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ずばり、モルナ マリアーナ・ラモス

Mariana Ramos  MORNA.jpg

ディノ・ディサンティアゴの革新的なサウンドのあとでは、
旧態然とした保守本流のサウンドに聞こえてしまうのは、ややブが悪いですけど、
これはこれでカーボ・ヴェルデ音楽王道のサウンド、悪かろうはずがありません。
6作目を数えるマリアーナ・ラモスの新作は、タイトルそのものずばりの、
モルナに焦点を当てたアルバムです。

マリアーナ・ラモスを聴くのは、10年の“SUAVIDANCA” 以来なんですが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-05-25
15年に1枚アルバムを出していたんですね。
そちら“QUINTA” は、聞き逃しちゃったなあ。

カーボ・ヴェルデの潮騒に人生の哀歓をのせて歌う島の情歌、モルナを歌うのに、
いままさに旬ともいえるマリアーナ・ラモス。円熟の歌声を聞かせてくれますよ。
いやあ、いい歌い手ですよねえ。
なめらかな歌声に、柔らかな節回し。自然体で歌う無理のない歌いぶりが、
メランコリックなモルナの秘めやかな味わいを、静かに伝えます。

マリアーナがモルナにチャレンジするのは、実はこれが2作目。
08年にも“MORNADOR” というアルバムを出していますけれど、
モルナにしては派手目のカラフルなあのアルバムに比べると、
今回はぐっと落ち着いた、モルナらしいシブイ作品になりました。
マリアーナもぐっと肩の力が抜けた歌いぶりに変わっています。

音楽監督とアレンジはトイ・ヴィエイラ。
セザーリア・エヴォラはじめ、ティト・パリス、ルーラほか
数多くのカーボ・ヴェルデ歌手のバックを務めてきた才人で、
ピアノ、ギター、カヴァキーニョ、ギター、ベース、ハーモニカを演奏するマルチ奏者です。
90年代からカーボ・ヴェルデ音楽のサウンドを担ってきた、
職人的なスタジオ・ミュージシャンですね。

そんなトイが作り出す、鉄板ともいうべき王道のサウンドにのせて、
ソダーデ溢れる島の歌謡音楽モルナをたっぷり堪能できます。

Mariana Ramos "MORNA" Casa Verde Productions 171739 (2020)
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リスボン新世代が更新するカーボ・ヴェルデ音楽 ディノ・ディサンティアゴ

Dino D’Santiago  MUNDU NÔBU.jpg   Dino D’Santiago  EVA.jpg

ブルーノ・ペルナーダスやルイーザ・ソブッルなど、
ポルトガル音楽新世代と称される音楽家の活躍が目立つようになってきましたね。
82年にポルトガル最南端のクァルテイラで生まれたシンガー・ソングライター、
ディノ・ディサンティアゴも、そうした世代のひとり。

そのディノの5年ぶり2枚目となる新作が、ぼくには静かなる衝撃作でした。
派手さのない地味な作品なんですけれど、
従来のカーボ・ヴェルデ音楽を塗り替える、ハイブリッドな要素をたくさん提示していて、
聴けば聴くほど、これはたいへんなアルバムなんじゃないかと、思えてくるのでした。

ディノ・ディサンティアゴは、カーボ・ヴェルデのサンティアゴ島出身の両親のもとに
生まれたアフロピアン。90年代のヒップ・ホップで育った世代らしく、
「ディノ・ソウルモーション」のステージ・ネームで、ヒップ・ホップ/R&Bバンドの
イクスペンシヴ・ソウル&ジャグアル・バンドのシンガーとしてプロ入りし、
ヒップ・ホップ・グループのダ・ウィーゾルのシンガーとしてその名を上げました。

ディノは当時を振り返って、90年代のリスボンのヒップ・ホップ・シーンには
ラッパーは山ほどいても、歌えるシンガーが不足していて、
ディノはあちこちのグループから引っ張りだこになっていたそうです。
子供の頃から教会の聖歌隊で歌っていたディノは、
ラッパーたちと同じゲットーの出身という仲間意識もあって、
歌手を必要とするラッパーから「教会からディノを連れて来いよ」と、
いつもお呼びがかかったとのこと。

そんな「ソウル・マン」だったディノが、
ルーツであるカーボ・ヴェルデへ回帰するきっかけとなったのは、
両親の故郷のサンティアゴ島へ、父親と旅をしたことでした。
ポルトガルで40年暮らした父親が、仕事をリタイアして、
電気も水道もないサンティアゴ島の田舎に帰って暮らしたいと言い出し、
父親に付き合って一緒にサンティアゴ島へ渡ったそう。
ディノはその旅を通して、自分の内なるクレオール性を発見し、
自分が持っていた本来の声を見出したと言います。

ディノはリスボンに戻ると、すぐさま「ディノ・ディサンティアゴ」と名前を改め、
ソウルにファンク、フナナーにバトゥク、ヒップ・ホップにエレクトロを調和させる
サウンドづくりに熱中しました。13年に出したソロ・デビュー作が、
まさにその成果を示すものだったわけなんですが、今回の新作で思い出すまで、
実はこのデビュー作、家のCD棚のこやしになっていたんでした。

あらためて聴き直してみると、以前はカーボ・ヴェルデ音楽の濃度の低さに、
物足りなさを覚えたんですけれど、ネライがヒップ・ホップやR&Bを通過したセンスを
取り入れることにあったと考えると、聞こえ方がまったく変わってきます。

パウロ・フローレスとデュエットした哀愁味たっぷりの‘Pensa Na Oi’ は、
センバとモルナのミックスだし、フナナーのリズムを思いっきり遅くして、
アコーディオンとカヴァキーニョが彩りを添えた‘Kaminhu Poilon’ など、
実にさまざまなアイディアが散りばめられていたんですね。
うわぁ、ぜんぜん聴き取れてなかったなあ。こりゃ、大反省。

カヴァキーニョのせつない響きと男女の柔らかなコーラス、
バトゥクのチャンペータのリズムにフナナーのフェローを重ねた‘Ka Bu Txora’では、
エンディングに老人たちの会話をコラージュするなど、
びっくりするほど練り込んだ仕上がりとなっています。
フリューゲルホーンとギターのデュオで歌ったタイトル曲‘Eva’ の
ソダーデたっぷりな泣き節にも、あらためて感じ入りました。

新作は、そんなデビュー作を一歩も二歩も前進させた内容で、
今回はエレクトロニカの要素を多く取り入れ、
フォークトロニカのセンス溢れる作品となっています。
クドゥロ/EDM・ユニットで一世風靡したブラカ・ソム・システマの
元メンバー2人が参加している影響もあり、ドイツやイギリスで交流した音楽家との
出会いが今回の音楽制作に大きく関わっているようです。

ナイーヴな感性が発揮されたソングライティングは、デビュー作と変わらず、
本作ではキャッチーなメロディが増え、デビュー作の地味な印象が取り払われましたね。
ポルトガル語圏アフリカのさまざまな音楽を参照して、キゾンバとのミックスが増えたほか、
フナナーの速いリズムをわざと遅くする試みも、R&Bのスロー・ジャムのセンスに仕上げた
‘Nôs Funaná’ で聴くことができます。

「ブラカ・ソム・システムは、新しいリスボンのサウンドを生みだしたけれど、
ぼくらはさまざまなビートを組み合わせて、シンガーのためのサウンドに変換させたんだ」と
ディノが発言するとおり、カーボ・ヴェルデ音楽を更新するリスボン新世代の注目作です。

Dino D’Santiago "MUNDU NÔBU" Sony Music Entertainment 19075899292 (2018)
Dino D’Santiago "EVA" Lusafrica 662842 (2013)
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エチオピア歌謡の抒情 ハイル・メルギア

Hailu Mergia  YENE MIRCHA.jpg

現役復帰したエチオピア人鍵盤奏者ハイル・メルギアが、
オウサム・テープス・フロム・アフリカから復帰第2作となる新作をリリースしました。
前作“LALA BELU” は、ポーランド人ベーシストとオーストラリア人ドラマーとの
トリオ編成でしたが、今作はベーシスト、ドラマーともにメンバー交代し、
曲によりマシンコ、ギター、サックス、トロンボーン、ヴォーカルのゲストを加えています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-03-03

交代したベース、ドラムスの両人とも、
ワシントンDCを拠点に活動するミュージシャンとのことで、
同郷人なのかもしれませんね。
ドラマーのケネス・ジョゼフは、ルーツ・レゲエ・グループ、カルチャーの
02年のライヴ盤“LIVE IN AFRICA”で叩いていた人だそうです。

本作は、ハイルが弾くアコーディオンとゲストのマシンコが、
泣きのフレーズを奏でる哀愁味たっぷりのティジータからスタート。
前作はジャズ系ミュージシャンとの共演だったせいか、
エチオ・ジャズ色が強かったですけれど、
今回は歌謡色が強く、エチオピア歌謡のインスト版といった仕上がりになっています。

レゲエの‘Abichu Nega Nega’ は、ハイレのピアノが生ダブ感溢れるプレイをしていて、
引き込まれます。ドラムスはカルチャーのバックで叩いていただけあって、本格的です。
途中でフォー・ビートになって、ジミー・スミスばりのオルガンを聞かせる
‘Yene Abeba’ もグルーヴィですね。

テディ・アフロの出世曲となった‘Shemendefer’ をカヴァーしているのも、
歌謡色を強めた本作のハイライトでしょう。当時テディ・アフロは、
まだ改名前のテウォドロス・カサフンを名乗っていた頃でした。
大ヒットとなったこの曲のキャッチーなコーラス・パートを、
ゲスト・ヴォーカリストが歌っています。
アルバムの最後は、抒情味たっぷりのティジータで締めくくられ、
深い余韻を残す聴後感に満たされます。

Hailu Mergia "YENE MIRCHA" Awesome Tapes From Africa ATFA037 (2020)
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伝統クンビアのポリリズムに酔いしれる ロス・ガイテーロス・デ・サン・ハシント

Los Gaiteros De San Jacinto  TOÑO GARCÍA.jpg

電子音楽にうつつを抜かしていたら、
生音のパーカッションが爆裂する一枚に、ぶっ飛ばされてしまいました。

コロンビアはクンビアの老舗楽団、
ロス・ガイテーロス・デ・サン・ハシントのアルバムです。
もっともオーセンティックなスタイルの伝統クンビアを継承している名門楽団で、
太鼓の弾けるビートが生み出すグルーヴが、もう凄まじいんです。

タンボーラ、アレグレ、ジャマドールという大・中・小の太鼓に、
マラカスが絡み合うポリリズムは、単純な4分の2拍子を、
とてつもなく複雑なリズムに変貌させます。
複数のガイタ(縦笛)はメロディを奏でつつ、反復フレーズをループする
リズム楽器としての役割も担っているので、
とびっきりリズミックなサウンドになるんですね。
これぞ人力のパーカッション・ミュージックの醍醐味でしょう。

