前の30件 | -
蘇るキューバップ ザッカイ・カーティス [北アメリカ]
こういうラテン・ジャズが、大好物なんですぅ~♪
ピアノにベースとパーカッションが付くだけのシンプルな編成。
ドラムレスのコンボ・スタイルのラテン・ジャズが大好きなんですよ。
古くはラテン・ピアノの巨匠ノロ・モラレスが、
イ・ス・リトモ(アンド・ヒズ・リズム)を率いた時代の録音とかね。
本作は、「キューバップは生きている!」のタイトルどおり、
ビバップとアフロ・キューバン・ジャズが交叉したニュー・ヨークで
40年代末に誕生したキューバップの名曲集。
いまどきキューバップを演奏をする人って、珍しいよねえ。
個人的には見事にツボで、嬉しいったらありゃしない。
先に挙げたノロ・モラレスの代表曲 ‘Rumbambola’ はじめ、
モンクの ‘52nd Street Theme’、パーカーの ‘Moose The Mooche’、
ガレスピーの ‘Woody'n You’ などのビバップ名曲に加え、
ケニー・ドーハムの ‘Minor's Holiday’、レイ・ブライアントの ‘Cuban Fantasy’ 、
ジョップリンの ‘Maple Leaf Rag’ に、‘When I Fall In Live’
‘Someday My Prince Will Come’ といった歌曲も取り上げています。
おっ、と思ったのは ‘Maria Cervantes’ を取り上げていたこと。
ここではサロンふうに小綺麗に弾いちゃっているんだけど、
ラテンらしくめちゃくちゃグルーヴする名演があるんだなあ。
ノロ・モラレスの60年の作品に入ったヴァージョンも極上なんだけれど、
チャーリー・パルミエリが75年作 “ADELANTE, GIGANTE” で
演奏したヴァージョンが大・大・大好きなんですよ。
流麗なピアノとクールな打楽器陣のグルーヴがたまらんのです。
思わず懐かしくなって、ひさしぶりにCD棚から引っ張り出してきましたよ。
81年ニュー・ヨーク生まれのザッカイ・カーティスは、
2歳年下の弟でベーシストのルケス・カーティスほかとともに
ラテン・ジャズの演奏を始めたという人。
本作もザッカイとルケスのほか、コンガ、ボンゴ、ティンバレスの3人の
パーカッショニストによって演奏を繰り広げています。
明るいタッチのザッカイのピアノは小気味よく、
ビバップの跳ねるメロディをよく引き立てていて、申し分ないですねえ。
ハイ・クオリティな録音も素晴らしく、
21世紀の今、こんなフレッシュなキューバップを味わえるなんて、
めちゃ嬉しいです~♪
Zaccai Curtis "CUBOP LIVES!" Truth Revolution TRRC072 (2024)
Noro Morales "HIS PIANO AND RYHTHM" Ansonia HGCD1272 (1960)
Charlie Palmieri "ADELANTE, GIGANTE" Alegre CLPA7013 (1975)
2024-09-07 00:00
コメント(0)
リサイクルされる四半世紀前のクラブ・サウンド どんぐりず [日本]
ギャハハ、なんだ、こりゃ。
「遊びまくり 踊りまくり」「踊っちゃった方がいいや」
「ほらよってけぶっとべどんちゃん騒げ」
「飲め飲め飲め ぐびぐびぐびぐび」
ツカミの強いリリックに、やられちゃいました。
「どんぐりず」というネーミングからしてトボけてるし、
田舎道をバイクで疾走するジャケットもC調ネライで、
めちゃ好感のわく二人組です。
群馬の桐生を拠点に活動しているという、
ラッパーとプロデューサーによるユニットなのだとか。
はぁ、なるほど。ジャケットの田舎道は、桐生なのね。
新人と思いきや、もう10年以上のキャリアがあるそうです。
とにかくユーモアたっぷりのリリックが楽しい。
徹頭徹尾フロア仕様のクラブ・サウンドで、
Y2Kリヴァイヴァルここに極まりといったところでしょうか。
2ステップ、テック・ハウス、ドラムンベースと、
カンペキなまでに四半世紀前のクラブ・ミュージックの引き写しで、
レゲトンを参照しているほかは、
21世紀に更新した音楽的なアイディアは皆無。
当時のクラブ・ミュージックをリアルタイム体験しているジジイには、
あまりにも古臭く響くサウンドですが、四半世紀前のクラブ・サウンドが
リサイクルされる時代が来たんでしょうね。
親世代が夢中に聴いていた音楽を、
その子供たち世代がリヴァイヴァルするという構図なのかもしれません。
どんぐりず 「DONGRHYTHM」 どんぐりず DGRZCD1001 (2024)
2024-09-05 00:00
コメント(0)
焦燥を呼び覚ませ 米津玄師 [日本]
藤井風と米津玄師の二人は、
日本のポップスをこれまでとまったく異なるステージに引き上げた天才ですね。
藤井風が天才ぶりが「自然児」だとすれば、
米津玄師の天才ぶりは「巧手」の一語に尽きます。
米津は現代日本の希代のメロディ・メーカーといえるでしょう。
ほとばしる感情を、これほど見事にメロディに落とし込める人を知りません。
4年ぶりの新作は、多彩な物語を紡いだ20編の楽曲を集めた作品。
業を背負いながら生きる覚悟を秘めた歌詞にうなりつつ、
振り幅の大きい音楽性に圧倒されます。
1曲1曲の完成度がすさまじくて、これだけ性格の違う曲を並べて、
アルバムとして成立させる剛腕ぶりに、感嘆せざるをえません。
米津のソングライティングは、職人芸的な頭脳プレイではなく、
フィジカルなエモーショナルな表現にこだわっているのが感じられて、
歌唱・アレンジ・サウンド・デザインのひとつひとつに、その痕跡がみられます。
踏切の警笛をコラージュする「とまれみよ」のアイディアなど、
やるせなさ、息苦しさ、もどかしさといった、
さまざまな焦燥を表現する巧みさにヤラれます。
ピアノ弾き語りをイメージしたバラードの「地」では、
伸びやかにまっすぐに歌う米津の歌いぶりの合間に、
椅子の軋み音が聞こえるのは、耳残りするように録音しているのでしょう。
米津の(「歌いぶり」というより)ヴォーカル表現に胸をかきむしられるのは、
聴き手の感情を揺さぶる演出のねらいに、
ものの見事ハマってしまっている証拠ですね。
曲ごとに発声を変え、演劇的なニュアンスも巧みに織り込んで
ヴォーカル表現にダイナミクスをつけていく技量は、
藤井風とはまた別種の天才でしょう。
そんなヴォーカル表現を支えるソングライティング、
アレンジを含めたサウンド・デザインに、
圧倒的な説得力を宿した傑作です。
米津玄師 「LOST CORNER」 ソニー SECL3118 (2024)
2024-09-03 00:00
コメント(0)
ノー・ウェイヴ再び 石当あゆみ [日本]
こりゃあ、痛快!
