SSブログ
前の30件 | -

祝! ブッダ盤CD化 ウィルバート・ハリソン

Wilbert Harrison  Buddah.jpg   Wilbert Harrison  KANSAS CITY.jpg

ウィルバート・ハリソンの71年ブッダ盤がCD化されていたのか!
いやぁ、これには気がつかなかったなあ。
ウィルバート・ハリソンのベスト盤3枚組の中に、さりげなく全曲収録されていたとは。
う~ん、これは、嬉しい。

リー・ドーシーの“YES WE CAN” にカンゲキして、
アラン・トゥーサンがアレンジしたレコードを
片っ端から探していた、高校生の時に出会ったアルバムです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-09-01
“YES WE CAN” のような名盤とは比べようもない、B級盤ですけれど、
ニュー・オーリンズR&Bのいなたさが味わえる、忘れがたいアルバムです。

ブッダ盤を買った当時、ウィルバート・ハリソンが誰なのかも知らず、
のちになって「カンサス・シティ」の大ヒット曲を出したR&Bシンガーということを
知りましたけれど、今回のベスト盤3枚組を買うまで、
オリジナルの‘Kansas City’ を聴いたことがなかったというお粗末。

「カンサス・シティ」の大ヒットにまつわる契約問題が仇となって、
のちのちもヒットに恵まれず、不遇の歌手だったということは、
ハリソンの全キャリアを追ったこのベスト盤を聴いて、ようやくわかりました。
なんせこの3枚組、70曲中30曲が初CD化だというのだから、タイヘンです。

その意味で71年のブッダ盤は、ニュー・オーリンズ・ブームを巻き起こした
立役者のマーシャル・セホーンをプロデューサーに迎えて、
起死回生を狙ったアルバムだったんですね。
残念ながら、それは果たせはしませんでしたが。

リトル・ウォルターの‘My Babe’、ジミー・リードの‘Honest I Do’ といった
ブルース定番曲に、ファッツ・ドミノの‘Ain't That A Shame’ ‘Going To The River’、
そしてニュー・オーリンズを代表する
‘When The Saints Go Marching In’ というレパートリーは、
71年当時としても、ちょっと古臭かったんじゃないかと思います。

それでもねえ、ニュー・オーリンズならではの人懐っこいサウンドが、たまんないんだなあ。
リズムの塊と化した‘Girls On Parade’ のセカンド・ラインに、腰が揺れます。
クレジットはないけれど、“YES WE CAN” 同様、
ミーターズがバックを務めたと思われる演奏は、
この時代ならではのグルーヴに溢れていて、もうサイコーです。

ディスク3には、ブッダ盤をオリジナル盤の曲順どおり並べた後、
76年作の“SOUL FOOD MAN” がこれまた丸ごと収録されているんですね。
トゥーサンとセホーンの共同プロデュースで、こちらは初めて聴きましたが、
ちょっとこっちはユルいかなあ。ジミー・リードふうのハープはいいんだけど、
ホーン・セクションは不在だし、バックもミーターズではなさそう。

というわけで、個人的には、ブッダ盤CD化バンザイな3枚組ベストでした。

[LP] Wilbert Harrison "WILBERT HARRISON" Buddah BDS5092 (1971)
Wilbert Harrison "KANSAS CITY: THE BEST OF WILBERT HARRISON" Sunset Blvd CDSBR7991
コメント(0) 

ディスク1枚分の未発表音源リイシュー ドゥドゥ・プクワナ

Dudu Pukwana Diamond Express.jpg

南ア・ジャズのサックス奏者ドゥドゥ・プクワナの77年作が、2度目のCD化。
これまでに、オリジナルのままCD化したのは日本だけですけれど、
今回はディスク1枚分の未発表音源を付けてリイシューしたんだから、
これは大事件です。

ボーナス・トラックならぬボーナス・ディスク付きという今回の2枚組CD化、
40年以上このレコードを聴き倒してきた人間には感涙ものなんですが、
いったいどこに眠っていた音源なんでしょうね。

片岡文明さんの解説を読むと、配信のみで流通していた音源とのこと。
え~、ぜんぜん知らなかった~と、慌ててチェックしたところ、
12年にブラック・ライオン・ヴォルト・リマスタード・シリーズの1枚として、
デジタル・リリースされていたようです。
それを今回、日本で初ディスク化したというわけか。これは快挙です!

77年に出た“DIAMOND EXPRESS” は、二つのセッションからなっていて、
B面2曲目の‘Tete And Barbs In My Mind’ だけが、
ドゥドゥのアルトとモンゲジ・フェザのトランペットに、
サクセロとトロンボーンを加えて4管とした、8人編成のセッションだったんですが、
どうやらこちらのセッションのアウトテイクが、残されていたようです。

デジタル・リリースされたアウトテイク集に収録された‘Blue Nick’ は、
‘Tete And Barbs In My Mind’ からタイトルを変えた、フル・ヴァージョン。
‘Tete And Barbs In My Mind’ はエンディングをフェイド・アウトしていましたが、
‘Blue Nick’ はノー・カット・ヴァージョンになっています。
ロック色が強く出た“DIAMOND EXPRESS” のなかで、このトラックだけが、
ブラザーフッド・オヴ・ブレスを想わす異色なフリー・ジャズ演奏だっただけに、
エンディングの強烈なドゥドゥの吹奏をカットして、フリー色を薄めたかったのかも。

ちなみに、アウトテイク集含め、全曲ドゥドゥ・プクワナの作曲なのですが、
この‘Tete And Barbs In My Mind’ = ‘Blue Nick’ だけは、
ピアニストのテテ・ンバンビサとの共作となっていて、
テテとドゥドゥ夫人のバーバラ・プクワナに捧げられています。
60年代初めに、テテがリーダーを務めていたヴォーカル・グループ、
フォー・ヤンクスに参加したのが、ドゥドゥのプロ入り初の仕事だったのでした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-05-19

アウトテイク集では、ドゥドゥがソプラノ・サックスも吹いているのが、聴きどころ。
このレコーディングのあとに急死してしまうモンケジ・フェザのトランペットも、
随所で目の覚めるようなプレイを聞かせています。
ブリティッシュ・ジャズの名手キース・ティペットの転がりまくるピアノは、
痛快そのものですね。
ビバップをフリー解釈した‘Blessing Light’ なんて、すごく面白い。
ソウル・ジャズの‘Black Horse’ では、ペニーホイッスルをドゥドゥが吹きまくっています。
あー、こんな素晴らしい録音が残されていたなんて、もう涙が止まりませ~ん。

最後に、一つだけ不満も。
紙ジャケットはオリジナル盤を表裏とも忠実に再現しながら、
なぜ地の色だけ、ホワイトからペール・オレンジに変えたの?
こういう意味不なデザイン変更が残念でなりません。

ドゥドゥ・プクワナ 「ダイアモンド・エクスプレス+6⃣~コンプリート・フリーダム・レコーディングス」 ミューザック MZCB1441 (1977)
コメント(0) 

モーリタニアン・サイケデリック・ギターの饗宴

Wallahi Le Zein!!.jpg

17年の夏に来日したヌーラ・ミント・セイマリを取材したとき、
ドラマーでプロデュサーのマシュー・ティナリから連絡先を渡され、
少しばかりメールをやり取りしたことがありました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-10-20
そのなかで、ヌーラの夫のギタリスト、ジェイシュ・ウルド・シガリのギターが聞ける
現地録音のCDがあることを、ティナリから教えてもらったんですね。
それがこのシカゴの無名レーベルから出た、“WALLAHI LE ZEIN!!” なのでした。

この2枚組CDは、
アメリカ人ジャーナリストのマシュー・ラヴォワがモーリタニアで集めた、
約700本のプライヴェート・カセットをもとに編集した、たいへんな労作。
モーリタニアン・ギター・ミュージックの獰猛なサウンドに、驚かない人はいないでしょう。
32ページのブックレットには、ムーア音楽の基礎知識から、
ヌアクショットの音楽の現状を詳述したラヴォワの解説が載せられていて、
一級品の資料といえるその内容の濃さにも、強烈な刺激を受けました。
サブライム・フリークエンシーズの作品に足りないものが、すべてここにはありますね。

これほどの名編集盤が、なぜ世に知られていないのか謎すぎるんですけど、
ティナリも「誰もこのCDを知らないんだ」と言っていたとおり、
ネットにもまるで情報がない(ひとつだけピッチフォークの記事を発見しました)、
激レア盤だったのでした。

ところが、つい最近、ミシシッピ・レコーズがこのCDを再発したんですね。
デジタル・リリースの28曲フル・ヴァージョンと、
11曲に短縮したLPヴァージョンが発売され、
今月号のミュージック・マガジンの輸入盤紹介にも載ったので、
あらためてこのCDの内容について、書いておこうという気になりました。
なお、ミシシッピから出たジャケットは変更されていますので、念のため。

ムーアのグリオが弾くギターは、ムーアの伝統楽器ティディニートを
ギターに置き換えて演奏していることは、すでによく知られていますね。
フレットを増やしたり抜いたりして、ティディニートのような微分音を出すための改造をし、
ディストーションやフェイザーをかけ、轟音ロック顔負けの強烈な磁場を生み出します。

これほど激烈なサウンドスケープは、
トゥアレグのアンプリファイド・テハルダントといい勝負で、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-06-02
コノノNo.1に熱狂した人なら、夢中になること必至でしょう。

モーリタニアには、音楽産業がないんですね。
大衆音楽が娯楽として提供されるナイトクラブのような場もなければ、
カセットやCDを制作販売する業者も存在せず、音楽は、結婚式や誕生日祝い、
政治集会など、招待された者だけに振舞われるものとして存在しています。
そうした冠婚葬祭の場で録音された個人所有のプライヴェート・カセットを、
ラヴォワは何度も現地に赴いては、買い集めてきたのでした。

当然ながらその録音はローファイの極みで、
西洋人によってレコーディングされた伝統音楽のアルバムとは、
天と地ほどの違いがあるのも仕方がありません。

思い立ったラヴォワは録音機材を運び込み、02年の年末から03年にかけ、
30以上のレコーディング・セッションを敢行したものの、
クリーンな音質のデジタル録音は、生気を欠いた退屈なものにしかならず、
プライヴェート・カセットの生々しい躍動感に、遠く及ばなかったといいます。

自身によるフィールド・レコーディングを諦めたラヴォワは、
プライヴェート・カセットのコレクションから、
このコンピレーションを制作することにしたのですね。

ディスク1の1~5曲目には、俗にホワイト・ムーアと呼ばれる
ハラティン(アラブとベルベルのミックス)のギター・ミュージックが収録されています。
これまでディスク化されてきたムーア音楽は、
ほとんどがベイダン(アラブと黒人のミックス、俗にブラック・ムーア)の音楽のため、
ハラティンの音楽が聞けるのは貴重です。

ハラティンの社会には、ベイダンのようなイガウィン(グリオ)の階層がなく、
誰でも自由に音楽を演奏することができます。
ハラティンのギター・ミュージックは、ジャクワールと呼ばれてきましたが、
76年にベイダンのティディニートの名手ジェイシュ・ウルド・アッバが作曲した、
テンポの速いダンス・メロディがジャクワールと名付けられて流行したことから、
両者が紛らわしくなったために、ハラティンのギタリストのケブルは、
バンジーと呼び変えています。

そして、ディスク1の残りとディスク2は、ベイダンのギター・ミュージックで、
本作のタイトルとなった‘Wallahi Le Zein!’(「神に誓って、これはすばらしい!)という
熱狂する叫び声が、アテグ・ウルド・セイドの‘L'Ensijab’の2分30秒に収められています。

ババ・ウルド・ヘンバラのギターなんて、
エレクトリック・ティディニート以上にティディニートらしくて、
本来ティディニートは、こういうふうに鳴らす楽器なんじゃないかと思えるほど。
改造ギターのイノヴェイターであり、フェイザーを初めて使うなど、
革命的なギター・サウンドをクリエイトして多くのギタリストたちに影響を与えてきた
ルレイデ・ウルド・デンデンニのプレイもしっかり収録されています。

ここに収録されたギターが、どんなにサイケデリックな音響に聞こえようと、
ギターの奏法も、演奏される旋法も、ムーア音楽の伝統に忠実に沿っているんですね。
エレクトリック・ギターによって、ムーア音楽が逞しく更新されている姿を
鮮やかにドキュメントしてみせた、名コンピレです。

v.a. "WALLAHI LE ZEIN!! - Wezin, Jakwar And Guitar Boogie From The Islamic Republic Of Mauritania"
Latitude‎ 07 (2010)
コメント(0) 

サヴァイヴァーの底力 ドム・カエターノ

Dom Caetano  DIVINA ESPERANÇA.jpg

な~んていい顔してるんでしょうか。これこそ、福顔ですよねぇ。
アンゴラのヴェテラン・シンガー、ドム・カエターノのソロ第3作。
センバの名門楽団ジョーヴェンス・ド・プレンダで、
85年から96年まで看板歌手を務め、数多くの受賞に輝いたシンガーです。
ヴェーリャ・グァルダのサンビスタみたいなご尊顔ですけれど、
58年生まれでぼくと同い年なんだよなあ。なんで、こんなに風格あるの?

