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品質保証100%のフジ スレイモン・アラオ・アデクンレ・マライカ

Sulaimon Alao Adekunle Malaika  EXAMPLE.jpg

う~ん、絶好調だな、スレイモン。
もう今のフジは、この人だけ追っかけてれば、それで十分かなあ。
出る新作がどれもツブ揃いで、ハズレなしなんだから、
この品質保証ぶりは、フジ諸先輩たちの作品をはるかにしのいでいますよ。

20世紀に入ってからのフジは、粗製乱造がひどくなる一方で、
ワシウ・アラビ・パスマやサヒード・オスパといった人気シンガーの作品でさえ、
「アタリ」を見つけるまで、10枚近い「ハズレ」をつかまされる始末でした。
これじゃ、どんなファンも熱が冷めようというものです。

それこそアフロビーツと比べたら、プロダクションやレコーディングのクオリティは、
同じ国の音楽とは思えないほど違うしねえ。
これまで聴いてきたスレイモンの作品で、はっきり「ハズレ」と感じたアルバムはなく、
明らかにレコーディングに対する姿勢は、先輩たちより真摯な姿勢を感じます。

それは、作編曲・プロデュースのクレジットにスレイモン自身の名があることからも明らか。
フジの豪胆さと、メロディアスなソングライティングを両立させながら、
ボトムの利いたパーカッション・アンサンブルと
軽快な疾走感をあわせもつスレイモンのフジは、バリスターやコリントン、
K1・デ・アルティメット(ワシウ・アインデ・バリスター)の時代とは、
明らかにサウンドの質感が違います。

いや、もちろん違って当たり前なんですよ、
親子ほどの世代差なんだから。ところが、フジはある時点から、
進化がぴたりと止まってしまっていましたからねえ。

ヴォーカルとコール・アンド・レスポンスのコーラス隊、
パーカッション・アンサンブルそれぞれがサウンドの中でくっきりと立ち上り、
いずれのパートも前景にも後景にもならない緊密な関係が、
メリハリに富んだ構成を生み出しています。

ガラガラ声のスレイモンのコブシを要所要所で炸裂させながら、
グルーヴを巻き上げるパーカッション・アンサンブルに、
いつの間にか夢中にさせられてしまう、これぞフジの醍醐味じゃないですか。

シンセやギターなどのアンサンブルが登場する場面も要所だけに限り、
アクセントに徹しているところも、本来のフジのサウンドをジャマしていなくて、
好感が持てますねえ。
今作も大満足のスレイモンのフジでありました。

Sulaimon Alao Adekunle Malaika "EXAMPLE" Babalaje/Golden Point Music no number (2019)
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エチオピアン・コンテンポラリー・フォークロア ミキヤス・チェルネット

Mikiyas Cherinet  10 KE10 YEGEBASHAL.jpg

全14曲77分超って、どんだけ詰め込めば気が済むのかという感じですけど、
この長さを飽きさせず聞かせる実力は大したものです。
またも知らないエチオピアの若手男性シンガーのアルバム。
ミキヤス・チェルネットと読むんでしょうか。
YouTube をチェックすると、2010年代に入ってから出てきた人みたいです。

新作の1曲目がレゲエだったので、レゲエ・シンガーかと思いきや、さにあらず。
ライト・タッチなコブシ回しも鮮やかに、
エチオピア民俗色をたっぷりと薫らせた曲の数々を歌っています。

アクのない聴きやすい声質のせいか、するすると聞き流してしまいがち。
スムースすぎて引っ掛かりがないシンガーなのに、
何度も聴き返したくなる魅力があるんです。
気合を入れて、じっくり耳を傾けてみると、かなり歌唱力のある人だとわかりました。
さっぱりとした歌い口に、晴れ晴れとした爽やかな歌いぶりで、
よく伸びるハイ・トーンを振り絞るように歌ったり、
ヴィブラートをかけて歌ったりと、コブシの技巧も抜群です。

プロダクションの方も、4~5人のアレンジャーを起用して制作するのが
近年デフォルトとなったようで、
かつてのナホンのような金太郎飴サウンドに堕することなく、
アレンジャーの個性を生かした、カラフルなアルバムに仕上がっているのも嬉しいですね。

マシンコ、ケベロをフィーチャーして、男女コーラスとのコール・アンド・レスポンスで
歌う3曲目‘Turinafa’ 、アクースティック・ギターと打楽器の伴奏で聞かせる4曲目‘Kiya’、
グラゲのリズムを使ったダンサブルな5曲目‘Ziyozi’、
アコーディオン、マシンコ、クラール、ワシントを全面に押し出した
タイトル曲の6曲目という、民俗色を打ち出した中盤の流れが、すごくいいんです。
そして、アルバム・ラストの‘And New Demachin’ で聞かせる
アズマリを思わせる泥臭いビートとレゲエをミックスしたグルーヴが最高ですね。

Mikiyas Cherinet "10 KE10 YEGEBASHAL!" Vocal no number (2019)
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音数を減らして魅力増 カロル・パネジ

Carol Panesi  EM EXPANSÃO.jpg   Carol Panesi & Grupo  PRIMEIRAS IMPRESSÕES.jpg

イチベレ・ズヴァルギのグループに13年間在籍した
マルチ・プレイヤーのカロル・パネジの新作が、
注目のジャズ・レーベル、ブリックストリームから出ました。

ヴァイオリン、フリューゲルホーン、ピアノに加え、ポエトリー・リーディングや
ヴォイス・パフォーマンスも行うカロル・バネジは、18年にデビュー作を出したばかり。
そのデビュー作では、イチベレ・ズヴァルギのもとで身に付けた
エルメート・パスコアール直系の音楽性を繰り広げていました。

フレーヴォ、エンボラーダ、マラカトゥなどの北東部音楽に、
サンバやショーロなどのブラジルの豊かな音楽的伝統を背景に、
クラシックやジャズの高度な知識や技量を、これでもかというくらい見せつけていましたね。
初のリーダー作に意欲満々で勢いあまったというか、
あれもこれもと詰め込みすぎて、ちょっと未整理な印象も残ったんですけれど。

エルメート・パスコアールがゲストに加わった曲は意外に(?)悪くなかったけど、
弦楽三重奏をゲストに迎えた曲などは、
弦とピアノ、シンセのハーモニーがごちゃごちゃしすぎ。
複雑な展開のコンポジションは、それぞれのパートが引き立つアレンジを施してこそ、
スリリングな演奏となるところ、多すぎる楽器音がぶつかりあってしまい、
かえってスリルを減じているのが気になりました。

2作目となる本作は、ピアノがギターと交代し、ゲストはなし。
音数がすっきりと抑えられてスキマが生まれたことで、
サウンドにぐっとメリハリがつきましたね。
カロルが多重録音したヴォーカル・ハーモニーをバックに、
ポエトリー・リーディングするトラックも、
デビュー作での試みとは格段の差じゃないですか。

美しいハミングを際立たせるアレンジも良くなりましたね。
これも音数を少なくしたからこそで、
ブラジルのジャズならではのスキャットが浮き立ちます。
1曲目のマラカトゥから、ヴァイオリンがラベッカふうのぎこぎこ音を立てるパートと、
クラシックらしい優美な音色を奏でるパートが交互に入れ替わり、
メリハリの利いたアレンジがコンポジションの良さを引き立てています。

ラストの軽快なタンボリンに導かれるサンバから、
するりと変拍子に移っていくコンポーズもすごくいい。
ナイロン・ギターもヴァイオリンも柔らかい音色で、
変拍子だというトリッキーさをみじんも意識させないところが、うまいなあ。

Carol Panesi "EM EXPANSÃO" Blaxtream BXT030 (2019)
Carol Panesi & Grupo "PRIMEIRAS IMPRESSÕES" Maximus 5.071.607 (2018)
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ミドルティーンのジャマイカン・ジャズが出発点 モンティ・アレキサンダー

Monty Alexander  WAREIKA HILL RASTAMONK VIBRATIONS.jpg

その昔、ジャズ・ピアニストのモンティ・アレキサンダーがレゲエを取り上げるのを、
鼻白む思いで見ていた時期がありました。
いくらモンティがジャマイカ生まれとはいえ、
裕福な家庭に育ったお坊ちゃま君のモンティが、
まるっきり境遇の異なる貧しい若者たちが生み出したレゲエを、
かすめ取ってるように見えたからなんですけれども。

そんな見方が変わったのは、モンティが17歳で渡米する前、
すでにピアニストとしてコクソン・ドッドやクリス・ブラックウェルのもとで、
レコーディングしていたことを知ってからでした。
なんでも学校帰りに、中坊の制服のままスタジオ入りして、
年上のジャマイカン・ジャズのミュージシャンたちに交じって、
ピアノを弾いていたんだそう。

時代はレゲエ誕生前どころか、まだスカさえ生まれていない50年代末。
メントとR&Bがミックスしたような音楽をやっていたプレ・スカの時代に、
オーウェン・グレイやブルース・バスターズなどの伴奏を
務めていたというのだから、びっくりです。
そんな現場経験を、わずか14・5・6で積んでいたとは。
70年代からアーネスト・ラングリンとよく共演しているのも、
すでにジャマイカ時代から先輩ミュージシャンとして付き合いがあったからだったんですね。
オスカー・ピーターソン・マナーの華やかなタッチのピアノを弾くモンティからは、
ちょっと想像のつかない駆け出しの時代のエピソードです。

モンティがのちにレゲエをよく演奏するようになったのも、
レゲエ誕生期に居合わせなかった欠落を、
ジャマイカ人音楽家として埋めようとしているのかもしれないなと、
好意的に見るように変わったのでした。

そんなモンティが昨年出していたアルバムが、
なんと『ワレイカの丘 ラスタモンク・ヴァイブレーションズ』と聞いて、
興味がわきました。
ワレイカの丘とは、リコ・ロドリゲスの名作『ワレイカの丘からの使者』で知られるとおり、
かつてラスタファリアンのコミューンがあった場所。
そして、ラスタモンク・ヴァイブレーションズとは、
セロニアス・モンクの曲をレゲエ化する今回の企画を
ボブ・マーリーの『ラスタマン・ヴァイブレーション』を借用して、もじったわけですね。

ラスタとモンクって、いったいどういう繋がりなのかと思いきや、
モンティ本人が書いた解説を読むと、モンティの自宅の裏がワレイカの丘だったそう。
8歳の頃、ワレイカの丘を登っていくラスタファリアンたちを遠目にみながら、
遠くから聞こえてくるドラムの音や大麻の匂いなどを嗅いで、
ラスタを意識するようになったといいます。
やがて中学生になってスタジオで演奏するようになると、
ミュージシャンの中にはラスタもいて、
そこで初めて本物のラスタファリアンを知ったのだそうです。

