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オーガニックでエモーショナル ファーダ・フレディ [西アフリカ]

Faada Freddy  GOLDEN CAGES.jpg

アフリカン・ポップの新時代を切り開いた画期的な作品
“GOSPEL JOURNEY” から8年。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-04-02
セネガルの才人、ファーダ・フレディの新作が届きました。

歌とコーラス、ビート・ボックス、ボディ・パーカッション、
手拍子や口笛を駆使したサウンド・メイキングは前作同様。
ひとつひとつの要素に驚くべきテクニックを駆使しながら、
オーケストラに匹敵するサウンドを構築したアプローチは、
ヒップ・ホップで鍛えられたスキルに、
ドゥーワップにゴスペル・クワイアのアイディアを盛り込んだもの。

これまでに誰もなしえなかったアプローチで、
唯一無二の音楽を生み出した才能は、
もっと高く評価されて当然だったのに、
ジャーナリズムの注目はいま一つだったのが、悔しかったなー。

さて、『黄金の檻』とタイトルされた新作は、
非人間化していく現代社会や画一化する思考へ警鐘を鳴らしています。
こうした問題意識は、人間性の喪失をテーマとした
3年前のダーラ・J・ファミリーのアルバム “YAAMATELE” と通底しています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-04-19
オーガニックでエモーショナルな肉声にファーダがこだわるのは、
こうしたテーマゆえなのですね。

現代に生きるすべての人に共通するテーマで、音楽も国籍を問わないもの。
今度こそ注目を浴びてほしいんだけど、国内盤が出る気配はないしなあ。
ジョン・バティステと同列で騒がれなきゃいけない人ですよ!

Faada Freddy "GOLDEN CAGES" Think Zik! TZ-A026 (2023)
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早逝したンバラ・シンガー ンドンゴ・ロ [西アフリカ]

Ndongo Lo  TARKHISS.jpg   N’dongo Lo  ADUNA.jpg

アラブ/マグレブ専門とばかり思っていたフランスのリイシュー・レーベルM.L.P.が、
ここ最近アフリカ音楽のカタログに手を伸ばしていますね。
そのラインナップがちょっと変わっていて、名盤などには目もくれず、
当時あまり売れたと思えないような作品ばかりライセンスで出しています。
セネガルのンドロゴ・ロもそんな一枚。
おそらく日本で知る人もいないだろうから、せっかくなので書いておきましょう。

ンドロゴ・ロ(1975-2005)は、わずか30歳で早逝したンバラ・シンガー。
若き日のユッスーを思わせる素晴らしいノドを持っていた歌手なんですけれど、
わずか3作しか残すことができませんでした。
デビュー作の01年作はカセットのみでCD化されず、ぼくは聴いていませんが、
03年の2作目と05年の遺作となった3作目を聴いていました。

今回M.L.P.がリイシューしたのがこの3作目で、
カセットは04年の12月に出ましたが、
CDは翌年ンドロゴ・ロが1月に亡くなった後に出たため、
表紙に Hommage と記されています。

貧しかったンドロゴ・ロは音楽ビジネスに入るチャンスを得られず、苦労したそうです。
ある日シュペール・ジャモノのシンガー、パペ・ンジャイ・ゲウェルのステージのよじ登り、
マイクを獲って歌ったことがきっかけで、プロ入りのチャンスをつかんだとのこと。
01年にデビュー・カセットを出すと、またたくまに評判を呼び、
ガンビアをツアーし、ヨーロッパでコンサートを行うなど成功を収めました。

3作目の “ADUNA” 制作時には、すでに重病を患っていて、
人生や友人、宗教指導者への感謝を歌ったのだそうです。
はちきれるような歌いぶりは、病気を抱えていたとはとても思えないんですけれども。
ンドロゴ・ロはムリッド教団に入信し、
2代目ハリファ、ファルー・ムバケ(1888-1968)の信者となっていました。

ひさしぶりにンドロゴ・ロの2作を聴き返しましたけれど、
う~ん、やっぱり力のあるいいシンガーでしたねえ。
バックも、タマの名手サンバ・ンドク・ムバイをはじめ、ンバラの実力者がずらり。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-17
タマとサバールのキレがバツグンです。

貧しい家庭に生まれ、不幸な境遇から這い上がって成功したンドンゴ・ロは、
ダカール郊外の貧しい町ピキンの人々に絶大な人気だったそうです。
ンドンゴ・ロが亡くなったという知らせに、ピキンの人々は信じようとせず、
群衆がストリートを埋め尽くしたといいます。
そしてムリッド教団の聖地トゥーバでの葬儀には、20万人が参列したのでした。

Ndongo Lo "TARKHISS" Africa Productions 03073-2 (2003)
N’dongo Lo & Le Groupe Jamm "ADUNA" Africa Productions 05103-2 (2005)
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円熟したサハラウィ アシサ・ブライム [西アフリカ]

Aziza Brahim  MAWJA.jpg

グリッタービートに籍を置いて4作目を数える
西サハラのシンガー・ソングライター、アシサ・ブライムの新作は、
円熟を感じさせる充実作となりました。

16年作の “ABBAR EL HAMADA” は胸に沁みて、
ずいぶん繰り返し聴きましたけれど、アルバムを重ねるごとに、
少しずつ寂寥感が和らいできたのを感じます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-04-20
ティンドゥフの難民キャンプで生まれ育ち、幼い頃から苦労を重ねてきたアシサが、
さまざまな哀しみを乗り越え、未来の希望を信じて逞しく生きるさまが、
素直に歌に映されています。

スペインに渡ってバルセロナを拠点にともに活動してきた音楽家たちとの演奏も、
長年の信頼に支えられた安定感をみせていて、
派手さのない堅実なバックアップぶりが好感持てます。
ゲストも毎回アシサの音楽性に合う人だけを慎重に選んでいて、
宣伝効果のためだけに有名どころを迎える愚を犯さないところは、
グリッタービートというレーベルの良心でしょう。

サハラウィの伝統音楽をベースとしたアシサの自作曲に、
スパニッシュ・ギター、ベース、ドラムス、各種パーカッションが寄り添う編成は
いつもどおりですが、今作はアラブ音楽のマカームを使った ‘Haiyu ya zuwar’
‘Fuadi’ が強く印象に残りました。

以前アシサにメール・インタヴューした時に、
「ウム・クルスームに影響を受けた」と答えていたのを意外に感じましたけれど、
これまでアシサの曲からアラブ音楽の影響をうかがわせることがなかったので、
これは新しい挑戦なのかもしれません。

また、アシサは同じインタヴューで、影響された外国の歌手やグループとして、
ビッグ・ママ・ソーントン、マディ・ウォーターズ、ジミ・ヘンドリックス、
ピンク・フロイド、ビリー・ホリデイ、クイーン、クラッシュ、マヌ・チャオ、カマロン
といった名前を挙げていました。

じっさいデビュー作では、かなりフォーク・ロック的な演奏も聞かせていましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-07-30
今作ではナマナマしいロックとブルージーな感覚が欲しいと、
‘Metal, Madera’ で別のドラマーを起用し、ストレ-トなブルース・ロックをやっています。
なんでもこの曲を録音するのに、ドラマーにアシサが好きなクラッシュの曲を聞かせて
叩いてもらったそうで、その曲って、なんだったのかな。ちょっと興味がわきますね。

19年の前作 “SAHARI” ではレゲエにアレンジした曲があって、
その安易というか凡庸なアイディアにがっかりした面もあったので、
今作の新しい音楽的な冒険は、大いに歓迎したいですね。

サハラウィの偉大な詩人だったアシサの祖母ルジャドラ・ミント・マブロックに捧げた
‘Ljaima Likbira’ など、サハラウィの望郷の思いが溢れたアルバムです。

Aziza Brahim "MAWJA" Glitterbeat GBCD150 (2024)
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いまのフジを支えるのは誰 ティリ・アラム・レザー [西アフリカ]

Alhaji Tiri Alamu Leather  VALUABLE.jpg

「人を見かけで判断しちゃいけない」の典型だった、
童顔でも歌えるフジ・シンガー、ティリ・アラム・レザーの新作。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-04-19

本名のティリ・アボンラガデ・アラムに沿って、
ステージ・ネームの「レザー」の間にアラムを加えたようです。
表ジャケットにはティリ・アラムとだけしか書かれていませんが、
裏の作編曲クレジットには、ティリ・アラム・レザーとあります。

昨年9月にリリースされた本作には、
短尺の2曲と長尺の2曲が収められ、どの曲もいがらっぽい声に、
ドスの利いたこぶし回しが咆哮する、漆黒の純正フジを聞かせてくれます。
4曲ともリズムもテンポもおんなじで、アレンジになんの工夫がなくても、
飽きさせず一気に聞かせてしまう力量は、主役の歌ぢからでしょう。

アフロビーツ時代となった21世紀、
フジやジュジュといったヨルバ・ミュージックが
すっかり後退してしまった感は拭えませんが、
いまもフジを支えている人たちって、どういった層なんでしょうね。
いつの頃からか、フジの曲名から「アルハジ」を冠した高名そうな人の名が消え、
いわゆる誉め歌のたぐいのレパートリーがなくなっています。
フジの支持層が変わりつつあるんじゃないですかね。

フジに限らずジュジュなどのヨルバ・ミュージックは、
首長、政治家、実業家といったパトロンたちの御前演奏で誉め歌を歌って、
なりわいとしてきた歴史がありますけれど、
そうした側面が薄れてきているんじゃないでしょうか。

Youtube や TikTok にあがっているティリ・アラム・レザーのライヴを観ると、
Tシャツに短パンみたいな普段着姿でライヴをやっている映像が多く、
たまにバンド・メンバーともども伝統衣装を着ているシーンも観れますが、
圧倒的にカジュアルな演奏風景の方が多い印象なんですよね。
観客がダッシュする場面がぜんぜん出てこないのも、変化を感じます。

パフォーマンス会場も、仮説テントの下でやっているようなライヴばかりで、
金持ちたちが集まっているパーティに出向いているような映像は、
ほとんどお目にかかりません。
バリスターやコリントンがぶいぶい言わせてた時代には、
プールのある邸宅やシャンデリアが光る室内などを背景にしたヴィデオが
よく登場しましたけれど、ご本人やファン・クラブのインスタグラムでも、
そういう成金志向はまったく見受けられません。

「アフロビーツなんてシャレのめした音楽は、
オイラたちとはカンケーねえよ」というような貧しい庶民たちが、
いまのフジ・シーンを支えるようになったんでしょうか。

Alhaji Tiri Alamu Leather "VALUABLE" Okiki no number (2023)
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蘇るセネガリーズ・ポップ黄金期のサウンド ジェウフ・ジェウル・ド・ティエス [西アフリカ]

