえばいいのにと思っていたんですが、
ジャズ・ギタリストの才能はインターナショナル・レヴェルの人なので、
今回のようなインスト作品なら、もろ手を挙げて歓迎です。

Chico Pinheiro & Anthony Wilson  NOVA.jpg

前にもシコ・ピニェイロは、ギタリストとのデュオ作品を出しましたよね。
ロス・アンジェルスのジャズ・ギタリスト、アンソニー・ウィルソンとの共演でした。
あれはいいアルバムだったなあ。
ファビオ・トーレス(p)、パウロ・パウレッリ(b)、エドゥ・リベイロ(ds)を軸に、
曲によってホーン・セクションもたっぷり入れ、
イヴァン・リンスやドリ・カイーミがゲストで歌う曲もありました。
リラックスした演奏のなかにも、二人のテクニカルなソロが
競い合うように披露されていて、スリリングな要素も満点でした。

今回のロメロ・ルバンボとのデュオは、二人のみの演奏。
二人ともアクースティックとエレクトリックを使い分けて、
まさにギターによる会話を楽しんでいるといった趣です。

レパートリーは二人のお気に入り曲を取り上げたそうで、
そこにプロデューサーが助言して、ジャヴァン、シコ・ブアルキ、ジョビン、
ミシェル・ルグラン、ビル・エヴァンス、レノン=マッカートニー、
スティーヴィー・ワンダー、ビリー・アイリッシュ、スティングが選曲されています。

二人とも抑制の利いたバランスのいいプレイをしつつ、
要所で淀みなく16分音符が流れる長い流麗なソロを繰り出していて、
その熟達したインタープレイにはタメ息が漏れるばかりです。
二人とも大声を出すことなく、相手の話をよく聴いてから応答していて、
会話を楽しむ様子が手に取れるように聞き取れる演奏ぶりですね。

相手がどんな気持ちで聴いているのかも解さず、
とうとうと演説して自己満足に陥りがちな昭和世代からすると、
シコ・ピニェイロのオトナな態度に感心してしまうのでした。
自分より若い世代って、オトナなんだよなあ。前期高齢者のガキっぷりを恥じ入ります。

Chico Pinheiro & Romero Lubambo "TWO BROTHERS" Sunnyside SSC1697 (2023)
Chico Pinheiro & Anthony Wilson "NOVA" Buriti BR001 (2007)
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ドラムンベースからクラブ・ジャズへ <BPM> [ブラジル]

BPM  VOL.1.jpg   BPM  URBAN BOSSA VOL.2.jpg

フェルナンダ・ポルトのデビュー作を出したトラーマは、
98年に発足したレーベルで、2000年代のブラジルの音楽シーンをリードしました。
オット、マックス・ジ・カストロ、ジャイール・オリヴェイラなどの
クラブ・ミュージック世代のMPBを送り出す一方、
フェルナンダ・ポルトをリミックスしたDJパチーフィなどによるドラムンベースは、
ドラムンベース専門のサブ・レーベル、サンバロコが出していました。

DJ Patife  COOL STEPS.jpg   DJ Marky  AUDIO ARCHITECTURE 2.jpg
Patife and Mad Zoo  TRAMA D&B SESSIONS.jpg   DJ Markey & XRS  IN ROTATION.jpg

サンバロコから出たDJパチーフィやDJマーキーや
親元のトラーマが出した『ドラムンベース・セッション』、異例のヒットを呼んだ
‘LK’ を収録したDJマーキーとXRSのコンビの初アルバムなどいろいろ聴き返して、
あらためてあの時代のブラジル産ドラムンベースの良さを再確認した次第。

その魅力の底流にあるのは、やっぱりメロディの力だよなあ。
ショーロからサンバの伝統を持つブラジル音楽は、歌ものの強さが違うよねえ。
そんな歌ものの強みを発揮したユニットで忘れられないのが、
ベーシストのジェイサン・ヴァルニと
ギタリストのアンドレ・ブルジョイスが組んだ<BPM>です。

<BPM>の1作目のバック・インレイに、
「MPBにジャングル、トリップ・ホップ、ダブ、アシッド・ジャズ、ハウス、ディスコ、
エレクトロニカを融合したアーバン・ブラジリアン・サウンド」と書かれていますが、
ずばりそのとおりのサウンドが展開されています。

1作目ではアンドレア・マルキー、シモーニ・モレーノ、エドモン・コスタ、
2作目ではパウラ・リマ、マックス・デ・カストロなど大勢のシンガーをフィーチャー。
ナナ・ヴァスコンセロスのビリンバウ、
マルコス・スザーノのパンデイロなどの生の打楽器に、
管楽器のゲストも多数参加して、エレクトロと生演奏を絶妙にブレンドした
ハイブリッドなサウンドを展開しています。

1作目では、バーデン・パウエル、ドリヴァル・カイーミ、カエターノ・ヴェローゾの曲を
取り上げているので、いっそう歌もののニュアンスが強く感じられます。
2作目は2枚組で、「夜」と題されたディスク1は、<BPM>自身のほか、
DJドローレス、ボサクカノヴァ、DJマーキーなどによるリミックス集。
アコーディオンとピファノをフィーチャーした
ノルデスチ・エレクトロなトラックがあったりと、
ここでも生演奏をいかしたエレクトロニック・ミュージックを聞かせていて、
「夜明け」と題されたディスク2ともども、
ジャジーなセンスに富んだメロディアスなトラック揃い。

ドラムンベースにとどまらない、
さまざまなビート・フォームをクロスオーヴァーさせた<BPM>は、
ブラジルにおけるクラブ・ジャズの申し子だったのかもしれません。

<BPM> "VOL.1 NEXT BRAZILIAN VIBE EXPERIENCE" Urban Jungle/MCD World Music MCD109 (2000)
<BPM> "URBAN BOSSA VOL.2" Urban Jungle/MCD World Music MCD110 (2001)
DJ Patife "COOL STEPS - DRUM’N’BASS GROOVES" Sambaloco/Trama T300/523-2 (2001)
DJ Marky "AUDIO ARCHITECTURE: 2" Sambaloco/Trama T004/554-2 (2001)
Patife and Mad Zoo "TRAMA D&B SESSIONS" Trama T006/829-2 (2003)
DJ Markey & XRS "IN ROTATION" Innerground INN003CD (2004)
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ブラジリアン・ドラムンベース再び フェルナンダ・ポルト [ブラジル]

Fernanda Porto  FERNANDA PORTO.jpg

ピンクパンサレスからY2Kリヴァイヴァルを知ったという、
あいかわらず流行にウトい当方ですが、
当時を思い出すと、ドラムンベースと女性シンガーの組み合わせで
一番印象的に残っているのは、フェルナンド・ポルトかなあ。

ドラムンベースの歌もので、ブラジル人歌手がまっさきに思い浮かぶってのは、
いかにもクラブ・ミュージック門外漢ぽいですが、
そもそもドラムンベースでヴォーカリストがフィーチャーされることはそうそうなくて、
あってもアルバムに数曲あるかどうかだったよねえ。

ブラジルのドラムンベースが、ことのほか歌ものと親和性があったような記憶があるのは、
サン・パウロのDJ、DJパチーフィがリミックスした ‘Sambassim’ がきっかけ。
DJパチーフィがロンドンのジャングル/ドラムンベースのレーベル、
Vレコーディングズに売り込んでヒットさせた曲でしたけれど、
ぼくにとっても、この曲がブラジリアン・ドラムンベース開眼の1曲でした。

THE BRASIL EP.jpg

Vレコーディングズはロニ・サイズやDJクラストなど、
ドラムンベースの重要DJのリリースで知られたロンドンのレーベル。
フェルナンド・ポルトやマックス・ジ・カストロの曲を
DJパチーフィ、DJマーキー、XRSランドがリミックスした “THE BRASIL EP” は、
ドラムンベース・シーンに新たな風をもたらしました。

細分化されたドラムンベースの特徴的なビートが、
軽やかなサンバを演出した ‘Sambassim’ は、
フェルナンダ・ポルトのジョイスの歌い口を思わすヴォーカルがめちゃチャーミングで、
ひと聴きぼれしました。

当時はまだフェルナンダ・ポルトのアルバム・デビュー前で、
‘Sambassim’ のオリジナル・ヴァージョンが収録されたデビュー作は、
ヒット翌年の02年になって出ました。
ひさしぶりに棚から取り出して聴いてみたんですが、
今聴いても新鮮というか、ネオ・ソウルと融合したニュアンスで
リヴァイヴァルしている現在の方が、むしろツボじゃないですか。

当時はサンベースとかドラムンボサとか呼ばれていた、
このあたりのサウンド、少し聴き返してみようかな。

Fernanda Porto "FERNANDA PORTO" Trama T004/590-2 (2002)
DJ Patife, XRS Land, DJ Marky "THE BRASIL EP" V Recordings/Trama T002/555-2 (2001)
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ジョアン・ジルベルトの「カリニョーゾ」 [ブラジル]

João Gilberto  AO VIVO NO SESC.jpg

98年4月5日、ジョアン・ジルベルトが
サン・パウロのセスキ・ヴィラ・マリアナ劇場で行ったライブ録音がお蔵出し。
この2枚組CDを最初に店頭で見かけた時はスルーしたんだけど、
98年録音ならギリギリ大丈夫かなと思い直し、買ってみました。

「ギリギリ大丈夫」というのは、2000年の “JOÃO VOZ E VIOLÃO” で
ジョアン・ジルベルトのあまりの衰えぶりにガクゼンとなり、
以後ジョアン・ジルベルトのフォローをやめたからです。
ところが日本ではこの頃からジョアンを神格化して、
「法王」などと持ち上げる傾向に拍車がかかり、
ぼくはますます反発を感じて、後年のジョアンを完全無視するようになりました。

前にも書きましたけど、ぼくにとってのジョアン・ジルベルトは
色気あふれる初期だけで、後年では85年のモントルー・ライヴがゆいいつの例外でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-11-05
ジョアン・ジルベルトは枯れた味わいが出るようなタイプの歌い手じゃないから、
後年の神格化する非音楽的な評価は、愚かしい権威付けにすぎません。

で、問題は90年代という録音時期です。
オフィシャルで出た94年のサン・パウロのテレビ特番のライヴ
“AO VIVO - EU SEI QUE VOU TE AMOR” も衰えが目立って、
早々に処分してしまったし、手元にある96年のイタリアの
ウンブリア・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ盤がまあまあ悪くないといったところ。

果たして98年のライヴはどんなものかと、疑心暗鬼で聴き始めましたが、
それほど衰えは感じられず、ジョアンも気分良く歌っていますね。
わずか645人という観客数は、度を越した完璧主義者に快適だったのかも。
老人声で色気を求めるべくもないところは、目をつぶりますけれど。

ジョアンが愛する古いサンバや往年のボサ・ノーヴァ全36曲は、
ファンにはおなじみのレパートリー。2時間弱というヴォリュームで、
96ページのブックレットには、ポルトガル語・英語解説と全曲の歌詞が付き、
原曲の歌詞をジョアンが変えて歌っている箇所も、丁寧に書かれています。

発売元のSESCによれば、
‘Violão Amigo’ ‘Rei Sem Coroa’ がCD初収録とありますが、
それよりびっくりなのは、ピシンギーニャとジョアン・ジ・バーロの大名曲 ‘Carinhoso’。
ジョアンが歌う「カリニョーゾ」なんて初めて聴いたぞ。これもCD初収録じゃないの?