そんな当時、スタジオで一緒だったトランペット奏者ジャッキー・ウィラシーから、
セロニアス・モンクを教えられたとのこと。
ジャッキーは「モンクは違う。ほかとは違うんだ」と言っていたのが頭から離れず、
63年にファイヴ・スポットではじめてモンクを観て、
ジャッキーの言になるほどと納得したそうです。

そんな少年時代の思い出を結び付けたのが今回の企画で、
ナイヤビンギのドラム、ケテを叩くプレイヤーも3人加わり、
ラスタファリのルーツ・レゲエを色濃く表しています。
そして、モンティ自身の音楽性からはかなり遠いといえる、モンクですけれど、
レゲエ化することによって、モンクの曲が持つユーモラスな楽しさを引き出した
秀逸な作品となりました。
‘Misterioso’ ‘Natty’ ‘Well You Needn't’ といったモンクの名曲が、
めっちゃくちゃキュートになるんです。これは聴きものですよ。

Monty Alexander "WAREIKA HILL RASTAMONK VIBRATIONS" MACD no number (2019)
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ネオ・ソウル・ジャズの俊英 ジョー・アーモン=ジョーンズ

Joe Armon-Jones  TURN TO CLEAR VIEW.jpg

モーゼズ・ボイドの新作で、まっさきにクレジットの名前を探したのが、
鍵盤奏者のジョー・アーモン=ジョーンズでした。
‘2 Far Gone’ でのプレイに、おぉ!と引き込まれたからです。
ジョー・アーモン=ジョーンズと知って、なるほどとナットク。

多彩な才能を次々と輩出している南ロンドンのジャズ・シーンで、
アシュリー・ヘンリーやカマール・ウィリアムズなどとともに、
ジョーも注目を集めるピアニストの一人で、
先日エズラ・コレクティヴの一員として、来日したばかりですね。
東京公演がコロナ騒ぎで飛んじゃったみたいですけれど。

そういや、昨年出たセカンドをまだ聴いていなかったなと思い出し、
早速試してみました。18年のデビュー作“STARTING TODAY” や
話題のエズラ・コレクティヴ同様、なぜか手は伸ばさずにいたんですけれど、
今回はなんかヒラメクものがあって、試聴もせずに購入。
カンは当たったというか、まさに出会うべきタイミングだったのか、
すっかりトリコとなっています。

冒頭‘Try Walk With Me’ のゆるやかなダブ的空間に、
たゆたうヴォーカルやトランペットがざまざまな色合いを変化させるサウンドに
グイグイ引き込まれました。バックで叩いているモーゼズ・ボイドも、
グルーヴを保ちながら、さまざまな変化をビートに加えています。
途切れずに2曲目の‘Yelow Dandelion’ へなだれ込んでいくところも、
すごくいい感じ。

グナーワに触発されたらしいタイトルの3曲目は、
グナーワのグの字もなく、グナーワの影はどこにも見当たらず。
ご本人、ホントにグナーワを知ってるのかと疑っちゃいますが、
それとは関係なくネオ・ソウル的なサウンドの質感がめちゃくちゃ気持ちいい。

モーゼズ・ボイドの新作と共通しているのは、
ヒップホップやR&Bの影響より、
クラブ・ミュージック経由したサウンドを特徴としていること。
ジェストのラップがフィーチャーされるトラックを聴いていても、
USとUKの違いを感じますよねえ。特にジョーの作品は、
ネオ・ソウルと現代的なジャズを結び付けたサウンドが魅力的。
ラスト・トラックのふわふわとした軽いタッチのアフロビートなど、
いかにもこの人らしいな。

Joe Armon-Jones "TURN TO CLEAR VIEW" Brownswood Recordings BWOOD0207CD (2019)
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クラブ・ミュージックからジャズへ モーゼズ・ボイド

Moses Boyd  DARK MATTER.jpg

モーゼズ・ボイドがエクソダス名義で18年に出した“DISPLACED DIASPORA” の記事で
「すでにボイドはここから一歩も二歩も歩みを進めているはず」と書きましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-12-10
まさにそれを証明する新作が届きました。

重くもたったビートを繰り出す生ドラムスと、打ち込みを並走させた
冒頭のトラック‘Stranger Than Fiction’ から、
ジャズとビート・ミュージックを融合させるボイドのネライが明確に伝わってきます。

ジャズの生演奏をもっとも強く打ち出した‘BTB’ は、
ジャズ寄りのアフロ・ファンクといったアプローチで聞かせるトラック。
分厚いホーン・セクションは、アフロビートを思わせるアレンジを聞かせるものの、
ベースは自在にうねりまくり、ドラムスは一定のビートしつこくを刻み続け、
余計なオカズを加えず変化をつけないところは、
アフロビートのリズム・セクションのフォーマットとは真逆です。
ところが、演奏全体としてはアフロビートを感じさせるのが面白いんだなあ。
アフロビートの新解釈というべき、良きお手本ですね。

後半になると、ポスト・プロダクションの打ち込みと
生演奏を並走させるトラックが多くなり、
モーゼズの生ドラムスが打ち込みのビートに聞こえたりして、
音像が脳内変換するような不思議な感覚に囚われます。
ぼくはこれを聴いていて、20年くらい前によく聴いていた、
ブロークン・ビーツやハウスなど、西ロンドン界隈でクロスオーヴァー化していた
クラブ・ミュージックを思い起こしました。

New Sector Movements  DOWNLOAD THIS.jpg   Afronaught  SHAPIN’ FLUID.jpg
Nathan Haines  SOUND TRAVELS.jpg   CHILLI FUNK RECORDINGS V DUB TRIBE SOUND SYSTEM.jpg

そこで、まっさきにCD棚から引っ張り出した、
IGカルチャーのメイン・ユニット、ニュー・セクター・ムーヴメンツが、どハマリ!
ボイドがポスト・プロダクションで作り込んだドラムのパーツごとの音色の選択なんて、
完全に相通じるじゃないですか。
この当時西ロンドンでアフロ、ソウル、ハウス、テクノと拡張していた
エクレクティックなクラブ・ミュージックのサウンドの質感が、
モーゼズ・ボイドがここで試みているサウンドと地続きなのを感じます。

20年ぶりくらいに聴き返したニュー・セクター・ムーヴメンツが、めっちゃ新鮮で、
さらに棚を掘り起こしてアフロノウトやネイサン・ヘインズなどなど、
当時のクラブ・ミュージック熱を再燃させるきっかけとなった、
モーゼズ・ボイドの新作でした。

Moses Boyd "DARK MATTER" Exodus no number (2020)
New Sector Movements "DOWNLOAD THIS" Virgin 7243-8-49922-2-4 (2001)
Afronaught "SHAPIN’ FLUID" Appollo/R&S 049CD (2001)
Nathan Haines "SOUND TRAVELS" Chilli Funk CFCD005 (2000)
v.a. "CHILLI FUNK RECORDINGS V DUB TRIBE SOUND SYSTEM" Chilli Funk CFCD007-1,2 (2001)
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ビルマ映画黄金時代を飾る名優の歌 ウィンウー

Win Oo  Remember.jpg   Win Oo  MEMORIES OF FILM SONGS.jpg

60~70年代に映画俳優として活躍し、のちに監督も務めるまでになった
ウィンウー(本名ラミン、1935-1988)は、ミャンマー映画界の重要人物。
67年と70年にミャンマーのアカデミー賞を2度受賞していて、
出演した映画の挿入歌はもちろんのこと、歌手としても活躍したほか、
脚本も31本書き、ビルマ時代の大衆芸能に大きな足跡を残した人だったのですね。
往年の映画シーンはYouTube にもたくさんアップされていて、
先日亡くなった「エースのジョー」こと宍戸錠を思わせます。

そのウィンウーの往時の録音が、リマスターされて復刻されています。
昨年入手した『想い出の映画挿入歌集』は、ちょっと選曲が好みじゃなかったんですが、
今作はすごく気に入っています。
『想い出の映画挿入歌集』は、いきなりマヒナスターズの「お座敷小唄」で始まるという、
日本人にはビックリな選曲集で、ラテンにジャズにワルツと洋楽の影響色濃い流行歌集で、
ミャンマーらしい曲が少ないのが、ぼくには物足りませんでした。

しかし今作は、冒頭からオルガンに銅鑼などの伝統楽器の伴奏にのせて、
ミャンマー音階を使ったメロディで歌う曲に始まり、
サイン・ワインにサンダヤーを伴奏にした伝統歌謡などが前半に並び、引き込まれます。
中盤あたりから、ラテンやノベルティな曲が出てくる曲順がいい感じ。
外国曲のカヴァーでは、コニー・フランシスの「可愛いベイビー」が出てきますよ。
ウィンウーの甘やかな声で歌うクルーナー・ヴォイスも、
この時代の雰囲気を横溢していて和めますね。

Win Oo "KHAING MAR LAR HNIN SI" M United Enertainment no number
Win Oo "MEMORIES OF FILM SONGS" M United Enertainment no number


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伝統フナナーを再興した知られざる立役者 シャンド・グラシオーザ

Chando Graciosa  SABURA KA TA MATA.jpg

オスティナートがまとめた伝統フナナーのコンピレをきっかけに、
フナナー周辺をいろいろチェックしてみたところ、
かつてフェロー・ガイタを結成したシャンド・グラシオーザが
新作を出しているのに気付きました。

シャンド・グラシオーザは、伝統フナナー再発見のキー・パーソン。
フェロー・ガイタを結成したばかりでなく、
サンティアゴ島の老アコーディオン奏者ビトーリを発見し、
演奏活動に消極的だったビトーリを説得してコンビを組み、
ヨーロッパをツアーして、伝統フナナーの復興に努めてきた人です。
オスティナート盤には、ビトーリのあとコンビを組んだアコーディオン奏者の
チョタ・スアリと共演した06年作から、‘Nha Boi’ が選曲されていました。

Tchota Suari & Chando Graciosa  VALOR SEM FAVOR.jpg

フェロー・ガイタについては、デビュー作をリリースする前に
金銭関係のトラブルがもとでグループを抜けてしまったため、
シャンドはその名を残すこともなく、
その後ビトーリと活動するも、フェスティヴァルに参加するコネクションができずに
苦戦を強いられてきたようです。マネジメントに恵まれず、
思うように活動ができていないようで、
そんな不満をぶちまけたインタヴュー記事を読んだことがあります。