Dieuf-Dieul De Thiès  Buda.jpg

ビックリ二乗。

ひとつめのビックリは、
わずか79年から82年までしか活動しなかったセネガルのバンドが
33年ぶりに再結成して出した新作だということ。

ジェウフ・ジェウル・ド・ティエスは、活動期には1枚のレコードも出さず、
2013年にテレンガ・ビートが未発表だったマスター・テープを掘り起こすまで、
幻のバンドだったんですよ。なんせ、2002年にオランダのダカール・サウンドが出した
ティエスのバンドのコンピレーション “MEANWHILE IN THIES” で、
かろうじて2曲が聴けるだけのバンドでしたからねえ。

MEANWHILE IN THIÈS….jpg

で、ふたつめのビックリは、これが新作?と戸惑ってしまうほど、
80年前後のサウンドが真空パックそのままに飛び出てきたこと。
ファズやフランジャーを利かせたエレクトリック・ギターも懐かしく、
サウンドのすみずみまでヴィンテージ感が充満しています。
それもそのはず、真空管マイクや旧式ミキサーといった昔の機材を
160キロ以上もフランスから運び込んでレコーディングしたというのだから、
80年当時のアナログ感が再現できるはずです。

Dieuf-Dieul de Thies  Aw Sa Yone Vol.1.jpg   Dieuf-Dieul de Thies  Aw Sa Yone Vol.2.jpg

オリジナル・メンバーで残っているのは、リーダーでギタリストのパープ・セックと
リード・ヴォーカルのバシル・サル二人だけですけれど、テレンガ・ビートの2枚に
収録されていた往年のレパートリーをほぼ昔のままのアレンジで再演し、
今回のレコーディングのために用意された新曲2曲もやっています。
ホーンズを含むメンバー全員によるライヴ・レコーディングだったようで、
そのダイナミズムに富んだグルーヴは最高ですね。

本作のレコーディングは19年に行われましたが、
それに先立つ17年にオランダで開催されたアフリカ・フェスティヴァル・ヘルトメに
出演した時のライヴ2曲が最後に収録されています(CDのみ。LPは未収録)。
これがまたスケール感のある演奏で、ライヴ・バンドとしての実力の高さにウナりました。

この2曲を含む4曲を収録したライヴ盤が、
オランダのヴェリー・オープン・ジャズから18年に出ていたらしく、
残り2曲もぜひ聴いてみたいなあ。
ちなみにこのライヴ盤、前年のフェスティヴァルに出演した
ケニヤのレ・マンゲレパのライヴとのカップリングとなっているようです。
そういえば、マンゲレパもこの頃に復帰作を出したっけ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-12-01

Dieuf-Dieul De Thiès "DIEUF-DIEUL DE THIÈS" Buda 860390 (2023)
Royal Band, Dieuf Dieul "MEANWHILE IN THIÈS… :DAKAR SOUND VOLUME 9" Dakar Sound DKS020
Dieuf-Dieul De Thiès "AW SA YONE VOL.1" Terenga Beat TBCD017
Dieuf-Dieul De Thiès "AW SA YONE VOL.2" Terenga Beat TBCD020

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バンバラのチワラ ムサ・ジャキテ [西アフリカ]

Moussa Diakite  Blue Magic.jpg

ジャケットに写る木彫りは、バンバラ人の農耕の祭儀で登場する仮面のチワラ。
アフリカン・マスクの代表的な頭上面のひとつで、
バンバラの神話で農耕をもたらしたとされる
ローン・アンテロープ(羚羊)がモチーフとなっています。

前に紹介したミシェル・ユエットの写真集にも、
チワラを頭上に載せて、畑を耕すしぐさで踊っている
仮面ダンスの写真が載せられています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-10-15
チワラにはオス・メスがあり、オスはたてがみを持ち、
メスは背中に子供を載せているんですね。
ぼくはオスのチワラを持っていますが、
このジャケットに写っているのもオスのチワラです。

ワスルをルーツとするバンバラ人ギタリストで、現在シドニーで活躍する
ムサ・ジャキテの新作は、昨年の記事の最後に取り上げた
“KANAFO” の次作となります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-09-02

前作同様、マリ・オーストラリア人音楽家の合同作業で、
クレジットの名前から察するに、ンゴニ、カマレ・ンゴニ、バラフォン、コラ、
バック・コーラスがマリ人で、ベース、ドラム・キット、キーボード、ハーモニカなどが
オーストラリア人のようです。演奏はまったくのアフリカン・マナーで、
両者が実にしっくりと共演しています。

タイトル曲は、バンバラらしいマイナー・ペンタトニックのインスト曲で、
物悲しいメロディが胸に染み入る印象的なトラック。
ハーモニカが効果を上げているほか、タマの達者なソロもフィーチャーされます。

ムサの枯れた歌声がシブくて、味わい深いことこのうえないですね。
ダンサブルな曲での飾らないラフな歌いっぷりもよければ、
ゆっくりと語りかける曲での慰撫するような優しい歌い口も沁みます。
ギターはキレがあり、キリッと音色が立つタッチが、
さすがはシュペール・レイル・バンドでならした人と嬉しくなります。

Moussa Diakite "BLUE MAGIC" Wassa no number (2023)
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ヴィンテージな味わいのアフロ・ファンク トーゴ・オール・スターズ [西アフリカ]

Togo All Stars Spirits.jpg

好調続く、トーゴ・オール・スターズの3作目。
2作目と同じ陣容で、地元のロメでレコーディング、
アムステルダムでミックスとマスタリングが行われています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-09-26

3管を擁したメンバーも2作目とほぼ変わりなく、
目立つ変化といえば、女性歌手が一人加わったことかな。
ドッジ・アリス・バックナーとクレジットされたこの人の歌いっぷりが
また野趣に富んでいて、う~ん、いいんだわ~。
こういう土臭い味わいを持ってる歌い手って、
全世界からどんどんいなくなっているだけに、嬉しくなりますねえ。

『スピリッツ』というタイトルや、ジャケットに描かれたデザインが示すとおり、
本作もトーゴのヴードゥーに由来したトラックが多数のようです。
4曲目 ‘Afidemanyo’ のイントロの太鼓とシェイカーのリズムは、
明らかにヴードゥーで使われるリズムと思われるし、
ほかの曲でも金属製打楽器や太鼓が刻む特徴的なリズムに、
ヴードゥー由来を感じさせる場面が多数出てきますよ。

デビュー作には、曲ごとにアクペセ、アグバジャといったリズム名が
クレジットされていたんですが、2作目と本作には記載がなく、ちょっと残念。
トーゴのリズムの聞き分けがまだできないので、勉強したいんだけどな。
そうしたトーゴの伝統リズムをアフロ・ファンクにしたトーゴリーズ・ファンクのほか、
アフロビートも2・11曲目でやっています。

デジタル皆無のアナログな生演奏で、
ここまでアーシーな魅力を放つバンドは、今日び本当に貴重。
居並ぶヴォーカリストたちも全員がいなたい歌い口で、
もう涙が止まりません。

Togo All Stars "SPIRITS" Excelsior EXCEL96755 (2023)
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ルゾフォニアの多文化主義 ルーラ [西アフリカ]

Lura  Multicolor.jpg

15年作の “HERANÇA” 以来、すっかり音沙汰のなかったルーラ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-11-30
あのアルバムの1年後に娘が生まれ、離婚してシングル・マザーになるなど、
多難な私生活によって音楽活動から離れていたようです。

ポルトガルとカーボ・ヴェルデの二重国籍を持つ ルーラですが、
新作を『マルチカラー』と銘打ったのは、ルゾフォニアの立場から、
みずからのアイデンティティとして多文化主義を描こうとしたとのこと。
それを象徴するのが、アンゴラのジャーナリストで作家・詩人の
ジョゼー・エドゥアルド・アグアルーサが作詞した ‘Sou De Cá’ で、
この曲がタイトルの由来になったのだそうです。

長年所属したルサフリカから新たなレーベルに移籍して出した新作は、
サウンドが一変しましたね。
オープニングのベース・ミュージックばりの重低音ベースには、ビックリしましたよ。
8分の6拍子のバトゥクの手拍子にぶっといシンセ・ベースが絡むので、
思わずノケぞったものの、これがなかなか悪くない仕上り。
柔らかな生音サウンドのテクスチャだったこれまでとは、えらい違いなんですけれど。

サウンドの方向性を変えたとはいえ、
パーカッシヴなリズムを強調したサウンドづくりは、
カーボ・ヴェルデ音楽の多彩なリズムを生かす、従来の路線と変わりありませんね。
カーボ・ヴェルデ音楽の原点に回帰したルーラが、
再出発にあたり多文化主義を描くなかで、新しいアレンジャーを選んだ結果なのでしょう。

ディノ・ディサンティアゴが1曲アレンジし、
アンジェリーク・キジョがゲストで1曲歌っていますが、特にコメントする必要はないかな。

Lura "MULTICOLOR" Produtores Associados PA001CD (2023)
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アフロビーツに薫るギネア=ビサウのソダージ カリナ・ゴメス [西アフリカ]

Karyna Gomes  N'NA.jpg

14年に出たデビュー作ですっかり魅入られた、
ギネア=ビサウのシンガー・ソングライター、カリナ・ゴメス。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-10-02
おととしの9月24日、ギネア=ビサウの独立記念日に、
2作目がデジタル・リリースされたものの、フィジカルが出ている様子がなく
諦めていたんですけれど、CD出ていたんですねえ(大喜び)。

デビュー作はグンベーやマンジュアンダディなどのギネア=ビサウ音楽をベースに、
人力演奏のプロダクションでコンテンポラリーなサウンドを作っていましたが、
今作はエレクトロを多用したアフロビーツのサウンドに様変わり。
いまやアフロビーツは、ポルトガル語圏にも浸透するようになったのね。

がらっとサウンド・イメージは変わったものの、
胸に染み入るクレオール・ミュージック独特のせつないメロディを紡ぐ
カリナのしなやかな歌いぶりには、強く惹かれますねえ。

特に歌の上手いという人ではないんですけれど、
派手さのない落ち着いた歌いぶりで、
聴く者の耳を引き付けて放さない魅力のある人です。
アフロビーツの単調なビートをバックにしても、
カリナの歌い口からは複雑な色合いをみせる詩情が伝わってきて、
その美しさにクレオール・ミュージックの真髄を見る気がします。

