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更新された王道のアフロ・ソウル フレディ・マッサンバ [中部アフリカ]

いやぁ、すごくこなれたコンテンポラリー・ポップだなあ。
プロダクションがしっかりと制作されていて、
プロのポップ職人の仕事を見る思いがしますね。
インターナショナル・マーケットをターゲットにしたアフリカものでは、
これ、出色の出来じゃないですか。
コンゴ共和国ポワント=ノワール出身のフレディ・マッサンバの4作目。
このアルバムで初めて知りましたけれど、71年生まれというから、もう50過ぎ。
91年にレ・タンブール・ド・ブラザに参加して世界をツアーし、
93年に勃発したコンゴ共和国内戦でフランスへ逃れ、
ザップ・ママやセネガルのラッパー、アワディとツアーをしてキャリアを積み、
10年にソロ・デビューした人だそうです。
オープニングでいきなり飛び出す、アカ・ピグミーのポリフォニーのサンプリングに驚愕。
続く2曲目のイントロでも、ンゴマを伴奏に手拍子で
コール・アンド・レスポンスをするコーラスがサンプリングされています。
オーセンティックな伝統サウンドから、ジャジーなエレピやギターにラップへと
シームレスにつなげても、なんら違和感なく接続するところが手腕だよなあ。
この人の場合、レ・タンブール・ド・ブラザにいたことが、コヤシとなったんでしょうね。
レ・タンブール・ド・ブラザは、身もフタもない言い方をすると、
外国人相手にアフリカ音楽をショーケース的に演奏するバンド。
少なくとも、ブラザヴィルの同邦に向けた音楽ではありません。
レ・タンブール・ド・ブラザで振付もしていたフレディは、
ここでグローバルなポップスのなかでアフリカ性を表現するスキルを体得したのでしょう。
クレジットを眺めるに、サウンドのキー・パーソンは、キンシャサ出身のギタリスト、
ロドリゲス・ヴァンガマと、プログラミングとアレンジを担当する
マルチ奏者ディディエータッチの二人のよう。
ブルンディ生まれのベルギー人ラッパー、スカ・ンティマがゲストに参加しているのも、
ディディエータッチがプロデュースしているよしみでしょう。
このほかゲストでは、ロクア・カンザといった大物から、
フレディ・マッサンバと同郷のポワント=ノワール出身の若手ラッパー、
ストゥ・ワンダーや、マリ西部カイのグリオの家系に生まれ、
現在はカナダで活躍するシンガー、ジェリ・タパがフィーチャーされています。
全曲フレディのオリジナルで、ソングライティングも秀逸。
曲によりホーン・セクションもたっぷり使って、申し分のないプロダクションです。
21世紀に更新されたアフロ・ソウルはジャジーな味わい。
直球ストレートの王道ぶりに胸がすきます。
Fredy Massamba "TRANCESTRAL" Hangaa Music no number (2023)
2023-11-30 00:00
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ヴィンテージな味わいのアフロ・ファンク トーゴ・オール・スターズ [西アフリカ]

好調続く、トーゴ・オール・スターズの3作目。
2作目と同じ陣容で、地元のロメでレコーディング、
アムステルダムでミックスとマスタリングが行われています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-09-26
3管を擁したメンバーも2作目とほぼ変わりなく、
目立つ変化といえば、女性歌手が一人加わったことかな。
ドッジ・アリス・バックナーとクレジットされたこの人の歌いっぷりが
また野趣に富んでいて、う~ん、いいんだわ~。
こういう土臭い味わいを持ってる歌い手って、
全世界からどんどんいなくなっているだけに、嬉しくなりますねえ。
『スピリッツ』というタイトルや、ジャケットに描かれたデザインが示すとおり、
本作もトーゴのヴードゥーに由来したトラックが多数のようです。
4曲目 ‘Afidemanyo’ のイントロの太鼓とシェイカーのリズムは、
明らかにヴードゥーで使われるリズムと思われるし、
ほかの曲でも金属製打楽器や太鼓が刻む特徴的なリズムに、
ヴードゥー由来を感じさせる場面が多数出てきますよ。
デビュー作には、曲ごとにアクペセ、アグバジャといったリズム名が
クレジットされていたんですが、2作目と本作には記載がなく、ちょっと残念。
トーゴのリズムの聞き分けがまだできないので、勉強したいんだけどな。
そうしたトーゴの伝統リズムをアフロ・ファンクにしたトーゴリーズ・ファンクのほか、
アフロビートも2・11曲目でやっています。
デジタル皆無のアナログな生演奏で、
ここまでアーシーな魅力を放つバンドは、今日び本当に貴重。
居並ぶヴォーカリストたちも全員がいなたい歌い口で、
もう涙が止まりません。
Togo All Stars "SPIRITS" Excelsior EXCEL96755 (2023)
2023-11-28 00:00
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マルチニークの名花 ローラ・マルタン [カリブ海]


ローラ・マルタン(本名ステラ・モンデジール)といえば、
フレンチ・カリブ・ファンには忘れられない人。
マルチニークのマイナー・レーベル、ジョジョから出た69年のレコードが、
93年にCD化されて初めて聴いた時は、
そのチャーミングな歌声にメロメロとなったもんです。
のちにレコードも手に入れたら、CDとは曲順が違っていて、あれっと思ったけど。
曲順を入れ替えたCDでは、
1曲目にレオーナ・ガブリエルが30年に作曲した ‘A Si Parer’ が置かれていて、
エミリアン・アンティルのアルト・サックスとクラリネットに、
アラン・ジャン=マリーのピアノを伴奏にビギン名曲がたっぷりと堪能できる、
ビギン名盤中の名盤でした。
ローラ・マルタンが残したレコードは少なくて、
このレコード以前には、グアドループのテナー・サックス奏者エドゥアール・ブノワ、
サックス奏者ジェルマン・セセ、ピアニストのフレッド・ファンファンとともに、
60年にグアドループのレーベル、エメロードに録音した1枚があるだけです。

69年のジョジョ盤がCD化されたのと同じ頃に、このレコードもCD化されましたが、
オリジナルのレコードはいまだにお目にかかったことがないんだよなあ。
このレコードでは、60年のマルチニークのカーニヴァルで入賞したヴァルスの
‘La Rade Fort-de-Frances’ や、同60年のビクーヌ・コンクールの入賞曲
‘Couve Dife’ に、ルル・ボワラヴィル作のマンボ、
そして69年盤で再演された ‘Adieu Foulard’ を歌っています。
この曲は、アンリ・サルヴァドールのヴァージョンで広く知られるようになった古謡で、
1777年から1783年まで仏領アンティルの総督を務めた
フランソワ・クロード・アムル・デュ・ブイエ将軍の作とされていますが、
歌の起源に明確な典拠はないようですね。
神戸大学(当時)の尾立要子さんがこの曲にまつわる優れた研究を、
2013年に発表しています。
69年盤のCDに載せられたアンリ・デブスのコメントによると、
「もう20年以上も音楽業界から遠ざかっている。
カリフォルニアのどこかで愛する男性と暮らしている」とあり、
当時ローラは引退していたようなんですが、
このCDの5年後に現役復帰して、アルバムを出しました。

ローラらしいエレガントさに溢れたビギンをたっぷり味わえる快作だったんですけけど、
日本ではガン無視だったよなあ。どういうことだったのかなあ。
このCDをレヴューしたテキストなんて、読んだことないもんね。
バンゴのタンブーをイントロに始まるこのアルバム、マルチニーク色全開で、
アラン・ジャン=マリー、ティエリー・ヴァトンのピアノに、
ラルフ・タマールもコーラスにかけつけています。
サックス、トランペット、クラリネット、トロンボーンの菅楽器が活躍する
ジャズ・ビギンの演奏も申し分なければ、チ・エミールのベレ ‘Ti-Cannot’ を取り上げ、
バゴのパーカッションのみで歌っているんですが、
この曲、ローラ自身がアレンジしているんですよね。
ビギンばかりでなく、アフロ系音楽を射程に収めるところにも、
レオーナ・ガブリエル譲りのマルチニーク文化への深い傾倒がうかがわれます。
インナーにはローラの若き日の白黒写真も載せられていて、
その写真を眺めていると、マルチニークの名花という言葉しか浮かびません。
Lola Martin "LOLA MARTIN" Henri Debs Production AAD3001-2
[LP] Lola Martin "CHANTE LA MARTINIQUE" Jojo 403 (1969)
Edouard Benoit, Lola Martin, Germain Cece, Fred Fanfant Et Les Emeraude Boys
"EDOUARD BENOIT, LOLA MARTIN, GERMAN CECE, FRED FANFANT ET LES EMERAUDE BOYS"
Hibiscus EMS M3-2 (1960)
Lola Martin "KENBÉ DOUBOUT’ AW" Déclic Communication 506842 (1998)
2023-11-26 00:00
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現役復帰直後の輝き ハイル・メルギア [東アフリカ]