Chando Graciosa  SIMINTÊRA.jpg

フェロー(金属製ギロ)をかき鳴らしながら歌うシャンドは、
サビの利いた声の、野趣に富んだ味わいのある歌手なんですが、
これまでのアルバムは、カーボ・ヴェルデのコミュニティだけでしか
流通していないインディ盤ばかりで、
世界にほとんど知られていないのは残念でなりません。
02年作も低予算の打ち込み使いのアルバムでしたけれど、
アコーディオンとフェローをしっかりと使って、
気合の入ったフナナーを聞かせてくれていました。

新作もフナナーを全面に押し出したアルバムで、
軽やかに疾走するリズムに、う~ん、気分もアガりますねえ。
アコーディオンとフェローが生み出すビートを核に、
シンセでサウンドに彩りを加えた快作となっています。
スークース調ギターをフィーチャーしたルンバあり、
終盤にはズークも2曲連続でやっていますよ。

シンセの扱いが90年代のポップ・フナナーと違い、
アコーディオンの後方でシンセをレイヤーさせる処理が巧みで、
フナナーのグルーヴを重視していることがよくわかります。
シャンドの重量感のあるヴォーカルも歌手としての力量を感じさせ、
聴き応えのあるアルバムとなりました。

Bitori Nha Bibinha & Chando Graciosa.jpg   Petural  BAÍNO.jpg

実はこの新作を見つけた折、偶然にも他のオンライン・ショップで、
なんとビトーリとの共演盤を発見しちゃったんです!
以前アナログ・アフリカが2曲削って復刻したリイシュー作のオリジナル盤です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-10-21

20年近く探しても見つからなかったCDで、
よくまあデッドストックが残ってたもんだなあ。
オランダにあるカーボ・ヴェルデ移民コミュニティの小さなレーベルから出たもので、
もう1枚、シャンド・グラシオーザがビトーリを
ヨーロッパに紹介するために組んだグループ、
ペトゥラルのCDまであったのには、オドロキ。

ペトゥラルはシャンドが組んだのに、なぜか本人は参加しておらず、
フェロー・ガイタの時みたいなイザコザがあったのかな?
いやぁ、それにしても、見つかる時ってのは、こういう偶然が重なるもんですねえ。
まぁ、こんなCDを探すような物好きは、世界でもぼくだけなんだろうけど
(アナログ・アフリカ主宰サミー・ベン・レジェブの言)。
この新作が少しでも聴かれるようになると、いいんですけれどねえ。

Chando Graciosa "SABURA KA TA MATA" Lo no number (2017)
Tchota Suari & Chando Graciosa "VALOR SEM FAVOR" Giva Productions GIVA2001 (2006)
Chando Graciosa "SIMINTÊRA" Tradiçon T003 (2002)
Bitori Nha Bibinha & Chando Graciosa "BITORI NYA BIBINHA & CHANDO GRACIOSA" CDS Music Center CDS09.98/3 (1998)
Petural "BAÍNO" CDS Music Center CDS05.99/5 (1999)
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カーボ・ヴェルデ移民の若者たちが再発見した伝統フナナー

Pour Me A Grog.jpg

ヴィック・ソーホニーが主宰するオスティナートから、
伝統フナナーの編集盤が登場しました。
これまでオスティナートが復刻してきたのは、
エレクトリック化したポップ・フナナーでしたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-09-08
今回はアコーディオン(ガイタ)と金属製ギロ(フェロー、またはフェリーニョ)に、
ベース、ドラムスのリズム・セクションを加えた
伝統色濃いフナナーをたっぷりと楽しめます。

フナナーは、バディウスと呼ばれる奴隷の末裔にあたる下層庶民の間で育まれた音楽で、
今回の編集盤の解説のなかでも、バディウスはジャマイカのマルーンや、
ブラジルのキロンボに匹敵するコミュニティだったと強調されています。
かつてフナナーは、ダンスが煽情的すぎると教会から敵視され、
植民地政府からも歌詞が解放闘争を助長すると危険視されて禁止となったことから、
かえってバディウスたちにとって、抵抗のシンボルとなりました。
レユニオンのマロヤとまるで同じ歴史をたどったわけですね。

そして、伝統フナナーを再発見したプロセスが、イイ話なんですよねえ。
欧米に渡ったカーボ・ヴェルデ移民の若者たちは、
アコーディオンをシンセに置き換え、エレクトリック・ギターを取り入れて
フナナーをポップ化しましたけれど、故郷に戻ってバディウスの古老たちから、
伝統フナナーを直接学ぶようになったんですね。
それによって、サウンドをアクースティックに戻すとともに、
伝統ガイタを単に再現するのではなく、
ベースとドラムスでフナナーのビートを強化したのでした。

そんな90年代末のフナナー再評価の立役者、
フェロー・ガイタを1曲目に置いているんですが、これが実はフナナーじゃないんですね。
‘Rei Di Tabanka’ というタイトルどおり、この曲はタバンカ。
フナナー同様、バディウスにとって重要なダンス・リズムのひとつです。

フナナーとよく似た4分の2拍子のリズムですけれど、
途中に二連の16分音符が入るところがフナナーと違うんですね。
フナナーがタッタ、タとなるところ、
タバンカはタッタタッタと、フナナー以上の疾走感が出ます。
なぜフナナーでなくタバンカの曲を選曲したのかわかりませんが、
解説にもタバンカについてはまったく触れられていません。

Ferro Gait  Rei Di Tabanka.jpg   Ferro Gaita  Rei De Funana.jpg

フナナーをテーマとした編集盤で、タバンカをいきなりトップに選曲したのがナゾですけど、
この曲は、フェロー・ガイタのセカンド作のタイトル曲ともなった彼らの代表曲です。
拙著『ポップ・アフリカ800』に選盤した、
フェロー・ガイタのフランス、ルサフリカ盤にも収録されています。
ちなみにこのルサフリカ盤は、カーボ・ヴェルデの現地盤で出たデビュー作と、
このセカンド作から選曲した編集盤なのです。
で、タイトルを『タバンカの王様』から、『フナナーの王様』に変えたんですね。

Ferro Gaita, Etalvino Preta, Tchota Suari, Avelino, Orlando Pantera, Peps Love, Bitori, Fefé Di Calbicera
"POUR ME A GROG: THE FUNANÁ REVOLT IN 1990S CABO VERDE" Ostinato OSTCD008
Ferro Gaita "REI DI TABANKA" Ferro Gaita Production no number (1999)
Ferro Gaita "REI DI FUNANA" Lusafrica 02305-2 (2000)
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シャッフル・ブギーからスカへの道のり プリンス・バスター

Prince Buster  ROLL ON CHARLES STREET.jpg

う~ん、この時代のスカは、やっぱサイコーですね!
スカ誕生期に活躍した名プロデューサー、
プリンス・バスターの仕事をセレクトしたコンピレーション。
未発表曲/テイクだけでたっぷり11トラックも収録した、
貴重なリイシュー・アルバムなんですが、マニア向けの編集とはなっておらず、
プリンス・バスターがいかに重要人物だったかを浮き彫りにした名編集盤です。

ローランド・アルフォンソ、ババ・ブルックス、レイモンド・ハーパー、
レスター・スターリングなどジャズ出身のミュージシャンたちによる
ジャズ色の濃い演奏からスタートし、次第にR&Bの影響を受けて
スカのスタイルが確立されていく60年代前半の様子が、
手に取るようにわかる選曲となっているんですね。
時代を追って編集した曲の流れが実に見事で、
プリンス・バスターがジャマイカ音楽に残した軌跡をくっきりと捉えています。

シャッフルのブルースにスカのビートを萌芽させている、シャッフル・ブギーと称される
オープニングの‘Pink Night’ から、もうゴキゲン!
続く「A列車で行こう」のカヴァーも、ジャマイカン・ジャズがスカに変容していく瞬間を
捉えた名演といえます。どちらも未発表曲というのが驚きですけれど、
バスターのサウンド・システムでプレイするサウンド・マンだけに手渡されていた
ダブ・プレートとして有名なトラックだそうです、

さらに、ニュー・オーリンズR&Bのヒューイ・スミスのカヴァーを挟み、
バスターの代表曲‘Rude Rude Rude (Don't Throw Stones)’ がウナりますねえ。
ラテン・ボレーロの大スタンダードの「キサス・キサス」が、
ジャマイカのルードボーイ・チューンとして蘇った痛快なトラックです。
ほかにもドン・ドラモンドのトロンボーンをたっぷりとフィーチャーした曲など、
ほぼスカタライツといってよいトラックもあります。

久しく聴いていなかったヴィンテージの香り高いクラシック・スカの名セレクション、
堪能いたしました。

Prince Buster 「ROLL ON CHARLES STREET」 Rocka Shaka RSPBCD001
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コモロのモダン・ターラブ サリム・アリ・アミール

Salim Ali Amir  TSI WONO ZINDJI.jpg

30年のキャリアをほこるコモロ音楽のフィクサー、
サリム・アリ・アミールの新作が届きました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-02-07
哲学者のような顔立ちと、瞑想するが如く
静かに目を閉じているポートレイトは、風格を感じさせるもので、
深みのある色合いと相まって、いいジャケットだなあと、しばし眺めてしまいました。

本作で12作目となる新作、
コモロ歌謡に溶け込んだ多様な音楽要素が芳醇な香りを放っていて、
コモロ現地産のモダン・ターラブを堪能できる仕上がりとなっています。

オープニングの‘Watsha Waseme’ は、
ハリージのようなつっかかるリズムが印象的なナンバー。
このリズムはコモロの伝統リズムなのだそうで、ハリージと似たニュアンスがあるのは、
ターラブがアラブ湾岸諸国との交流から生まれたスワヒリ文化を象徴しているとも、
いえるのかもしれませんね。

ロック・ギターぽいリフや、
80年代ポップ・ライのようなシンセ・ソロまで聞けるところは、
近年のアラブ/マグレブ歌謡をも呑み込んでいる証しでしょう。
もう1曲ハリージぽいリズムが聞ける‘Ankili’ では
ターラブぽいメロディを、ウードやカーヌーンをフィーチャーして聞かせていますよ。

60年代アラブ歌謡の色濃い‘Na Andziwa’ の艶っぽい味わいもたまりません。
‘Maskini Mbaba’ ではメロディがインドぽく思えたり、
アコーディオンをフィーチャーした‘Msubuti’ は、ムラユみたいなメロディ
とサレギのようなリズムが聞け、遠くアジアから近隣のマダガスカルまで、
多彩な音楽のミクスチャーが楽しめます。
ラストの‘Ushindzi’ は、なんとエレクトロ仕立てで、ちゃんと現代とも呼応しています。