そんなアフロビーツ・トラックのなかで異彩を放つのが、
ガーシュインの ‘Summertime’ 。
普段ならこういう凡庸な選曲に眉をひそめる当方ですが、このアレンジにはびっくり。
歌と伴奏のリズムを解体して、楽器のリズムをずらしたアレンジが超斬新。
アレンジしたのは、リスボンのプロデューサーで
フィリープ・スルヴァイヴァルという人だそうですけれど、スゴ腕だな。
この曲でカリナは、ティナという水太鼓を叩いています。

ラスト曲のタイトル ‘Sodadi’ とは、
カーボ・ヴェルデ・クレオールのソダーデ ‘Sodade’ と同義の、
ギネア=ビサウ・クレオールでの綴りでしょうか。
そんなソダージ感あふれる乾いた哀感が美しいアルバムです。

Karyna Gomes "N’NA" Kavi Music KAV00001/21 (2021)
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悪を取り払うボボの葉っぱ仮面 ババ・コマンダント&ザ・マンディンゴ・バンド [西アフリカ]

Baba Commandant  Sonbonbela.jpg

おーぅ、ミシェル・ユエットの写真!
ババ・コマンダント&ザ・マンディンゴ・バンドの新作ジャケットは、
アフリカの写真集の古典的名作
“THE DANCE, ART AND RITUAL OF AFRICA” の写真から
切り抜いたものですね。

フランス人写真家ミシェル・ユエットのこの写真集は、
高校3年のぼくにアフリカ熱を決定づけた人生の一冊です。
オリジナルはフランスで出た “DANCES D'AFRIQUE” ですけど、
ぼくが買ったのは、アメリカで出版された78年の初版本。
日本橋丸善の洋書売り場で見つけて、強烈な衝撃を受けました。

何十年ぶりかで書棚から取り出したけれど、
この写真が載っているページは、目を閉じてたって開けられるよ(ウソです)。
ブルキナ・ファソの国名がオート・ヴォルタだった時代の、ボボ人の儀式を撮影したもの。
どういうわけだかジャケットは裏焼になっていますが、この全身を葉で覆われた仮面は、
乾季の終わりの農作業が再開される前に行われる、清めの儀式で登場します。

Michel Huet 1.jpg   Michel Huet 2.jpg

ドゥウォと呼ばれる葉っぱの仮面は、夕暮れ時に村にやってきて、
家々や小屋、村の人々をかすめながら、路地を歩き回ります。
仮面が歩くたびに揺れ動きざわめく葉っぱが、1年の間に蓄積されたすべての悪を
葉に吸収させ、村のすべての不純物を洗い取り、村からケガレを取り除きます。

ボボの創造神であるウロから遣わされたドゥウォは、
人間の過ちや罪といった悪を取り払い、人間と神を仲介する役割を果たします。
ボボの哲学では、人間の生存はドゥウォの恩恵を受けることにかかっていて、
その恩恵を受けるために人間は、
自らの傲慢を捨てなければならないと考えられています。

このボボの猟師結社ドンソに属しドンソ・ンゴニを操るのが、
ババ司令官ことママドゥ・サヌです。
15年のデビュー作のローファイぶりに快哉を叫び、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-04-18
アフロビートからドンソ・ンゴニ・ファンクへとシフトした18年の前作は、
ライヴ感たっぷりのサウンドで踊らせてくれました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-11-30

ばたばたとラフに連打されるドラムス、硬くきらびやかな音色のギター、
絡み合うドンソ・ンゴニとバラフォン、粘っこくうねるベース、
粗っぽいヴォーカルが生み出す泥臭さが、も~う、たまんない。
前作がちょっとサウンドが整理されすぎた感があったんですけど、
今作はデビュー作の粗野なエネルギーを取り戻しつつ、
アンサンブルがスケール・アップしていて、これまでの最高作になりましたね。

最後に、ジャケットにはアート・ディレクションとデザイン・レイアウトの
クレジットはあるけど、ミシェル・ユエットの写真借用に関する記載なし。
これ、アカンやろ。

Baba Commandant & The Mandingo Band "SONBONBELA" Sublime Frequencies SF121 (2023)
[Book] Michel Huet "THE DANCE, ART AND RITUAL OF AFRICA" Pantheon Books (1978)
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マリの平和を願って イドリッサ・スマオロ [西アフリカ]

Idrissa Soumaoro  DIRE.jpg

シュペール・ビトンやソロマン・ドゥンビアなどのリイシューから
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-11-26
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-03-07
新人のサヘル・ルーツのデビュー作までリリースしてきた、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-10-12
セグーに拠点を置くマンデ・ポップの新進レーベル、ミエルバから、
元アンバサドゥールのイドリッサ・スマオロの13年ぶりの新作が出ました。

13年ぶりといっても、本作は今から11年も前の12年にバマコで録音されたもの。
アマドゥ&マリアムの元プロデューサー兼マネージャー、
マルク=アントワーヌ “マルコ” モローのプロデュースでレコーディングされたものの、
マルコの突然の急逝で制作が頓挫してしまったのでした。

長い中断を経て、アマドゥ&マリアム・バンドのリズム・セクションを担った
イヴォ・アバディ(ドラムス)とヤオ・デンベレ(ベース、キーボード)が
新たに結成したアフロ・エレクトロ・ファンク・コレクティヴ、
クライマックス・オーケストラがアディショナル・レコーディングを行い、ついに完成。
ミックスとプロデュースもクライマックス・オーケストラが手がけています。

クライマックス・オーケストラと聞いて、ギンギラのエレクトロになったかと
心配する向きもありましょうが、大丈夫。エレクトロは完全封印。
スマオロの音楽にきちんと寄り添っていて、
ヤオ・デンベレのオルガンなど、とてもいいサポートをしています。
前作ではスマオロの音楽性の豊かさや、
コンポーザーとしての才能に目を見張りましたが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-08-30
今作はドンソ・ンゴニをベースとして、バンバラ色の強い仕上がり。
そこに、ラテンが香るいにしえのルンバ・コンゴレーズや北米ブルースなど、
スマオロらしいカラフルな音楽性が加わっています。

なによりスマオロの深みのある歌声が、いいじゃないですか。
力の抜けた自然体な歌いっぷりは、
ヴェーリャ・グァルダ級のサンビスタをホウフツさせます。
伸びやかな歌声や、語りかけるよう歌い口は、熟成の味わいそのものです。

タイトルのディレとは、トンブクトゥ州のニジェール川左岸にある町で、
スマオロがバマコの国立芸術学院を卒業後、
一般教育学研究所の音楽教師となって、赴任した場所だったそうです。
この地でスマオロは妻と出会い、長女が生まれるなど、たくさんの良い思い出を残しました。
美しいディレの街の記憶を呼び覚ますことは、困難な時期にある現在のマリにおいて、
平和への希望と人々の幸福を願う、スマオロからのメッセージになっているのですね。

ラスト・トラックで、アマドゥ&マリアムで知られる盲目のギタリスト、
アマドゥ・バガヨコが参加。
スマオロとアマドゥ・バガヨコは、アンバサドゥール時代のメンバー仲間で、
スマオロが80年代初めに視覚障碍者のバンドを結成し、
84年に英バーミンガム大学への奨学金を得て点字音楽学を学んだのも、
アマドゥ・バガヨコとの出会いが大きかったようです。
アマドゥのギターが入ると、キリッとしたバンバラ・ブルース・ロックに仕上がって、
聴きごたえがぐっと増しますねえ。

Idrissa Soumaoro "DIRÉ" Mieruba MRB-ML02-019 (2023)
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革命闘争の夢と幻滅を越えた半世紀 マラン・マネ [西アフリカ]

Malan  FIDJU DI LION.jpg

ギター2台、ベース、ドラムス、パーカッションの5人が奏でるまろやかなグンベーに、
胸アツになりました。かつてのスーパー・ママ・ジョンボのサウンドそのままの
アナログなサウンドの良さに、ああ、人力演奏っていいなあと、しみじみ感じ入ります。

歌う主は、マラン・マネ。
ギネア=ビサウ独立闘争時に結成された伝説のバンド、
スーパー・ママ・ジョンボのフロントを飾った歌手のひとりです。
90年にフランスへ亡命してから30年の間に書き溜めた曲が、
フランスのドキュメンタリー作家によって見いだされ、
リスボンのヴァレンティン・デ・カルヴァーリョ・スタジオでの録音が実現して、
アラン・マネにとって初のソロ・アルバムが完成しました。

リード・ギタリストのアドリアーノ"トゥンドゥ "フォンセカに、
パーカッショニストのアルマンド・ヴァス・ペレイラというスーパー・ママ・ジョンボの
オリジナル・メンバー2名に、セザーリオ"ミゲリーニョ "オフェルの後任となった
2代目リズム・ギタリストのジョアン"サジョ "カサマ、
アルマンド・ヴァス・ペレイラの弟のアントニオ"トニー ペレイラなど、
スーパー・ママ・ジョンボゆかりのメンバーで固めた5人に、
コーラスでママニ・ケイタとジュピテール(再来日中!)が参加しています。

ほっこりとしたグンベーのグルーヴに身を任せながら、
英訳された歌詞カードを読んでみたところ、
独立闘争で培った革命の信念を持ち続け、
解放闘争に身を挺した者の軌跡が刻まれていて、思わず背筋が伸びました。

マランがスター歌手から無名の移民労働者となり、
モントルイユの労働者宿舎で30年間の長き沈黙をしいられた生活にあっても、
革命家アミルカル・カブラル時代の精神に忠実で、失望や挫折の後もなお
不屈のプライドを持ち続けた気概が、その歌詞には溢れていたのでした。

かつてマランは、フランスと戦った英雄サモリ・トゥーレを讃えた
ベンベヤ・ジャズの ‘Regard Sur Le Passé’ からヒントを得て、
‘Sol Maior Para Comandante’ という曲で、
アミルカル・カブラルの生涯をたどった一大叙事詩を歌いました。

本作に、再会したメンバーによる同窓会アルバムにありがちなユルさがなく、
80年に出たスーパー・ママ・ジョンボの第1作と地続きで聞けるのも、
革命の夢と幻滅の半世紀を生き抜いた者の強度ゆえでしょう。

スーパー・ママ・ジョンボは、79年にリスボンの
ヴァレンティン・デ・カルヴァーリョ・スタジオで初レコーディングを行い、
ひと月近くかけて70曲以上を録音しています。
80年に出た第1作の “NA CAMBANÇA” と第2作の “FESTIVAL” が
この時の録音で、残りの多くは未発表になりましたが、長い時を経て
オランダのコビアナとアメリカのニュー・ドーンが、一部の未発表曲を復刻しました。
これら4枚でマランの歌声をきくことができます。

