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ショーロ耳で聴く ポール・デスモンド [北アメリカ]

Paul Desmond Audrey.JPG

もうCD化は実現しないものと諦めてましたが、よくぞ出してくれました。
ポール・デスモンド晩年の75年に録音されたライヴ3部作の1枚、アーティスツ・ハウス盤です。
覚えてます? デスモンドの柔和な表情をデッサン画にしたジャケットの、
俗に『ラスト・アルバム』といわれている、あのアルバムですよ。
CDジャケは、カナダ国旗のメイプル・リーフをデザインしたものに変わっていたので、
すぐに気付きませんでした。

デスモンドが75年10・11月にカナダ、トロントのバーボン・ストリート・クラブで演奏したライヴ音源は、
ホライゾンやテラークからもリリースされていて、
なかでもホライゾン盤“LIVE” は、晩年のデスモンドの代表作として有名です。
一連のライヴ作のなかで一番最初にリリースされたのがこのホライゾン盤だったので、
名盤との評価が定着したんでしょうけど、
演奏の質は、このアーティスツ・ハウス盤の方が上とぼくは思っています。

ホライゾン盤は、一部の曲で強く吹きすぎている箇所がいくつかあって、
ぼくはそれが耳ざわりに感じてならないんですけど、
アーティスツ・ハウス盤でのデスモンドのプレイは見事にコントロールされ、
デリケイトの極地ともいえる完璧な吹奏を聞かせてくれます。
そのまったく乱れることのないトーンゆえに、
このアルバムを聴いてると眠くなるとか、地味だとか悪口言う人もいるんですけど、
そりゃ、デスモンドの魅力がぜんぜんわかってない人の言葉ですね。

率直に言えば、ぼくはデスモンドをジャズと思って聴いていません。
ブラジルのショーロを聴くのと同じ感覚で聴いているので、
ジャズ評論家後藤雅洋さんの「ジャズ耳」に倣って、
「ショーロ耳」で聴いていると言わせていただきましょうか。

タンギングなどアタックをつけた装飾音を使わずに、なめらかなトーンで演奏する
デスモンドの歌心にあふれたプレイは、いわゆるジャズ的なスリルとは異質のものです。
まるで書き譜のように演奏するデズモンドのアドリブは、
新たなメロディを紡ぐようなプレイ・スタイルで、
主旋律からかけ離れずにソロ演奏をするショーロと、まったく同質の魅力がそこにはあるのです。

そしてデスモンドのもうひとつの魅力は、アルト・サックスの音色の美しさ。
どんな音域だろうと、柔らかでふくらみのあるトーンを出し、
濁りやカスレもないかわりにクリーンなだけでもない、
ヴィブラートをつけたコクのある豊かなサウンドは、
1曲目の“Too Marvelous For Words” のタイトルじゃありませんが、
まさに言葉にならない美しさです。
オードリー・ヘップバーンへのオマージュ曲“Audrey” など、そのアルトの音色だけで、
上質の羽布団にくるまれているような夢見心地を味あわせてくれます。

Paul Desmond’s Canadian Quartet "AUDREY : LIVE IN TORONTO 1975" Domino 891210 (1975)
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コメント 2

ペイ爺

“Audrey”と同じメンツで翌年の春の演奏が、懐古・発掘レーベルGambit の “Edmonton Festival '76” です。ハコが大きいせいか残響、空間の広がりを感じさせるラジオ放送された音源。演奏の内容は例えば“Darn That Dream”は“Audrey” でも演奏してますが、比較すると高い集中力で「見事にコントロールされ、デリケイトの極地ともいえる完璧な吹奏」で、“Audrey”の勝ち!ですよね?まさに夢見心地です。でもでも、ファンとしては晩年のPaul を聴けるだけでもウレシイんですけどー。この“Audrey”、LPレコードの原題は“Paul Desmond”で国内盤、米国盤共に持っています。両盤共素晴らしいKathie Taylor のPaul のポートレイトですが、ジャケット・デザインが異なります。米国盤の淡い色使いの枠デザインの方が、Desmond の人柄やその音楽性をよりうまく引き出している様に思えます。
by ペイ爺 (2017-05-10 14:03) 

bunboni

アーティスツ・ハウス盤、いいジャケットでしたね。
by bunboni (2017-05-10 22:43) 

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