SSブログ
前の30件 | -

ハリージその後 バルキース

Balqees  ARAHENKOM.jpg   Balqees  ZAI MA ANA.jpg

すっかりごぶさたとなっている、湾岸ポップスのハリージ。
もう4年も前のアルバムですけれど、イエメン系のUAE(アラブ首長国連邦)人歌手、
バルキース・ファティの3作目を買ってみたら、これがなかなかの力作。
ハリージ・ブーム真っ盛りの15年にロターナから出ていた前作を聴いて、
歌える人だなあと思っていましたけれど、
そのときは記事にしなかったので、一緒に前作の写真も載せておきましょうか。

前作は、ギクシャクとしたパーカッシヴなハリージ・ビートにのせて、
ハツラツとしたコブシ使いの若々しさが印象的でしたけれど、
ロターナから自主レーベルに移籍して出した本作は、
プロダクションがぐんと向上しましたね。

エレクトロ・ハリージとでも呼びたくなるような、
選び抜かれた音色の電子パーカッションが快感。
生音とエレクトロの絶妙が配分されて、
すんごいセンスの良いサウンドになりましたよ。

前作は、サウンドの下世話さがポップな風味となっていましたけれど、
シンセ音が古めかしかったり、オーケストレーションが妙に厚ぼったくて、
野暮ったかったりしていたのも事実。アレンジもずいぶんと大仰だったしね。

それに比べたら、今作はレイヤーされた音色が選び抜かれていて、
サウンドが磨き上げられましたよ。
バラードがぐんと良くなったのも、
そんなデリカシーに富んだプロダクションのおかげでしょう。
高中低音のミックスのバランスが整って、
前作のガチャガチャしたところも雲散霧消しましたね。

バルキースの歌の上手さは、前作ですでに実証済みなので、
本作も申し分ありません。彼女は、UAEを拠点とするNSO交響楽団のメンバーでもあり、
国連から「中東における女性の権利の擁護者」の称号も与えられているんですね。
サウジアラビアで初の女性のみのコンサートを行い、話題を呼んだそうです。
今年になってからは、配信でシングル・リリースもしているので、
新作も期待できそうですね。

Balqees "ARAHENKOM" Balqees no number (2017)
Balqees "ZAI MA ANA" Rotana CDROT1916 (2015)
コメント(0) 

カビール・ロック/ファンクの大力作 タクファリナス

Takfarinas  ULI-W TSAYRI - YEMMA LEZZAYER-IW.jpg

いぇ~い、タクファリナスの新作だっ!
いったい、何年ぶり? 10年の“LWALDINE” 以来かぁ、どーしてたの?
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-06-20

やんちゃなポップ・スターらしいキャラ全開のジャケットに、
聴く前からいやおうにも期待が高まりましたけれど、
ディスク1の1曲目で、もう飛び上がっちゃいましたよ!
いやー、嬉しいじゃないの。
ぜんぜん変わってないどころか、これまでにも増して、エネルギー全開。

若いヤツに席を譲る気はないぜといわんばかりの、現役感スパークさせまくり。
ヴェテランの余裕とか、成熟した味わいなんて、この人にはぜんぜん関係ないんだな。
ぼくと同い年で、この熱血ぶりは見習わなくちゃあ。アタマが下がります。

しかも、なんと2枚組という大作ですよ。
ディスク1の第1部は「わたしの心は愛」、
ディスク2の第2部は「わたしの母、アルジェリア」というタイトルが付いてます。
タクファリナスが自身の音楽を「ヤル」とラベリングする、
シャアビを大胆にロック/ファンク化したサウンドが縦横無尽に展開されています。
各曲のサウンドにはふんだんなアイディアを詰め込まれていて、
その手腕は、超一流のポップス職人といえますよ。
‘La Kabylie’ なんて、壮大なカビール・ロック歌舞伎を見せつけられているよう。

アタマがクラクラしそうなド派手なサウンドに、つい目くらましされますが、
タクファリナスの基本には、マンドーラの弾き語りによるカビール歌謡があり、
そのベースにアラブ・アンダルース音楽の地平が広がっているんですね。
ダフマーン・エル・ハラシのスピリットは、
しっかりとタクファリナスに受け継がれていますよ。
アゲアゲのダンサブルなトラックにも、芳醇なコクが宿る理由は、そこですね。
たくましきカビール芸人根性をすみずみまで発揮させた新作、大傑作です。

ああ、コロナ禍が恨めしいねえ。
こういうのを聴いていると、満員のフロアでもみくちゃになりながら、
汗だくになって踊りたいよ~。

Takfarinas "VOL.1 ULI-W TSAYRI / VOL.2 YEMMA LEZZAYER-IW" Futuryal Production no number (2021)
コメント(0) 

センバのコミュニケーター パウロ・フローレス

Paulo Flores  INDEPENDÊNCIA.jpg

パウロ・フローレスのイキオイが止まらない。
創作意欲が湧き上がって、ほとばしるのを止められないといった感じで、
なにが彼をそんなに突き動かしているのか。
若手ラッパーのプロジージョと組んで、
エスペランサというプロジェクトを立ち上げたかと思えば、はや新作が届きましたよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-01

アンゴラ人最大のアイコンとなったパウロ・フローレスですけれど、
ルアンダ、カゼンガ出身のポルトガル人で、リスボン育ちのアンゴラ人という立ち位置が、
世代、文化、表現をつなぐコミュニケーターという役割を、
彼に自覚的にさせたのでしょうか。
今作でもディアスポラである自伝的ドキュメントをまじえながら、
アンゴラの過去と現在、そして未来につながるテーマを取り上げ、
庶民の生活に根差しながら、抑圧と貧困と闘う人々の人生を語り、
逞しきアンゴラ人の誇りを歌っています。

新作のタイトルは、ずばり『独立』。
マルクス・レーニン主義時代のプロパガンダ・ポスターにならったアートワ-クには、
目隠しされた女性が描かれ、皮肉にも in と dependência を分裂させています。
アンゴラ独立時にテタ・ランドは、同じ『独立』のタイトルでアルバムを出しましたが、
約半世紀を経て、独立への眼差しがすっかり様変わりしたことを暗喩していますね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-11-16

独立50周年にはまだ4年早い、中途ハンパなタイミングでこのタイトルを付けたのは、
現在の社会状況では、とても祝賀を美化することなどできないという思いからのようです。
アニヴァーサリーを祝う前に、パウロはアンゴラの人々が忘れてしまっている
脱植民地化への長い闘いと、独立後の内戦の苦しみを呼び覚まそうとしています。

オープニングの‘Heróis Da Foto’ は、キゾンバのリズムに甘やかなメロディがのる、
明るいトーンを持った曲。しかし、その底には涙の味が隠れていて、
踊りながら泣き濡れてしまいそうなトラックじゃないですか。
続いて、ブラジルのショーロ・ミュージシャン、ジオゴ・グアナバラがアレンジを務めた
‘Bem-Vindo’は、ブラジルのショーロとアンゴラのラメントをミックスしたような切ない曲。
ジオゴが弾くバンドリンとギターもフィーチャーされ、アルバム冒頭から、
歌に沈殿している悲しみの深さに、胸を射抜かれました。
これって、ブラジルのサウダージ感覚とも異なる、アンゴラ音楽独特の味わいです。

ギネア=ビサウの夭逝した伝説のシンガー・ソングライター、
ジョゼ・カルロス・シュワルツの曲と
アンゴラのシンガー・ソングライター、ボンガの曲をメドレーにして、
パウロの長年の相棒であるギネア=ビサウのギタリスト、
マネーカス・コスタと共に歌ったトラックがあるほか、
プロジージョとユリ・ダ・クーニャをゲストに迎えた曲、
さらに伝説的なヴェテラン・ミュージシャンを迎えた曲も用意されています。

Boto Trindade  MEMÓRIAS.jpg

アルバム終盤の‘Esse País’ と’Roda Despedida de Semba’ に参加した、
ギタリストのボト・トリンダーデと、
コンガ奏者のジョアンジーニョ・モルガドの二人が、それです。
ジョアンジーニョ・モルガドは、コンジュント・メレンゲ、センバ・トロピカル、
オス・ボンゴス、バンダ・マラビーリャなどの数多くのバンドで、
ドラマーやパーカッショニストとして活躍し、
ダヴィッド・ゼー、カルロス・ラマルチーネ、テタ・ランドなどの独立以前の歌手たちから、
独立後ではカルロス・ブリティ、フィリープ・ムケンガ、
最近ではユリ・ダ・クーニャに至るまで、数多くのヒット曲に関わってきた名手で、
モダン・センバのビートをクリエイトしたと尊敬される人です。

アンゴラの歴史に触れた歌詞を縦軸に置き、
ギネア=ビサウのグンベー、ブラジルのショーロなど、ルゾフォニアの音楽性を横軸に置いた
パウロ・フローレスの作風が、今作もいかんなく発揮されています。
キゾンバやズークを消化して、クドゥロ世代の音楽家とともにヒップ・ホップのセンスも
取り入れてきたパウロのセンバは、ダンスフロア向けの音楽やポップスからは求められない、
長編小説を読むような充足感が得られます。

Paulo Flores "INDEPENDÊNCIA" Sony 19439882772 (2021)
Boto Trindade "MEMÓRIAS" Rádio Nacional De Angola RNAPQ22
コメント(0) 

アンゴラのポップス才人、発見 トトー・ST

Totó ST  FILHO DA LUZ.jpg   Totó ST  NGA SAKIDILA.jpg

うわぁ、スゴイ上質なポップスをやる人じゃないですか。
アンゴラのシンガー・ソングライター/ギタリストのトトー・STの2作に驚かされました。
歌、楽曲、演奏と、三拍子揃ったクオリティの高さといったら!
アンゴラといっても、センバやキゾンバとは無関係。
ジャジーな味わいもある、グルーヴ感溢れるコンテンポラリーなアフロ・ポップの作家で、
リシャール・ボナやラウル・ミドンが思い浮かぶ場面多し、といえます。

どういう人かとバイオを調べてみると、自身のサイトに紹介がありました。
80年ルアンダ生まれ。本名はセルピアン・トマス。
ステージ・ネームのトトー・STのSTは、本名のイニシャルですね。
14歳からキャリアを積み、06年にデビュー作“VIDA DAS COISAS ” をリリース。
今回ぼくが入手した14年作と19年作の2枚は、3作目と4作目にあたるようです。

2作ともに、ソングライティングが非凡。
どの曲もフックがあり、スキャットや多重録音による自身のハーモニー・コーラス、
ギター・プレイなど、巧みな聴かせどころを作るセンスに長けた人です。
歌いぶりは伸びやかだし、美しいファルセット使いも要所に交えて、
ヴォーカリストとしても優れています。この人の歌には、官能性がありますよ。

アンゴラの音楽賞で、ワールド・ミュージックやアフロ・ジャズ部門のベスト・シンガーを
受賞するほか、最優秀曲、最優秀作曲者を受賞しているのも、ナットクです。
15年にダイアン・リーヴスとステージをともにし、
キザイア・ジョーンズとも共演するなど、
国外のミュージシャンとの共演歴も豊富なようです。

2作のプロダクションもめちゃくちゃ充実していて、伴奏陣は実力派揃い。
“FILHO DA LUZ” では、アンゴラのポップス・シーンの若手プロデューサーとしても
活躍する鍵盤奏者ニノ・ジャズに、グアドループ出身のベーシスト、
ティエリー・ファンファン、マルチニーク出身のベーシスト、ミシェル・アリボが参加。
“NGA SAKIDILA” には、カメルーンの実力派ジャズ・ベーシストの
ガイ・ンサンゲが参加するほか、アンゴラの若手で注目を集めるギタリスト、
マリオ・ゴメスがシャープなギターを聞かせます。

アンゴラ、いったいどんだけ才能が眠っているんだよ!