Orquestra Super Mama Djombo  NA CAMBANÇA.jpg   Orquestra Super Mama Djombo  FESTIVAL.jpg
Super Mama Djombo  SUPER MAMA DJOMBO  Cobiana.jpg   Super Mama Djombo  New Dawn.jpg

ちなみに、スーパー・ママ・ジョンボは86年に解散し、
のちに93年の映画『青い瞳のヨンタ』のサウンドトラックで再結成しますが、
この時すでにマランはフランスへ亡命していて、録音には参加していません。
最後に、マランが所属していた時代のスーパー・ママ・ジョンボのCDを掲げておきます。
ちなみに “NA CAMBANÇA” と “FESTIVAL” のCDは、
オリジナルLPとジャケットが違っていますが、
数年前にオリジナル・フォーマットのままLPリイシューされました。

Malan "FIDJU DI LION" Archie Ball ARCH2201 (2023)
Orquestra Super Mama Djombo "NA CAMBANÇA" Teca Balafon Productions CDBAL001/99 (1980)
Orquestra Super Mama Djombo "FESTIVAL" Teca Balafon Productions CDBAL002/99 (1980)
Super Mama Djombo "SUPER MAMA DJOMBO" Cobiana COB02
Super Mama Djombo "SUPER MAMA DJOMBO" New Dawn ND001CD
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クラクションをパウ・パウ! ザ・ラ・ドライヴァーズ・ユニオン・パウ・パウ・グループ [西アフリカ]

The La Drivers Union Por Por Group  POR POR.jpg

キング・アイソバのアルバム “WICKED LEADRERS” で、
ぶかぶかと鳴らされる珍妙なラッパ音。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-07-12
音程の出ない素朴な楽器を使ったこういう音楽を、
ほかにも聴いた覚えがあるんだけどなあ。

中央アフリカ、チャド、コンゴあたりの古い民俗音楽のフィールド録音とかじゃなくて、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-07-08
もっと最近のやつで聴いた気がするんだけど、なんだったっけ。
そう思いつつ、十年近く思い出せなかったんですけれど、
そうか、パウ・パウだったのか。同じガーナじゃん!

その昔、スミソニアン・フォークウェイズから出た、ガーナの首都アクラに所在する
ラ地区運転手組合のグループを野外録音したクラクション・ミュージック。
乗合バスのトロトロに付けられているクラクション=パウ・パウを使って、
組合員の運転手の葬送で演奏される音楽です。
ニュー・オーリンズのジャズ葬を思い浮かべるところですけれど、
現地アクラでは日常生活のやかましい音風景のひとつであって、
音楽という認識はされていないみたいですね。

かちゃかちゃと金属音を鳴らす廃品タイヤのリムに、
伝統楽器の椅子型打楽器ゴメや、木箱型打楽器タマリンがリズムをかたどり、
男たちがコール・アンド・レスポンスで歌うさなか、
クラクションのパウ・パウがぶかぶかと鳴らされるというパーカッション・ミュージック。
へぇ~、こんな音楽がガーナにあるのかと、当時は物珍しく聴いたものの、
フォークロアな音資料的な内容に、2・3回聴いたくらいで棚の肥やしとなっていました。

The La Drivers Union Por Por Group  KLEBO!.jpg

それをなぜ思い出しのたかというと、このグループの09年作を見つけたからなんです。
環境音のように録音されていたスミソニアン・フォークウェイズ盤とは段違いの、
ヴォーカルとコーラスを前面に出したミックスで、
グッと音楽的な仕上がりになっているんですね。

どちらも民族音楽学者のスティーヴン・フェルドが録音したものですが、
02年にスティーヴン・フェルドが設立した
ドキュメンタリー・サウンド・アート専門レーベル、
ヴォックスロックスから出たこのアルバムは、
曲がきちんとアレンジされていて、
音楽作品を制作する明確な姿勢が感じ取れます。

10人のメンバーと3人のゲストの名前と担当楽器がきちんとクレジットされており、
それを見ると、廃品タイヤのリムを叩いていたスミソニアン・フォークウェイズ盤の
普段着姿の演奏との違いがわかります。本作で金属音を響かせるのは、
ダブル・ベルのアダブランタで、ガ人の太鼓パンロゴ、
椅子型打楽器ゴメ、ひょうたん製シェイカーのアカシャ、
フィンガー・ベルのアダワヌといった多くの伝統楽器が使われています。

パウ・パウも5人のメンバーに二人のゲストが演奏するほか、
音楽監督を務めるリード・ヴォーカリストが、笛のアテンテベンを吹いています。
単音しか出ないパウ・パウを複数台使ってベースとなるリズムを作り、
そこにパロンゴが即興でクロス・リズムを加えていくところなど、すごくスリリング。
アダブランタが反復リズムを繰り返して、パウ・パウと笛とパロンゴが即興しあったり、
リズムの構成が曲ごとにしっかりと組み立てられていますね。

キャッチーなメロディーの曲が多くて、ハーモニー使いのコーラスも交えて、
けっこうポップなんですよ。いやぁ、これ、めちゃ楽しいじゃないですか。
そんなポップにも聞こえる曲のなかで、
パウ・パウがゆいいつ不協和な音をまき散らす面白さにヤられます。
スミソニアン・フォークウェイズ盤に退屈した人にも、これはオススメ!

最後に、日本語テキストでは
もっぱら「ポル・ポル」と書かれていますが、「パウ・パウ」と発音します。

The La Drivers Union Por Por Group "POR POR: HONK HORN MUSIC OF GHANA" Smithonian Folkways Recordings SFWCD40541 (2007)
The La Drivers Union Por Por Group "KLEBO!" VoxLox 109 (2009)
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フルベの笛と無国籍音楽 ポピマン [西アフリカ]

Popimane  AFRICA FAIR.jpg   Popimane  ÉTAT D'ESPRIT.jpg

ポピマンって、ずいぶん風変わりなステージ・ネームだけど、どういう由来なんでしょう。
ブルキナ・ファソ生まれのグリオ出身のマルチ奏者で、本名はドラマン・デンベレ。
デンベレという苗字から、おそらくフルベ(プール)人かと思います。
メインの楽器はフルベの笛で、カマレ・ンゴニや親指ピアノ、タマも演奏します。

フランスに渡ってドラマン・デンベレの名で
いくつかの共同名義作をリリースしていたようですが、
ポピマンと名乗り、モジュラー・シンセサイザー兼チェロ奏者のヨアン・ル・ドンテック
とともに活動を始め、20年に5曲入りのミニ・アルバムをリリースしています。

そのミニ・アルバムは、アフリカを舞台にした映画のサウンドトラックみたいな
インスト音楽だなあ、という印象。
ポピマンが生み出すフルベの伝統的なメロディーやリズムに、
ヨサン・ル・ドンテックが色付けを施すようにサウンド・メイキングをしています。
音楽はいたってシンプルで、息もれ音のノイズを強調したフルベの笛をメインに、
カマレ・ンゴニや親指ピアノが反復フレーズを繰り返して、グルーヴを作っています。

20年のミニ・アルバムは特に強い印象を残しませんでしたが、
前作の路線にドラムスを加えてリズムを強化した、
フル・アルバムが出たので聴いてみました。
フランスのローランド・カークとも称されるコート・ジヴォワール、アビジャン出身の
マジック・マリックがフルートとヴォーカルでゲスト参加した曲では、
ペンタトニックのメロディーがどこか日本めいていて、
アフリカでもヨーロッパでもない異世界の音楽に聞こえます。

ポピマンは、ギネアのアフリカ・バレエ団に所属した笛奏者ママディ・マンサレや
スコットランドのフルート奏者イアン・アンダーソンに影響を受けたと語っていて、
アフリカの伝統音楽と非アフリカ音楽をバランスよくブレンドする
センスの持ち主なのでしょう。
カナレ・ンゴニの響きが、コラのようなきれいな音色なのは、
ヨーロッパ人好みに寄りすぎているように感じますけれども、
フルベの笛好きには、ちょっと無視できない作品です。

Popimane "AFRICA FAIR" Asymetric Sounds ASY003 (2020)
Popimane "ÉTAT D'ESPRIT" Asymetric Sounds ASY004 (2022)
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限界点を超えて バントゥー [西アフリカ]

Bantu  WHAT IS YOUR BREAKING POINT.jpg

アデ・バントゥ率いる13人編成アフロビート・バンド、バントゥーの新作が到着。
17年の “AGBEROS INTERNATIONAL” に始まる3部作の完結編で、
20年の “EVERYBODY GET AGENDA” 以来3年ぶりのアルバムです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-10-14

前作のアフロビートたらしめるレベル・ミュージックとしての強度に
感じ入ったんですけれど、今作でもそのエネルギー量は変わっていませんね。
ナイジェリア社会の不正義に立ち向かう姿勢を鮮明にした曲がずらり並び、
アフロビーツのかりそめの華やかさに隠匿された、
ナイジェリア社会の矛盾を鋭く歌っています。

バントゥーの演奏力の確かさは定評のあるところで、
かつては洗練されすぎたアレンジが、かえってアフロビートのエネルギーを
減じていたキライがありましたけれど、今作では洗練されたハーモニー・センスを、
ホーン・セクションを含むバンドの熱量とうまくバランスさせているのを感じます。

‘Africa For Sale’ でのアクースティック・ピアノの使い方など、その典型。
アフロビートでピアノをこんなに華やかに鳴らすのは、
不釣り合いとなりそうなのにそうさせないのは、
楽曲の巧みな作りがリッチなハーモニーの展開を促しているからでしょう。
エネルギーの放出一辺倒でない曲作りの上手さも、今作の聴きどころです。
アフロビート定型から離れたコンポーズの ‘Your Silence’ も新鮮ですよ。

作曲のクレジットにバンド・メンバー全員の名が並ぶのは、
スタジオで顔を突き合わせながら曲をまとめあげているからなんでしょうね。
サウンドのキー・パーソンは、
トランペット奏者オペイェミ・オイェワンデのホーン・アレンジと
鍵盤奏者ババジデ・オケベンロの二人かな。

‘Na Me Own My Body’ では、コネチカット出身のフィメール・ラッパー、
アクア・ナルをフィーチャー。
なんでもアクア・ナルは、最近ケルンに移住したんだそうです。
レゴスでレコーディング、ケルンでミックス、アトランタでマスタリングした力作です。

Bantu "WHAT IS YOUR BREAKING POINT?" Soledad Productions 04517 (2023)
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7年ぶりのフラニ・ロック バーバ・マール [西アフリカ]