アヴァンギャルドでエクスペリメンタルなジャズであります。
まるでフュージョンみたいなポップなメロディのテーマでスタートするものだから、
脱力しかけていたところ、テーマが終わるや否や、いきなり演奏が崩壊。
テナー・サックス、ギター2、ベース、ドラムスの全員がぐしゃぐしゃになって、
ひとしきりノイジーな即興が続きます。
フリー・インプロヴィゼーションの嵐が過ぎ去ると、ブレイクを挟んで
2台のギターが最初のテーマに沿ったリフを奏で、しれっとテーマに戻る構成。
ぎゃはは、悪童の悪戯みたいな遊びゴコロ満載ですね。
いやぁ、マーク・リーボウとか、ジョン・ゾーンとか、
80年頃のニュー・ヨークのアンダーグラウンド・シーンを思い起こすなあ。
ノー・ウェイヴ、なんて懐かしいタームが頭をよぎりましたよ。
石当あゆみというテナー・サックス奏者、どういう人なのかとチェックしてみたら、
19歳でテナー・サックスを手にして、立命館大学卒業後、
バークリー音楽院へ留学し、卒業後そのままニュー・ヨークで活動を始めたそう。
ということは、日本での活動経験なしに、いきなりアメリカで演奏を始めたのか。
時代は変わりましたねえ。
メンバーは吉田孟、ヤナ・ダヴィドワ(ギター)、山田吉輝(ベース)、
カーター・ベイルズ(ドラムス)で、いずれもぼくには初めての人ばかり。
吉田孟は千葉出身、ヤナ・ダヴィドワはロシア系アメリカ人女性で、
マーク・リーボウばりのギターはどちらが弾いているんだろう。
主役のテナー・サックスとシンセサイザーより、
ギターの暴れっぷりの方が目立ち、全体にアンサンブル重視の作品となっています。
なんと今年の2月に、ヤナ・ダヴィドワが抜けたメンバーで来日して
ツアーをしていたとのこと。このアルバムが出る前だから、知る由もありませんでしたが、
また来てくれるのを楽しみに待ちましょう。
Ayumi Ishito "WONDERCULT CLUB" 577 5946 (2024)
2024-09-01 00:00
コメント(0)
ジャズを超えたトップ・ドラマー アンサー・トゥ・リメンバー [日本]
ジャズのフィールドを飛び越えたクロスオーヴァーな活動で、
いまや日本のポップス/ロック・シーンのファースト・コール・ドラマーとなった
石若駿のプロジェクト、アンサー・トゥ・リメンバー(略称アンリメ)の第2作。
石若をメンバーに擁するクラックラックスのライヴ盤を聴いているところに届くとは、
グッド・タイミングだなあ。前作はソニーだったけれど、今回はユニバーサルなのか。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-12-27
前作をリリースしてからライヴを積み重ねてきた成果なのか、
プロジェクトやコレクティヴのようなセッション・フィールではなく、
バンドそのものといえる一体感が強烈ですねえ。
ファンファーレのように始まるオープニングから怒涛の展開で、
アイディアに富んだ楽曲と冒険心に満ちたアレンジにのって、
グルーヴと即興がうずまくんだから、もう、圧倒されまくり。
アンリメのカッコよさって、とうにジャズを飛び越えているよねえ。
ふだんジャズを聴かないロック、R&B、ヒップ・ホップのファンにも
ぜったい刺さるはず。フィーチャーされるヴォーカルにしても、
歌であったり、ヴォイスであったり、ラップであったりと多彩で、
歌と演奏がウワモノとバック・トラックという関係でなく、
両者が混在してせめぎ合っていて、むちゃくちゃスリリング。
音楽家としての石若のスケールのデカさも、ハンパない。
ドラムスをメインとしつつも、各種鍵盤類やプログラミングも操り、
KID FRESINO、ermhoi、Jua、HIMI、甲田まひる、
Tomoki Sanders、KARAI、井上銘、閑喜弦介、二階堂貴文という
強力なメンツを集めるコレクティヴとしてのリーダーの力量に感服しますよ。
今の日本の音楽をプレイヤーの立場から仕切っているのは、
石若なんじゃないかとさえ思えてきますね。
石若と同世代のミュージシャンたちが集まった連帯感が
アンリメの良さだけれど、仲間うちといった閉じられたものになっていなくて、
リスナーとも肩を組めるような打ち解けやすさに溢れているところが、
嬉しいんだな。この音楽を嫌う人なんていないでしょう。
Answer to Remember 「ANSWER TO REMEMBER Ⅱ」 ユニバーサル UCCJ9250 (2024)
2024-08-30 00:00
コメント(0)
5人体制を堅持したクラックラックス [日本]
クラクラ・ファンに嬉しいCDが届きました。
21年9月30日、東京・渋谷O-EASTで行われたソロ・コンサートのライヴ盤。
3年も経ってからなぜ?と思ったら、
22年の夏のツアー時に会場限定で販売されていたんだそうで、
今回ようやく一般流通となったんですね。
このライヴって、ギターの井上銘が辞める辞めないで騒動になった時だよね。
断片的な話を聞くばかりで、よく事情を知らなかったんだけれども。
このライヴを最後に、井上がバンドを脱退することを正式発表していたものの、
ライヴ中にどうしたことか、井上が「バンド辞めるのをやめる!」と宣言。
突然の撤回宣言に、メンバーやマネージャーもアゼンとしたんだとか。
その脱退取り消しの井上のMCは、
当日のライヴ映像を収録したダウンロード・コードでも観ることができます。
CDには過去作からまんべんなく選曲された14曲が収録されていて、
いわばベスト・ライヴといえるもの。既発曲ばかりなので、
スタジオ録音を聴いているファン・サービス盤といった趣ですけれど、
さすがに現代ジャズ・シーンの実力者揃いのバンドゆえ、
ライヴならではの集中力でエネルギーを爆発させたパフォーマンスは圧倒的。
井上が感極まって思わず脱退を撤回したくなるのもうなずける、
バンドの一体感がスゴい。
「ひかるまち」に入る前の井上のブルースのソロ・ワークなんて、スゴい気迫だもん。
メンバー一人一人が売れっ子で、バンドを維持するのもたいへんだろうし、
一区切りついた節目であったであろうことも想像はつきますけれど、
これまでの日本のポップス・シーンに存在しなかったバンドゆえ、
まだまだやれることがイッパイあると思うんだよなあ。
ぜひこの先を、これからも期待したいバンドです。
CRCK/LCKS 「RISE IN THE EAST」 アポロサウンズ APLS2207 (2022)
2024-08-28 00:00
コメント(0)
サントメ・プリンシペのトップ・バンド アフリカ・ネグラ [中部アフリカ]
うわ~、田舎くせぇ。
そんなことを言いながら、頬を緩ませておりますよ。
サントメ・プリンシペを代表するバンド、アフリカ・ネグラのアンソロジー第二弾です。
2年前、ボンゴ・ジョーがアフリカ・ネグラの81年デビュー作から
96年までのアルバムから12曲を選曲したアンソロジーを出しましたけれど、
なぜか本ブログで記事にしそこねてましたね。
「レコード・コレクターズ」のリイシュー・アルバム・ガイドには
記事を書いたんだけどなあ。続編が出たので、あらためて書いておきましょう。
2年前に出たアンソロジーは、ギター・バンド時代のヒット曲を中心に集め、
アフリカ・ネグラの魅力をよく捉えた好編集盤となっていました。
よくいえばシンプル、悪く言えばスカスカの、
垢ぬけない一本調子なサウンドではあるんですけれども、
のんびりしたローカルぶりには、捨てがたい味があります。
90年代に入るとホーン・セクションやキーボードを導入して、
ザイコ・ランガ=ランガのクワサ・クワサを取り入れていくのですが、
80年代は3台のギターを中心とするギター・バンド・サウンドだったんですよ。
当時のアルバムでは手元に4枚がありますけれど、バランスよく選曲されていますね。
個人的には未聴だったデビュー作の2曲が、
サントメ・プリンシペ独自のプシャというスタイルで、興味深かったです。
続編となる今回のアンソロジーは未発表曲集。
DJトム・Bことトーマス・ビッグノンの詳細な解説が、今回もとても参考になります。
拙著『ポップ・アフリカ800』で、
「70年代末に結成されたジョアン・セリア率いるアフリカ・ネグラ」と書いたのですが、
結成は75年(前身のバンド、コンジュント・ミランドは72年結成)でした。
申し訳ございません。訂正させていただきます。
また、ジョアン・セリアはリーダーではなく、
76年にアフリカ・ネグラのライヴァル・バンド、サンガズーザから
引き抜かれたシンガーで、77年に正式なメンバーとして、
リード・ヴォーカリストに格上げされたと書かれていました。
そのジョアン・セリアのアルバムでは96年作が好きなんですが、
音域も奏法もまったく違う2台のギターの絡みが聴きもので、
その2台のギターの合間をふわふわと浮かんでは着地する
風船のようなラインを弾くベースもユニークなんです。
ジョアン・セリアは、昨23年5月4日に亡くなったそうで、
本アンソロジーはジョアン・セリアに捧げられています。
ジョアン・セリアの葬儀は、国民の祝日にもかかわらず、
何千人ものファンに囲まれ、国葬のセレモニーと関係者の賛辞を受けたそうです。
今回の未発表曲集では、 ‘Numigo Iami È’ ‘Anô Ano’
‘Povo Milagrosa’ ‘Fala Tendè’ がサントメ・プリンシペ独自のプシャだということ。
いまだよく実態のつかなないプシャに、少しづつ近づいてきた感がありますね。
África Negra "ANTOLOGIA VOL.1" Bongo Joe BJR056
África Negra "ANTOLOGIA VOL.2" Bongo Joe BJR068
África Negra "CARAMBOLA" Sons D’África CD715/13 (1983)
África Negra "ANGELICA" Sons D’África ) CD714/13 (1983)
África Negra "ALICE" Sons D’África CD716/13 (1983)
África Negra "MADALENA MEU AMOR" Gravisom C34/96 (1996)
João Seria "BOIA SAIÁ" Gravisom C33/96 (1996)
2024-08-26 00:00
コメント(0)
タハリールをトレースするエレキ・ギター ラフマン・ママドリ [西アジア]
うぉ~う、アゼルバイジャニ・ギターラ第2弾!