昨年の暮れ、6人組のソン・デ・ラ・プロビンシアのアルバムで
ひさしぶりに伝統クンビアを味わったばかりですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-12-03
あちらより楽団の人数も多く、迫力満点・野趣なクンビアの味を堪能できます。

全15曲77分超というヴォリューム感たっぷりの本作、
嬉しいのはフォークロアな伝統クンビアばかりでなく、歌謡化したクンビアも楽しめること。
アルバム終盤の2曲で、アコーディオンとエレキ・ベースが加わり、
ぐっと大衆歌謡寄りのクンビアをやっているんですね。
エレキ・ベースが♪ぶん・ぶん・ぶぱっ!♪と重く粘っこいグルーヴを醸し出し、
アクセントを付けているところなど、聴きものです。

Los Gaiteros De San Jacinto "TOÑO GARCÍA: EL ÚLTIMO CACIQUE" Llorona no number (2019)
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ジルベルト・ジル・ミーツ・エレクトロニック・ミュージック

Gilberto Gil  GRUPO CORPO.jpg

入退院を繰り返しているとのニュースに心配していたジルベルト・ジルでしたけれど、
18年に4年ぶりのアルバム“OK OK OK” を出してくれて、ホッとひと安心。
新作リリースまもなくレコーディングにとりかかっていた、
異色の新作がリリースされました。
「異色の」というのは、ダンス・シアターのためのサウンドトラックだからです。

そのダンス・シアターとは、75年に設立されたグルーポ・コルポ。
ダンスと演劇の境界を取り払って、従来のモダン・ダンスを超えた
新しい表現を求めるグルーポ・コルポは、
すでにミルトン・ナシメントやカエターノ・ヴェローゾとも
コラボレーションを重ねてきた、前衛的なダンス・シアターです。

今回、グルーポ・コルポの芸術監督パウロ・ペデルネイラスが
ジルベルト・ジルに依頼したプロジェクトは、
アフロ・ブラジリアン宗教音楽に根差したバイーアのアフロ・ブラジル音楽の要素を、
ダンスに反映させたもの。
そのものずばり“GIL” と題されたこのアルバムには、
1分弱から6分を超す長短含める16曲を収録。もちろん全曲ジルの自作です。

ジルはギターとスキャットなどのヴォイスで参加していて、
プロデュースはジルの息子のベン・ジルが担当。
もちろんエレクトリック・ギターも弾いています。
ドメニコ・ランセロッチがドラムス、パーカッションの生演奏のほか、
サンプラー/シーケンサーのMPCを駆使したサウンドを作っていて、
ダニーロ・アンドラージの鍵盤とともに、かなり電子音楽寄りのサウンドを構築しています。

そこにバラフォンを使ったインタールード的な短い曲が差し挟まれたり、
ショーロをベースとしながら、コズミックなスペイス・ミュージックへ反転するような
シアトリカルな曲など、なるほどダンス・シアターのサウンドトラックらしい曲が並びます。

いずれもエレクトロニックなサウンドに仕立てられているものの、
そのベースとなるのは、まぎれもなくバイーアのアフロ・ブラジリアン・ミュージックで、
ジルベルト・ジルの音楽性が存分に発揮されているんですね。

サウンドトラックという場を借りての実験的な試みは、旺盛な創作意欲の表われで、
ヴェテランにしてこの攻めの姿勢に、やっぱジルはスゴイと、感嘆するほかありません。

Gilberto Gil "GIL (TRILHA SONORA ORIGINAL DO ESPETÁCULO DO GRUPO CORPO)" Grupo Corpo GC22 (2019)
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エレクトロニック・ミュージック・ビギナー宣言 ティコ

Tycho  SIMULCAST.jpg

朝の通勤で絶賛ヘヴィ・ロテ中の長谷川白紙の『エアにに』。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-12-25
はや3か月を過ぎようとしていますが、交代の気配はまったくありません。
エレクトロニック・ミュージックにこれほどハマった経験がなく、
自分自身でもびっくりしてるんですが、このアルバムのどこにヤラれたかといえば、
一にも二にも、ビートの快楽につきます。

これまで電子音楽って、
鍵盤系の音がサウンドのカギを握っているとばかり思っていたのに、
長谷川白紙の場合、キックやスネア、シンバル、ハイハットといった
ドラムスのパーツやパーカッションの音がとびっきり新鮮で、
そこに猛烈に惹かれたんです。

エレクトロニック・ミュージックは完全に門外漢なうえ、
ハウスやテクノ方面の聴取体験も乏しいので、
類似の音楽は他にあるのかもしれませんが、
これほど選り抜かれた音色は、ぼくにとっては初体験で、
ビートの音色の美しさに心底ヤラれてしまいました。
金属的な響きのパーカッションが高速ではじけるサウンドなど、
トランシーなガムランを電子音楽にトレースしたかのようじゃないですか。

がぜんエレクトロニック・ミュージックに興味がわき出して、
評判の新作のなかから、ジャケットにココロ惹かれたティコを聴いてみました。
エレクトロといっても、かなりバンド・サウンドで、
ポスト・ロックの質感が強いのが少し意外だったかな。
なんせ門外漢なので、ティコの過去作はまったく聴いたことがないし、
ティコをよく知るファンには、トンチンカンな感想かも知れませんが。

衝撃的だった長谷川白紙のリズムの快楽は、ここにはありませんでしたが、
エレクトロの洗練されたサウンドは、オーガニックな質感があって、
開放的で柔らかな響きに夢心地にさせられましたねえ。
すっかり引き込まれていたところ、このアルバムは、
前作“WEATHER” のインスト・ヴァージョンだということを知り、
あわてて前作も買ってみたんですが、
ぼくはインスト盤の“SIMULCAST” の方が断然好きだな。

Tycho  WEATHER.jpg

メロディとハーモニーが精緻に練り上げられていて、
ヴォーカルがないぶん、サウンドがより雄弁になっているんですね。
クリアな音像と、たゆたうシンセ音が、美麗なサウンドスケープを描いていて、
豊かにレイヤーされたアンサンブルのなかでは、ヴォーカルではなくて、
ヴォイスとして組み込まれた方が、よりサウンドが立体的になっているのを感じます。

そんなわけで、これまた心惹かれる作品とめぐり合えたわけなんですが、
エレクトロニック・ミュージック・ビギナー宣言をして、
これからもぼちぼち聴いていこうかと思っている次第であります。

Tycho "SIMULCAST" Mom+Pop/Ninja Tune ZENCD260 (2020)
Tycho "WEATHER" Mom+Pop/Ninja Tune ZENCD257 (2019)
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レバノン発シンセ・ポップ イーサン・アル・ムンジール

Ihsan Al Munzer  BELLY DANCE DISCO.jpg

ビキニの女のコ(白人)が、浜辺でギターを手におどけたポーズをとるジャケット。
南米コロンビアあたりのレコードかと思いきや、
これがアラブのレコードだというのだから、オドロキ。
「ベリー・ダンス・ディスコ」なんてタイトルが、これまたパチもん臭い。
いかにもモンド盤(もう死語か?)くさいルックスなんだけど、
何か呼ばれるものがあってサンプルを聴いてみたら、これがなかなか面白い。

70~80年代にレバノンのポップス・シーンで、
作編曲家として活躍したイーサン・アル・ムンジール。
もともと60年代の頃から、ロックンロールの洗礼を受けてバンド活動を始め、
内戦時代にはイタリアで6か国語を駆使するピアノ弾き語りのワン・マン・ショウをしたり、
北欧でビート・グループを組んで活動していたという経歴の持ち主で、
70年代末になってレバノンへ帰国したと解説にあります。

その後、フェイルーズのオーケストラの一員に加わり、
アメリカ、オーストラリア、エジプトをツアーするほか、
ラギーブ・アラメ、マジダ・エル・ルーミー、ジュリア・ブトロスなど、
レバノンの人気歌手のアレンジャーとして引っ張りだことなり、
マエストロと呼ばれるまでになりました。

そんな当時、イーサン専属のスタジオにプロフェットを導入すると、
イーサンはそのシンセ・サウンドにのめりこみ、
アラブ歌謡に欧米のビート感覚を取り入れる企画を思いついたのだそう。
それがこの「ベリー・ダンス・ディスコ」になったわけですね。

イーサンの初アルバムとなった本作は、
アラブ歌謡の祖サイード・ダルウィッシュの曲や、
ファリッド・エル・アトラッシュ作曲のアラブタンゴ、
ラハバーニ兄弟作曲のアラブ歌謡に加え、アルメニア民謡や
トルコの「ウシュクダラ」など、アラブ周辺の音楽もレパートリーにしています。

イーサンは、ピアノにオルガン(どちらもカワイ製)、ソリーナ、ベースを弾き、
ドラムス、エレクトリック・ギター、カーヌーン、
バイオリン、ネイほかパーカッションの6人で演奏しています。

サウンドはタイトルがいうほどディスコ調ではなく、
アラブ歌謡をシンセでソフト・ロック化したといったところでしょうか。
さすが当時のアラブ歌謡の最前線で作編曲の腕をふるっていただけあって、
そのサウンドづくりは巧みで、パチもんの第一印象は吹き飛んだのでした。

Ihsan Al Munzer "BELLY DANCE DISCO" A. Chahine & Fils/Voix De L'Orient/BBE BBE528ACD (1979)
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トルコ古典声楽の100年 ディレク・チュルカン

Dilek Türkan  AN.jpg

ひさしぶりに素晴らしいトルコ古典歌謡を堪能しました。
いにしえの古典歌謡を現代に再現する歌手、ディレク・チュルカンの新作です。

ディレク・チュルカンは、カランのスタジオ・ミュージシャンが結集して
トルコの伝統歌謡を演奏するインストゥルメンタル楽団、インジェサスの
看板歌手として活躍した女性歌手。11年にカランからソロ・デビューすると、
13年にはインジェサスを脱退してソロ活動に専念。
その後ソニーへ移籍して15年にセカンド作をリリースし、18年に本作を発表しました。

過去の2作では、戦前歌謡のタンゴやラテンなどのレパートリーも含む
ノスタルジックなサナートを歌っていましたが、今作は古典歌謡を真正面から挑戦。
100年前のオスマン帝国時代の古典歌謡と、
現代に生まれた古典歌謡を繋いだ2枚組アルバムという力作です。

具体的には、2018年の13曲と1918年の13曲を、
それぞれ2枚のディスクに分けて歌っています。
1918年の方は当時の弦楽アンサンブルと同じ編成で、
2018年の方は、各種弦楽器にアコーディオン、ピアノ、ギター、
ベース、ドラムスに、アルト・サックス、クラリネット、
ファゴットなども加わった編成となっています。