Baaba Maal  BEING.jpg

バーバ・マール、7年ぶりの新作。
硬質な声としなやかさに欠ける歌いぶりが、
どちらかというと苦手なタイプなんですが、
ロック寄りのプロダクションに乗ると、その個性ががぜん光る人なんですよね。
で、新作はそのバーバの持ち味が生かされた作品に仕上がっています。

前作 “THE TRAVELLER” 同様、ヨハン・ヒューゴのプロデュース。
今回も曲はすべてバーバとヨハンとの共作です。
スウェーデン人DJのヨハン・ヒューゴは、フランス人DJエティエンヌ・トロンと
ロンドンでレディオクリットというDJデュオで活動するほか、
マラウィ人シンガーのエサウ・ムワンワヤを加えた
アフロ・エレクトロ・ユニットのザ・ヴェリー・ベストでの活動で知られる人。

バーバとはリミックス・ワークをきっかけに出会い、
意気投合してコラボするようになったとのこと。
前作は、詩人レム・シサイのポエトリーをフィーチャーした終盤の2曲が
違和感ありすぎで好きになれなかったけれど、今回はOK。

ホドゥ(*)やギターなどの弦楽器やパーカッションなどの生音と
プログラムされたエレクトロな音とのバランスもよく、
割り切りのいいタテノリのトラップ・ビートにも、
しっかりとアフリカらしいグルーヴが息づいています。
直情的なバーバのヴォーカルの声の強さも、
69歳という年を考えると、驚異的ですね。
*ホドゥとはンゴニと同じ弦楽器で、フラニ語の名称。
ウォロフ語ではハラムと呼ぶ。バーバ・マールはフラニ系のトゥクロール人。

フィーチャリングされるゲストは、ザ・ヴェリー・ベストのエサウ・ムワンワヤに、
モーリタニアのプール人ラッパーのパコ・レノール、そしてバーバの姪っ子というルジ。
このルジの歌声が素晴らしいんです。プロの歌手じゃないそうですが。

ラストの9分近い ‘Cassamance Nights’ は、
瞑想的でメランコリックな美しさに溢れた曲で、
なんとも良い余韻を残します。
これは、バーバ・マールひさびさの快作じゃないでしょうか。

Baaba Maal "BEING" Marathon Artists MA0381CD (2023)
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ゾロゴ・フロム・アッパー・イースト・オヴ・ガーナ [西アフリカ]

THIS IS ZOLOGO BEAT.jpg

ガーナ北部のフラフラ人の音楽コロゴを世界に広めた
オランダ、アムステルダムのレーベル、マカムが、新たなるコンピレーションをリリース。
ガーナ、アッパー・イースト州のボルガタンガやボンゴなどの都市で、
新しいダンスとして絶賛流行中というゾロゴなる音楽だそうです。
ゾロゴとは、フラフラ語(CD解説のファラ・ファラ語は同義語)で「クレイジー」の意。
本コンピレには、10人のアーティストによる10曲が収録されています。

プログラミングを手がけるのは、ジャケットに写る眼鏡の若者で、
本作のプロデューサーでもあるフランシス・アヤムガ。
まだ20代前半ぐらいにしかみえませんが、
キング・アイソバとの仕事で注目を集め、19年にマカムが出したコンピレ
“THIS IS FRAFRA POWER” のキュレーションも手がけました。
本作は、アヤムガがボンガの丘に建てた
トップ・リンク・スタジオで録音、ミックスしていて、
CDトレイの裏に写っている、トタン屋根にレンガ作りの小屋がそのスタジオなのでしょう。

トーキング・ドラムなどの生の打楽器に、
プログラミングのエレクトロ・ビートを絡ませたサウンドはコロゴとよく似た趣向で、
弦楽器のコロゴを使用していないことをのぞけば、
部外者にはコロゴとの違いはよくわかりません。
じっさいこの10人の中には、コロゴのミュージシャンも交じっていて、
プリンス・ブジュはコロゴを弾いているし、
ドンダダはシニャカ(シェイカー)を振っています。

「クレイジー」と呼ばれるほどには、
トランシーな激しさのようなビートではなく、のんびりとしたものです。
ドープなのが苦手な向きには、
ちょうどよい塩梅のローカル・ダンス・ミュージックでしょうか。
マリのバラニ・ショウにも通じる、いい湯加減であります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-01-30

10人の歌い手のなかでは、ンマサーナという女性の吹っ切れた歌いっぷりが聴きもの。
コロゴのファンには聴き逃せないアルバムです。

Sammy, Fadester, Nmasaana, Prince Buju, Awudu, Ramond, Designer, Joseph, FCL. Dondada
"THIS IS ZƆLOGƆ BEAT" Makkum/Redwig MR35/RW60 (2023)
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フジ+アフロビーツ+ゴスペル アデワレ・アユバ [西アフリカ]

Adewale Ayuba  Fujify Your Soul.jpg

ひさしぶりにヴェテラン・フジ・シンガー、
アデワレ・アユバの新作を聴くことができました。
18年の二部作 “BONSUE RELOADED” 以来ですね。
アユバは、パスマやスレイモン・アラオ・アデクンレ・マライカのような
ドスの利いたがらがら声ではなくて、シワがれ声の歌いぶりに味のある人。
ヘヴィー級にはないライト級シンガーならではの軽みと、
ポップなセンスがあるのが、他のフジ・シンガーにないアユバの個性です。

パスマの新作にアフロビーツを取り入れたトラックがあって、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-01
フジのマンネリ・サウンドにも、ようやくブレイクスルーが来たかと
喜んだんですが、アユバの新作にもアフロビーツ、あるんですよ。

それが ‘Koloba Koloba’ で、長尺の2曲の間に挟まれて収録されています。
21年にシングルで発表され、TikTokなどで8000以上のカヴァーが作られるほどの
ヒットを呼んだ曲だそうで、それゆえ新作に収められたんでしょう。
ハネのあるリズムと軽いタッチのグルーヴが心地良いトラックで、
ギター、オルガン、サックスなどの生演奏を絡め、
トーキング・ドラムのフィルがかくし味となっています。

近年ナイジェリアで盛り上がりを見せている
アフロゴスペル(アフロビーツ+ゴスペル)のプロデューサーとして活躍する
LC・ビーツがプロデュースした曲で、LC・ビーツは、
クリスチャン・ヒップ・ホップのラッパーだった人です。

人生の成功は神と幸福な結婚のおかげと歌ったこの曲も、
クリスチャン・ミュージックのアフロゴスペルのようです。
実は、アユバは2015年にキリスト教に改宗したんですね。
改宗後もイスラム系音楽のフジを歌っているのが謎で、
クリスチャンのフジってありなのか?と訝しむんですけど、多分ありなんでしょう。
LC・ビーツとのコラボは、クリスチャンとしてのアユバのマニフェストなのかも。

ちなみに、サブスクには4曲多く収録されていて、
そちらはアフロビーツではなく、ジュジュ/フジのトラック。
従来のマンネリを打破した新感覚のサウンドを聞かせているのに注目ですね。
アフロビーツがグローバライズするまでになった時代に、
ようやくフジも新たな展開を見せ始めてきて、面白くなってきましたよ。

Adewale Ayuba "FUJIFY YOUR SOUL" BA no number (2023)
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セネガルからインターナショナルへ シェイク・イブラ・ファム [西アフリカ]

Cheikh Ibra Fam  PEACE IN AFRICA.jpg

えっ! シェイク・イブラヒマ・ファル?
ジャケットのアーティスト・ネームに、一瞬セネガルのスーフィー教団、
バイファルの活動家(1855–1930)を思い浮かべたんですが、
んなわけない。早とちりでした。

オーケストラ・バオバブでシンガーを務めたこともあるという
シェイク・イブラ・ファムのインターナショナル・デビュー作。
バオバブのアルバムをチェックしてみましたが、その名前は見つからなかったので、
録音は残さなかったようです。コンサート・ツアー・メンバーにその名があるので、
バオバブと世界を回ったのは確かなのでしょう。

アルバム・タイトルの1曲目にビックリ。アフロビーツじゃん。
う~ん、アフロビーツはセネガルにも飛び火してるわけね。
というより、インターナショナル・マーケット狙いなら、
いまや必須のプロダクションなんだろうな。

モータウンに所属したザ・ボーイズの元メンバーで、
シャニースやボビー・ブラウンのリミックスを手がけたハキム・アブドゥルサマドが
アレンジとミキシングを担当しているから、抜かりありません。
ハキム・アブドゥルサマドは、エイコンの06年作 “KONVICTED” のプロデュースや、
ユッスーの19年作 “HISTORY” のエンジニアリングも担当していましたからね。

しかもプロデュースには、シェイク・イブラ・ファム自身に加えて、
ワールド・ミュージックの敏腕マネージャー、ジュリー・リオス・リトルの名もあります。
現在彼女は、シェイク・イブラ・ファムのマネージャーをしているのだそう。
世界進出するに万全な布陣を敷いた本作、
セネガリーズ・ポップを飛び越えた意欲的な作品となっています。

中央アフリカ出身でブリュッセルのディープ・ハウス・シーンで活躍するヴェテラン、
ボーディ・サットヴァをフィーチャーした冒頭のアフロビーツの ‘Peace In Africa’、
セネガルのフォーキーなメロディとトロンボーン・サウンドを絡ませた ‘Yolele’、
カーボ・ヴェルデ系フランス人レゲエ・シンガーを迎えた ‘Diom Gnakou Fi’、
マリ出身の母親がよく歌っていたというゲレ人のダンス・チューン ‘Ayitaria’ では、
ゲストのシェイク・ローがフレッシュな歌声を聞かせます。

さらに、オーケストラ・バオバブの看板歌手バラ・シディベと、
サックスのチェルノ・コイテを招いた ‘The Future’、
ルンバ・コンゴリーズ・スタイルのギターが輝く ‘Coumba’ などなど、
趣向の凝らしたトラックは聴きもので、
イブラ・ファムの伸びのあるヴォーカルが、どの曲でもよく映えています。

Cheikh Ibra Fam "PEACE IN AFRICA" Soulbeats Music SBR159 (2022)
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トゥアレグのディープなトランス・ミュージック アル・ビラリ・スーダン [西アフリカ]

Al Bilali Soudan  BABI.jpg

ティナリウェンの新作に心底落胆。
歌うべき内実を失ったサウンドに、耳を覆いたくなりました。
そんなところにトゥアレグのグリオ・グループ、アル・ビラリ・スーダンの新作が届いて、
これでティナリウェンに別れを告げても、未練はないと考えるまでになりました。