サイケデリックなギター・サウンドにドギモを抜かれたルスタム・グリエフから4年、
ボンゴ・ジョーがまたしてもやってくれました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-10-28
しかも今回の方が強烈ですよ。
ルスタムは、トルコやアフガニスタン、イランなど近隣諸国のポップスから、
ボリウッドのディスコ・チューンまで取り入れる貪欲さに驚かされましたけれど、
ラフマンは古典音楽のムガームや民謡など伝統レパートリーを中心に、
タハリールをホウフツさせる強烈なこぶし回しをギターで再現しているんです。
タハリールといえば、裏声と本声を行き来する最高難度の声楽技法。
微分音を多用して、雷鳴のように轟く激烈なこぶしを、
エレクトリック・ギターにトレースするのだから、これはたまりません。
70年代後半からディストージョンを導入したラフマンは、
タハリールをギターで演奏する独創的なスタイルで、
oxuyan barmağı(歌う指を持つ者)というニックネームを付けられたそうです。
ルスタムが05年に亡くなったあと、
こうしたギター・サウンドがどのように継承されているのか不明でしたが、
チェコスロバキア製ギターに代わって、アゼルバイジャンの音楽用に
カスタマイズされた独自のエレキ・ギターのモデルが開発されるようになり、
現在でも活発に演奏されているんだそうです。
ソロ・ギターをスタジオ録音して、カセットで出す大物もいるものの、
このユニークな音楽文化の主要なアーカイヴは、
結婚式での長時間のギター演奏を録画したヴィデオにあるといいます。
このようなイヴェントの映像は、いまではネット上に上がっていて、
何十年経た現在も視聴できるのだとか。スゴい音楽文化ですね。
Rəhman Məmmədli "AZERBAIJANI GITARA VOLUME 2" Bongo Joe BJR103
2024-08-24 00:00
コメント(0)
テクニカル・インストからラテン・フュージョンへ ジンサク [日本]
70~80年代フュージョンで、スティーヴ・ガッドとハーヴィー・メイソンの影響力たるや、
それは凄まじいものがありました。
スティーヴ・ガッドそっくりさんの日本人ドラマーに、
ザ・プレイヤーズで活躍した渡嘉敷祐一がいたように、
ハーヴィー・メイソンのスタイルを見事にトレースしていたのが、神保彰でした。
打面を流れるように叩くしなやかなスティック・ワーク、
細かいフレーズを正確無比に叩く16ビートの鬼ドラマーぶりは、ハーヴィーと瓜二つ。
ジャスト・タイミングでフィル・インする緻密さと、
繊細な暴れっぷりを聞かせるドラムス・ソロは、カシオペアのライヴの呼び物の一つで、
パワーと重量感で押し切るドラマーでは出せない魅力を発揮していました。
そんな神保彰がベースの櫻井哲夫とともにカシオペアを脱退して
ユニットを組んだジンサクもいいバンドでした。
初期のラテン・フュージョン時代のアルバムが特に良くて、
オルケスタ・デル・ソルで活躍していたピアニストの森村献の好アレンジもあいまって、
90年のデビュー作から4作目のライヴ盤まで愛聴していました。
テクニカルな野呂の楽曲がバンドの個性だったカシオペアとは違い、
センチメンタルなメロディを書く櫻井は歌もの志向が強く、
カシオペアとはまったく異なるサウンドを聞かせていました。
カラフルなレパートリーで二人のエネルギーを噴出させた
2作目と3作目が、特にいい出来だったな。
サポート・メンバーの中井一郎のエレクトリック・ヴァイオリンや是方博邦のギター、
さらにゲストで加わったサックスの本田雅人やギターの鳥山雄司らのソロも
聴きごたえがあり、どちらも力作でした。
『レコード・コレクターズ』6月号の「フュージョン・ベスト100 邦楽編」には、
まったく選ばれなかったジンサクですけれど、
インドネシアのギタリスト、トーパティのアルバムなんて、
ジンサクの再来に聞こえましたよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-10-21
Jimsaku 「45℃」 ポリドール POCH1093 (1991)
Jimsaku 「JADE」 ポリドール POCH1143 (1992)
2024-08-22 00:00
コメント(0)
日本のフュージョンの最高峰 カシオペア [日本]
『レコード・コレクターズ』6月号の「フュージョン・ベスト100 邦楽編」で、
「奇跡の名盤である」と冒頭から評された作品、いったいなんだと思います?
答えは、カシオペアの『MINT JAMS』。
しかも6位にランクインするという高評価には、頬をつねりたくなりました。
だってカシオペアくらい、ミュージック・マガジン周辺の評論家やライターたちが
バカにし続けてきたバンドもなかったですからねえ。
80年代当時、「カシオペアが好き」と公言すると、
きまって冷笑がかえってくるという仕打ちを受けた人間からすると、
「何、この手のひら返しは?」と思わずにはおれません。
そんなことからカシオペア・ファンであることに、
長年沈黙を余儀なくさせられたわけですが、もういいでしょう。
80年代の第1期カシオペアはサイコーでした。
デビュー作とセカンド作は物足りなかったんですが、
3作目の『THUNDER LIVE』からドラムスが神保彰に代わって、
リズム・アンサンブルが見違えたんですよね。
日本のハーヴィー・メイソンが現れた!とコーフンしたっけなあ。
神保のドラムスが、スピード感あふれる
テクニカルなリフを特徴としたギタリスト野呂一生の楽曲を
最高のアンサンブルに具現化して、カシオペア・サウンドを完成させました。
ぼくにとってカシオペアの魅力といえば、
メンバーのソロよりアンサンブルを重視したサウンド構成と、
それを実現した野呂の作編曲能力、そして神保のドラミングにつきます。
そんな第1期カシオペアの代表作といえば、
先の『MINT JAMS』であることに、まったく異論はありません。
でもぼくにとって一番多く聴いた作品が『MINT JAMS』かといえば、
そうではないんですよね。85年の『CASIOPEA LIVE』が、
40年切れ目なく聴き続けているマイ・フェバリット・アルバム。
このアルバム、最初はレーザー・ディスクで発売されたんですよね。
遅れて3か月後、ようやくCDが出るんですけど、当時はまだCD黎明期。
ぼくもまだCDプレイヤーを持っておらず、LPを買っていた時代で、
CDプレイヤーを買う決めてになったのが、このCDだったのでした。
このライヴ・アルバム、なにが良いって、『MINT JAMS』に収録されなかった
第1期カシオペアの代表曲が、すべて聞けること。
とりわけ初期の名曲「Eyes Of The Mind」は、本ライヴがが最高の仕上がり。
独特のリフとシンコペーションを利かせたブレイクが、めちゃキュートです。
そして『MINT JAMS』以降のアルバムの曲では、「Down Upbeat」や
「The Continental Way」に、ぐっとテンポを上げた「Looking Up」が、
オリジナルを凌ぐヴァージョンとなっていて、聴きもの。
「Fabby Dabby」は、オリジナルの女性コーラスがイマイチだったので、
このライヴ・ヴァージョンの方が断然いいです。
さらに神保のドラムス・ソロもたっぷり聞けるのだから、もう言うことありません。
思えば、この第1期カシオペアこそ、
アメリカのバンドにはない日本のフュージョンの特質をよく表していました。
当時海外進出に野心を抱いていたアルファがカシオペアを売りこもうと、
ハーヴィー・メイソンにプロデュースを依頼して制作した
81年の『EYES OF THE MIND』が見事な失敗に終わったのが、
それを象徴していました。
ハーヴィー・メイソンは、野呂の作編曲の肝といえる、
複雑なリフやアンサンブルを強調するリズム・アレンジを目立たなくして、
あえて平板なアレンジにしてしまったんですね。
箏を思わせるシンセ音の選択なども、アメリカ人がイメージする
典型的な日本趣味で、そのセンスの悪さにもヘキエキとしました。
アメリカには理解されなかったカシオペアも、
その後UKのアシッド・ジャズやインドネシアに与えた影響は、
計り知れないものがありました。
その意味でも本ライヴ盤は、第1期カシオペアの魅力が全開した金字塔です。
Casiopea 「CASIOPEA LIVE」 アルファ 38XA48 (1985)
2024-08-20 00:00
コメント(0)
ウォーキングBGM 鳥山雄司 [日本]
ウォーキング歴22年目にして、原点回帰というか、
あらためて歩く楽しさを再認識している日々であります。
去年の春から朝夕のウォーキングを30分から45分に増やしたんですけど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-10-21
真冬になるとこれだけ歩いても汗一滴すら出ないので、
さらに60分から80分まで延長して、しっかり汗をかくようにしたんですね。
まさか前期高齢者になって運動量増やすとは思わなかったけど、
マンネリになりつつあった20年のルーティンから、歩き始めの原点を思い起こし、
あらためて歩く楽しさを思い出せたのは、良い気づきとなりました。
そのせいで今年3月以降は、月間の平均歩数が2万歩超え。
おかげで気分爽快、体調もパーフェクトといいことづくめで、
最近の酷暑で「不要不急の外出を避けて」なんて
テレビの呼びかけもよそに、日傘差してガンガン歩いております(笑)。
そんなウォーキングのBGMは、やっぱりフュージョンが合いますね。
フュージョン再評価ブームもあいまって、
ぼくも昔愛聴したアルバムを最近になってよく聴き返すようになったんですけれど、
この夏再発見したのが、鳥山雄司の82年作『SILVER SHOES』。
これは、ずいぶん聴いてなかったなあ。昔買った時はヘヴィロテしたけどねえと、
ひとりごちしながら聴き返したら、見事にハマっちゃいました。
ドライヴの利いたエナジー溢れるサウンドが、鳥山の他の作品とは抜きん出ていて、
やっぱ、これ彼のベストだなと、深く感じ入ったのでありました。