ゼカ・サーとのコンビで出した18年作が快作だっただけに、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-02-16
是が非でも17年作は見つけねばと、苦心惨憺の末、ようやく叶いましたよ。

本作はなんと、マティアス・ダマジオがプロデュースしたんですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-11-24
本業はプロデューサーのメストレ・フレディが、
ここではアレンジャーの役割に回っています。
こうした制作陣からもわかるとおり、懐古調センバを意図するものではなく、
若い世代にもアピールするキゾンバを中心に据えたサウンドとなっています。
センバの曲も、ルンバやキゾンバのニュアンスを加えたアレンジで聞かせているんですね。
コンパのブレイクを差し挟むアレンジなど、
フレンチ・カリブも消化されているのがわかります。

洗練されたサウンドにのせて歌う、ドム・カエターノのヴォーカルはといえば、
味のあるガラガラ声がいいんですよ。
振り絞るような歌いぶりなんて、胸に沁みるじゃないですか。
レパートリーには、粋なソンもあって、
ロス・コンパドレスを範とした歌い口に、頬がゆるみます。

芳醇な歌声には、長い内戦時代をサヴァイヴしたヴェテランの気概がにじみ、
キゾンバのサウンドでアップデートしたセンバに、より深みを与えています。

Dom Caetano "DIVINA ESPERANÇA" Arca Velha Entretenimentos AV00617 (2017)
コメント(0) 

キゾンバ生みの親の会心作 エドゥアルド・パイン

Eduardo Paim  ETU MU BIETU.jpg

これが今回一番の拾いモノというか、意外だった一作。
キゾンバの生みの親、エドゥアルド・パインの12年作。

エドゥアルドのCDは何枚か持っていたけど、全部処分しちゃったし、
これもまったく期待できそうにないジャケだなと思ったら、
1曲目から、アコーディオンにヴァイオリンが絡み、
カヴァキーニョが涼し気なコラデイラのリズムを刻むセンバでスタートし、
中盤からホーン・セクションや女性コーラスも交えた、
麗しいキゾンバへスイッチするアレンジに、ノケぞっちゃいました。

エドゥアルドの90年代のアルバムは、いかにもズークの亜流といった
プアなサウンド・プロダクションだったけれど、
見違えるようなクオリティのクレオール・ポップを聞かせるようになったんですねえ。

クレジットを見ると、エドゥアルド・パインが作編曲にプログラミング、
ベースまでこなしているんですね。ドラムスは生ではなくて、
エドゥアルドのプログラミングですけれど、これならOKでしょう。
楽曲がどれも良く、メロディはキャッチーだし、エドゥアルド自身のヴォーカルも、
少ししゃがれ声の庶民的な歌い口で、親しみがわきますね。

エドゥアルド・パインは、64年、コンゴ共和国ブラザヴィルの生まれ。
コンゴへ亡命したアンゴラ人両親のもとに生まれ、アンゴラへ帰国して、
キゾンバの先駆的バンドSOSで活躍しました。

「キゾンバの生みの親」というのは、SOSの歌手時代に、
インタヴュワーから「この音楽はなに?」と問われて、
キゾンバと答えたことから、その名が広まったといわれています。
じっさいにその発言をしたのは、バンドのパーカッショニストのビビだったのですが、
看板歌手のエドゥアルド・パインが、
キゾンバの生みの親と称されるようになったんですね。

エドゥアルドはその後SOSを脱退して、88年にポルトガルへ渡り、
91年にソロ・デビュー作を出し、90年代はコンスタンスにアルバムをリリースしますが、
21世紀に入って歌手活動を停止し、本作はひさしぶりの復帰作だったようです。

カッサヴのジャコブ・デヴァリューがゲスト参加して、
得意のスモーキー・ヴォイスを聞かせる曲もあれば、
ティンバレスをフィーチャーした、ラテン・テイストのセンバでは、
なんとパパ・ウェンバがゲストで歌っています!

また、ラ・ペルフェクタの曲にエドゥアルドがアダプトした曲では、
二人のギタリストが長いソロを弾いているのが聴きもの。
前半のフュージョン調、後半のロック調と、それぞれ個性的なソロで、
別人が弾いているとしか思えないんですが、クレジットには一人の名前しかないなあ。
このほか、クドゥロのシンガーのゾカ・ゾカやアグレCもゲストに迎えていますが、
ここではクドゥロではなく、キゾンバを歌っています。

アコーディオン、管・弦セクション、女性コーラスが彩りを添え、
適度にヌケのあるサウンドのアッパーなダンス・トラックが、てんこ盛り。
キゾンバ生みの親の会心作です。

Eduardo Paim "ETU MU BIETU" no label no number (2012)
コメント(0) 

アダルト・オリエンテッドなキゾンバ エリカ・ネルンバ

Erika Nelumba  POLIVALENTE.jpg

まだまだ続く、キゾンバ祭り。なんたって、大収穫祭ですから。

今度は、19年の本作が3作目となるエリカ・ネルンバ。
83年ルアンダ生まれというから、ペロラと同い年ですね。
ペロラのスムースな歌声とはまた別の、張りのある太い声が特徴。
アルト・ヴォイスのアダルトな歌声が魅力です。

01年に行われたコンテストでプロ入りしたエリカ・ネルンバは、
03年にデビュー作“PENSANDO EM TI” を出し、
08年にセカンド“AGORA SIM!” のあと、本作まで10年以上も沈黙してしまいます。
いったいどうしてたのかと思えば、この方、なんとお医者さんなんですね。
そちらの仕事が忙しくて、音楽活動からずっと離れていたそうで、
この3作目は自己資金で制作したんだそうです。

自主制作とはいえ、しっかりとプロデュースされた作品で、
メロウでいい曲だなと思ったら、カンダの作曲だったりと、楽曲も粒揃い。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-10-25
エリカもいい曲を書いていますね。
もろにズークな‘Estrilho’ なんて、キャッチーな佳曲じゃないですか。

フィーチャリングされたゲスト歌手も4人いて、
リル・サイントとデュエットした‘Café Mwangolé’ では、
テナー・ヴォイスのリルとアルト・ヴォイスのエリカの対比が絶妙。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-03
DJフィラスというトラックメイカーは知りませんでしたが、
なんとこの人もエリカと同業の医者で、トラックメイクだけでなくデュエットもしています。

そしてなにより話題をさらうのは、パウロ・フローレスとデュエットしたセンバでしょう。
キゾンバのレパートリーが並ぶなか、この曲‘Novos Tempos’ だけがセンバで、
なんとパウロ・フローレスは歌だけでなく、作詞も提供しています。
伴奏には、パウロ・フローレスの新作でも起用されていた、
大ベテランのコンガ奏者のジョアンジーニョ・モルガドが参加しています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-06-11

アダルト・オリエンテッドなキゾンバ、間違いありません。

Erika Nelumba "POLIVALENTE" no label no number (2019)
コメント(0) 

ラグジュアリーなキゾンバ ペロラ

Pérola  MAIS DE MIM.jpg

アリーのセカンドで、ヘヴィー・Cのプロデュース手腕に感じ入ったんですが、
ペロラのセカンドでもヘヴィー・Cが大活躍しています。
こちらは全曲プロデュースではないものの、大多数のトラックを手がけています。

ペロラことジャンディラ・サシンギ・ネトは、83年、アンゴラ第3の都市ウアンボ生まれ。
13歳の時に家族でナミビアのウィントフックに移り、
ダンス・グループに所属しながら歌い、いくつかのコンテストで受賞もしたとのこと。
その後南アへ渡り、コカ・コーラ主催のタレント発掘番組に出場するも、
南ア人でないことから失格。
アンゴラに帰国して、04年にペロラのステージ・ネームでデビューし、
09年にデビュー作を出します。

14年のセカンドとなる本作は、ヘヴィー・C印のラグジュアリーなサウンドで包んだ
アダルト・コンテンポラリーR&B仕様のキゾンバ。
都会的で洗練されたサウンドは、ヨラ・セメードのキゾンバとも親和性があるかな。
アリーのように、キゾンバ以外のジャンルに手を出すような試みはしておらず、
ストレートなキゾンバに徹したアルバムですね。

クセのない柔らかな声質で、伸びやかに歌うペロラのヴォーカルは、
しなやかな芯を感じさせる、いいシンガーですね。
作家陣は、ヘヴィー・C 、C4・ペドロ、マティアス・ダマジオ、
ネルソン・フレイタスほか、ペロラ自作の曲もあります。
ブラジルのアシェー・クイーン、
イヴェッチ・サンガロをゲストに迎え、デュオもしています。

Pérola "MAIS DE MIM" LS Republicano no number (2014)
コメント(0) 

キゾンバ祭り絶賛開催中 アリー

Ary  CRESCIDA MAS AO MEU JEITO.jpg   Ary  10.jpg

この夏は、キゾンバ祭りだっ!