ハイル・メルギアの新作は、ハイルが演奏活動を再開してまもなくのライヴ盤。
ブルックリンの由緒ある非営利文化センター、
パイオニア・ワークスで16年7月1日に行われたライヴ・パフォーマンスです。
ワシントンDCでタクシー・ドライヴァーとして働いていたハイルの昔のカセットが、
13年にオウサム・テープス・フロム・アフリカによってリイシューされ、
カルト的人気を呼ぶことになるとは、当時本人は想像さえしなかったでしょうね。
まさに青天の霹靂だったはずで、在米エチオピア人に向けて演奏するのではなく、
アメリカ人相手に演奏して喝采を呼ぶことになるとは、
本人にとってオドロキ以外の何物でもなかったでしょう。
ましてや復帰ライヴの記事がニュー・ヨーク・タイムズの一面を飾り、
世界各地のフェスティヴァルに招かれることになるのだから、
人の運命とは分からないものです。
ベースとドラムスによるトリオで、ピアノ、オルガン、アコーディオン、メロディカと
鍵盤類を駆使して、たっぷりと即興演奏を繰り広げるハイルは、
長年のうっぷんを晴らすかのように、イキイキと演奏しています。
ハイルのMCからは、再び演奏を始められた喜びとともに、
新しい観客を得た誇らしさのようなものも感じ取れますよ。
15年にドイツのフィロフォンから出したシングル曲 ‘Yegle Nesh’ を筆頭に、
85年作の “SHEMONMUANAY” から
‘Hari Meru Meru’ ‘Belew Beduby’ の2曲
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-07-25
18年作の “LALA BELU” から ‘Tizita’ ‘Anchi Hoye Lene’ の2曲を
演奏しています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-03-03
ベースとドラムスがすっごくタイトで、ビシッと引き締まった演奏は、
ブルックリンの通のリスナーも大喜びで、めちゃくちゃウケてますね。
現役復帰の輝きがまばゆいライヴ盤です。
Hailu Mergia "PIONEER WORKS SWING (LIVE)" Awesome Tapes From Africa (US) ATFA049 rec. 2016 (2023)
2023-11-24 00:00
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その音楽、凶暴につき クリス・デイヴィス [北アメリカ]

クリス・デイヴィスの新グループの新作ライヴがスゴイ。
19年のアルバム・タイトルをグループ名にしたダイアトン・リボンズは、
ドラムスのテリ・リン・キャリントン、ターテーブル兼エレクトロニクスの
ヴァル・ジェンティとクリスの女性3人に
ベースのトレヴァー・ダンを主要とするグループで、
今作にはギターのジュリアン・ラージという強力な助っ人加わっています。
クリス・デイヴィスといえば、18年に来日した時のライヴが強烈で、
いまでもあの夜のパフォーマンスがまざまざと思い出されます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-04-10
あの時に見せつけられたフリー系ジャズ・ピアニストというアスペクトは、
彼女の多彩な音楽性の一部にすぎなかったことに、
この新作は気づかさせてくれます。
ダイアトン・リボンズは、現代音楽や電子音楽からバップに至るまで、
クリスの豊富な音楽的語彙を発揮できる、力量のあるメンバーが揃いました。
テリ・リン・キャリントンといえば、
ウェイン・ショーターやデヴィッド・サンボーンの共演を皮切りに頭角を現し、
エスペランサ・スポルディングのツアーでも活躍をしていた人。
ポルトープランス生まれのハイチ人電子音楽家にしてターンテーブリストの
ヴァル・ジェンティは、ハイチのヴードゥーとエレクトロを融合した
ヴォドゥ=エレクトロのサブ・ジャンルであるアフロ=エレクトロニカを標榜する
気鋭の音楽家で、現在はバークリー音楽院の教授も務めています。
そしてトレヴァー・ダンは、ジャズ、パンク/ハードコア、現代音楽、フリーなど
多ジャンルに及ぶ音楽性を持ち、メアリー・ハルヴォーソンとの共演歴もある人。
こうしたメンバーが集い、そこにジュリアン・ラージが加わったのだから、鬼に金棒です。
それにしても、老舗ジャズ・クラブのヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴというのは、
意外でした。保守的なジャズしかやらない場所と思ってたら、そんなことないんだね。
このライヴではヴァル・ジェンティのターンテーブルの存在が大きく、
さらにクリスが操るアートリア・マイクロフリーク・シンセによる
サンプリングやサウンド・コラージュによって、サン・ラー、メシアン、
ポール・ブレイ、シュトックハウゼンの肉声がさまざまな曲で登場します。
レパートリーがまた面白い。クリスのオリジナルのほかに取り上げているカヴァーは、
ロナルド・シャノン・ジャクソンの ‘Hari Meru Meru’ に
ジェリ・アレンの ‘The Dancer’ 、ウェイン・ショーターの ‘Dolores’ 。
クリスのオリジナルも、ドルフィーとナンカロウを接続させてみたり、
3部構成のバード組曲ではバップから現代音楽まで横断してみたり、
ジャンルを交叉するだけでなく、フォームを解体する企てがめちゃくちゃスリリングです。
ぼくがクリス・デイヴィスの音楽に惹かれるのは、
こうしたフォームを逸脱しようとするエネルギーに惹かれるから。
知的すぎる音楽を苦手とする当方も、
クリスの音楽には凶暴さが潜んでいるような気がするんですよ。
サウンドそのものに、凶暴さなど微塵もないんですけどね。
ジュリアン・ラージがぴたりそこにハマっているのも、
クリスの音楽の本質に、自由度の高い逸脱があるからなのでは。
Kris Davis’ Diatom Ribbons "LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD" Pyroclastic PR28/29 (2023)
2023-11-22 00:00
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ビューティーなピアノ 渡辺翔太 [日本]

渡辺翔太のピアノの美しさは、掛け値なしでしょう。
右手が繰り出すメロディアスで華麗なタッチは、
ありし日のジョー・サンプルを思わせるところもあるもんね。
店頭で聴いて即買った前作から、3年ぶりとなる渡辺翔太の新作。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-09-04
前作同様、ドラムスは石若駿、ベースは若井俊也のピアノ・トリオ。
前作よりグルーヴ感を強く打ち出した楽曲が増えて、
石若が攻める場面も多くなり、石若ファンにとっては嬉しい限りです。
前作はグレッチェン・パーラトと勘違いした吉田沙良がフィーチャーされていたけど、
今作は Ruri Matsumura という人をフィーチャー。
子供ぽい声質と歌いぶりは、ぼくの苦手とするタイプだなあ。
でもまあ、推進力あるトリオの演奏に重点が置かれているから、
幼児性ヴォーカルはあまり気にならず。
シンセやローズ、ウーリッツァーを駆使したサウンドづくりがツボにハマっています。
渡辺の美しいピアノがよく映える、抒情味のあるメロディのオリジナル曲も
見事な出来ばえなら、ゆいいつのカヴァー曲の ‘Smile’ も素晴らしい。
21世紀になってというか、日本では東日本大震災以降、
よくカヴァーされるようになった曲ですけれど、
後半奔放な演奏となるアレンジが斬新です。
岩井の強力なベース・ソロから始まる ‘Table Factory’ も、
3人の存分な暴れっぷりが胸をすきます 。
ヴィブラフォンを模したシンセで弾かれる ‘Correndo Ó Verão’ もいいね。
「夏を走る」というポルトガル語のタイトルから察するに、
サンバにしたかったみたいだけど、ちょっと違っちゃったかな。
オカシなアクセントで叩いているトライアングルがいただけない。
バイオーンじゃないのなら、トライアングルは必要なかった。
渡辺翔太 「LANDED ON THE MOON」 リボーンウッド RBW0029 (2023)
2023-11-20 00:00
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ビクツィでロックして世界の舞台へ レ・テット・ブリューレ [中部アフリカ]