ブラジル音楽の名曲中の名曲、情熱的なラヴ・ソングですけれど、
曲がドラマティックに盛り上がる一番の聞かせどころ、
‘Vem, vem, vem, vem’ (来て、来て、来て、来て)を、
ジョアンはギターだけの演奏にして、歌わないという暴挙に出ています。
過度な表現を抑えて、さりげない歌にしたかったのでしょうか。

歌い出しからして、歌とギターの拍をずらしまくり、
小節の区切りも無視して先走ったり、跳ねたり、縮めたりと自由自在に歌う、
ジョアン独特の無手勝流ギター弾き語りが
この名曲「カリニョーゾ」でも遺憾なく発揮されています。
ジョアン・ジルベルトの歌のシンコペーション感覚って、まぢ変態。
この1曲だけで、この2枚組は聴く価値があると思いますよ。

João Gilberto "AO VIVO NO SESC 1998" SESC CDSS0177/23
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ボヘミアンのサンバ・ソングライター ウィルソン・バチスタ [ブラジル]

Wilson Baptista  EU SOU ASSIM.jpg

ラパ育ちのサンビスタで、悪党と交友関係をもって十代の頃に何度も逮捕され、
サンバ・ジ・ブレッキなどマランドロ気質のサンバを数多く生み出した作曲家、
ウィルソン・バチスタ(1913-1968)の生誕110周年記念作が出ました。
シロ・モンテイロが歌った ‘Oh, Seu Oscar! ’ 「おい、オスカルくん」の作者ですよ。

ウィルソン・バチスタというと有名なのが、ノエール・ローザと罵り合った大論争。
ヴィラ・イザベルの街を称えるために他の地区をけなしたのが発端となって、
サンバによる悪口の応酬となり、ウィルソンはノエールの顎のない顔を攻撃して、
「ヴィラのフランケンシュタイン」というサンバまで書くに至ります。
二人の論争は、ウィルソンが作曲した ‘Terra De Cego’ に
ノエールか歌詞を書いて終止符が打たれて、二人の間に友情が芽生えます。

Francisco Egydio Roberto Paiva.jpg

のちになって、この論争で生まれた曲が56年にオデオンでレコード化されました。
論争とは関係がないノエールの ‘João Ninguém’ も収録されていますが、
ノエールとウィルソンがバトルしたサンバを、
フランシスコ・エジディオとロベルト・パイーヴァが歌い、
レコードのジャケットには、ノエール(左)とウィルソン(右)が描かれました。
今回のアルバムには、この論争で生まれた ‘Conversa Fiada’ が取り上げられ、
なんとウィルソン本人のヴォーカルに、
新たに伴奏をつけたヴァージョンを聴くことができます。

今回の生誕110周年記念作が、過去に出された85年フナルチ盤や、
11年ビスコイト・フィーリョ盤のソングブック集と違うのは、
収録曲の半数でウィルソン・バチスタの声を使い、新たに伴奏をつけたところ。
これが画期的といってもいいほど、成功しているんですよ。

1曲目のエレピとハモンドにホーンズを配した洒脱なアレンジにのせて、
マランドラージェンたっぷりのヴォーカルを聞かせる ‘Meu Mundo É Hoje’ ではや完敗。
続くサンバ・ショーロの伴奏にのせた ‘Nega Luzia’ に夢見心地です。
半世紀以上も昔の録音と、かくもいきいきと共演できるものなのかあ。
‘Chico Brito’ や ‘São Paulo Antigo’ なんて、 今の録音に聞こえますよ。
ウィルソンのそっけない無頼な歌いぶりには、かすかな哀感が漂っていて、
そのやるせない情感にシビれます。

2枚組全30トラック(メドレーあり)中13トラックが、ウィルソンのヴォーカルで、
ほかはネイ・ロペス、ジョイス・モレノ、クリスティーナ・ブアルキ、ジョアン・ボスコ、
フィロー・マシャード、ネイ・マトグロッソ、ドリ・カイミなどが歌います。
サックス奏者エドゥ・ネヴィス、バンドリン奏者ルイス・バルセロス、
ギタリスト、パウロ・アラゴーンなど、多くのアレンジャーを迎え、
手を変え品を変えの伴奏も楽しいことこの上なし。

生誕〇〇周年の便乗作に感心したためしがないんだけど、これは買いです!

Wilson Baptista "EU SOU ASSIM" SESC CDSS0180/23 (2023)
[10インチ] Francisco Egydio, Roberto Paiva "POLÊMICA" Odeon MODB3033 (1956)
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サンバ・ソウルのディーヴァ パウラ・リマ [ブラジル]

Paula Lima  É ISSO AÍ!.jpg   Paula Lima  PAULA LIMA.jpg
Paula Lima  SINCERAMENTE.jpg   Paula Lima  O SAMBA É DO BEM.jpg

クルービ・ド・バランソで火が点いて、ひさしぶりにパウラ・リマが聴きたくなりました。
手元にあるのは、デビュー作から13年作までの4作。

う~ん、やっぱこの人の声は味があるなあ。
厚みがあって、ふくよかにバウンスする豊かな声。
ゆったりとたゆたうように粘っこく歌うかと思えば、
ハイ・トーンでシャープに切り込みながら、自在なフェイクで聴く者を翻弄したり、
これぞディーヴァと呼ぶにふさわしい歌いっぷり。
パウラ・リマは、サンバ・ソウルのクイーンですね。

サンバ・ソウルが大ブレイクした2001年は、
ファロファ・カリオカのフロントを務めたカリスマ・シンガーの
セウ・ジョルジが独立してソロ・デビューを果たした年でしたけれど、
期待が大きすぎたのか、セウのデビュー作は肩透かしでした。
その穴埋めをしてくれたのが、パウラ・リマのデビュー作だったんです。

セウはリオ、パウラはサン・パウロという違いはあれど、
二人とも70年生まれの同い年。
パウラにはクラブ・ジャズやヒップ・ホップのセンスもあって、
繰り出すスキャットも上品なジャズではなく
ストリートの猥雑さが匂い立つところが、いいんだな。

メジャーに移籍して出した03年のセカンドは、
蒲田あたりのライヴハウスから六本木のクラブに移っちゃったくらいの
プロダクションの変化があり、ぐっとゴージャスになりました。
なんせ「ムーンライト・セレナーデ」をポルトガル語カヴァーしてるくらいだから。
それでもパウラは、下町のざっくばらんなネエちゃんのまんまなのが嬉しい。
当時セウ・ジョルジがええかっこしいして、
鼻持ちならなくなってたのと好対照でありました。

06年のサードでは、カジュアルなプロダクションに戻って、ちょっとホッ。
やっぱりこういうムードの方がしっくりするなあ。
肩で風切ってたデビュー作から比べると、肩の力がぐっと抜けて、
歌いぶりに余裕が感じられますよ。
セウ・ジョルジの15年の最高傑作 “MUSICAS PARA CHURRASCO Ⅱ” の
ラストを飾った ‘Let's Go’ がこのアルバムで歌われています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-04-30

13年の “O SAMBA É DO BEM” は、サンバ・ソウルではなく、
ストレートなサンバを歌ったサンバ・アルバム。
デビュー作からパゴージのサンバを歌っていたから、
まるごと1枚ポップ・サンバで通しても、なんら違和感はありません。
このアルバムを最後に新作が出ていませんが、どうしてるのかな。

Paula Lima "É ISSO AÍ!" Regata 260.002 (2001)
Paula Lima "PAULA LIMA" Mercury 04400679332 (2003)
Paula Lima "SINCERAMENTE" Indie 789842012626 (2006)
Paula Lima "O SAMBA É DO BEM" Radar RAD4256 (2013)
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4年遅れで聴く結成20周年作 クルービ・ド・バランソ [ブラジル]

Clube Do Balanço  BALANÇO NA QUEBRADA.jpg

あれ? いつの間にフィジカルに!?
当初デジタル・リリースのみだった、クルービ・ド・バランソの19年新作。
21年にCDが出ていたのを気付かず、セール品になっていたのを見つけました。

というわけで、4年遅れで聴いた5作目を数える19年作。
グループ結成20周年作だったんですね。20年で5作というのは、
数が少なく思いますけれど、4年くらいおきに出るというインターバルは、
おっ、懐かしい!という気にさせられてそのたびに手を伸ばしてきたからか、
自分には珍しく、全作が手元にあります。駄作のないグループですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-10-28

思えば、クルービ・ド・バランソがデビューした01年は、
サンバ・ロック/ソウル・リヴァイヴァルで沸いた年。
パウラ・リマ、セウ・ジョルジ、マックス・デ・カストロ、ウィルソン・シモニーニャが
次々とデビューするなか、クルービ・ド・バランソも登場したんでした。

デビュー作は、オルランジーヴォ、ジョルジ・ベン、ベベートといった
往年のサンバ・ソウル・クラシックも取り上げて、
エラスモ・カルロス、ベベート、ルイス・ヴァギネルといった古参から、
ウィルソン・シモニーニャ、マックス・デ・カストロ、セウ・ジョルジ、
パウラ・リマ、イヴォ・メイレレスなどのリヴァイヴァル若手世代まで、
そうそうたるゲストを迎えて制作されていました。

あのデビュー作から20年、もはやサンバ・ソウル・クラシックに頼ることなく、
オリジナル曲だけで勝負できる実力派グループになったのを感じます。
ヴォーカル兼ギターのマルコ・マトーリ率いる8人組のメンバーも不動で、
トランペットとトロンボーンの2管を擁したアンサンブルも成熟しました。

今作ではノセノセのスウィングというより、
少し引いた感じのクールな演奏ぶりも楽しめ、
アダルトな魅力を感じさせるのが、20周年という力量でしょう。

Clube Do Balanço "BALANÇO NA QUEBRADA" YB Music no number (2019)
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ブラジル最高峰のジャズ ミシャエル・ピポキーニャ [ブラジル]

Michael Pipoquinha  UM NOVA TOM.jpg

やったあ~! ブラジルの超絶技巧ベーシスト、
ミシャエル・ピポキーニャが昨年デジタル・リリースした作品がついにCD化!
去年、これをフィジカルにしないなんて犯罪だぁ!と天を仰いだんだけど、
ついにやってくれました(感涙)。

ミシャエル・ピポキーニャは、96年北東部セアラー州リモエイロ・ド・ノルテの生まれ。
音楽一家に育ち、10歳の頃に祖父や父からベースを習い、
はや1年でプロのミュージシャンとして演奏していたという、早熟の天才です。
野外のステージで、サックス、キーボード、ドラムスを演奏する大人たちにまざって、
6弦ベースで堂々たるスラップを披露するプレイを YouTube で
観てブッとんだんですけど、これ、わずか14歳の時だったんだよねえ。

スタンリー・クラークやヴィクター・ウッテンの影響大なベース・プレイを、
磨きに磨き上げた超絶技巧が、もうハンパなくスゴイんですよ。
本作でも、 ‘Jazz Pipocado’ で絶頂期のジャコ・パストリアスを凌ぐ
驚異的なベース・ソロを披露しているんだけれど、
ジャコのベース・プレイの特徴を完璧にトレースしながら、
さらに洗練させて生前のジャコ以上にジャコらしく弾いてみせるんだから、参ります。

そして本作を聴いて、さらにブッたまげたのがピポキーニャの作曲能力。
めまぐるしくリズムを変化させて。変拍子も使いつつ複雑な構成を持つ楽曲が圧巻。
これほどの高い音楽性の持ち主だとは、心底驚きました。

ピポキーニャのベースに、ジョズエ・ロペスのサックス、チアゴ・アルメイダのキーボード、
フィロー・マシャードの息子セルジーニョ・マシャードのドラムスを中心に、
ヴァネッサ・モレーノのヴォイス、メストリーニョのアコーディオン、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-11-13
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-06-25
ペルナンブーコのアントニオ・ノブレガ(ラベッカではなくヴォーカルで参加)など、
大勢のゲストを迎えて制作されています。