2018年はさすがに伴奏もモダンだし、1918年のオーセンティックな弦楽奏とは、
かなり趣が違いますね。2018年の13曲は、いずれも曲の表情が柔らかく、
メロディもしなやかで自由さがあります。
それに対し1918年の13曲は、曲の形式の型がしっかりとあって、
メロディがキリっとしていますね。

そんなマテリアルも伴奏も異なる2枚のディスクですけれど、
ディレクの歌いぶりにはまったく差のないところに、
過去と現代の古典歌謡を繋いだ企画が、見事に生かされていると感じます。

ディレクのゆったりとした春風のような節回し、
その柔らかなメリスマのみずみずしさに、ウットリするばかりですよ。
わずかさえも力まず、無理のないスムースな歌い口が、
古典歌謡が持つ美しさを鮮やかに伝えています。

Dilek Türkan "AN" Columbia/Sony Music 19075828382 (2018)
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品質保証100%のフジ スレイモン・アラオ・アデクンレ・マライカ

Sulaimon Alao Adekunle Malaika  EXAMPLE.jpg

う~ん、絶好調だな、スレイモン。
もう今のフジは、この人だけ追っかけてれば、それで十分かなあ。
出る新作がどれもツブ揃いで、ハズレなしなんだから、
この品質保証ぶりは、フジ諸先輩たちの作品をはるかにしのいでいますよ。

20世紀に入ってからのフジは、粗製乱造がひどくなる一方で、
ワシウ・アラビ・パスマやサヒード・オスパといった人気シンガーの作品でさえ、
「アタリ」を見つけるまで、10枚近い「ハズレ」をつかまされる始末でした。
これじゃ、どんなファンも熱が冷めようというものです。

それこそアフロビーツと比べたら、プロダクションやレコーディングのクオリティは、
同じ国の音楽とは思えないほど違うしねえ。
これまで聴いてきたスレイモンの作品で、はっきり「ハズレ」と感じたアルバムはなく、
明らかにレコーディングに対する姿勢は、先輩たちより真摯な姿勢を感じます。

それは、作編曲・プロデュースのクレジットにスレイモン自身の名があることからも明らか。
フジの豪胆さと、メロディアスなソングライティングを両立させながら、
ボトムの利いたパーカッション・アンサンブルと
軽快な疾走感をあわせもつスレイモンのフジは、バリスターやコリントン、
K1・デ・アルティメット(ワシウ・アインデ・バリスター)の時代とは、
明らかにサウンドの質感が違います。

いや、もちろん違って当たり前なんですよ、
親子ほどの世代差なんだから。ところが、フジはある時点から、
進化がぴたりと止まってしまっていましたからねえ。

ヴォーカルとコール・アンド・レスポンスのコーラス隊、
パーカッション・アンサンブルそれぞれがサウンドの中でくっきりと立ち上り、
いずれのパートも前景にも後景にもならない緊密な関係が、
メリハリに富んだ構成を生み出しています。

ガラガラ声のスレイモンのコブシを要所要所で炸裂させながら、
グルーヴを巻き上げるパーカッション・アンサンブルに、
いつの間にか夢中にさせられてしまう、これぞフジの醍醐味じゃないですか。

シンセやギターなどのアンサンブルが登場する場面も要所だけに限り、
アクセントに徹しているところも、本来のフジのサウンドをジャマしていなくて、
好感が持てますねえ。
今作も大満足のスレイモンのフジでありました。

Sulaimon Alao Adekunle Malaika "EXAMPLE" Babalaje/Golden Point Music no number (2019)
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エチオピアン・コンテンポラリー・フォークロア ミキヤス・チェルネット

Mikiyas Cherinet  10 KE10 YEGEBASHAL.jpg

全14曲77分超って、どんだけ詰め込めば気が済むのかという感じですけど、
この長さを飽きさせず聞かせる実力は大したものです。
またも知らないエチオピアの若手男性シンガーのアルバム。
ミキヤス・チェルネットと読むんでしょうか。
YouTube をチェックすると、2010年代に入ってから出てきた人みたいです。

新作の1曲目がレゲエだったので、レゲエ・シンガーかと思いきや、さにあらず。
ライト・タッチなコブシ回しも鮮やかに、
エチオピア民俗色をたっぷりと薫らせた曲の数々を歌っています。

アクのない聴きやすい声質のせいか、するすると聞き流してしまいがち。
スムースすぎて引っ掛かりがないシンガーなのに、
何度も聴き返したくなる魅力があるんです。
気合を入れて、じっくり耳を傾けてみると、かなり歌唱力のある人だとわかりました。
さっぱりとした歌い口に、晴れ晴れとした爽やかな歌いぶりで、
よく伸びるハイ・トーンを振り絞るように歌ったり、
ヴィブラートをかけて歌ったりと、コブシの技巧も抜群です。

プロダクションの方も、4~5人のアレンジャーを起用して制作するのが
近年デフォルトとなったようで、
かつてのナホンのような金太郎飴サウンドに堕することなく、
アレンジャーの個性を生かした、カラフルなアルバムに仕上がっているのも嬉しいですね。

マシンコ、ケベロをフィーチャーして、男女コーラスとのコール・アンド・レスポンスで
歌う3曲目‘Turinafa’ 、アクースティック・ギターと打楽器の伴奏で聞かせる4曲目‘Kiya’、
グラゲのリズムを使ったダンサブルな5曲目‘Ziyozi’、
アコーディオン、マシンコ、クラール、ワシントを全面に押し出した
タイトル曲の6曲目という、民俗色を打ち出した中盤の流れが、すごくいいんです。
そして、アルバム・ラストの‘And New Demachin’ で聞かせる
アズマリを思わせる泥臭いビートとレゲエをミックスしたグルーヴが最高ですね。

Mikiyas Cherinet "10 KE10 YEGEBASHAL!" Vocal no number (2019)
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音数を減らして魅力増 カロル・パネジ

Carol Panesi  EM EXPANSÃO.jpg   Carol Panesi & Grupo  PRIMEIRAS IMPRESSÕES.jpg

イチベレ・ズヴァルギのグループに13年間在籍した
マルチ・プレイヤーのカロル・パネジの新作が、
注目のジャズ・レーベル、ブリックストリームから出ました。

ヴァイオリン、フリューゲルホーン、ピアノに加え、ポエトリー・リーディングや
ヴォイス・パフォーマンスも行うカロル・バネジは、18年にデビュー作を出したばかり。
そのデビュー作では、イチベレ・ズヴァルギのもとで身に付けた
エルメート・パスコアール直系の音楽性を繰り広げていました。

フレーヴォ、エンボラーダ、マラカトゥなどの北東部音楽に、
サンバやショーロなどのブラジルの豊かな音楽的伝統を背景に、
クラシックやジャズの高度な知識や技量を、これでもかというくらい見せつけていましたね。
初のリーダー作に意欲満々で勢いあまったというか、
あれもこれもと詰め込みすぎて、ちょっと未整理な印象も残ったんですけれど。

エルメート・パスコアールがゲストに加わった曲は意外に(?)悪くなかったけど、
弦楽三重奏をゲストに迎えた曲などは、
弦とピアノ、シンセのハーモニーがごちゃごちゃしすぎ。
複雑な展開のコンポジションは、それぞれのパートが引き立つアレンジを施してこそ、
スリリングな演奏となるところ、多すぎる楽器音がぶつかりあってしまい、
かえってスリルを減じているのが気になりました。

2作目となる本作は、ピアノがギターと交代し、ゲストはなし。
音数がすっきりと抑えられてスキマが生まれたことで、
サウンドにぐっとメリハリがつきましたね。
カロルが多重録音したヴォーカル・ハーモニーをバックに、
ポエトリー・リーディングするトラックも、
デビュー作での試みとは格段の差じゃないですか。

美しいハミングを際立たせるアレンジも良くなりましたね。
これも音数を少なくしたからこそで、
ブラジルのジャズならではのスキャットが浮き立ちます。
1曲目のマラカトゥから、ヴァイオリンがラベッカふうのぎこぎこ音を立てるパートと、
クラシックらしい優美な音色を奏でるパートが交互に入れ替わり、
メリハリの利いたアレンジがコンポジションの良さを引き立てています。

ラストの軽快なタンボリンに導かれるサンバから、
するりと変拍子に移っていくコンポーズもすごくいい。
ナイロン・ギターもヴァイオリンも柔らかい音色で、
変拍子だというトリッキーさをみじんも意識させないところが、うまいなあ。

Carol Panesi "EM EXPANSÃO" Blaxtream BXT030 (2019)
Carol Panesi & Grupo "PRIMEIRAS IMPRESSÕES" Maximus 5.071.607 (2018)
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ミドルティーンのジャマイカン・ジャズが出発点 モンティ・アレキサンダー

Monty Alexander  WAREIKA HILL RASTAMONK VIBRATIONS.jpg

その昔、ジャズ・ピアニストのモンティ・アレキサンダーがレゲエを取り上げるのを、
鼻白む思いで見ていた時期がありました。
いくらモンティがジャマイカ生まれとはいえ、
裕福な家庭に育ったお坊ちゃま君のモンティが、
まるっきり境遇の異なる貧しい若者たちが生み出したレゲエを、
かすめ取ってるように見えたからなんですけれども。

そんな見方が変わったのは、モンティが17歳で渡米する前、
すでにピアニストとしてコクソン・ドッドやクリス・ブラックウェルのもとで、
レコーディングしていたことを知ってからでした。
なんでも学校帰りに、中坊の制服のままスタジオ入りして、
年上のジャマイカン・ジャズのミュージシャンたちに交じって、
ピアノを弾いていたんだそう。

時代はレゲエ誕生前どころか、まだスカさえ生まれていない50年代末。
メントとR&Bがミックスしたような音楽をやっていたプレ・スカの時代に、
オーウェン・グレイやブルース・バスターズなどの伴奏を
務めていたというのだから、びっくりです。
そんな現場経験を、わずか14・5・6で積んでいたとは。
70年代からアーネスト・ラングリンとよく共演しているのも、
すでにジャマイカ時代から先輩ミュージシャンとして付き合いがあったからだったんですね。
オスカー・ピーターソン・マナーの華やかなタッチのピアノを弾くモンティからは、
ちょっと想像のつかない駆け出しの時代のエピソードです。

モンティがのちにレゲエをよく演奏するようになったのも、
レゲエ誕生期に居合わせなかった欠落を、
ジャマイカ人音楽家として埋めようとしているのかもしれないなと、
好意的に見るように変わったのでした。

そんなモンティが昨年出していたアルバムが、
なんと『ワレイカの丘 ラスタモンク・ヴァイブレーションズ』と聞いて、
興味がわきました。
ワレイカの丘とは、リコ・ロドリゲスの名作『ワレイカの丘からの使者』で知られるとおり、
かつてラスタファリアンのコミューンがあった場所。
そして、ラスタモンク・ヴァイブレーションズとは、
セロニアス・モンクの曲をレゲエ化する今回の企画を
ボブ・マーリーの『ラスタマン・ヴァイブレーション』を借用して、もじったわけですね。