でも、『レコード・コレクターズ』6月号の「フュージョン・ベスト100 邦楽編」で
鳥山の作品は、18位に85年の『A TASTE OF PARADISE』、
44位に83年の『YUJI TORIYAMA』、
100位に81年の『TAKE A BREAK』と3作が選ばれるも、本作は選出ならず。
あいかわらず世間とは意見が合いません(苦笑)。
ラーセン=フェイトン・バンドをバックにした本作は、
鳥山のギターばかりでなく、リズム・セクションがキレッキレ。
アート・ロドリゲスのドラムスの小気味よさったら、ありません。
そこにロック的なギター・サウンドと、ジャズのイディオムのフレージングを併せ持った
鳥山のギターがシャープに切り込んでくるんだから、もうたまらない。
鳥山が書く曲もすごくキャッチーでいいんだな。
テーマが単音弾きばかりでなく、コード・カッティングやオクターヴ奏法も交えて
組み立てられていて、憎らしいくらい巧みなんですよね。
フレージングにはスピード感がある一方で、
あえて後ノリのもたったリズムのフレーズを出してきたり、リズムを崩してみたりと、
イキオイばかりでないしなやかなギター・プレイが、40年を経た今なお刺激的です。
鳥山雄司 「SILVER SHOES」 キャニオン D32Y0025 (1982)
2024-08-18 00:00
コメント(2)
オルテからグローバル・ポップの最前線へ アイラ・スター [西アフリカ]
なるほどテムズって、オルテだったんだ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2024-07-19
アフロビーツとオルテの違いというのが、いまだにピンとこないんですが、
オルタナティヴを標榜するとおり、ネオ・ソウル、ジャズ、レゲトンなど、
さまざまなジャンルを折衷的に取り入れた実験性は、たしかにオルテですね。
いまや南アのアマピアノまで取り入れて、
世界市場をターゲットに置いたメジャー志向のサウンドへ寄せるようになって、
ますますオルテとアフロビーツの境目は曖昧となり、
もはや「オルテ」の意味も無効になっている感が強いですね。
そんなオルテ・シーンから登場した次世代シンガー、
アイラ・スターの2作目が届きました。
3年前のデビュー作はデジタル・リリースのみだったようで、
知る由もなかったんですが、今作はアメリカのリパブリックが
フィジカル・リリースしたので、ぼくも聴くことができましたよ。
アイラ・スターはベニンのコトヌー生まれ、レゴス育ちのヨルバ人。
16歳からモデルをしながらシンガーを夢見て、
19年に自身のインスタグラムに載せた曲が話題を呼び、
かつてティワ・サヴェイジも所属したマーヴィンと契約して、21年にデビュー。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-04-12
テムズのアルバムにもノケぞったけれど、
こちらもハイブラウなプロダクションがスゴイ。
アマピアノを溶かし込んだジャジーなアフロビーツ ‘Goodbye (Warm Up)’、
メロウネスを極めた美しいアフロビーツの ‘Commas’、
ドレイクにフックアップされたギヴィオンをフィーチャーした
‘Last Heartbreak Song’ と、泣きのバラードの美しさが際立つ
ソングライティングの力量も相当なもの。
ジャマイカの敏腕プロデューサー、ロッシァンがプロデュースした
‘Santa’ は、ラテン・グラミーを獲り、いまやノリにノってる
プエルト・リコのラウ・アレハンドロをフィーチャーしたレゲトン。
これがまた切ない系のメロディで、泣けるんだ、これが。
オルテを通り越してグローバル・ポップの最前線へ躍り出た
アイラ・スターもまた、アフロ・ポップ新世代のトップ・ランナーの一人ですね。
Ayra Starr "THE YEAR I TURNED 21" Mavin/Republic 602465755954 (2024)
2024-08-16 00:00
コメント(0)
チタリンの味わい ヴィック・アレン [北アメリカ]
サザン・ソウル・マン、ヴィック・アレンの新作。
ヴィック・アレンのアルバムは以前取り上げたことがあったな。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-12-13
昨年リリースしたEP “BACK 2 THE BASICS” が力作で、
なんでフィジカル出さないんだよーと嘆いていたんですが、
そのEP5曲を含む新作CDを出してくれましたよ、パチパチ。
今作もキャッチーな曲揃いで、プロデュース業でも辣腕を振るうヴィックだけに、
スキのないアルバムづくりはさすがといえます。
そしてゴスペル育ちのヴォーカルも、
ウィリー・クレイトン直系の苦味を湛えていて、もう辛抱たまりません。
童顔なので若く見えますけれど、ヴィックはもう50越えてるんだよね。
リズム・ギターの効果的なリフも印象的な ‘Mississippi Girl’ なんて、
曲名からしてミシシッピ出身のヴィックならでは。
ミシシッピつながりでは、同郷のインディ・ソウル・シンガー、
J=フィッツ(ジョシュア・フィッツパトリック)とデュエットする曲もありますよ。
チタリンなムードが充満しているのに、チープ感は皆無。
コンテンポラリーなプロダクションには人肌のぬくもりがあって、
そこにインディ・ソウルならではの良さがありますね。
Vick Allen "MAKE IT RAIN" Music Access Inc. no number (2024)
2024-08-14 00:00
コメント(0)
サザン・ソウル・レディ登場 シェイ・ニコル [北アメリカ]
うぇ~い、ソウルフル! 歌える人ですねえ。
モロぼく好みのフィメールR&Bシンガーの登場であります。
シェイ・ニコルというこのナッシュヴィルのR&Bシンガー、
これが初のフィジカル・リリースといいますが、
デビュー作と呼ぶのには、ややためらいをおぼえますね。
というのもこのCDは、15年にデジタル・リリースされたデビュー・シングルから、
今年までにリリースされたシングル曲を集めた作品だからです。
いまやインディ・シーンもアルバム単位での制作が難しくなっているもよう。
10年間に及ぶ全9曲が収録されているんですが、
サウンド・プロダクションからはそんなインターヴァルは感じられず、
統一感があるところは好感度大ですね。
ニュー・オーリンズのラッパー、チョッパをフィーチャーした ‘Run It Up’ や、
‘Zydeco’ というタイトルの曲でアコーディオンやチューバのサンプリングを
前面にフィーチャーしていて耳を惹きつけられるんですが、
シェイ・ニコルは、ルイジアナ州レイク・チャールズ出身なんだそうです。な~るほど。
本作のなかでも、とりわけパワフルなこの2曲に、
この人のゴスペル育ちがくっきりと表れていますね。
じっさいシェイは教会でゴスペルを歌って育ち、
高校・大学でクラシックをトレーニングしたそうで、
マライア・キャリーばりのホイッスル・ヴォイスを披露しているとおり、
力量のあるヴォーカル・ワークは、筋金入りなのでした。
ジニュワイン、タンク、キース・スウェット、テディ・ライリー、
ケー=シー&ジョジョらとツアーを行う一方で、
女優業もこなしているといいます。
インディからメジャーに躍り出る日も近いんじゃないんでしょうか。
Shae NyCole "DO RIGHT" Muse Music no number (2024)
2024-08-12 00:00
コメント(0)
ヒップライフ+コロゴ キング・アイソバ [西アフリカ]
キング・アイソバのデビュー作(ガーナ盤CD)をようやく見つけました。
アイソバを世界にディストリビュートしたオランダのマッカムから、
同タイトルでLP/CDリリースされていますが、
そちらはこのデビュー作と08年のセカンド、12年サードの3作から選曲した、
いわばベスト盤だったんですよね。
ジャケットも同じなので、まぎらわしんですけれど、内容は別物。
写真左が今回見つけたガーナ盤デビュー作で、右はマッカムが出したベスト盤です。
このデビュー作をずっと探していたのは、マッカム盤の選曲から外れたトラックが、
すごく面白いことに気付いたからなんです。
だいぶ前にサード作の “DON’T DO THE BAD THING” を手に入れて、
ヒップライフ色の強いトラックが多いのを意外に感じたんですが、
このサードからはタイトル曲1曲しか選曲されていないんですよね。
マッカムのプロデューサーは、アイソバが世界デビューするのに、
チープな打ち込みのヒップライフはマイナスと判断したのでしょう。
それはそれで正解だったと思いますけれど、
ヒップライフとコロゴがミックスしたトラックも、捨てがたいものがあります。
アイソバのダミ声と掛け合いのドナリ声が、ヒップ・ホップのビートとスリリングに交差し、
ものすごくリアルなストリート感を生み出しているんですね。
というわけで、ずっとデビュー作を探していたんですが、
う~ん、いいじゃないですか。
伝統的なコロゴのミンストレル要素が、ヒップ・ホップのストリート感覚に乗り移って、
凡百のヒップライフにはない生々しさを獲得しています。
これって、アフリカン・ヒップ・ホップの理想的な解釈のひとつじゃないの。
グルーヴ感たっぷりの ‘Fa Mi Sika Mami’ なんて、
ヒップライフとコロゴをミックスした最高のヴァージョン。
アイソバのダミ声とメンバーの多彩な声が交錯する
‘Champion No Easy’ のストリート感にもドキドキしました。
King Ayisoba "MODERN GHANAIANS" Pidgen Music PMR001 (2006)
King Ayisoba "MODERN GHANAIANS" Makkum MR8 (2013)
King Ayisoba "DON’T DO THE BAD THING" Pidgen Music no number (2012)
2024-08-10 00:00
コメント(0)
インドネシアの民謡ポップ Ten2Five [東南アジア]