オウサム・テープス・フロム・アフリカのリイシューに触発されて、
ひさしぶりにザンジバル在籍時のレ・テット・ブリューレを聴き直してみました。
レ・テット・ブリューレは90年12月に来日していますけれど、
すでにザンジバルが亡くなった後でしたね。
残念ながらそのとき自分はタンザニアにいたので、
ライヴを観ることはできなかったんですが。
当時はまだビクツィという音楽じたいを知らずに聞いていたので、
レ・テット・ブリューレがいかに革新的なバンドだったのかに気付けたのは、
ずいぶんあとになってからのことです。
来日当時「アフリカのフィッシュボーン」という
アフロ・パンクのイメージで受け止められたのも、
顔や腕や足に白いボディ・ペイントを施し、頭の半分を剃ったヘア・スタイルで、
色とりどりの破れた服にバックパックを背負ったいで立ちによるものでしたね。
こうしたステージ衣装を考案したのが、
バンド・リーダーのジャン=マリー・アハンダです。
ジャーナリスト出身のアハンダは、バンド結成にあたって明確なコンセプトを持っていて、
ベティ人だけのものだったビクツィという音楽をカメルーン全国に広め、
さらにビクツィ・ロックで世界の舞台に躍り出ようという野心を持っていたのでした。
リード・ギタリストのザンジバルのカリスマティックな才能を早くから見抜き、
ステージではザンジバルを中央に立たせてギターとダンスの司令塔を演じさせ、
アハンダ自身はステージの端に位置して、ヨーロッパの観客を沸かせました。
ランスロー=フォティから出した87年のデビュー作
“REVELATION TELE-PODIUM 87” でも、
「ザンジバルとレ・テット・ブリューレ」という名義だったほどです。
このデビュー作のA面全部を占めた ‘Essingan’ は、
ザンジバルがベティ人の伝承曲をアレンジした曲で、
レ・テット・ブリューレ初のヒットとなりました。
レ・テット・ブリューレが88年にヨーロッパをツアーした時に撮られたドキュメンタリー
“MAN NO RUN”(クレール・ドニ監督)のサウンドトラックで、
‘Essingan’ の短尺ヴァージョンを聴くことができます。
ちなみにドキュメンタリー映画 “MAN NO RUN” は、彼らのツアーに同行して
カメラを回しただけの内容のない映画で、観るべきものはないんですが、
サウンドトラックの方は、ライヴ感たっぷりの小気味いいビクツィが楽しめます。
生前時のザンジバルのプレイが聞けるインターナショナル盤は、
このサウンドトラックと、ザンジバルの死後に出た
ブルー・キャライブ盤の2枚しかないんですよね。
世界デビュー前のランスロー=フォティ盤2作もCD化してくれないかなあ。
Les Têtes Brûlées "MAN NO RUN" Milan CDCH360 (1989)
Les Têtes Brulées "LES TÊTES BRULÉES" Bleu Caraïbes 82803-2 (1990)
2023-11-18 00:00
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ビクツィ・ギター・ヒーローに捧ぐ ジブラルタル・ドラクス [中部アフリカ]

カメルーンのビクツィづいているオウサム・テープス・フロム・アフリカ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-07-27
ロジャー・ベコノのデビュー作に次いで出たのは、
ジブラルタル・ドラクスのデビュー作です。
ロジャー・ベコノと同じインター・ディフュージョン・システムから
89年に出たレコードで、ロジャー・ベコノの一つ前のレコード番号だったんですね。
ロジャー・ベコノのアルバム同様、ミスティック・ジムがディレクションしていて、
バックのメンバーも全員同じ。
ジブラルタルは、ロジャー・ベコノのアルバムにコーラスで参加していましたが、
ジブラルタルのアルバムには、ロジャー・ベコノは参加していないようです。

このレコードも今回リイシューされるまで見たことすらありませんでしたが、
ジブラルタル・ドラクスは、99年にJPSから出たCDを1枚持っていました。
99年作は全曲ビクツィではなく、スークースもやっていて、
ビクツィ特有のギターでなくルンバ・スタイルのギターになってしまっているのが残念。
どちらのジャケットも、レ・テット・ブリューレと同じ
フェイス・ペインティングを施していて、
ジブラルタルがレ・テット・ブリューレのフォロワーであることは歴然。
しかもこの89年デビュー作はタイトルにあるとおり、
レ・テット・ブリューレのリード・ギタリスト、ザンジバルこと
エペメ・ゾア・テオドールに捧げられています。
なんでもジブラルタル・ドラクスはザンジバルを兄貴分のように慕って、
作曲やギターを習っていたのだそうで、歌ばかりでなく、
ギターも弾くようにとザンジバルに励まされていたのだそうです。
このデビュー作の前年、ザンジバルはわずか26歳の若さで亡くなってしまい、
ジブラルタルにとってこのデビュー作は、
ザンジバルへの恩返しの気持ちをこめたアルバムだったのかもしれません。
さきほどロジャー・ベコノのアルバムと制作スタッフが同じであることは書きましたが、
ギター・サウンドには少し違いがみられますね。
ロジャー・ベコノのアルバムではリード・ギターとリズム・ギターの絡みが、
伝統ビクツィのバラフォンの伴奏をギターに置き換えた演奏となっていましたが、
ジブラルタルのアルバムでは、リズム・ギターがほとんど目立たず、
前面に出たリード・ギターが1台でバラフォンのサウンドを奏でています。
ギター・バラフォンと称されるビクツィのギターは、
タバコの箱のアルミ・ホイルを弦の間に挟むなどして弦をミュートするのが特徴で、
ザンジバルが弦の間を通した紐をブリッジに寄せるシーンが、
レ・テット・ブリューレのドキュメンタリー映画にあったのを覚えています。
ここではシンバことエヴッサ・ダニエルが、特徴的なビクツィのギターを弾きまくっていて、
カリスマ・ギタリスト、ザンジバルへのオマージュを捧げています。
Gibraltar Drakus "HOMMAGE A ZANZIBAR" Awesome Tapes From Africa ATFA048 (1989)
Gibraltar Drakus "LE ROI BANTUBOL ET L'ORDRE ZOBLAK" JPS Production CDJPS51 (1999)
2023-11-16 00:00
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シマ唄の歌いぶり今昔 中山音女 [日本]


今年は中山音女、キテるなあ。
2023年リイシュー大賞ダントツ1位と、はやばや決定したのが、
中山音女のSPをホンモノのピッチで再現復刻した、
奄美シマ唄音源研究所による労作。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-15
そのカンゲキもまだ冷めやらぬところに、
今度は音女の戦後録音を収録した貴重な一枚を発見しました。
それが、奄美のセントラル楽器が66年に発売した10インチ盤。
全9曲収録のレコードで、
メインは昭和生まれの吉永武英と石原豊亮の6曲ですけれど、
大正生まれの田原ツユ(ジャケットの「田春」は誤記)が2曲と、
明治生まれの音女が歌う「うらとみ節」1曲が入っています。
歌詞集の唄者紹介に「現在、第一線は退いているが、
これまで美声を保っていることは一つの奇蹟であろう。
39年名瀬で行われた民謡大会に特別出演、喝采をあびた」とあり、
このレコードが出る2年前に民謡大会に出演したことがきっかけとなって、
この録音につながったものと思われます。
音女の戦後録音は、研究者が残した音源は別として、
商業録音ではこの1曲しか、ぼくは知りません。
録音当時は70を越す年齢だったわけで、SP録音時の声と違うのは当然として、
吉永武英や石原豊亮の昭和世代の歌いぶりと大きく違うのがわかります。
とりわけここで音女が歌った「うらとみ節」は、
その違いがはっきりとわかる典型なんですね。
うらとみ節は、「むちゃ加那節」の名でも知られる伝説の悲話をもとにした物語。
現代では悲劇の内容にふさわしく、とても遅いテンポで歌われるのが通例ですが、
音女がここで聞かせる歌いぶりは、まったく違っています。
まず、「うらとみ節」(「むちゃ加那節」)の内容をかいつまんで紹介しておくと、
時は薩摩藩政初期の頃の物語。
瀬戸内町加計呂麻島の生間という集落に、
「うらとみ(浦富)」という美人がいました。
うらとみは島唄と三味線がたいへん上手く、当時鹿児島から来ていた役人に
気に入られて、島妻(島だけの妻=妾)に請われます。
しかしうらとみは役人をかたくなに拒んだことから、
両親は食料を用意した小舟にうらとみを乗せ、沖へ流します。
うらとみを乗せた小舟は何日か漂流した後、喜界島の小野津へ漂着し、
この島でうらとみは結婚し、むちゃ加那をもうけます。
このむちゃ加那も母譲りの美人に育ちました。
ある日、むちゃ加那の美しさを妬む女友達が、あおさ採りにむちゃ加那を誘い出し、
女友達はむちゃ加那を海へ突き落として溺死させます。
そのことを知ったうらとみは狂乱し、入水自殺してしまったのでした。