入念に練り上げたスコアによるレコーディングであることは、間違いないですね。
21世紀のグローバル・ジャズの要素がすべて詰まっていて、ロバート・グラスパー、
サンダーキャット、ジェイムズ・フランシーズと肩を並べる作品ですよ。
それもそのはず、ピポキーニャはすでに15年にドイツのケルンで、
WDRビッグバンドやジェイコブ・コリアーとともに演奏をしているくらいだから、
その高い音楽性のキャリアはすでに十分なんですね。

今回のCD化で1点だけ悔やまれるのは、 ‘Confissão’ のみカットされてしまったこと。
収録時間79分ギリギリ収録できた気もするんだけどなあ。
とにもかくにもフィジカル作ってくれてバンザイな、ブラジル最高峰のジャズ作品です。

Michael Pipoquinha "UM NOVA TOM" Umbilical 21#03 (2023)
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モントリオールから届いたサンバ/MPBの良作 ジオゴ・ラモス [ブラジル]

Diogo Ramos  SAMBA SANS FRONTIÈRES.jpg

ステキなサンバ・アルバムを発見しました。
5年も前にリリースされていたのに気付かなかったのは、しかたなかったかな。
ブラジル盤ではなく、カナダで出された自主制作CDなのでした。
もちろん日本未入荷です。

ジオゴ・ラモスは、モントリオール在住のブラジル人シンガーソングライター。
音楽プロデューサーとして25年間活動し、作曲からプロデュースまで、
20枚のアルバムに関わってきたと、本人のサイトに書かれています。

18年の本作はモントリオールとサン・パウロで録音されていて、
ジオゴのギターに、カヴァキーニョ、ベース、ドラムスほか、
各種パーカッション、ホーンズ、コーラスという陣容。
知っている名前はありませんが、ほぼ全員ブラジル人のようです。

サン・パウロのシンガー・ソングライター、ペリと共作している曲があって、
え?と思ったら、ペリの05年と08年のアルバムをプロデュースしていたのが、
ジオゴだったんですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-11-28

な~るほど、あのセンスある品のいいサウンドを生み出した張本人ですか。
それもナットクのプロダクションで、ホーンやストリングスのアレンジが
曲の良さを倍加していて、ラヤラヤ・コーラスも登場します。
ご本人のソフトな歌い口は、サンバ・ノーヴォ世代のフィールですね。

歌詞カードには、カナダの雪景色や氷河などの写真にまじって、
ジオゴが雪積もる川辺でギターを弾いている写真もあります。
それはまるで初期のブルース・コバーンのような佇まいですけれど、
音楽は冬景色とはまるで似つかわしくない、朗らかな温かさに溢れたもの。

アタバーキを使いイエマンジャを歌ったバイーア流儀のアフロ・サンバあり、
ザブンバやトリアングロがバイオーンのリズムを奏でる曲もあり、
フランス語で歌う曲もある、カナダ産サンバ/MPBの良作です。

Diogo Ramos "SAMBA SANS FRONTIÈRES" Diogo Ramosc DIRAM1801 (2018)
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これがサンバ・ピアノだ シド・ビアンシ [ブラジル]

Milton Banana Trio  SAMBA É ISSO.jpg

サンバ・ブームに沸いた77年、日本で大ヒットしたインスト・サンバの傑作。
のちにシリーズ化したミルトン・バナナ・トリオの本作は、
本国ブラジルより日本の方が売れたんじゃないかしらん。
『コパカバーナの誘惑』のタイトルで出た日本盤は、
キュートなジャケットも手伝って人気盤となりました。
CD時代になって日本が真っ先にCD化しましたが、
ブラジルではとうとうCDになりませんでしたね。サブスクにもないし。

ミルトン・バナナ・トリオといえば、
初アルバムの65年から続く老舗ジャズ・サンバ・トリオ。
70年代も後半になって出たこのアルバムでは、
女性コーラスをフィーチャーしてジャズ色を薄め、
ぐっとポップに仕上げて、サウンド・イメージをがらりと変えました。

これが功を奏してヒットしたんですが、「通」には受けが悪かったようで、
ジャズ・サンバのレコードを徹底網羅したディスク・ガイド
『ボサノヴァ・レコード事典』(ボンバ・レコード、2001)では、
「コーラスが余りにポップ過ぎる」(板橋純)と選盤されませんでした(苦笑)。

ベッチ・カルヴァーリョ、アルシオーネ、クララ・ヌネスなどの
当時のヒット・サンバをメドレーで演奏した本作、
上質なポップ作品に仕上げたのは、
サン・パウロのピアニストでアレンジャー、ジョゼー・ブリアモンチの手腕でした。

ジョゼー・ブリアモンチは60年代にサンサ・トリオで活躍した後、
テレビ番組の挿入歌を多く手がけてアレンジを磨いたんですね。
マルコス・ヴァーリが歌ったテレビ主題歌 ‘Pigmalião 70’ も、
ブリアモンチが手がけた作品です。

そんなジョゼー・ブリアモンチによるポップなアレンジが、
ヒットを呼んだ大きな要因であることは間違いありませんが、
本作の最大の魅力は、ミルトンのドラミングもさることながら、
ピアノのグルーヴィな魅力です。こんなにタッチが明晰で、
ノリのいいサンバ・ピアノ、めったに聞けるもんじゃありません。

Jongo Trio.jpg

シドという名前以外、このピアニストの経歴がわからなかったんですが、
だいぶ経ってから、伝説的なジャズ・サンバ・トリオ、ジョンゴ・トリオのピアニスト
シド・ビアンシ(本名アパレシード・ビアンシ)だとわかりました。
シドのバツグンの演奏力、とりわけリズムのノリは当時から圧倒的で、
しかも声楽教育を学んでいたことから、シドがコーラス・アレンジを施し、
ジョンゴ・トリオは3人がコーラスで歌うという、
歌謡性のあるポップなジャズ・サンバ・トリオだったのでした。

ブラジルの渡辺貞夫.jpg

そのシド・ビアンシと当時共演した日本のジャズ・ミュージシャンが、渡辺貞夫です。
68年7月15日、サン・パウロでブラジリアン・エイトと録音した
『ブラジルの渡辺貞夫』がそれで、中村とうようの解説にあるとおり、
アパレシード・ビアンシがリーダー。
『コパカバーナの誘惑』がヒットしていた当時、渡辺貞夫が
昔ブラジルでこのピアニストと共演したことがあるという発言に、
えっ!と思ったんですが、68年のタクト盤だったんですね。

Brazilian Octopus.jpg

シド・ビアンシのキャリアでユニークなのは、ブラジリアン・オクトパスです。
シドがファッション・ショーで演奏するため68年に結成したグループで、サックスの名手
カゼーことジョゼー・フェレイラ・ゴジーニョ・フィーリョが在籍していました。
このグループが、実は渡辺貞夫と共演したブラジリアン・エイトなのです。

カゼーはレパートリーがあまりにコマーシャルなことに怒ってシドと喧嘩になって脱退し、
代わってエルメート・パスコアールが参加します。
ブラジリアン・オクトパスが残した1枚だけのレコードは、
カゼーが脱退しエルメートが加入した時期のもので、
オリジナル・メンバーによる録音は、『ブラジルの渡辺貞夫』がゆいいつなのでした。

グルーヴィなサンバ・ピアノの傑作 “SAMBA É ISSO”、
歌うジャズ・サンバ・トリオ、ジョンゴ・トリオ、
ラウンジーなポップ・センスを発揮したブラジリアン・オクトパスが、
シド・ビアンシの代表作といえますね。

[LP] Milton Banana Trio "SAMBA É ISSO" RCA 107.0257 (1977)
Jongo Trio "JONGO TRIO" Mix House MH0005 (1965)
渡辺貞夫とブラジリアン・エイト 「ブラジルの渡辺貞夫」 タクト COCB54256 (1968)
Brazilian Octopus "BRAZILIAN OCTOPUS" Som Livre 0223-2 (1969)

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ミナスの変拍子ジャズ ダヴィ・フォンセカ [ブラジル]

Davi Fonseca  PIRAMBA.jpg   Davi Fonseca  PIRAMBA package.jpg

すごい、すごい、という噂は耳にしていたけれど、
フィジカルが手に入らず、いつもの悪いクセでずっと聴かずにいた、
ミナスのピアニスト、ダヴィ・フォンセカのデビュー作。
ダヴィ・フォンセカ本人所有のストック分を放出してもらったという、
レアな逸品を入手することができました。

いかにも自主制作らしい凝ったパッケージで、
クリーム地にデザインされた封筒の下にある切り取り線をピリピリと破ると、
グレーのスリーブ・ケースが出てきて、
なかに透明オレンジのCDスリム・ケースが封入されています。

ピアノとヴォーカルのダヴィ・フォンセカのほか、アレシャンドリ・アンドレスのフルート、
アレシャンドリ・シルヴァのクラリネットに、
ヴィブラフォン兼ビリンバウ、ベース、ドラムスという6人編成。
ゲストにアコーディオンのラファエル・マルチーニ、
ギターのフェリーピ・ヴィラス・ボアス、
ヴォーカルのモニカ・サウマーゾという面々で、
今のブラジルのジャズ・シーンに注目する人なら、最高のメンバーでしょうが、
個人的には相性のあまりよろしくない人も多く、やや心配。

ですが、のっけのビリンバウとパンデイロのイントロから始まる変拍子曲で、
はや白旗降参しちゃいました。
何拍子だ、これ?と思わず指折り数えちゃいましたよ。17拍子かな?
7拍子のパートもあって、行ったり来たりするんですよ。うわぁ、難度高っ!
ミナスらしい美しいハーモニーのなかに、異物感のある不協和音を混ぜたり、
主旋律と対旋律を楽器を変えながら動かすポリフォニーの使い方など、
アンサンブルを自在に動かすめちゃ高度なコンポジションが圧巻。

一方、ヴォーカルのメロディは素朴なペンタトニックだったり、
シンプルに聞かせるところがミナスらしくて、ワザありコンポーズですねえ。
変拍子ばかりでなく、ポリリズムも多用されていて、
端正にさらっと演奏しているんだけど、複雑な仕掛けがあちこちに施されているという、
なんだか知的ゲームのような音楽です。
全曲変拍子というヘンタイぶりと、スリリングなリズム・ストラクチャーなど、
エルメート・ミュージックと比肩するプログレッシヴなブラジリアン・ジャズですね。

Davi Fonseca "PIRAMBA" Savassi Festival no number (2019)
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サンバ・パウリスタ古豪の集い エンコントロ・ダス・ヴェーリャス・グァルダス [ブラジル]

Encontro Das Vellhas Guardas.jpg

あぁ、こういうサンバが心底好き。
伝統サンバの新作を聴いたのって、何年ぶりだろう?
聴き終えて、満ち足りた思いでデータベースを打ち込んでみたら、3年ぶりでしたよ。
そうか、2021年も2022年も、伝統サンバの新作CDを1枚も買ってなかったのか。
伝統サンバ、冬の時代であります。

というわけで、長い渇きを癒すことができた1枚は、
イデヴァル・アンセルモ、ゼー・マリア、マルコ・アントニオ、
3人のサン・パウロのヴェテラン・サンビスタを集め、
エンコントロ・ダス・ヴェーリャス・グァルダスの名義で、
サンバ・エンレードを数多く作曲したサンバ・パウリスタの名作曲家
タリズマンことオクターヴィオ・ダ・シルヴァにオマージュを捧げた企画アルバムです。