サリムの深みのある声と諭すような歌いぶりに、ほっこりとした温かみがあって、
現地のプロダクションならではのローカルな味わいと、絶妙にマッチしていますね。

Salim Ali Amir "TSI WONO ZINDJI" Ankili 57/12/19/SAA (2019)
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魅惑の60年代南ヴェトナム歌謡

NHAC TIỀN CHIẾN VOL 1.jpg

オールド・デイズな演出を施したジャケット写真に、
古いヴェトナム歌謡をリヴァイヴァルした企画アルバムと思いきや、
まさしく50年代後半から60年代初め頃とおぼしき音楽が流れてきて、驚愕!
新作ではなくて、デッドストックだった古い1枚で、
印刷の感じからして、90年代のアメリカ製と思われるCDです。

内容は、全世界的なロック流行前の、都会の紳士淑女のための大衆歌謡。
タイに例えるなら、まさしくルーククルンといった世界。
ナイトクラブなどで歌われていたのであろうラウンジーな演奏で、
オーケストラ伴奏ではなく、少人数のコンボ演奏がほとんど。

うわぁ、こんな時代のヴェトナム歌謡、初めて聴いたなあ。
8人の歌手による12曲を収録していて、
「美しい昔」の代表曲で知られるカーン・リーも名を連ねていますけれど、
チン・コン・ソンの曲で有名になる後年の歌声とはだいぶ違い、
まだチン・コン・ソンと出会う以前の、クラブ歌手時代の録音のように思えます。

ラウンジーといっても、マレイシアのP・ラムリーやサローマのような
ジャズやラテンの要素が希薄なのは、フランスの植民地ゆえでしょうね。
しみじみとした暗い曲が多いんですけれど、演歌調にならず、
乾いた情感のあるところが、ルーククルンと共通性を強く感じるところですね。

もう少し時代が下ると、サイゴンでは
ビートルズなどロックの影響を受けた音楽も盛んになり、
そういった録音は、ドイツのインフラコム!が
“Saigon Supersound” のシリーズでコンパイルしましたね。
このCDはそれより以前の時代の音楽ということになります。

タイトルに大きく「ニャック・ティエン・チエン」とあり、「戦前音楽」を意味します。
この戦前とはヴェトナム戦争を指すのではなく、
フランスと戦った独立戦争のインドシナ戦争を指しているので、
1954年以前の音楽ということになるんですね。

しかし、このCDに収録された音源は録音が良く、
分離の良いステレオ録音からすると、54年以前の録音のはずがなく、
もっと後年の録音であることは明らかです。
45年生まれのカーン・リーが、クラブ歌手時代に録音したと考えると、
どんなに早くても60年代前半でなければつじつまが合いません。

インドシナ戦争後、南北にヴェトナムが分断されると、
北ヴェトナムではニャック・カック・マンと呼ばれる革命のための音楽が盛んとなりますが、
南ヴェトナムでは欧米の音楽の影響を受けたナンパなポップスが盛んになるという、
真逆の傾向を示します。共産国家と民主国家の典型的な構図ですね。

当時、年配向けにニャック・ティエン・チエンふうの曲も作曲され続け、
南ヴェトナム時代(54~75年)に作曲された曲も含め、ニャック・ティエン・チエンと
呼ばれることもあるようです。近年ブームとなったボレーロは、
南ヴェトナム時代の曲を含むニャック・ティエン・チエンと同義と思っていいのでしょう。

このCDに収録されたシー・プー、ハー・タン、レー・トゥ、
タイ・タン、タン・トゥイ、アン・ゴックは、南ヴェトナム時代に
ニャック・ティエン・チエンの歌手として人気を呼んだ歌手たちだそうです。
すると、本作はニャック・ティエン・チエンといっても、54年以前のものではなく、
南ヴェトナム時代の録音なのでしょう。ラスト・トラックのエレキ・ギターの音や
馬が走るSEに至っては、70年代以降の録音であることは確実です。
ジャケット写真の明らかなノスタルジー演出が、それを表していて、
最初にリヴァイヴァル企画作と思ったのは、結果として正解だったみたいですね。

ヴェトナムにもこういう音楽が流れていた時代があったのかとカンゲキして、
いろいろ調べてみましたが、
やっぱりぼくは、ロック流行以前の大衆歌謡が、一番好きだなあ。
ギターとトランペットが間奏をとる曲なんて、30年代の昭和歌謡をホウフツとさせますよ。

そうそう、1曲すごく面白い曲(‘Suối Mơ’)があるんです。
イントロにスティール・ギターが大々的にフィーチャーされるんですけれど、
ハワイアンなんかじゃなくて、ダン・バウ(一弦琴)を模した演奏になっているんですね。
この曲には、ほかにダン・チャン(箏)や笛も使われていて、
伝統音楽の要素がない曲揃いのなかで、ユニークな仕上がりとなっています。

Sĩ Phú, Hà Thanh, Khánh Ly, Lệ Thu, Thái Thanh, Thanh Thúy, Anh Ngọc, Ban Thăng Long
"NHAC TIỀN CHIẾN VOL 1" Tinh Hoa Mien Nam THMNCD003
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知られざるチリの都市大衆歌謡

CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2  FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA.jpg

SP時代のチリ音楽を編集した2枚組CDですって?
「1927年から1957年」とあるので、
第二次世界大戦をはさんだ前後30年間の録音ということになります。

へぇ~、そんな時代の音源なんて、聴いたことがありませんねえ。
だいたいチリの音楽じたい、ビオレッタ・パラが歌った民謡とか、
クエッカやトナーダといったフォルクローレのレコードくらいしか
聴いたことがないんだから、ほとんど知らないに等しいもんです。

しかも、タイトルを見ると、フォルクローレを集めたものではなく、
どうやら都市歌謡に焦点を当てたもののよう。
チリの都市大衆歌謡??? 思い当たるところでは、
メキシコへ渡って大スターになったルーチョ・ガティーカとか、
アルトゥーロ・ガティーカといったチリ人歌手は確かにいますけど、
ああいった汎ラテン的歌手が歌った大衆歌謡を集めたものなんでしょうか。

う~ん、どんな歌を収録しているのやら、聴く前からワクワクしていたんですが、
こりゃあ、スゴイ。チリの大衆歌謡がこれほどヴァラエティ豊かなものだとは、
まったく知りませんでした。自国のクエッカ、トナーダ、バルスはじめ、
タンゴ、ルンバ、サンバ、ボレーロなどチリ周辺国のレパートリーはもちろんのこと、
フォックス・トロット、ポルカ、スウィング、ブギウギまで飛び出してくるんです。

うわぁ、こりゃ、まるでチリの「ジャズソングス」じゃないですか。
ブギウギはさすがにアメリカ産ですけれど、
ヴァイオリンとアコーディオンが加わっているところがミソで、
アメリカ音楽より、ヨーロッパの影響が強く感じられます。
フォックス・トロットやワン・ステップのレパートリーの演奏に、
ヨーロッパ経由を感じさせるほか、
ディスク2のキンテート・スウィング・ホット・デ・チレは、
ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリの
フランス・ホット・クラブ五重奏団をまんまコピーしています。
フランスからの影響がこれほど強いとは知りませんでしたねえ。

聴き進むほどに、驚きが連続するアンソロジー。
意外なほどに欧米音楽の影響が強く、洗練された都市歌謡が存在していたことに合わせて、
チリ独自の音楽が発展しなかった理由も垣間見れるところが面白い。
フォルクローレだけを追っかけていたら、
けっして発見できないチリ都市歌謡の魅力満載です。

いやあ、こりゃ、とんでもないお宝もののリイシュー・アルバムですね。
サンティアゴ・デ・チレ大学ラジオ局による制作とのことで、
教育機関が大衆歌謡にスポットをあてることも、驚くべきことじゃないですか。
フォルクローレならいざしらず、アカデミズムが一番敬遠しがちなテーマだというのに。
このアンソロジーは、今後チリ音楽を語るのに、
常に参照されることになることウケアイですね。
2020年ラテンのベスト・ディスカバリー・アルバムです。

v.a. "CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2: FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA, 1927-1957"
Radio Universidad De Santiago no number
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人力演奏で再現した80年代ポップ・ライ ナディム

Nadim.jpg

ひさしぶりにイキのいいライを聞けました。
生のドラムスにダルブッカが重量感のあるロック・ビートを叩き出すんですけれど、
いやぁ、痛快ですねえ。
マイナー・レーベルのローカル作品は打ち込みに頼るのが一般的なので、
こんなに生演奏を全面に押し出したライは、長年聴いていなかった気がします。
レイヤーされたシンセの合間を縫うように、
エレクトリック・ギターとガスパ(葦笛)が存分に暴れ回っていますよ。

カルカベも加わる‘Daoui Galbi’ では、ストリングスやホーン・セクションまで起用する
ゴージャスさに、ちょっとびっくり。
続く‘Rebi Ki N'Dira’ では、ストリングス・セクションにウードも使っていて、
曲ごとにさまざまな工夫が施されています。
ロック調の‘Mme Amokrane’ では、アコーディオンが起用されていますね。

ラスト2曲は、エレクトロなリミックスを施した収録曲のヴァージョンと
インスト・ヴァージョンをボーナス的に置いています。
いやぁ、ローカル作品でこれだけ力の入ったプロダクションは、珍しいですねえ。
わずか33分という短さですけど、堪能しました。

いかにもヴェテランらしいオヤジ顔をした主役のナディムですけれど、
確か同じ名前のライ・シンガーのCDを持っていたはずと、
棚を探してみたところ、手元にあったのはもっと若いシンガーで、別人でした。
どうやらこちらのナディムは、かつてハレドとシェブ・マミが主演した97年のライ映画
“100% ARABICA” のサントラに1曲収録されていた人のようです。
ハレドを小粒にした感じの声もおんなじだし。

そのサントラでは、ビラルの曲を歌っていましたけれど、
本作はすべて自作曲で、リミッティに捧げた曲やタイトルなどから考えると、
ポップ・ライ誕生期のサウンドを人力演奏で回帰することがネライだったのでしょう。
シンセとドラムマシンで作られた80年代ポップ・ライのサウンドを、
骨太なロック・ビートで強化し、シンセで代用していた葦笛のノイジーなサウンドを、
本物を使って再現した本作はそのネライを十分実現しています。

コブシ使いも確かな歌唱力のある人ですけれど、
本作のプロモーション・ヴィデオの再生回数の少なさには、ガクゼンとします。
半年以上前にアップされてるのに、再生回数100回に満たないって、
これじゃプロとは言えませんよねえ。人気のない人なんでしょうか。
これほど充実した作品が、知られぬまま埋もれるのは、もったいない気がします。