ラスタとモンクって、いったいどういう繋がりなのかと思いきや、
モンティ本人が書いた解説を読むと、モンティの自宅の裏がワレイカの丘だったそう。
8歳の頃、ワレイカの丘を登っていくラスタファリアンたちを遠目にみながら、
遠くから聞こえてくるドラムの音や大麻の匂いなどを嗅いで、
ラスタを意識するようになったといいます。
やがて中学生になってスタジオで演奏するようになると、
ミュージシャンの中にはラスタもいて、
そこで初めて本物のラスタファリアンを知ったのだそうです。

そんな当時、スタジオで一緒だったトランペット奏者ジャッキー・ウィラシーから、
セロニアス・モンクを教えられたとのこと。
ジャッキーは「モンクは違う。ほかとは違うんだ」と言っていたのが頭から離れず、
63年にファイヴ・スポットではじめてモンクを観て、
ジャッキーの言になるほどと納得したそうです。

そんな少年時代の思い出を結び付けたのが今回の企画で、
ナイヤビンギのドラム、ケテを叩くプレイヤーも3人加わり、
ラスタファリのルーツ・レゲエを色濃く表しています。
そして、モンティ自身の音楽性からはかなり遠いといえる、モンクですけれど、
レゲエ化することによって、モンクの曲が持つユーモラスな楽しさを引き出した
秀逸な作品となりました。
‘Misterioso’ ‘Natty’ ‘Well You Needn't’ といったモンクの名曲が、
めっちゃくちゃキュートになるんです。これは聴きものですよ。

Monty Alexander "WAREIKA HILL RASTAMONK VIBRATIONS" MACD no number (2019)
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ネオ・ソウル・ジャズの俊英 ジョー・アーモン=ジョーンズ

Joe Armon-Jones  TURN TO CLEAR VIEW.jpg

モーゼズ・ボイドの新作で、まっさきにクレジットの名前を探したのが、
鍵盤奏者のジョー・アーモン=ジョーンズでした。
‘2 Far Gone’ でのプレイに、おぉ!と引き込まれたからです。
ジョー・アーモン=ジョーンズと知って、なるほどとナットク。

多彩な才能を次々と輩出している南ロンドンのジャズ・シーンで、
アシュリー・ヘンリーやカマール・ウィリアムズなどとともに、
ジョーも注目を集めるピアニストの一人で、
先日エズラ・コレクティヴの一員として、来日したばかりですね。
東京公演がコロナ騒ぎで飛んじゃったみたいですけれど。

そういや、昨年出たセカンドをまだ聴いていなかったなと思い出し、
早速試してみました。18年のデビュー作“STARTING TODAY” や
話題のエズラ・コレクティヴ同様、なぜか手は伸ばさずにいたんですけれど、
今回はなんかヒラメクものがあって、試聴もせずに購入。
カンは当たったというか、まさに出会うべきタイミングだったのか、
すっかりトリコとなっています。

冒頭‘Try Walk With Me’ のゆるやかなダブ的空間に、
たゆたうヴォーカルやトランペットがざまざまな色合いを変化させるサウンドに
グイグイ引き込まれました。バックで叩いているモーゼズ・ボイドも、
グルーヴを保ちながら、さまざまな変化をビートに加えています。
途切れずに2曲目の‘Yelow Dandelion’ へなだれ込んでいくところも、
すごくいい感じ。

グナーワに触発されたらしいタイトルの3曲目は、
グナーワのグの字もなく、グナーワの影はどこにも見当たらず。
ご本人、ホントにグナーワを知ってるのかと疑っちゃいますが、
それとは関係なくネオ・ソウル的なサウンドの質感がめちゃくちゃ気持ちいい。

モーゼズ・ボイドの新作と共通しているのは、
ヒップホップやR&Bの影響より、
クラブ・ミュージック経由したサウンドを特徴としていること。
ジェストのラップがフィーチャーされるトラックを聴いていても、
USとUKの違いを感じますよねえ。特にジョーの作品は、
ネオ・ソウルと現代的なジャズを結び付けたサウンドが魅力的。
ラスト・トラックのふわふわとした軽いタッチのアフロビートなど、
いかにもこの人らしいな。

Joe Armon-Jones "TURN TO CLEAR VIEW" Brownswood Recordings BWOOD0207CD (2019)
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クラブ・ミュージックからジャズへ モーゼズ・ボイド

Moses Boyd  DARK MATTER.jpg

モーゼズ・ボイドがエクソダス名義で18年に出した“DISPLACED DIASPORA” の記事で
「すでにボイドはここから一歩も二歩も歩みを進めているはず」と書きましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-12-10
まさにそれを証明する新作が届きました。

重くもたったビートを繰り出す生ドラムスと、打ち込みを並走させた
冒頭のトラック‘Stranger Than Fiction’ から、
ジャズとビート・ミュージックを融合させるボイドのネライが明確に伝わってきます。

ジャズの生演奏をもっとも強く打ち出した‘BTB’ は、
ジャズ寄りのアフロ・ファンクといったアプローチで聞かせるトラック。
分厚いホーン・セクションは、アフロビートを思わせるアレンジを聞かせるものの、
ベースは自在にうねりまくり、ドラムスは一定のビートしつこくを刻み続け、
余計なオカズを加えず変化をつけないところは、
アフロビートのリズム・セクションのフォーマットとは真逆です。
ところが、演奏全体としてはアフロビートを感じさせるのが面白いんだなあ。
アフロビートの新解釈というべき、良きお手本ですね。

後半になると、ポスト・プロダクションの打ち込みと
生演奏を並走させるトラックが多くなり、
モーゼズの生ドラムスが打ち込みのビートに聞こえたりして、
音像が脳内変換するような不思議な感覚に囚われます。
ぼくはこれを聴いていて、20年くらい前によく聴いていた、
ブロークン・ビーツやハウスなど、西ロンドン界隈でクロスオーヴァー化していた
クラブ・ミュージックを思い起こしました。

New Sector Movements  DOWNLOAD THIS.jpg   Afronaught  SHAPIN’ FLUID.jpg
Nathan Haines  SOUND TRAVELS.jpg   CHILLI FUNK RECORDINGS V DUB TRIBE SOUND SYSTEM.jpg

そこで、まっさきにCD棚から引っ張り出した、
IGカルチャーのメイン・ユニット、ニュー・セクター・ムーヴメンツが、どハマリ!
ボイドがポスト・プロダクションで作り込んだドラムのパーツごとの音色の選択なんて、
完全に相通じるじゃないですか。
この当時西ロンドンでアフロ、ソウル、ハウス、テクノと拡張していた
エクレクティックなクラブ・ミュージックのサウンドの質感が、
モーゼズ・ボイドがここで試みているサウンドと地続きなのを感じます。

20年ぶりくらいに聴き返したニュー・セクター・ムーヴメンツが、めっちゃ新鮮で、
さらに棚を掘り起こしてアフロノウトやネイサン・ヘインズなどなど、
当時のクラブ・ミュージック熱を再燃させるきっかけとなった、
モーゼズ・ボイドの新作でした。

Moses Boyd "DARK MATTER" Exodus no number (2020)
New Sector Movements "DOWNLOAD THIS" Virgin 7243-8-49922-2-4 (2001)
Afronaught "SHAPIN’ FLUID" Appollo/R&S 049CD (2001)
Nathan Haines "SOUND TRAVELS" Chilli Funk CFCD005 (2000)
v.a. "CHILLI FUNK RECORDINGS V DUB TRIBE SOUND SYSTEM" Chilli Funk CFCD007-1,2 (2001)
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ビルマ映画黄金時代を飾る名優の歌 ウィンウー

Win Oo  Remember.jpg   Win Oo  MEMORIES OF FILM SONGS.jpg

60~70年代に映画俳優として活躍し、のちに監督も務めるまでになった
ウィンウー(本名ラミン、1935-1988)は、ミャンマー映画界の重要人物。
67年と70年にミャンマーのアカデミー賞を2度受賞していて、
出演した映画の挿入歌はもちろんのこと、歌手としても活躍したほか、
脚本も31本書き、ビルマ時代の大衆芸能に大きな足跡を残した人だったのですね。
往年の映画シーンはYouTube にもたくさんアップされていて、
先日亡くなった「エースのジョー」こと宍戸錠を思わせます。

そのウィンウーの往時の録音が、リマスターされて復刻されています。
昨年入手した『想い出の映画挿入歌集』は、ちょっと選曲が好みじゃなかったんですが、
今作はすごく気に入っています。
『想い出の映画挿入歌集』は、いきなりマヒナスターズの「お座敷小唄」で始まるという、
日本人にはビックリな選曲集で、ラテンにジャズにワルツと洋楽の影響色濃い流行歌集で、
ミャンマーらしい曲が少ないのが、ぼくには物足りませんでした。

しかし今作は、冒頭からオルガンに銅鑼などの伝統楽器の伴奏にのせて、
ミャンマー音階を使ったメロディで歌う曲に始まり、
サイン・ワインにサンダヤーを伴奏にした伝統歌謡などが前半に並び、引き込まれます。
中盤あたりから、ラテンやノベルティな曲が出てくる曲順がいい感じ。
外国曲のカヴァーでは、コニー・フランシスの「可愛いベイビー」が出てきますよ。
ウィンウーの甘やかな声で歌うクルーナー・ヴォイスも、
この時代の雰囲気を横溢していて和めますね。

Win Oo "KHAING MAR LAR HNIN SI" M United Enertainment no number
Win Oo "MEMORIES OF FILM SONGS" M United Enertainment no number


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伝統フナナーを再興した知られざる立役者 シャンド・グラシオーザ

Chando Graciosa  SABURA KA TA MATA.jpg

オスティナートがまとめた伝統フナナーのコンピレをきっかけに、
フナナー周辺をいろいろチェックしてみたところ、
かつてフェロー・ガイタを結成したシャンド・グラシオーザが
新作を出しているのに気付きました。

シャンド・グラシオーザは、伝統フナナー再発見のキー・パーソン。
フェロー・ガイタを結成したばかりでなく、
サンティアゴ島の老アコーディオン奏者ビトーリを発見し、
演奏活動に消極的だったビトーリを説得してコンビを組み、
ヨーロッパをツアーして、伝統フナナーの復興に努めてきた人です。
オスティナート盤には、ビトーリのあとコンビを組んだアコーディオン奏者の
チョタ・スアリと共演した06年作から、‘Nha Boi’ が選曲されていました。

