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南ア=ナイジェリア・スウィング・ジャズ・シチュー トニー・アレン&ヒュー・マセケラ [アフリカ(全般)]

Tony Allen, Hugh Masekela  REJOICE.jpg

一昨年亡くなった南アのトランペット奏者のヒュー・マセケラが、
アフロビートをクリエイトしたドラマーのトニー・アレンと
2010年にロンドンで共演したレコーディングしたセッションから、
10年の歳月を経て完成したアルバムが届きました。

二人は、アレンがフェラ・クティのアフリカ70のリーダーだった当時から親交があり、
長年共演を望んでいたんだそうですが、なかなか実現することがなく、
10年に偶然イギリスでのツアー・スケジュールが重なった機会を捉え、
レコーディング・セッションをロンドンで敢行したとのこと。
そうしてベーシック・トラックは出来上がったものの、多忙な二人ゆえ、
その後オーヴァーダビングする録音のスケジュールがとれないまま、
マセケラは亡くなってしまったのでした。

このまま埋もれたままにしておくのはもったいないと、
アレンとワールド・サーキットのプロデューサーのニック・ゴールドが
昨年夏に動き始め、ベーシック・トラックを録音したのと同じスタジオで
レコーディングに取りかかり、完成させたのだそうです。

このレコーディングに関わったメンツが、スゴイんです。
UKジャズの精鋭がずらりと並んでいて、まず嬉しくなったのが、
テナー・サックスで参加したスティーヴ・ウィリアムソン。
M-Base 派のプレイヤーとして、ロンドンのジャズ・シーンに90年に登場して
一躍注目を浴びた人です。覚えてます? つーても、若い人は知らないよねえ。

91年の2作目“RHYME TIME (THAT FUSS WAS US!)” なんて、
スティーヴ・コールマンの“RHYTHM PEOPLE” と並ぶ、
M-Base を代表する大傑作だったもんねえ。
当時UKジャズで最高人気だったコートニー・パイン(二人は同い年)よりも、
ぼくはスティーヴ・ウィリアムソンの才能を買ってたので、
その後まったく活動の様子が伝わらなくなってしまって、
すごく残念に思ってたんですよ。ほんと、どうしてたんだ?

ほかにも、ルイス・ライト(ベース)、エリオット・ガルヴィン(キーボード)のほか、
ロンドンのアフロビート・バンドとして注目を集める
ココロコのベーシストのムタレ・チャシや、
エズラ・コレクティヴのキーボード奏者ジョー・アーモン=ジョーンズも参加していますよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-04

マセケラ自身の多重録音によるズールー・チャントから始まる1曲目から、
アレンのよくスウィングするドラミングがふくよかなグルーヴを生み出し、
マセケラのフリューゲルホーンがのびのびと歌います。
アレンのドラミングとマセケラのフリューゲルホーンを、
浮き彫りにするように仕上げられた作品。
オールド・タイミーなスウィング・ビートが、
アフロ・ジャズのトリートメントによってクールな表情に変換して、
実にイマっぽいサウンドというか、2010年代的に響くところが、めちゃ新鮮です。

Tony Allen, Hugh Masekela "REJOICE" World Circuit WCD094 (2020)
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アフリカ音楽オールタイム・アルバム・ベスト30 [アフリカ(全般)]

7月号のアフリカ音楽オールタイム・アルバム・ベスト30は、
アフリカ音楽との出会いの個人史にしました。

アフリカ音楽のベスト・セレクションということになると、
以前ミュージック・マガジン/レコード・コレクターズ増刊『定盤1000』で
アフリカを担当して40枚選んだこともあり、
どうしてもそれと同じようなものになってしまいます。

それではつまらないし、事前に総括記事の対談も予定されていたので、
オールタイム・ベストの話題は、そっちで話せばいいやと考えました。
そこで、ブラジル音楽の時のように歴史的意義を考えてセレクションするのではなく、
もっと極私的にアフリカ音楽との衝撃の出会い順に並べてみたわけです。

そこで1位は、小学生の時に父に聞かせてもらって出会った
初めてのアフリカ音楽、ミリアム・マケーバ。
次いで、高校生の時にコリン・ターンブルの『森の民』を読んで知ったピグミーの音楽で、
これを機に文化人類学にかぶれ、アフリカの民俗音楽にのめりこんだのでした。