Nadim "AUX ANCIENS" no label no number (2019)
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花開いたヘイシャン=アメリカン・シンガーソングライター レイラ・マキャーラ

Leyla McCalla  CAPITALIST BLUES.jpg

レイラ・マキャーラの3作目となる新作、
音楽性がぐ~んと拡張した、素晴らしい作品になりましたよ。

ラングストン・ヒューズと自身のルーツのハイチ音楽を結び付けたデビュー作に、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-04-23
フレンチ・クレオールのルーツをさらに深めていったセカンド作と
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-07-03
これまでも意欲的な作品を送り出してきたレイラですけれど、
どこかまだ頭でっかちな面は否めませんでした。でも、今作は違います。

1曲目のタイトル曲は、レイラが弾くテナー・バンジョーに、
もう1台のテナー・バンジョーを加え、ピアノ、トランペット、クラリネット、
トロンボーン、チューバにトラップ・ドラムという編成で歌った
ニュー・オーリンズ風味のクラシック・ブルース。
レイジーなムード満点なノスタルジックなサウンドにイッパツでやられました。

CALYPSOS FROM TRINIDAD.jpg   Growling Tiger  KNOCKDOWN CALYPSOS.jpg

続く‘Money is King’ は、
往年のカリプソニアン、ザ・タイガーが34年に録音したカリプソ。
タイガーがプロになったばかりの18歳の時にニュー・ヨークで録音した曲で、
オリジナル録音は、アーフリー盤“CALYPSOS FROM TRINIDAD” で聞けます。
ただ、ヴィオラやトランペットをフィーチャーしたレイラのヴァージョンは、
このオリジナル録音ではなく、もっと後年のグロウリング・タイガー名義で出した
79年のラウンダー盤“KNOCKDOWN CALYPSOS” の演奏を下敷きとしたみたいですね。

もうこの2曲で、今のアメリカ社会に対するレイラの異議申し立てが
はっきりと表明されているのがわかります。
そしてぼくが一番感じ入ったのが、‘Aleppo’。
ぶっこわれたようなノイジーなギター・サウンドは、
空爆で市民が虐殺され続けているアレッポの現状と、
いっこうに世界がアレッポ市民の救援に動かない苛立ちを
表現しているように、ぼくには聞こえました。

ほかにもザディコの‘Oh My Love’ に
‘Settle Down’ ではハイチの大所帯バンド、ラクー・ミジクと共演。
思えば、昨年のラクー・ミジクのアルバム“HAITIANOLA” は、
ニュー・オーリンズに接近した作品で、レイラもゲスト参加していましたね。

今作のサウンドの立役者は、プロデューサーである
キング・ジェイムズこと、ジミー・ホーン。
ちなみに‘Aleppo’ で轟音ギターを弾いているのも、この人なんですね。
ニュー・オーリンズR&Bバンドのザ・スペシャル・メンを率いるバンド・リーダーで、
デイヴ・バーソロミューやファッツ・ドミノなどの古いニュー・オーリンズR&Bから、
サン・ラーやパンクも呑みこんだ音楽性の持ち主で、
彼の異才が本作のプロダクションに大きく貢献しています。
レイラは3作目にして、素晴らしい音楽パートナーと巡り合いましたね。

Leyla McCalla "CAPITALIST BLUES" Jazz Village JV570154 (2019)
Atilla The Hun, Lord Beginner, The Tiger, The Lion, The Caresser, The Growler, King Radio, Lord Executor and others
"CALYPSOS FROM TRINIDAD : POLITICS, INTRIGUE & VIOLENCE IN THE 1930S" Arhoolie CD7004
Growling Tiger "KNOCKDOWN CALYPSOS" Rounder CD5006 (1979)
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ティーラシンになったキンポーパンチ

Khin Poe Panchi 200126_01.jpg   Khin Poe Panchi 200126_02.jpg

年明け1月21日、キンポーパンチのフェイスブックの写真に驚愕!
なんと! ロング・ヘアをばっさりと剃髪してしまっているじゃないですか!!
えぇ~、キンポー、出家しちゃったんですか !?

ピンク色の袈裟にオレンジ色の帯を肩にかけて托鉢する写真や、
僧院で修行している様子、食事をとっている写真などが多数アップされていて、
キンポー、すごく満ち足りた表情をしています。
ずっとこの日を待ち望んでいたというふうですね。
フェイスブックの一般公開ページに載った写真を2枚だけ転載させてもらいました。

う~ん、去年キンポーパンチの新作が出た時に、
「敬虔な仏教徒のミャンマー伝統歌謡」という記事を書いたばかりですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-10-16
はぁ~、本当に信心深いんですねえ。

ミャンマーの上座部仏教について知識がないので、あわてて調べてみると、
出家したわけではなく、ティーラシンと呼ばれる女性修行者になったようです。
上座部仏教においては、女性は僧侶となれないため、尼僧は存在せず、
ティーラシンは女性修行者と呼ぶのが正しいようです。
出家に準じた生活を送るものの、身分的には在家者であるため、
男性の出家者に比べて俗的と考えられているとのこと。

男の子が得度式をするのと同じで、修行後はまた俗世に戻るのでしょうけれど、
ばっさり落とした髪の毛、歌手活動はどうするんでしょうか。
まさか還俗せず、そのまま仏門に入るわけじゃないよねえ。

一抹の不安をおぼえていたら、2月5日のフェイスブックに、
タイから来た8人の僧侶を迎える祝賀式典で、
おかっぱのウィッグを付けたキンポーパンチが、
1万人以上はいそうな広大な広場の最前列で、
キーボードを伴奏に歌っているヴィデオがアップされていて、ひと安心。

Khin Poe Panchi  KHAM NAR AHLU.jpg

ビックリさせられたキンポーパンチの近況でしたけれど、
実は、最新作が出ていたんです。
去年の12月16日に新作発表の記者会見がフェイスブックに載って、
8月に新作が出たばかりなのに、間をおかず新たな作品を出すとは絶好調の証し。

表紙の右上隅には、ゲストの男性歌手3人の写真が載っていて、
そのうちの一人、ウィンナインソーとは2曲でデュエットしています。
あとのタハーアウンとバンヤーハンはキンポー抜きで、それぞれ1曲歌っています。
キンポー・ファンにとっては、この2曲は無くても良かったかなあ。

今作はミャンマータンズィンあり、サイン・ワイン楽団伴奏の伝統歌謡ありと
ヴァラエティに富んだ内容となっています。
ウィンナインソーとデュエットするタイトル曲の1曲目は、
終盤で歌謡ロック調のバンド演奏から、
サイン・ワイン楽団にスイッチする形式のミャンマータンズィン。

一方、前作では登場しなかったサイン・ワイン楽団の伴奏が聞けるのも、
今回の聴きどころ。シンセを加えて、さらに華やかにしたサイン・ワインのサウンドが、
ベースとドラムスが加わるポップス調サウンドと、いい対比となっています。

Khin Poe Panchi "KHAM NAR TAE AHLU" Man Thiri no number (2020)
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インド洋と東アフリカ沿岸の文化混淆音楽 ボイナ・リジキ&スビ

Boina Riziki Et Soubi  BWENI MARIE.jpg   Boina Riziki & Soubi  Chamsi Na Mwezi.jpg

サリム・アリ・アミールのアルバムにフィーチャーされていたスビは、
ボイナ・リジキとのコンビで知られている人。
このコンビのアルバムでは、ターラブ研究で有名な民族音楽学者の
ウェルナー・グレブナーが制作したドイツのディジム盤がありましたけれど、
スタジオ1からもCDを出していたんですね。

マダガスカルのマルヴァニと同じ起源の箱琴ンゼンゼを弾くスビと、
イエメンのガンブースと起源を同じくする5弦楽器ガブシを弾くボイナ・リジキは、
ともにモヘリ島出身の伝統音楽家。97年にグランド・コモロ島のモロニで偶然に出会い、
モーリシャスやレユニオンのカヤンブと同型のシェイカー、
ムカヤンバを振る奏者を加えて活動を始めます。
その年にレユニオンで開かれた音楽祭で話題となり、
翌98年にスタジオ1でサリム・アリ・アミールのもと制作されたようです。

ディジム盤のライナーをあらためて読み直してみたところ、
このアルバムもスタジオ1でサリム・アリ・アミールがレコーディングしたもので、
著作権はスタジオ1にあり、
ディジムがライセンス契約で出したものだったことがわかりました。
両方のアルバムの曲目を眺めてみると、スタジオ1盤収録12曲中6曲が、
ディジム盤で再演されています。

2作にさほど違いはなく、両方のアルバムとも1曲目となっている‘Hamida’ が、
ディジム盤の方ではテンポが速く、歌のキーも上がっているくらいのものでしょうか。
イエメンではとうの昔に失われた古いガンブースが奏でる
コモロ伝統のンゴマやンゴドロのメロディは、アラボ・アフロな趣がいっぱい。
二人の強烈に泥臭いヴォーカルも味わい深く、ハチロクのグルーヴともども、
インド洋と東アフリカ島嶼部の今昔の音楽がないまぜとなっているのを感じます。

Boina Riziki Et Soubi "BWENI MARIE" Studio 1 BRS98
Boina Riziki & Soubi "CHAMSI NA MWEZI" Dizim 4503 (1999)
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コモロの汎インド洋ポップス  サリム・アリ・アミール

Salim Ali Amir  SHIYENGO.jpg

70年代ターラブ懐メロ集を制作した、
サリム・アリ・アミールのソロ・アルバムも入手できました。

62年生まれのサリム・アリ・アミールは、
コーラン学校にいた7歳の頃からカシーダを結婚式で歌い始め、
首都モロニのさまざまなイスラームの祭儀で引っ張りだことなり、
ラジオ・コモロで毎朝サリムの歌声が流れる国民的歌手となった人です。
83年にフランスの音楽賞を受賞してヨーロッパ・ツアーを行い、
コモロ出身の歌手として大成功を収めると、
89年からはモロニのスタジオ1でアレンジャーとして働き始め、
若い音楽家たちをサポートして、プロデューサーとしての活動をするようになります。

70年代ターラブ懐メロ集は、そうして生まれたアルバムだったようですけれど、
02年に出した本作は、数多くのミュージシャンが参加して、
サリムの幅広い音楽性を発揮した汎インド洋ポップスに仕上がっています。

オールド・スクールなアラブ歌謡調のターラブ‘Jellounah’ もあれば、
マダガスカルのサレギのリズムにのせた‘Mdwa Mbe’ では、
箱琴ンゼンゼを弾き歌う伝統音楽家のスビをフィーチャーするなど、
曲ごとに趣向を凝らしたヴァラエティ豊かな内容となっています。