Totó ST "FILHO DA LUZ" VIP no number (2014)
Totó ST "NGA SAKIDILA" 17A7 no number (2019)
コメント(0) 

野性と洗練の両立 ジュピテール&オクウェス

Jupiter & Okwess  NA KOZONGA.jpg

“KIN SONIC” から4年ぶりとなる、ジュピテール&オクウェスの新作です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-04-07
毎回じっくりと時間をかけてアルバム作りをしている彼らですけれど、
今回も新たな展開をみせていて、前進を続ける頼もしさは相変わらずで、嬉しくなります。

今作は、ビースティ・ボーイズやジャック・ジョンソンを手がけた
マリオ・カルダート・ジュニアをプロデューサーに迎えたんですね。
1曲目からブラジルのラッパー、マルセロD2をフィーチャーして、
豪快に突進するアフロ・ファンクをかましてくれますよ。

このほか、チリ系フランス人ラッパーのアナ・ティジュ、
フランス人ギタリストのヤロル・プポー、サンバ・ソウルのロジェー、
ニュー・オーリンズのプリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドを
客演させたのは、マリオ・カルダートの仕掛けでしょうか。
いずれのゲストも、オクウェスのアフロ・ロック/ファンク・サウンドによく馴染んでいて、
ボフェニア・ロックの強化に努めたといえそうです。

サウンドが少し変化したなと感じたのは、シンセとエレピの二人がサポートして、
浮遊感溢れるサウンドを加味していること。
ジュピテールのかけ声にも、強めのリヴァーブをかけていたり、
ギター・サウンドも、コンプレッサー使いで伸びやかなサスティンを強調していたりと、
ミックス面でも洗練されたサウンドを志向しているのが、よくわかります。

ロウファイとは対極のサウンドを狙ったといえそうで、
それがオクウェスの持つ野性味を損なわずに仕上げているところが、今回の目玉。
パーカッションと手拍子のみで、ジュピテールがオクウェスと
コール・アンド・レスポンスで歌う曲でも、野性味たっぷりとなりそうなところ、
どこかすっきりと聞かせるミックスにも、それは表われています。
ラスト・トラックのロジェーとの共演で聞かせる爽やかさなんて、
これまでにない新機軸でしょう。
野性と洗練を両立させた新境地を聞かせる新作です。

Jupiter & Okwess "NA KOZONGA" Zamora ZAMOCD2101 (2021)
コメント(0) 

アップリフティングなコロゴ アユーネ・スレ

Ayuune Sule  PUTOO KATARE YIRE.jpg

キング・アイソバの相棒で、ガーナのコロゴ・シーンを賑わせる逸材、
アユーネ・スレのインターナショナルに向けた第2作です。
ヒップ・ホップ感覚に富んだコロゴを聞かせた18年の前作と路線は変わらず、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-10-09
さらにアユーネ流コロゴをブラッシュ・アップしたアルバムになりましたね。

アユーネ・スレの一番の特徴は、キャッチーなメロディ・ラインに、
フックの利いたフロウが絡む、ソングライティングの上手さ。
アユーネのコロゴを聴いてもらえば、
コロゴが反復フレーズとコール・アンド・レスポンスだけの単調な音楽という、
誤った固定観念を持たれずに済むんじゃないかな。

前作では、ガーナのメインストリームのポップ・サウンド、
ヒップライフやアゾントを取り入れる試みもみられましたけれど、
今作では直接そうしたサウンドを借用することはせず、
ヒップ・ホップやファンクをしっかりと咀嚼して血肉化したサウンドで、
コロゴをアレンジしたという印象でしょうか。

たとえば、ホーンを模したシンセ・サウンドが耳を引く
オープニングの‘Tezaa So Ndeyine’ のリズム・アレンジにも、それが表れていますね。
この曲にフィーチャーされたラッパーは、On-U・サウンドを代表するバンド、
アフリカン・ヘッド・チャージのダブ・マスターのボンジョ。
ボンジョはもう1曲‘Fighting Music’ でもフィーチャーされていて、
控えめなダブ処理も終盤にちらりとみせています。

女性コーラスも従えてラップをフィーチャーしたファンク味たっぷりの‘Don't Be Lazy’ は、
ヒット間違いなしのアップリフティングなナンバー。
人々をダンスに誘うナンバーでも、道徳を説き、神の教えを伝え、
先祖の智慧を受け継ぎ、引き継ぐことを歌う歌詞は、コロゴのストーリーテリングという、
ミンストレル(吟遊詩人)が持つ性格をしっかりと示しています。

今回も大勢のラッパーがフィーチャされていますけれど、
前作のメンツとは全員入れ替え。
ディープなアユーネの歌声と、キレのいいラッパーのフロウの対比が、
キャッチーな曲を輝かせ、伝統とモダンの幸福な結婚が示されています。

Ayuune Sule "PUTOO KATARE YIRE" Makkum MR30 (2021)
コメント(0) 

グルーミーなロンドンのメランコリー アルファ・ミスト

Alfa Mist  BRING BACKS.jpg

ジャズ・ピアニストで、ヒップ・ホップのMCで、シンガー・ソングライターという、
いかにも今のロンドンを象徴する音楽家のアルファ・ミスト。
新作はアンタイからで、CDもちゃんと出るというので、楽しみにしていました。
前作も前々作も、CDは日本盤でしか出なかったもんなあ。

UKジャズ・シーンのど真ん中にいる人とは違い、
トム・ミッシュやジョーダン・ラカイといった音楽家との共演など、
ポップ・シーンに寄せたフィールドで活躍する音楽家ですよね。
イギリス人には珍しくロバート・グラスパーに強く影響を受けたピアニストで、
ジャジーなネオ・ソウル・サウンドや、J・ディラのよれたビート使いは、
もろグラスパー・マナーといえます。

オープニングのフュージョン調のトラックに続き、
オーガニックなフォーキー・テイストのネオ・ソウル、
さらにジャジー・ヒップ・ホップと、
曲ごとにさまざまな音楽性を表出しながら、
アルバム全体をメランコリックなトーンでまとめ上げています。
グルーミーなムードが、いかにもロンドンらしくて、
このムードは、US産からはぜったい生まれないものでしょう。

ビル・エヴァンスを思わす美しいハーモニーのピアノや、
温かなローズのサウンドに絡んでくる、ジェイミー・リーミングの
キラキラしたアルペジオやオブリガードが効果的。
リチャード・スペイヴンのシャープなスネアが生み出す、
生演奏ならではのタイム感にウナるトラックもあれば、
ビートメイキングがクールな音像を結ぶトラックもあります。

ラップばかりでなく、ポエトリー・リーディングもフィーチャーされ、
クラシカルなチェロの室内楽演奏が登場するなど、おそろしく密度の濃いサウンドが
次々と展開していくにもかかわらず、そんな場面変化を意識させない
聴きごこちの良さが、本作最大の美点。
多彩な音楽要素をひと色に染め上げるプロデュース力は、スゴイですね。

ジャケット画のカーペットを敷き込んだ階段に、
31年前、ロンドンでひと月ほど滞在していたホスト・ファミリーのおうちを
思い出しました。今年の梅雨時の、良きBGMになってくれそうな一枚です。

Alfa Mist "BRING BACKS" Anti 87789-2 (2021)
コメント(0) 

サン・パウロのラージ・アンサンブル バンダ・ウルバーナ

Banda Urbana  RELATS SUBURBANOS.jpg

う~ん、これは聴き逃していましたねえ。
ラージ・アンサンブルで聞かせるブラジリアン・ジャズの18年の傑作。
18年といえば、イチベレ・ズヴァルギに興奮しまくっていて、
こちらに気付かなかったのは、不覚でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-11

サン・パウロのビッグ・バンド、バンダ・ウルバーナの3作目。
バンダ・ウルバーナは、
06年にトランペット奏者のルビーニョ・アントゥネスが結成したビッグ・バンド。
ぼくがルビーニョ・アントゥネスを高く買っていることは、
これまでにも何度も書いていますけれど、
残念ながら、2作目を出したあと、ルビーニョは脱退してしまいました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-13

サンバやマルシャといったブラジル音楽のリズム、ジャズのインプロヴィゼーション、
クラシックのハーモニーが融合した音楽性で、
サン・パウロらしいコンテンポラリー・ジャズを楽しめます。

レパートリーは、サックス奏者のラファエル・フェレイラ、
ベーシストのルイ・バロッシ、トランペット奏者ジョアン・レニャリが、
それぞれ2曲ずつ持ち寄ったオリジナルのコンポジション。
いずれも長尺で、組曲的というか、場面展開ががらりと変わる構成は、
映画音楽や劇音楽のようですね。
なかには、ジャコ・パストリアス・ビッグ・バンドを思わせるアレンジがあったり、
飽きさせることがありません。

10管編成のアンサンブルが高速でハーモニーを描いたり、
静寂のパートから一転、エレキ・ギターが暴れるロック・パートに急変するなど、
めくるめく展開が聴きものです。
ゲストに、クラリネット奏者のナイロール・プロヴェッタ、
アコーディオン奏者のトニーニョ・フェラグッチが加わって、ソロを披露しています。
ルビーニョ・アントゥネスがいなくなってしまったのは残念ですけれど、
これまでの2作とは作編曲のレヴェルが格段に上がり、最高作となりました。

Banda Urbana "RELATS SUBURBANOS" no label no number (2018)
コメント(0) 

ベロ・オリゾンチのサンビスタ デ・ルーカス

Dé Lucas  CLAREAR.jpg

めっちゃ好みのサンビスタ、みっけ!