こうした悲劇ゆえ、歌いぶりがじっくり聞かせる迫真となるのも必然です。
初めてぼくがこの曲を聴いたのは、中野律紀のデビュー作でした。
奇しくも中野律紀は、この「むちゃ加那節」を歌って
最年少の15歳で日本民謡大賞グランプリに輝き、
3年後に出したデビュー作のアルバム・タイトルともなったのです。


その律紀の洗練された繊細な歌いぶりと、
音女の野趣に富んだ力強い歌いぶりとでは、天と地ほどの違いがありますよ。
このレコードが録音されたのとほぼ同時期にあたる、
62年に録音された武下和平の「むちゃ加那節」や、
64年録音の南政五郎の「うらとみ」と聞き比べると、
音女ほど野趣ではないものの、歌いぶりには力強さがみなぎっています。
そして音女と共通するのは曲のテンポで、
律紀のヴァージョンになると、テンポが極端に落とされていることがわかります。
これは奄美民謡が時代が下るほどに、野性味がなくなって、
情緒豊かな表現を追求するようになり、
グィンの技法など洗練を志向した結果なのでしょう。
明治・大正・昭和生まれの唄者を収録したこの10インチ盤は、
世代の違いによって歌いぶりの変化が聞き取れるだけでなく、
平成から令和を迎えた今となっては、もはや別世界の歌声といえます。

この10インチ盤は、今ではまったく聴くことができなくなった
昔の奄美民謡の味わいを堪能できる貴重な一枚です。
実は、セントラル楽器でCD化されているんですけれど、
ディスクはCDR、レーベルはレーザー・プリンター印刷という自家製で、
ジャケットなしの歌詞カードのみ。
オリジナルの10インチ盤を捕獲できたのは、嬉しき哉。
レコードは目にも鮮やかな、透明レッド・ヴァイナルのミント盤であります。
[10インチ] 中山オトジョ,田原ツユ,吉永武英,石原豊亮 「宇検民謡傑作集」 セントラル楽器 O12 (1966)
中野律紀 「むちゃ加那」 BMGビクター BVCH604 (1993)
武下和平 「奄美民謡 天才唄者 武下和平傑作集」 セントラル楽器 C3 (1962)
南政五郎 「本場奄美島唄 南政五郎傑作集」 セントラル楽器 TCD02 (1964)
2023-11-14 00:00
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みずみずしいスーパー・ゲーリック・バンド ダイヴ [ブリテン諸島]

「ダイヴ」と発音するバンド名は、スコットランド・ゲール語で「親族」の意。
98年結成で、西ロッホアーバーとスカイ島を拠点に、
はや四半世紀も活動しているんですね。
メンバー各自の出身はケープ・ブレトンやカリフォルニアなどとバラバラですが、
全員がスコットランド、ハイランド地方にルーツを持つという
同胞としての共感から結成された、スーパー・ゲーリック・バンドだそうです。
バグパイパーのアンガス・マッケンジーは、ケープ・ブレトン島に生まれ、
ゲール語を母国語として育った人。
幼い頃からパイプスを演奏して数多くのコンテストで優勝し、
本格的にハイランド音楽を演奏するべく、スカイ島に移住しています。
フィドラーのゲイブ・マクヴァリッシュは、
ハイランドからノヴァ・スコシアそしてカリフォルニアへと移り住んだ家族のもとに生まれ、
17歳の時に曾祖父が暮らしていたハイランドの地へ渡り、
現在はスカイ島の南に位置する、住民わずか100人のエッグ島に居を置いています。
さらにこのバンドの音楽を引き立てているのが、歌手エレン・マクドナルドの存在です。
18年の7作目から加わったというエレンのシンギングは、
スコティッシュの伝統を見事にひいていますね。
ハイランド最大の都市インヴァネス(イニリ・ニシ)育ちの彼女は、
スカイ島にあるスコットランドゆいいつののゲール語大学へ入学して、
ゲーリック・ソングを歌い続けてきた筋金入り。
チャーミングな声質を持ちながら、素朴な味わいを失わないシンギングが魅力です。
ハイランドの伝統音楽を継承して、
現代のゲール音楽としてリフレッシュさせるダイヴは、
すでにヴェテラン・バンドの域にあるともいえるのに、
その音楽のみずみずしさ、若々しさに圧倒されます。
それは内なるゲール文化を強く意識しながら、ハイランドの外から
ハイランド音楽を希求してきた時間の長さや、思いの強さのなせる業のように思えます。
Dàimh "SULA" Goat Island Music GIMCD006 (2023)
2023-11-12 00:00
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リアルなサザン・ソウルの感触 ミスター・スモーク [北アメリカ]

もう1枚が、デビュー作から4年ぶりとなるミスター・スモークのセカンド作。
いがらっぽい声は、ステージ・ネームやアルバム・タイトルが示すとおり、
タバコのせいなんでしょうか。サビの利いた声で歌い上げる、
オールド・マナーなソウル・シンガーならではの歌いぶりに、グッときますねえ。
プロダクションはマーセラス・ザシンガーのアルバムに一歩ゆずるものの、
主役の気合の入った歌いっぷりが、すべてカヴァーしていますね。
表情豊かな歌いぶりがダンサブルな曲でよく映えて、
チタリン・サーキットのステージで、客を沸かすのが目に見えるかのようです。
熱き血潮たぎる表現力豊かなこの歌声に、
サザン・ソウルの心意気が溢れていますよ。
ブルージーな味がよく表れた曲を聴いていると、
このアルバムにはないけれど、ブルーズン・ソウルも歌ってほしくなるなあ。
リトル・ヴィレッジが手がけたら、
すんごいディープでリアル・ブルース・アルバムができそうなんだけど。
Mr. Smoke "STILL SMOKIN’" Hit Nation no number (2023)
2023-11-10 00:00
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ナイト・ムードのスロウ・ジャム マーセラス・ザシンガー [北アメリカ]

秋はR&Bであります。
といいつつ、今年は真夏に珍しくヘヴィロテしたR&Bアルバムがあったんですけど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-07-11
R&Bがグンと身近になるのは、やっぱり夜がひんやりとする季節になってから。
インディのサザン・ソウル新作から、好みの2作を見つけました。
1枚はマーセラス・ザシンガー
(ザとシンガーの間にスペースなし)という新人のデビュー作。
ルイジアナのシンガーだそうですけれど、メロウなスロウ・ジャムに味のある人で、
サザン・ソウルのニュアンスを感じさせない都会的なサウンドは、
メインストリームのコンテンポラリーR&Bといえそうです。
赤毛のネーチャンの後ろ姿と上半身ジャグア・タトゥーだらけの主役が写るジャケットは、
まるでギャングスタ・ラップのアルバムみたいですけれど、ナカミはぜんぜん違って、
アダルト・オリエンテッドなアルバムですよ。
こういう人が出てくるのも、90年代回帰路線の延長上なんでしょうね。
‘Trail Ride Shawty’ でフィーチャーされているジーター・ジョーンズの一派だそうで、
インディのクオリティを頭一つ抜けたプロダクションは、
サザン・ソウル・シーンをリードするジーター・ジョーンズならではでしょう。
ちなみにこの曲、アコーディオンをフィーチャーして、
ほんのりザディコを香らせるところもココロくすぐられますねえ。
イントロのフェイクからやるせなさが爆発する
‘Outro (Pull Out)’ にフィーチャーされているスカート・ケリーも、
ジーダー・ジョーンズ・ファミリーとのこと。
ラストのソウル・バラード ‘Toxic Love’ まで全15曲、
ゆったりとしたナイト・ムードのグルーヴに身をゆだねられる一枚です。
Marcellus TheSinger "MUSIC THERAPY" Terence Daniels Jr no number (2023)
2023-11-08 00:00
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UK産無国籍アフリカン・ポップの伝統 オニパ [ブリテン諸島]