梅雨が明けるのと同時に、どういう巡り合わせか、
アンゴラのキゾンバの良作が、どどっと手に入って、夏気分が全開。
どれも旧作なんですけど、スグレモノ揃いで、嬉しいったらありゃしない。
思わずその昔、ズークが初めて日本に上陸したときの記憶が蘇りました。

あれは、87年の夏だっけ。
GDプロダクションやデブのズークのアルバムが大量に日本へ上陸して、
解放感いっぱいのズーク・サウンドに、目の眩むような思いがしたもんです。
DX7のブライトなシンセ・サウンドに、
ビーチと青い空が目の前に、ぱあっと広がるようでした。

さて、じじぃの昔話はそのくらいにして、
まずはアリーこと、アリオヴァルダ・エウラリア・ガブリエルからいきましょう。
アリーは、86年ルバンゴ生まれ。
02年にコンテストでローリン・ヒルの曲を歌い、落選するものの、
それを観ていたプロデューサーのヘヴィー・Cに見出されて歌手デビューし、
07年にデビュー作を出したキゾンバ・シンガーです。

やっぱりこの人の歌は、華があるなあ。
チャーミングな歌いぶりには、ハジけるような若さが発揮されていて、
時に見せる切ない表情に、もうメロメロ。
16年作の“10” をすでに聴いていましたけれど、
今回手に入れた12年の2作目のサウンドには、ゾッコンとなってしまいました。

アリーを育てたヘヴィー・Cのプロデュースで、
ヴァラエティ豊かなレパートリーを彩るプロダクションが、よく出来てるんです。
さまざまなタイプのキゾンバを演出していて、
クラリネットをフィーチャーし、カヴァキーニョのリズム・カッティングを利かせた
アクースティックな仕上がりのキゾンバなど、
エレクトリックに偏らない音づくりがいいんだな。
前のめりに疾走する生演奏のセンバも、どこかほっこりしていて、なごめます。

アコーディオンとカヴァキーニョが活躍するコラデイラもあれば、
マネーカス・コスタがギターとベースで加わったグンベーなど、
アンゴラ以外のポルトガル語圏アフリカ音楽も取り入れて、
カラフルなアルバムに仕上がっています。

生音使いのトラックと打ち込み使いのトラックの使い分けが絶妙で、
両者がバランスよく配置されているのは、16年作の“10” とも共通していますね。
“10” の方はクドゥロもやっているなど、エレクトロ強めだったので、
ぼくはヘヴィー・Cがプロデュースした12年作の方が好み。
ちなみに“10” ではヘヴィー・Cのもとを離れ、
プロデュース・チームは一新されたんですね。

Ary "CRESCIDA MAS AO MEU JEITO" LS Produções no number (2012)
Ary "10" Divaary Empreendimentos no number (2016)
コメント(0) 

世界に飛び出たギター・ティンデ レ・フィーユ・ド・イリガダッド

Les Filles De Illighadad  AT PIONEER WORKS.jpg

ニジェールのトゥアレグ女性グループ、レ・フィーユ・ド・イリガダッドが、
ワールド・ツアーをしているというニュースには、
レーベル元であるサヘル・サウンズの本気度というか、
このグループに本腰を入れているんだなあと感じましたね。

その成果が実って、19年の秋、2年に及んだワールド・ツアーの最後に、
ニュー・ヨーク、ブルックリンで行われた2晩のライヴが
アルバムとなってお目見えしました。

前作は、メンバーのクレジットすら載っていない手抜き制作で、
主宰のクリストファー・カークリーにクレームを言ったんだけど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-11-05
今回はなんと、全曲の歌詞まで載っていて、おぉ、やるな。
ところが、その歌詞はティフィナグ文字で書いてあって、対訳なし。意味ないじゃん。

前作では、ギタリストのファトゥ・セイディ・ガリと歌手のアラムヌ・アクルニの二人に、
サポート役でマリアマ・サラ・アスワンが加わっていましたが、
マリアマはグループを抜けたもよう。その代わりにアマリア・ハマダラーと、
男性ギタリストのアブドゥライ・マダサヌが加わって、
女性3人に男1人の4人編成となっています。

ライヴだから、ウルレーションを放って、華やかな雰囲気になっているのかと思いきや、
だいぶ地味な演奏ぶり。ビート感もあまり強くなくって、こじんまりとした印象です。
う~ん、トゥアレグ女性がギターを弾いているという物珍しさを越える魅力は、
まだ乏しいかなあ。

イシュマール・スタイルのギター・バンドというより、
トゥアレグ女性の伝統的なティンデにギターを加えた
ギター・ティンデに近い感じでしょうか。
ティナリウェンとも共演したティンデのゴッドマザー、
バディ・ララの迫力たっぷりのギター・ティンデを先に知ってしまうと、
レ・フィーユ・ド・イリガダッドはちょっと物足りないですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-07-24

とはいえ、ラストの‘Irriganan’ では、旋回するフレーズをひたすら反復させて歌い、
トランシーな磁場を表出していて、ティンデらしい魅力を放っています。
今後の活動を見守りましょう。

Les Filles De Illighadad "AT PIONEER WORKS" Sahel Sounds SS063 (2021)
コメント(0) 

リスボン郊外ゲットー・コミュニティ発の電子音楽 プリンシペ

MAMBOS LEVIS D’OUTRO MUNDO  Príncipe.jpg

ミュージック・マガジンの「ニュー・スタンダード2020s」で、
ポルトガル語圏アフリカ(PALOP)音楽を特集するにあたって、
編集の新田晋平さんからディスク・ガイドの選盤に、
「ポルトガルのレーベル、プリンシペは入りますか」との問いかけがあり。

う~ん、こういうアドヴァイスは、本当にありがたい限り。
ぼくが電子音楽界隈には疎いことを見越して、さりげなく教えてくれているわけで、
新田さんお見通しの通り、そのレーベル、ぜんぜん、存じあげませ~ん!
ということで、プリンシペ、あわててチェックしましたよ。

いやあ、オドロきました。
時代はクドゥロから、とんでもなく飛躍していたんですね。
記事のディスク・ガイドには、
レーベルを代表するDJマルフォックスをとりあえず選びましたが、
プリンシペに集う多くのアーティストをコンパイルしたCDが出ていたので、
さっそくオーダーしましたよ。
ちなみに、プリンシペのカタログはデジタル・リリースが中心で、
CDはたった2作しか出ていないだけに貴重です。

このCDは、プリンシペというレーベルを理解するのに、うってつけですね。
全23曲、すべてのトラックに共通しているのが、ポリリズムの応酬です。
どれもこれも徹底的に、パーカッシヴ。このビートメイキングには圧倒させられました。
シンゲリやゴムなどぶっ飛んだアフリカン・エレクトロニック・ミュージックは数々あれど、
このビート・センスには、夢中にさせられます。

ここに集う若い才能たちは、ハウスやテクノ、あるいはグライムやダブステップなどの
欧米のベース・ミュージックの影響を受けずに、
これをクリエイトしているんじゃないのかな。
それほど非凡で、個性的なトラックばかりが並んでいるんですよ。
琴をサンプリングした‘Dor Do Koto’ とか、独創的すぎるでしょ!
イカれたリズムに唐突なカット&ペーストが挿入される‘Dorme Bem’ も降参。
ダブ創生期を思わす狂いっぷりが、もうサイコー。

ここで生み出されているのは、クドゥロの発展形ではなく、
クドゥロを生み出したバティーダをベースにした電子音楽で、
まさにビートの実験場となっています。
DJマルフォックスは、クドゥロにサンバのバツカーダをミックスしたと語っているし、
アンゴラのタラシンハや、カーボ・ヴェルデのフナナーをミックスしているDJもいます。
まだこの音楽に名前が付いていないところも、将来性を感じますね。
ラベリングされると、外部からピックアップされて消費されるのも早いからなあ。

ちなみにDJマルフォックスことマルロン・シルヴァは、
両親がサントメ・プリンシペ出身の移民二世で、子供の頃からキゾンバやクドゥロで育ち、
父親からサンバやMPB、ジャズを教えてもらったそうです。
3年前に来日してライヴも敢行していたという(!)DJニガ・フォックスは、
内戦のアンゴラからリズボンに逃れてきた難民で、
当時4歳の彼とその家族が落ち着いたのが、リズボン外縁の低所得層アパートでした。

プリンシペから発信されるリスボン郊外に疎外されたPALOPコミュニティ発の電子音楽が
カウンターであることは、バンドキャンプの本作のページに、
革命家アミルカル・カブラルの73年のインタビューの発言を
引用していることからも明らかでしょう。
ペドロ・コスタ監督の00年の映画『ヴァンダの部屋』の光景が立ち上がってくる、
そんな衝撃の一枚です。

v.a. "MAMBOS LEVIS D’OUTRO MUNDO" Príncipe P015 (2016)
コメント(0) 

香港の60年代ワールド歌謡 潘迪華(レベッカ・パン)

潘迪華 Diamond.jpg   潘迪華 EMI Pathe.jpg

世界中のヒット曲を歌うカヴァー歌手として人気を集めた、
香港のレベッカ・パンの60年代の名作群が、
オリジナルのままCD化されているの、知っていました?
『レコード・コレクターズ』で2か月にわたって記事を載せたんですが、
拙ブログの読者は雑誌を読まない方が多いので、こちらでも紹介しておきますね。

レベッカ・パンは上海に生まれ、戦後香港へ渡って歌手デビューした人。
のちに大女優となって成功を収めますけれど、パン・ワン・チン名義で、
60年の大晦日に発売されたデビュー作の『與世界名曲』は、
彼女を一躍スターダムに押し上げました。

このデビュー作は、紙ジャケ仕様の「復黑版」シリーズで一度CD化されましたが、
今回は61年の第2作『Oriental Pearls』、63年の第3作『我的心』、
64年の第4作『我愛你』、65年の第5作『潘迪華唱』の5作まとめてボックスCD化。
かつて『世界名曲』という秀逸なタイトルで編集盤が出ましたけれど、
そのオリジナルがすべて聞けるようになったのは、嬉しいかぎりです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2009-12-07

香港で60年頃に設立されたダイアモンド・レコードは、
香港に洋楽ポップスを根づかせた代表的レーベルで、
レベッカ・パンはレーベルの看板歌手でした。
アメリカン・ポップスから、ラテン、ボサ・ノーヴァ、シャンソン、
カンツォーネに日本の童謡や歌謡曲まで、
ラウンジーな伴奏にのせて、世界中のヒット曲を歌ったんですね。
「蝶々さん」「ラサ・サヤン」「「ブンガワン・ソロ」
「ウシュクダラ」といったノベルティ色豊かなレパートリーが楽しいったら、ありません。

64年には、イギリスEMIと初の香港人歌手として契約し、
百代唱片(パテ)からアルバムを出します。
このパテ時代に残した67年作『給我一杯愛的咖啡』と、
68年作『男歡女愛』がCD化されました。もちろん初CD化ですよ。
写真のスリップ・ケースに、ジュウェル・ケース仕様のCD2枚が収まっています。

今回CD化された2作には、ダイアモンド時代のヒット曲の再演も収録されていて、
ダイアモンド時代のラウンジーな伴奏から、
ビッグ・バンドによるゴージャスなサウンドに変わっています。
そのため、初演時のエキゾ感が薄れ、ポップス色が強くなっていて、
同時代のカテリーナ・ヴァレンテやザ・ピーナッツと似たイメージになりましたね。
今回調べて気付いたことですけれど、世界中の曲をマルチリンガルで歌って
50年代半ばに一世を風靡した、フランス人歌手のカテリーナ・ヴァレンテと
レベッカ・パンは、同じ31年生まれだったんですね。

ワールド歌謡は、世界一周旅行が夢見られた時代の要請だったのかもしれません。
68年作『男歡女愛』のタイトル曲は、フランシス・レイの「男と女」。
中国語ナレーションの色っぽい掛け合いは、さすが女優ですねえ。
「骨まで愛して」も歌っていますよ。

潘迪華 東西一堂.jpg

さて、最後に、19年に出たベスト・アルバムについても書いておこうかな。
上で書いたダイアモンド時代の編集盤『世界名曲』は、選曲が秀逸で、
ケースや解説の丁寧な制作が忘れられない名コンピレでしたけれど、
19年に500部限定で出たベスト盤は、60~64年のダイアモンド時代(M1-10)、
65~68年のEMI時代(M11-17)、65年ライフ録音(M16)、
70年サウンズ・オヴ・アジア録音(M18)、2003年ライヴ録音(M19)を収録した、
レベッカ・パンの全キャリアを振り返った編集内容となっています。