Tchota Suari & Chando Graciosa  VALOR SEM FAVOR.jpg

フェロー・ガイタについては、デビュー作をリリースする前に
金銭関係のトラブルがもとでグループを抜けてしまったため、
シャンドはその名を残すこともなく、
その後ビトーリと活動するも、フェスティヴァルに参加するコネクションができずに
苦戦を強いられてきたようです。マネジメントに恵まれず、
思うように活動ができていないようで、
そんな不満をぶちまけたインタヴュー記事を読んだことがあります。

Chando Graciosa  SIMINTÊRA.jpg

フェロー(金属製ギロ)をかき鳴らしながら歌うシャンドは、
サビの利いた声の、野趣に富んだ味わいのある歌手なんですが、
これまでのアルバムは、カーボ・ヴェルデのコミュニティだけでしか
流通していないインディ盤ばかりで、
世界にほとんど知られていないのは残念でなりません。
02年作も低予算の打ち込み使いのアルバムでしたけれど、
アコーディオンとフェローをしっかりと使って、
気合の入ったフナナーを聞かせてくれていました。

新作もフナナーを全面に押し出したアルバムで、
軽やかに疾走するリズムに、う~ん、気分もアガりますねえ。
アコーディオンとフェローが生み出すビートを核に、
シンセでサウンドに彩りを加えた快作となっています。
スークース調ギターをフィーチャーしたルンバあり、
終盤にはズークも2曲連続でやっていますよ。

シンセの扱いが90年代のポップ・フナナーと違い、
アコーディオンの後方でシンセをレイヤーさせる処理が巧みで、
フナナーのグルーヴを重視していることがよくわかります。
シャンドの重量感のあるヴォーカルも歌手としての力量を感じさせ、
聴き応えのあるアルバムとなりました。

Bitori Nha Bibinha & Chando Graciosa.jpg   Petural  BAÍNO.jpg

実はこの新作を見つけた折、偶然にも他のオンライン・ショップで、
なんとビトーリとの共演盤を発見しちゃったんです!
以前アナログ・アフリカが2曲削って復刻したリイシュー作のオリジナル盤です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-10-21

20年近く探しても見つからなかったCDで、
よくまあデッドストックが残ってたもんだなあ。
オランダにあるカーボ・ヴェルデ移民コミュニティの小さなレーベルから出たもので、
もう1枚、シャンド・グラシオーザがビトーリを
ヨーロッパに紹介するために組んだグループ、
ペトゥラルのCDまであったのには、オドロキ。

ペトゥラルはシャンドが組んだのに、なぜか本人は参加しておらず、
フェロー・ガイタの時みたいなイザコザがあったのかな?
いやぁ、それにしても、見つかる時ってのは、こういう偶然が重なるもんですねえ。
まぁ、こんなCDを探すような物好きは、世界でもぼくだけなんだろうけど
(アナログ・アフリカ主宰サミー・ベン・レジェブの言)。
この新作が少しでも聴かれるようになると、いいんですけれどねえ。

Chando Graciosa "SABURA KA TA MATA" Lo no number (2017)
Tchota Suari & Chando Graciosa "VALOR SEM FAVOR" Giva Productions GIVA2001 (2006)
Chando Graciosa "SIMINTÊRA" Tradiçon T003 (2002)
Bitori Nha Bibinha & Chando Graciosa "BITORI NYA BIBINHA & CHANDO GRACIOSA" CDS Music Center CDS09.98/3 (1998)
Petural "BAÍNO" CDS Music Center CDS05.99/5 (1999)
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カーボ・ヴェルデ移民の若者たちが再発見した伝統フナナー

Pour Me A Grog.jpg

ヴィック・ソーホニーが主宰するオスティナートから、
伝統フナナーの編集盤が登場しました。
これまでオスティナートが復刻してきたのは、
エレクトリック化したポップ・フナナーでしたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-09-08
今回はアコーディオン(ガイタ)と金属製ギロ(フェロー、またはフェリーニョ)に、
ベース、ドラムスのリズム・セクションを加えた
伝統色濃いフナナーをたっぷりと楽しめます。

フナナーは、バディウスと呼ばれる奴隷の末裔にあたる下層庶民の間で育まれた音楽で、
今回の編集盤の解説のなかでも、バディウスはジャマイカのマルーンや、
ブラジルのキロンボに匹敵するコミュニティだったと強調されています。
かつてフナナーは、ダンスが煽情的すぎると教会から敵視され、
植民地政府からも歌詞が解放闘争を助長すると危険視されて禁止となったことから、
かえってバディウスたちにとって、抵抗のシンボルとなりました。
レユニオンのマロヤとまるで同じ歴史をたどったわけですね。

そして、伝統フナナーを再発見したプロセスが、イイ話なんですよねえ。
欧米に渡ったカーボ・ヴェルデ移民の若者たちは、
アコーディオンをシンセに置き換え、エレクトリック・ギターを取り入れて
フナナーをポップ化しましたけれど、故郷に戻ってバディウスの古老たちから、
伝統フナナーを直接学ぶようになったんですね。
それによって、サウンドをアクースティックに戻すとともに、
伝統ガイタを単に再現するのではなく、
ベースとドラムスでフナナーのビートを強化したのでした。

そんな90年代末のフナナー再評価の立役者、
フェロー・ガイタを1曲目に置いているんですが、これが実はフナナーじゃないんですね。
‘Rei Di Tabanka’ というタイトルどおり、この曲はタバンカ。
フナナー同様、バディウスにとって重要なダンス・リズムのひとつです。

フナナーとよく似た4分の2拍子のリズムですけれど、
途中に二連の16分音符が入るところがフナナーと違うんですね。
フナナーがタッタ、タとなるところ、
タバンカはタッタタッタと、フナナー以上の疾走感が出ます。
なぜフナナーでなくタバンカの曲を選曲したのかわかりませんが、
解説にもタバンカについてはまったく触れられていません。

Ferro Gait  Rei Di Tabanka.jpg   Ferro Gaita  Rei De Funana.jpg

フナナーをテーマとした編集盤で、タバンカをいきなりトップに選曲したのがナゾですけど、
この曲は、フェロー・ガイタのセカンド作のタイトル曲ともなった彼らの代表曲です。
拙著『ポップ・アフリカ800』に選盤した、
フェロー・ガイタのフランス、ルサフリカ盤にも収録されています。
ちなみにこのルサフリカ盤は、カーボ・ヴェルデの現地盤で出たデビュー作と、
このセカンド作から選曲した編集盤なのです。
で、タイトルを『タバンカの王様』から、『フナナーの王様』に変えたんですね。

Ferro Gaita, Etalvino Preta, Tchota Suari, Avelino, Orlando Pantera, Peps Love, Bitori, Fefé Di Calbicera
"POUR ME A GROG: THE FUNANÁ REVOLT IN 1990S CABO VERDE" Ostinato OSTCD008
Ferro Gaita "REI DI TABANKA" Ferro Gaita Production no number (1999)
Ferro Gaita "REI DI FUNANA" Lusafrica 02305-2 (2000)
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シャッフル・ブギーからスカへの道のり プリンス・バスター

Prince Buster  ROLL ON CHARLES STREET.jpg

う~ん、この時代のスカは、やっぱサイコーですね!
スカ誕生期に活躍した名プロデューサー、
プリンス・バスターの仕事をセレクトしたコンピレーション。
未発表曲/テイクだけでたっぷり11トラックも収録した、
貴重なリイシュー・アルバムなんですが、マニア向けの編集とはなっておらず、
プリンス・バスターがいかに重要人物だったかを浮き彫りにした名編集盤です。

ローランド・アルフォンソ、ババ・ブルックス、レイモンド・ハーパー、
レスター・スターリングなどジャズ出身のミュージシャンたちによる
ジャズ色の濃い演奏からスタートし、次第にR&Bの影響を受けて
スカのスタイルが確立されていく60年代前半の様子が、
手に取るようにわかる選曲となっているんですね。
時代を追って編集した曲の流れが実に見事で、
プリンス・バスターがジャマイカ音楽に残した軌跡をくっきりと捉えています。

シャッフルのブルースにスカのビートを萌芽させている、シャッフル・ブギーと称される
オープニングの‘Pink Night’ から、もうゴキゲン!
続く「A列車で行こう」のカヴァーも、ジャマイカン・ジャズがスカに変容していく瞬間を
捉えた名演といえます。どちらも未発表曲というのが驚きですけれど、
バスターのサウンド・システムでプレイするサウンド・マンだけに手渡されていた
ダブ・プレートとして有名なトラックだそうです、

さらに、ニュー・オーリンズR&Bのヒューイ・スミスのカヴァーを挟み、
バスターの代表曲‘Rude Rude Rude (Don't Throw Stones)’ がウナりますねえ。
ラテン・ボレーロの大スタンダードの「キサス・キサス」が、
ジャマイカのルードボーイ・チューンとして蘇った痛快なトラックです。
ほかにもドン・ドラモンドのトロンボーンをたっぷりとフィーチャーした曲など、
ほぼスカタライツといってよいトラックもあります。

久しく聴いていなかったヴィンテージの香り高いクラシック・スカの名セレクション、
堪能いたしました。

Prince Buster 「ROLL ON CHARLES STREET」 Rocka Shaka RSPBCD001
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コモロのモダン・ターラブ サリム・アリ・アミール

Salim Ali Amir  TSI WONO ZINDJI.jpg

30年のキャリアをほこるコモロ音楽のフィクサー、
サリム・アリ・アミールの新作が届きました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-02-07
哲学者のような顔立ちと、瞑想するが如く
静かに目を閉じているポートレイトは、風格を感じさせるもので、
深みのある色合いと相まって、いいジャケットだなあと、しばし眺めてしまいました。

本作で12作目となる新作、
コモロ歌謡に溶け込んだ多様な音楽要素が芳醇な香りを放っていて、
コモロ現地産のモダン・ターラブを堪能できる仕上がりとなっています。

オープニングの‘Watsha Waseme’ は、
ハリージのようなつっかかるリズムが印象的なナンバー。
このリズムはコモロの伝統リズムなのだそうで、ハリージと似たニュアンスがあるのは、
ターラブがアラブ湾岸諸国との交流から生まれたスワヒリ文化を象徴しているとも、
いえるのかもしれませんね。

ロック・ギターぽいリフや、
80年代ポップ・ライのようなシンセ・ソロまで聞けるところは、
近年のアラブ/マグレブ歌謡をも呑み込んでいる証しでしょう。
もう1曲ハリージぽいリズムが聞ける‘Ankili’ では
ターラブぽいメロディを、ウードやカーヌーンをフィーチャーして聞かせていますよ。

60年代アラブ歌謡の色濃い‘Na Andziwa’ の艶っぽい味わいもたまりません。
‘Maskini Mbaba’ ではメロディがインドぽく思えたり、
アコーディオンをフィーチャーした‘Msubuti’ は、ムラユみたいなメロディ
とサレギのようなリズムが聞け、遠くアジアから近隣のマダガスカルまで、
多彩な音楽のミクスチャーが楽しめます。
ラストの‘Ushindzi’ は、なんとエレクトロ仕立てで、ちゃんと現代とも呼応しています。