おぅ、新作はリアル・ワールドからだよ。
オニパ、出世したなあ。
パチモン・ジャケットのデビュー作から、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-02-02
ストラットに移って出したセカンド作は、宇宙へ飛び出してしまったと思いきや、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-30
リアル・ワールドにフックアップされた本作は、地球に帰還した印象。
アフロフューチャリズムに傾倒してエレクトロに振り切った前作とは趣向を変え、
パーカッションの生音を強調して、各種シンセとブレンドさせていますね。
フィン・ブースのドラムスも、前作より格段に存在感を増しています。
ジャケットも前作のアフロフューチャリスティックなデザインから、
ガーナの新進フォトグラファー、ローステッド・クウェクの写真を起用。
ローステッド・クウェク(本名アウク・ダルコ・サミュエル)は、
97年ガーナ、スフム生まれ。
K.O.G のソロ・デビュー作のジャケットも手掛けていた人です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-08-17
新時代のアフリカン・コンセプチュアル・フォトグラフをリードする才能で、
電話機を主題に据えたこの写真も、インスピレーションが素晴らしいですね。
バラフォン、ンビーラ、コラなどのアフリカの楽器音をまぶしつつ、
エレクトロなダンス・ミュージックに回収するというオニパのコンセプトは、
デビュー作から一貫しています。
今作はムーンチャイルド・サネリー、ダヴィッド・ウォルターズ、デレ・ソシミ、
テオン・クロスといったゲストを迎え、
洗練されたダンス・ポップにさらに磨きがかかっています。
ふと思ったんだけど、UK産無国籍アフリカン・ポップというコンセプトは、
オシビサ以来のUKポップの伝統なんでしょうかね。
Onipa "OFF THE GRID" Real World CDRW253 (2023)
2023-11-06 00:00
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表舞台にあがれど気分は裏方 スタッフ [北アメリカ]


70年代クロスオーヴァー/フュージョン・ブームの一時代を築いたバンド、スタッフは、
77年4月晴海で開催された「ローリング・ココナツ・レビュー・ジャパン」への
出演を皮切りに何度か来日しましたが、
いつもメンバーの誰かしら欠けて来ることがほとんどだったので、
メンバー全員揃ってやって来たのは、77年11月のツアーただ1度だけでした。
リチャード・ティーのピアノの魅力が前面に出た、
77年の “MORE STUFF” が出た直後の再来日で、
初の単独コンサート・ツアーでしたね。
その来日時にホテルニューオータニでやった記者会見にもぐりこんで、
メンバー全員のサインをいただいてきたんですけれど、
今となるとなかなかのレアものになった気がしますね。
本番のコンサートは19日に新宿厚生年金会館で観ましたが、
なんとその日のライヴ盤が2年前に出ていたとは、びっくり。
ブートレグじゃ、さすがに気付かないなあ。
ただそのコンサートは、正直あまり面白くなかった印象が残っています。
メンバー全員が椅子に座って、もくもくと演奏するばかりで、
あらためて彼らがスタジオ・ミュージシャンで、
本来が伴奏バンドなのだということを思い知らされました。
自分たちが主役として表舞台にあがっているのにもかかわらず、
ライヴ・パフォーマンスをするという意識がほとんどなくて、
その愛想のなさは取り付くシマのないものだったんです。
さらにえぇ?だったのが、
曲のエンディングがフェイド・アウトだったり、唐突に終わるところ。
エンディングのアレンジをしないのって、これ、手抜きつーか、あんまりじゃない?
大好きなリチャード・ティーのゴスペルゆずりのダイナミックなピアノや、
コーネル・デュプリーのテキサス・ギター、エリック・ゲイルのワン・アンド・オンリーの
チョーキング・ギターなど、メンバー各自の個性的なプレイは堪能できるんだけど、
ライヴらしい醍醐味なんてまるでなくて、なんとももやもやしたコンサートでした。
そのライヴを46年ぶりに今の耳で聴いたらどう感じるかという好奇心で、
めったに手を出さないブートCDを買ってみたんですが、
あれ?悪い記憶がウソのよう。すごくいい演奏してるじゃないですか。
視覚的要素抜きで音だけ聴いてみれば、アンサンブルもメンバーのプレイも極上です。
2枚組のブートCDは、ディスク1とディスク2の順が逆になっていますが、
コンサート前半がディスク2、後半がディスク1で、
当日の演奏をそのまま収録していると思われます。
コンサートの前半の曲がフェイド・アウトで終わったり、
無駄に長いジャムぽい演奏をするので、印象悪くしたようなんですが、
後半はゴードン・エドワーズのかけ声で、
スティーヴ・ガッドが長いドラムス・ソロを繰り広げたり、
ちゃんとライヴらしい見せ場も作っているんですよ。
若かったから、ライヴに厳しい目を向けすぎてたんだろうなあ、
百戦錬磨のプレイヤー揃いの演奏は、やはり悪かろうはずがないですね。
ただ椅子に座りっぱなしの愛想のなさは、彼らもその後反省したのか、
翌78年の来日コンサート(クリストファー・パーカーが欠)では立って演奏したらしく、
『ライヴ・スタッフ』では立ち姿で演奏している写真がジャケットになっていましたね。
[LP] Stuff "MORE STUFF" Warner Bros. BS3061 (1977)
Stuff "LIVE IN JAPAN 1977" After-Hours Products AH21-010
2023-11-04 00:00
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シカゴのビッグ・テナー フレッド・アンダーソン [北アメリカ]


フレッド・アンダーソン・カルテットの80年ライヴの未発表録音がお蔵出し!
2000年に発掘された時、VOL.1 と題されてはいたものの、
その後続編が出る気配はなく、
まさか23年も経ってから登場するとは予想だにしませんでした。
フレッド・アンダーソン。AACMの創立メンバーの一人で、
ぼくの大好きなシカゴ派フリー・ジャズのテナー・サックス奏者であります。
不遇の時代が長く、AACMのメンバーがヨーロッパに渡ってしまったあともシカゴに残り、
生活のための仕事のかたわらで、ひたすら練習に明け暮れていたという人です。
初のリーダー作を出したのは、78年メールス・ニュー・ジャズ・フェスティヴァル出演時の
ライヴだったのだから、遅咲きもいいところ。だけどそれ以後のイキオイが凄くて、
特に2000年以降、70歳過ぎてから老いてますます盛んにアルバムを出しました。
フレッドは2010年に81歳で亡くなりましたけれど、晩年のレコーディングでも
豪快なサックスのトーンにまったく衰えをみせなかったのは、驚異的でした。
あらためてフレッドの生年をチェックしてみたら、
1929年ルイジアナのモンロー生まれだったんですね。
なるほどあの豪放磊落なサックスのトーンは、
南部魂が注入されていたのかと、遅まきながらナットク。
で、ぼくが一番愛着のあるフレッドのアルバムが、
2000年に出た80年のミルウォーキーでのライヴ録音なのです。
トランペット奏者のビリー・ブリムフィールドとドラムスのハミッド・ドレイクは、
初リーダー作のメールスのライヴでも一緒だったメンバーです。
フレッド節としかいいようのない、大海のうねる大波のようなサックスは力強く、
実にナチュラルで、ギミックなし。フレッドの演奏は即興といってもクリシェが多くて、
フリー・ジャズと呼ぶのにためらいを覚えないわけでもないんですが、
フリー・インプロヴィゼーションでないフリー・ジャズもあるのだ、
と開き直るしかない見事な吹奏ぶりに、聴くたびに胸がスカッとするのです。
今回お目見えした第2集でも、それはまったく同じ。
御大フレッドの脂の乗り切った時期で、
テクニカルなインプロヴィゼーションを披露するビリー・ブリムフィールドとの
個性の違いをクッキリとみせていて、すごくいいバランスなんですね。
まだ二十代だったハミッド・ドレイクのしなやかで、当意即妙なドラムスもカンペキ。
ゲートフォールドの紙ジャケットのポートレイトも美麗で、飾っておきたくなりますね。
ずぅーっとこの音楽を聴いていたい、フレッド・アンダーソンのジャズであります。
Fred Anderson Quartet "THE MILWAUKEE TAPES, VOL.2" Corbett Vs. Dempsey CD101
Fred Anderson Quartet "THE MILWAUKEE TAPES VOL.1" Atavistic ALP204CD
2023-11-02 00:00
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作曲と即興の高度なバランス イリガール・クラウンズ [北アメリカ]