出会いの衝撃を基準にセレクトしたら、
あまりにフィールド・レコーディングのレコードが多くなってしまい、
何度も見直すハメとなってしまいました。
こうしてみると、ティナリウェンを最後に、
衝撃を受けたアフリカ音楽との出会いはなかったみたいですね。

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1.Miriam Makeba / The Many Voices of Miriam Makeba
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-07-11
2.field recordings / Music Of The Rain Forest Pygmees
3.Dumisani Abraham Maraire / The African Mbira: Music Of The Shona People Of Rhodesia
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-07-27

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4.field recordings / Musiques Du Pays Lobi
5.field recordings / Le Mali Du Fleuve: Les Peuls
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2009-06-20
6.Dollar Brand / African Piano

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7.Sory Kandia Kouyaté / Kouyate Sory Kandia
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-01-12
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-02-15
8.Bembeya Jazz National / Mémoire De Aboubacar Demba Camara
9.Fanta Damba / Hamet

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10.Fela Ransome Kuti & The Africa 70 / Expensive Shit
11.Chief Commander Ebenezer Obey & His Inter-Reformers Band / Eda To Mose Okunkun
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-05-15
12.Orchestre Vévé / Orchestre Vévé

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13.Manu Dibango / Afrovision
14.Thomas Mapfumo & The Blacks Unlimited / Ndangariro
15.King Sunny Ade and His African Beats / Message

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16.Ayinla Omowura and His Apala Group / VOL.19: Awa Kise Olodi Won
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2009-09-10
17.Papa Wemba et L’Orchestre Viva La Musica / Le Jeune Premier
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-02-13
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-04-26
18.Youssou N’Dour & Le Super Etoile De Dakar / Immigrés - Bitim Rew

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19.Salif Keita / Soro
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-08-23
20.Super Biton De Segou / Afro Jazz Du Mali
21.Mahmoud Ahmed / Ere Mela Mela

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22.Mahlathini / The Lion Of Soweto
23.Abdel Aziz El Mubarak / Abdel Aziz El Mubarak
24.Hukwe Zawose / The Art Of Hukwe Ubi Zawose / Tanzania『<タンザニア/親指ピアノ>驚異のイリンバ・アンサンブル』

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25.Wasiu Ayinde Barrister & The Talazo International Fuji Messiah / American Tips
26.Black Star & Lucky Star Musical Clubs / Nyota
27.Kumasi Trio / Kumasi Trio 1928

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28.Mulatu Astatqé and others / Éthiopiques 4: Ethio Jazz & Musique Instrumentale 1969-1974
29.Bezunesh Bekele / The Greatest Hits Of Bezunesh Bekele
30.Tinariwen / Amassakoul
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シャルル・デュヴェーユ写真集 [アフリカ(全般)]

The Photographs of Charles Duvelle.jpg

大学生の頃、アフリカの民俗音楽を集中的に聴き込んでいたことは、
一度ここで書いたことがあります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-07-08
当時、進路に迷っていた頃で、文化人類学の研究者になる道へ転向するか、
それとも、今の大学で経済学部に籍を置いたまま卒業して、一般企業に就職するか、
結局、フツーの会社員になる道を選んだわけなんですが。

当時、アフリカの民俗音楽で一番お世話になった先生のひとりが、
ディスク・オコラを設立した音楽学者のシャルル・デュヴェーユでした。
そのシャルル・デュヴェーユの写真集が出るというので、
楽しみにしていたんですが、届いてびっくり。
296ページに及ぶ、ずっしりとした重量感たっぷりのファイン・アート写真集。

オコラのレコードで見慣れた写真が、多数掲載されているんですが、
シャドウがつぶれていたり、粗い印刷だったものが、
見違えるような美しさに生まれ変わっていて、
ページをめくるたびに、コーフンにつぐコーフン。
6×6で撮ったモノクロームの諧調の美しさは、絶品です。
もちろん初めて目にするカット、未発表だった写真もたっぷりあって、
夢中になって見てしまいました。

巻末のインタヴューを読んで驚いたのは、
シャルル・デュヴェーユの関心が、民俗音楽いっぺんとうではなかったということ。
彼はアフリカン・ポップスも大量に聴いていて、
オコラを辞めたあと、ナイジェリアでフェラ・クティと親交を持ち、
カラクタ襲撃事件直前のカラクタに、数日間滞在したこともあるそうです。