28ページのライナーには全曲歌詞、クレジット、往年の写真がたんまり掲載され、
丁寧な仕事ぶりは申し分ありません。
難を言えば、500部限定という大歌手にあるまじき僅少さで、
すでに入手困難なレアCDになっているみたいですが、ファン愛蔵盤の一枚といえます。

潘迪華 (Rebecca Pan) 「鑽石之星」 Diamond/Universal 0846893 (1960-1965)
潘迪華 (Rebecca Pan) 「給我一杯愛的咖啡/男歡女愛」 EMI/Pathe/Universal 8888334/5 (1967/1968)
潘迪華 (Rebecca Pan) 「東西一堂 MY HONG KONG」 Universal 7714091 (2019)
コメント(0) 

70年代ノルデスチのポップ・ロックふたたび バンダ・パウ・イ・コルダ

Banda De Pau E Corda  MISSÃO DO CANTADOR.jpg

レシーフェのヴェテラン・バンド、バンダ・パウ・イ・コルダの新作です。
う~ん、なつかしい。いまも健在だったんですねえ。
おととし、結成45周年記念のライヴ盤を出していたらしいんですが、
それには気付かなかったなあ。

バンダ・パウ・イ・コルダは、72年にセルジオ、ロベルト、ヴァルティーニョの
アンドレージ三兄弟によって結成されたグループ。
17年にドラムスのロベルトとベースのパウリーニョが亡くなり、
新たなメンバーを加えて活動しているそうです。

北東部音楽に初めてロック感覚を持ち込んだ世代のグループで、
70年代当時は、キンテート・ヴィオラードと
兄弟グループみたいなイメージがありましたね。
サイケデリックな印象も強かったキンテート・ヴィオラードに比べると、
バンダ・パウ・イ・コルダの方は、爽やかなフォーク・ロック・サウンドが持ち味でした。

前の世代のルイス・ゴンザーガたちのように、
サンフォーナ(アコーディオン)やザブンバといったノルデスチ印の楽器を使わずとも、
フレーヴォ、ココ、マラカトゥなどノルデスチの音楽を鮮やかにロック化してみせたのは、
同時代のMPBを共有する世代のセンスだったといえます。
半世紀近くたっても、70年代のあのみずみずしいハーモニーや
サウンドの鮮度が保たれているのは、貴重ですねえ。

この世代の後となると、ヒップ・ホップ/エレクトロ感覚のマンギ・ビートや、
メストリ・アンブロージオのような伝統再構築派で、
またサウンドのカラーががらりと変わるので、
彼らのようなポップ・ロックなサウンドは、70~80年代特有だったといえます。
シコ・セーザルとゼカ・バレイロをゲストに迎えた本作、
あの時代を知らない若い世代にも、新鮮に響くんじゃないでしょうか。

Banda De Pau E Corda "MISSÃO DO CANTADOR" Biscoito Fino BF741-2 (2021)
コメント(0) 

20年ぶりの新作 パウロ・セルジオ・サントス

Paulo Sérgio Santos Trio  PEGUEI A RETA.jpg   Paulo Sérgio Santos Trio  GARGALHADA.jpg

ショーロのクラリネット奏者パウロ・セルジオ・サントスが、
なんと20年ぶりに新作を出しましたよ!
少し前にギンガとのデュオ作はあったけれど、本人名義のアルバムは、
今作と同じトリオ編成の01年作“GARGALHADA” 以来のはず。

レーベルは20年前と同じクアルッピだけれど、この20年の間に
クアルッピは活動を休止、その後閉鎖の憂き目にあい、
11年に新経営陣のもと再スタートするという浮き沈みを経ているくらいだから、
どれだけ長い期間だったのか、感慨深く思ってしまいますねえ。

ショーロのクラリネット奏者というと、
ぼくは70年代にアベル・フェレイラから聴き始めて、
その後パウロ・モウラに夢中になったんですけれど、
パウロ・セルジオ・サントスは、もっとずっと後になって出てきた人。
エンリッキ・カゼスやマウリシオ・カリーリョと同世代の、
若手ショーロ演奏家のひとりです。

ぼくが最初にパウロの名前を意識したのは、
コンジュント・コイザス・ノッソスの『ノエル・ローザ曲集』(83)でのプレイだったな。
その後94年に出したソロ・デビュー作、そして同じ年に出たマウリシオ・カリーリョと
ペドロ・アモリンと組んだオ・トリオでの演奏は、忘れられない名演でした。

なんせ長い付き合いなので、つい思い出にふけってしまうんですが、
いまやもう大ヴェテランですからねえ。どんな難曲も涼しい顔で
さらさらと演奏してしまう名人芸に、もう頬がゆるみっぱなしですよ。

今作は、20年前の前作とカイオ・マルシオのギターは変わらず、
パーカッション/ドラムスがジエゴ・ザンガードに交替しています。
レパートリーは、前作同様新旧ショーロを織り交ぜ、
古くはアナクレット・ジ・メデイロス、エルネスト・ナザレー、ピシンギーニャから、
ラダメース・ニャターリ、カシンビーニョ、アベル・フェレイラ、シヴーカ、
新しいところで前作同様ギンガの曲が選ばれています。

柔らかな音色で滑らかに吹いてみせるパウロに、
7弦ギター的なコントラポントを交えて多彩なラインを弾くカイオのギター、
パーカッションとドラムスを交互に叩き分けるジエゴと、
たった3人という編成であることを忘れさせる、奥行きのある演奏を堪能できます。
パウロは、カイオ・マルシオの曲で一瞬ユーモラスな表情をみせるほかは、
派手さのないプレイに徹していて、若い時から変わらぬ実直さを嬉しく思います。

Paulo Sérgio Santos Trio "PEGUEI A RETA" Kuarup KCD340 (2021)
Paulo Sérgio Santos Trio "GARGALHADA" Kuarup KCD155 (2001)
コメント(0) 

男泣きの南ア・ソウル・ジャズ マイク・マガレメレ

Mike Makhalemele  THE PEACEMAKER.jpg

今回、もろもろ手に入れたアッ=シャムス(ザ・サン)盤CDで、一番驚いたのがコレ。
サックス奏者マイク・マガレメレの75年デビュー作。

CD化されていたことを知らなかったので、それ自体もオドロキでしたけれど、
なんでまたザ・サンから出たんでしょうねえ。オリジナル盤はジョバーグなんですけれども。
調べてみたら、81年にザ・サンが再発していたんですね。
ジャケットはジョバーグのオリジナル盤どおりで、ザ・サンのロゴが付いただけ。
話は脱線しますけれど、当方「ヨハネスブルグ」という表記に、強い不快感を持っており、
間違ってもこのレーベルを、「ヨブルグ」などと読まぬよう、お願いします。

マイク・マガレメレは、38年ジョハネスバーグ、アレクサンドルに生まれたサックス奏者。
キッピー・ムケーツィに強い影響を受け、デクスター・ゴードン、チャーリー・パーカー、
ジョン・コルトレーン、ジョー・ヘンダーソンからも影響を受けたといいます。
ソウル・ジャズのグループ、ザ・ドライヴに在籍するなど、
ソウル・ジャズ色の濃い演奏が持ち味です。

昨年ザ・ヘシュー・ベシュー・グループの記事でも触れましたけれど、
70年代南アでザ・ドライヴが果たした役割は、本当に大きかったんですねえ。
マイクも参加した71年デビュー作の“SLOW DRIVE TO SOWETO” は、
ぜひCD化してほしいなあ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-11-29

南アにやってくるアメリカ人音楽家の伴奏に起用されることもしばしばで、
チャンピオン・ジャック・デュプリー、ジョー・ヘンダーソン、
カーティス・メイフィールド、クラレンス・カーターのバックを務めたとのこと。
このほか、ポール・サイモンの『グレイスランド』に参加して、‘Gumboots’ で共演。
87・88年にはレディスミス・ブラック・マンバーゾやミリアム・マケーバ、
ヒュー・マセケラとともに、サイモンのグレイスランド・ツアーに同行しています。

本作でも、そんなマイクらしいアーシーな演奏をたっぷりと楽しめます。
ぶりぶりと豪放磊落にビッグ・トーンを鳴らす、男くさいサックスがたまんない。
フェンダー・ローズのエレピと絡むソウルフルなサックスなんて、
往年のウィルトン・フェルダーをホウフツさせるじゃないですか。
そう、南ア版ジャズ・クルセーダーズみたいな。

ラスト・トラックの‘My Thing’ のテーマが、泣けて、泣けて。
涙の味がにじんだアーシーなメロディをストレートに吹ききる、
テナー・サックスの武骨なブロウに、男泣きするしかありません。
これぞ、南ア・ソウルじゃないですか。

Mike Makhalemele "THE PEACEMAKER" As-Shams/EMI CDSRK(WL)786151 (1975)
コメント(0) 

ソウェト蜂起を前にしたソウル・ジャズ ブラック・ディスコ

Black Discovery NIGHT EXPRESS.jpg

70年代の南ア・ジャズを中心にリイシューしているイギリスのマツリ・ミュージックが、
ブラック・ディスコの76年セカンド作をデジタル・リリースしたのは、
もう5年も前になるのか。
マツリは、レーベル発足当初はCDも作っていたけれど、
いまではデジタルかヴァイナルのみのリリースで、
CDはまったく出さなくなっちゃったなあ。

そんなわけで、このブラック・ディスコも、記憶の彼方になっていたんですが、
つい最近、オランダのお店に在庫のあった南ア・ジャズのレアCDのなかに、
オリジナル盤のレーベル元、アッ=シャムス(ザ・サン)が
96年にCD化した盤を発見したんです!

ブラック・ディスコというのは、南ア・ジャズ・シーンで活躍していた
テナー・サックス兼フルート奏者のバジル・コーツィーと
ベーシストのシフォ・グメデが、当時まだ新人だった
オルガン奏者のポップス・ムハンマド・イスマイールをフックアップして、
75年に結成したドラムスレスのトリオ。

デビュー作が成功したことから、バジル・コーツィーと
シフォ・グメデがダラー・ブランドのもとで一緒に演奏していたドラマー、
ピーター・モラケを加えて、本セカンド作をレコーディングします。
ちなみに、バジル、シフォ、ピーターの3人は、
ダラー・ブランドの最高傑作“AFRICAN HERBS” のメンバーですよ。
黄金メンバーですね。

こんなふうに紹介すれば、
ブラック・ディスコは、南ア・ジャズのグループと想像されるでしょうが、
グループ名にディスコとあるとおり、
ほとんどジャズ色のないインスト・ソウルに近いグループだったのですね。
ぎりぎりソウル・ジャズといえるかどうか。
ブッカー・T&ジ・MGズを範としているのは確かで、マツリのサイトでは、
「スタックス・サウンドへの南アフリカからの回答」と表現していました。

実は本作、当初はブラック・ディスカヴァリーという名義に変えて
リリースされる予定だったのが、当時の南ア政府の検閲を通らず、
許可されなかったという出来事がありました。
このアッ=シャムス盤CDのジャケットは、グループ名のあとに very を付けて、
ディスカヴァリーに変えるという粋なデザイン処理がされていて、
バック・インレイや背にもブラック・ディスカヴァリーと記して、
グループの当初の意志を実現しています。

本作が録音されたのがどういう時代だったかといえば、
ソウェト蜂起の4か月前となる76年2月。
アパルトヘイト下の抑圧によって、
黒人住民の不満が爆発寸前となっていた、まさにその時でした。