日本で民謡が新世代たちによって再解釈されるようになったのと
同様の出来事は、インドネシアでも起きていたんですねえ。
Ten2Five というバンドの10年以上前のCDを手に入れて、
遅まきながら気付きました。
インドネシアの伝統衣装を着た3人の若者が
ジャンプするジャケットにピンときて、買ってみたんですが、大当たりでしたね。
インドネシア各地の民謡をポップ化した作品で、
のびのびと歌い演奏している姿が、なんともすがすがしく、
すっかりこのバンドのファンになりました。
13年の本作が成功したからなのか、
過去に民謡カヴァーした曲を、既発作からピックアップして編集した
“CINTA INDONESIA” も14年に出していて、
こちらも手に入れることができました。
このバンドのバイオを読んでみると、
初めからこうした民謡ポップをやっていたわけじゃないんですね。
大ヒットした04年のデビュー作は、ほとんどの曲を英語で歌った
コンテンポラリー・ポップで、当初は国際的なマーケットをネラっていたものの、
その路線がうまくいかず、メンバーも入れ替わったことで、
民謡ポップに活路を見出したようです。
Ten2Five は、オーストラリアへ留学していた仲間同士が結成した学生バンドで、
メンバーはジャカルタに住むハイ・クラスの家庭の子息たちです。
音楽大国インドネシアで伝統音楽を支えてきた庶民層ではない、
洋楽を享受してきた都会に暮らす若者が、
民謡ポップや伝統音楽の再解釈を進めているのは、
まさに日本で起こっているのと同じ構図じゃないですか。
それは、いまのアジア諸国で起きている
シティ・ポップ・ブームを支える層とも重なりますね。
伝統音楽をローカリティから解放し、
伝統文化の外側にいた者にも接続する回路を見出したのは、
「保存」でも「研究」でもなく、やっぱり個々の音楽家の「情熱」だったんだなあ。
テクノロジーが古い伝統音楽と現代のポップを接続することを容易にして、
パーソナルな共感をトリガーとして、多種多様な試みが
日本のみならずアジア諸国で起こっていることに、ワクワクします。
Ten2Five "ZAMRUD KHATULISTIWA" 1025 Music no number (2013)
Ten2Five "CINTA INDONESIA" 1025 Music/Pt. Arga Swara Kencana Musik ACD3 14-02 (2014)
2024-08-08 00:00
コメント(0)
クレオール・オーケストラ エティエン・チャールズ [カリブ海]
トリニダードのトランペット奏者エティエン・チャールズの新作は、ビッグ・バンド。
これまでのエティエンの作品に通底していた、
トリニダード音楽のルーツ探求というテーマに加え、
スウィング・ジャズ時代へさかのぼる伝統ジャズを重ね合わせて、
「故きを温ねて新しきを知る」アルバムになりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-12-24
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-12-26
テーマだけ見ると、学究的な堅苦しいものかと勘違いされそうですが、
親しみやすいエンタメ作品に仕上げるところが、エティエンの良さ。
ゴキゲンなオープニングは、
エティエンのオリジナルのカリプソ(その名も「オールド・スクール」!)。
クアトロのリズム・カッティングがグルーヴのカクシ味となって、
冒頭からいきなりウキウキ気分で盛り上がります。
本作を制作したのは、エティエンが共演している
ジャズ・ヴォーカリストのルネ・マリーから、ステージ用に
ビッグ・バンド・アレンジを依頼されたことがきっかけだったそうです。
そのルネ・マリーも参加して4曲を歌っていますが、
そのうちの1曲はルネ・マリーが15年に出した
アーサ・キットのトリビュート・アルバムに収録された
‘I Want To Be Evil’ (本作では ‘I Wanna Be Evil’ と表記)の再演。
ジャングル・ビートからラグタイム・ピアノも飛び出す、
53年のスウィング・ジャズ・ナンバー。
キャサリン・ダナム舞踊団からキャリアをスタートさせた
アーサ・キットの持ち歌をセレクトしたあたり、
エティエンのカリビアン・ルーツ探求のベクトルとも、ぴたり符号しますね。
そしてこの曲と呼応するタイトルの、
エティエンのオリジナル曲 ‘Douens’ にも注目です。
ドゥエンとは、トリニダード・トバゴの民間伝承に登場する
洗礼を受ける前に亡くなった子供たちの悪霊。
子供たちを罠にかけ、安全から遠ざけ、時には死に至らしめます。
この曲は、エティエン09年作 “FOLKLORE” に収録されていました。
このほか、マイティ・スパロウのカリプソあり、
モンティ・アレキサンダー作のレゲエ・ジャズあり、
スウィング時代の代表曲 ‘Stimpin' At The Savoy’、
ジミー・フォレストのブルース・ナンバー ‘Night Train’ というラインナップに
驚きはありませんが、ベル・ビヴ・デヴォーの ‘Poison’ には吹き出しちゃいました。
ニュー・ジャック・スウィングの90年の大ヒット曲を取り上げるとは!
ブロンクス出身のブランドン・ローズがラップしているんだけど、
93年生まれのブランドンは当時を知る由もない曲だよなあ。
しかもDJ・ロジックのターンテーブルまでフィーチャーして、
スウィング・リズムとシームレスにつながるビッグ・バンド・アレンジは痛快そのもの。
ミジコペイのクレオール・ビッグ・バンド・ジャズに魅了されたファンには必聴の、
エティエンのクレオール・オーケストラです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-04-11
Etienne Charles "CREOLE ORCHESTRA" Culture Shock Music EC010 (2024)
2024-08-06 00:00
コメント(0)
アンビエント/フリー・ジャズと編集の妙 SML [北アメリカ]
アンビエントとフリー・ジャズにこれほど親和性があるとは、想像もしませんでした。
2月にスイスのピアノ・トリオのディヴルに打ちのめされたばかりなのに、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2024-02-22
またまた強力なグループと出会っちゃいましたよ。
それがロス・アンジェルスの5人組、SMLのデビュー作。
マカヤ・マクレイヴンやジェフ・パーカーと活動し、シカゴの即興音楽シーンとの
交流が深いサックス奏者のジョシュ・ジョンソンを中心とするクインテットです。
ギターがめちゃくちゃカッコイイんですよ。
グレゴリー・ユールマンという名は初めて知りましたが、
マス・ロック系のギタリストとのこと。
プレイにヒラメキがあって、即興音楽家としてスゴい才能を感じさせます。
エレガントなディヴルと違って、SMLはパンキッシュ。
アンビエントといっても、攻撃的な面を打ち出しているところがキモ。
ジャズにアンビエントを取り入れるといっても、
ディヴルはミニマルな要素が強かったけれど、SMLは反復については抑制的で、
多様な個性を発揮できる余地があるんですねえ。
そこに魅力があるとともに、この種のジャズの未知の可能性を感じさせます。
本作は、昨年末に閉店したロス・アンジェルスのジャズ・バー ETAで
ライヴ・レコーディングした即興演奏をポスト・プロダクションしたアルバムで、
ディヴルのアルバムと同様、編集というプロセスが重要となっていますね。
コラージュなどの技法が、即興演奏の躍動感を強調したり、
グルーヴ感を盛り上げたりと、生々しさを押し出しているところにメチャ惹かれます。
SML "SMALL MEDIUM LARGE" International Anthem recording Co. IARC0085 (2024)
2024-08-04 00:00
コメント(0)
ヴァリハのヴァーチュオーゾ ジュスタン・ヴァリ [インド洋]
『ギターマダガスカル』を製作した亀井岳監督による、
マダガスカルを舞台にしたロード・ムーヴィー第2弾
『ヴァタ~箱あるいは体』が、明日から全国で順次ロードショーとなります。
ついに!という感慨で胸がイッパイになりますよ。
2年前にオンライン試写を観て大カンゲキして、
この映画はゼッタイ劇場公開すべきだ!と力こぶを入れてしまいましたからねえ。
『ギターマダガスカル』では、
日本人がマダガスカルを舞台にロード・ムーヴィーを作るという、
破天荒な偉業にドギモを抜かれましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-07-19
あの作品からさらにマダガスカルの死生観というディープな世界へ分け入った今作は、
マダガスカルと日本という距離を忘れさせる、
深い感動が湧きあがる普遍的な名画となりました。
ぜひ多くの人に劇場へ足を運んで、観ていただきたい作品です。
https://vata-movie.com/
劇場公開を記念して各種イヴェントが予定されています。
折しもタイミングよく来日していた
マダガスカルのヴァリハのレジェンド、ジュスタン・ヴァリを迎えたイヴェントが
7月31日、吉祥寺のワールドキッチン バオバブで開かれました。
これまでに何度か来日しているジュスタンですけれど、
こんな間近でヴァリハやマルヴァニを演奏するのを観たのは初めてで、
ジュスタンの至芸を堪能できる一夜でした。
弦をはじくアタックの強さ、緩急をつけた即興の自在ぶり、
超絶技巧を超越した滋味のある演奏に、
まさしくこの楽器のヴァーチュオーゾだということを実感しました。
拙著『ポップ・アフリカ800』では、ジュスタンのソロ作ではなく、
人間国宝のラコト・フラー翁やコモロのナワールなどを迎えたプロジェクト、
マラガシュ・コネクションをセレクトしましたが、
ジュスタンのソロ作では、レジズ・ジザヴのアコーディオンなどを含む
バンド編成のライヴ盤がぼくは一番好きです。
ジュスタンの至芸は、4日渋谷ユーロスペースの映画上映後の