ここ数年ずっとサンバ日照り、なんてボヤいていたら、
5年前に出ていたインディ作に、こんな良作があったとは。
オーセンティックなサンバは、こういうインディ作をマメにチェックしないと、
お目にかかれなくなっちゃいましたね。
大手のレコード会社からはまったく出ないし、
ビスコイト・フィーノぐらいしか、サンバ・アルバムを作ってないもんな。

デ・ルーカスことヴァンデルソン・ヴィエイラ・ルーカスは、73年生まれ。
リオでもサン・パウロでもない、ベロ・オリゾンチのサンビスタという変わり種です。
十代の頃からベロ・オリゾンチのサンバ・シーンで活躍して、
グループを率いて数多くのサンバを作曲してきたほか、モアシール・ルス、
ルイス・カルロス・ダ・ヴィラ、ファビアーナ・コッツァ、ウィルソン・モレイラ、
タンチーニョ・ダ・マンゲイラなど、多くのサンビスタの伴奏をしてきたそう。

作曲者としてリオのコンテストで2度優勝したことで注目が集まり、
サンバのヴェテラン・プロデューサー、パウローンに認められ、
本デビュー作の制作へ繋がったのだそうです。
タイトル曲の‘Clarear’ に‘Quinto Elemento’ の優勝曲を収録するほか、
パウローンにデ・ルーカスを推薦したというファビアーナ・コッツァも、
ゲストで加わっています。

デ・ルーカスの歌がもう、たまらなくいいんですよ。
かすれ声に味があって、ソフトな歌いぶりと、たまに音程が怪しくなるところが、
実にサンビスタ・マナー。サンバ好きにはたまらないタイプの歌い手です。
そして、デ・ルーカスが書くサンバが、これまた佳曲揃いなんだな。
サンバ作家としても抜きん出た才能の持ち主ですね。

そして伴奏はパウローンが音楽監督が務めているのだから、内容保証付。
アレンジは7弦ギターのパウローンと6弦ギターのマルコス・サントスがやっていて、
レコーディングはベロ・オリゾンチで行われています。
パウローンがいつも起用するミュージシャンの名が見当たらないのは、
パウローンがベロ・オリゾンチに出向いて、
地元ミュージシャンを起用したからなのかもしれません。

トロンボーンやフルート、ピアノを使っている曲もあって、
アレンジがいつものパウローンと違うのは、
マルコス・サントスという人がやっているのかな。
知らない名前ですけれど、ベロ・オリゾンチのミュージシャンだろうか。
曲ごとに工夫されたアレンジなど、しっかりとした制作ぶりで、
インディ作というのが、もったいなさすぎ。
このままビスコイト・フィーノから出せるようねえ。

ファビーニョ・ド・テレイロ、チノ・フェルナンデス、エデルソン・メローン、
メストリ・ジョナスなど、ベロ・オリゾンチの知られざるサンビスタたちに、
また一人、忘れられない名前が加わりました。

Dé Lucas "CLAREAR" no label no number (2016)
コメント(0) 

ファンクの肝はアタマの1拍目 ブーツィー・コリンズ

Bootsy Collins  The Power Of The One.jpg

ダンプスタファンク新作のヘヴィ・ロテが止まらない。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-05-02
これ一枚じゃ物足んなくて、なんかほかに良さげなファンクはないかと、
少し前に出ていたブーツィーの新作に手を伸ばしてみましたよ。

ブーツィーはねぇ、昔大好きだったんだけど、世紀が変わったあたりから、
だんだん興味が薄れてきちゃったんだよなあ。
なんか健全になっちゃったというか、変態ぽいハチャメチャな感じとか、
ヒネくれたところが消えてしまって、ストリート感は失われたよねえ。

11年の“THE FUNK CAPITAL OF THE WORLD” だって、
ゴージャスでよく出来ているなあ、なんて感心しつつも、
どうもそのゴージャス感が受け入れがたくって、
妙に冷めて聴いちゃったんだよなあ。

やっぱゴキゲンなファンクはさあ、
パっと聴いただけで、身体に電気が走るような感触がなきゃ、ダメだよねえ。
17年の“WORLD WIDE FUNK” も、豪華絢爛なゲストばかりに耳がいって、
どうにも盛り上がれなかったんでした。

というわけで、正直おそるおそるという感じで、耳にした20年作。
うわぁ、いいじゃん!
ボトムをぐっと強調したミックスが快感で、オート・ワウをかけて、
ぐちゅぐちゅ、ぶりぶりとスラップするベースがサイコー!

ダンプスタファンクがスライの“FRESH” の1曲目をカヴァーしたけれど、
こちらは2曲目の‘If You Want Me To Stay’ を
‘Want Me 2 Stay’ と改題カヴァーしていて、
しかもラリー・グラハムをゲストに、ブーツィーとベースを競演してるよ。うぇ~い!

本作のタイトル『ザ・ワン(1拍目)のパワー』とは、ジェイムズ・ブラウン直伝の、
ファンクは頭の1拍目が命だという教えとのこと。
小節はじめの1拍目に、全身全霊、入魂で弾かんかい!
という教えにのっとったものなんだそうです。
ドアタマでアクセントを付けるパワーこそがファンクの真髄と、
JBから学んだブーツィーは、ジョージ・クリントンとバーニー・ウォレルにも
その教えを伝授して、Pファンクに継承したんだそうであります。
そんなタイトルを付けた心意気が伝わる快作です。

Bootsy Collins "THE POWER OF THE ONE" Sweetwater Studios SWS1020 (2020)
コメント(0) 

4トロンボーン・ジャズ ジェニファー・ウォートン

Jennifer Wharton’s Bonegasm  BONEGASM.jpg   Jennifer Wharton’s Bonegasm  NOT A NOVELTY.jpg

4トロンボーンというレアな編成で、主役はバス・トロンボーン。
しかも、このジャケ写ですよ。
これで買わないわけにはいかないでしょうという、
ニュー・ヨークの女性バス・トロンボニスト、ジェニファー・ウォートンのデビュー作。
アンサンブル重視のオーソドックスなジャズで、すがすがしい作品だったんですが、
新作ジャケが、これまたジャズとは思えぬポップなデザインで、
試聴もせずに飛びついちゃいました。
イマドキのジャズがいかに絶好調かを示す、洒脱なデザインですね。

ジャズ・シーンでチューバが脚光を浴びるようになったことと、
連動するのかどうかはわかりませんが、
アンサンブルのなかでサポート役に回ることが宿命的な低音楽器を、
メインに押し出そうという試みは、興味をそそられますよね。

もっとも4トロンボーンという編成じたいは、特に目新しいものではなく、
日本でも、鍵和田道男や中川英二郎たちが試みています。
ただ、トロンボーンの特性を発揮した面白いアンサンブルができるかどうかは、
なかなか難しいところなんですが、ジェニファー・ウォートンのアンサンブルは、
ラージ・アンサンブルの技術ばかりでなく、クラシックのテクニックも駆使して、
ユニークなアレンジをしています。4台のトロンボーンがハーモニーを生み出したり、
別々の旋律で動いたりして、さまざまに色彩を変えていくんですね。

もともとジェニファーはクラシックの演奏家で、
ニュー・ヨークのブロードウェイで、オーケストラ・ピットの仕事もするかたわら、
ジャズもプレイしているという人なので、より自由度の高い演奏を求めて、
4トロンボーンの可能性を試しているようです。

デビュー作の1曲目からそれは発揮されていて、
4拍子と7拍子がスイッチする構成の曲で、
メンバー全員が活躍するアレンジでのびのびと演奏しているのが、印象的です。
ファンキーなチューンあり、美しいバラードありと、楽曲のタイプもヴァラエティ豊かで、
‘Softly As In A Morning Sunrise’ やオスカー・ピーターソンの‘Tricotism’ では、
非凡なアレンジが楽しめます。

そして、アルバム・ラストでは、なんとダイナ・ワシントンの‘Big Long Slidin' Thing’ を
ジェニファーが歌うというサービス精神に富んだ趣向で楽しめます。
ブルースというより、キャバレー・ソングぽくて、
遊びゴコロを発揮したトロンボーン・ソリが痛快です。

新作はスタンダード曲はなく、ジェニファーとゆかりのあるミュージシャンたちに
作曲を依頼し、提供された曲を演奏しています。
オープニングは、ニュー・ヨークのジャズ・ピアニスト、
マイケル・エクロスに作曲を委嘱したラテン・ナンバー。
マイケル・エクロスは、話題となったキューバン・ビッグ・バンド、
オルケスタ・アコカンのアレンジャーとして名を上げましたよね。

今作も、4トロンボーンが生み出すサウンドスケープは、鮮やか。
4人が順にソロを取る‘Ice Fall’ のようなオーソドックスなアレンジのトラックから、
リズムがさまざまにスイッチする複雑なアレンジの‘Blue Salt’ まで、
トラックごとに趣向を変えつつ、
いずれでも遊びゴコロあるところが、このグループの良さですね。
カート・エリングをゲストに迎えたラスト・トラックでは、
トロンボーン・ソロを真似たスキャットを披露していて、いやぁ、もう、たまんない。
このアルバムには、豊かな物語があります。

Jennifer Wharton’s Bonegasm "BONEGASM" Sunnyside SSC1530 (2019)
Jennifer Wharton’s Bonegasm "NOT A NOVELTY" Sunnyside SSC1612 (2021)
コメント(0) 

コペンハーゲンの実験的ジャズ ネゼルホーンズ

Nezelhorns.jpg

テナー・サックス奏者のナナ・パイが率いるコペンハーゲンのクインテット、
ネゼルホーンズのセカンド・アルバム。

リーダーのナナ・パイはデンマーク出身ですが、
トロンボーンのペッター・ヘンゼルと
ドラムスのクリストファー・ロステットはスウェーデン出身、
トランペットのエリック・キメスタッドはノルウェー出身、
ベースのヨハネス・ヴァートはエストニア出身と、
北欧各国からコペンハーゲンに集まった才能によるグループです。

グループの核となっているのが、
作曲を担当しているナナ・パイとペッター・ヘンゼルで、
二人とも調性と無調が行き来するコンポジションを書き、
協和と不協和が並列するサウンドスケープを、伝統的なジャズな語法で演奏しています。
即興性は強いけれど、フリー・ジャズとは言い難い構造のあるコンポジションを演奏する、
実験性の高いグループで、このビミョーな案配が、めちゃ好みだなあ。

タイトル曲の冒頭でナナが、テナー・サックスの無伴奏ソロを吹くんですが、
不協和音やノイズを駆使しながら、けっして破調になることなく、
抑制の利いた即興演奏となっているところが聴きものです。
ナナの独特なトーンは、やっぱ強烈な個性があるなあ。
坂田明が18年12月に渡欧ツアーした時、彼女と共演したんですよね。

北欧ジャズらしいダークなトーンのコンポジションは、
余計な抒情を挟み込んでこない、無糖コーヒーの味わいにも似て、
とても魅力的です。

Nezelhorns "SENTIMENT" Barefoot BFREC066CD (2021)
コメント(0) 

トンブクトゥの女王を悼んで ハイラ・アルビー

Khaira Arby  NEW YORK LIVE.jpg

アフリカのアーティストで、ライヴを観たかった筆頭格が、ハイラ・アルビー。
ハイラをトンブクトゥのソウル・ディーバと礼賛した記事を、かつて書きましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-09-21
18年4月に届いた訃報には、全身から力が抜ける思いがしたものです。
59という年齢で逝くなんて、あまりに早すぎますよ。

ハイラ・アルビーを世界に紹介したクレモント・ミュージックが、
生前のライヴ録音を出すという知らせを聞いていたので、
首を長くして待っていたんですが、ようやくこの春、
10年8月にニュー・ヨークのバード大学で行われたライヴ・アルバムがリリースされました。