そんな不満をなだめるかのように、ブラック・ディスコのサウンドは、
リラックスしたオルガンとメロウなサックスとフルートが、その表面を覆っていますが、
その裏に沈み込んでいる、怒りを沈殿させた黒人たちのパワーは、
ウネりまくるベースと、キレのいいドラムスが生み出すグルーヴに表現されています。
このサウンドが、当時の黒人の胸にどれくらい刺さったかは、容易に想像つきますよ。

ティミー・トーマスふうのリフを織り込んだ、
11分を超す長尺のタイトル曲‘Night Express’ には、
やるせない思いがこみ上げてきます。

Movement In The City.jpg

その後、同じ76年の10月に、ベースとドラムスが交替して3作目を出したあと、
ポップスとバジルは、ブラック・ディスコを発展的解消し、
ムーヴメント・イン・ザ・シティを結成します。
ムーヴメント・イン・ザ・シティの79年デビュー作のジャケット・カヴァーが、
ゲットーの壊された住宅と細道の荒涼とした写真が飾られるという、
さらに過酷な現実が待ち受けていることを考えれば、
“NIGHT EXPRESS” は、嵐の前の静けさであったといえそうです。

Black Discovery (Black Disco) "NIGHT EXPRESS" As-Shams/EMI CDSRK(WL)786158 (1976)
[LP] Movement In The City "MOVEMENT IN THE CITY" The Sun SRK786147 (1979)
コメント(0) 

コソヴォのタラヴァ テウタ・セリミ

Teuta Selimi  LIVE.jpg   Teuta Selimi  LOQKA JEM.jpg

エドナ・ラロシに続き、また一人コソヴォの女性歌手のCDを入手しました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-04-18
テウタ・セリミもエドナと同じプリシュティナ出身のシンガーで、エドナの3つ年上。

『ライヴ』を謳う09年作は、ライヴではなくスタジオ録音。
同じく『ライヴ』を題したエドナのアルバムはノン・ストップ形式で、
ライヴ感を演出していましたけれど、こちらは9曲を収録。
スタジオ録音なのに『ライヴ』を謳うのは、どういう理由なんですかね。
よくわからないんですが、15年作同様、全編アップ・テンポのダンス・ポップです。

テウタ・セリミは20年のキャリアのある歌手で、
ホイットニー・ヒューストン、マライア・キャリー、ローリン・ヒルなどを
聴いて育ち、ボブ・マーリーやUB40などのレゲエを通じてスカやロックステディを学び、
アルバニアのポップ・シーンにジャマイカ音楽を広めた人でもあるそう。
このアルバムにそうしたジャマイカ音楽の影はうかがえませんけれど、
ダンス・ポップのグルーヴ感を吸収したということなのかな。

打ち込みビートのうえに、ダラブッカやダウル(大太鼓)、ダイレ(タンバリン)の
パーカッシヴな音色を響かせて、フォークロアなサウンドを強調しているんですね。
クラリネットにズルナ、ヴァイオリンがソロを取るスペースも与えられていて、
カーヌーンが登場する曲などもあります。

アルバムを通してバルカン的なサウンドが支配的ではあるんですけれど、
ズルナとダウルのコンビネーションは、トルコ音楽の色合いが濃厚だし、
リズムのヴァリエーションも豊かで、
さまざまな出自の音楽がミックスされていることがうかがわれます。
いわゆるポップ・フォークのなかでも、
ブルガリアやセルビア、ルーマニアなどとは少し毛色が違いますね。
むしろトルコのアラベスクの方が近い感じがしますね。

気になって少し調べてみたところ、
この音楽は、タラヴァと呼ばれるものだということがわかりました。
タラヴァは、コソボのロマのコミュニティの音楽をもとに90年代に生み出され、
コソボのアルバニア語圏のコミュニティから発信されて、
アルバニアや北マケドニアで人気が高まったジャンルなのだそう。

さらに調べていくと、タラヴァには魅力的なシンガーが大勢いることがわかり、
片っ端から試聴して気になった人を、アルバニアのショップに現在オーダー中。
面白いアルバムがあったら、またここで報告しますね。

Teuta Selimi "LIVE" EmraCom/Lyra no number (2009)
Teuta Selimi "LOQKA JEM" Lyra no number (2015)
コメント(0) 

ファドの看板を下ろして アントニオ・ザンブージョ

António Zambujo  VOZ E VIOLÃO.jpg

あ、これなら聞けるわ。
ボサ・ノーヴァの歌い口でファドを歌うアントニオ・ザンブージョは、
こんな気持ち悪いファド、聞けるかよと、ずっと耳が拒否ってたんですが、
ボサ・ノーヴァに寄せたギター弾き語りの新作は、ぼくでもOK。

新作は『声とギター』という、ジョアン・ジルベルトのアルバムから借りてきたタイトル。
セルソ・フォンセカとか、最近使い回されることの多いタイトルですけれど、
シンプルなギター弾き語りで、ファドから離れてくれたおかげで、
ようやく寒気を覚えず、この人の歌を楽しめました。

そうだよね。そもそも、ファドなんか歌わなきゃいいんだよな。
こういう歌い口が魅力になるレパートリーは、いくらでもあるんだからさ。
フランク・ドミンゲスの代表曲‘Tu Me Acostumbraste’ なんて、最高じゃないですか。
ザンブージョの歌を聴いて、いいなあと思ったの、これが初めてですよ。

この人、フィーリンを歌えば、バッチリじゃん。
ホセ・アントニオ・メンデスの曲なんかも、歌わせてみたくなりますね。
やっぱボサ・ノーヴァやフィーリン向きの人なんだな。
ファディスタなんかじゃないよ、この人。
「ニュー・ファド・ヴォイス」なんて気色の悪い看板、下げちゃえばいいのに。
ここでもファドの‘Rosinha Dos Limões’ を歌っているけど、やっぱキモイ。
こういうのを平気で聞ける人って、ファドをなんにも知らない人だと思うよ。

また、ボレーロ~フィーリン調が似合うといっても、
‘Mona Lisa’ みたいな甘ったるい曲を選曲する通俗さは、いただけないなあ。
もっとドライな曲を集めた、大人向けのヴォーカル・アルバムを作ってもらいたいものです。

António Zambujo "VOZ E VIOLÃO" Sons Em Trãnsito/Universal 3574949 (2021)
コメント(0) 

アヴァンギャルド・フォーク・ジャズ ジェイムズ・ブランドン・ルイス~レッド・リリー・クインテット

James Brandon Lewis  JESUP WAGON.jpg

立て続けに買った2枚のフリー・ジャズのCDが、
どちらもウィリアム・パーカーが参加していて、こりゃまたなんという偶然か。
そうと知らずに買ったのは、ドポラリアンズの新作と、
ジェイムズ・ブランドン・ルイスの新グループ、レッド・リリー・クインテット。

ウィリアム・パーカーは、70年代ロフト・ジャズ・シーンに登場し、
その後セシル・テイラーやデヴィッド・S・ウェアとの共演で、
名を馳せたヴェテラン・ベーシスト。日本にも何度か来てますよね。
そのウィリアムとシカゴ・アンダーグラウンド・シーンで活躍するチャド・テイラーが
リズム・セクションを担った、レッド・リリー・クインテットの方に強く惹かれました。

ジェイムズ・ブランドン・ルイスの逞しいテナーが、すごくいいんだな。
デヴィッド・マレイの全盛期をホウフツとさせるブロウに、胸がすきます。
またそのプレイも豪放一本やりではなく、コルネットのカーク・クヌフクとの掛け合いは、
じっくりとした対話となっていて、聴き応えがありますよ。

本作は、植物学者ジョージ・ワシントン・カーヴァー(1864-1943)を
トリビュートした作品。
奴隷として生まれたカーヴァーが、南北戦争後の奴隷解放によって修士課程まで修め、
農学研究につくした人物だということは、今回初めて知りました。
カーヴァーは、綿花の連作で消耗した土地の改良に目を向け、
落花生やサツマイモの輪作を可能とする栽培法を開発しました。
それは南部の貧困を解消しようという、カーヴァーの情熱のたまものだったんですね。

ジャケットに描かれているジェサップ・ワゴンとは、
カーヴァーが新しい農業を広めるために、南部を走り回った移動式実験車のこと。
それをタイトルとしたオープニング・トラックは、
ニュー・オーリンズのマーチング・リズムに、ワークソングを想起させる、
南部フィールたっぷりのメロディが奏でられます。

サックスとコルネットがコール・アンド・レスポンスの形式をとりながら語り合う
‘Fallen Flowers’ は、メロディアスで親しみやすく聞こえるものの、
変拍子を組み合わせた複雑な構成を持つなど、
どの曲もかなり工夫を凝らした建て付けになっていることに気付きます。
ルイスの作曲能力の高さが示されていますね。

緻密なアンサンブルとエモーショナルなプレイのバランスも、絶妙。
チャド・テイラーのドラミングが、とてつもないテクニックを披露していて、
メロディを繊細に叩き分けるかと思えば、一気に疾走してグルーヴを強調するなど、
巧みに場面を動かしていくプレイに、ウナりました。

コットン・フィールドで働く綿摘み女を描いた点描画を見せながら、
ルイスがストーリーテリングするような、アヴァンギャルド・フォーク・ジャズ作品です。

James Brandon Lewis - Red Lily Quintet "JESUP WAGON" TAO Forms TAO05 (2021)
コメント(0) 

デンジャラスな才能 ジェイムズ・フランシーズ

James Francies  PUREST FORM.jpg

とてつもないもん、聴いちゃった。
ブルー・ノートが送り出した新進ピアニスト、ジェイムズ・フランシーズの新作。
すんげぇーぞ、コレ。
ジャズ新世代のスゴさをまざまざと見せつける、トンデモ級の衝撃作です。

飛び出してくる音楽のハイブリッドさに、脳ミソが沸騰しました。
演奏されているのは、まぎれもなくジャズなんだけど、
ビート・ミュージックのようだったり、弦楽四重奏のクラシカルな演奏が出てきたり、
サウンドのテクスチャーが、いわゆるジャズを完全に逸脱していて、
なんと形容したらいいのか、戸惑うばかりです。

最初はただただ圧倒されてしまったんですけれど、
5・6回聴いたあたりから、ようやくこの音楽を語る言葉を、
少しずつ考えられるようになってきました。
オープニングの短い曲から、はやこの人の得体の知れなさが炸裂します。
コマ落としのフィルムのような、歪んだサウンドスケープを描く
幻想的な鍵盤の演奏に、女性のナレーションがのっかるトラック。

なにやら不穏なムードに包まれていると、一転、
EDMのマシン・ビートのようなドラミングが突進する、激烈なトラックに移ります。
バッキバキに尖ったビート・ミュージックを、人力のドラムスがトレースするかのような
ジェレミー・ダットンのドラミングが、もう凄まじいったらない。
ビートはジャストでも、リズムにズレを生じさせるそのドラミングは、
いったいどういう構成になっているのか、何度聞いても謎すぎてよくわからん。

さまざまなリズム・フィギュアを駆使して、グルーヴを構築しているようで、
主役のジェイムズ・フランシーズは電子的なエフェクトも多用して、
激しく自己主張する濃密なソロを聞かせます。
リーダー作では、コンポジションとアンサンブルを重視したパフォーマンスに徹する
ヴィブラフォンのジョエル・ロスとアルト・サックスのイマニュエル・ウィルキンスも、
ここではインプロヴァイザーとしての実力を100%発揮していて、もう、ちびりそう。

ジェレミー・ダットンにせよ、ジョエル・ロスにせよ、イマニュエル・ウィルキンスにせよ、
ジョエル・ロスの2作では、こんなスゴイ人たちだとは気付かなんだ。
ところが、そうした即興もサウンドスケープのなかに回収されるので、
いわゆる弾きまくり/吹きまくりの印象を残さないところが、新しい。