ジョージ・ベンソンやロクア・カンザからの影響を公言するとおり、
ジャジーなセンスやメロウなソングライティングを随所に発揮したポップ・センスは、
ローカル・レヴェルのプロダクションをカヴァーして、あまりありますね。
インド洋由来のハチロクのグルーヴを活かしたリズム・アレンジも多彩で、
男性コーラスと女性コーラスの使い分けなど、細部にわたって
丁寧に作り込まれたプロダクションに職人技が光り、聴きどころがいっぱいです。

すっかり感心して愛聴していたところ、
昨年リリースされたばかりの新作の存在を知り、早速オーダーしました。
届くのが楽しみです。

Salim Ali Amir "SHIYENGO" Studio 1 no number (2002)
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コモロの庶民感覚溢れるターラブ

WAZAMANI VOL.1.jpg

インド洋に浮かぶコモロ諸島は、ザンジバルと同じく、ターラブが歌い継がれてきた島々。
コモロにも魅惑の南海歌謡が眠っている予感は十分するものの、
ヨーロッパのレーベルが制作するCDは、民俗音楽的なターラブばかりで、
大衆歌謡らしいターラブが聞けず、長年の欲求不満なのでありました。

コモロ現地制作のCDなら、
そうした大衆味のあるスワヒリ歌謡を聞けると思うんですけれど、
コモロ盤CDの入手はアフリカの中でも難関中の難関で、いまだ1枚も捕獲ならず。
ずいぶん昔に見つけたネット情報でウォント・リストは作ってあったものの、
入手するチャンスもなく、諦めきっていたのでした。

もはや存在すら忘れかけていた幻のコモロ盤CDですけれど、
つい最近、数枚のCDを入手することができて、舞い上がっています。
見つけたのは、グランド・コモロ島の首都モロニに住所を置く、
スタジオ1というレーベルのCD。
星降る夜にぽっかりと浮かぶ、コモロの由緒あるグランド・モスクをバックに、
イスラーム正装の男たちが描かれているジャケットが、スワヒリ・ムードいっぱいですね。
本作は6人の歌手によるオムニバス盤で、
70年代のヒット曲を再演したターラブ懐メロ・アルバムのようです。

制作年の記載がありませんが、90年代後半頃でしょうか。
コモロを代表する音楽家で鍵盤奏者のサリム・アリ・アミールと
ギタリストの二人によるプロダクションは、
いかにも低予算な作りとはいえ、サウンドは実によく組み立てられています。
ウードや弦セクション、アコーディオン、ベース、ドラムスもすべて鍵盤代用ながら、
このプロダクションは侮れませんねえ。
カジュアルな姿の庶民的なターラブをたっぷりと味わうことができて、嬉しくなります。

6人の男性歌手はいずれも中高年のヴェテランといった感じで、
70年代にオリジナル曲を歌っていた人もいるんでしょうか。
哀歓のこもったスワヒリ演歌あり、コモロ伝統のンゴマありと、カラーの異なる曲が並び、
ローカル感いっぱいのシンセ・サウンドは、ほっこりとした味わいがあって泣かせます。

インドネシアのカシーダやマレイシアのムラユそっくりの曲もあったりして、
70年代のオリジナル・ヴァージョンも聴いてみたくなりますねえ。
最後の‘Ufitina’ のみ、ホンモノのウードと太鼓をフィーチャーしていて、
より往年のターラブらしいアンサンブルを楽しめます。

Mohamed Mattoir, Ahmed Barwane, Youssouf Mze, S. Mohamed Chakir, Nassor Saleh, Seef Eddine Mchangama
"WAZAMANI VOL.1" Studio 1 no number
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ヨルバ風味アフロビーツ テニ

Teni  Billionaire.jpg

ナイジャ・ポップのシミの新作“OMO CHARLIE CHAMPAGNE, VOL. 1”、
待てど暮らせどフィジカル化の知らせは届かず(泣)。
CDは出さないつもりなんですかねえ、はぁ。
あきらめ物件となりつつあったところ、
テニなる新人女性シンガー・ソングライターのデビューEPが届きました。

一聴、クリアなビート音に、脳ミソがじーんと鳴る快感を覚えました。
近頃のナイジャ・ポップって、どれも音がすごく良くなっていますよね。
機材がいいのか、ミックスがいいのか、その両方なのか、
エンジニアリングに詳しい人に訊いてみたいなあ。
楽器音ひとつひとつの粒立ちが際立っているんだけれど、
耳に痛いサウンドとはならず、ふくよかにまとめられているところが、すごくいい。

さて、テニことテニオラ・アパタは、93年レゴス生まれのシンガー・ソングライター。
子供時代はワシウ・アインデが好きだったというとおり、
フジとジュジュで育ったというアフロ・ポップのニュー・スターです。
テニの曲のことわざを多用する歌詞や物語の世界は、
フジやジュジュの影響から生み出されているものだそうで、
ヒット曲となった‘Billionaire’ にも、それが発揮されているといいます。

アフロハウスのビートにハイライフのギター・リフを組み込んだこの曲、
ノリウッド版「スラムドッグ$ミリオネア」みたいなヴィデオを観ると、
テニは渡辺直美をホーフツとさせる役者ぶりを発揮しています。
ジュジュやフジの影響はテニの音楽性にも見え隠れしていて、
‘Nowo’ では、テニの歌の後にジュジュのような男性コーラスが登場する
ブリッジが差し挟まれていて、ヨルバ臭さがぐっと立ち上ってきますよ。

ほかにも、メロディやパーカッションのビートメイキングなどに、
ヨルバらしさがあちこちにうかがえますね。
長くヨルバ・ミュージックに心酔してきた者にとっては、
こういうイマドキなアフロビーツの中でうっすらとでも、
そんなヨルバ風味を見つけると、嬉しくってならないのです。

Teni "BILLIONAIRE" Dr. Dolor Entertainment no number (2019)
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ヒップ・ホップに宿る濃厚なクメールの味わい クラップ・ヤ・ハンズ

Klap Ya Handz  2019.jpg

続くときは続くもので、ヒップ・ホップの好盤がまたしても手元に。
アフリカから場所を移して、今度はアジア、
クメール・ヒップ・ホップ、クラップ・ヤ・ハンズの新作です。

クラップ・ヤ・ハンズは去年日本初上陸して、カンボジア・フェス(@代々木公園)や
Soi48 のパーティで話題沸騰となりましたね。
ぼくは訳あって、どちらにも参戦できず、悔しい思いをしたんですが、
ライヴ会場で手売りされていたという、新作CDをようやく入手することができました。

クラップ・ヤ・ハンズを知ったのは、もう10年くらい前になりますけれど、
レーベル発足から7年の間のベスト・トラック集のMP3CDに圧倒されて、
いっぺんでファンになりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-02-23
ただその後、音信が途絶えてしまって、どーしてるんだろうと思っていたんです。

MP3CDのヴォリュームには及ばない、37分程度のアルバムですけれど、
方向性にブレはなく、トロー・チェー(二胡)などの伝統楽器を使いながら、
古いカンボジア歌謡の味わいを色濃く残したトラックなどを聞かせます。

今回、特にグッときたのが、スレイリアックという女性歌手をフィーチャーしたトラック。
コブシを利かせ、クメール伝統歌謡のニュアンスを濃厚に感じさせる歌いぶりに、
イッパツでメロメロになりました。

彼女、クラップ・ヤ・ハンズと一緒にやる前には、
ビア・ガーデンなどでロ・セレイソティアやパン・ロンといった
内戦前の往年の名歌手のカヴァー曲をずっと歌っていたそうで、
クラップ・ヤ・ハンズにスカウトされてからも、
ヒップ・ホップをやっている意識はないとのこと。

もともと今風の曲が好きになれず、
昔の曲が好きでカヴァーばかりしていたスレイリアックにとって、
自分が歌いたい歌を用意してくれるクラップ・ヤ・ハンズは、
うってつけのプロジェクトだったようです。

本作に収録されたスレイリアックの‘Sneha Knong Pel Reatrey’ は、
プロデューサーのソック“クリーム”ヴィサルが共同監督を務めた映画
“KROAB PICH” の劇中歌だとのこと。
この人、来日したメンバーの中にもいたそうで、あぁ、生声聴きたかったなあ。

長らく情報が途絶えていただけに、
変わらず活動を続けている様子がわかっただけでも大収穫。
ちょうどエム・レコードからも日本盤が出て、ますます注目が集まること必至でしょう。

Ouk & Yut, Vin Vitou, Jimmy, Nen Tum & Ago, Ruth Ko, Reezy, Shagadelac, Yuth, Sreyleak, Khmer Jivit, Vuthea
"KLAP YA HANDZ" KYP no number (2019)
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マンディング・エレクトロ・ヒップ・ホップ MC・ワラバ&メレケ・チャッチョ

MC Waraba & Meleke Tchatcho.jpg

おぉ、ついにマリ、バマコのサウンド・システム、バラニ・ショウが
CDで聞けるようになりましたか!
サヘル・サウンズが世界に紹介したバラニ・ショウ。
これまでLPとカセットのみのリリースで、
なぜかCDがリリースされてこなかったんですよねえ。

バマコのストリートで夜な夜なパフォームされているバラニ・ショウは、
クーペ・デカレとクドゥロのリズムに、バラフォン、ジェンベ、タマといった
伝統楽器を組み合わせたサウンド・システム。
「バラニ」がバラフォンを意味するとおり、バラフォンがサウンドの要となっています。
88年生まれのMC・ワラバは、90年代末バマコの夜に革命を起こしたバラニ・ショウで、
子供の時から育ったというラッパー。バマコのバガダジ地区に拠点を構え、
メレケ・チャッチョとコンビを組んで活躍していて、
サヘル・サウンズのコンピレにも1曲収録されていました。

いやぁ、フレッシュですねえ。シンプルでスキマだらけのバックトラックから、
キレのいいラップが飛び出してくるところが、サイコーですよ。
ムダにサウンドを厚塗りしていないバックトラックがいいんだな。

そのかわり、ビートはしっかり作り込んでいますよ。
ひょいっと裏拍を取ったり、ふんだんなアイディアが散りばめられています。
打ち込みのビートに絡みついてくる、
トーキング・ドラム(タマ)の叩きっぷりもスリリングで、
電子音と生音が有機的に結びついた聴きどころが、イッパイ。

耳残りするフックの利いた反復フレーズなど、曲づくりもうまく、ヒット性も高いですね。
さっそく南アのアフロ・ハウスのプロデューサー、アエロ・マニェロから声がかかり、
2曲をリミックスしたほか、リヨンのテクノDJもリミックスするなど、
世界から注目が集まっていますよ。

南アフリカのシャンガーン・エレクトロあたりが好きな人なら、
トリコとなることうけあいのマンディング・エレクトロ・ヒップ・ホップ。
マリのバラニ・ショウの初CD、アフリカン・ヒップ・ホップの傑作でっす!