Ideval Anselmo.jpg   Velha Guarda Do G.R.C.E.S. Unidos Do Peruche.jpg
Velha Guarda Nenê De Vila Matilde.jpg

イデヴァル・アンセルモは、
2012年のベスト・アルバムにも選んだ、ぼくの大好きなサンビスタ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-10-24
ゼー・マリアはウニードス・ド・ペルーシェのアルバムで、
マルコ・アントニオは、ネネー・ジ・ヴィラ・マチルジのアルバムで聴いていましたよ。

ただ今回のテーマである作曲者のタリズマンというサンビスタは、
寡聞にしてぼくは知らず。解説によると、
もともとはリオ北地区のウニードス・デ・ロシャ・ミランダのサンビスタだったとのこと。
サン・パウロのエスコーラ、カミーザ・エルジ・イ・ブランコを創設した
イノセンシオ・トビアスに誘われてサン・パウロへ移住し、
カミーザ・エルジ・イ・ブランコのサンバ・エンレードや数々のサンバを作曲して、
サン・パウロの重要作曲家になった人だそうです。
というわりに、生年月日も没年月日も不明というあたり、
自身のレコードをほとんど残さなかったからなのでしょうか。

本作はSESCの制作なので、さすがにプロデュースはしっかりしていますねえ。
ルーカス・ファリアという人が音楽監督を務めていて、
サンバ/ショーロのレジオナル編成に、
曲によって管楽器を起用して、サウンドはパーフェクト。
チューバ、バリトン・サックス、アルト・サックスを加えた
‘Há Um Nome Gravado Na História’ なんて、最高です。

知らない曲ばかりと思っていたら、
ベッチ・カルヴァーリョが79年の最高傑作 “NO PAGODE” で歌っていた
‘Meu Sexto Sentido’ が出てきて、おぉ! この人の曲だったんですねえ。

Embaixada Do Samba Paulistano.jpg

ラスト・トラックの ‘Biografia Do Samba’ がタリズマンの代表曲で、
69年のサンバ・エンレードとのこと。
イデヴァル・アンセルモが参加していたエンバイシャダ・ド・サンバ・パウリスターノの
アルバムのオープニングでも、この曲がメドレーで歌われていましたね。

コクの深い芳醇なサンバを最高の伴奏で聞かせたアルバム、
これ以上の至福がありましょうか。

Encontro Das Vellhas Guardas "TALISMÃ: NEGRO MARAVILHOSO!" SESC CDSS0174/23 (2023)
Ideval Anselmo "MEMÓRIA DO SAMBA PAULISTA" Sambatá/Tratore SAM017-02 (2012)
Velha Guarda Do G.R.C.E.S. Unidos Do Peruche "MEMÓRIA DO SAMBA PAULISTA" Sambatá/Tratore SAM012-2 (2008)
Velha Guarda Nenê De Vila Matilde "MEMÓRIA DO SAMBA PAULISTA" Sambatá/Tratore SAM16-02 (2012)
Embaixada Do Samba Paulistano "MEMÓRIA DO SAMBA PAULISTA" Sambatá/Tratore SAM009-2 (2008)
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パフォーマンスよりも音楽性 バルバトゥーキス [ブラジル]

Barbatuques  AYÚ.jpg

ショランド・アス・ピタンガスの新作で、思いがけずバルバトゥーキスの名を聞いて、
懐かしくなって彼らの15年作を引っ張り出してきました。
175ミリ角のフォトブック仕様という特殊仕様のCD。
彼らの代表作で、ぼくのお気に入りの一枚だったのに、
これまで記事にしていなかったので、取り上げておきますね。

バルバトゥーキスは、95年にサン・パウロで結成された
ボディ・パーカッション・グループ。
顔からつま先に至るまで、全身のありとあらゆる場所を叩きに叩きまくって
ビートを作っていくという、驚異的なパフォーマンスを繰り広げます。
いわばビート・ボックスの発展形ともいえるグループですね。

こういうグループの特徴として、視覚的要素の方が圧倒的に強力で、
CDなどの音源だけで聴くと、魅力半減になりがちなんですが、
このグループに限っては、そうじゃないんです。
本作でもわかるように、途方もないアイディアが随所に詰め込まれていて、
実験性に富んだ音作りもふんだんに取り入れていながら、
それを鮮やかにポップな音楽性に仕上げるスキルが、彼らにはあるんですよ。

それをはっきり認識できるのが、
ぼくの天敵(笑)エルメート・パスコアールをゲストに迎えた曲。
エルメートはあいかわらずのエキセントリックなヴォイス・パフォーマンスを
繰り広げているんですけれど、バルバトゥーキスの見事なパフォーマンスが
エルメートの毒々しさを中和して、ポップな音楽性に昇華させています。
エルメート自身がやると、
悪しきフリー・ジャズみたいになるプリテンシャスなパフォーマンスを、
ちゃんと豊かな音楽に変換できる知力が、バルバトゥーキスにはあるんです。

本作でも、スカとフラメンコを融合したり、ケチャからアイディアを借りてきたり、
マシーシというブラジル音楽の古層にアプローチして
ピシンギーニャにオマージュを捧げるなど、
きわめてインテレクチュアルな試みをしながら、
肉体感溢れる音楽を生み出しているところが、このグループの偉さでしょう。

本作は16年にUKのミスター・ボンゴからも発売され、
世界各地の音楽祭に招かれて活躍しています。
日本にも来てくれないかな。ぜひ生を観てみたいですね。

[CD Book] Barbatuques "AYÚ" MCD MCD468 (2015)
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風薫るハーモニカ・ショーロ ショランド・アス・ピタンガス [ブラジル]

Chorando As Pitangas  TERCEIRA DOSE.jpg

さわやかなハーモニカ・ショーロに目の覚める思いがする、ヴィトール・ロペスの3作目。
今作はヴィトールの名が消え、
ショランド・アス・ピタンガスのグループ名義となっています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-12-22
前2作との違いは、レパートリーからショーロ古典がなくなり、
すべてメンバーによるオリジナル曲になったこと。それでグループ名義になったのかな。

ショランド・アス・ピタンガスは、ハーモニカのヴィトール・ロペスに、
7弦ギターのジアン・コレア、バンドリンのミルトン・モリ、
カヴァキーニョのイルド・シルヴァ、パンデイロのロベルタ・ヴァレンテの5人編成。
今回はゲストに、ギターのシコ・ ピニェイロ、ヴァイオリンのリカルド・ヘルス、
ボディ・パーカッション・グループのバルバトゥーキスが参加して、
彩をぐんと豊かにしています。

特に、現在ニュー・ヨークで活躍するジャズ・ギタリスト、シコ・ピニェイロの参加は、
おっ!と色めき立つ人もいるんじゃないかな。
前半は、ショーロから逸脱しないよう主旋律を生かしたプレイをしつつも、
後半のソロでは冴えたロング・プレイを聞かせるところがキモ。さすがですねえ。

Ricardo Herz Trio  AQUI É O MEU LÁ.jpg

ヴァイオリンのリカルド・ヘルスは、バークリー音楽院で学び、
アントニオ・ロウレイロと共演作を出したりしている人。
知的すぎる音楽性は、ぼくが敬遠するタイプではあるんですが、
クラシックとジャズの素養をベースとして、ノルデスチから南部までさまざまな地方音楽に
チャマメまで研究して、肉体感のあるサウンドを生み出している姿勢は立派。
彼の研究成果を発揮した12年作は、見事な出来でした。
超ユニークなパフォーマンス集団、
ボディ・パーカッション・グループのバルバトゥーキスの起用も、大正解ですね。

ちなみにタイトルの「3回目接種」とは、
コロナ・ワクチンの接種回数と3作目のダブル・ミーニングとのこと。
カンケーないですが、ワクチン接種は3回でやめました、ワタシ。

Chorando As Pitangas "TERCEIRA DOSE" no label no number (2022)
Ricardo Herz Trio "AQUI É O MEU LÁ" Scubidu Music SDU014 (2012)
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ブラジルの出汁が利いたアヴァン・ポップ トゥリッパ・ルイス [ブラジル]

Tulipa Ruiz  HABILIDADES EXTRAORDINÁRIAS.jpg

圧巻! ブラジルの出汁が利いてますねえ !!
サイケ・ロックであったりグランジであったりと、ブラジル音楽のフォームではないのに、
これほど強烈に立ち上ってくるブラジレイロな匂いは、
ブラジル文化が持つしぶとい気質みたいなもんなんでしょうか。

そういえば、こんな圧倒のされかたって、昔も味わったような。
そうだ、ベイビー・コンスエロの79年名作 “P'RA ENLOUQUECER” ですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-06-24
バイーアのアフロ・ブラジル文化が、ロックを見事に換骨奪胎してみせた傑作でした。

トゥリッパ・ルイスというこのアーティスト、
サン・パウロのインディ・シーンから登場した人らしいんですけど、スゴイ才能だなあ。
オルタナ・ロックに縁のない当方の耳にもちゃんと届いたことが、なによりの証明。
ここのところ、インテレクチュアルなブラジル音楽にヘキエキとしていたせいなのか、
こういうガツンとくるパンキッシュな音の方が、刺さるなあ。

トゥリッパのヴォーカルの存在感が、とにかく圧倒的。広い音域をフルに活用して、
オペラティックなヴォーカル表現からグランジ・パンクなシャウトまで自由自在。
気合のこもったナマナマしさがあるから、説得力がハンパない。
こんなところも、かつての奔放なベイビー・コンスエロを思わせるじゃないですか。

そして、アナログ感たっぷりのサウンドにもヤられましたよ。
このアルバム、じっさい8トラックでオープン・リールのテープ録音で
制作されたというんだから、こりゃホンモノだわ。
こういうのを聴くと、ローファイを演出したデジタル録音なんて、
インチキじゃないかという気さえしてくるよなあ。

ペドロ・サーのギター、ペドロの弟ジョナス・サーのシンセ、
トニーニョ・フェラグッチのアコーディオン、さらに御大ジョアン・ドナートが
ローズ、モーグを弾いて、オルタナ、レゲエ、グランジ、ファンキ・カリオカなどなど、
ジャンル横断しまくった全11曲。サンパウロのアヴァン・ポップの快作です。

Tulipa Ruiz "HABILIDADES EXTRAORDINÁRIAS" no label BEM002 (2022)
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ブラジリアン・ギターの名作 マルコ・ペレイラ [ブラジル]

Marco Pereira  O SAMBA DA MINHA TERRA.jpg

こちらは季節の定盤ではなく、ふと思い出して一度聴き直すと、
そのままヘヴィロテになってしまう、生涯の愛顧盤。
ブラジルのギタリスト、マルコ・ペレイラの04年作です。
クラシックのギタリストなんですけど、
現在ブラジルで活躍するギタリストでは、ぼくが一番好きな人。

マルコ・ペレイラがマイ・フェバリットなことについては、
これまでにも折に触れ書いたおぼえがあるんですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-12-06
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-01-02
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-03-31
そういえば、このアルバムを紹介したことがありませんでしたねえ。

04年に出たアルバムで、タイトルからもわかるとおり、サンバ・アルバム。
クラシックのギタリストが、こんなにキレッキレでいいのか!と叫びたくなるほど、
リズムの鬼と化しているマルコのギター・プレイが詰まっているんですよ。

バーデン・パウエルとビリー・ブランコの共作 ‘Samba Triste’ に始まり、
ジルベルト・ジルの ‘Expresso 2222'、ジョルジ・ベンの ‘Zazueira’、
ガロートの ‘Lamentos Do Morro’、アリ・バローゾの ‘Morena Boca De Ouro’ ほか、
チック・コリアの ‘La Fiesta’、‘My Funny Valentine’、
そしてマルコ自身のオリジナル曲といったレパートリー。

マルコ・ペレイラの特徴といえば、なんといってもまずその音色の良さ。
クラシック・ギタリストらしい爪弾きによる立ち上がりの良いシャープな音が鮮やかで、
正確なフィンガリングが生み出す、整った1音1音にホレボレします。
こういうのって、運指練習の賜物なんだろうなあ。まったくバラツキがないもんね。

そして、ギターの長~いソロの凄まじさといったら!
休符がぜんぜん現れないんですよ。ソロを延々と弾き続けていくんだけど、
そのソロの構成が実によく組み立てられているんです。
単音ソロとコード・ソロの組み合わせも自在。
ふんだんなアイディアで、次から次へとフレーズが生まれてくるといった感じで、
これぞインプロヴィゼーションのお手本といったソロを堪能できます。
手癖が酷いギタリストがこれ聴いたら、恥ずかしくなるんじゃない?