そのハイライトが ‘My Favorite Things’ でしょう。
こんな ‘My Favorite Things’ 聴いたことない!
原曲にさまざまなリフやメロディをアダプトし、リズムも解体しまくり、
サウンドの洪水と化した演奏は、もうトンデモないことになっています。

トラックごとに、サウンドのカラーを際立たせる音響処理を施したミックスが、
この作品のキーとなっていますね。
ヴォーカルをフィーチャーしたトラックから、エフェクトを施したピアノだったり、
さまざまなエレクトロを駆使したサウンドが、奥行き深い響きを伴っていて、
慎重に調整されているのがわかります。
エネルギッシュな即興演奏のダイナミズムを倍加させているのも、
そうしたミックスの効果でしょう。

コンポジション、アレンジ、インプロヴィゼーション、ミックスのすべてに新しさがあり、
それを生み出しているのが、ジャズ、クラシック、ロック、R&B、ヒップ・ホップ、
ビート・ミュージック、アンビエントから学び取った、音楽教養の幅広さと深さ。
新世代の才能が、これほどまばゆく見える作品はありません。
未聴のデビュー作もさっそく聴かなくっちゃ。
ジェイムズ・フランシーズ、末恐ろしきデンジャラスな才能の持ち主です。

James Francies "PUREST FORM" Blue Note B003362402 (2021)
コメント(0) 

イチベレの日本人ファミリー・オルケスタ イチベレ・ズヴァルギ

Itiberê Zwarg  ORQUESTA FAMÍLIA DO JAPÃO.jpg

イチベレ・ズヴァルギの18年作“INTUITIVO” は、
エルメート・パスコアールの未完成な音楽を高度に統合して、
ブラジル音楽史上、類を見ない器楽奏作品に仕上げた大傑作でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-11
あのアルバムに驚嘆してまもなく、イチベレがたびたび来日して、
日本人音楽家向けにワークショップを開いていることを知りました。

エルメート・マジックならぬ、イチベレ・マジックの秘密を知りたくて、
ぼくもワークショップに参加しようと思ったんですが、気付いた時すでに遅しで、
予約が一杯で参加できなかったのは、残念でした。
これらのワークショップを通じて、日本人音楽家とイチベレとの交流が深まり、
イチベレの日本人オーケストラが結成され、
イチベレ・ズヴァルギ&オルケスタ・ファミリア・ド・ジャポンとして
19年に掛川のフェスティヴァルでお披露目されたんですね。

その時のライヴがディスク化されたんですが、
いやあ、スゴイですね、これ。
あ~、掛川まで観に行くべきだったなあ。
演奏は日本人だしなあ、なんて思って行くのをやめてしまった、愚かな自分。
全12曲、イチベレが書き下ろした新曲を、
イチベレほか総勢25人の日本人ミュージシャンとともに演奏しているんですが、
演奏しているのが日本人だということを忘れてしまうような、
見事なエルメート・ミュージックを展開しているのだから、オドロキです。

これだけの人数をリハーサルするだけでも、どんなに大変だったかと思うんですが、
イチベレと日本人ミュージシャンの情熱が実った、素晴らしいライヴ盤です。
なんでもイチベレはスコアを書かず、口伝でメロディやハーモニーを示して、
その場のメンバーとともにアレンジを組み立てていくというやり方をするのだそうです。
それを聞いて、あの複雑なコンポジションで、
ダイナミックな生命力あふれる演奏を可能とする秘密が理解できた気がしました。

カリスマティックな指揮者の上意下達の統率で、譜面と首っ引きで演奏したら、
あんなスポンテイニアスな演奏ができるわけがありません。
メンバーの自発性を引き出し、ぴりっとした緊張感を演奏のすみずみまでに
行き渡らせることができるのも、そういうアンサンブルの組み立てにあったんですね。

昨年、イチベレの娘のマリアナ・ズヴァルギが、
セクステット編成でアルバムを出したんですけれど、
正直かなり物足りなかったんですよね。
イチベレも参加してエルメート・ミュージックを展開しているわけなんですけれど、
演奏の密度がまるで違うんですよ。

それだけに、今回の日本人オルケスタの充実したパフォーマンスは、
ぼくの想像のはるか上を行っていました。
音楽を生み出す喜びに溢れた演奏、素晴らしいの一語に尽きます。

Itiberê Zwarg "ORQUESTA FAMÍLIA DO JAPÃO" Scubidu Music TORTO015 (2021)
コメント(0) 

ブラジルのヒップ・ホップ開祖、降臨 タイージ

Thaíde  VAMO QUE VAMO QUE O SOM NÃO PODE PARAR.jpg

タイージ?
なんかスゴイ懐かしい名前なんすけど。
ブラジルのヒップ・ホップの草分けといえるラッパーだよね。
80年代後半のサン・パウロで、DJウンとコンビを組み、
ヒップ・ホップの狼煙を上げた人ですよ。
名前は知っていたけど、ちゃんと音を聴いたのは、初めてかも。
そのタイージが17年に出したアルバムが、いまになってフィジカル化したそうです。

いやぁ、なんともクラシックというか、めっちゃオールド・スクールで、
もはや古典の域に達しているサウンドといってもいいんじゃないですかね。
スクラッチは大活躍してるし、
クラプトンの‘I Shot The Sheriff’ までサンプルされてますよ。
ヒップ・ホップにまったく不案内な自分にもそう聞こえるくらいだから、
その筋のファンには、どう評価されるんだろか。
そこらへんよくわかりませんが、ロック色の濃いガッツのある、
ポジティヴなエネルギーに満ちたこのアルバム、
ぼくにはどストライクで、ヒットしましたよ。

なんたってフロウは、バツグンの上手さじゃないですか。
グルーヴ感たっぷりの‘Hip-Hop Puro’ なんて、
ループして踊りながらいつまでも聴いていたくなるトラックです。
ヒップ・ホップのアルバムにはお約束の多数のゲストには、
なんと大物のカーティス・ブロウまで招いているんだから、ビックリです。
う~ん、まさしくタイージにとって、お手本となったラッパーだもんねぇ。

メロウな‘Liga Pra Mim’もいいけど、アタバーキのリズムにのって
カンドンブレをテーマにラップする‘Povo de Aruanda’ がハイライトかな。

バック・インレイに写っているレコードには、
カーティス・ブロウやブラジルで出たUSファンクのコンピ盤のほか、
サンバのロベルト・リベイロやフンド・ジ・キンタルに、
ルイス・ゴンザーガのCDボックスまで並んでいて、ニヤリとさせられます。

Thaíde "VAMO QUE VAMO QUE O SOM NÃO PODE PARAR" Apenas Produçðes THD001 (2017)
コメント(0) 

カトリックのハーモニーとカンドンブレのリズム オス・チンコアス

NÕS, OS TINCOÃS.jpg

バイーア・ポップの名作が予期せぬ形でCD化。
オス・チンコアスは、バイーア、カチョエイラ出身のヴォーカル・グループ。
カンドンブレ由来の曲を、美しいハーモニー・コーラスで歌うという、
ユニークな個性を持ったグループで、
あとにもさきにも、彼らのようなグループが現れることはありませんでした。

彼らがもっとも輝いていた、70年のオデオン盤“OS TINCOÃS”、
73年のRCA盤“O AFRICANTO DOS TINCOÃS”、77年のRCA盤“OS TINCOÃS” の3作が、
まとめて本の付属CDとしてCD化されたのだから、これは快挙です。
このうちオデオン盤だけ、大昔に一度CD化されたことがありますけれど、
RCA盤の2作は今回が初CD化。とりわけ彼らの最高作で、
『アフロ・ブラジルの風』のタイトルで日本盤が出たこともある77年作が
ようやくCD化されたのは、個人的にも感慨深いものがあります。

今回初めて日本に入荷したこの本は、3000部限定で、4年前に出版されていたんですね。
マルチーニョ・ダ・ヴィラ、カルリーニョス・ブラウンなどのミュージシャンに、
プロデューサー、ジャーナリスト、研究者によるテキストや、
74歳となったメンバーのマテウス・アレルイアの証言、
歴史的な写真や新聞記事に、この本のために撮り下ろされた写真で構成されています。

ギターにパーカッションというシンプルな伴奏で、
整った美しいハーモニー・コーラスを聞かせる
オス・チンコアスの音楽性は、70年のオデオン盤ですでに完成しています。
73年・77年のRCA盤では、ベースを加えて骨太なラインを強調しつつ、
キーボードやシンセを控えめに導入しています。
さらに、女性コーラスを加えてヴォーカル・ハーモニーを豊かにし、
管楽器を効果的にフィーチャーするなど、アレンジに工夫が凝らされ、
彼らの音楽をポップに磨き上げています。

そうした工夫がもっとも完成度高く実を結んだのが77年作で、
このアルバムからシングル・カットされた‘Cordeiro De Nanã’ は、
のちにジョアン・ジルベルトがマリア・ベターニャ、カエターノ・ヴェローゾ、
ジルベルト・ジルと、81年のアルバム“BRASIL” で歌ったことでも話題となりました。

ジャケットのメンバーのヴィジュアルや、
カンドンブレから想起されるアフロ的イメージのせいで、日本盤が出た当時は、
アフリカ回帰の文脈でもっぱら語られていた気がするんですけれど、
正直、当時の評価は、ぜ~んぶマト外れでしたね。

カンドンブレの音楽を知る人なら、
オス・チンコアスの音楽とは、まるで別物であることは、すぐにわかるでしょう。
フォークロアなアフロ・ブラジリアン音楽は、ユニゾン・コーラスがデフォルトで、
あんなヨーロッパ的で、きれいなハーモニーがあるわけないじゃないですか。

オス・チンコアスのユニークな個性は、カンドンブレのリズムで
オリシャ(神々)にまつわる歌詞を歌いながら、
メロディやハーモニーは、カトリックの聖歌隊の音楽だったという点です。
彼らの音楽の真骨頂は、シンクレティズムの発揮にあったんですよ。
それを指摘できた人は、当時ひとりもいませんでしたよね。

あとで知ったことですが、オス・チンコアスの出身地カチョエイラには、
バイーア州で2番目の大きさのバロック建築群が遺されているのだそうです。
そうしたポルトガル風の教会に、
カンドンブレが行われるテレイロ(祭儀場)が共存する環境で、
グレゴリオ聖歌とカンドンブレの神歌が長い歳月をかけて交わっていった歴史を、
オス・チンコアスは見事に体現していたんですね。

その後メンバーのマテウス・アレルイアは、83年にアンゴラのルアンダを訪問し、
アンゴラにみずからのルーツを見出し、アンゴラ政府の文化調査プロジェクトに参加します。
その結果、研究のために長期に渡ってアンゴラに滞在し、
02年になってようやくブラジルへ帰国。10年に初ソロ作を出しますが、
そこではアフロ系ルーツをディープに追った音楽性に変わり、
オス・チンコアス時代のヨーロッパ成分はすっかり失われていました。

こうした例は、彼らばかりではないですね。
時代が下るほど、アフロ系音楽ばかりに焦点が集まるようになり、
文化混淆された音楽からヨーロッパ成分が失われる傾向は、他の地域でもみられます。
たとえば、フレンチ・カリブのアンティーユ音楽も、
ビギン・ジャズから、カリビアン・ジャズと呼称が変わるにつれ、
ビギンやマズルカなどのヨーロッパ由来の音楽の出番が減り、
ベレやグウォ・カなどのアフロ系音楽に傾くのは、
この地域の音楽の芳醇さをみすみす失うようで、気がかりです。