前作はテハルダント3人とカラバシ2人でしたが、
カラバシが一人離脱して4人編成となったようです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-06-02
といっても、家族と親類縁者によるグリオたちだから、
出入り自在のゆるやかなグループなんでしょうが。

アンプリファイド・テハルダントの強烈なサウンドが空気を切り裂き、
尋常じゃない緊張感に満ち溢れていた前作からは一転、
アンプラグドのアクースティックなサウンドとなって、
デビュー当時のサウンドに戻っています。

10・11年にバマコで録音されたデビュー作は音質がプアでしたが、
今回は整った環境でレコーディングしたとみえ、
デビュー作とは見違える音響で、トランシーなタシガルト(タカンバ)が
ダイナミックに迫ってきます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-01-09

しつこいまでに反復を繰り返しながら、
トランスを生み出すグルーヴが、このグループの真骨頂。
このディープさこそ、いまのティナリウェンが失ってしまった
トゥアレグ音楽が持つナマナマしさですね。
今、日本に呼んでほしいのは、ティナリウェンじゃなくて、アル・ビラリ・スーダンだよ。

Al Bilali Soudan "BABI" Clermont Music CLE073 (2023)
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コブシこそフジのアイデンティティ ワシウ・アラビ・パスマ [西アフリカ]

Wasiu Alabi Pasuma  LEGENDARY.jpg

アフロビーツはCDでまったく出なくなっちゃったけど、フジはまだCD健在。
コロナ禍が明け、現地買い付けのナイジェリア盤CDと久しぶりにご対面できました。
だけど、まぁ、ずいぶんとジャケットがぺらっぺらになっちゃったねえ。
ペーパー・スリーヴがボール紙じゃなくて、薄いコート紙みたいなのになっちゃった。

なんだかこれを見て、80年代のキューバ盤LPを思い出しちゃいましたよ。
オマーラ・ポルトゥオンドの “CANTA EL SON” とか、
グルーポ・シエラ・マエストラの “¡Y SON ASÍ!” とか。
もはやジャケットとは呼べない、内袋みたいな薄さのジャケットでしたね。
どちらも83年のレコードだったけど、キューバ経済がドン底の時代のもので、
物資不足だったんでしょうねえ。

さて、そのペラペラの新作フジCDで良かったのは、
実力最高で定番の、スレイモン・アラオ・アデクンレ・マライカとワシウ・アラビ・パスマ。
偶然にも、二人ともロール・モデル・エンターテインメントという、
初めて聞くレーベルからの新作です。新興のレコード会社に移籍したんでしょうか。

若手のスレイモン・アラオ・アデクンレ・マライカが絶好調で、
ここでも、これまでに2度ほど取り上げてきました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-07-04
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-12
今回の22年の新作 “PASSWORD” も長尺の2曲という構成で、
気合の入った充実作でしたけれど、
今回はワシウ・アラビ・パスマの方を取り上げましょう。

パスマの新作を聴くのは、“2020” 以来です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-04-19
昨年10月に出た本作は、3・4分台の曲が3曲続いたあと、
後半が6分台、12分台、そしてラストが32分台の長尺曲という
構成になっています。

第一声のガラガラ声に、はや頬がゆるんじゃうんですけど、
パスマの力量のあるフジ声はあいかわらず絶好調。
肉感たっぷりのファットな歌声にホレボレします。
今回新味を感じたのが、3曲目の ‘God Bless Nigeria’。
トラップ・ドラムやトーキング・ドラムのアンサンブル不在で、
バック・トラックがウチコミとシンセのみで作っているんですね。

ウチコミは明らかにアフロビーツのセンスのビートメイキングで、
そこにジュジュ/フジ特有のシンセを絡ませ、
アフロビーツ時代に対応したフジを生み出しています。
ひと昔前なら、トーキング・ドラム・アンサンブルが不在で、
ウチコミのフジなんて、サイテーのひとことで終わった気がしますけれど、
ジュジュのサウンドに接近してきたフジが、フジのアイデンティティを保ちながら、
アフロビーツ時代にも対応できるサウンドを獲得したと実感できる曲です。

この曲を聴いて、フジのアイデンティティは、
パーカッション・アンサンブルばかりじゃなくて、
強力なコブシにあるんだってことを、あらためて再認識させられましたよ。
今回こうしたプロダクションはこの1曲だけでしたが、
アフロビーツ時代に更新していくフジのサウンドとして、この方向性はありですね。
もちろんそのためには、鍛えられたフジ声によるコブシ回しあってこそですけれど。

Alhaji Wasiu Alabi Pasuma "LEGENDARY" Roll Model Entertainment no number (2022)
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アシッド・ジャズ・マナーのアフロ・ジャズ・ファンク デレ・ソシミ [西アフリカ]

Dele Sosimi and The Estuary 21  THE CONFLUENCE.jpg

15年の前作では、正統派アフロビートを聞かせていたデレ・ソシミでしたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-06-11
メンバーを一新した8年ぶりの新作は、だいぶ方向性が変わりましたね。
アフロビートに軸足を置きつつも、
ぐっとジャズ・ファンクへ寄せたサウンドになっています。

エスチュアリー21という2管入りの7人編成のグループは、
エセックスのインディ・ロック・シーンで活躍する、
サム・ダックワースを中心に集められたとのこと。
「ゲット・ケイプ。ウェア・ケイプ。フライ」という長ったらしいステージ・ネームが
クレジットされていますが、それがサム・ダックワースのことで、ギターとシンセを担当。
デレとサムは2012年のフェラブレーションで出会い、
それ以来コラボレーションを続けてきた仲だそうです。

全6曲中4曲はヨルバ語で歌われていて、2曲が英語曲。
英語曲は、モータウンの70年代ソウルを思わせる都会的なアレンジが施されていて、
スノウボーイが1曲でフィーチャーされています。
それでな~るほどと思いましたけれど、
本作の生演奏のヴァイブスって、初期のアシッド・ジャズだね。

ヨルバ語で歌われる4曲は、アフロビートとヨルバ・ファンクの折衷。
リジー・ドスンムという女性歌手が、いい味を出しています。
名前からしてナイジェリア系のようですね。
収録時間わずか21分弱のミニ・アルバムで、
各曲とも3分前後の短尺で仕上げられていますが、
ライヴで長尺ヴァージョンを体験してみたいものです。

Dele Sosimi and The Estuary 21 "THE CONFLUENCE" Wah Wah 45s WAHCD041 (2023)
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カーボ・ヴェルデのリズム・カクテル ミロカ・パリス [西アフリカ]

Miroca Paris  D’ALMA.jpg

カーボ・ヴェルデの旧作を、もう1枚発掘。
リスボンを拠点に活動しているマルチ奏者、ミロカ・パリスのデビュー作です。
セザリア・エヴォーラのバンドで、11年間パーカッションを担当、
リスボンに移住したマドンナとツアーをするなど、数多くのアーティストと共演し、
リスボンのルソフォン・ミュージック・シーンで活躍するミュージシャン。

手元のCDをチェックしてみると、サラ・タヴァレスの
“BALANCÊ” “XINTI” “FITXADU” の3作や、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2009-08-03
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-12-15
ルーラの“DI KORPU KU ALMA”“ECLIPSE”、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-10-01
ナンシー・ヴィエイラの “LUS” のほか、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-08-04
アンゴラのキゾンバ・シンガー、アリーの“CRESCIDA MAS AO MEU JEITO” など、
ヘヴィロテした愛顧盤に、ミロカがパーカッションでクレジットされていました。

ミロカ・パリスの本名は、アデミロ・ジョゼ・パリス・ミランダ。
パリスという名に、ん?と思ったら、やっぱりティト・パリスの甥っ子だそうです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-01-12
79年ミンデーロの生まれで、セザリア・エヴォーラのバンドに参加したのは、
ティト・パリスの引き立てがあったんでしょうね。

長く裏方を務めていたミロカが、
シンガー・ソングライターとして表舞台に立った本デビュー作では、
自身が弾くナイロン弦ギターを中心に、アクースティックな音作りで、
コラデイラやフナナーなどのカーボ・ヴェルデのリズムに、
アンゴラのセンバやブラジルのサンバなど、
ルソフォン・ミュージックのリズム・マスターの才が光ります。

バックには実力派のミュージシャンが揃い、トイ・ヴィエイラのギターに、
ディノ・ディサンティアゴがバック・コーラスで参加しています。
コンテンポラリーに寄せたサウンド作りがうまく、
バンドリン、トランペット、オーボエといった楽器の起用もツボにはまっていますねえ。
フェローを効果的に使っているところは、カーボ・ヴェルデのパーカッショニストならでは。
フナナー・メドレーでは、管楽器やロック・ギターも取り入れ、
ドラマティックな演出でポップに仕上げるところは、スキルあるなあ。

少しヒビ割れた声でやるせなく歌うメロウな歌い口には、少年の面影もあって、
シンガーとしてもなかなか魅力のある人。
クレオールらしい哀歓のあるソングライティングも申し分なく、
カーボ・ヴェルデのリズム・カクテルを楽しめる一枚となっています。

Miroca Paris "D’ALMA" Miroca Paris Production MPPCD001 (2017)
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未配給で気付かれないカーボ・ヴェルデの才能 ネウザ [西アフリカ]

Neuza  BADIA DI FOGO.jpg

昔はセザリア・エヴォーラ、今はマイラ・アンドラーデと、
世間で評判になる(=業界が話題にする)カーボ・ヴェルデの歌手は、いつもピント外れ。
本当に魅力のあるカーボ・ヴェルデの歌手には、
ちっとも焦点が当たらないんだから、イラ立たしい限りなんですが、
昨年のルシベラの新作は、静かな評判を呼んでいるようで、嬉しくなりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-07-12

ルシベラのような、どこまでも自然体で飾らない、控えめな歌い手に、
ジャーナリスティックな関心が集まるはずもなく、
マーケティングの対象になることもないので、
誰にも気付かれないままとなりかねません。
そんな知られざる、良い歌い手に光を当てるのが、
当ブログの役目でもあるわけですけれど、
そんな after you 好みの歌手を、また一人見つけちゃいましたよ。

それが、アメリカ在住カーボ・ヴェルデ人歌手のネウザ。
85年サンティアゴ島、プライア生まれで、86年生まれのルシベラのひとつ年上。
13年にデビュー作を出し、ぼくが見つけた2作目は18年作だというのだから、
5年も気付けずにいたわけですね。それもそのはず、
本作はアメリカのカーボ・ヴェルデ移民コミュニティ制作のインディもの。
こういうアルバムは、コミュニティ外にまったく流通しないから、知る由もありません。
デジタル・リリースはされていますが、
CDは、ライヴ会場などで手売りする分しか作らなかったんじゃないかな。