ミニ・ライヴで披露される予定なので、
映画とともにぜひ行かれることをオススメします。
なお、10日の上映後には、私もお邪魔して亀井監督と
少しおしゃべりをする予定です。
もし4日の都合がつかない方は、こちらもぜひ。
Justin Vali "LIVE AT GT’S IN PARIS" Editions Levallois 79657.2 (2000)
2024-08-02 00:00
コメント(0)
アフロ・ソウル・ジャズのニュー・スター アタンダ [西アフリカ]
2年前、ヨルバ臭たっぷりの豪快なジャズ・ファンクで話題を呼んだアデデジ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-10-30
あの傑作をリリースしたデンマークの新興レーベル、ワン・ワールドから、
アデデジの後を追うアタンダというギタリストのアルバムが登場しました。
レゴス生まれのアタンダことアデワレ・アデニジの音楽性は、
アデデジ同様ヨルバ色濃厚なアフロ・ソウル・ジャズ。
フェラ・クティ、サニー・アデ、アインラ・オモウラから影響を受けたと答えていて、
アインラ・オモウラの名を挙げているところは、個人的に好感度大ですね。
08年にピーター・キング音楽大学でギターを専攻してジャズの基礎を学び、
16年にアフロジャズ・メッセンジャーズを結成し、
19年にデビュー作 “ANCESTORS”、22年に “WAKE UP AFRICA” をリリース。
3作目にあたる本作が、初の海外デビュー作のようです。
フェラブレーションやレゴス・インターナショナル・ジャズ・フェスティヴァルはじめ、
アビジャンのMASAなど国内外のフェスティヴァルに出演しています。
アタンダはヨルバのプロヴァーヴを自身のアフロ・ジャズに取り入れようとしていて、
本作も国外のナイジェリアン・ディアスポラに向け、
自分たちの文化や遺産について目覚めさせることを目的に制作した
コンセプト・アルバムだといいます。現在アタンダはロンドンで活動しているのですね。
トーキング・ドラム・ソロで始まる ‘Wake Up Africa’
(アデデジがヴォーカル&ギターで客演)、
フェラの歌い口を真似た ‘Motherland’ などに
そうしたメッセージが込められているようですが、
音楽的にはアフロ・ジャズというより、ヨルバ・ジャズと呼びたい
‘Aje’ のジャジーな仕上がりに、他にない個性を感じました。
リズム・セクションが前のめりで、上すべり気味になるところが惜しいかな。
もう少し重量感が出るといいんだけど。演奏力とアレンジに課題はあるものの、
アフロビーツ全盛の時代、
こうした音楽性のミュージシャンは稀有なので、応援したいですね。
Atanda "ỌMỌNILẸ - SON OF THE SOIL" One World ASCV24 (2024)
2024-07-31 00:00
コメント(0)
「シバの女王」伝説の再解釈 アトセ・テオドロス・プロジェクト [東アフリカ]
エチオピア系イタリア人歌手兼作家兼パフォーマーの
ガブリエラ・ゲルマンディが結成したアトセ・テオドロス・プロジェクトは、
ガブリエラともう一人のエチオピア人男性歌手による男女ヴォーカルに、
マシンコ、クラール、ワシント、ケベロを演奏するエチオピア人ミュージシャンと
キーボード、ベース、ドラムスのイタリア人ジャズ・ミュージシャンによる混成隊。
パーカッショニストやワシント奏者は、
フェンディカを設立したメラク・ベライが09年に結成した、
エチオカラーのメンバーですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-06-22
複雑な生い立ちのガブリエラは、
イタリアで移民作家として99年に文壇デビューし、
のちにみずからの人生のアイデンティティを音楽化したいと
アトセ・テオドロス・プロジェクトを立ち上げたといいます。
ガブリエラは母系制が根付く少数民族の民俗音楽調査を行い、
北西部のクナマ人、南部のガモ人や南西部のゴファ Goffa 人
(日本語解説の「コファ」は誤記)の伝統歌を取り入れ、
マケダー(「シバの女王」の数多くある伝承名のひとつ)の
伝説を本作で再解釈してみせたのですね。
エチオピア人ミュージシャンとイタリア人ジャズ・ミュージシャンとの
コラボレーションは理想的な協調を見せていて、
エチオピアの旋法とジャズのイディオムのバランスが絶妙です。
加えてゲストの起用も成功しています。
セネガル人パーカッショニストがサバールを叩いて、
エチオピアの太鼓ケベロと音域の異なる
パーカッション・アンサンブルをかたどっているのは、面白い試みです。
このほかコラ奏者が起用される曲もありますが、
ラップやビートボックスをフィーチャーする曲もあって、
伝統と現代のバランス感覚の良さを示していますね。
特に、ボディ・パーカッションとコーラスを交えたラスト・トラックは、
本作のハイライトといえます。
Atse Tewodros Project "MAQEDA" Galileo GMC110 (2024)
2024-07-29 00:00
コメント(0)
多文化共生がエキゾ成分 オルケス・クラナ・リア [東南アジア]
うわー、やったぁ! CD、出してくれましたよぉ。
オルケス・ムラユ時代に活躍したオルケス・クラナ・リアの編集盤。
インドネシアのマニアックなレーベル(意識高い系?)エレヴェーションが
今年の春にヴァイナル・オンリーでリリースしたものなんですが、
半年遅れでCDも出してくれました。メデタシ。
インドネシア現地でもこうした50~60年代のオルケス・ムラユに
スポットを当てるようになったとは嬉しいですねえ。
ひところ前までは、欧米人が好む初期ポップ・インドネシアのガレージものしか、
見向きされてなかったもんなあ。そういえば、2年前に英サウンドウェイが
オルケス・ムラユの編集盤を出していましたね。
そこにもオルケス・クラナ・リアが選曲されていたから、予兆はあったってことかな。
オルケス・クラナ・リアは、59年に音楽家のアディカルソと
歌手で作曲家のムニフ・バハスアンを中心に結成され、
オルケス・ムラユの現代化を進めたグループとして評価されています。
インド映画のメロディーを借りて、
のちのダンドゥットに道を開いたグループともいわれていますね。
ハイブリッドな多文化共生音楽という性格を持ったムラユですけれど、
オルケス・クラナ・リアにおいては、歌手のエリヤ・カダムがインド音楽を持ち込み、
ムニフはラテン音楽を導入して、カリスマ性のある歌手のマシャビが、
ムラユとインド音楽を融合させたといいます。
ピアノやヴィブラフォン、オルガン、フルートを取り入れたオルケス・ムラユは、
当時としてはモダン化した都市音楽の象徴だったのでしょうけれど、
今の耳には、めちゃくちゃエキゾティックに響きますね。
本編集盤は、60年代前半にイラマとエルシンタから出た4作から、
マシャビが歌った曲を中心に選曲されています。
ライナーの最後に、イラマ盤LP4枚のジャケット写真が載っていますが、
右上の “KAFILAH” からは選曲されていません。
CDトレイ裏にも “KAFILAH” のレーベルA面の写真を載せているのは
謎ですが、じっさいに選曲したエルシンタ盤の写真を載せるべきだったのでは。
それはともかく、歌手のマシャビは若くして謎めいた死を遂げたために、
伝説化した人物だそうで、ライナーではオルケス・ムラユの発展史における
マシャビの重要性を強調しています。
マシャビの祖先はイエメンから渡って来た移民で、
父親がガンブースの演奏家だったというから、
まさしくムラユ音楽の申し子だったんでしょうね。
M Mashabi and His Kelana Ria Orchestra "KAFILAH NIGHTS: MALAY-ARABIC VARIATIONS FROM 1960S INDONESIA" Elevation no number
2024-07-27 00:00
コメント(0)
西海岸ブルーズン・ソウルの現在地 シュガレイ・レイフォード [北アメリカ]
う~ん、やっぱり大したもんだ、この歌いっぷりは。
テキサス出身のブルーズン・ソウル・シンガー、シュガレイ・レイフォードの新作。
スタックス/ハイ直系のサザン・ソウル・マナーのサウンドにのせて、
ゴスペル育ちのヴォーカルを発揮する人だということは重々承知。
それでもこれまで手が伸びなかったのは、バックのサウンドに出来過ぎ感があって、
サザン・ソウルの様式美をなぞっている感じが引っかかってたんですよねえ。
この新作でも、その感は拭えきれていないものの、
シュガレイの脂の乗り切ったヴォーカルは、
そういった躊躇を蹴散らす説得力があります。
迷いのない堂々たる歌いぶりに、もうちょっと陰影があっても
なんて思いもなくはないんだけれど、まあ贅沢すぎる感想なんだろうな。
60~70年代サザン・ソウルを下敷きにしたサウンドも懐古一辺倒でなく、
クラシックな味わいとコンテンポラリーな味わいが絶妙にブレンドされています。
西海岸ブルース/ソウル・シーンの職人たちによる精進の結果ですよねえ。
豪華なホーン・セクションはまばゆいほどだし、スキのないバックも見事。
メイヴィス・ステイプルの伴奏でも知られる
リック・ホルムストロムのギターは、派手すぎず地味すぎず、
収まるべきところにきちんと収まっていて、申し分ないですね。
Sugaray Rayford "HUMAN DECENCY" Forty Below FBR040 (2024)
2024-07-25 00:00
コメント(0)
継承され続ける西ケリーの伝統音楽 クアス [ブリテン諸島]
ひさしびりに聴くアイリッシュ・ミュージック。
クアスは、活動歴1年というピカピカの新人グループ。
ヴォーカル兼アコーディオン、コンサーティーナ兼フルート、
フィドル兼ヴィオラ兼ヴォーカル、ギター兼ブズーキの4人組で、
もちろんこれがデビュー作です。
西ケリーの伝統音楽に根差したグループで、ヴォーカル兼アコーディオン奏者は、
23年に73歳で亡くなった名アコーディオン奏者シェィマス・ベグリーの娘さん!