また、オコラの音源に、ピアノとエレクトリック・ギターを被せてヒットを呼んだ
「ブランディ・ブラック」に関しても、オドロキの事実が書かれていました。
「ブルンディ・ブラック」を発売したバークレイ社のオーナー、
エディ・バークレイとシャルル・ドゥベルは友人同士で、
エディ・バークレイは、「ブルンディ・ブラック」の制作当初から、
シャルル・デュヴェーユに相談を持ち掛けていたそうです。
シャルル・デュヴェーユは、ブルンディ大使館を通じ、
録音権利者への分配が行えるように手配したうえで、
制作されたシングル盤(61398L)だったんですね。

当初、ブルンディ大使館の全面的なバックアップによって、
発売されたものであったのにも関わらず、
80年になってイギリスでリミックスされた12インチで、再度ヒットを呼ぶと、
帝国主義的な第三世界の文化搾取といった文脈で、強く非難されたものでした。

ブルンディ・ブラックについて書かれた記事は、
ミュージック・マガジンの81年7月号で中村とうようさんが書かれた
「運命の波にもまれるブルンディ・ドラム」が最初だったと思います。
この記事では、文化搾取式の言辞は述べられていませんが、
「そのすばらしいブルンディのタイコの録音に、
けしからぬ小細工をほどこしたやつが現れた」
と書かれているので、とうようさんがお気に召さなかったのは事実でしょう。

のちにこの記事が、『地球が回る音』に再録された際は、
タイトルが「盛大に盗用(?)されるブルンディ・ドラム」と改題されていました。
「(?)」を付しているあたりは、さすがに慎重ではありますが、
単純な盗用ではなかったという経緯を知れば、
とうようさんの評価も違ったものになったかもしれません。

この写真集には2枚の付属CDも付いていて、
アフリカとアジアのフィールド録音がそれぞれ編纂されています。
オコラとプロフェットのディスコグラフィーも最後に掲載されていますが、
シャルル・デュヴェーユ自身がフィールド録音したアルバムも、
録音は別人が行い、ディレクションのみ関わったアルバムも特に区分けされていません。

OCR24 Musique Malgache.jpgOCR28 Musique Maure.jpgOCR35 Musique Kongo.jpg

最後に、個人的に思い出深いオコラのアルバムで、
シャルル・デュヴェーユ録音・監修の3枚(上)と
録音は別人で監修のみの3枚(下)をご披露しましょう。

SOR9 Musique Fali.jpgOCR16 Musique Kabre du Nord-Togo.jpgOCR40 Musique du Burundi.jpg

[CD+Book] Hisham Mayet "THE PHOTOGRAPHS OF CHARLES DUVELLE : Disques OCORA and Collection PROPHET" Sublime Frequencies SF110 (2017)
[LP] "MUSIQUE MALGACHE" Ocora OCR24 (1965)
[LP] "MUSIQUE MAURE" Ocora OCR28 (1970)
[LP] "MUSIQUE KONGO" Ocora OCR35 (1966)
[10インチ] "MUSIQUES FALI (NORD-CAMEROUN)" Collection Radiodiffusion Outre-Mer SOR9
[10インチ] "MUSIQUE KABRÈ DU NORD-TOGO" Ocora OCR16
[LP] "MUSIQUE DU BURUNDI" Ocora OCR40
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アフリカの音の快楽 [アフリカ(全般)]

African Gems.jpg

アフリカの民俗音楽に熱中していたのは、もう30年以上も前。20代前半の頃でした。
アメリカのフォークウェイズ、フランスのオコラ、
ドイツのベーレンライター=ムジカフォンといった、
民俗音楽専門レーベルの輸入盤を聴くだけでは飽き足らず、
解説を翻訳して清書し、図版や写真もコピーして、
日本語版解説に仕上げるという作業をもくもくとやっていました。
大学生の頃から、会社員になってもしばらくはやってたんじゃなかったっけ。
当時書きためたファイルを見ると、
よくもまあこんなに熱心にやってたもんだと、アキれちゃうんですけど。

Africa File.jpg

今回オランダのSWPから出た
アフリカのフィールド・レコーディング集“AFRICAN GEMS” には、
当時夢中になって聴いていたフィールド・ワーカーの名前がずらり並んでいて、
懐かしくなりました。
一番多く収録されているのがシャルル・デュヴェーユの録音ですけど、
この人にはたいへんお世話になったんですよねえ。
アフリカのフィールド・レコーディングといえば、
シャルル・デュヴェーユとユーゴー・ゼンプがぼくの先生でした。