サリムの深みのある声と諭すような歌いぶりに、ほっこりとした温かみがあって、
現地のプロダクションならではのローカルな味わいと、絶妙にマッチしていますね。

Salim Ali Amir "TSI WONO ZINDJI" Ankili 57/12/19/SAA (2019)
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魅惑の60年代南ヴェトナム歌謡

NHAC TIỀN CHIẾN VOL 1.jpg

オールド・デイズな演出を施したジャケット写真に、
古いヴェトナム歌謡をリヴァイヴァルした企画アルバムと思いきや、
まさしく50年代後半から60年代初め頃とおぼしき音楽が流れてきて、驚愕!
新作ではなくて、デッドストックだった古い1枚で、
印刷の感じからして、90年代のアメリカ製と思われるCDです。

内容は、全世界的なロック流行前の、都会の紳士淑女のための大衆歌謡。
タイに例えるなら、まさしくルーククルンといった世界。
ナイトクラブなどで歌われていたのであろうラウンジーな演奏で、
オーケストラ伴奏ではなく、少人数のコンボ演奏がほとんど。

うわぁ、こんな時代のヴェトナム歌謡、初めて聴いたなあ。
8人の歌手による12曲を収録していて、
「美しい昔」の代表曲で知られるカーン・リーも名を連ねていますけれど、
チン・コン・ソンの曲で有名になる後年の歌声とはだいぶ違い、
まだチン・コン・ソンと出会う以前の、クラブ歌手時代の録音のように思えます。

ラウンジーといっても、マレイシアのP・ラムリーやサローマのような
ジャズやラテンの要素が希薄なのは、フランスの植民地ゆえでしょうね。
しみじみとした暗い曲が多いんですけれど、演歌調にならず、
乾いた情感のあるところが、ルーククルンと共通性を強く感じるところですね。

もう少し時代が下ると、サイゴンでは
ビートルズなどロックの影響を受けた音楽も盛んになり、
そういった録音は、ドイツのインフラコム!が
“Saigon Supersound” のシリーズでコンパイルしましたね。
このCDはそれより以前の時代の音楽ということになります。

タイトルに大きく「ニャック・ティエン・チエン」とあり、「戦前音楽」を意味します。
この戦前とはヴェトナム戦争を指すのではなく、
フランスと戦った独立戦争のインドシナ戦争を指しているので、
1954年以前の音楽ということになるんですね。

しかし、このCDに収録された音源は録音が良く、
分離の良いステレオ録音からすると、54年以前の録音のはずがなく、
もっと後年の録音であることは明らかです。
45年生まれのカーン・リーが、クラブ歌手時代に録音したと考えると、
どんなに早くても60年代前半でなければつじつまが合いません。

インドシナ戦争後、南北にヴェトナムが分断されると、
北ヴェトナムではニャック・カック・マンと呼ばれる革命のための音楽が盛んとなりますが、
南ヴェトナムでは欧米の音楽の影響を受けたナンパなポップスが盛んになるという、
真逆の傾向を示します。共産国家と民主国家の典型的な構図ですね。

当時、年配向けにニャック・ティエン・チエンふうの曲も作曲され続け、
南ヴェトナム時代(54~75年)に作曲された曲も含め、ニャック・ティエン・チエンと
呼ばれることもあるようです。近年ブームとなったボレーロは、
南ヴェトナム時代の曲を含むニャック・ティエン・チエンと同義と思っていいのでしょう。

このCDに収録されたシー・プー、ハー・タン、レー・トゥ、
タイ・タン、タン・トゥイ、アン・ゴックは、南ヴェトナム時代に
ニャック・ティエン・チエンの歌手として人気を呼んだ歌手たちだそうです。
すると、本作はニャック・ティエン・チエンといっても、54年以前のものではなく、
南ヴェトナム時代の録音なのでしょう。ラスト・トラックのエレキ・ギターの音や
馬が走るSEに至っては、70年代以降の録音であることは確実です。
ジャケット写真の明らかなノスタルジー演出が、それを表していて、
最初にリヴァイヴァル企画作と思ったのは、結果として正解だったみたいですね。

ヴェトナムにもこういう音楽が流れていた時代があったのかとカンゲキして、
いろいろ調べてみましたが、
やっぱりぼくは、ロック流行以前の大衆歌謡が、一番好きだなあ。
ギターとトランペットが間奏をとる曲なんて、30年代の昭和歌謡をホウフツとさせますよ。

そうそう、1曲すごく面白い曲(‘Suối Mơ’)があるんです。
イントロにスティール・ギターが大々的にフィーチャーされるんですけれど、
ハワイアンなんかじゃなくて、ダン・バウ(一弦琴)を模した演奏になっているんですね。
この曲には、ほかにダン・チャン(箏)や笛も使われていて、
伝統音楽の要素がない曲揃いのなかで、ユニークな仕上がりとなっています。

Sĩ Phú, Hà Thanh, Khánh Ly, Lệ Thu, Thái Thanh, Thanh Thúy, Anh Ngọc, Ban Thăng Long
"NHAC TIỀN CHIẾN VOL 1" Tinh Hoa Mien Nam THMNCD003
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知られざるチリの都市大衆歌謡

CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2  FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA.jpg

SP時代のチリ音楽を編集した2枚組CDですって?
「1927年から1957年」とあるので、
第二次世界大戦をはさんだ前後30年間の録音ということになります。

へぇ~、そんな時代の音源なんて、聴いたことがありませんねえ。
だいたいチリの音楽じたい、ビオレッタ・パラが歌った民謡とか、
クエッカやトナーダといったフォルクローレのレコードくらいしか
聴いたことがないんだから、ほとんど知らないに等しいもんです。

しかも、タイトルを見ると、フォルクローレを集めたものではなく、
どうやら都市歌謡に焦点を当てたもののよう。
チリの都市大衆歌謡??? 思い当たるところでは、
メキシコへ渡って大スターになったルーチョ・ガティーカとか、
アルトゥーロ・ガティーカといったチリ人歌手は確かにいますけど、
ああいった汎ラテン的歌手が歌った大衆歌謡を集めたものなんでしょうか。

う~ん、どんな歌を収録しているのやら、聴く前からワクワクしていたんですが、
こりゃあ、スゴイ。チリの大衆歌謡がこれほどヴァラエティ豊かなものだとは、
まったく知りませんでした。自国のクエッカ、トナーダ、バルスはじめ、
タンゴ、ルンバ、サンバ、ボレーロなどチリ周辺国のレパートリーはもちろんのこと、
フォックス・トロット、ポルカ、スウィング、ブギウギまで飛び出してくるんです。

うわぁ、こりゃ、まるでチリの「ジャズソングス」じゃないですか。
ブギウギはさすがにアメリカ産ですけれど、
ヴァイオリンとアコーディオンが加わっているところがミソで、
アメリカ音楽より、ヨーロッパの影響が強く感じられます。
フォックス・トロットやワン・ステップのレパートリーの演奏に、
ヨーロッパ経由を感じさせるほか、
ディスク2のキンテート・スウィング・ホット・デ・チレは、
ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリの
フランス・ホット・クラブ五重奏団をまんまコピーしています。
フランスからの影響がこれほど強いとは知りませんでしたねえ。

聴き進むほどに、驚きが連続するアンソロジー。
意外なほどに欧米音楽の影響が強く、洗練された都市歌謡が存在していたことに合わせて、
チリ独自の音楽が発展しなかった理由も垣間見れるところが面白い。
フォルクローレだけを追っかけていたら、
けっして発見できないチリ都市歌謡の魅力満載です。

いやあ、こりゃ、とんでもないお宝もののリイシュー・アルバムですね。
サンティアゴ・デ・チレ大学ラジオ局による制作とのことで、
教育機関が大衆歌謡にスポットをあてることも、驚くべきことじゃないですか。
フォルクローレならいざしらず、アカデミズムが一番敬遠しがちなテーマだというのに。
このアンソロジーは、今後チリ音楽を語るのに、
常に参照されることになることウケアイですね。
2020年ラテンのベスト・ディスカバリー・アルバムです。

v.a. "CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2: FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA, 1927-1957"
Radio Universidad De Santiago no number
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人力演奏で再現した80年代ポップ・ライ ナディム

Nadim.jpg

ひさしぶりにイキのいいライを聞けました。
生のドラムスにダルブッカが重量感のあるロック・ビートを叩き出すんですけれど、
いやぁ、痛快ですねえ。
マイナー・レーベルのローカル作品は打ち込みに頼るのが一般的なので、
こんなに生演奏を全面に押し出したライは、長年聴いていなかった気がします。
レイヤーされたシンセの合間を縫うように、
エレクトリック・ギターとガスパ(葦笛)が存分に暴れ回っていますよ。

カルカベも加わる‘Daoui Galbi’ では、ストリングスやホーン・セクションまで起用する
ゴージャスさに、ちょっとびっくり。
続く‘Rebi Ki N'Dira’ では、ストリングス・セクションにウードも使っていて、
曲ごとにさまざまな工夫が施されています。
ロック調の‘Mme Amokrane’ では、アコーディオンが起用されていますね。

ラスト2曲は、エレクトロなリミックスを施した収録曲のヴァージョンと
インスト・ヴァージョンをボーナス的に置いています。
いやぁ、ローカル作品でこれだけ力の入ったプロダクションは、珍しいですねえ。
わずか33分という短さですけど、堪能しました。

いかにもヴェテランらしいオヤジ顔をした主役のナディムですけれど、
確か同じ名前のライ・シンガーのCDを持っていたはずと、
棚を探してみたところ、手元にあったのはもっと若いシンガーで、別人でした。
どうやらこちらのナディムは、かつてハレドとシェブ・マミが主演した97年のライ映画
“100% ARABICA” のサントラに1曲収録されていた人のようです。
ハレドを小粒にした感じの声もおんなじだし。

そのサントラでは、ビラルの曲を歌っていましたけれど、
本作はすべて自作曲で、リミッティに捧げた曲やタイトルなどから考えると、
ポップ・ライ誕生期のサウンドを人力演奏で回帰することがネライだったのでしょう。
シンセとドラムマシンで作られた80年代ポップ・ライのサウンドを、
骨太なロック・ビートで強化し、シンセで代用していた葦笛のノイジーなサウンドを、
本物を使って再現した本作はそのネライを十分実現しています。

コブシ使いも確かな歌唱力のある人ですけれど、
本作のプロモーション・ヴィデオの再生回数の少なさには、ガクゼンとします。
半年以上前にアップされてるのに、再生回数100回に満たないって、
これじゃプロとは言えませんよねえ。人気のない人なんでしょうか。
これほど充実した作品が、知られぬまま埋もれるのは、もったいない気がします。