MC Waraba & Mélèké Tchatcho "SUPREME TALENT SHOW" Jarring Effects/Blanc Manioc FX149 (2019)
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ジャズの語法とヒップ・ホップの発想 ジェフ・パーカー

Jeff Parker & The New Breed  SUITE FOR MAX BROWN.jpg

シカゴからロス・アンジェルスに活動の場を移して活躍するジャズ・ギタリスト、
ジェフ・パーカーの「ザ・ニュー・ブリード」プロジェクトの2作目。
16年の第1作は、デジタル時代に音楽制作するジャズ・ギタリストの、
ひとつの方向性を指し示した画期的なアルバムで、ぼくはいたく感激したんですけれど、
さらに驚いたのは、翌年に日本盤がリリースされ、プロモ来日した時のこと。

最近では外国のアーティストのインストア・ライヴといっても、
ごくわずかな人数しか集まらないので、知る人ぞ知るジャズ・ギタリストで
人が集まるのか?なんて思っていたら、大勢の若者が駆けつけていてビックリ!
その瞬間まで、トータスのギタリストということがアタマになかったもんだから、
よく日本盤が出るもんだなとか思っていたくらいで、認識不足もいいところでした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-05-17

そしてその後8月には、コットンクラブでライヴを観ることができました。
PCのプリセットを鳴らし、エフェクターをかけたギターを繊細にプレイしながら、
凝ったポスト・プロダクションのアルバムを、生演奏で切れ目なく再現していました。
長いソロを弾く時には、ジェフの正統なジャズ・ギタリストとしての顔もみせ、
T=ボーン・ウォーカーのリックがたびたび飛び出すのも面白かったな。

前作はジェフの父親に捧げた作品で、
ジェフと父が一緒に映った古い写真をジャケットにしていましたが、
今作は母親の写真をあしらったとおり、母親に捧げた作品。
今回も娘のルビー・パーカーのヴォーカルをフィーチャーしています。

ライヴでも、ジャマイア・ウィリアムスのドラムスが
サンプラーのように聞こえたくらいなので、
CDで聴くと、生演奏なのかドラムマシンなのか皆目わからないのが面白いところ。
今作ではマカヤ・マクレイヴンが叩くトラックもあり、
うち1曲ではサンプラーと同期させているようです。

ジャズの語法とヒップ・ホップの発想を活かして、生演奏とデジタルが相互に干渉しあい、
色彩感豊かな表現を生み出されていくのを体感できるのが、
このプロジェクトの良さですね。
コルトレーンの‘After The Rain’ やジョー・ヘンダーソンの曲にヒットを得たトラックに、
オーティス・レディングの‘The Happy Song’ をサンプリングした
短いインタールードのようなトラックもあり。
ほのぼのとした体温の伝わるホームメイドな雰囲気には、得難い味があります。

Jeff Parker & The New Breed "SUITE FOR MAX BROWN" Inernational Anthem Recording Co. IARC0029 (2020)
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フランスの若者が再現するシティ・ポップ アル・サニー

Al Sunny  PLANETS.jpg

イントロのギターに、胸がキュンと鳴り、
ハタチの頃にタイム・スリップするような眩暈をおぼえました。
「フランスのネッド・ドヒニー」とはよくぞ言ったものです。
70年代後半、ウェスト・コースト産AORを徹底的に下敷きにしたサウンド。
マイケル・マクドナルドが加入したドゥービー・ブラザーズやボズ・スキャッグスが
街のいたるところで流されていた、典型的「なんとなくクリスタル」時代のBGM。

世界的なAORブームもここまでくりゃホンモノというか、
ジャケットのヴィジュアルなんて、とてもフランス人とは思えませんねえ。
日本先行で出たCDを試聴して、思わず苦笑してしまいましたが、
本国フランスでもCDリリースされたというので、それではと買ってみました。

あの当時のサウンドをてらいもなく再現しているのには、
当時の若者世代には、なんだかくすぐったい気にさせられます。
あの当時と今とでは、時代の雰囲気が180度も違うのを思えば、
自分の息子のような世代の若者が、
あの時代の音楽をリヴァイヴァルさせていることに、複雑な気分にならざるを得ません。

だって、今の20代にこんな音楽をエンジョイする環境なんて、ぜんぜんないじゃない。
車を持ってなけりゃ、デートでドライヴもできないし、
そもそも恋愛にだって、あんまりコミットしてなさそうだし。
なんだか現実味がなくて、いったい誰がどういう気分で聞いてるのか不思議ですけど、
初老のオヤジを喜ばせるサウンドであることは間違いありません(それでいいのか?)。

全編英語詞。フランス人であることをまったく意識させず、
レイト・セヴンティーズまんまの、メロウでブリージンなサウンドを繰り広げます。
プログラミングはいっさい使わず、
本人のギター、鍵盤、ベース、ドラムス、女性コーラスによる生演奏。
ソリーナの響きがあまりに懐かしくって、身がよじれました。
クロスオーヴァー時代を象徴したヴィンテージ楽器が、いまも活躍できるとは。
スキャット入りのインスト・ナンバーでは、フリー・ソウルな感性も嗅ぎ取れ、
なるほど、このテのリヴァイヴァルは、今も脈々と続いているワケねとナットクしました。

Al Sunny "PLANETS" Favorite Recordings FVR159CD (2019)
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成長した7弦ギタリスト ジョアン・カマレーロ

João Camarero  VENTO BRANDO.jpg   João Camarero.jpg

う~ん、やっぱりいいなあ、このギタリスト。
ショーロの7弦ギタリスト、ジョアン・カマレーロの2作目です。
アカリから出たデビュー作で、ラファエル・ラベーロやマルコ・ペレイラを継ぐ人として
注目していたんですけれど、クラシック系レーベルから出た今作では、
グンと表現を広げたギターを聞かせてくれ、すっかり嬉しくなってしまいました。

まずジョアンのギターの良いところは、エッジの立った弦の響き。
爪弾き独特の立ち上がりの鋭いサウンドは、クラシック・ギター奏法の基礎ですけれど、
このきりっとギターを鳴らすサウンドが、ソロ・ギターではとても重要ですよね。
ジョアン・カマレーロが師事したジョアン・リラは爪弾きじゃなくて、
指の腹で弾くギタリストなんですよね。
師匠とはスタイルが違うわけなんですが、指の腹で弾くと、
こういうシャープな響きは出せません。
ジョアン・リラがゲスト参加した2曲を聴けば、違いは明らかでしょう。

そして、今作でグッと良くなったと感じたのが、緩急のつけ方が巧みになったこと。
デビュー作でもったいなあと感じたのが、複雑なパッセージを、
あまりにサラサラと難なく弾ききってしまうところでした。
聞かせどころといった演出がなく、超絶技巧を垂れ流してしまうプレイは、
聴き手にこの人の運指の凄さが伝わらないように思えました。

それが今作では、ギターの響かせ方やフレーズの組み立ての両面で、
静と動の使い分けをするようになり、高度なテクニックを見せつけるばかりでなく、
押し引きを豊かにした表現が、いっそうメロディの美しさを際立たせてています。

デビュー作では、クリストヴァン・バストスの曲で、
クリストヴァンのピアノがゲストで加わったほかは、
ジョアン・カマレーロの完全独奏でしたけれど、
今回もジョアン・リラがゲスト参加した2曲(うち1曲はカヴァキーニョも参加)を除いて、
完全独奏アルバム。ソロ・ギター好きには、たまらないアルバムです。

João Camarero "VENTO BRANDO" Guitar Coop GC03JOC18 (2018)
João Camarero "JOÃO CAMARERO" Acari AR51 (2016)
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カジュアルなシュヴァル・ブワ マチュラン・ロヴィロン&ブワ・キャネル

Mathurin Rovillon.jpg

カジュアルなシュヴァル・ブワを聞かせる、マルチニークのおっさんグループ。
若手グループなのかと思いきや、クリップを見たら、
メンバー全員がけっこういい年で、長年一緒にやってきた仲間みたいですね。

デデ・サン=プリやマルセのように、
シュヴァル・ブワの可能性を拡張するような音楽と違い、
かつてマルチニークの移動遊園地のアトラクションで人気だったという、
手押し回転木馬の伴奏音楽だった時代を思わせるような、
オーセンティックな演奏がなごめます。

笛と太鼓ほか打楽器に、リズム・セクションが付いただけの編成で、
きびきびとしたリズムが、人々を心地良いダンスに誘います。
ツイン・ベースというのがユニークなグループで、リード役のベースが
笛のメロディをユニゾンで弾いたり、リズムの裏を取ったりして、
かなり面白いラインを弾いているのが耳を引きます。
キレのいいタンブー(太鼓)の響きと、
歌とコーラスのコール・アンド・レスポンスがほがらかで、
田舎の芸能らしいシュヴァル・ブワの良さを堪能できますよ。

ベースやドラムスが入っているので、昔ながらの伝統的なスタイルではないですけど、
それでも回転木馬の内側で演奏していた時代を思わせるのは、
ほっこりとしたメロディの温かさゆえですね。
ユジェヌ・モナ以後、デデ・サン=プリ、マックス・シラ、マルセなど、
シュヴァル・ブワを現代化する試みがさまざまに続けられていますけれど、
こんな普段着姿のシュヴァル・ブワがたっぷり聞けるアルバムというのも、
今日びなかなか貴重じゃないでしょうか。

Mathurin Rovillon & Bwa Kannel "MATHURIN ROVILLON & BWA KANNEL" Debs Music no number (2019)
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レユニオン発クレオール・ジャズ セドリック・デュシュマン

Cedric Duchemann.jpg

レユニオンのジャズ・ピアニスト、セドリック・デュシュマンは、
メディ・ジェルヴィルに続くレユニオン期待の若手。
ザヴィヌル・シンジケートのドラマー/パーカッショニストとして知られる
パコ・セリーのグループで活動したのち、マルチニークのベーシスト、
ジャン=クリストフ・ラウファストと組んでゼピシを結成し、
12年にアルバムを出していて、今作がソロ・デビュー作となります。