シェイマス・ベグリーといえば、ケリーの音楽一家に育った生粋の音楽家。
アイルランド音楽のドキュメンタリー・ヴィデオ
“BRING IT ALL BACK HOME” で瞠目した人は、ぼくだけではないはず。
そのヴィデオで一緒に演奏していたギタリスト、スティーヴ・クーニーとのコンビによる
92年の名作 “MEITEAL” のスリリングな演奏は忘れられません。
クアスはシェイマスが亡くなったその年に結成されたんですね。
親子共演が不可能となったのは、残念でなりませんが、
シェイマスも天国からきっと応援していることでしょう。
伝統は継承され続けていくわけですね。
このデビュー作は、西ケリーの歌とダンスのカタルシスを体現しようと、
友人、家族、セット・ダンサー、その他熱狂的なファン50人を
クアス・ア・ボーダイの古い校舎に招いてライヴを行い、
ハイライトとなった14曲を収録したとのこと。
このライヴ録音のアイディアは、巨匠トニー・マクマホンとノエル・ヒルの名作
“IgCNOC NA GRAÍ” にあったことが、ライナーに書かれています。
床を踏み鳴らすステップ音も生々しいあのアルバムは、
野性味たっぷりのエネルギーに溢れていて、それは感動的でした。
クアスの本作は、音質がいまひとつだったあのアルバムとは格段の音の良さ。
歓声や拍手、口笛は臨場感に溢れ、会場の空気感まで見事に捉えらえています。
ノリノリのダンス・チューンばかりでなく、清楚なゲーリック・シンギングも披露していて、
西ケリーの伝統音楽への強い情熱が伝わってきます。
Cuas "CUAS" Cuas CUAS001 (2024)
Begley & Cooney "MEITEAL" Hummingbird HBCD0004 (1992)
Noel Hill agus Tony MacMahon "IgCNOC NA GRAÍ" Gael-Linn CEFCD114 (1985)
2024-07-23 00:00
コメント(0)
21世紀のヌエボ・ソン キキ・バレラ [カリブ海]
ひさしぶりに聴いたセプテート編成の伝統ソン。
キレッキレの一枚を見つけましたよ。
キキ・バレラは、ソン以前の原初のスタイルを受け継いだ
サンティアゴ・デ・クーバのファミリー・グループ、
ラ・ファミリア・バレラ・ミランダのリーダー、フェリックス・バレラ・ミランダの長男。
幼い頃から父フェリックスにキューバン・クアトロの指導を受けて
ラ・ファミリア・バレラ・ミランダの4代目メンバーとして活躍し、
サンティアゴ・デ・クーバの音楽学校、エステバン・サラス音楽院に通い、
15歳になる頃には国際的なツアーを行っていたという経歴を持つ人です。
ラ・ファミリア・バレラ・ミランダは、トランペットを配さないセステート編成で、
シエラ・マエストラ山岳地帯で演奏されていたソンの祖先とされる
ネンゴンという古いスタイルを伝える貴重なグループです。
87年に出たキューバのシボネイ盤の2枚組が、本格的なアンソロジーで、
99年にスペインでCD化されたときは嬉しかったな。
キキ・バレラのグループは、トランペット入りのセプテートの標準編成で、
ゲストとしてアダルベルト・アルバレス・イ・ス・ソンやNGラ・バンダで
歌手を務めたココ・フリーマンに、スパニッシュ・ハーレム・オーケストラの歌手、
カルロス・カスカンテを配すなど、豪華なメンバーを揃えています。
レパートリーはイグナシオ・ピニェイロ、コンフント・マタモロス、
アルセニオ・ロドリゲスのクラシックから、父フェリックス・バレラ・ミランダの曲、
コンパイ・セグンドの曲などの12曲。
ソンやグァラーチャといったキューバ音楽の伝統をたっぷり味わえるんですが、
アレンジはかなり現代的で、トランペット2台で合奏する曲もあります。
キキのクアトロやギター・ソロのタイム感やフレーズには、
明らかにジャズの影響がみてとられます。
21世紀ならではのモダンなソンならぬヌエボ・ソンですね。
Kiki Valera Y Su Son Cubano "VACILÓN SANTIAGUERO" Circle 9 C90007 (2024)
La Familia Valera Miranda "ANTOLOGIA INTEGRAL DEL SON" Virgin 8485622 (1987)
2024-07-21 00:00
コメント(0)
アフロ・ポップ新時代のR&B テムズ [西アフリカ]
英RCAから6月7日にリリースされた
ナイジェリアのシンガー、テムズのデビュー作。
この人はアフロビーツじゃなくて、R&Bなんですね。
20年に出した自主制作のデビュー作が認められて、英RCAと契約。
テムズがフィーチャーされたウィズキッドのシングル ‘Essence’ が、
ビルボード8位までかけ上がり、国際的な評価を得たのでした。
さらにデビューEPがアメリカでチャート・インし、
ドレイクと共演するばかりか、ビヨンセの曲で
グレイス・ジョーンズとともにフィーチャリングされるという大抜擢ぶり。
22年にリアーナに提供した ‘Lift Me Up’ は、
リアーナにとって6年ぶりの新曲となっただけでなく、
映画 “Black Panther: Wakanda Forever” のリード曲となり、
アカデミー賞とゴールデングローブ賞にノミネートされたのだから、スゴイ。
さらにテムズはこの映画でボブ・マーリーの ‘No Woman, No Cry’ を
カヴァーしています。
デビュー当初から、世界市場をターゲットとして展開していた人だけに、
デビュー作はカンペキなまでに国際標準のクオリティですね。
アフロビーツで欧米のポップスと同一線上に並んだナイジェリアが、
いまや世界を凌駕するプロダクション・レヴェルに登りつめたのを実感します。
プロデュースはテムズ自身のほか、ガーナ人DJのギルティビーツ、
ナイジェリア人プロデューサーのアカンノ・サミュエルにサーズ、
ナイジェリア系イギリス人DJのP2J、マイケル・ロンドン・ハンターといった面々。
英米人が関わっていないところに瞠目しないではいられません。
フォーキーあり、ネオ・ソウルあり、マジック・システムのズーグルーのサンプリングあり、
アフロビーツもアマピアノも呑み込んだハイブリッドなプロダクションを、
アフリカ人の手によって制作する時代がついにやって来たんですねえ。
南アのタイラに続く、アフロ・ポップ新時代を象徴する作品です。
Tems "BORN IN THE WIND" RCA 19802829322 (2024)
2024-07-19 00:00
コメント(0)
カジュアルでキュートなエレクトロ・ポップ キャット・パック [北アメリカ]
ムーンチャイルドのアンバー・ナヴランが、LAジャズのコンポーザー、ジェイコブ・マンと
プロデューサーのフィル・ボードローと組んだ新ユニットがお目見え。
ここ最近のムーンチャイルドは、多くのゲストをフィーチャリングしたアルバムや、
アクースティック・リメイク作など、ちょっと停滞感があったので、
この別動隊的プロジェクトは、いいチェンジ・オヴ・ペースなのかも。
ムーンチャイルドゆずりのジャズとネオ・ソウルをミックスした、
シンセの繊細なレイヤーを特徴とするドリーミーなふわふわサウンドが、
遺憾なく発揮されています。
ミニマルで実験的なトラックでも、ポップに親しみやすく料理できちゃうのは、
才能豊かなこの3人が集まったからこそ、という感じがしますね。
アンバーの柔らかなつぶやきヴォイスは、ほんとに大好き。
ブルー・ラブ・ビーツの新作にフィーチャリングされた曲も、トロけたもんなあ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2024-04-26
アンバーのヴォーカルのステキなのは言うに及ばず、
フィル・ボードローのヴォーカルも見事にサウンドに溶け込んでいて、