Nadim "AUX ANCIENS" no label no number (2019)
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花開いたヘイシャン=アメリカン・シンガーソングライター レイラ・マキャーラ

Leyla McCalla  CAPITALIST BLUES.jpg

レイラ・マキャーラの3作目となる新作、
音楽性がぐ~んと拡張した、素晴らしい作品になりましたよ。

ラングストン・ヒューズと自身のルーツのハイチ音楽を結び付けたデビュー作に、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-04-23
フレンチ・クレオールのルーツをさらに深めていったセカンド作と
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-07-03
これまでも意欲的な作品を送り出してきたレイラですけれど、
どこかまだ頭でっかちな面は否めませんでした。でも、今作は違います。

1曲目のタイトル曲は、レイラが弾くテナー・バンジョーに、
もう1台のテナー・バンジョーを加え、ピアノ、トランペット、クラリネット、
トロンボーン、チューバにトラップ・ドラムという編成で歌った
ニュー・オーリンズ風味のクラシック・ブルース。
レイジーなムード満点なノスタルジックなサウンドにイッパツでやられました。

CALYPSOS FROM TRINIDAD.jpg   Growling Tiger  KNOCKDOWN CALYPSOS.jpg

続く‘Money is King’ は、
往年のカリプソニアン、ザ・タイガーが34年に録音したカリプソ。
タイガーがプロになったばかりの18歳の時にニュー・ヨークで録音した曲で、
オリジナル録音は、アーフリー盤“CALYPSOS FROM TRINIDAD” で聞けます。
ただ、ヴィオラやトランペットをフィーチャーしたレイラのヴァージョンは、
このオリジナル録音ではなく、もっと後年のグロウリング・タイガー名義で出した
79年のラウンダー盤“KNOCKDOWN CALYPSOS” の演奏を下敷きとしたみたいですね。

もうこの2曲で、今のアメリカ社会に対するレイラの異議申し立てが
はっきりと表明されているのがわかります。
そしてぼくが一番感じ入ったのが、‘Aleppo’。
ぶっこわれたようなノイジーなギター・サウンドは、
空爆で市民が虐殺され続けているアレッポの現状と、
いっこうに世界がアレッポ市民の救援に動かない苛立ちを
表現しているように、ぼくには聞こえました。

ほかにもザディコの‘Oh My Love’ に
‘Settle Down’ ではハイチの大所帯バンド、ラクー・ミジクと共演。
思えば、昨年のラクー・ミジクのアルバム“HAITIANOLA” は、
ニュー・オーリンズに接近した作品で、レイラもゲスト参加していましたね。

今作のサウンドの立役者は、プロデューサーである
キング・ジェイムズこと、ジミー・ホーン。
ちなみに‘Aleppo’ で轟音ギターを弾いているのも、この人なんですね。
ニュー・オーリンズR&Bバンドのザ・スペシャル・メンを率いるバンド・リーダーで、
デイヴ・バーソロミューやファッツ・ドミノなどの古いニュー・オーリンズR&Bから、
サン・ラーやパンクも呑みこんだ音楽性の持ち主で、
彼の異才が本作のプロダクションに大きく貢献しています。
レイラは3作目にして、素晴らしい音楽パートナーと巡り合いましたね。

Leyla McCalla "CAPITALIST BLUES" Jazz Village JV570154 (2019)
Atilla The Hun, Lord Beginner, The Tiger, The Lion, The Caresser, The Growler, King Radio, Lord Executor and others
"CALYPSOS FROM TRINIDAD : POLITICS, INTRIGUE & VIOLENCE IN THE 1930S" Arhoolie CD7004
Growling Tiger "KNOCKDOWN CALYPSOS" Rounder CD5006 (1979)
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ティーラシンになったキンポーパンチ

Khin Poe Panchi 200126_01.jpg   Khin Poe Panchi 200126_02.jpg

年明け1月21日、キンポーパンチのフェイスブックの写真に驚愕!
なんと! ロング・ヘアをばっさりと剃髪してしまっているじゃないですか!!
えぇ~、キンポー、出家しちゃったんですか !?

ピンク色の袈裟にオレンジ色の帯を肩にかけて托鉢する写真や、
僧院で修行している様子、食事をとっている写真などが多数アップされていて、
キンポー、すごく満ち足りた表情をしています。
ずっとこの日を待ち望んでいたというふうですね。
フェイスブックの一般公開ページに載った写真を2枚だけ転載させてもらいました。

う~ん、去年キンポーパンチの新作が出た時に、
「敬虔な仏教徒のミャンマー伝統歌謡」という記事を書いたばかりですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-10-16
はぁ~、本当に信心深いんですねえ。

ミャンマーの上座部仏教について知識がないので、あわてて調べてみると、
出家したわけではなく、ティーラシンと呼ばれる女性修行者になったようです。
上座部仏教においては、女性は僧侶となれないため、尼僧は存在せず、
ティーラシンは女性修行者と呼ぶのが正しいようです。
出家に準じた生活を送るものの、身分的には在家者であるため、
男性の出家者に比べて俗的と考えられているとのこと。

男の子が得度式をするのと同じで、修行後はまた俗世に戻るのでしょうけれど、
ばっさり落とした髪の毛、歌手活動はどうするんでしょうか。
まさか還俗せず、そのまま仏門に入るわけじゃないよねえ。

一抹の不安をおぼえていたら、2月5日のフェイスブックに、
タイから来た8人の僧侶を迎える祝賀式典で、
おかっぱのウィッグを付けたキンポーパンチが、
1万人以上はいそうな広大な広場の最前列で、
キーボードを伴奏に歌っているヴィデオがアップされていて、ひと安心。

Khin Poe Panchi  KHAM NAR AHLU.jpg

ビックリさせられたキンポーパンチの近況でしたけれど、
実は、最新作が出ていたんです。
去年の12月16日に新作発表の記者会見がフェイスブックに載って、
8月に新作が出たばかりなのに、間をおかず新たな作品を出すとは絶好調の証し。

表紙の右上隅には、ゲストの男性歌手3人の写真が載っていて、
そのうちの一人、ウィンナインソーとは2曲でデュエットしています。
あとのタハーアウンとバンヤーハンはキンポー抜きで、それぞれ1曲歌っています。
キンポー・ファンにとっては、この2曲は無くても良かったかなあ。

今作はミャンマータンズィンあり、サイン・ワイン楽団伴奏の伝統歌謡ありと
ヴァラエティに富んだ内容となっています。
ウィンナインソーとデュエットするタイトル曲の1曲目は、
終盤で歌謡ロック調のバンド演奏から、
サイン・ワイン楽団にスイッチする形式のミャンマータンズィン。

一方、前作では登場しなかったサイン・ワイン楽団の伴奏が聞けるのも、
今回の聴きどころ。シンセを加えて、さらに華やかにしたサイン・ワインのサウンドが、
ベースとドラムスが加わるポップス調サウンドと、いい対比となっています。

Khin Poe Panchi "KHAM NAR TAE AHLU" Man Thiri no number (2020)
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インド洋と東アフリカ沿岸の文化混淆音楽 ボイナ・リジキ&スビ

Boina Riziki Et Soubi  BWENI MARIE.jpg   Boina Riziki & Soubi  Chamsi Na Mwezi.jpg

サリム・アリ・アミールのアルバムにフィーチャーされていたスビは、
ボイナ・リジキとのコンビで知られている人。
このコンビのアルバムでは、ターラブ研究で有名な民族音楽学者の
ウェルナー・グレブナーが制作したドイツのディジム盤がありましたけれど、
スタジオ1からもCDを出していたんですね。

マダガスカルのマルヴァニと同じ起源の箱琴ンゼンゼを弾くスビと、
イエメンのガンブースと起源を同じくする5弦楽器ガブシを弾くボイナ・リジキは、
ともにモヘリ島出身の伝統音楽家。97年にグランド・コモロ島のモロニで偶然に出会い、
モーリシャスやレユニオンのカヤンブと同型のシェイカー、
ムカヤンバを振る奏者を加えて活動を始めます。
その年にレユニオンで開かれた音楽祭で話題となり、
翌98年にスタジオ1でサリム・アリ・アミールのもと制作されたようです。

ディジム盤のライナーをあらためて読み直してみたところ、
このアルバムもスタジオ1でサリム・アリ・アミールがレコーディングしたもので、
著作権はスタジオ1にあり、
ディジムがライセンス契約で出したものだったことがわかりました。
両方のアルバムの曲目を眺めてみると、スタジオ1盤収録12曲中6曲が、
ディジム盤で再演されています。

2作にさほど違いはなく、両方のアルバムとも1曲目となっている‘Hamida’ が、
ディジム盤の方ではテンポが速く、歌のキーも上がっているくらいのものでしょうか。
イエメンではとうの昔に失われた古いガンブースが奏でる
コモロ伝統のンゴマやンゴドロのメロディは、アラボ・アフロな趣がいっぱい。
二人の強烈に泥臭いヴォーカルも味わい深く、ハチロクのグルーヴともども、
インド洋と東アフリカ島嶼部の今昔の音楽がないまぜとなっているのを感じます。

Boina Riziki Et Soubi "BWENI MARIE" Studio 1 BRS98
Boina Riziki & Soubi "CHAMSI NA MWEZI" Dizim 4503 (1999)
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コモロの汎インド洋ポップス  サリム・アリ・アミール

Salim Ali Amir  SHIYENGO.jpg

70年代ターラブ懐メロ集を制作した、
サリム・アリ・アミールのソロ・アルバムも入手できました。

62年生まれのサリム・アリ・アミールは、
コーラン学校にいた7歳の頃からカシーダを結婚式で歌い始め、
首都モロニのさまざまなイスラームの祭儀で引っ張りだことなり、
ラジオ・コモロで毎朝サリムの歌声が流れる国民的歌手となった人です。
83年にフランスの音楽賞を受賞してヨーロッパ・ツアーを行い、
コモロ出身の歌手として大成功を収めると、
89年からはモロニのスタジオ1でアレンジャーとして働き始め、
若い音楽家たちをサポートして、プロデューサーとしての活動をするようになります。

70年代ターラブ懐メロ集は、そうして生まれたアルバムだったようですけれど、
02年に出した本作は、数多くのミュージシャンが参加して、
サリムの幅広い音楽性を発揮した汎インド洋ポップスに仕上がっています。

オールド・スクールなアラブ歌謡調のターラブ‘Jellounah’ もあれば、
マダガスカルのサレギのリズムにのせた‘Mdwa Mbe’ では、
箱琴ンゼンゼを弾き歌う伝統音楽家のスビをフィーチャーするなど、
曲ごとに趣向を凝らしたヴァラエティ豊かな内容となっています。