10年というと、ちょうど世界デビュー盤の“TIMBUKTU TARAB” を出し、
ヨーロッパ、北米、モロッコ、アラブ首長国連邦を回っていた
世界ツアーのときの録音ですね。
“TIMBUKTU TARAB” 収録の6曲を含む10曲が、収録されています。

天に駆け上っていくようなハイラの素晴らしいヴォーカルに、圧倒されます。
生命力が漲るその歌声には、ホレボレとさせられますよね。
地元トンブクトゥの大スターから、マリを代表するシンガーとしての栄誉を勝ち得て、
世界に羽ばたいたキャリア絶頂の瞬間を捉えた、輝きに満ちたライヴ盤です。
ハイラをバックアップするバンド・サウンドも完璧な仕上がりで、まさに当意即妙。
「トンブクトゥのアリーサ・フランクリン」とも形容されたハイラですけれど、
このアルバムは、アリーサのフィルモア・ウェストのライヴ盤をホウフツとさせますね。

10年の録音といえば、奇しくも同じ年の1月、
バマコで録音されたザ・スウェイ・マシナリーのアルバムに、
ハイラ・アルビーが大々的にフィーチャーされていたんですけれど、
このアルバム、日本ではまったく知られていないようなので、
せっかくだからここで紹介しておきましょう。

The Sway Machinery  THE HOUSE OF FRIENDLY GHOSTS, VOL.1 FEATURING KHAIRA ARBY.jpg   The Sway Machinery & Khaira Arby.jpg

ザ・スウェイ・マシナリーは、
5人のジューイッシュをメンバーとするブルックリンのバンド。
ジョーダン・マクリーン(トランペット)とスチュアート・ボギー(テナー・サックス)
の二人は、アンティバラスのメンバーとしても知られています。
リーダーのジェレマイア・ロックウッド(ヴォーカル、ギター)は、
ユダヤ教会の典礼音楽を受け継ぐ一族の出身で、
ナイトクラブで演奏できるファンキーなユダヤ音楽をクリエイトしようと、
ザ・スウェイ・マシナリーを立ち上げたといいます。

そのザ・スウェイ・マシナリーが「砂漠のフェスティヴァル」に招聘され、
ハイラ・アルビーと出会って意気投合、バマコでセッションすることになったんですね。
ハイラとともに砂漠のフェスティヴァルに出演したシュペール・オンズや、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-02-26
ジェリマディ・トゥンカラ、ヴィユー・ファルカ・トゥーレ、ズマナ・テレタとの面々も、
セッションに参加しています。

砂漠への旅の途中で出会ったトゥアレグの男の子の歌や、女性たちのコーラス、
ラクダのいななき、街に流れるアザーンをフィールド録音したトラックなども織り交ぜ、
ザ・スウェイ・マシナリーがマリを旅した、
ロード・ムーヴィといったアルバムになっているんですね。
CDブック形式の80ページのフォト・ブックには、
マリで撮られた様々なスナップ・ショットとともに、
アメリカのジューイッシュがマリで出会った異文化体験を率直に書き記していて、
すがすがしさを覚えます。

その制作アプローチは、
デーモン・アルバーンの『マリ・ミュージック』とよく似ていながら、
デーモンの仕事を快く思わないぼくが感動できたのは、
異文化への敬意の熱量と、アティチュードの違いだろうな。

ライヴ盤でも歌われている‘Sourgou’‘Youba’ の2曲がこちらでも聴けるんですが、
ロウファイな魅力は、またひと味違う仕上がり。
シュペール・オンズも加わってタカンバの祝祭感溢れるヴァージョンに仕上げた‘Sourgou’、
バリトン・サックスのブルージーなリフとテナー・サックスのブロウに、
黄金時代のエチオピア歌謡を思わすド迫力の‘Youba’ と、
ライヴと甲乙つけがたいヴァージョンになっています。
ハイラ・アルビーのライヴ盤を契機に、
ザ・スウェイ・マシナリーのアルバムにも注目してもらいですねえ。

Khaira Arby "NEW YORK LIVE" Clermont Music CLE033
The Sway Machinery "THE HOUSE OF FRIENDLY GHOSTS, VOL.1 FEATURING KHAIRA ARBY" JDub JDUB124 (2010)
コメント(0) 

ヒップ・ホップ・ビートをヒューマナイズした遺作 トニー・アレン

Tony Allen  THERE IS NO END.jpg

トニー・アレンを観たのは、19年1月のブルーノート東京のステージが最後。
サックスのヤン・ヤンキルヴィツを核とするセクステットでやってきて、
“THE SOURCE” のレパートリーを聞かせてくれたんですけれど、
まさかこの1年3か月後に亡くなってしまうなんて、想像すらしませんでしたよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-09-12

ブルーノートのステージで繰り広げた、見事に力の抜けたドラミングは、
まさしく老練そのもので、半世紀以上昔の古臭いスタイルにもかかわらず、
それが現代ジャズとして響く不思議さに感じ入ったもんです。
スティックのグリップにしたって、今日びあんな持ち方するドラマーなんていないもんなあ。
それは取りも直さず、トニーが「ドラムスを叩く」のではなく、
「ドラムスを歌わせる」タイプのドラマーであることの証明だったと、ぼくは捉えています。

そんなトニーらしい遺作が登場しました。
未完成だったヒュー・マセケラとのコラボレーションが、
完パケになって世に出たときも驚きましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-04-01
ほかにもアルバム制作途中のものがあったとは、びっくりです。

最期まで意欲満々だったトニーのミュージシャンシップに感じ入るばかりなんですが、
ヒップ・ホップのアルバムだったところが、これまたトニーらしいところ。
アフロビート・レジェンドというポジションに安住する興味などさらさらなく、
常に新しいクリエイターを求め続けてきたトニーは、
これまでも、デーモン・アルバーン、モーリッツ・フォン・オズワルド、ジェフ・ミルズなど
気鋭の若手音楽家たちと次々とコラボして、ロック、ダブ、ジャズ、テクノを横断する
クロスオーヴァーな活動をずっとしてきたんですからね。

しかし本作は、ドラムスとベースのベーシック・トラックを作ったところで、
トニーが亡くなってしまい、生前に仕上がっていたトラックは、
ナイジェリアの詩人ベン・オクリのポエトリーとスケプタのラップをフィーチャーして、
デーモン・アルバーンがオルガンを弾いた‘Cosmosis’ 1曲のみだったとのこと。

他のトラックは、プロデューサーのフランス人ドラマーのヴァンサン・テーガーと、
フランス人ピアニスト、ヴァンサン・トーレルの二人が、
若い世代の素晴らしい才能を世に送り出したいというトニーの遺志を継いで、制作を続行。
サンパ・ザ・グレイト、ツナミ、ナー・イート、コリアタウン・オディティ、
ラヴァ・ラ・ルー、ダニー・ブラウンなど、新進のアーティストたちをフィーチャーして、
トニーの願いを遂げたのでした。
ヴァンサン・テーガーとヴァンサン・トーレルの二人って、
ウム・サンガレの“MOGOYA” で、作曲者にクレジットされていましたね。

アルバムの最初と最後にトニーのナレーションをフィーチャーして、
ドラムスを歌わせるドラマーの本領を発揮したジャジー・ヒップホップ作品。
ベスト・トラックは、西ロンドンの女性ラッパー、ラヴァ・ラ・ルーをフィーチャーした
‘One Inna Million’ だな。クールでセクシーなフロウと、
フランス人ベーシスト、マチアス・アラマンのグルーヴがサイコー。

ドラムスが歌うばかりかフロウする繊細なトニーの妙技は、
ダビーな空間にも、グライムやトラップ世代のビート感にも、
するりと滑り込む自由度を有し、
ヒップ・ホップ・ビートのヒューマナイズを鮮やかに表現しています。

Tony Allen "THERE IS NO END" Blue Note 0734546 (2021)
コメント(0) 

唯一無比のアヴァンギャルド・ジャズ・ドラマー ロナルド・シャノン・ジャクソン

Ronald Shannon Jackson  Street Priest.jpg   Ronald Shannon Jackson  STREET PRIEST  LP.jpg

ひさしぶりに“BLACK ROCK” を聴いたおかげで、
すっかりウルマー祭りとなっております。
“NO WAVE” “ARE YOU GLAD TO BE IN AMERICA?” と続けたら、
ロナルド・シャノン・ジャクソンのドラムスがもっと聴きたくなって、
“STREET PRIEST” に手が伸びました。

ロナルド・シャノン・ジャクソンのアルバムで一番聴き倒したのは、やっぱりこれかなあ。
8年前にシャノン・ジャクソンのお悔やみ記事を書いた折、
“STREET PRIEST” がCD化されていることに気付いて、
おぃおぃ、いつの間にCD化してたんだよと、
ひとりごちしながら、あわてて入手したんだっけ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-10-23
CDジャケットの写真は、LPと別のカットに差し替えられていて、
メールス盤CDでは珍しく、デジパック仕様となっていたんですね。

お悔やみ記事に82年の”MAN DANCE” を掲げたのは、
吉田カツのドローイングが、シャノン・ジャクソンの音楽の本質を見事に描き切っていて、
弔意を示すのにふさわしいジャケットだと思ったから。
でも音楽的内容では、なんといっても“STREET PRIEST” が最高ですよ。

その理由はといえば、作編曲の良さ。
ツイン・サックスにツイン・ベースという特異な編成と、
シャノン・ジャクソンの手数の多いドラミングをフルに活かした
コンポジションとアレンジに、まったくスキがないのが、本作の傑作たるところ。
逆に言えば、他のデコーディング・ソサエティのアルバムでは、
なにかしらちょっとした不満が、それぞれあるんですよね。
“MAN DANCE” にせよ、“NASTY” にせよ、“BARBEQUE DOG” にせよ。

もたったり揺らいだりするリズムにのせて、アブストラクトな音列を、
リー・ロージーのソプラノ・サックスとゼイン・マッセイのアルト・サックスが、
ユニゾンで吹く変態的なテーマに、病みつきになったんだよなあ。
ロック・ドラムとも、フリー・ジャズのパルスとも違う、
マーチング・ドラムがフリー・ジャズに異化したかのような
シャノン・ジャクソンのタテノリのドラミングは、いまだに謎なんであります。

インプロヴィゼーションになると、
フリーキーなサックスと、引っかかりのあるベースが有機的に絡みあい、
その合間を、ヴァーノン・リードの轟音ギターがなめらかに縫っていく場面など、
いまだ実体のよくわからない、ハーモロディクスの片鱗を味わうことができます。
メルヴィン・ギブスとブルース・ジョンソンの2台のベースのヘテロフォニックな動きが、
すごくカッコイイんだよなあ。

ゆいいつスローな‘Sandflower’ だけが、ブルース・ジョンソンにベースの役割を任せ、
ゆったりとしたサックスのソリをバックに、
メルヴィン・ギブスがリード・ギターのように細かなパッセージのソロを取っています。
アルバム中、ゆいいつ抒情を漂わせたオーセンティックなスタイルのトラックで、
テキサスのフォーク・ルーツを感じさせるメロディに、グッときますよ。