アフリカの民俗音楽は、完全に「勉強」のつもりで聴いていたので、
アフリカン・ポップスとは別腹ならぬ「別耳」で聴いてましたね。
そのせいか、ひとわたり学習したあとは卒業というか、
アフリカの民俗音楽から離れてしまいましたが、
お世話になった先生のことは気になるもので、
99年に始まったシャルル・デュヴェーユのかつてのフィールド録音を
CD化するシリーズ「プロフェット」には、また手が伸びたものです。

今回の“AFRICAN GEMS” は、かつてのオコラ盤のような民俗学的資料ではなく、
音の快楽を求める音楽ファン向けに制作された、
「音響作品」とも呼べるスグレモノの編集盤となっています。
シャルル・デュヴェーユのフィールド録音も、
こんなスゴイ録音があったっけ?と驚くようなトラックがあり、
思わず同じフィールド調査の録音をまとめたプロフェット盤と聴き比べてしまいました。

PROPHET 01  TCHAD.jpg   PROPHET 07  CONGO.jpg

10曲目のチャド、トゥプリ人(日本語解説のトウポウリは誤り)の
気鳴楽器のアンサンブルは、
まるで電子音のような肉声が混じり合うサウンドが強烈でびっくりなんですが、
同じ時のフィールド録音を収録したプロフェット盤の第1集には、
こんなスゴイ録音は入っていません。
2曲目のコンゴ共和国、バベンベ人の人形の形をした木製ラッパのアンサンブルも、
プロフェット盤第7集収録の音源よりはるかにエキサイティングです。

どうやらこれらの録音は、今回の編集盤で初ディスク化された音源らしく、
よくぞ発掘してくれました、ですね。
やはり学術的関心と音響的関心とでは、選ばれる音源も違うということで、
学術的に残された音源を、音響の美的な興味から捉え直すという作業は、
今後大きなテーマとなっていくような気がします。

音響的な興味と民俗音楽というと、
昔からリミックスという作業が繰り返されてきましたけれど、
文化的犯罪にもつながりかねない、
野蛮な行為に堕した悪例が山ほどあることを忘れちゃいけません。
求められるのは「リミックス」ではなく、新たな視点による「発見」であって、
そこに余計な「加工」はいりません。
アフリカ民俗の遺産に十分な敬意を払うことができ、
確かな目利きならぬ耳利きを持つマイケル・ベアードのような編者が、
これからも出てくることを期待したいですね。

Field Recordings "AFRICAN GEMS" SWP SWP043
Field Recordings "PROPHET 01 : TCHAD – BAÏNAOUA, BANANA, BANANA-HOHO, KADO, MOUNDANG-TOURO, TOUPOURI, TOUPOURI-KÉRA" Kora Sons/Philips 538712-2
Field Recordings "PROPHET 07 : CONGO - BABEMBÉ, BAKONGO, BALARI" Kora Sons/Philips 538718-2
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SP蒐集家ジョナサン・ウォードの偉業 アフリカ音楽SP復刻ボックス [アフリカ(全般)]

Opika Pende Dust-to-Digital.JPGSPには手を出さない。これ、マイ・ルール。

戦前ブルース・マニアだとか、浪曲マニアだとか、
守備範囲がある程度限定しているのならまだしも、
古今東西ありとあらゆる音楽に興味をひかれる
ぼくのような人間が、
SPまで手を出したら、経済破綻・家庭崩壊は必至ですって。

イマドキの音楽より、いにしえの音楽に
年々ココロひかれるようになっているので、
SPをディグする甘い誘惑を感じないわけじゃありませんが、
まー、やっぱり独身でなきゃ無理ですね。
会社勤めの家族持ちにそんなヒマはとてもないし、
そこまでのめりこむ気もございません。

ということで、SPコレクションはほかの方にお任せして、
SPコレクターの成果を編集盤CDで楽しませていただいているんですけど、
もし自分がSPコレクターだったらこんな仕事をしたかったと、
思わず嫉妬しそうになった、すごいSP復刻の編集盤CDが出ました。