ジョージ・ベンソンやロクア・カンザからの影響を公言するとおり、
ジャジーなセンスやメロウなソングライティングを随所に発揮したポップ・センスは、
ローカル・レヴェルのプロダクションをカヴァーして、あまりありますね。
インド洋由来のハチロクのグルーヴを活かしたリズム・アレンジも多彩で、
男性コーラスと女性コーラスの使い分けなど、細部にわたって
丁寧に作り込まれたプロダクションに職人技が光り、聴きどころがいっぱいです。

すっかり感心して愛聴していたところ、
昨年リリースされたばかりの新作の存在を知り、早速オーダーしました。
届くのが楽しみです。

Salim Ali Amir "SHIYENGO" Studio 1 no number (2002)
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コモロの庶民感覚溢れるターラブ

WAZAMANI VOL.1.jpg

インド洋に浮かぶコモロ諸島は、ザンジバルと同じく、ターラブが歌い継がれてきた島々。
コモロにも魅惑の南海歌謡が眠っている予感は十分するものの、
ヨーロッパのレーベルが制作するCDは、民俗音楽的なターラブばかりで、
大衆歌謡らしいターラブが聞けず、長年の欲求不満なのでありました。

コモロ現地制作のCDなら、
そうした大衆味のあるスワヒリ歌謡を聞けると思うんですけれど、
コモロ盤CDの入手はアフリカの中でも難関中の難関で、いまだ1枚も捕獲ならず。
ずいぶん昔に見つけたネット情報でウォント・リストは作ってあったものの、
入手するチャンスもなく、諦めきっていたのでした。

もはや存在すら忘れかけていた幻のコモロ盤CDですけれど、
つい最近、数枚のCDを入手することができて、舞い上がっています。
見つけたのは、グランド・コモロ島の首都モロニに住所を置く、
スタジオ1というレーベルのCD。
星降る夜にぽっかりと浮かぶ、コモロの由緒あるグランド・モスクをバックに、
イスラーム正装の男たちが描かれているジャケットが、スワヒリ・ムードいっぱいですね。
本作は6人の歌手によるオムニバス盤で、
70年代のヒット曲を再演したターラブ懐メロ・アルバムのようです。

制作年の記載がありませんが、90年代後半頃でしょうか。
コモロを代表する音楽家で鍵盤奏者のサリム・アリ・アミールと
ギタリストの二人によるプロダクションは、
いかにも低予算な作りとはいえ、サウンドは実によく組み立てられています。
ウードや弦セクション、アコーディオン、ベース、ドラムスもすべて鍵盤代用ながら、
このプロダクションは侮れませんねえ。
カジュアルな姿の庶民的なターラブをたっぷりと味わうことができて、嬉しくなります。

6人の男性歌手はいずれも中高年のヴェテランといった感じで、
70年代にオリジナル曲を歌っていた人もいるんでしょうか。
哀歓のこもったスワヒリ演歌あり、コモロ伝統のンゴマありと、カラーの異なる曲が並び、
ローカル感いっぱいのシンセ・サウンドは、ほっこりとした味わいがあって泣かせます。

インドネシアのカシーダやマレイシアのムラユそっくりの曲もあったりして、
70年代のオリジナル・ヴァージョンも聴いてみたくなりますねえ。
最後の‘Ufitina’ のみ、ホンモノのウードと太鼓をフィーチャーしていて、
より往年のターラブらしいアンサンブルを楽しめます。

Mohamed Mattoir, Ahmed Barwane, Youssouf Mze, S. Mohamed Chakir, Nassor Saleh, Seef Eddine Mchangama
"WAZAMANI VOL.1" Studio 1 no number
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ヨルバ風味アフロビーツ テニ

Teni  Billionaire.jpg

ナイジャ・ポップのシミの新作“OMO CHARLIE CHAMPAGNE, VOL. 1”、
待てど暮らせどフィジカル化の知らせは届かず(泣)。
CDは出さないつもりなんですかねえ、はぁ。
あきらめ物件となりつつあったところ、
テニなる新人女性シンガー・ソングライターのデビューEPが届きました。

一聴、クリアなビート音に、脳ミソがじーんと鳴る快感を覚えました。
近頃のナイジャ・ポップって、どれも音がすごく良くなっていますよね。
機材がいいのか、ミックスがいいのか、その両方なのか、
エンジニアリングに詳しい人に訊いてみたいなあ。
楽器音ひとつひとつの粒立ちが際立っているんだけれど、
耳に痛いサウンドとはならず、ふくよかにまとめられているところが、すごくいい。

さて、テニことテニオラ・アパタは、93年レゴス生まれのシンガー・ソングライター。
子供時代はワシウ・アインデが好きだったというとおり、
フジとジュジュで育ったというアフロ・ポップのニュー・スターです。
テニの曲のことわざを多用する歌詞や物語の世界は、
フジやジュジュの影響から生み出されているものだそうで、
ヒット曲となった‘Billionaire’ にも、それが発揮されているといいます。

アフロハウスのビートにハイライフのギター・リフを組み込んだこの曲、
ノリウッド版「スラムドッグ$ミリオネア」みたいなヴィデオを観ると、
テニは渡辺直美をホーフツとさせる役者ぶりを発揮しています。
ジュジュやフジの影響はテニの音楽性にも見え隠れしていて、
‘Nowo’ では、テニの歌の後にジュジュのような男性コーラスが登場する
ブリッジが差し挟まれていて、ヨルバ臭さがぐっと立ち上ってきますよ。

ほかにも、メロディやパーカッションのビートメイキングなどに、
ヨルバらしさがあちこちにうかがえますね。
長くヨルバ・ミュージックに心酔してきた者にとっては、
こういうイマドキなアフロビーツの中でうっすらとでも、
そんなヨルバ風味を見つけると、嬉しくってならないのです。

Teni "BILLIONAIRE" Dr. Dolor Entertainment no number (2019)
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ヒップ・ホップに宿る濃厚なクメールの味わい クラップ・ヤ・ハンズ

Klap Ya Handz  2019.jpg

続くときは続くもので、ヒップ・ホップの好盤がまたしても手元に。
アフリカから場所を移して、今度はアジア、
クメール・ヒップ・ホップ、クラップ・ヤ・ハンズの新作です。

クラップ・ヤ・ハンズは去年日本初上陸して、カンボジア・フェス(@代々木公園)や
Soi48 のパーティで話題沸騰となりましたね。
ぼくは訳あって、どちらにも参戦できず、悔しい思いをしたんですが、
ライヴ会場で手売りされていたという、新作CDをようやく入手することができました。

クラップ・ヤ・ハンズを知ったのは、もう10年くらい前になりますけれど、
レーベル発足から7年の間のベスト・トラック集のMP3CDに圧倒されて、
いっぺんでファンになりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-02-23
ただその後、音信が途絶えてしまって、どーしてるんだろうと思っていたんです。

MP3CDのヴォリュームには及ばない、37分程度のアルバムですけれど、
方向性にブレはなく、トロー・チェー(二胡)などの伝統楽器を使いながら、
古いカンボジア歌謡の味わいを色濃く残したトラックなどを聞かせます。

今回、特にグッときたのが、スレイリアックという女性歌手をフィーチャーしたトラック。
コブシを利かせ、クメール伝統歌謡のニュアンスを濃厚に感じさせる歌いぶりに、
イッパツでメロメロになりました。

彼女、クラップ・ヤ・ハンズと一緒にやる前には、
ビア・ガーデンなどでロ・セレイソティアやパン・ロンといった
内戦前の往年の名歌手のカヴァー曲をずっと歌っていたそうで、
クラップ・ヤ・ハンズにスカウトされてからも、
ヒップ・ホップをやっている意識はないとのこと。

もともと今風の曲が好きになれず、
昔の曲が好きでカヴァーばかりしていたスレイリアックにとって、
自分が歌いたい歌を用意してくれるクラップ・ヤ・ハンズは、
うってつけのプロジェクトだったようです。

本作に収録されたスレイリアックの‘Sneha Knong Pel Reatrey’ は、
プロデューサーのソック“クリーム”ヴィサルが共同監督を務めた映画
“KROAB PICH” の劇中歌だとのこと。
この人、来日したメンバーの中にもいたそうで、あぁ、生声聴きたかったなあ。

長らく情報が途絶えていただけに、
変わらず活動を続けている様子がわかっただけでも大収穫。
ちょうどエム・レコードからも日本盤が出て、ますます注目が集まること必至でしょう。

Ouk & Yut, Vin Vitou, Jimmy, Nen Tum & Ago, Ruth Ko, Reezy, Shagadelac, Yuth, Sreyleak, Khmer Jivit, Vuthea
"KLAP YA HANDZ" KYP no number (2019)
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マンディング・エレクトロ・ヒップ・ホップ MC・ワラバ&メレケ・チャッチョ

MC Waraba & Meleke Tchatcho.jpg

おぉ、ついにマリ、バマコのサウンド・システム、バラニ・ショウが
CDで聞けるようになりましたか!
サヘル・サウンズが世界に紹介したバラニ・ショウ。
これまでLPとカセットのみのリリースで、
なぜかCDがリリースされてこなかったんですよねえ。

バマコのストリートで夜な夜なパフォームされているバラニ・ショウは、
クーペ・デカレとクドゥロのリズムに、バラフォン、ジェンベ、タマといった
伝統楽器を組み合わせたサウンド・システム。
「バラニ」がバラフォンを意味するとおり、バラフォンがサウンドの要となっています。
88年生まれのMC・ワラバは、90年代末バマコの夜に革命を起こしたバラニ・ショウで、
子供の時から育ったというラッパー。バマコのバガダジ地区に拠点を構え、
メレケ・チャッチョとコンビを組んで活躍していて、
サヘル・サウンズのコンピレにも1曲収録されていました。

いやぁ、フレッシュですねえ。シンプルでスキマだらけのバックトラックから、
キレのいいラップが飛び出してくるところが、サイコーですよ。
ムダにサウンドを厚塗りしていないバックトラックがいいんだな。

そのかわり、ビートはしっかり作り込んでいますよ。
ひょいっと裏拍を取ったり、ふんだんなアイディアが散りばめられています。
打ち込みのビートに絡みついてくる、
トーキング・ドラム(タマ)の叩きっぷりもスリリングで、
電子音と生音が有機的に結びついた聴きどころが、イッパイ。

耳残りするフックの利いた反復フレーズなど、曲づくりもうまく、ヒット性も高いですね。
さっそく南アのアフロ・ハウスのプロデューサー、アエロ・マニェロから声がかかり、
2曲をリミックスしたほか、リヨンのテクノDJもリミックスするなど、
世界から注目が集まっていますよ。

南アフリカのシャンガーン・エレクトロあたりが好きな人なら、
トリコとなることうけあいのマンディング・エレクトロ・ヒップ・ホップ。
マリのバラニ・ショウの初CD、アフリカン・ヒップ・ホップの傑作でっす!

MC Waraba & Mélèké Tchatcho "SUPREME TALENT SHOW" Jarring Effects/Blanc Manioc FX149 (2019)
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