ギター、カヴァキーニョ、ベース、コーラスを担当するカク・アルヴェスがアレンジ。
ヴァイオリンにキム・アルヴィスも参加していて、サックスのトティーニョもいます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-02-26
プライアで録音、パリでミックスするという、しっかりとした制作で、
ルサフリカあたりが配給すれば、ルシベラと同様、
インターナショナルに十分通用する作品なのに、ああ、もったいない。

本作でネウザは、さまざまな作曲家から提供された曲に作詞をしています。
5歳の時に亡くなった歌手の母親にオマージュを捧げた ‘Izilda’、
学校へ行かせてもらえず、水汲みに何キロも歩く家事労働をさせられ、
ボーイフレンドができないような髪型を強制され、
従わなければ体罰を奮われる女の子の物語 ‘Barra Pó’、
幼い頃のいじめの体験を吐露した ‘Badia Di Fogo’ など。

このタイトル曲では、家族がフォゴ島から移住してきたために、
ネウザが話すフォゴ島訛りのクレオールを笑われたという、
幼い頃の悔しさを題材に、フォゴの文化を讃えているそうです。

モルナやコラデイラにフォゴ島のリズム、タラバ・バシュなども交えて歌った10曲、
アコーディオンの響きが、ネウザの柔らかな歌声を引き立てます。
ルシベラを気に入った人に、ぜひ聴いてほしいな。

Neuza "BADIA DI FOGO" Harmonia no number (2018)
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グローカルに立ち返って キング・アイソバ [西アフリカ]

King Ayisoba  WORK HARD.jpg

おぉ、これはグリッタービート、ひさびさの快作じゃないですか。
近年のグリッタービートの作品は、プロデュースの姿勢に首をかしげるものが多くて、
キング・アイソバの新作が、前作同様グリットビートというのに、
正直、かなり警戒していたんです。

でも、これは充実作。
前作では、リー・ペリーやオーランド・ジュリウスを起用するという、
アイソバにどういう意義があるのか意味不明なコラボをしていましたけれど、
今回はアイソバのホームグランドでじっくりと制作して、成功しましたね。

ポスト・パンク・バンド、ジ・エックスのギタリスト、アーノルド・デ・ボーアが
前作に続きプロデューサーを務め、存在感のあるギターを弾いて効果を上げていますが、
今作の成功の立役者は、プログラミングのフランシス・アヤムガでしょう。

アイソバのコロゴを中心とする打楽器や笛、ラッパのアンサンブルと、
アヤムガによるビートメイキングとの絡みが、各段に向上しましたね。
コロゴの野趣な味わいを、プログラミングによって強化していて、
アヤムガ、いい仕事をしています。

こうした有機的なビートメイキングが功を奏しているからこそ、ラスト・トラックのような、
トーキング・ドラム・アンサンブルと笛によるフォークロアそのままのサウンドから、
コロゴのなまなましいエネルギーが、より実感できるアルバムづくりとなっているんですね。
ドラ声をはじめとする多彩な声音を駆使するアイソバの芸風も磨きがかかって、
シャーマニックな声の交叉が、いっそうスリリングに聞こえますよ。

King Ayisoba "WORK HARD" Glitterbeat GBCD134 (2023)
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トーゴのアフロ・ファンカー復活 ロジャー・ダマウザン [西アフリカ]

Roger Damawuzan  SEDA.jpg

70年代のトーゴを代表するアフロ・ファンカーで、
「トメのジェイムズ・ブラウン」の異名を取ったロジャー・ダマウザンが新作をリリース!
トーゴ・オール・スターズにフィーチャリングされたり
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-10-06
ラッパーのイロム・ヴィンスのアルバムに客演したりしていたので、
カムバック作が期待できるかとは思っていましたが、ついに出ましたねえ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-13

アフロ・ファンクのレア・グルーヴを掘っているフランスのレーベル、ホット・カサが、
ロジャーの70年代録音をコンパイルした2枚組LPを制作しましたが、
ベニンのバンド、レ・ア・デュ・ベナンをバックにしていたことから、
ロジャーを「ベニンのジェイムズ・ブラウン」などと、
勘違いして書いているテキストが散見されるのは、遺憾千万。
ロジャーは、52年に、かつて奴隷貿易の基地だったトーゴ南部の港湾都市
アネホに生まれた生粋のトーゴ人なので、そこんところヨロシク。

カムバック作をプロデュースしたのは、ロジャー・ダマウザンの甥っ子の、
ヴォードゥ・ゲーム率いるピーター・ソロ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-12-24
サックス、トランペット、トロンボーンの3管を配し、リズム・セクションには
ヴォードゥ・ゲームのメンバーも加わって、ロジャーをエスコートしています。

ロジャーはガゾの王とも称され、トーゴの伝統リズム、ガゾをファンク化しただけでなく、
アクペセやカムなど、さまざまなダンス・リズムを現代化した立役者で、
本作でもそうしたリズム処理がされていると思われます。
ぼくはそのリズムの詳細を知らないので、聴き分けることができないんですが。

なにより、ロジャーの歌いっぷりがスゴイ。
70歳を超す年齢をまったく感じさせない、
全身全霊を叩きつけてくるシャウトに圧倒されます。
このエネルギー、ハンパないすね。まさしく咆哮ですよ。
しゃがれ声が醸し出す、苦み走った味もたまりませんねえ。

タイトルの seda とは、ロジャーの母語であるミナ語で listen。
つまりは、クレイジーケンバンドの「俺の話を聞け!」みたいな感じでしょうか。
録音がクリーンで、ボトムの薄いミックスが、ちょっともったいないというか、
もっとローファイな録音にしたら、迫力が倍加したんじゃないかとも思うんですけど、
まずはヴェテラン・ファンカーの復活に、拍手喝采です。

Roger Damawuzan "SEDA" Hot Casa HC76 (2023)
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ティジャニ・コネに捧ぐ ソロマン・ドゥンビア [西アフリカ]

Solomane Doumbia  SÉGOU TO LAGOS.jpg

ジャケット中央にデザインされた、サックスを首から下げてトランペットを吹く人物は、
マリ音楽史に残る名門バンド、レイル・バンドを創立したティジャニ・コネ。
この写真は、ベニンのT・P・オルケストル・ポリ=リトゥモと共演した
77年のアルバリカ・ストア盤のジャケットから取られたもので、
この激レア盤を知るマニアには、なかなかにドキリとさせられるデザインであります。

思わずジャケットをのぞき込むと、
アルバムの主役、ソロマン・ドゥンビアが、右下隅にちっちゃく載っていますよ。
ソロマン・ドゥンビアとは、サリフ・ケイタのバンドで長年パーカッションを務めた人。
サリフとはアンバサデュール時代からの古い付き合いで、
サリフのソロ・アルバムのほぼすべてに参加しています。

本作ではソロマンと名乗っていますが、
アンバサデュール時代は、ソロ・ドゥンビアとクレジットされており、
サリフのソロ・アルバムでは、スレイマン・ドゥンブヤ、スレイマン・ドゥンビアなど、
ざまざまな名前でクレジットされていました。

そのソロマンがティジャニ・コネにオマージュを捧げた本作は、
ンゴニを中心としたアクースティックな音作りのレトロなマンデ・ポップで、
いまどき珍しいオールド・スクールのスタイルながら、
最近はこうしたサウンドがすっかり聞けなくなっていただけに、頬が緩みます。

ソロマンは、作編曲とギターを弾いていて、クレジットはありませんが、
控えめなキーボードや打ち込みも、おそらくソロマンによるものでしょう。
リズム・アレンジが多彩なのは、パーカッショニストらしい手腕ですね。
タイトル曲のみンゴニ不参加の、マンデ流儀のアフロビートとなっています。

フィーチャーされた二人の歌手は、おそらくグリオ出身者と思われ、
どちらもサビの利いた素晴らしいノドを披露しています。
ドラムスにソンゴイ・ブルースのナサナエル・デンベレ、
サックスとトランペットに、70年代マリ音楽のトリビュート集を出したベルリンの
ブラス・オーケストラ、ジ・オムニヴァーサル・イヤケストラのメンバーが参加しています。

ソロマンがオマージュを捧げるティジャニ・コネは、
26年セグー近郊のサンサンディングでグリオの家系に生まれた音楽家。
ンゴニやパーカッションを演奏し、やがてジャズに興味を持ち、
サックスとトランペットの奏者として名を馳せました。
マリ国営鉄道が経営するビュフェ・ホテル・ド・ラ・ガールの専属バンドの設立を託されて、
70年にレイル・バンドを結成。当初は歌手が不在だったことから、
ティジャニは、ニジェール川のほとりで安物のギターを弾きながら歌っていた、
アルビノの若者を雇おうと考えます。

それが、サリフ・ケイタなのでした。
当時のサリフは、教師になる夢に破れ、
バマコの市場で寝泊まりするホームレスに身をやつしていましたが、
人前で歌うのは、貴族の家柄を汚すことになると、ティジャニの誘いを断ります。
それでもティジャニは諦めず、その後も何度もサリフを熱心に口説き、
ついにレイル・バンドのリード・シンガーとなったのでした。
ティジャニの熱心なリクルートがなければ、サリフはバマコの乞食として、
生涯を終えていたかもしれません。

70年7月、レイル・バンドがサリフ・ケイタを迎えて初のパフォーマンスをしたときは、
サリフはバス・タオルで姿を隠して歌ったという伝説が残っていますが、
サリフの評判はすぐに広まり、レイル・バンドは一躍トップ・バンドになります。

本作のタイトルは、
ティジャニがマリとナイジェリアの架け橋となっていたことを示唆するもので、
じっさいマリでアフロビートを最初に演奏したのは、レイル・バンドでした。
77年にナイジェリアのレゴスで開催されたフェスタック77に、レイル・バンドは招かれ、
ティジャニはこのとき、フェラ・クティのカラクタ共和国も訪れますが、
大勢の妻と暮らすフェラの生活ぶりや、
メンバーが四六時中飲酒するコミューンの日常には、がっかりしたようです。

African Scream Contest.jpg

ティジャニはレゴスからの帰途、ベニンのプロモーターの誘いにのって、ベニンへ赴き、
T・P・オルケストル・ポリ=リトゥモとレコーディングをします。
これが冒頭話題にしたアルバリカ・ストア盤で、
A・B面1曲ずつのアフロビートをやっています。
A面の‘Djanfa Magni’は、アナログ・アフリカ盤 “AFRICAN SCREEN CONTEST” で、
ヴァージョン違いの短縮版を聴くことができます。