続く‘Hemlock For Cordials’ では、リー・ロージーとゼイン・マッセイの二人が
テナー・サックスに持ち替えて、冒頭から吠えまくり。
ハイ・トーン中心にキーキー鳴らすロージーと、
低音中心にパワフルなブロウを聞かせるマッセイが対照的なプレイを聞かせます。
そしてラストの‘Chudo Be’ では、サックス、ベース、ギターが同時に
インプロヴィゼーションを繰り広げる集団即興のパートから、
一転リズム・チェンジしてソロ・リレーに移るという趣向が、スリリングですよねえ。

あぁ、やっぱ、このアルバム、サイコーだわ。
あまりに唯一無比すぎて、シャノン・ジャクソンを継ぐ人が現れないのも
無理ないと思わせる、アヴァンギャルド・ジャズの驚異的なドラマーだったのでした。

Ronald Shannon Jackson and The Decoding Society "STREET PRIEST" Moers Music 03002CD (1981)
[LP] Ronald Shannon Jackson and The Decoding Society "STREET PRIEST" Moers Music MOMU01096 (1981)
コメント(0) 

ブラック・パワー・ジャズ ジェイムズ・ブラッド・ウルマー

James Blood Ulmer  Black Rock.jpg

ひん曲がったリズムで、アブストラクトな音列を並べるテーマに、はや昇天しかけていると、
痙攣するようなリックをがしがしと弾き倒すギターが畳みかけてきて、
その圧倒的なブラック・パワーには、ただただひれ伏すほかありませんでした。
81年にジェイムズ・ブラッド・ウルマーと出会ったのは、
自分の音楽人生の中でも、一二を争う強烈な体験だったことは間違いありません。

ラフ・トレードというポスト・パンクのレーベルからアルバムが出たのも必然で、
むしろその後、メジャーのコロンビア・レコードに移籍したことの方が、ビックリもの。
コロンビアがウィントン・マルサリスに先んじて、ウルマーやアーサー・ブライスを
手がけていたというのは、今思えば先見の明があったと思うけど、
セールスが思わしくなければバッサリ切り捨てるメジャーの非情で、
ウルマーはたった3枚でクビになっちゃいました。

でも、そのコロンビアの2作目、82年の”BLACK ROCK” が、
ウルマーの一大傑作でしたからねえ。
今回、オランダのリイシュー専門レーベルがCD化して、LPと変わらぬ音質に大カンゲキ。
20年以上前に日本でCD化したことがあるんだけど、その日本盤は、
霞がかかったような音質だったんだよなあ。
それだけに今回のCD化は、嬉しさひとしおです。

ただ、何度も聴いて気付いちゃったんですが、このCD、盤起こしなんですね。
‘Family Affair’ のイントロのギターで、軽いプチ音が聞こえます。
ヘッドフォンでなければわからない程度なので、
気付かない人がほとんどだと思いますけれど。
フェイド・アウト処理なども丁寧にしているので、これなら盤起こしでも不満はありません。

本作は、ミュージック・リヴェレイション・アンサンブル名義の“NO WAVE” や、
“ARE YOU GLAD TO BE IN AMERICA?” のフリー・ジャズ/ファンク路線はそのままに、
ロナルド・シャノン・ジャクソンから、
カルヴィン・ウェストンとコーネル・ロチェスターのツイン・ドラムに
交替しています。これにより、ロック的なビートが強調され、
ジャズにカテゴライズされることを抵抗した、タイトルどおりの内容となりました。

ウルマーが弾きまくる曲ばかりでなく、ウルマーがバックに回り、
ロナルド・ドレイトンのソリッドなリズム・ギターを前面に出して、
フルートがミステリアスなムードを醸し出す‘Moon Beam’ など、アレンジも多彩。
コロンビアの1作目の“FREE LANCING” ではバッキング・ヴォーカルだった
アイリーン・ダッチャーが、2曲でリード・ヴォーカルを務め、
ウルマーと夫唱婦随を聞かせるのがハイライトです。

“FREE LANCING” とリズムのウネリがケタ違いになったのは、
ロックを志向したからという、単純なストーリーではありませんね。
ジャズを解体した前衛的手法で、ブルースやゴスペルにさかのぼる、
ブラック・ミュージックの原初的なエネルギーを呼び覚ましたからでしょう。
ブラック・ジャズのフィジカルの強さを仰ぎ見る、歴史的傑作です。

James Blood Ulmer "BLACK ROCK" Music On CD MOCCD14019 (1982)
コメント(0) 

アコーディオン・ジャズの決定盤 ドム(ドミニク)・フロンティア

Dom Frontiere and His Eldorado.jpg

うわぁ、なっつかしい~!
秘蔵盤がとうとうCD化されちゃいましたぁ。
アコーディオン・ジャズの知られざる名盤、
ドム(ドミニク)・フロンティアのリバティ盤2枚。
ハタチの頃、池袋のメモリーレコードのおじさんに教えてもらった逸品ですー。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-11-05

ジャズでアコーディオンといえば、完全にその他楽器扱いで、
アート・ヴァン・ダム、ジョー・ムーニー、
レオン・サッシュといった人たちに代表されるとおり、
スウィング・マナーのラウンジーなジャズばかり。
バップ・イディオムのモダン・ジャズなんて、てんでお呼びじゃない、
イージー・リスニングの世界ではあるんですが、
ドム・フロンティアのこの2枚はひと味違って、スウィング・ジャズのスリルもたっぷりの、
ヒップなアルバムに仕上がっているのですよ。
でも、リバティというレコード会社からおわかりのとおり、
ポピュラー寄りの作品ではあるんですけれどね。

ドムことドミニク・フロンティアは、『アメリカ連邦警察 FBI』『逃亡者』
『ラット・パトロール』『インベーダー』など、
60年代の人気テレビ・ドラマのテーマ・ソングほか、
『奴らを高く吊るせ!』『大列車強盗』『薔薇の素顔』などの映画音楽を手掛け、
アコーディオン演奏でも、『ナイアガラ』『慕情』『帰らざる河』『愛のセレナーデ』ほか、
多くの映画に起用されてきた人。
70年代には、パラマウント・ピクチャーズの音楽部門の責任者にもなり、
映画スタジオの音楽部門をフルタイムで担当した、最後の現役ミュージシャンの一人でした。

そのドミニクが50年代にリバティに残したアルバムは、
今回スペインのブルー・ムーンから2イン1でCD化された
55年の“Dom Frontiere Sextet”、56年の“FABULOUS!” のほかに、
ショパン、バッハ、ラヴェルなどのクラシック曲を演奏した
58年の“MR. ACCORDEON” があります。

“Dom Frontiere Sextet” は、ドムのアコーディオンに、
バス・クラリネット、クラリネット、ギター、ベース、ドラムスのセクステット編成。
クラ2台というのがユニークです。
ドムのオリジナル曲のほか、キューバの名作曲家エルネスト・レオクーナの「そよ風と私」、
ラグタイム時代のピアニスト、フェリックス・アルントが残した
ノヴェルティなラグタイム「ノーラ」、「テンダリー」などを演奏しています。
かなり精緻なアレンジをしていて、
ルースに即興するほどの小節数は各楽器に与えられていません。
アコーディオンとクラ2台の絡みなんて、よく練られているんですよね。
3台の合奏のハーモニーが崩れて分散和音に移るところなんて、何度聴いてもゾクゾク。

“FABULOUS!” の方はヴィブラフォンとハープ(!)が加わったオクテット編成。
こちらもさらに、きっちり譜面に落としてある演奏ぶりで、
リズムが変わってがらっと場面展開する編曲などは、
映画音楽の技法が駆使されています。

もう30年以上、ジャズ雑誌を読んでいないので、不確かですけれど、
ジャズ雑誌のその他楽器の特集などにも、
この2枚が取り上げられたのを見たことがないので、
ほとんど知る人もいないんじゃないかなあ。
ジャズ・ファンより、モンド方面の趣味人にオススメしたい逸品であります。

Dom Frontiere and His Eldorado "FABULOUS!" Blue Moon BMCD902 (1955/1956)
コメント(0) 

70年代ソウルの帰還 PJ・モートン

PJ Morton  GUMBO.jpg   PJ Morton  GUMBO UNPLUGGED.jpg

ジョン・バティステの“WE ARE” を絶賛愛聴中なんでありますが、
あのアルバムにはPJ・モートンも客演しているんですよね。
何年か前、PJ・モートンの“GUMBO” が話題になったとき、
CDを探すも見つからず、そのまますっかり忘れていたことを思い出しました。
あ、日本盤は出ているんですけれどね。
できるかぎりオリジナル盤で買うという、メンドくさい性分がいまだ抜けないもんで。

その後、ライヴ会場でしか売っていないらしいとかの情報を耳にして、
んじゃ、しかたがないかと諦めてたんですが、
思い出しついでにネット検索してみたら、ご本人のサイトで販売していることが判明。
翌年に出したスタジオ・ライヴ盤“GUMBO UNPLUGGED” もあったので、
一緒にオーダーしたのでした。

ニュー・オーリンズ出身のシンガー・ソングライター、というより、
キーボーディストやプロデューサーとしての活躍のほうが有名なPJ・モートン。
マルーンなんちゃらという人気ロック・バンドへの参加が、
この人の名刺がわりのように必ず言われますけれど、
かつてのビートルズとビリー・プレストンみたいなもんでしょうかね。

もともと楽曲提供や客演仕事などの裏方仕事が長かった人で、
ゴスペルを出自とする音楽性に加え、職人肌のR&B、ヒップ・ホップ、ジャズ使いに、
プロデューサーらしい才能ぶりがうかがわれます。
“GUMBO” というタイトルに、ルーツのニュー・オーリンズ色濃い内容なのかと思ったら、
さにあらず。人肌のぬくもりが伝わる70年代ソウル・マナーの生演奏サウンドに、
思わず感涙してしまいました。

そして、この徹底したスティーヴィー・ワンダー節も、いいじゃないですか。
こういうスティーヴィー・ワンダーそっくりさんシンガーって、
ときどき登場するけど(ミュージック・ソウルチャイルドとか)、
なぜかこの人の歌いっぷりには、その種のフォロワーにおぼえる抵抗感を感じず、
素直に聞くことができました。
おそらく彼が単なるシンガーではなく、演奏能力も高いプロデューサーとしてのセンスを、
サウンドのすみずみまでに発揮しているからじゃないかな。

ニュー・オーリンズ色はないと言ったものの、
前のめりに突進していく‘Stickin To My Guns’ あたりは、
ニュー・オーリンズ・ファンクらしいところ。
ストリングスのアレンジが、マット・ジョーンズという人がやっていて、
演奏はマット・ジョーンズ・オーケストラとクレジットされていますね。
シカゴの若手アレンジャーだそうで、独特のサウンドを生み出していて、
アレンジばかりでなくミックスも独自の個性を感じさせます。

そして、“GUMBO” 全曲をスタジオ・ライヴで一発録りした“GUMBO UNPLUGGED” の
一体感は見事としかいいようがありません。YouTube でも視聴できますけれど、
ストリングス・オーケストラ含め、
ミュージシャン全員がひとつの部屋に入り(コーラスだけ別部屋)、
せーのでやっている臨場感の素晴らしさといったら、もう。
こういう現場を取り仕切れる能力も、プロデュース経験のなせる業でしょう。

また、BJザ・シカゴ・キッドとハミルトンズをフィーチャーした
‘Everything's Gonna Be Alright’ の高揚感がたまりません。
ゴスペルばかりでなく、ニュー・オーリンズ・ファンクのテイストも加わっていて、
曲順を変えたライヴ盤では、アルバム・ラストに置いて、
大団円の盛り上がりになっているのも、サイコーです。

PJ Morton "GUMBO" Morton no number (2017)
PJ Morton "GUMBO UNPLUGGED" Morton no number (2018)

コメント(0) 

ポップになることの意味 カサイ・オールスターズ

Kasai Allstars  BLACK ANTS ALWAYS FLY TOGETHER.jpg

あれま。ずいぶんとポップになったこと!