メアリー・ハルヴァーソンの近作では、
今年初めに聴いたサムスクリューが良かったけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-01-12
サムスクリューのドラマーのトマス・フジワラと
コルネット奏者のテイラー・ホー・バイナムに、
フランスの鬼才ブノワ・デルベックのピアノが加わったカルテット、
イリーガル・クラウンズの新作もいいですねえ。
メアリーとトマス・フジワラ、テイラー・ホー・バイナムの3人は、
アンソニー・ブラクストンの門下生で、
そこに現代音楽から即興音楽を学んだブノワ・デルベックが加わったことで、
アヴァンギャルドな楽曲に乾いた情感を送り込まれて、
映像的なサウンド・デザインを与えているように感じます。

メアリーとテイラーが戯れるような即興を繰り広げ、
アヴァンな音空間に遊びゴコロとエキゾティックなムードを満たして、
親しみやすさを生み出すところは、トマス・フジワラのトリプル・ダブルの新作
“MARCH” でもたびたび聴くことができましたけれど、
ブノワが加わったことで、グループの色彩感がぐっと増しましたね。
トマスのパーカッション的なドラミングに、
メアリーとテイラーがぴたりとラインを合わせていくパートなど、
息が合いすぎていて、即興なんだか作曲なのかわからなくなる場面も多数。
牧歌的なメロディに不穏なフィーリングが入り混じったり、
即興が複雑な色合いをつけていく、
作曲と即興のバランスの妙に驚嘆させられる作品です。
Illegal Crowns "UNCLOSING" Out Of Your Head OOYH020 (2023)
Tomas Fujiwara’s Triple Double "MARCH" Firehouse 12 FH12-04-01-035 (2022)
2023-10-31 00:00
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ポップなデザート・ブルース・バンド ティクバウィン [中東・マグレブ]

タマンラセットは、トゥアレグ人にとってアルジェリア側の中心都市。
そのタマンラセットを拠点にインターナショナルな活動をするバンドも、
数多くなってきましたね。
これまでもイムザード、トゥマスト・テネレ、イマルハンを紹介してきましたが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-08-30
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-07-28
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-05-16
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-02-24
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-12-02
ティクバウィンというバンドは、初めて知りました。
16年にアルジェリアでデビュー作を出していたようで、それは未聴ですが、
フランスからディストリビュートされた19年作を聴くことができました。
メンバーにドラムスがいることで、アンサンブルがタイトに引き締まっていて、
シャープなサウンドが気持ちいいこと、この上なしです。
歌手でギタリストのサイード・ベン・キラとホセイン・ダガーの二人が作曲していて、
耳残りするメロディを書けるのが強みですね。
イマルハンも曲づくりが巧みだったけれど、
親しみのあるキャッチーなメロディが耳残りします。
3・7曲目のレゲエもすごくこなれているんだよなあ。
ボンビーノが「トゥアレゲエ」と称して、よくレゲエをやるけれど、
トゥアレグ人バンドのレゲエでいいと思えたのは、ティクバウィンが初めてだな。
三人のギタリストの絡みも音色、フレージングとも絶妙の相性で、
遠景で砂漠の蜃気楼のような使い方をするスライド・ギターも効果的。
サイード・ベン・キラとホセイン・ダガーの二人の歌が若々しくフレッシュで、
十代のメンバーがいたトゥマスト・テネレを思い起こしました。
Tikoubaouine "AHANEY" Labalme Music no number (2019)
2023-10-29 00:00
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ルゾフォニアの多文化主義 ルーラ [西アフリカ]

15年作の “HERANÇA” 以来、すっかり音沙汰のなかったルーラ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-11-30
あのアルバムの1年後に娘が生まれ、離婚してシングル・マザーになるなど、
多難な私生活によって音楽活動から離れていたようです。
ポルトガルとカーボ・ヴェルデの二重国籍を持つ ルーラですが、
新作を『マルチカラー』と銘打ったのは、ルゾフォニアの立場から、
みずからのアイデンティティとして多文化主義を描こうとしたとのこと。
それを象徴するのが、アンゴラのジャーナリストで作家・詩人の
ジョゼー・エドゥアルド・アグアルーサが作詞した ‘Sou De Cá’ で、
この曲がタイトルの由来になったのだそうです。
長年所属したルサフリカから新たなレーベルに移籍して出した新作は、
サウンドが一変しましたね。
オープニングのベース・ミュージックばりの重低音ベースには、ビックリしましたよ。
8分の6拍子のバトゥクの手拍子にぶっといシンセ・ベースが絡むので、
思わずノケぞったものの、これがなかなか悪くない仕上り。
柔らかな生音サウンドのテクスチャだったこれまでとは、えらい違いなんですけれど。
サウンドの方向性を変えたとはいえ、
パーカッシヴなリズムを強調したサウンドづくりは、
カーボ・ヴェルデ音楽の多彩なリズムを生かす、従来の路線と変わりありませんね。
カーボ・ヴェルデ音楽の原点に回帰したルーラが、
再出発にあたり多文化主義を描くなかで、新しいアレンジャーを選んだ結果なのでしょう。
ディノ・ディサンティアゴが1曲アレンジし、
アンジェリーク・キジョがゲストで1曲歌っていますが、特にコメントする必要はないかな。
Lura "MULTICOLOR" Produtores Associados PA001CD (2023)
2023-10-27 00:00
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ルゾフォニア音楽生活四半世紀を駆け抜けて ドン・キカス [南部アフリカ]

7年ぶりに出たカリナ・ゴメスのアルバムを制作したのは、
カヴィ・ミュージックというレーベル。
国際市場で通用するジャケット・デザインや印刷のクオリティから、
ポルトガルのレーベルなのかと思ったら、
レーベル・アドレスの末尾に gw とあり、どうやらギネア=ビサウ盤のよう。
ポルトガルとルゾフォニア向けのラジオ局、
RDPアフリカのロゴがあるので、協賛を得ているのでしょうね。
カヴィ・ミュージックは、カリナ・ゴメスのほか
アンゴラのキゾンバ・シンガー、ドン・キカスの新作も出ていて、
このレーベルはルゾフォニアのアーティストと広く契約しているようですね。
ドン・キカスのアルバムは、前に11年作を取り上げましたけれど、
それ以来聴くひさしぶりのアルバムです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-10-21
ルゾフォニアで思い出しましたけど、ドン・キカスはマルチーニョ・ダーヴィラの
00年作 “LUSOFONIA” に参加していましたね。
キゾンバ100%の曲 ‘Hino Da Madrugada’ で、
マルチーニョを差し置きメインで歌っていました。
アンゴラ生まれ、ブラジル育ち、ポルトガルで音楽活動を開始したドン・キカスは、
まさしくルゾフォニアの音楽人生を歩んだ人といえます。
そのドンの新作 “LIVRE” は、カリナ・ゴメスのようなアフロビーツ色はなく、
キゾンバを中心に打ち込みと生音を絶妙にブレンドしたプロダクションで歌っています。
泣きのメロディに狂おしさをにじませるキゾンバの ‘Meu Paraíso’ ‘Basta’、
はつらつとしたズークの ‘Musa Benguela’、
ホーン・リフがキャッチーなセンバの ‘Numa Boa’ ではキレのある歌いっぷりを聞かせ、
いいシンガーだなあと思いますねえ。華がありますよ。
またゲストでは、
オランダで活躍するカーボ・ヴェルデ人シンガーのネルソン・フレイタスと、
アンゴラ在住のカーボ・ヴェルデ人歌手カルラ・モレーノという
二人の歌手を迎えていますが、このカルラ・モレーノというシンガーが素晴らしい。
ソロ作を期待したい人です。
アクースティックな音作りのトラックも、聴きごたえがあります。
生演奏によるセンバの ‘Bazuka’ ではアコーディオン、マリンバ、ハーモニカが大活躍。
また ‘Mamã Zungueira’ の初めと終わりのパートで、
ベルや太鼓がつっかかるような伝統リズムを繰り出すところも聴きもの。
このリズム名を知りたいな。
ドン・キカスはこのアルバムを出す2年前の20年に、
リスボンで音楽生活25周年記念のコンサートを開き、ボンガとティト・パリスという、
アンゴラとカーボ・ヴェルデの両ヴェテランがお祝いに駆け付けたとのこと。
ドン・キカスもすでにキゾンバのヴェテラン・シンガーですね。
Don Kikas "LIVRE" Kavi Music KAV00001/22 (2022)
2023-10-25 00:00
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アフロビーツに薫るギネア=ビサウのソダージ カリナ・ゴメス [西アフリカ]