バイーア音楽の本質は、黒いカトリックにあり。
ひさしぶりに、オス・チンコアスのCD化によって、
シンクレティズムの魅力を再認識させられました。
彼らのような音楽性を発揮する音楽家がいま不在なのは、まことに残念です。

[CD Book] "NÕS, OS TINCOÃS" Sanzala Artística (2017)
コメント(0) 

ザ・ヴォイス・オヴ・レンベーティカ

Roza Eskenazy.jpgGiorgos Katsaros.jpgMarika Papagika.jpgAntonis Diamantidis.jpg

ギリシャ歌謡の良盤探しは、原田さんに頼りっきりなんですが、たまには自力発掘を。
12年に出ていた、「ザ・ヴォイス・オヴ・レンベーティカ」という
リイシュー・シリーズを見つけました。
初期レンベーティカの名歌手たちの選集となっています。

シリーズというわりには4タイトルしか出ていないんですが、
縦長のCDブック仕様で、50ページないし64ページのブックレット付という、スグレもの。
ざらりとしたクラフト紙に印刷した、古びた味わいのデザインが
レンベーティカという内容にぴったりで、<手元に置いときたい欲>をかられます。

貴重な写真も満載の解説に、全曲歌詞付き、
作詞作曲者、伴奏者、録音データ、SP原盤番号のクレジットも完備した
資料的価値の高さは、リイシューの仕事として満点の内容でしょう。
ギリシャ語のみとはいえ、今日びテキスト化して
翻訳ソフトにかけりゃいいんだから、問題ありませんね。

ギリシャ盤は値段の高さが難なんですけれど、
このシリーズは廉価版なみの安さが嬉しいところ。
いつもなら、どれを買うかとよく吟味するところ、
えいやっと4タイトル全部買っちゃいました。

ローザ・エスケナージは、いったいこれで何枚目かとも思うんですけれど、
懲りずにまた買ってしまっても正解と思えるのは、音質がめちゃくちゃいいから。
このシリーズ全部にいえることですが、SPの音の再現性がすばらしい。
単にノイズ・リダクション処理だけの問題ではなく、SPのガッツのある音を引き出して、
なまなましいサウンドを蘇らせているんです。

ヨルゴス・カタロースという人は初めて知りましたが、ギター弾き語りという変わり種。
早くにアメリカへ渡り、録音はすべてアメリカで行われています。
まるで、レンベーティカ版ギターを持った渡り鳥ですけれど、
じっさいハリウッドで大成功を収めていた無声映画のダンサーと恋に落ちて、
映画界に人脈を作って名を上げ、その後各地を転々と旅をし、
まさしくギターを持った渡り鳥の生活を送った人だそうです。
レンベーティカがギリシャのブルースと形容されるのとはまた別の意味で、
戦前ブルース的なギター弾き語りのレンベーティカが聴けるわけですけれど、
スミルナ派のような多文化混淆の深い味わいはまるでなく、ドライなところが味気無い。

ギリシャ録音史上、もっとも早く録音を残した歌手のひとりとされるマリカ・パパギカは、
初期レンベーティカらしいヴァイオリン、チェロ、サントゥールという
シンプルな伴奏のほか、シロフォンやブラス・バンドが伴奏につく珍しい曲も聞けます。
1910年にニュー・ヨークへ渡った、イピロス出身のヴァイオリニスト、
アレヒス・ズンバスが伴奏を務めている曲もあり、聴きものです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-07-29

ダルガスのあだ名で知られるアンドニス・ディアマンディディスは、
男っぷりのいいパワフルな喉で、情熱的な歌いっぷりが魅力の歌手。
カフェ・アマネー・スタイルの歌もたっぷりと聞けます。
ヴァイオリンの即興に呼応するかけ声が、いなせですねえ。
これぞスミルナ派といった濃厚なレンベーティカを味わえます。

Roza Eskenazy "ROZA ESKENAZY" Ta Nea no number
Giorgos Katsaros "GIORGOS KATSAROS" Ta Nea no number
Marika Papagika "MARIKA PAPAGIKA" Ta Nea no number
Antonis Diamantidis "ANTONIO DIAMANTIDIS" Ta Nea no number
コメント(0) 

難民の歌 マリサ

Marisa  TRAGOUDIA TIS PROSFYGIAS.jpg

エル・スール・レコーズで原田さんとおしゃべりしていて、差し出された1枚。
古色蒼然としたセピア色の写真には、湾岸の街並みと船首が写り、
一枚の女性歌手の写真が添えられています。
古典レンベーティカのリイシュー?と思ったら、「いや、これ新録なんですよ」と言う。

聴かせてもらうと、スミルナ派のレンベーティカやアナトリアの古謡を歌ったアルバムで、
マリサという女性歌手のみずみずしい歌いっぷりに、ひと聴き惚れしました。
古風な節回しは相当なヴェテランであることをうかがわせるものの、
ディープ一辺倒というわけではない、色香のある軽やかなこぶし回しに、
この人ならではの魅力があります。

いやぁ、いいねえ、とウナってしまったんですが、
原田さんは、アルバムはこれ一枚で、どういう人なのか、経歴がまったくわからないと言う。
これほど歌える人なのに、これ一枚しかないなんて不思議すぎるんですが、
ぼくも家に帰って、あれこれ調べてみるも、やはり情報はみつからず。
声を聴く限り、60代くらいのヴェテランに思えるんですけれどねえ。
ジャケットに写る、古めかしい女性の写真は誰なんだろうなあ。

アルバム・タイトルも『難民の歌』なら、1曲目の曲名も「難民」という本作。
1922年のスミルナの大火で、港湾都市スミルナから逃れた難民をテーマにした
アルバムらしいんですけれど、CDライナーには曲目しか記されておらず、
まったく手がかりがありません。

伴奏者などのクレジットも皆無という愛想のなさは、
本当に新録なのかという疑念もよぎり、
80~90年代に出たアルバムの再発というのもありえるかも。
わからないことだらけの謎アルバムだなあ。

ヴァイオリン、ブズーキ、ギター、カーヌーン、ダルブッカ、ベースという編成に、
曲によってウードやバグラマー、クラリネットにアコーディオンが加わる演奏も、
スミルネイカ・ソングの理想的伴奏といえ、
そのアンサンブルの素晴らしさにも耳奪われる、知られざる傑作です。

Marisa "TRAGOUDIA TIS PROSFYGIAS" Legend 2201151252 (2002)
コメント(0) 

サルサとスウィング・ジャズの混在作 ルベーン・ブラデス

Rubén Blades Y Roberto Delgado & Orquesta  SALSWING!.jpg   Louie Ramirez  LOUIE RAMIREZ Y SUS AMIGOS.jpg


おぅ、‘Paula C’ だっ!
ルベーン・ブラデスの新作は、なんとルイ・ラミレスの78年作
“LOUIE RAMIREZ Y SUS AMIGOS” のオープニング曲の再演からスタート。

う~ん、懐かしい。当時この曲ばっかり何度も聴き返していた記憶があるんだけど、
やっぱ、いい曲だよなあ。ルベーン・ブラデスの魅力は、楽曲の良さだよね。
あらためてウン十年ぶりに原曲を聴き直したら、演奏の音のあまりの悪さに閉口。
そうそう、思い出したけど、この曲、なぜか歌と伴奏のミックスがオカシくて、
伴奏がヘンにこもった音質だったんだよな。
再演したヴァージョンでは、33年を経たルベーンの歌いぶりに変化は感じさせず、
オリジナル・ヴァージョンを尊重したアレンジで、
オリジナルを超えた仕上がりになりました。

今作もロベルト・デルガド・オルケスタとの共演で、
すっかりルベーンの専属といった感じでしょうか。
今回は“SALSWING!” というタイトルどおり、
サルサとスウィング・ジャズのナンバーをミックスして聞かせる趣向で、
オトナのダンディズムを演出した、変化球入りのアルバムとなっています。

ただその趣向は、どーなのかなあ。聴く人を選びそうで、
フランク・シナトラの雰囲気むんむんの、ブロードウェイ調スウィング・ジャズ曲は、NG。
スカした歌いぶりが、もう鼻持ちならなくって。ルベーンにはこういう嗜好もあんのね。
こういうの聞かされると、やっぱルベーンって、歌手としては好きになれないタイプだなあ。
スウィング調のインスト曲は悪くないので、歌なしでインストだけにすりゃよかったのに。

とまあ、全面支持しにくい新作ですが、前作の延長線上のサルサは申し分なし。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-08-11
ピート“エル・コンデ”ロドリゲスに提供した‘Tambó’ のセルフ・カヴァーも
気合が入っていて、こういうのだけ、聴きたかったな。

Rubén Blades Y Roberto Delgado & Orquesta "SALSWING!" Rubén Blades Productions 2RBP0021 (2021)
Louie Ramirez "LOUIE RAMIREZ Y SUS AMIGOS" Cotique JMCS1096 (1978)

コメント(0) 

パワー・ギター・トリオ デイヴ・ホランド

Dave Holland  ANOTHER LAND.jpg

デイヴ・ホランドの新作が、
ギタリストのケヴィン・ユーバンクスと組んだトリオと聞いて、
ソッコー予約しましたよ。
なんせこの二人が共演した90年の“EXTENSIONS” は、
ぼくにとって生涯クラスのヘヴィ・ロテ盤。冬ジャズの定番アルバムとなっています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-01-19

ホランドとユーバンクスの共演がこの時以来なのかどうかは知りませんが、
あれから30年を経て、二人がどんな演奏を聞かせてくれるのか、楽しみにしていました。
(あとで調べてみたら、13年に“PRISM” で共演してるんですね。知りませんでした)

ユーバンクスのウォームなギター・サウンドに変わりはないものの、
カミソリのようにシャープに切り込んでくるスピ-ド感に加え、
伸縮の利いたプレイで、大きくうねるグルーヴ感を生み出しているのが、すごく印象的。
“EXTENSIONS” では、アルト・サックスのスティーヴ・コールマンがいましたけれど、
今回はギター・トリオの編成なので、サウンドのテクスチャをギターが決定づけるだけに、
ユーバンクスは慎重に音色を選びながらプレイしていますね。

ユーバンクスがトリオのサウンドをコントロールしつつも、
時にダイナミックな展開もみせ、‘Mashup’ での奔放なギター・ソロは、相当にスリリング。
オベッド・カルヴェールも手数の多いドラミングで、ユーバンクスを煽りまくっています。
ポスト・バップ・スタイルのカルヴェールのドラムスは、ロック的な激しさを持ちつつも、
軽快な俊敏さのせいでうるさくないし、ファンキーなブレイクを入れるのが巧みです。
そして親分ホランドの脈打つようなベース・ランニングが、
トリオのサウンドにアクセントをつけていくところは、ヴェテランのなせる業。
タテ・ヨコ弾いているけれど、やっぱりタテの大胆なトーンに惚れますね。

ユーバンクスとホランドの二人がブルースを引用する‘Bring It Back Home’ も面白い。
ハード・バップ時代のブルースをいつも退屈に感じてきたぼくには、
こういうアーティキュレーションこそ、
ジャズ・ミュージシャンに望まれるブルース解釈だと思います。

Dave Holland "ANOTHER LAND" Edition EDN1172 (2020)
コメント(0) 

ハリージその後 バルキース

Balqees  ARAHENKOM.jpg   Balqees  ZAI MA ANA.jpg

すっかりごぶさたとなっている、湾岸ポップスのハリージ。
もう4年も前のアルバムですけれど、イエメン系のUAE(アラブ首長国連邦)人歌手、
バルキース・ファティの3作目を買ってみたら、これがなかなかの力作。
ハリージ・ブーム真っ盛りの15年にロターナから出ていた前作を聴いて、
歌える人だなあと思っていましたけれど、
そのときは記事にしなかったので、一緒に前作の写真も載せておきましょうか。