コンゴの5つの民族(ルバ、ソンギエ、ルルア、テテラ、ルントゥー)の
メンバーが集合し、それぞれの民族のフォルクロール(伝統音楽)を融合して、
新たなるアンプリファイド・フォルクロールをクリエイトしたカサイ・オールスターズ。
17年に出た、映画『わたしは、幸福(フェリシテ)』のサウンドトラック
“AROUND FÉLICITÉ” 以来のアルバムですね。

コノノNo.1(ヌメロ・アン)ですっかり有名になった電化リケンベ(親指ピアノ)と、
電化リケンベ以上に強烈なバズ音を生み出すビビリ太鼓のディトゥンバ、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-12-12
サワリ音の利いた木琴、大型スリット・ドラムが生み出すグルーヴはそのままに、
リズムを整理したプログラミングとシンセの導入によってキャッチーなメロディを強調し、
より幅広い層にアピールするサウンドに仕上げています。

本作はメンバーのギタリスト、モペロ・ムペンバがプロデュースをしていて、
リズム・プログラミングもモペロとエンジニアのパピ・アトゥケの二人が担当したんですね。
パピ・アトゥケはシンセも演奏していて、メロディの補完役を務めています。
どうやらポップ化の立役者は、モペロ・ムペンバとパピ・アトゥケの二人のようだな。
従来のトランシーなビリビリ感電フォルクロールを期待すると、
はぐらかされた気分になると思いますけど、ぼくはこの方向性、強く支持しますね。

同じカサイ地域に暮らす民族でも、言語も文化も違い、
それぞれの音楽的伝統は相容れないとされていたのを、
カサイ・オールスターズは乗り越え、見事に共有してみせました。
‘Unity Is Strength’ と題した曲があるように、本作を貫くテーマは「結束」です。
先行シングルで出された‘Olooh, A War Dance For Peace’ でも、
村人の争いが起こった時、武器を手にして戦いの踊りを踊ることによって
紛争解決を図るという、平和的解決のための昔からの智慧が歌われています。

自国/自民族優先主義が引き起こした社会の分断を立て直すためにも、
今必要とされているのは、いかに人々の連帯や結束を取り戻すかです。
そのためにも、一部の尖ったファン向けのアンダーグラウンドな音楽に向かうのではなく、
幅広いファン層を求めていくポップな方向性を、ぼくは支持したいのです。

Kasai Allstars "BLACK ANTS ALWAYS FLY TOGETHER, ONE BANGLE MAKES NO SOUND" Crammed Discs CRAM295 (2021)
コメント(0) 

マダガスカル伝統ポップ・ア・ラ・カルト ハンタ

Hanta  RANO.jpg

マダガスカルの聞き逃し物件、発見。

02年にフランスのマリオンから出ていた女性歌手の2作目で、
本名のヴニハンタマララ・ランパラニを略して、ハンタと称しています。
マラガシ(マダガスカル語)では、「イヤント」と発音するそうですが、
いやぁ、マラガシの発音って、本当に難しくって、よくわかんない。

カボシ、マルヴァニ、ヴァリハ、ソディナといった民俗楽器主体の編成で、
ベースを除き、オール・アクースティックの伝統サウンドを聞かせます。
ゲストに、マダガスカルを代表するミュージシャンで世界的にも知られる、
ヴァリハのジュスティン・ヴァリとアコーディオンのレジス・ジザヴが参加しています。
軽やかな声で歌うハンタのスピード感溢れる歌いっぷりは、実に爽やか。
コーラスで早口ヴォーカルを聞かせる曲でのリズムのキレが、バツグンです。
女性コーラスに男性メンバーも加わって歌うポリフォニーも、味がありますね。

ハンタは、母方の祖父がピアニストで、母親は有名な合唱団の歌手という
中央高原の音楽一家に生まれ、幼い頃から音楽とダンスに没頭していたのだとか。
幼少期のほとんどを南部で暮らしたため、伝統儀式を通じて南部の伝統音楽を身につけ、
ツァピキ、バナイケ、ジヘ、ベコといった南部の伝統音楽も得意としています。
ハンタのグループは、マダガスカル南部代表として
フェスティヴァルに参加することもあるそうです。

本作では、西部のサレギや南部のツァピキといったシンコペイトの利いたリズム曲のほか、
南部の葬送歌のベコや、中央高地の伝統芸能ヒラガシの影響を思わせる曲も歌っていて、
マダガスカル音楽の多彩な伝統音楽の魅力をアピールしています。
アリオンらしい企画のアルバムですけれど、そんな企画と見事にハマったのは、
マダガスカルの多様な民族の音楽を習得した、ハンタの幅広い音楽性ゆえですね。

Hanta "RANO" Arion ARN64570 (2002)
コメント(0) 

そよ風香るフォーキー・マコッサ マリオ・コンボ

Mario Combo  DIMBAMBE IDENTITÉ.jpg

爽やかなアフリカン・フォーキー・サウンドに、
どこの人?と思ったら、カメルーンでした。
マリオ・コンボ。初めて聴く名前ですが、
20年のキャリアがある人だそうで、これが4作目だそうです。

こんな感じの人、なんかいたよねえと、しばし思案して、
ブリック・バッシーが浮かんだところ、
なんとそのブリック・バッシーが音楽監督・アレンジをしていて、ビックリ。
しかもこのアルバム、15年作じゃないの。
ブリック・バッシーに世界の注目が集まった“AKÖ” が出たのと、同じ年ですよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-09-27
う~ん、なんだか引き寄せるものがあるなあ。

ギターやカヴァキーニョを中心とした生音中心のアンサンブルに、
やわらかな男性コーラスと、爽やかなフルートが彩を添える
シンプルなプロダクション。余計な音を積み重ねず、
スルドなどのブラジルの楽器を使いながら、
マコッサやサンバの軽やかなリズムにのせて、マリオ・コンボは歌います。
まるでブラジルかカーボ・ヴェルデのようなサウンドですね。

クセがなく、親しみやすいメロディは、
カメルーンらしいアフロ・ポップといえますけれど、
考えてみると、カメルーンでは60年代のエボア・ロタン以降、
こうしたギター弾き語りの系譜が続いているともいえそうですね。

そよ風のようなリズム、なめらかな声と気さくな歌い口に、
カメルーン・マナーの洗練を味わえる良作です。

Mario Combo "DIMBAMBE IDENTITÉ" Bright Moon Production MC201597/1 (2015)
コメント(0) 

アマピアノ・シリーズ第2弾 DJ・ブラック・ロウ

DJ Black Low  UWAM.jpg

オウサム・テープス・フロム・アフリカが、
テノ・アフリカに次いでリリースしたアマピアノ第2弾。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-03-31
テノ・アフリカはインストでしたけれど、
こちらは多彩なMCやシンガーをフィーチャーしています。

DJ・ブラック・ロウことサム・オースティン・ラデベは、
プレトリア出身の20歳のDJ/プロデューサーで、本作がデビュー作。
テノ・アフリカがジャズやハウス色の強いプロダクションだったのに比べると、
ブラック・ロウは、より実験性のあるアフロ・テックなサウンドを狙っているようで、
刺激的なダンス・ミュージックを作り上げています。

ループするビートはポリリズミックで、単調な四つ打ちのハウスやテクノとは別物だし、
電子音のパーカッションと深みのあるベース・ラインが生み出すグルーヴは、
生の打楽器使いと変わらないウネリを、しっかりと生み出しているじゃないですか。
クリアでヘヴィな重低音を響かせるオーディオ・エフェクトは、生楽器にはない快感で、
これこそエレクトロ・ミュージックならではの魅力でしょう。

ディープ・ハウスのジャジーでスムースなサウンドに、
不穏なシンセ音やドープなムードが漂うシンセ音がレイヤーして、
未来的なサウンドとなっているところが、アマピアノの真骨頂でしょうか。
また、歌詞については、ズールー語ばかりでなく、
ツワナ語やペディ語でも歌われているそうで、
ローカルをグローバルに連結させるハイブリッドな試みを、
若い才能が結実させています。

DJ Black Low "UWAMI" Awesome Tapes From Africa ATFA042 (2021)
コメント(0) 

ニュー・オーリンズ・ファンク・パワーハウス ダンプスタファンク

Dumpstaphunk  WHERE WE GO FROM HERE.jpg

いぇ~い! 来た来たぁ、ダンプスタファンクの新作!!
ゴールデン・ウィークに間に合って、ステイ・ホーム期間をゴギゲンに過ごせますよ~。
なんつったって、ニュー・オーリンズ・ファンク最高のバンドですからね。
12年に来日して、渋谷のクラブクアトロの密なステージで踊りまくったことが、
昨日のことのように思い出されますよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-08-03
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-06-24

それにしても、前作が13年ですからねえ。
ずいぶん長いインターヴァルだったよなあ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-08-14
ドラマーがニッキー・グラスピーからデヴン・トラスクレアに交替して、
トランペットとトロンボーンの2管が加わって7人編成になったダンプスタファンク、
ますます強力になりました。

オープニングが、なんとバディ・マイルスの‘United Nations Stomp’。
豪快なロック・テイストのファンクになっていて、
ゲストのマーカス・キングのギターが大暴れ。
ノッケから血流が上がって、コーフンしまくっちゃいました(嬉)。
これですよ、これ。打ち込みなんぞ用はないぜって。
肉弾飛び散る人力ファンクは、まさしくパワーハウス。

2管がレギュラーになったことで、バンド・サウンドはパワー・アップ。
さらに曲によりサックス、トランペット、トロンボーンのゲストも迎え、
厚みのあるサウンドを生み出しています。
ほかにもゲストが大勢いて、アルヴィン・フォード・ジュニアが
半数の曲でドラムスを叩いている(準レギュラー?)ほか、
ヴェテランのワディ・ワクテル(!)がアディショナル・ギターとして参加しています。
平野琢也もパーカッションで参加していますよ。

スライ・ストーンの‘In Time’ のカヴァーも、聴きどころのひとつ。
リズム・ボックスとぺなぺなギターにトボけたサックスという、
スライ流のクールなファンクが、
剛腕で筋骨隆々の肉体美を誇るファンクに様変わりしています。
この正攻法なファンクぶりに、
トランプ政権末期のアメリカにカウンターとして迎え撃とうとする、
彼らの姿勢を感じ取りました。