それが、この“OPIKA PENDE : AFRICA AT 78RPM”。
1909年から1960年代にかけてアフリカ全土で残されたSP録音100曲をCD4枚に収め、
112ページに及ぶ解説書のブックレットとともにボックスに収めた労作です。
復刻に使われたSP音源は、ロサンゼルスの研究家にしてコレクター、
ジョナサン・ウォード一人のコレクションだというのだからおそれいります。
北アフリカから始まり、西アフリカ、中部アフリカ、東アフリカ、南部アフリカ、インド洋まで、
アフリカ全土をくまなく網羅していて、地域的な穴がないのに驚かされます。

コレクターのコレクションはとかく専門的になりがちで、網羅的という面で弱みがあるものなのに、
ジョナサン・ウォードのコレクションは、むしろそこが強みとなっているんだから、スゴイ。
特にアフリカ音楽という時、普通はサハラ以南のアフリカだけを対象とするものなのに、
北アフリカのアラブ・アンダルース音楽までしっかり射程に収めているのは、頭が下がるばかり。
コレクションの質の高さも目を見張るものがあり、大物たちの音源もずらりと並んでいます。

たとえば北アフリカ編のディスク1では、シャアビの名歌手エル=アンカ、
パリで活躍したアルジェリア人歌手マヒエッディーンや、
ユダヤ系チュニジア人歌手シェイフ・エル=アフリートなど。
西アフリカ編のディスク2では、ハイライフの名門バンドのブラック・ビーツに
名ギタリストのE・K・ニヤメ、パームワインのエベネザー・カレンダーなど。
中部・東アフリカ編のディスク3では、コンゴリーズ・ルンバ黎明期に活躍した
ギタリストのアディクワにグラン・カレとアフリカン・ジャズ、
そしてアフリカン・ギターの古典的名曲のジャン・ボスコ・ムウェンダの「マサンガ」など。
南部アフリカ・インド洋編のディスク4では、ダーク・シティ・シスターズの変名
フライング・ジャズ・クイーンズ名義で残されたンバクァンガに、
南ア国家「ンコシ・シケレレ・アフリカ」の30年録音などなど。

さらに聴きものとなっているのが、無名の音楽家たちによる録音で、
アルジェリア、コンスタンティーヌで32年に録音されたごきげんなマルーフのダンス・チューンや、
30年代後半に録音されたピアノやホーンズの入ったガーナのハイライフ、
30年代にアクラで出張録音されたガーナのアカン・ブルース、
南アのマラービ楽団が残した55年録音の名演など、
選りすぐりの逸品をコレクションした、ジョナサンの耳の確かさに敬服するほかありません。

大物も無名もバランスよく並べ、なおかつ地域的な偏りもなく、
都市のポピュラー音楽と田舎の民俗音楽も万遍なく選んだ、このバランス感覚が本復刻のキモ。
大勢のSPコレクターの協力を得て編纂した復刻集でも、
これほど偏りなく選曲するのはなかなか難しいものなのに、
たった一人の個人コレクションでこれだけのものを作り上げたのは、
まさしく執念を感じさせる偉業というほかありません。
良好な音質、よく練られた選曲と曲順、ジョナサンの解説も簡潔にしてわかりやすく丁寧で、
望み得る最良の仕上がりの復刻集となっています。

なので、このような復刻ものにつきものの、
このアーティストのこの音源を使うくらいなら、こっちの方がよかったみたいな、
重箱の隅をつついた選曲への些細な不満を言う気にはなれません。
これほどの復刻集を前にそのテの文句を言うのは、マニアのエゴみたいなもので、
それよりも、ジョナサン・ウォードのこの偉業に対して、最大級の賛辞と敬意を表したいと思います。

Various Artists "OPIKA PENDE : AFRICA AT 78RPM" Dust-to-Digital DTD22
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富山から世界へ スキヤキ・オールスターズ [アフリカ(全般)]

20100825_Chiwoniso.JPG

楽しかったぁ~、昨日のスキヤキ・オールスターズ。
アフリカン・ポップスの楽しさを心から満喫した、気持ちのいい一夜でした。

今年で20周年を迎えた富山南砺市のワールド・ミュージック・フェスティバル、
スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド。
さすがに富山は遠くて、いまだに一度も体験できずにいますけど、
こういう音楽フェスが地方に根付いていることって、本当にすばらしいことだと思います。
東京のような都会で開かれる大企業頼りの音楽フェスだったら、
20年続くなんてありえないでしょう。