超速テンポでのキレッキレのギターにも目がくらむけど、
スロー・バラードで聞かせる、音の強弱が生み出すニュアンスの美しさも絶品。
ギター・ソロで弾いた ‘My Funny Valentine’ は、メロディをまったく崩さず
ストレートに弾きながら、情感豊かに歌わせていて、圧倒されますよ。
この曲の最高のヴァージョンのひとつなんじゃない?

最初から最後まで、マルコのギターに耳を引き付けられっぱなしのアルバムですけれど、
複数名のベース、ドラムスの確実なサポートぶりも聞き逃せません。
とくに、アミルトン・ジ・オランダ・キンテートやエルメート・パスコアールのグルーポの
名ドラマー、マルシオ・バイーアのプレイはさすがといえます。
‘Samba Triste' でマルコとリズムをキメまくるブラシ・プレイは、もう最高。

マルコ・ペレイラのアルバムは、手元に10枚以上ありますけれど、
このアルバムがダントツで再生回数最多であることは間違いありません。

Marco Pereira "O SAMBA DA MINHA TERRA" Solu 20.0663.002 (2004)
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サンバ究極のノスタルジック・サウンド コンジュント・コイザス・ノッサス [ブラジル]

Conjunto Coisas Nossas  NOEL ROSA - INÉDITO E DESCONHECIDO.jpg

エルドラード祭りが続いています。
その昔、夢中になって聴いたエルドラードのアルバムを引っ張り出して、
いろいろ聴き始めたら、止まらなくなってしまいました。
ブラジル音楽の深みにハマっていた80年代のぼくにとっては、
忘れられないレーベルです。
レーベル発足当初は、輸入代理店の取扱いがなくて日本に入荷せず、
ブラジルに勤務する知人を通して手に入れるなど、苦労したものです。

今回お話ししたいのが、ノエール・ローザの音楽を、
20~30年代当時のままに再現した、コンジュント・コイザス・ノッサスの2作目。
そのいにしえのサウンドをよみがえらせた演出には、驚かされました。
ジェフ・マルダーの75年作 “IS HAVING A WONDERFUL TIME” を
ホウフツとする内容で、いっぺんでトリコになりました。

76年に結成されたコンジュント・コイザス・ノッサスは、
若き日のエンリッキ・カゼスが初めてプロ入りしたリオの若手グループ。
女性歌手のカン高い声や、コミカルな男性歌手の歌い口など、
ラジオが普及する以前の、劇場で音楽が楽しまれていた時代を見事に表現しています。
その徹底したノスタルジア趣味は、筋金入りでした。

エルドラードから83年に出た2作目は、
ノエール・ローザの未発表曲を題材に、
ノエールが生きた時代のリオを再現しています。
コンジュントの7人に加え、大勢のコーラスや管楽器アンサンブルほかの
ゲスト多数を加えていて、クラリネットのネチーニョ、パウロ・セルジオ・サントス、
7弦ギターのルイス・オタヴィオ・ブラガといった名手が参加。

ストライド調のピアノや、古式ゆかしいドラムスのハイハット音、
バンジョーのリズム、優雅なホーン・アンサンブルなど、
100年前にタイム・スリップするかのよう。

‘Espera Mais Um Ano’ では、ノエール自身が歌うSP録音から、
コイザス・ノッサスの演奏にシームレスにつながる粋な演出があったり、
ノエールとイズマエール・シルヴァが共作してフランシスコ・アルヴィスが歌った
‘Quem Não Quer Sou Eu’ では、
なんとイズマエール・シルヴァがギター弾き語りで、
最初のヴァースを調子はずれ(ジザフィナード!)に歌うという
サンバ・ファン悶絶のサプライズもあります(これいつの録音なんだろう?)。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-01-17
いやぁ、ひさしぶりに聴きましたが、タメ息が出るばかりの名作ですよ。

Conjunto Coisas Nossas  1st CD.jpg   Conjunto Coisas Nossas  2nd CD.jpg

最後に、このアルバムは、何度もCD化されていますけれど、
遺憾なことに、‘A.B. Surdo’ で音揺れを起こす箇所があります。
マスターテープが不良のようで、2度目のCD再発時も修正されず、
3度目のヴァディコのアルバムとの2イン1でCD化されたさいに、
一部は直りましたが、修正しきれていない箇所が残っています。

Noel Rosa & Vadico.jpg

オリジナル盤を探すのも、さほど難しくなさそうだから、
LPで聴くのをおすすめします。LPはゲートフォールド・ジャケットで、
中にブックレットが付いて貴重な写真・解説が満載ですよ。

[LP] Conjunto Coisas Nossas "NOEL ROSA - INÉDITO E DESCONHECIDO" Estúdio Eldorado 79.83.0408 (1983)
Conjunto Coisas Nossas "NOEL ROSA - INÉDITO E DESCONHECIDO" Eldorado 584.091
Conjunto Coisas Nossas "NOEL ROSA - INÉDITO E DESCONHECIDO" Eldorado 278135
Noel Rosa & Vadico "SUCESSOS EM DOBRO" Eldorado 924041
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人生最期に残した珠玉のショーロ・アルバム カシンビーニョ [ブラジル]

K-Ximbinho  SAUDADES DE UM CLARINETE.jpg

ひさしぶりに、ラエルシオ・ジ・フレイタスのエルドラード盤を聴き返したら、
すごく良くって、ここのところ毎日のように聴いています。
考えてみると、この頃のエルドラードって、ほんとにいい仕事をしていたなあ。
70年代の伝統サンバ復興に大きな役割を果たしたマルクス・ペレイラで
ディレクターを務めた、アルイージオ・ファルコーンの仕事ですね。

80年前後のエルドラードで、なんといっても忘れられないのが、
優れたサンバ作家でありながら、世間一般には知られていなかった
サンビスタのアルバムを制作していたことです。
ギリェルミ・ジ・ブリート、ネルソン・サルジェント、ジェラルド・フィルミは、
エルドラードから初めてのソロ・アルバムを出した人たちですね。
初ではなかったけれど、モナルコの “TERREIRO” やエルトン・メデイロスも、
エルドラードに名作を残しています。

ギリェルミ・ジ・ブリートやネルソン・サルジェントは、
のちにたくさんのソロ作を出しましたけれど、最初にエルドラードが手がけなかったら、
二人がこれほど多くの作品を残すことはできなかったはずです。

サンバだけじゃなく、ショーロについても、同じでした。
重要な音楽家でありながら、そのキャリアにふさわしい録音に恵まれていない人に、
アルイージオ・ファルコーンはきちんと目を向け、アルバム作りをしていましたね。
ラエルシオ・ジ・フレイタスがまさにその一人でしたけれど、
もう一人、サックス/クラリネット奏者のカシンビーニョがいました。

カシンビーニョの本名はセバスチャン・ジ・バロス。
ノルデスチ出身(リオ・グランデ・ド・ノルチ州のタイプ生まれ)で、
幼い頃から町の楽団でクラリネットを演奏し、徴兵されて軍のバンドに入隊し
サックスに持ち替えます。除隊後、38年にパライーバで有数の楽団の
オルケストラ・タバラジャに所属し、42年にリオへ移住。
リオでは、フォン=フォンやナポレオン・タヴァレスの楽団などを渡り歩いた後、
オルケストラ・タバラジャがリオに進出してきたのを機に、再びメンバーに戻ります。

50年代に入ると、さまざまな楽団でダンスホールやラジオMECの交響楽団で演奏し、
60年代はテレビ・グローボのオーケストラにも所属していました。
そんな伴奏者としての音楽家人生であった一方、多くのショーロ名曲も書き、
多くのショロンがカシンビーニャの曲を演奏しています。
ぼくもそうしたレコードから、カシンビーニョという、
風変わりな作者の名前を知ったのですけれど、
ソロ・アルバムはなかなか見つかりませんでした。

それもそのはず、カシンビーニョのショーロ・アルバムなんて、ないんですね。
自身名義のレコードはいくつかあるものの、
当時流行していた曲のインスト演奏といったものばかりでした。
58年にポリドールから出した、
カルトーラ曲集なんて珍品があったりするんですけれども。

K. Ximbinho RÍTMOS E MELODIAS.jpg

ぼくは56年に出たオデオンの10インチを持っていますけれど、
フォン=フォンのショーロ名曲 ‘Murmurando’ やサンバの ‘Jura’ があるものの、
アメリカ映画主題歌の ‘Unchained Melody’ や ‘Love Me Or Leave Me’、
さらには ‘Rock Around The Clock’ なんて曲までやっています。

当時の器楽奏者でショーロ・アルバムを作るなんていうのは、ごくごく例外で、
ヴァルジール・アゼヴェートやジャコー・ド・バンドリンが、
その少数の例外だったんでしょう。
そんなカシンビーニョに光を当てて、
きちんとしたショーロ・アルバムを作ったのがエルドラードでした。

最晩年の録音で、LPが出た81年にはすでにカシンビーニャは故人となっていましたが、
カシンビーニャが作った不朽のショーロ・レパートリーを集めて、
最高の伴奏陣で演奏をしています(‘Sonhando’ が選曲から漏れたのは残念無念)。
カシンビーニャ自身もサックスとクラリネットを演奏し、
クラリネットはソロもとっています。
ギターのラファエル・ラベーロ、カヴァキーニョのネコ、パンデイロのジョルジーニョと、
名手たちを揃え、コンジュントからガフィエイラ・スタイルのビッグ・バンド演奏まで、
さまざまな編成で、カシンビーニョ自作のショーロを演奏しています。

だいぶ昔に、パウロ・モウラのおくやみ記事でカシンビーニョに触れましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-07-17
このレコードのライナーには、
カシンビーニョが80年6月26日に亡くなるふた月前の4月に行われた、
パウロ・モウラとの対談が載っているほか、
解説もパウロ・モウラが書いています。
人生のぎりぎり最期に、自作のショーロ名曲を集大成したアルバムを残せたのは、
カシンビーニャにとっても、ショーロ・ファンにとっても、まさに幸運な出来事でした。

K-Ximbinho "SAUDADES DE UM CLARINETE" Eldorado 278156 (1981)
[10inch] K. Ximbinho E Seu Conjunto "RÍTMOS E MELODIAS" Odeon MODB3039 (1956)
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サン・パウロのピアノ・マエストロ ラエルシオ・ジ・フレイタス [ブラジル]

Laercio De Freitas  MODERNO.jpg   Laércio De Freitas  SÃO PAULO NO BALANÇO DO CHORO.jpg