それがより明確となっているのは、
ラッパーのチャーリー・ツナとトロンボーン・ショーティをゲストに迎えた、
ラスト・トラックの‘Justice’。
彼らは、いまは斜に構えている時代ではないと、
正義を真正面に見据える勇気を、人々に奮え立たせています。

Dumpstaphunk "WHERE WE GO FROM HERE" The Funk Garage TFG76302 (2021)
コメント(0) 

熱帯性雑食音楽の魅力 スム・アルヴァリーニョ

Sum Alvarinho.jpg

サントメ・プリンシペの70~80年代録音をコンパイルしたボンゴ・ジョー盤で、
スム・アルヴァリーニョという歌手を初めて知りました。
調べてみたところ、選曲された2曲を含む82年のレコードがCD化されていることがわかり、
さっそく入手してみたところ、これがすごく面白い。

サントメ・プリンシペのポップスというと、
アフリカ・ネグラやサンガズーザなどの代表的なバンドから、
ペドロ・リマのような人気歌手まで、みんなルンバ・コンゴレーズの影響が強く、
独自性のある音楽が聞こえてこないんですけれど、この人は違いました。

リズムを刻むスクレイパーが、アンゴラのセンバのディカンザみたいに聞こえる曲や、
前半がバラードで、後半がハイチのコンパのようなリズムにスイッチする曲、
はたまたパーカッション・アンサンブルをバックに、
コール・アンド・レスポンスの歌でスタートするも、
途中から泣きのラメントに変わったりと、
とにかく全曲、ポルトガル語圏アフリカやカリブの音楽が
さまざまにミクスチャーされていて、リズムもムードもどれも違うという面白さ。

なかでも、アンゴラ音楽の影響を一番強く感じさせるものの、
小瓶などの小物打楽器のアクセントはセンバとは違って、
いにしえのルンバ・コンゴレーズ調だったりと、とにかく謎だらけ。

ボンゴ・ジョー盤の解説で、サントメ・プリンシペには、
アンゴラのレビータとサントメ・プリンシペのリズムを
ミックスしたプシャという音楽があることを知りましたが、
そのプシャを演奏しているコンジュント・ミンデーロを聞いても、
いまひとつそのプシャなる実体が、よくわからないんですよねえ。

ポルトガル語アフリカ圏には、
カーボ・ヴェルデのフナナーやアンゴラのレビータやセンバなど、
ドミニカのメレンゲと親和性の高いリズムが昔からありました。
じっさい70年代のカーボ・ヴェルデやアンゴラでは、
メレンゲが人気だったわけですけれど、
関係の深いアフリカ諸国の音楽や、カリブ、ブラジルの音楽などが、
多様に混淆して生み出された痕跡が、
このスム・アルヴァリーニョのアルバムから聞こえてきます。

グルーヴィなオルガンが活躍する曲や、
同時代のシンセ・ポップとはまるで違う、独特のシンセの使い方をしている曲など、
いろいろな表情を持つ曲がひしめいています。
共通するのは、どの曲もビートがまろやかで、スウィンギーなところかな。
この独特のセンスがサントメ・プリンシペ特有のものなのか、
スムの個性なのか判然としませんが、このユニークな音楽性は、
これまで聴いたサントメ・プリンシペのポップスのなかでも、抜きんでています。

Sum Alvarinho "CACAU" IEFE/Sonovox SONO11.293-2 (1982)
コメント(0) 

ブルキナベのマンデ・ポップ カディ・ジャラ

Kady Diarra  BURKINA HAKILI.jpg

グリオ出身のブルキナ・ファソ人歌手、カディ・ジャラの新作がいい。
04年にデビュー作を出し、09年の2作目以来、12年ぶりとなる新作です。
最近すっかり聴く機会が減ってしまったマンデ・ポップですけれど、
ひさしぶりの快心作じゃないですか。

ブルキナ・ファソでマンデ・ポップというと、
不思議に思う人がいるかもしれませんけれど、
カディ・ジャラは、ブルキナ・ファソのマンデ系主要民族のブワに属するブワバ人。
ブワは、ブルキナ・ファソ中央部とマリ南東部の広い地域に暮らす30万を超す民族で、
ブワバは人口4万6千人ほどのブルキナ・ファソの民族です。

ブワといえば、神話に登場する動物の精霊をかたどった、
幾何学模様のマスクが有名ですね。
わが家の玄関を開けると、
正面にブワのパピヨンのマスクが鎮座していて、出迎えてくれます。
横幅1メートル20センチもある、大きなマスクです。

Bobo mask Papillon.jpg

で、そのブワのサブ・グループであるブワバ人のカディ・ジャラは、
ブルキナ・ファソ西部の都市ボボ=ジュラッソの生まれ。
その後、コート・ジヴォワールへ引っ越し、
アビジャンのブルキナベ・コミュニティで育ちました。
そのため、母語のブワ語以外に、コート・ジヴォワールのジュラ語、
母親の言語であるバンバラ語、ブルキナ・ファソの主要言語のモレ語に
公用語のフランス語を使うマルチリンガルとなり、本作でも5つの言語で歌っています。

イッパツでグリオとわかる、この声がたまらなくイイんですねえ。
この声だけで、ゴハン3杯いけちゃうみたいな。
伴奏は、甥のムサ・コイタのベース、
サンバ・ジャラのジェンベやカラバシなどのパーカッションに笛、
マブロ・スミファ・ジャラのバラフォンにンゴニ、
娘のアセトゥ・コイタがバック・コーラスと親族中心のメンバーに、
フランス人ギタリストが二人加わっています。

一人はマヌーシュ・スウィングのグループ、レ・ドゥワ・ド・ロムのギタリストの、
オリヴィエ・キクテフで、前作からの付き合いですね。
‘Mougnoun’ のジャズ・テイストなソロ・ワークに、
オリヴィエの持ち味が発揮されています。
そしてもう一人が、モリ・カンテやパパ・ウェンバなど、
多くのアフリカのミュージシャンとの共演歴を持つティエリー・セルヴィアン。
アフリカ音楽のスキルとセンスを持ったギタリストで、
本作でも曲に応じてロックやルンバからヒントを得た
多彩なスタイルのギター・プレイを披露しています。

ブルキナ・ファソらしくバラフォンを中心に据え、ハチロクのグルーヴあり、
ロック的な8ビートあり、ルンバから借りたリズムありと、
ブラッシュ・アップされたマンデ・ポップがすがすがしいじゃないですか。
ラストの、ハードなギターと笛が交錯するマンデ・ロックもカッコいい。
フランスへ移住してすでに20年になるカディ、COVID-19封鎖期間中に、
アルデーシュの自宅でレコーディングしたという本作。
どんな演奏にも淡々とシブいグリオ節を聞かせていて、クールです。

Kady Diarra "BURKINA HAKILI" Lamastrock LAM114385 (2021)
コメント(0) 

返シドメ 一噌幸弘

返シドメ.jpg   一噌幸弘  東京ダルマガエル.jpg

一噌流笛方という能楽師の世界にとどまらず、
ジャズ、ロック、クラシックの音楽家たちと果敢に交流して、
今年でCDデビュー30周年を迎えた一噌幸弘。

思い起こせば、91年のデビュー作『東京ダルマガエル』は、衝撃でした。
山下洋輔、坂田明、渡辺香津美というゲストを向こうに回して、
丁々発止のインプロヴィゼーションを繰り広げる
即興演奏家としての実力は、ただならぬものがありました。

能管や篠笛に、これほどの表現力があるのかと、目を見開かされたアルバムで、
ぼくはこの1枚で一噌さんのファンになりました。
このアルバムは、その後ジャケットを変えて再発もされましたね。
一噌さんのプレイは、その後ライヴで何度も生体験してきましたけれど、
一番忘れられない記憶が、一噌さん本来の土俵である能舞台で聴いた演奏です。

妻が能の稽古を始めて、もう十年以上になるので、
妻の先生の能舞台を観る機会がちょくちょくあるんですけれど、
ある時、いつもと違う笛方の演奏に、聴き惚れたことがありました。
音色がもうバツグンに良くって、笛の豊かな響きを鼓舞するような
スピード感たっぷりの吹きっぷりに、圧倒されてしまったんでした。

いや~、今日の1部の笛の人、べらぼうに上手かったなあと思いながら、
終演後に番組(プログラム)をめくってみたら、「一噌幸弘」とあるじゃないですか!
えぇ~、あれ、一噌さんだったの!? うわぁ、どおりでねぇ、と、ようやくナットク。
吹き手によってあれほどの差があるものかと、その時あらためて実感したものです。

その一噌さんの新ユニット、返シドメのデビュー作が届きました。
吉田達也のドラムスとナスノミツルのベースのトリオ編成だったのが、
大友良英のギターが加わり4人編成となった返シドメ。満を持してのレコーディングですね。
プログレッシヴ・ロック的な変拍子を多用した楽曲がほとんどとはいえ、
抒情的なメロディが多く、存外に聴きやすいものとなっています。
能管メタルという触れ込みも、まさにですね。

大友のギターがもっとノイズを撒き散らしているかと思いきや、
バンド・アンサンブルのバランスを意識しながら、
慎重にサウンドへ色付けしているのが印象的です。
一噌さんは能管、篠笛のほか、
ヨーロッパ由来のリコーダーや角笛も吹いていますね。

リコーダーや角笛は音にブレがなく、ノイズ成分も少なくて、
表情豊かな邦楽器に比べれば、その音色はずいぶんと淡白です。
ところが一噌は、能管や篠笛の技巧を借りて、音を揺らしたり、切断したりと、
あらん限りのプレイを繰り広げていて、
リコーダーをこんな風に鳴らせるのかと、感嘆せずにはいられません。

吉田・ナスノ・大友が生み出すヘヴィな音圧にのせて、
さまざまな技巧を駆使し、笛の限界を突破せんとする一噌の演奏は、
まさに鬼気迫るものがあります。
それでいて聴後感のクールさが独特で、これこそが一噌の音楽世界でしょう。

返シドメ 「返シドメ」 Arcàngelo ARC1174 (2021)
一噌幸弘 「東京ダルマガエル」 ライジン KICP101  (1991)
コメント(0) 

王道のノルデスチ歌謡 サンドラ・ベレ

Sandra Belê.jpg

ノルデスチのフォークロアを、ブラジル全土相手に歌うポップ・シンガーって、
エルバ・ラマーリョ以来じゃないの !?