前作は、ギクシャクとしたパーカッシヴなハリージ・ビートにのせて、
ハツラツとしたコブシ使いの若々しさが印象的でしたけれど、
ロターナから自主レーベルに移籍して出した本作は、
プロダクションがぐんと向上しましたね。

エレクトロ・ハリージとでも呼びたくなるような、
選び抜かれた音色の電子パーカッションが快感。
生音とエレクトロの絶妙が配分されて、
すんごいセンスの良いサウンドになりましたよ。

前作は、サウンドの下世話さがポップな風味となっていましたけれど、
シンセ音が古めかしかったり、オーケストレーションが妙に厚ぼったくて、
野暮ったかったりしていたのも事実。アレンジもずいぶんと大仰だったしね。

それに比べたら、今作はレイヤーされた音色が選び抜かれていて、
サウンドが磨き上げられましたよ。
バラードがぐんと良くなったのも、
そんなデリカシーに富んだプロダクションのおかげでしょう。
高中低音のミックスのバランスが整って、
前作のガチャガチャしたところも雲散霧消しましたね。

バルキースの歌の上手さは、前作ですでに実証済みなので、
本作も申し分ありません。彼女は、UAEを拠点とするNSO交響楽団のメンバーでもあり、
国連から「中東における女性の権利の擁護者」の称号も与えられているんですね。
サウジアラビアで初の女性のみのコンサートを行い、話題を呼んだそうです。
今年になってからは、配信でシングル・リリースもしているので、
新作も期待できそうですね。

Balqees "ARAHENKOM" Balqees no number (2017)
Balqees "ZAI MA ANA" Rotana CDROT1916 (2015)
コメント(0) 

カビール・ロック/ファンクの大力作 タクファリナス

Takfarinas  ULI-W TSAYRI - YEMMA LEZZAYER-IW.jpg

いぇ~い、タクファリナスの新作だっ!
いったい、何年ぶり? 10年の“LWALDINE” 以来かぁ、どーしてたの?
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-06-20

やんちゃなポップ・スターらしいキャラ全開のジャケットに、
聴く前からいやおうにも期待が高まりましたけれど、
ディスク1の1曲目で、もう飛び上がっちゃいましたよ!
いやー、嬉しいじゃないの。
ぜんぜん変わってないどころか、これまでにも増して、エネルギー全開。

若いヤツに席を譲る気はないぜといわんばかりの、現役感スパークさせまくり。
ヴェテランの余裕とか、成熟した味わいなんて、この人にはぜんぜん関係ないんだな。
ぼくと同い年で、この熱血ぶりは見習わなくちゃあ。アタマが下がります。

しかも、なんと2枚組という大作ですよ。
ディスク1の第1部は「わたしの心は愛」、
ディスク2の第2部は「わたしの母、アルジェリア」というタイトルが付いてます。
タクファリナスが自身の音楽を「ヤル」とラベリングする、
シャアビを大胆にロック/ファンク化したサウンドが縦横無尽に展開されています。
各曲のサウンドにはふんだんなアイディアを詰め込まれていて、
その手腕は、超一流のポップス職人といえますよ。
‘La Kabylie’ なんて、壮大なカビール・ロック歌舞伎を見せつけられているよう。

アタマがクラクラしそうなド派手なサウンドに、つい目くらましされますが、
タクファリナスの基本には、マンドーラの弾き語りによるカビール歌謡があり、
そのベースにアラブ・アンダルース音楽の地平が広がっているんですね。
ダフマーン・エル・ハラシのスピリットは、
しっかりとタクファリナスに受け継がれていますよ。
アゲアゲのダンサブルなトラックにも、芳醇なコクが宿る理由は、そこですね。
たくましきカビール芸人根性をすみずみまで発揮させた新作、大傑作です。

ああ、コロナ禍が恨めしいねえ。
こういうのを聴いていると、満員のフロアでもみくちゃになりながら、
汗だくになって踊りたいよ~。

Takfarinas "ULーIW TSAYRI" Futuryal Production no number (2021)
コメント(0) 

センバのコミュニケーター パウロ・フローレス

Paulo Flores  INDEPENDÊNCIA.jpg

パウロ・フローレスのイキオイが止まらない。
創作意欲が湧き上がって、ほとばしるのを止められないといった感じで、
なにが彼をそんなに突き動かしているのか。
若手ラッパーのプロジージョと組んで、
エスペランサというプロジェクトを立ち上げたかと思えば、はや新作が届きましたよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-01

アンゴラ人最大のアイコンとなったパウロ・フローレスですけれど、
ルアンダ、カゼンガ出身のポルトガル人で、リスボン育ちのアンゴラ人という立ち位置が、
世代、文化、表現をつなぐコミュニケーターという役割を、
彼に自覚的にさせたのでしょうか。
今作でもディアスポラである自伝的ドキュメントをまじえながら、
アンゴラの過去と現在、そして未来につながるテーマを取り上げ、
庶民の生活に根差しながら、抑圧と貧困と闘う人々の人生を語り、
逞しきアンゴラ人の誇りを歌っています。

新作のタイトルは、ずばり『独立』。
マルクス・レーニン主義時代のプロパガンダ・ポスターにならったアートワ-クには、
目隠しされた女性が描かれ、皮肉にも in と dependência を分裂させています。
アンゴラ独立時にテタ・ランドは、同じ『独立』のタイトルでアルバムを出しましたが、
約半世紀を経て、独立への眼差しがすっかり様変わりしたことを暗喩していますね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-11-16

独立50周年にはまだ4年早い、中途ハンパなタイミングでこのタイトルを付けたのは、
現在の社会状況では、とても祝賀を美化することなどできないという思いからのようです。
アニヴァーサリーを祝う前に、パウロはアンゴラの人々が忘れてしまっている
脱植民地化への長い闘いと、独立後の内戦の苦しみを呼び覚まそうとしています。

オープニングの‘Heróis Da Foto’ は、キゾンバのリズムに甘やかなメロディがのる、
明るいトーンを持った曲。しかし、その底には涙の味が隠れていて、
踊りながら泣き濡れてしまいそうなトラックじゃないですか。
続いて、ブラジルのショーロ・ミュージシャン、ジオゴ・グアナバラがアレンジを務めた
‘Bem-Vindo’は、ブラジルのショーロとアンゴラのラメントをミックスしたような切ない曲。
ジオゴが弾くバンドリンとギターもフィーチャーされ、アルバム冒頭から、
歌に沈殿している悲しみの深さに、胸を射抜かれました。
これって、ブラジルのサウダージ感覚とも異なる、アンゴラ音楽独特の味わいです。

ギネア=ビサウの夭逝した伝説のシンガー・ソングライター、
ジョゼ・カルロス・シュワルツの曲と
アンゴラのシンガー・ソングライター、ボンガの曲をメドレーにして、
パウロの長年の相棒であるギネア=ビサウのギタリスト、
マネーカス・コスタと共に歌ったトラックがあるほか、
プロジージョとユリ・ダ・クーニャをゲストに迎えた曲、
さらに伝説的なヴェテラン・ミュージシャンを迎えた曲も用意されています。

Boto Trindade  MEMÓRIAS.jpg

アルバム終盤の‘Esse País’ と’Roda Despedida de Semba’ に参加した、
ギタリストのボト・トリンダーデと、
コンガ奏者のジョアンジーニョ・モルガドの二人が、それです。
ジョアンジーニョ・モルガドは、コンジュント・メレンゲ、センバ・トロピカル、
オス・ボンゴス、バンダ・マラビーリャなどの数多くのバンドで、
ドラマーやパーカッショニストとして活躍し、
ダヴィッド・ゼー、カルロス・ラマルチーネ、テタ・ランドなどの独立以前の歌手たちから、
独立後ではカルロス・ブリティ、フィリープ・ムケンガ、
最近ではユリ・ダ・クーニャに至るまで、数多くのヒット曲に関わってきた名手で、
モダン・センバのビートをクリエイトしたと尊敬される人です。

アンゴラの歴史に触れた歌詞を縦軸に置き、
ギネア=ビサウのグンベー、ブラジルのショーロなど、ルゾフォニアの音楽性を横軸に置いた
パウロ・フローレスの作風が、今作もいかんなく発揮されています。
キゾンバやズークを消化して、クドゥロ世代の音楽家とともにヒップ・ホップのセンスも
取り入れてきたパウロのセンバは、ダンスフロア向けの音楽やポップスからは求められない、
長編小説を読むような充足感が得られます。

Paulo Flores "INDEPENDÊNCIA" Sony 19439882772 (2021)
Boto Trindade "MEMÓRIAS" Rádio Nacional De Angola RNAPQ22
コメント(0) 

アンゴラのポップス才人、発見 トトー・ST

Totó ST  FILHO DA LUZ.jpg   Totó ST  NGA SAKIDILA.jpg

うわぁ、スゴイ上質なポップスをやる人じゃないですか。
アンゴラのシンガー・ソングライター/ギタリストのトトー・STの2作に驚かされました。
歌、楽曲、演奏と、三拍子揃ったクオリティの高さといったら!
アンゴラといっても、センバやキゾンバとは無関係。
ジャジーな味わいもある、グルーヴ感溢れるコンテンポラリーなアフロ・ポップの作家で、
リシャール・ボナやラウル・ミドンが思い浮かぶ場面多し、といえます。

どういう人かとバイオを調べてみると、自身のサイトに紹介がありました。
80年ルアンダ生まれ。本名はセルピアン・トマス。
ステージ・ネームのトトー・STのSTは、本名のイニシャルですね。
14歳からキャリアを積み、06年にデビュー作“VIDA DAS COISAS ” をリリース。
今回ぼくが入手した14年作と19年作の2枚は、3作目と4作目にあたるようです。

2作ともに、ソングライティングが非凡。
どの曲もフックがあり、スキャットや多重録音による自身のハーモニー・コーラス、
ギター・プレイなど、巧みな聴かせどころを作るセンスに長けた人です。
歌いぶりは伸びやかだし、美しいファルセット使いも要所に交えて、
ヴォーカリストとしても優れています。この人の歌には、官能性がありますよ。

アンゴラの音楽賞で、ワールド・ミュージックやアフロ・ジャズ部門のベスト・シンガーを
受賞するほか、最優秀曲、最優秀作曲者を受賞しているのも、ナットクです。
15年にダイアン・リーヴスとステージをともにし、
キザイア・ジョーンズとも共演するなど、
国外のミュージシャンとの共演歴も豊富なようです。

2作のプロダクションもめちゃくちゃ充実していて、伴奏陣は実力派揃い。
“FILHO DA LUZ” では、アンゴラのポップス・シーンの若手プロデューサーとしても
活躍する鍵盤奏者ニノ・ジャズに、グアドループ出身のベーシスト、
ティエリー・ファンファン、マルチニーク出身のベーシスト、ミシェル・アリボが参加。
“NGA SAKIDILA” には、カメルーンの実力派ジャズ・ベーシストの
ガイ・ンサンゲが参加するほか、アンゴラの若手で注目を集めるギタリスト、
マリオ・ゴメスがシャープなギターを聞かせます。

アンゴラ、いったいどんだけ才能が眠っているんだよ!

Totó ST "FILHO DA LUZ" VIP no number (2014)
Totó ST "NGA SAKIDILA" 17A7 no number (2019)
コメント(0) 
前の30件 | -