アンバーのヴォイスと化学反応しているのは予想外。この二人、相性バッチリですね。
10曲25分36秒が、あっという間に終わってしまい、
すぐさままたアタマからリピートしてしまう、ムーンチャイルド・ファン必聴作です。
Cat Pack "CAT PACK" Tru Thoughts TRUCD455 (2024)
2024-07-17 00:00
コメント(0)
華美なアレンジの是非 リアナ・フローレス [ブリテン諸島]
ソフトにつぶやく透明感のある歌い口。
ぼくの大好きなジャネット・エヴラを思わせる歌声に、前のめりになりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-11-23
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-05
ブラジル人の父を持つイギリス人シンガー・ソングライターのリアナ・フローレスは、
ブリティッシュ・フォークやボサ・ノーヴァに影響されたナイロン弦ギターを弾きながら、
自作曲を歌う人。TikTok でバズって、ヴァーヴからメジャー・デビューするという
ラッキー・ガールで、今の時代って、才能よりチャンスなのかなあ。
インディに甘んじるジャネット・エヴラが不憫に思えますよ。
淡い心象風景を描くような曲揃いで、つつましやかな音楽を奏でているんですが、
うねるような感情を表す場面もあって、表現力には幅がありますね。
ミキシングの楽器の配置の仕方が凝っていて、
ヴォーカルとギターが左右にくっきりと分離されたりするのは、
ミキサーとしてリアナと名を連ねているノア・ジョージソンの手腕でしょう。
難は、ストリングスが絡む曲。
楽器を重ねすぎていて、歌をジャマしているところはいただけない。
ほかの曲でも、ピアノやフルートがスペースを全部埋めてしまっていたり。
でも最近は、こういう凝った音作りが好まれるんでしょうか。
大絶賛されるレイヴェイなんて、オーヴァー・プロデュースとしか思えないんだけれども。
このアルバムも、もっとシンプルにすればいいのにと思うんですが、
メジャー・レーベルだと、そうもいかないんですかね。
Liana Flores "FLOWER OF THE SOUL" Verve DC901CD (2024)
2024-07-15 00:00
コメント(0)
ブリュッセルのコンゴ人留学生バンド [中部アフリカ]
64年から68年にかけてブリュッセルで録音されたコンゴ音楽のリイシュー。
コンゴ音楽揺籃期の最重要レーベル、ンゴマで働いていた
ニキフォロス・カヴァディアスがコンゴ動乱から逃れてベルギーへ渡り、
64年に設立したコヴァディアに残した録音集です。
ニキフォロス・カヴァディアスは、ンゴマを創設したニコ・ジェロニミディスの死後を
引き継いで二代目社長となったものの、ライヴァル・レーベルの乱立から経営難となり、
政情不安も重なって地元コンゴでの商売に見切りをつけ、
ベルギーに新天地を求めたのですね。
当時ブリュッセルには、将来の幹部候補生を夢見るコンゴ人留学生が大勢いて、
ニキフォロスは若い才能にあふれた学生バンドをリクルートしては、
コヴァディアからEPをリリースしていたといいます。
う~む、こういう録音があったんですねえ。
アフロ・ネグロが留学生バンドだったなんて知りませんでした。
アルバム・タイトルになっている、コンゴの地元民がこうした留学生たちを
レ・ベルジキャン(ベルギー人)と呼んだのには、
エリートに対する羨望とやっかみがないまぜとなっているのでしょうね。
コンゴ帰国後は財界や政界で活躍した逸材も多くいたはずで、
音楽は若かりし頃の道楽に過ぎなかったのかも知れませんが、
本国の楽団に劣らぬ実力揃いなのが、この時代のスゴいところ。
面白いのはここに聞ける12曲が、ルンバ・コンゴレーズが完成して、
新たな時代に向けてルンバ・ロックの萌芽が始まろうとしていた時期なのに、
ひと昔前のラテンの残り香がするルンバが目立つことでしょうか。
フラメンコやブーガルーを取り入れた曲があるなど、
グラン・カレやフランコの時代から歩みを進めた
新しいラテン音楽へのアプローチも聞かれます。
コンゴ本国では求められない音楽性の違いは、
ヨーロッパという環境がもたらした影響でしょう。
そしてなにより感じ入ったのは、音質の良さ。
最後の1曲をのぞいてオリジナル・テープからリマスターしているのだから格別です。
戦乱でマスターをすべて焼失したンゴマの音源とは比べ物になりませんよ。
Ebuka Ebuka, Afro Neoro, Carlos Lembe, Yéyé National, Ba Bolingo, Los Nickelos, Ekebo
"LES BELGICAINS - NA TANGO YA COVADIA 1964-70" Covadia COVADIA001CD
2024-07-13 00:00
コメント(0)
黄金時代のダンスホールを再現して トラヴィス・マット [北アメリカ]
ロッキン・ケイジャンで根強い人気を誇るトラヴィス・マットの新作。
原点回帰した10年前の “OLD TIME CAJUN SONGS” の
ゴリゴリの伝統ケイジャンにマイったクチだったんですけれど、
あの名作の再来というべきハイ・エナジーな新作が届きましたよ。
ルイジアナのケイジャン音楽一家に生まれ育ったトラヴィス・マットは、
若い頃からフィドル奏者として活躍し
ケイジャン・フレンチ音楽協会(CFMA)アワードの
最優秀フィドル奏者に、94・97・98・01年と4度もノミネートされた実力者。
その後アコーディオンを主楽器とするマルチ奏者となってキングピンズを率い、
ザディコからカントリー・バラードまで演じて幅広いファン層をつかみました。
キングピンズではオルタナ・ロックばりのギンギンのギターもフィーチャーする一方で、
こういう原点に立ち返ることができるのは、
ケイジャン音楽一家に育った豊かな血筋ゆえなんでしょうねえ。
アコーディオン奏者の曾祖父、フィドル奏者の祖父から
脈々と伝わって来た音楽遺産を実感します。
今作で驚かされたのは、なんとトラヴィス一人が演奏した多重録音作だということ。
10年前の “OLD TIME CAJUN SONGS” でも、アコーディオン、フィドル、
ベース、スティール・ギター、ギター、ドラムスをプレイしていたとはいえ、
ギタリストとドラマーの二人が参加していました。
ところが、今回はすべてトラヴィス一人による演奏だというのだから、ビックリです。
これ聴いて、多重録音だとわかる人、いないんじゃないかなあ。
バンドだからこそ生み出せるグルーヴ感としか思えませんよ。
こんな疾走感を多重録音で可能にしてしまうなんて、驚愕です。
なんでもトラヴィスは、60年代ダンスホールのサウンドを再現するためには、
デジタル録音では不可能だということに気付き、
ヴィンテージな楽器や機材を長い時間をかけて集めてきたのだとか。
50年代のコリンズ212コンソールをリビルドし、58年製のプルテック・イコライザーを
手に入れて、アコーディオンの生々しい音色を獲得したのだそうです。
活気に満ちた黄金時代のダンスホールを再現することは、
トラヴィスにとって祖先や敬愛する伝統ケイジャンのアイドルたちと共に
プレイすることにほかならないのでしょう。そんな喜びに満ち溢れた快作です。
Travis Matte "SOUNDS OF THE 1960’S CAJUN DANCE HALLS" Mhat Productions MP4023C (2023)
Travis Matte "OLD TIME CAJUN SONGS" Mhat Productions MP04009 (2013)
2024-07-11 00:00
コメント(0)
前の30件 | -