14年に出たデビュー作ですっかり魅入られた、
ギネア=ビサウのシンガー・ソングライター、カリナ・ゴメス。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-10-02
おととしの9月24日、ギネア=ビサウの独立記念日に、
2作目がデジタル・リリースされたものの、フィジカルが出ている様子がなく
諦めていたんですけれど、CD出ていたんですねえ(大喜び)。
デビュー作はグンベーやマンジュアンダディなどのギネア=ビサウ音楽をベースに、
人力演奏のプロダクションでコンテンポラリーなサウンドを作っていましたが、
今作はエレクトロを多用したアフロビーツのサウンドに様変わり。
いまやアフロビーツは、ポルトガル語圏にも浸透するようになったのね。
がらっとサウンド・イメージは変わったものの、
胸に染み入るクレオール・ミュージック独特のせつないメロディを紡ぐ
カリナのしなやかな歌いぶりには、強く惹かれますねえ。
特に歌の上手いという人ではないんですけれど、
派手さのない落ち着いた歌いぶりで、
聴く者の耳を引き付けて放さない魅力のある人です。
アフロビーツの単調なビートをバックにしても、
カリナの歌い口からは複雑な色合いをみせる詩情が伝わってきて、
その美しさにクレオール・ミュージックの真髄を見る気がします。
そんなアフロビーツ・トラックのなかで異彩を放つのが、
ガーシュインの ‘Summertime’ 。
普段ならこういう凡庸な選曲に眉をひそめる当方ですが、このアレンジにはびっくり。
歌と伴奏のリズムを解体して、楽器のリズムをずらしたアレンジが超斬新。
アレンジしたのは、リスボンのプロデューサーで
フィリープ・スルヴァイヴァルという人だそうですけれど、スゴ腕だな。
この曲でカリナは、ティナという水太鼓を叩いています。
ラスト曲のタイトル ‘Sodadi’ とは、
カーボ・ヴェルデ・クレオールのソダージ ‘Sodade’ と同義の、
ギネア=ビサウ・クレオールでの綴りでしょうか。
そんなソダージ感あふれる乾いた哀感が美しいアルバムです。
Karyna Gomes "N’NA" Kavi Music KAV00001/21 (2021)
2023-10-23 00:00
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バック・トゥー・ザ・80ズ トーパティ [東南アジア]

去年の夏は暑さ疲れすることもあったけど、今年の夏は心身充実。
記録的な酷暑にもかかわらず、夏バテとは無縁で過ごせました。
それというのも、春から週2日在宅勤務するようになったのを機に、
朝夕2回の30分ウォーキングを45分に増やしたおかげ。
やっぱ汗をたっぷり流すと、気分爽快。身体が喜んでるのがよくわかります。
そんな今夏、汗をだっらだら流して歩きながらよく聴いていたのが、フュージョン。
ひさしく聴いてなかったユー=ナムの
“BACK FROM THE 80’S” を取り出してみたら、これがもうどハマリで、
酷暑ウォーキングの最高のBGMになってくれました。

クルセイダーズの ‘Street Life’、マイケル・ジャクソンの ‘I Can't Help It’、
ジョージ・ベンソンの ‘Turn Your Love Around’ のカヴァーなど、
懐かしすぎるナンバー目白押しのアルバムで、79年から80年代前半あたりの
リヴァイヴァル・サウンドにどっぷりつかっていたら、
まったく同じネライの新作に出会いました。
それがインドネシアのトップ・ギタリスト、トーパティの新作。
ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッションに、
サックス、トランペットの2管を擁した編成で、
キャッチーなホーン・リフからスタートするラテン歌謡調の ‘Maestro’ から、
気分は爆上がり。ギブソンのフルアコを使って、
CTI時代のジョージ・ベンソンを思わすギターを弾くトーパティ。
続くスラップ・ベースの利いたタイトル曲は、ジャズ・ファンク。
トーパティはフェンダーのストラトキャスターに持ち替え、
キレのいいリズム・ギターを弾きます。
スラップによるベース・ソロのあと、ロック的なギター・ソロを披露。
すごく短いソロなのに、強い印象を残すのは、ジェイ・グレイドンを思わせますね。
ミュート・トランペットが利いたジャジーな ‘Smooth Wave’ は、
トーパティもメロウなトーンで、オクターヴ奏法を駆使したプレイを聞かせます。
ハード・フュージョンの ‘Superhero’ は、リフがやたらめったらかっこいい曲。
こういうソングライティングは、トーパティが得意とするところで、
トーパティ・ブルティガでも発揮されていましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-12-13
ソリッドなギターも存分に暴れているけれど、トータルなサウンド作りが鮮やかです。
櫻井哲夫(ベース)と神保彰(ドラムス)のジンサクを思わすところもあるかな。
メンバーでもっとも光るのが、ドラムスのデマス・ナラワンガサ。
トーパティ・エスノミッションでも叩いていた人だけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-06-07
93年生まれ、ロス・アンジェルス音楽大学(LACM)卒業のキャリアの持ち主。
ロック・ギタリストのデワ・ブジャナほか、多くのミュージシャンから
共演の申し込み殺到というのがよくわかる、才能のある人ですね。
全6曲わずか26分28秒という短さは、
2枚組2時間超えのユー=ナムのアルバムと比べるとだいぶ物足りないんですが、
「バック・トゥー・ザ・80ズ」の気分が見事にシンクロします。
Tohpati "RETRO FUNK" Demajors no number (2023)
U-Nam "BACK FROM THE 80’S" SoulVibe Recordings SVCD01 (2007)
2023-10-21 00:00
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ハードコアなシャアビ・エレクトロニカ プラエド [中東・マグレブ]


エレクトロニカでシャアビをやるというユニークな二人組、プラエド。
新作を試聴してぶったまげ、前作と合わせてオーダーしました。
シャアビ・エレクトロニカと勝手に命名しちゃいましたけれど、
ひたすらループする催眠的なフレーズが
トランシーなサウンドスケープを繰り広げるプラエドは、
純度の高い即興音楽を繰り広げています。
ジャケットのチープなヴィジュアルがナカミの音楽とずいぶんかけ離れていて、
ソンしてるような気がしますけれど、サイケデリック・ロックとも
親和性のあるサウンドだから、こういうヴィジュアルにしてるのかなあ。
プラエドは、67年スイス、ベルン生まれのパエド・コンカと
79年レバノン、ベイルート生まれのラエド・ヤシンの二人組。
二人とも作曲家でエレクトロとサンプラーを扱いますが、
パエド・コンガはクラリネットとベースを
ラエド・ヤシンはシンセサイザーを演奏します。
パエド・コンカは、89年から音楽活動を始め、
演劇、映画、ダンス・パフォーマンスのための音楽を作曲して
数多くのプロジェクトに参加し、日本にもたびたび来日しているようです。
オランダのアヴァン・ロック・グループ、ブラストではベースをプレイしていました。
ラエド・ヤシンは、インスティテュート・オブ・ファイン・アーツの演劇科を卒業後、
世界各国のミュージアムやフェスティヴァルで作品を発表してきたというキャリアの持ち主。
プラエドとして19年に来日もしていて、JAZZ ART せんがわに出演しています。
なるほど、むしろお二人の音楽性は、実験音楽やアヴァン・ジャズに近いわけね。
19年作 “DOOMSDAY SURVIVAL KIT” 収録の4曲は、
17分33秒、6分5秒、11分42秒、15分26秒というサイズで、
リズムが一定のままでこの長さを飽かさずに聞かせるのは、
圧倒的な即興演奏の力ですね。
サンプリングされたダルブッカのビートなど、リズムはシャアビの伝統に忠実で、
延々と続くグルーヴにのせて繰り広げられるインプロヴィゼーションの集中力に、
惹きつけられます。
最新作 “KAF AFRIT” も19年作同様の内容。
バス・クラリネット兼テナー兼ソプラノ・サックス、キーボード、パーカッションの
アディショナル・ミュージシャンの顔触れも同じ。
電子音楽らしからぬ肉感的なグルーヴと前衛的な即興演奏が同居していて、
ハードコアなシャアビ・エレクトロニカを堪能できます。
Praed "DOOMSDAY SURVIVAL KIT" Akuphone AKUCD1011 (2019)
Praed "KAF AFRIT" Akuphone AKUCD1042 (2023)
2023-10-19 00:00
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コンゴ音楽の宝庫 ンゴマ [中部アフリカ]