集客力のある大物アーティストを呼ぶわけではないとはいえ、
来日するアーティストの顔ぶれを見るたび、
しっかりとした目利きによって選ばれていることにも、感心させられます。
それで昨年思わず「観たかったなぁ」と地団駄を踏んだのが、ジンバブウェのチウォニーソ。
今年また再来日すると聞き、「あぁ、今年もまた見逃しかぁ」と諦めモードだったんですが、
なんとスキヤキ・オールスターズというフェスティバル発のセッション・バンドで、
東京に一夜だけやってくるというではありませんか。やったっ!
これは何がなんでも駆けつけなきゃと、当日仕事の出張先から、ばびゅーんと向かいましたよ。

ステージ最前列のど真ん中、
チウォニーソの目の前に陣取って踊ってたリーマンは私です。アハ。
オープニングが“REBEL WOMAN” 収録の“Kurima”。
CDより逞しくなった歌声にほれぼれしました。
デビュー当初の華奢な歌声も、いまではすっかりジンバブウェのお母さんという感じ。
こぼれる笑顔がとっても愛らしい人ですね。
で、お目当てはチウォニーソだったんですが、曲が進むにつれ、
セッション・バンドとは思えぬコンビネーションの良さに、ぐいぐい引きつけられ、
メンバーそれぞれの個性を引き出したレパートリーとその自在な演奏ぶりに、夢中になりました。

サウンドのカナメとなっていたのは、サカキマンゴーとトーゴのギタリスト、ピーター・ソロ。
ピーター・ソロはCDで聴く限り、コンゴリーズ・ルンバもアフロビートもなんでもこなす器用さが、
なんだか没個性に感じたりもしてたんですが、
ライヴではその柔軟な音楽性が、メンバーを一つにまとめる接着剤となっていました。
痩身なルックスもなかなかにカッコよく、女子から盛んに黄色い声も集めていましたよ。
カメルーンのエリック・アリアーナのヴォーカルも良かったし、
ステージを盛り上げるサカキマンゴーのショーマンぶりも、すっかり板に付いてますね。

お客さんもよかったなあ。スキヤキから追っかけてきた熱心なファンも一部にはいたようだけど、
ほとんどの人はぼくと同じで、富山には行けず今日を楽しみにきた人たちだったように思います。
ハチロクのポリリズムでも自然に踊れる、
アフリカン・ポップスの楽しみ方をちゃんと知っている人たちばかりで、
アフリカ音楽ファンが育ったことを実感します。

それにしても、こんなスゴイバンドが実現したなんて、正直びっくりです。
あとで話を聞くと、単なるセッション・バンドではなく、
スキヤキで出会ったアーティストたちが1年がかりの共同作業を経てできたユニットとのこと。
だからこそ、あの一体感だったわけですね。
このあと韓国をツアーし、その後にアフリカ・ツアーも企画されているとのことで、
「レコーディングもするんでしょ?」と訊いてみたら、「もちろん!」とのことで、
ぜひライヴ・レコーディングしてほしいなあ。

「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」その名を体現したスキヤキ・オールスターズ。
ツアーが大成功を収め、また凱旋コンサートをやってくれること、期待してます!

Chiwoniso "REBEL WOMAN" Cumbancha CMB-CD8 (2008)
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同時代に生きるアフリカ女性シンガーの等身大の魅力 [アフリカ(全般)]

アフリカ特集を企画しているという女性向けWebサイトの編集部から取材を受けました。
読者は、アフリカ音楽に触れる機会の少ない女性がほとんどというお話。
2人の推薦アーティストをというリクエストに、すぐロキア・トラオレとチウォニーソが思い浮かびました。
ただし推薦CDも必要とのことから、ロキアの最近のアルバムはピンとこないので、
ウム・サンガレに差し替え。

取材前、編集部ではユッスーやサリフ・ケイタなどの定番・大御所と
最近人気の若手との組み合わせを想定されていたようでしたが、
むしろ、同時代の社会に暮らす等身大の女性として共感できる
アフリカ人女性の方がよいのではとお話ししたところ、
すぐに賛意を示してくださり、簡潔で的確な記事をまとめてくださいました。
敏腕なる妙齢の編集者Tさんに感謝です。

フツーの音楽好きのOLさんがポップスやR&Bを聴くように、
ウムやチウォニーソを聴いてくれるようになったら、
アフリカ音楽の裾野も、ずいぶん広がるんじゃないんでしょうか。

http://www.cafeglobe.com/news/special01/vol6/index.html
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