マンギ・ビートの流行以降、ノルデスチの音楽は、
オルタナ方面に向かう尖ったタイプと、
マラカトゥやココなどの伝統音楽をディープに探求していくタイプに二分され、
エルバ・ラマーリョやアメリーニャのような保守王道ともいうべき、
ポップ路線のフォロー歌手の姿が、すっかり見当たらなくなってしまいましたからねえ。

そんなわけで、サンドラ・ベレの新作がすごくひさしぶりというか、
新鮮に聞こえたわけなんですが、サンドラ・ペレって、誰?と思いますよね。
ぼくも今回初めて知った人なんですが、80年、パライーバ州ザベレ市の生まれで、
ステージ・ネームは、出身地のザベレから取ったのだとか。
歌手のほか女優としての活動や、
地元パライーバのテレビ局でホスト役も務めている人だそう。

本作が5作目で、5作すべてインディ制作なのだから、知名度はおして知るべし。
エルバ・ラマーリョのようにメジャーが出していた時代とは違って、
地方音楽が全国区に進出するのはキビしい時代なんだなあ。

4年間かけてじっくり制作したというアルバムで、
全13曲すべてパライーバの作曲家の作品を並べています。
マリネースやシヴーカが歌った‘Onça Caetana’ をのぞき、未発表曲ばかり。
バイオーン、ショッチ、ココ、マラカトゥなどのノルデスチのリズムにのせて、
サンフォーナ(アコーディオン)を中心に、ザブンバやアルファイアが活躍するサウンドは、
伝統的なフォローとなんら変わるところはないといえ、
これほど新鮮に響くのは、なにゆえでしょうね。

‘Terabeat’ では、ココのリズムにのせて歌う老女をイントロにフィーチャーしたり、
ピファノ(笛)を効果的に使うなど、楽器の音色の響きや、
サウンドの整理の仕方が洗練されていて、サウンドのコーディネーションが巧みです。
フリーキーなピアノとロック・ギターが緊張感を高める、バイオーン・ロックもありますよ。
カヴァキーニョ、バンドリン、カイピーラ・ギター、ウッド・ベースなどの
アクースティックの弦に加え、多彩なエレクトリック・ギターのサウンドも、
曲ごとに効果的な使い分けをしていて、サウンド・プロデュースがよくできています。

そして、なんといっても、主役のサンドラの晴れ晴れとした声がいいじゃないですか。
その歌声には華があります。トライアングルの跳ねたリズムも小気味よく、
極上のノルデスチ歌謡を堪能しました。

Sandra Belê "CANTOS DE CÁ" NG2CD NGCD002124 (2020)
コメント(0) 

ウクライナのリラ ミハイロ・ハイ

Myhailo Hai.jpg

『ウクライナのリラ』という英文タイトルが書かれているものの、
ジャケットに写る男性が抱えているのは、どう見てもハーディ・ガーディ。
ウクライナでは、この楽器をリラと呼ぶの?
楽器分類からすると、ずいぶんと悩ましい命名をしたもんだなあ。

西ヨーロッパで発達したハーディ・ガーディが東へと伝播して、
ウクライナではリラと呼ばれていたことを、遅まきながら知りました。
リラを演奏していたのは、盲目の辻音楽師リルニクたちで、
リルニクはさだめし、琵琶法師やミンストレルといったところでしょうか。

リラは、バグパイプ同様、ドローンを伴うノイジーな楽器。
当方が好物とするタイプの楽器とはいえ、
ハーディ・ガーディの独奏アルバムは、
学生時代に図書館で借りたレコードぐらいしか知らず、
リラの完全独奏が聞けるとは、貴重ですよねえ。

99年にポーランドで出たCDで、どこからか掘り出されて日本に入ってきたようですが、
ざらっとしたボール紙製の三つ折りパッケージは手作りぽく、温かみがありますね。
パッケージ内側の2面に、ウクライナ語と英語のブックレットがそれぞれ貼り付けてあり、
中央の袋にCDが収められています。

リラを弾くミハイロ・ハイは、
46年ポーランド国境近いウクライナ西部リヴイウ州出身の民族音楽学者とのこと。
学者さんらしからぬ堂々とした歌いっぷりで、
横隔膜を広げた豊かな声量を駆使したダイナミックな表現から、
哀切を表わす細やかさまでみせる、高い歌唱力の持ち主です。

かつてリルニクたちは、リラを演奏しながら、ドゥーマという叙事詩を歌っていたそうです。
ドゥーマはトルバドールが歌ったバラッドと同じで、悲劇的な内容のものが多く、
このCDでは賛美歌やコサックの歌など、さまざまなレパートリーに交じって、
ドゥーマを2曲聴くことができます。そのうち最後に収録されたドゥーマは、
リラではなく、ウクライナの民俗楽器バンドゥーラを伴奏に歌われています。

ウクライナの歴史を少し調べてみたところ、
リルニクやバンドゥーラ弾きの辻音楽師コブツァーリたちは、
1930年代のスターリンの大粛清によって徹底的な弾圧を受け、
組織的に大量殺戮されていたというではありませんか。
ナチスがジプシーを迫害したのと、同じことが起きていたんですね。

コブツァーリには、生粋の盲目の辻音楽師ばかりでなく、
ウクライナ独立戦争(1918-1919)を支援した大衆や知識人が多くいたことから、
反ソビエトの象徴のように扱われ、コブツァーリの音楽文化を根絶やしにするまで
皆殺しにするという、ナチスのホロコーストに匹敵する残虐非道が繰り返されたのでした。
コブツァーリを育ててきた同胞団(ギルド)も30年代半ばには崩壊し、
その音楽は死に絶えます。

ソ連時代は、ソ連化したレパートリーに制限するなど、
厳しい検閲のもとでバンドゥーラの演奏が許されてきましたが、
70年代後半になってキエフ音楽院をはじめとして、
バンドゥーラとその音楽の再興の気運が高まり、楽器製造も盛んとなって、
ウクライナの民俗オペラなどに広く登場するようになったそうです。

どんな残忍な民族浄化によっても、けっして音楽を圧殺することができないことは、
ウクライナばかりでなく、カンボジア音楽も証明していますね。
このCDをきっかけに、いろいろなことを知ることができて、大事な一枚となりました。

Myhailo Hai "UKRAINIAN LIRA" Koka 031CD5 (1999)
コメント(0) 

現行最高のダンドゥット・シンガー リア・アメリア

Ria Amelia  Buka Dikit Joss.jpg

すんごい歌のウマい人と、ずいぶん昔に感嘆した覚えのあるリア・アメリア。
そのきっかけはポップ・ミナンのアルバムでしたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-12-28
その名前もすっかり忘れかけていたところ、リアのダンドゥット・アルバムを入手しました。
もともとリアはダンドゥット歌手だったらしく、むしろジャカルタ出身のリアが、
なぜミナンカバウ語でポップ・ミナンを歌うようになったのか、
気になるところではあります。

さて、今回入手したのは14年のアルバム。
マレイシアのミュージックランドは、いまやVCDが主流で、
ほとんどCDを作らなくなったので、これはかなりレアなアルバムじゃないでしょうか。

いやぁ、それにしても、リア・アメリアの歌唱力はバツグンですねえ。
コケティッシュな歌いぶりに、息づかいで妖艶なシナを作り、男を惑わす歌いぶりは、
まっことダンドゥット・シンガーの証し。イッケ・ヌルジャナーをホウフツとさせます。
中高音の豊かな声域を自在に駆使していて、軽く歌っているようでも、
腹式呼吸を使った発声はパワフルで、往年のエルフィ・スカエシを連想させます。
コブシ使いの上手さは、シティ・ヌールハリザとダブって聞こえるくらいだから、
いかにリアの歌唱力が高いか、わかろうというもの。

打ち込み主体のプロダクションながら、
ピアノのリフ、スリンのオブリガード、ガムランの音色など、
ダンドゥットらしいお約束のサウンドをあちこちに散りばめつつ、
ヒップ・ホップ感覚に富んだ下世話なエレクトロ・サウンドで、
現地ディスコの需要に応えています。

サブ・タイトルにもあるとおり、これが「ハウス・ダンドゥット」なんだそうですけど、
これのどこがハウスなんだか。
流行り物にはなんでも食いつくインドネシア人のやることだから、
ハウスが何かも知らずに、名前だけかっさらってきたんでしょうねえ。
こういう臆面のなさこそ、下層大衆音楽の面目躍如じゃないですか。

思えばこういうサウンドって、ハウスのようなクラブ・サウンドなどではなく、
90年代のマレイシアで流行したデジタル・ダンドゥットに近いですね。
マス・イダユ、アメリーナ、ファラ、ロサリーナなんて歌手たちがぶいぶいいわせてた頃。
う~ん、懐かしいなあ。また聴き返してみるかな。

Ria Amelia Bang Edo.jpg

リア・アメリアの本作は、「ハウス・ダンドゥット第2集」だというので、
第1集もあるのかとミュージックランドのカタログをチェックすると、
08年に出ていて、ちゃんとCDも作られているので、早速取り寄せました。
14年作の方がプロダクションは向上していますが、リアの歌いっぷりは見事。
リズムへのノリ、キレの良さは両作とも申し分ありません。
今のダンドゥット・シーンでは、この人が最高なんじゃないの。

Ria Amelia "BUKA DIKIT JOSS: BEST HOUSE DANGDUT VOL.2" Insictech Musicland 51357-77572 (2014)
Ria Amelia "BANG EDO: BEST HOUSE DANGDUT" Insictech Musicland 51357-69342 (2008)
コメント(0) 

コソボのダンス・ポップ エドナ・ラロシ

Edona Llalloshi  LIVE.jpg

コソボのシンガーを聴くのは、初めてですねえ。
かの地では大スターのようですよ。
ウィキペディアのページがちゃんとあって、
79年コソボの首都プリシュティナ生まれ。
アルバニア語で書かれているところは、どうやらアルバニア系のよう。

アルバニアといえば、以前ポニーを取り上げましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-10-04
偶然にもポニーの旧作と一緒に、エドナ・ラロシの本作を買ったんです。
以前ポニーの記事を、「アルバニアのポップ・フォーク」と題しましたけれど、
両者を聴き比べてみると、コソボのエドナ・ラロシの方が、
むしろポップ・フォークらしい音楽性が強く感じられますね。

ハリと潤いのある声が、素晴らしいじゃないですか。
きりっとした歌いぶりがダンス・ビートによく映えます。
こぶし使いも巧みですけれど、抑制が効いていて、
セルビアのシンガーのように姉御肌になることはなく、
憂いのある色気を漂わせて、オトコごころをくすぐります。

観客と一緒に片腕を上げているジャケットの『ライヴ』のタイトルは偽りありで、
内容はライヴにあらず。
全14曲をメドレーにして、最後までノン・ストップで突っ走ります。
打ち込みをベースに、ダラブッカなどのパーカッションがビートを強化し、
曲のつなぎをクラリネット兼サックス奏者が担って、
バルカンのサウンドを強調しています。

プロダクションはシンプルというか、低予算な作りですけれど、
それがまったくマイナスになっていないのは、リズムがよく弾けているから。
リズム・チェンジで巧みに変化をつけたアレンジがよく練られていて、
一瞬たりとも飽きさせずに、40分17秒をグイグイ惹きつけられますよ。

一緒に買ったポニーの15年作は、新作からはだいぶ聴き劣りしたので、
エドナの新作も聴いてみたいなあ。

Edona Llalloshi "LIVE" Eurolindi no number (2012)
コメント(2) 
前の30件 | -