Tidiani Kone.jpg

ティジャニ名義のアルバムはごくわずかしかありませんが、アルバリカ・ストア盤より
重要なのが、亡くなるわずか前に録音された “DEMELI” です。
クリオ歌手をフィーチャーし、ティジャニはサックス、ンゴニ、ギターを演奏して、
伝統的なグリオ音楽に回帰した作品です。
ソロマンがオマージュを捧げた本作とともに、聴いてみてほしい作品です。
サブスクにもあるので、ぜひ。

Solomane Doumbia “SÉGOU TO LAGOS” Mieruba MRB-ML01-018 (2022)
Orchestre Poly-Rythmo, Les Volcans, El Rego Et Ses Commandos, Black Santiago, Discafric Band and others
"AFRICAN SCREAM CONTEST: RAW & PSYCHEDELIC AFRO SOUNDS FROM BENIN & TOGO 70S" Analog Africa AACD063
Tidiani Kone "DEMELI" Africa Productions/Mélodie LJAM01038-2 (2001)
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バンバラ・ロック・フロム・オークランド オーケストラ・ゴールド [西アフリカ]

Orchestra Gold  Medicine.jpg

カリフォルニアのオークランドから、すんごいアフリカン・バンドが登場!
その名もオーケストラ・ゴールド。といっても7人しかいないんだけど。
ユーカンダンツに続いて、サックスをブリブリ鳴らすバンドに、気分は爆アガり。

いやぁ、コレ、音だけ聞いたら、マリのバンドとしか思えないよなあ。
ヴォーカリストをのぞいて、全員アメリカ人(たぶん)のバンド。
70~80年代のシュペール・ビトンをホウフツさせる、
サイケなサウンド処理に、泡吹いたわ!

重量感たっぷりのリズム・セクションに、
バリトンとテナーの2サックスを擁したオーケストラ・ゴールドは、
マリアム・ジャキテというマリ人女性ヴォーカリストをフロントに立て、
バンバラ特有の5音音階を強調した、ダイナミックなアフロ・ロックを聞かせます。

いったい、どういうバンドなのかと思ったら。
オークランド在住ギタリストのエーリッヒ・ハフェーカーが、
メールで交流をしていたマリのシンガー、マリアム・ジャキテと
15年にマリのセグーへの旅で初対面を果たし、
デモ録音を実現したのが、始まりだったといいます。

18年にマリアムがオークランドにやってきて、オーケストラ・ゴールドが結成され、
70年代のバマコのナイトクラブに足を踏み入れたようなサウンドを
本格的に目指したといいます。エーリッヒが目論んだとおり、
その泥臭いバンバラ・ロックに、ノック・アウトを食らいましたよ。

なんといっても、マリアムの臭みたっぷりのヴォーカルが白眉ですね。
これぞバンバラといった味わいをまき散らしてくれます。
反復フレーズを繰り返すエーリッヒの太い音色のギター・リフも、
よくマリ音楽を研究しているし、カリニャン(金属製ギロ)を使って
粘っこいリズムを生み出すハチロクのグルーヴは本格的で、
往年のマンデ・ポップへのリスペクトが伝わってきます。

ラストのマリアム抜きのインスト・ナンバーが、
ラテン・スタンダードの「テキーラ」というのもふるってます。
オークランドのバンドらしくって、いいじゃない。
ヘヴィー級ローファイ・サウンドが痛快な一作です。

Orchestra Gold "MEDICINE" no label no number (2022)
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アフロビートからアフロクラシックビートへ ムイワ・クンヌジ [西アフリカ]

Muyiwa Kunnuji & Osemako  A.P.P..jpg

フェラ・クティ最晩年のエジプト80に加入したトランペット奏者、ムイワ・クンヌジ。
フェラ・クティ存命中に録音は残せなかったようですけれど、
エジプト80を引き継いだシェウン・クティのデビュー作と2作目に、
ムイワの名前がクレジットされていて、シェウンとともに来日もしています。

15年近く在籍したエジプト80をやめ、
ムイワ・クンヌジは14年にフランス人の仲間とともに、
自己のバンド、オセマコを結成し、活動を始めました。
今回出た2作目で、ぼくは初めてムイワ・クンヌジの存在を知ったんですけれど、
すでに6年前、16年にデビュー作を出していたんですね。

バックアップ・ヴォーカルの女性を除き、メンバーは全員白人ですが、
本格的なアフロビートを繰り広げていて、
さすがバンマスがエジプト80で鍛えられただけのことはあります。

ムイワは、オセマコで目指すサウンドについて、
アフロクラシックビート AfroClassicBeat を標榜しており、
フェラ・クティ直系のアフロビートを軸に、ハイライフやジュジュ、
さらに南アのマラービや、コンゴのルンバを取り入れていると語っています。

それは、今作のオープニング曲 ‘Bro Hugh’ にはっきりと打ち出されていて、
いきなり飛び出すホーン・リフはマラービなのに、メロディはハイライフという不思議さ。
ブレイクをはさんでスークースのギター・リフとともに、曲が進行します。
アフロビートはウッド・ブロックが刻むリズムに、かろうじて痕跡があるかなといった案配。
あまたあるアフロビート・バンドからは、
ちょっと聴くことのできないユニークなアレンジですねえ。

2曲目の‘Oshelu’ は、ど直球のアフロビートながら、
2台のギターの絡みや、ヴィブラフォンとの絡みなどに、
ジュジュの影響がうかがえますね。
4曲目の‘Recipe Of Death’ のムイワの歌い口にも、
ジュジュのエッセンスを感じさせます。

驚いたのは、‘G.O.A. (Giant Of Africa)’。
この曲は、シェウン・クティの“FROM AFRICA WITH FURY: RISE” の
LPのみに、ボーナス・トラックとして収録されていた曲。
CDには未収録で、2枚組LPの最終トラック、D面2曲目に入っていた曲です。
あの曲がムイワ・クンヌジ作だったとは、知らなかったなあ。

新たにアフロビートの可能性が切り拓かれたのを
実感させられるアルバムで、今後の展開も楽しみです。

Muyiwa Kunnuji & Osemako "A.P.P. (ACCUMULATION OF PROFIT & POWER)" OfficeHome OH005CD (2022)
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豪快なヨルバ・ファンク アデデジ [西アフリカ]

Adédèjì  YORUBA ODYSSEY.jpg

おぉ、新作はだいぶサウンド・カラーを変えてきたなあ。
前2作は洗練されたジャジー・ポップで、ヨルバ・メロウネスとでも
形容したくなるサウンドを聞かせてくれたアデデジですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-10-22
新作は、ゴツいジャズ・ファンクを前面に打ち出して、
ラフでタフなサウンドをアルバム全編で展開しています。

アフロビーツのシーンとは異なるフィールドで活躍するナイジェリアの新しい才能、
アデデジの新作は、デンマークの新興レーベル、ワン・ワールドからのリリース。
『ヨルバ・オデッセイ』とは、含蓄のあるタイトルを付けたもんです。
ヴィクター・オライヤ、フェラ・クティ、サニー・アデ、エベネザー・オベイなどなど、
数多くのナイジェリア人アーティストたちが録音したレゴス伝説のスタジオ、
アフロディジア・スタジオにおもむき、わずか3日間で仕上げていて、その後、
アデデジが拠点とするギリシャ、アテネで、ポスト・レコーディングを行っています。

アフロビートの ‘Oruku’ から、アルバムはスタート。
粘着質な反復リフがなんかエロくって、ユニークな曲。
フェラ・クティのトリックスターなキャラクターが憑依したかのような、
アデデジのヴォーカルもいい。おかげで、いきなり冒頭からアガる、アガる。
このオープニングだけで、これまでの作品とはガラッと違うのが印象づけられます。

2曲目からは怒涛のアフロ・ジャズ・ファンク責め。
リズム・セクションとホーン・セクションが一体となったグルーヴ感が、
息つかせぬイキオイで迫りくるので、心臓バクバクもんですよ。
‘Ojeje’ では、リズム・セクションにホーン・セクション、そしてコーラス隊が
くんずほぐれつする間を縫うように、アデデジがジャズ・マナーなギター・ソロを弾きます。

やっと一息入れられるのは、テンポを落とした5曲目の‘Lagos Blues’。
女性コーラスがゴスペルを思わせ、アデデジの歌いぶりにも、
説教師のようなニュアンスが感じられる曲です。
アデデジはレゴスの教会の聖歌隊で歌い始め、
10歳で聖歌隊のリーダーを務めているので、ゴスペルが基礎にあるんだろうな。
この曲でも、アデデジはウェス・モンゴメリーふうのギターを弾きまくっています。

‘Ololufe Mi’ はヨルバ・ハイライフ、‘Ayinla’ はジュジュですよね。
‘Ayinla’ は、トーキング・ドラムとパーカッション陣によるイントロに始まり、
リズム・ギターとホーン・セクションがジュジュのリズムをリードします。
やがて複雑に入り組んだリフをコーラスが歌い、
ドラムスがフィルを入れまくるというアレンジ。
こんなカッコいいジュジュ、初めて聴くなあ。一転、トランペットがソロをとると、
ぐっとジャジーになったりと、その曲構成は実にユニークです。

King Jossy Friday.jpg

曲のほとんどはアデデジの自作曲ですけれど、他人の曲を2曲カヴァーしていて、
1曲がキング・ジョシー・フライデーの‘Gbanja’。
キング・ジョシー・フライデーは、オグン州のヨルバのサブ・グループ、
エバド(イェワ)人の音楽ボロジョを、現代化したギタリストです。
ぼくもボロジョの音楽家は、キング・ジョシー・フライデー一人しか知らないので、
ボロジョの実態をよくつかめていないんですが、アデデジが取り上げるとは意外でした。

もう1曲が、なんとアパラの巨匠、ハルナ・イショラの‘Ori Ni’。
アパラを取り上げるとはビックリなんですけど、ホーン・セクションも入って、
ちょっとアパラには聞こえないサウンドに変貌しています。
こんなカヴァー曲のセレクトからも、『ヨルバ・オデッセイ』の深淵が伝わってきますね。

ンバクァンガみたいなギターで始まるラスト・トラックの‘Tales of Agege’ まで、
これまでどんなヨルバの音楽家も成し得なかったユニークな音楽を、
アデデジはクリエイトしていて、あらためてその才能に感服しました。

Adédèjì "YORUBA ODYSSEY" One World AAONE2022 (2022)
[10インチ] King Jossy Friday & His National Toppers Band "WESTERN STATE SPECIAL" Philips West African 6386.012
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