11曲中7曲でドラムスを叩いているエマニュエル・フェリシテは、
メディ・ジェルヴィルの“TROPICAL RAIN” でも叩いていた人。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-04-09
ゲストにマルチニーク出身のベーシスト、ミッシェル・アリボや、
ヴェトナム系フランス人ギタリストのグエン・レが起用されているところも、
メディ・ジェルヴィルの“TROPICAL RAIN” と共通していて、
ここらへんはフランス海外県のコネクションなんだろうな。

セガやマロヤのリズムを借用したトラックはあるものの、
‘Ségalougarou’ と題されたトラックはセガと無関係な演奏となっていて、
マロヤ・ジャズを標榜するメディ・ジェルヴィルのスケール感には及びません。
全体にカリブ/ラテン色の強いワールド・ジャズ・フュージョンといったサウンドで、
ジャズよりもフュージョンのニュアンスがやや強い演奏となっています。

セドリッキ・ボウの良く歌うギターも、フュージョン的な予定調和感が強く、
ジム・セレスタンのサックスも、激しいブロウを繰り広げるかと思えば、
ほかの曲ではグローバー・ワシントンみたいなヤワなソプラノを吹いたりしていて、
いまひとつ個性がはっきりしないところが、ちょっともどかしいなあ。
むしろ、ゲストのグエン・レの冴えたギター・プレイや、‘Somiz' zon'’ で聞かせる
アラン・ホールズワースばりのトーマ・マネロウクのテクニカルなプレイが
強く印象に残りました。この人もレユニオンの人だそうです。

デュシュマンという苗字から察するに、
セドリックはインド系移民の末裔だと思いますけれど、
15歳の時にセガのファミリー・グループで初レコーディングをしたという経歴を聞くと、
ひょっとして家族はモーリシャスから渡ってきたのかな?という気もしてきます。
セガやマロヤというインド洋クレオール・ミュージックに、
フランス海外県をネットワークとしたフレンチ・カリブのクレオール・ミュージックが
さらに交わった新時代のクレオール・ジャズが、
少しずつ花を広げてきたのを実感する1枚です。

Cedric Duchemann "TROPICALISM" Couleurs Music no number (2019)
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アンゴラのメロディ・メイカー フィリープ・ムケンガ

Filipe Mukenga  O Meu Lado Gumbe.jpg

去年の暮れ、調べものついでに、アンゴラ、ギネア=ビサウ、カーボ・ヴェルデ、
サントメ・プリンシペといったポルトガル語圏アフリカのCDを
<ここ掘れワンワン>していたら、アンゴラのヴェテラン・シンガー・ソングライター、
フィリープ・ムケンガの13年作を発見しました。

フィリープ・ムケンガについては、以前一度記事を書きましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-08-14
今回手に入れた13年作が、いまのところ最新作のよう。
いまごろ気付いたのもお粗末な話ですけれど、
40年を越すキャリアで、まだ5作目というのは、寡作家ですねえ。
タイトルを見て、ギネア=ビサウのグンベーを歌っているのかと早とちりしたんですが、
よく見たらグンベーではなくグンベで、フィリープの本名、
フランシスコ・フィリープ・ダ・コンセイソーン・グンベからきているようです。

ブラジルのジャズ・ピアニスト、
ルイス・アヴェラールを迎えてリスボンで制作した本作、
ぐっとジャジーなサウンドに仕上がっていて、
フィリープの個性的なソングライティングが芳醇な香りを放つ、
大人のポップスに仕上がっています。

キンブンド語、ウンブンド語、クワニャマ語、ポルトガル語、英語と
多言語で歌っていますけれど、昔から変わらないのは、
ブラジルのシンガー・ソングライター、ジャヴァンの作風が瓜二つなこと。
奇しくも同じ49年生まれという二人ですけれど、
フィリープ自身ジャヴァンからの影響を隠しておらず、
ブラジル色の強いメロディ・メイカーぶりを、今作でも発揮しています。
また今作は、ジャヴァンとの仕事でも知られるルイス・アヴェラールが
プロデュース、アレンジしているので、よりMPBのセンスが強く感じられますね。

オープニング曲のみンゴニを使って、西アフリカ風のサウンドを創作していますけれど、
それはほんの味付け程度のもので、全編ポルトガル人ミュージシャンによる生演奏。
プログラミングを全く使用していないところは、潔ささえ感じさせますね。
7管のホーン・セクションも加わる贅沢なプロダクションで、
ありていなキゾンバとは天と地ほども違う、ゴージャスなサウンドとなっています。

これほどの力作も、ポルトガル制作のポルトガル盤という事情ゆえ、
まったく世間に知られぬままとなっているのは、残念すぎます。

Filipe Mukenga "O MEU LADO GUMBE" Get!Records (Portugal) GET00005/13 (2013)
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センバのディーヴァとして復活 パトリーシア・ファリア

Patrícia Faria  EME KIA.jpg   Patrícia Faria  BAZA, BAZA.jpg

アンゴラの女性シンガー、パトリーシア・ファリアは、81年ルアンダ生まれ。
ガール・グループのアス・ジンガス(・ド・マクルソ)で活動した後、ソロ歌手に転身し、
内戦がようやく終結した02年にデビュー作の“EME KIA” を出しました。

デビュー作が出たのは、まだセンバがリヴァイヴァル・ブームとなる前のことでしたけれど、
パトリーシアはすでにセンバの曲を多く歌っていて、
キゾンバ、アフロ・ズーク、サルサといったレパートリーとともに、
キレのあるフレッシュな歌声を聞かせていました。
ロック調のギターを取り入れるなど、
さまざまにアレンジしたセンバのプロダクションは意欲的で、
若手によるセンバ復興の兆しがすでに垣間見えるアルバムだったのですね。

09年には、パウロ・フローレスやユリ・ダ・クーニャをゲストに迎えたセカンド作
“BAZA, BAZA” を出します。このアルバムのプロダクションは超充実していて、
アフロ・ズークをベースとしたキゾンバながら、生演奏にこだわったスグレもの。
厚みのあるパーカッション・アンサンブルに、ホーン・アンサンブル、弦セクション、
アコーディオンやハーモニカに加え、ラップの取り入れ方も巧みで、
複雑なサックス・ソリをさらりと組み込んだり、高度なアレンジに舌を巻きました。
アルバムのフックとなるダンサブルなセンバの‘Nzagi’ も、爽快な仕上がりでしたね。

これほどの充実作を出したものの、その後長くブランクが空いてしまいます。
パトリーシアはラジオ・ルアンダのブロードキャスターで、法律家でもあり、
歌手以外の活動が忙しかったのかもしれません。
というわけで、10年ぶりに3作目となる新作が届いたんですが、
前作の懲りに凝ったプロダクションのキゾンバから一転、
今作はセンバにこだわったアルバムとなりました。

Patrícia Faria  DE CAXEXE.jpg

こちらをまっすぐに見すえたくりっとした目に、
南部アフリカの伝統的な化粧をあしらったポートレイトというツカミのあるジャケットに、
今回も傑作の予感をおぼえましたが、予想は大当たり。
すっかり声も円熟して、気負うなく歌うパトリーシアの歌声は、
これぞアフリカン・フィメール・ヴォーカルといった味わいに溢れています。

1曲目は意外にもセンバでなく、
北東部チョクウェ人の伝統音楽チアンダのリズムを取り入れたもの。
ルンバぽいリズムですけれど、コンゴ民主共和国やザンビアにも暮らす
チョクウェの音楽をオープニングにするとは、意表を突かれました。

そして2曲目からは、センバ尽くし。
マラヴォワ風のヴァイオリン・セクションが伴奏につく2曲目以降、
アコーディオンや華やかなホーン・セクションもたっぷりとフィーチャーして、
ディカンザの刻みをこする響きも小気味よい、ダンサブルなセンバが続きます。

前半の中ほどには、メロウなズーク・ラヴの‘Será Que Vale a Pena’と
センチメンタルなボレーロの‘Toda Mulher’のスロー・ナンバー2曲を置いたのも、
ダンスの中休みとなっていて、いいアルバムの流れとなっていますね。
長いブランクをものともしない、見事な仕上がりに感服しました。
「キゾンバやクドゥロばかりじゃないのよ」というパトリーシアの発言も頼もしい、
センバのディーヴァとしての復活です。

Patrícia Faria "EME KIA" Balafon RNA-PF001-02 (2002)
Patrícia Faria "BAZA, BAZA" Paty Faria no number (2009)
Patrícia Faria "DE CAXEXE" Xikote Produções no number (2019)
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すごく実用的な3人組 マイケル・フォーマネック

Michael Formanek Very Practical Trio.jpg

フリー/アヴァン系ミュージシャンとの共演が多いニュー・ヨークのベーシスト、
マイケル・フォーマネックの新トリオのメンツに、目を見張りました。
メアリー・ハルヴァーソンのギターに、ティム・バーンのアルト・サックスですよ!!!
いぇ~い! もうぼくのために結成してくれたようなトリオで、速攻いただいてきました。

マイケル・フォーマネックとメアリー・ハルヴァーソンは、
すでにサムスクリューというギター・トリオで演奏しているし、
マイケル・フォーマネックのラージ・アンサンブル、アンサンブル・コロッサスには、
メアリー・ハルヴァーソンとティム・バーンの両名が参加して、
大きな存在感を示していましたからねえ。
この3人によるトリオは、まさしく待望の顔合わせといえます。

マテリアルは、最後のスコット・ラファロの1曲を除き、すべてマイケルの曲。
コンポーズされた主旋律のあとで、3人が対等に即興しあっていくんですが、
三人三様、その即興が変奏であったり、装飾音を加えていくものだったりと、
それぞれアプローチの異なる即興を繰り広げます。

メアリーはコードに沿ったアプローチで、
メロディックなラインを長く取る場面が多いですね。
メアリーの十八番といえる、ぴよ~ん ♪ とピッチを揺らすエフェクティヴなプレイは、
今回は割と控えめかな。あの音、ディレイ・ペダルだけで出しているんですってね。

ティムはメアリーと並走したり離れたりしながら、異なる色彩を施していき、
時にぐんと浮上して破れた吹奏も聞かせます。二人とも手探りになったり、
ふらついたりすることがなくて、確固としたラインを紡いでいくところが、
めちゃくちゃカッコイイなあ。

マイケルは、メアリーとティムの背景となり、ゴンゴンとリズムをかたどるだけでなく、
時に前景となって二人を引っ張っていきます。二人の間に介入して、
次の展開への兆しを作ったりもしていますね。
即興の後には、またぴたっと3人が主旋律に戻る構成が、
バランスのとれた緻密な美しさがあります。

あぁ、メアリーのライヴ観たいなあ。この3人で来日してくれないものか。

Michael Formanek Very Practical Trio "EVEN BETTER" Intakt CD335 (2019)
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