ラダメース・ニャターリをして、天才といわしめたラエルシオ・ジ・フレイタスの新作。
御年81歳のご本人は演奏に参加せず、総勢28名のミュージシャンが集まって、
ラエルシオの未発表曲を演奏したプロジェクト・アルバムとなっています。
ピアニストだけでも8人が参加していて、
クリストヴァン・バストス、エルクレス・ゴメスなどの名が並んでいます。

ラエルシオ・ジ・フレイタスは、ラダメース・ニャターリのセステートや、
メキシコ滞在時のタンバ4に在籍した、サン・パウロ出身の鍵盤奏者。
70年代には、エルザ・ソアレス、マリア・ベターニャ、マルコス・ヴァーリ、
クララ・ヌネスなど、多くの大物アーティストに作品を提供し、
アレンジャーとしても活躍して、サンバ/MPBの屋台骨を支えたマエストロです。

自身のソロ・アルバムで代表作として挙げられるのが、
80年にエルドラードから出たショーロ・アルバムですね。
すごくユニークというか、異色のショーロ作で、
発売当時ぼくもこのLPは、ずいぶん愛聴しました。
のちにCD化もされています。

ユニークなのは編成で、ラエルシオはオルガンをメインに弾き、
ベース、ドラムス、パンデイロのリズム・セクションがバックアップします。
そこに、ギター、カヴァキーニョ、バンドリン、トロンボーン、フルートなどが
曲によって加わるというフォーマットだったんですね。
ベースとドラムスがスウィンギーな演奏を繰り広げ、
バランソのフィールもたっぷりな、サンバ・ショーロならぬ、
バランソ・ショーロといった仕上がりになっていました。

レパートリーのなかには、19世紀のショーロを思わせる、
ノスタルジック・ムードたっぷりのピアノ・ソロもあったり、
エレクトリックのジャズ・ギターがリードをとるジャズ・ショーロがあったりと、
あとにもさきにも、こんなユニークなショーロ作品は聴いたことがありません。
バランソが流行した60年代でも、こんなショーロ・アルバムはなかったでしょう。

あの異色作に比べると、今回はショーロらしいショーロというか、
エレガントなピアノ・ショーロ・アルバムに仕上がっています。
ベース、ドラムスのリズム・セクションの付く曲でも、
バランソのようなフィールはなく、伝統的なサンバ・ショーロです。

参加したミュージシャンで、耳奪われたのは、ファビオ・ペロンのバンドリン、
ナイロール・プロヴェッタのクラリネット、ジョアン・ジェラルドのクラロン、
ジョルジーニョ・ネトのトロンボーンかな。
ショーロらしい美しいメロディの楽曲が並ぶなかで、
エルメート・パスコアールかと聞きまがう、アブストラクトなパートが
挿入される曲が2曲(‘Arismania’ ‘Ferragutiando’)あって、
そのどちらもがナイロール・プロヴェッタのアレンジ。
これはラエルシオの原曲にはない、ナイロールの仕業だろうな。
そんな遊びも含めて、ラエルシオの曲の魅力を引き出した、
最高のショーロ・アルバムです。

Laercio De Freitas "MODERNO" Sonora Prodçoes Artísticas no number (2022)
Laércio De Freitas "SÃO PAULO NO BALANÇO DO CHORO" Eldorado 278158 (1980)
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ブエノス・アイレスのジョアン・ジルベルト&オス・カリオカス [ブラジル]

João Gilberto with Os Cariocas  IN BUENOS AIRES AT CLUB 676.jpg

ジョアン・ジルベルトの62年ライヴ未発表録音が発掘!
マニア向けのリイシューとはいえ、スペインのボサ・ノーヴァ専門復刻レーベル、
ウバツーキが出したのなら、こりゃ要注目です。

なんてったって、ウバツーキが出した、
ジョアン・ジルベルトのオデオン時代を集大成したCDは、決定版でしたからねえ。
オデオン時代の録音を編集したリイシュー・アルバムは、
著作権の保護期間が切れた2011年から、世界中からぞろぞろ出ましたけど、
ウバツーキの “THE WARM WORLD OF JOÃO GILBERTO” が圧勝。

The Warm World Of Joan Gilberto.jpg

単にオデオン3作品と、『黒いオルフェ』のシングル2曲を収録したばかりでなく、
アメリカ、アトランティック盤のみで発表された‘Este Seu Olhar’ の、
ジョビンのピアノが加わった別テイクを、
ボーナス・トラックにしたマニアぶりが、アッパレ。
ジャケット・デザインのセンスも抜群で、
ライナーもクレジット完備と、文句なしの内容でした。

で、そのウバツーキが新たに発掘したのが、
62年10月10日、ブエノス・アイレスのクラブ676で、
オス・カリオカスとともに行ったライヴ録音。
コパカバーナのオー・ボン・グルメでのショー「エンコントロ」が成功した
ひと月後の9月、ブエノス・アイレスに降り立ったジョアン・ジルベルトは、
昼はテレビ出演、夜はクラブ出演と、10月中旬まで過ごしたそうです。
このひと月後の11月には、ニュー・ヨークのカーネギー・ホールで
伝説のボサ・ノーヴァ・コンサートに出演したわけですけれど、
その直前だったんですね。

マスターの磁性体がはがれたりしている箇所があるのか、
曲により音質のムラが激しいのが難ですけれど、
なんせ60年間まったく再生していなかったテープだというのだから、しかたがない。
司会のMCに続き、オス・カリオカスが歌い、続いてジョアン・ジルベルトがソロで、
そしてジョアンとオス・カリオカスの共演という内容となっています。

貴重なのは、ジョアンが歌う作者不詳の ‘Quero Ser Assim’ と
伝承曲の ‘Atirei O Pau No Gato’ の2曲。
これまでにジョアンが録音したことのない、初披露の曲です。
おぉ!と思ったのは、セカンド収録のインスト曲‘Um Abraço No Bonfá’。
このバチーダのスピード感は最高ですね。セカンドのオリジナル録音を凌ぎますよ。

Os Cariocas  A BOSSA DOS CARIOCAS.jpg   Os Cariocas OS CARIOCAS A ISMAEL NETTO.jpg

そして、オス・カリオカスも、この翌年に出す彼らの代表作
“A BOSSA DOS CARIOCAS” の予告編的レパートリーを披露しています。
オス・カリオカスは、42年結成の老舗ヴォーカル・グループ。
ボサ・ノーヴァ時代よりはるか昔のSP時代から活躍するヴェテランで、
58年に初LPを出した時は、すでに初代リーダーが亡くなった後でした。

ぼくはこのデビューLPが大好きなんですけど、残念ながら、いまだ未CD化。
このあとの60年に発売された2作目では、ジョアン・ジルベルトが匿名で
ギターを弾いたという ‘Chega De Saudade’ が収録されていて、
この録音が58年5月と、ジョアン自身の録音より早いということで、
マニアの間で話題になったことがあります。ずいぶん昔の話だけど。
そんな話も承知している、オデオン盤3作を聴き倒した熱烈ファンには、
オススメできるリイシューです。

João Gilberto with Os Cariocas "IN BUENOS AIRES AT CLUB 676 OCTOBER 1962" Ubatuqui UBCD316
João Gilberto "THE WARM WORLD OF JOÃO GILBERTO" Ubatuqui UBCD314
Os Cariocas "A BOSSA DOS CARIOCAS" Mercury/PolyGram 558954-2 (1963)
[LP] Os Cariocas "OS CARIOCAS A ISMAEL NETTO" Columbia LPCB37012CMG2045 (1957)
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今年は集おう オスカル・カストロ=ネヴィス [ブラジル]

Oscar Castro-Neves  ALL ONE.jpg

コロナ騒ぎに見切りをつける機運が高まって、
ずっと途絶えていたパーティや集まりの誘いが増えてきました。
ひさしぶりに集まった友人たちとの忘年会では、
BGMのお役目を仰せつかりましたよ(DJではありません)。

パーティに合いそうなブラジルやカリブ方面から、
「通」好みなのを避けてみつくろったところ、持ち込んだCDはどれも好評で、
セレクター冥利につきたんですけど、すこぶる評判が良かったのがコレ。
オスカル・カストロ=ネヴィスは、参加者全員が「これ、いい!」と大絶賛で、
あんなにウケるとは意外でした。

オスカル・カストロ=ネヴィスといえば、彼がアレンジした名作は、
クァルテート・エン・シー筆頭にゴマンとあれど、
リーダー作となると、あんまり思い浮かぶものが、ありませんよね。
同時期にアメリカで活躍したデオダートとは、そのあたり、だいぶ違いますねえ。
遺作となった本作も、案外知られていないんじゃないのかな。
本作は、アレンジャーとして、ギタリストとして、
オスカルのキャリアを総括したともいえる作品で、
みんなに大受けしたのもナットクの、オスカル・カストロ=ネヴィスの最高作です。

レパートリーは、オスカルの自作曲に、ジョビンの「ダブル・レインボウ」、
「ある愛の物語」「ザ・ヴェリー・ソート・オヴ・ユー」といったスタンダード・ナンバー、
「ラウンド・ミッドナイト」や「ネイマ」といったジャズ名曲ほか、
ショパンの「プレリュード ハ短調 Op.28 No.20」というクラシック曲まであって、
アルバム・ラストは、マイケル・フランクスの「ワン・バッド・ハビット」。

オスカル・カストロ=ネヴィスのポップ・センスが十二分に発揮された本作、
ボサ・ノーヴァを基調としながら、その底にはサンバをはじめとする、
ささまざまなブラジル音楽が溶け込んでいるところに、ウナっちゃうんです。
マルシャをファンクにした‘All One’、
バイーア産アフロ・サンバの‘Kurski Funk’、
ショーロの‘Holding With An Open Hand’ がまさにその典型。

なかでも、ニクいばかりの職人芸を聞かせてくれるのが、‘Não Me Diga Adeus’。
かつてマリア・クレウザが、『リオの黒バラ』こと “EU DISSE ADEUS” で歌った名唱が
忘れられないんですけれど、なんとこの曲を、セルジオ・メンデスの『マシュ・ケ・ナダ』の
アレンジを借用して料理してみせるんだから、脱帽・降参・完敗です。
さすがは、セルジオ・メンデス&ブラジル77の音楽監督を10年も務めた才人。
この曲の極上の仕上がりに、パーティでも拍手が起こりましたよ。

ギタリスト、コンポーザーとしての魅力は、
オスカル自作の ‘More Than Yesterday’ につきますね。
急速調のリフをテーマにしたこのインスト・サンバは、
ジャズでもショーロでもない、コンポジションのカッコよさが格別。
そして、キレのいいオスカルのギター・ワークといったら、
運指をマネしようものなら、指がつっちゃうよ!

このアルバムを聴けば聴くほどに、オスカルのプロデューサー、
アレンジャーとしての深い技量を感じずにはおれないんですが、
一方、そんなことをまるで意識させず、
パーティ・ミュージックとして人々を楽しませるポップ・センスが、
このアルバムを価値あるものにしているのでした。

Oscar Castro-Neves "ALL ONE" Mack Avenue MAC1026 (2006)
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磨き上げられたエルメート・ミュージック イチベレ・ズヴァルギ [ブラジル]

Itiberê Zwarg & Coletivo Músicos Online  TOCAM HERMETO PASCOAL.jpg

昨年日本人オーケストラによるアルバムを出した、
エルメート・パスコアール・ミュージック最良の継承者、イチベレ・ズヴァルギが、
はやくも新作を届けてくれました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-06-29

前回同様イチベレの自主制作で、コレチーヴォ・ムジコス・オンラインという
初めて聞くバンド名が付いています。
パンデミックのために、メンバー全員を集めての録音がままならなくなったことから、
イチベレの息子のドラマー、アジュリナ・ズヴァルギがオンラインで制作する
アイディアを思いつき、このバンド名が付けられたとのこと。

メンバーはアジュリナのほか、イチベレの娘のマリアナ・ズヴァルギ(フルート)に、
サー・レストン(ベース)、カロル・パネッシ(ヴァイオリン)など、
イチベレのグルーポおなじみの仲間に加え、ジョタ・ペー(サックス)、
ベト・コレア(ピアノ、アコーディオン)といった敏腕の音楽家が集まりました。
ゲストにジエゴ・ガルビン(トランペット)も参加しています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-10-09
イチベレはベースを弾かず、アレンジに専念していて、
オンライン制作であることを意識させない、緻密かつ精緻な演奏を繰り広げています。

今作はタイトルにあるとおり、エルメート・パスコアールの未発表曲集。
本作の制作は、エルメートと24年に渡り交流を重ねてきた、
テキサスのメキシコ系アメリカ人ベーシストのマニー・フローレスが所有していた、
エルメート手書きの譜面を演奏するという企画から始まりました。

まるで絵画のように額装され、
マヌエルの自宅に飾られていたという譜面から8曲が厳選され、
誰よりエルメート音楽の構造を理解するイチベレがアレンジを施しました。
このほか、イチベレのオリジナル曲(コレチーヴォ・ムジコス・オンラインではなく、
グルーポによる演奏)と、マニー・フローレスのオリジナル曲の2曲を
加えた計10曲が収録されています。

イチベレがメソッド化したエルメート・ミュージックは、
エルメート自身が演奏する音楽より、はるかに豊かな色彩感を持ち、
どんなに複雑な展開も、これみよがしになることなく、自然に流れていきます。
プリテンシャスなヴォイス・パフォーマンスで、
天才的な音楽アイディアもすべて台無しにしてしまう、
エルメートのエキセントリックな側面をずっと嫌悪してきただけに、
イチベレの演奏は、エルメートの音楽をこういうスタイルで聴きたいと、
長年願ってきた理想の姿を、ぼくに示してくれます。

Itiberê Zwarg & Coletivo Músicos Online "TOCAM HERMETO PASCOAL" Torto TORTO018 (2022)
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青と白のサンバ学校の古参組 ヴェーリャ・グァルダ・ダ・ポルテーラ [ブラジル]

Velha Guarda Da Portela  MINHA VONTADE.jpg

15年7月22日、マドゥレイラ地区にあるポルテーラの本拠地、クアドラ(練習場)で、
ヴェーリャ・グァルダ・ダ・ポルテーラの無料コンサートが行われました。

テレーザ・クリスチーナ、クリスチーナ・ブアルキ、マリア・リタをゲストに迎えた
このコンサートはライヴ録音され、グループ50周年を記念して、
ゆいいつのオリジナル・メンバーとして残ったモナルコが、
87歳を迎えた誕生日の20年8月17日に、デジタル・リリースされました。
奇しくも8月17日は、ポルテーラの名作曲家カンデイアの誕生日でもある日。
そう、二人は同じ誕生日だったんですねえ。
カンデイアはモナルコより2つ年下でしたけれど、
78年に43歳の若さで亡くなってしまったのでした。

デジタル・リリースのあと、CDとDVDも追って発売の予定だったんですが、
待てど暮らせどリリースされず、2年遅れでようやくCDが発売されました。
その間にモナルコも亡くなってしまい、DVDはいまだリリースされず、遺憾千万です。
遅きに失したリリースに、文句の一つも言いたくなるわけですが、
CDを聴いてみれば、たちどころに笑顔になってしまうのでした。

場所は、ポルテーラの普段の練習場である体育館のような場所だから、
音がヌケまくって、音響の整ったコンサート会場とは、だいぶ違います。
でも、だからこそ、クアドラならではの臨場感にあふれ、
現場にいる気分になれるんですよね。
音楽監督は、86年のアルバムからずっと同じ、
伝統サンバ最高のアレンジャーの7弦ギタリスト、パウローンと、
モナルコの息子マウロ・ジニースの二人が担っています。

はや2曲目でモナルコが ‘Lenço’ を歌い、
この日のためにノカ・ダ・ポルテーラとモナルコが作った新曲 ‘Lindo’ や、
ベッチ・カルヴァーリョが80年の “SENTIMENNTO BRASILEIRO” で歌った
‘A Chuva Cai’ も、このメンバーで聞けるのが嬉しいですねえ。
このほかモナルコ・ファンとしては、ポルテーラの生みの親、
パウロ・ダ・ポルテーラが36年に作った ‘Cidade Mulher’ を歌ってくれたのが白眉。
クレジットをみると、このコンサートの4か月後の11月25日に、
88歳で亡くなったヴァルジール59の名前もあって、ジンときました。

A Velha Guarda Da Portela  PORTELA PASSADO DE GLÓRIA.jpg   Velha Guarda Da Portela  DOCE RECORDAÇÃO.jpg
Velha Guarda Da Portela  HOMENAGEM A PAULO DA PORTELA.jpg   Velha Guarda Da Portela  TUDO AZUL.jpg

パウリーニョ・ダ・ヴィオラの声掛けによって結成された
ヴェーリャ・グァルダ・ダ・ポルテーラのデビュー作が出たのが70年。
商業的な成功など望むべくもない伝統サンバの世界ゆえ、
2作目が出るのはその16年も後のこと。それも外国人の手によって制作されました。
ご存じのとおり、日本人の田中勝則さんによるお仕事です。
さらに田中さんは、89年にも彼らのアルバムを制作しました。
ここには発売時のLPでなく、のちにブラジルでCD化されたさいの写真を載せました。
ブラジルで彼らの名前が知れ渡るきっかけとなったのは、
マリーザ・モンチがプロデュースした00年のEMI盤があったからですね。
今回のライヴ盤はそれ以来となります。

せっかくの機会なので、手元にあるポルテーラゆかりのレコードも載せておきましょう。

Escola De Samba Da Portela A Vitoriosa.jpg   Abilio Martins E Zezinho Grandes Sussesos Da E.S. Portela.jpg
Gremio Recreativo Esola De Samba Da Portela.jpg   Coro Dos Compositores Da Portela  MINHA PORTELA QUERIDA  SAMBAS DE TERREIRO.jpg
HISTÓRIA DES ESCOLAS DE SAMBA - PORTELA.jpg

Velha Guarda Da Portela "MINHA VONTADE" Biscoito Fino BF468-2 (2022)
A Velha Guarda Da Portela "PORTELA PASSADO DE GLÓRIA" RGE 6049-2 (1970)
Velha Guarda Da Portela "DOCE RECORDAÇÃO" Nikita Music/Office Sanbinha 24.06.060-2 (1986)
Velha Guarda Da Portela "HOMENAGEM A PAULO DA PORTELA" Nikita Music/Office Sanbinha 24.06.368-2 (1989)
Velha Guarda Da Portela "TUDO AZUL" Phonomotor/EMI 525335-2 (2000)
[LP] Escola De Samba Da Portela "A VITORIOSA" Sinter SLP1718 (1957)
[LP] Abilio Martins e Zezinho "GRANDES SUCESSOS DA E.S. PORTELA" Copacabana CLP11287 (1962)
[LP] Escola De Samba Da Portela "GRÊMIO RECREATIVO ESCOLA DE SAMBA DA PORTELA" Continental SLP10.061 (1972)
Coro Dos Compositores Da Portela "MINHA PORTELA QUERIDA SAMBAS DE TERREIRO / 1972" Odeon/EMI 581384-2 (1972)
Manacéia, Frabcisco Santana, Alvaiade, Monarco, Walter Rosa, Casquinha, Marçal, Alcides Lopes and others
"HISTÓRIA DES ESCOLAS DE SAMBA - PORTELA" Marcus Pereira COPA0057 (1974)
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モントルーのジョアン・ジルベルト [ブラジル]

João Gilberto  LIVE AT THE 19TH MONTREUX JAZZ FESTIVAL.jpg   João Gilberto  LIVE IN MONTREUX.jpg

ジョアン・ジルベルトをリアルタイムで聴き始めたのは、77年の”AMOROSO” から。
当時は、いまのようになんでもホメる大甘な評論家なんていなかったから、
「品位にかげりが生じた」(『ニューミュージック・マガジン』1977年9月号
平岡正明×長谷川きよし×中村とうよう 対談中の平岡正明の発言から)
なんてキビしい言葉を投げつけられていましたけれど、
平岡さんがそう見立てた論拠には、ぼくも大いにうなずいたものです。
あの頃の評論家の洞察力には、ホント、かなわないよなあ。

やっぱジョアン・ジルベルトは、オデオン3作と70年の“EN MÉXICO” だけだなと、
はや70年代の時点で評価を固めてしまっただけに、
86年に出た“LIVE AT THE 19TH MONTREUX JAZZ FESTIVAL” には、驚きました。
長くジョアンから聞けなくなっていたイキオイと力強さが、戻っていたからです。
リアルタイムで聞いたジョアンのアルバムで満足したのは、この一作だけでしたね。

時は、85年7月18日。あのやかましいモントルーの客を、よく黙らせたものです。
行儀悪いからなあ、モントルー・ジャズ・フェスティヴァルの客は。
このレコーディングが奇跡的だったのは、ジョアンのパフォーマンスもさることながら、
観客のマナーの良さにあったんじゃないでしょうか。
「シーーーーッ!」なんて、観客が周りに呼びかけてるくらいだもんね。

2枚組LPがのちにCD化された際の、日本製のブラジル盤についてのトリビアは、
以前記事を書いたので、参照いただくとして、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-08-10
本作は7月18日のパフォーマンスを完全に収録したものではありませんでした。
実際の演奏とは曲順も入れ替えているし、曲もいくつかカットされています。

カットされた曲のうち、‘Rosa Morena’ は、アメリカのエレクトラ・ミュージシャンが
本作の短縮編集盤を出した時に追加され、聴けるようになりました。
そして今回、このほかの未収録曲、‘Wave’ ‘Chega De Saudade’
‘Samba De Uma Nota Só’ ‘Isto Aqui O Que É’ を収録したCDが突然出たんです。

João Gilberto  MONTREUX 1985.jpg

有名ジャズ・アーティストの非公式ラジオ放送音源をリリースしている
ハイ・ハットが出したもので、ま、要するにブートなんですけど、
1曲目が演奏の途中から始まる ‘Wave’ でピンときました。
これ、昔買ったことのあるブートDVDと同じ音源ですね。
このモントルー・ライヴは、当時映像も出す予定で撮影されたものの、
結局発売中止になってしまったんですよね。

そのヴィデオ・テープが流出したらしく、ブートDVDを昔買ったんですが、
音質・画質ともに劣悪で、のちに処分してしまいました。
1曲目が途中から始まる ‘Wave’ だったことはよく覚えているし、
その他のアルバム未収録曲も同じだった記憶があるから、間違いないでしょう。
ハイ・ハット盤の音質はまずまずなので、
あのライヴ盤のファンなら、手元に置いておきたいアルバムですね。

João Gilberto "LIVE AT THE 19TH MONTREUX JAZZ FESTIVAL" WEA 2292547282-2 (1986)
João Gilberto "LIVE IN MONTREUX" Elektra Musician 9-60760-2
João Gilberto "MONTREUX 1985" Hi Hat HHCD3198
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80歳記念アルバム モナルコ [ブラジル]

Monarco  PASSADO DE GLÓRIA MONARCO 80 ANOS.jpg

ニルジ・カルヴァーリョの15年作、絶賛愛聴中。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-08-15
終盤のメドレーで、ゲストのモナルコが‘Lenço’ を歌うところになると、
何度聴いても、グッときちゃうんですよねえ。

それでしばらく忘れていた、モナルコの80歳記念アルバムのことを思い出しました。
モナルコのラスト・アルバムとなった18年の“DE TODOS OS TEMPOS” の4年前に、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-11-16
自主制作でひっそり出たアルバムで、日本未入荷の作品。
リリースからだいぶ経ってから、このアルバムの存在を知り、
慌てて探し回りましたが、とうとう入手できませんでした。

あの痛恨の未入手作を、もう一度探してみようと、
チャレンジしたところ、昔さんざん手を尽くしても探し出せなかったのに、
あっさり見つかっちゃいました。あまりにもあっけなくて、
あの時の苦労は何だったんだと、脱力しちゃいましたけれど、
まあ、見つかる時ってのは、こんなもんです。

で、ブラジルから届いた、14年に出た『80歳記念アルバム』。
もぅ、これが素晴らしすぎて、悶絶。
知らない曲ばかりなので、ひょっとして全部新曲なのかも。
だとしたら、すごい意欲作じゃないですか。
これを聴くと、18年作の“DE TODOS OS TEMPOS” が、
続編的内容だったことがわかります。

18年作同様、モナルコの息子マウロ・ジニースが音楽監督を務め、
サンバ最高の音楽家たちが勢揃い。ギターはクラウジオ・ジョルジで、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-09-02
コーラスには、ニルジ・カルヴァーリョ、アナ・コスタ、アルフレード・デル=ペーニョ、
ペドロ・ミランダと、ラパ中堅世代が顔を揃えます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-08-27
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-02-20
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-03-28

ゲストも豪華で、ヴェーリャ・グァルダ・ダ・ポルテイラ、ゼカ・パゴジーニョ、
ベッチ・カルヴァーリョ、クリスチーナ・ブアルキ、マリーザ・モンチ、
トゥコ・ペレグリーノ、ジオゴ・ノゲイラなどなど。
これだけの面々が顔を揃えるのは、モナルコの人徳でしょう。
14年1月21日、3月21日のたった2日間で録音をし終えているのだから、オドロキです。

自主制作で少量生産されただけだなんて、あまりにももったいない、
サンバ・ファンにとって至宝のアルバムです。

Monarco "PASSADO DE GLÓRIA MONARCO 80 ANOS" no label no number (2014)
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70年代サンバ・ファン感涙の最高作 ニルジ・カルヴァーリョ [ブラジル]

Nilze Carvalho  VERDE AMARELO NEGRO ANIL.jpg

Nilze Carvalho "VERDE AMARELO NEGRO ANIL" Rob Digital RD178 (2015)

今回のセールで、最高のディスカヴァリー。
リオ下町ラパの新世代サンバ・グループ、スルル・ナ・ローダで、
14年と17年に二度来日してお馴染みのニルジ・カルヴァーリョの15年作。
ニルジ・カルヴァーリョは、80年にバンドリンの天才少女としてデビューして以来、
ずっとリアルタイムで聴いてきた人。その後ショーロ演奏家からサンバ歌手に転向して、
90年代には渋谷のシュラスコ・レストラン、バカナへの出演で
日本に長期滞在し、レストランが制作したCDも残しているんですよ。

Sururu Na Roda  CHORINHO & SAMBA DE RAIZ.jpg   Nilze Carvalho  SOM NA BACANA VOL.1.jpg

Sururu Na Roda "CHORINHO & SAMBA DE RAIZ" Futura FUT45011-2 (2004)
Nilze Carvalho "SOM NA BACANA VOL.1" Ocelot SB001 (1993)

それにしても、こんなアルバムが出ていたなんて、ぜんぜん知らなかったー。
15年というと、この頃のニルジ・カルヴァーリョは、フィーナ・フロールから
アルバムを出していたはずなのに、ロブからも出していたんですねえ。
気付かずにいたのは痛恨の極みですけれど、
でも、聞き逃さずに済んで、ホントに良かった。
全曲耳馴染みのサンバがずらっと並んでいるんですよ。
まるでぼくのために選曲してくれたかのようなレパートリーに、
1曲目からいきなり破顔しちゃいました。嬉しすぎて、もうどーすりゃいいのやら。

Beth Carvalho  NO PAGODE.jpg   Leci Brandão  ANTES QUE EU VOLTA A SER NADA.jpg

Beth Carvalho "NO PAGODE" RCA 7432137428-2 (1979)
[LP] Leci Brandão "ANTES QUE EU VOLTA A SER NADA" Marcus Pereira MPL1027 (1975)

だって、1曲目から、ベッチ・カルヴァーリョが79年の最高傑作“NO PAGODE” で
歌っていた‘Samba No Quintal’ ですよ。
そして2曲目は、レシ・ブランダンの75年デビュー作のタイトル曲
‘Antes Que Eu Volte A Ser Nada’。
どんくらい、あのマルクス・ペレイラ盤を聴いたことか。
80年11月に来日して裸足で歌ったレシの立ち姿が、まざまざとよみがえります。

Riachão  HUMANENOCHUM.jpg   Ademilde Fonseca  A Rainha Ademilde & Seus Chorões Maravilhosos.jpg

Riachão "HUMANENOCHUM" Caravelas 270099 (2000)
[LP] Ademilde Fonseca "A RAINHA ADEMILDE & SEUS CHORÕES MARAVILHOSOS" Museu Da Imagem E Do Som MIS024 (1977)

バイーアのチョイ悪サンビスタ、リアショーンの‘Retrato Da Bahia’。
77年の映像と音の博物館盤に録音された、
ショーロ・ヴォーカリストのアデミルジ・フォンセカの
名唱が忘れられない‘Teco Teco’ (CDは↓のベスト盤に収録されています)。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-07-24
イヴァン・リンスとヴィトール・マルチンスのコンビの名曲‘Roda Baiana’ は、
レニーアンドラージの名カヴァーがありましたよねえ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-08-15

Nelson Sargento Encanto Da Paisagem.jpg   Wilson Moreira  PESO NA BALANÇA.jpg

[LP] Nelson Sargento "ENCANTO DA PAISAGEM" Kuarup KLP025 (1986)
Wilson Moreira "PESO NA BALANÇA" Atração ATR31239 (1986)

ネルソン・サルジェントの‘Vai Dizer A Ela’ と
ウィルソン・モレイラの‘Peso Na Balança’ は、田中勝則さんが86年に
プロデュースした二人のソロ・アルバムにそれぞれ収録されていた曲。

Jair Do Cavaquinho  SEU JAIR DO CAVAQUINHO.jpg   Paulinho Da Viola e Elton Medeiros  SAMBA NA MADRUGADA.jpg

Jair Do Cavaquinho "SEU JAIR DO CAVAQUINHO" Phonomotor/EMI 5375752 (2002)
Paulinho Da Viola e Elton Medeiros "SAMBA NA MADRUGADA" RGE 341.6007 (1966)

そして極め付けは、ジャイール・ド・カヴァキーニョの‘Atraso Em Meu Caminho’、
パウリーニョ・ダ・ヴィオラとカスキーニャの共作‘Recado’、
モナルコの‘Lenço’ のメドレー。
なんとモナルコがかけつけて、ゲストで歌っているんですよ!
‘Lenço’ についての思い出は以前書いたので、下の記事をお読みください。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-11-16

Nilze Carvalho Choro De Menina.jpg   Nilze Carvalho Choro De Menina Vol.2.jpg
Nilze Carvalho Choro De Menina Vol.3.jpg   Nilze Carvalho Choro De Menina Vol.4.jpg

[LP] Nilze Carvalho "CHORO DE MENINA" Cid LPCID8036 (1980)
[LP] Nilze Carvalho "CHORO DE MENINA VOL.2" Cid LPCID8043 (1981)
[LP] Nilze Carvalho "CHORO DE MENINA VOL.3" Cid LPCID8046 (1982)
[LP] Nilze Carvalho "CHORO DE MENINA VOL.4" Cid LPCID8060 (1983)

ゆいいつのインスト・ナンバー‘Choro De Menina’ は、
ニルジの少女時代のテーマ曲。う~ん、懐かしすぎる。
『少女のショーロ』シリーズ第2弾の81年作で披露された、
ニルジのオリジナルのショーロですけれど、
シリーズ4枚中ぼくが一番好きなのが、この第2集だったんですよねえ。
‘Brasileirinho’ ‘Assanhado’ のバンドリン演奏は見事でした。
再演された‘Choro De Menina’ は、若い時の気負いがなくなり、
バンドリンのプレイが円熟したのを感じさせます。

個人的に思い出深い、メロディアスなサンバ佳曲を並べた選曲にウナりましたが、
伝統サンバの芯をしっかりと持ちながら、
シャープなリズム・アレンジに現代性を表わしつつ、ポップなセンスも発揮した快作。
ニルジ・カルヴァーリョの最高作です。
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クリチーバのバンドリン奏者 ダニエル・ミグリアヴァッカ [ブラジル]

Daniel Migliavacca  TOCANDO À VONTADE.jpg

ダニエル・ミグリアヴァッカというバンドリン奏者は、初めて知りました。
スゴ腕ですねえ、この人。相当な実力者とお見受けしました。
なんか前にも、このジャケットと構図そっくりの
バンドリン奏者のアルバムがありましたよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-09-26

経歴を見ると、サン・パウロ生まれで、2000年にクリチーバに移住してから、
この地で活躍するショーロ・ミュージシャンとなったようです。
なんだかここ4・5年、クリチーバのショーロ音楽家の活躍が目立ってきましたねえ。

クリチーバ室内管弦楽団の客演ソリストとして演奏したり、
クリチーバMPB音楽院でショーロ・アンサンブルの講師を務めるほか、
クリチーバのパイオール劇場でのコンサートを企画したり、
ガフィエイラの音楽監督やプロデューサーもしているそうです。
ソロ・アルバムもすでに5作出していて、共同名義作も2作あるんですね。
いやあ、知りませんでした。

13年の本作は、ダニエルのバンドリン、7弦ギター、ベース(タテ・ヨコ)、
ドラムスの4人で、自作のショーロ・ナンバーを中心に、
エルメート・パスコアールの‘Nas Quebradas’
ジャコー・ド・バンドリンの‘O Vôo Da Mosca’ といった曲を演奏しています。

ベースとドラムスがいる編成ですけれど、ジャズ色はなく、
伝統ショーロの音楽性を基礎に置いた演奏となっています。
ダニエルが書くショーロは、歌心が零れ落ちる‘Manhãs’ のような美しい曲あり、
高速ソロを展開するテクニカルな‘Santo Forte’ ありで、
ジャズの語法を借りずとも、現代ショーロらしさを十分に発揮しています。

エルメートの‘Nas Quebradas’ は初めて聴きましたが、とても楽しいフレーヴォ。
中盤で不協和音の複雑なパッセージが登場するところが、エルメートらしい。
ジャコーの‘O Vôo Da Mosca’ は、6弦エレクトリック・ベースとのデュオで、
集中力のあるスリリングな演奏を聞かせます。

ただ、ちょっと首をひねったのは、超有名曲の‘Manhã De Carnaval’。
この曲だけ、ジルソン・ペランゼッタがゲストでピアノを弾いていますが、
ショーロ・アルバムには場違いな感が否めません。
このトラックは、なくても良かったんじゃないかな。

Daniel Migliavacca "TOCANDO À VONTADE" Gramofone GRAMO01CD2013 (2013)
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