いやぁ、さすがはンゴマ。コンゴ音楽の宝庫だということを、
イヤというほど思い知らされる、プラネット・イルンガ初のCD復刻盤であります。
3枚組CDは69曲収録、3枚組LPは42曲収録で、
それぞれに収録曲が異なるという、マニア泣かせの選曲は、
制作費捻出のための苦肉の策でしょうかね。
ンゴマのSP音源を復刻したCDといえば、なんといっても
ドイツのパン・アフリカン・ミュージックが96・97年に出した編集盤が決定版でした。
その後、深沢美樹さんが編集した 「EARLY CONGO MUSIC 1946-1962」
でもンゴマのSP録音が復刻されましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-07-28
こうした音源と重複しない選曲で、
3枚組というヴォリュームのコンピレーションを新たに制作しても、
残り物の印象をまったく与えないのは、
ひとえに2274枚ものSPをリリースしたというンゴマのカタログの豊かさゆえ。
4500曲以上もある音源から、今回のをも含めても
150曲程度が復刻されたにすぎないんだから、
これでも宝庫の片隅をかじったくらいなのかもしれないなあ。
その面白さは、ポピュラー音楽黎明期独特の雑多な音楽性を聞き取れることですね。
コンゴのルンバが完成されていく道のりは一本道でなく、
さまざまな試行錯誤の脇道があって、
パームワイン音楽の影響や周辺の民俗音楽、
ピグミーを連想させる笛の合奏まで聞けたりして、めちゃくちゃスリリングです。
古い音楽なのにすごくモダンな要素があって、オルガンや管楽器が
意表を突くアンサンブルのなかで奏でられたりする場面など、ゾクゾクします。
v.a. "THE SOUL OF CONGO –TREASURES OF THE NGOMA LABEL (1948-1963)"
Planet Ilunga PI10CD
2023-10-17 00:00
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悪を取り払うボボの葉っぱ仮面 ババ・コマンダント&ザ・マンディンゴ・バンド [西アフリカ]

おーぅ、ミシェル・ユエットの写真!
ババ・コマンダント&ザ・マンディンゴ・バンドの新作ジャケットは、
アフリカの写真集の古典的名作
“THE DANCE, ART AND RITUAL OF AFRICA” の写真から
切り抜いたものですね。
フランス人写真家ミシェル・ユエットのこの写真集は、
高校3年のぼくにアフリカ熱を決定づけた人生の一冊です。
オリジナルはフランスで出た “DANCES D'AFRIQUE” ですけど、
ぼくが買ったのは、アメリカで出版された78年の初版本。
日本橋丸善の洋書売り場で見つけて、強烈な衝撃を受けました。
何十年ぶりかで書棚から取り出したけれど、
この写真が載っているページは、目を閉じてたって開けられるよ(ウソです)。
ブルキナ・ファソの国名がオート・ヴォルタだった時代の、ボボ人の儀式を撮影したもの。
どういうわけだかジャケットは裏焼になっていますが、この全身を葉で覆われた仮面は、
乾季の終わりの農作業が再開される前に行われる、清めの儀式で登場します。


ドゥウォと呼ばれる葉っぱの仮面は、夕暮れ時に村にやってきて、
家々や小屋、村の人々をかすめながら、路地を歩き回ります。
仮面が歩くたびに揺れ動きざわめく葉っぱが、1年の間に蓄積されたすべての悪を
葉に吸収させ、村のすべての不純物を洗い取り、村からケガレを取り除きます。
ボボの創造神であるウロから遣わされたドゥウォは、
人間の過ちや罪といった悪を取り払い、人間と神を仲介する役割を果たします。
ボボの哲学では、人間の生存はドゥウォの恩恵を受けることにかかっていて、
その恩恵を受けるために人間は、
自らの傲慢を捨てなければならないと考えられています。
このボボの猟師結社ドンソに属しドンソ・ンゴニを操るのが、
ババ司令官ことママドゥ・サヌです。
15年のデビュー作のローファイぶりに快哉を叫び、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-04-18
アフロビートからドンソ・ンゴニ・ファンクへとシフトした18年の前作は、
ライヴ感たっぷりのサウンドで踊らせてくれました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-11-30
ばたばたとラフに連打されるドラムス、硬くきらびやかな音色のギター、
絡み合うドンソ・ンゴニとバラフォン、粘っこくうねるベース、
粗っぽいヴォーカルが生み出す泥臭さが、も~う、たまんない。
前作がちょっとサウンドが整理されすぎた感があったんですけど、
今作はデビュー作の粗野なエネルギーを取り戻しつつ、
アンサンブルがスケール・アップしていて、これまでの最高作になりましたね。
最後に、ジャケットにはアート・ディレクションとデザイン・レイアウトの
クレジットはあるけど、ミシェル・ユエットの写真借用に関する記載なし。
これ、アカンやろ。
Baba Commandant & The Mandingo Band "SONBONBELA" Sublime Frequencies SF121 (2023)
[Book] Michel Huet "THE DANCE, ART AND RITUAL OF AFRICA" Pantheon Books (1978)
2023-10-15 00:00
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マリの平和を願って イドリッサ・スマオロ [西アフリカ]

シュペール・ビトンやソロマン・ドゥンビアなどのリイシューから
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-11-26
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-03-07
新人のサヘル・ルーツのデビュー作までリリースしてきた、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-10-12
セグーに拠点を置くマンデ・ポップの新進レーベル、ミエルバから、
元アンバサドゥールのイドリッサ・スマオロの13年ぶりの新作が出ました。
13年ぶりといっても、本作は今から11年も前の12年にバマコで録音されたもの。
アマドゥ&マリアムの元プロデューサー兼マネージャー、
マルク=アントワーヌ “マルコ” モローのプロデュースでレコーディングされたものの、
マルコの突然の急逝で制作が頓挫してしまったのでした。
長い中断を経て、アマドゥ&マリアム・バンドのリズム・セクションを担った
イヴォ・アバディ(ドラムス)とヤオ・デンベレ(ベース、キーボード)が
新たに結成したアフロ・エレクトロ・ファンク・コレクティヴ、
クライマックス・オーケストラがアディショナル・レコーディングを行い、ついに完成。
ミックスとプロデュースもクライマックス・オーケストラが手がけています。
クライマックス・オーケストラと聞いて、ギンギラのエレクトロになったかと
心配する向きもありましょうが、大丈夫。エレクトロは完全封印。
スマオロの音楽にきちんと寄り添っていて、
ヤオ・デンベレのオルガンなど、とてもいいサポートをしています。
前作ではスマオロの音楽性の豊かさや、
コンポーザーとしての才能に目を見張りましたが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-08-30
今作はドンソ・ンゴニをベースとして、バンバラ色の強い仕上がり。
そこに、ラテンが香るいにしえのルンバ・コンゴレーズや北米ブルースなど、
スマオロらしいカラフルな音楽性が加わっています。
なによりスマオロの深みのある歌声が、いいじゃないですか。
力の抜けた自然体な歌いっぷりは、
ヴェーリャ・グァルダ級のサンビスタをホウフツさせます。
伸びやかな歌声や、語りかけるよう歌い口は、熟成の味わいそのものです。
タイトルのディレとは、トンブクトゥ州のニジェール川左岸にある町で、
スマオロがバマコの国立芸術学院を卒業後、
一般教育学研究所の音楽教師となって、赴任した場所だったそうです。
この地でスマオロは妻と出会い、長女が生まれるなど、たくさんの良い思い出を残しました。
美しいディレの街の記憶を呼び覚ますことは、困難な時期にある現在のマリにおいて、
平和への希望と人々の幸福を願う、スマオロからのメッセージになっているのですね。
ラスト・トラックで、アマドゥ&マリアムで知られる盲目のギタリスト、
アマドゥ・バガヨコが参加。
スマオロとアマドゥ・バガヨコは、アンバサドゥール時代のメンバー仲間で、
スマオロが80年代初めに視覚障碍者のバンドを結成し、
84年に英バーミンガム大学への奨学金を得て点字音楽学を学んだのも、
アマドゥ・バガヨコとの出会いが大きかったようです。
アマドゥのギターが入ると、キリッとしたバンバラ・ブルース・ロックに仕上がって、
聴きごたえがぐっと増しますねえ。
Idrissa Soumaoro "DIRÉ" Mieruba MRB-ML02-019 (2023)
2023-10-13 00:00
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カリブ海におけるポピュラー音楽誕生期の見取り図 [カリブ海]

カリブ海で商業録音が始まった20世紀初頭、
進取の気性に富んだレコーディング・チームは、
ハバナやサン・ファンといった港町で録音された都市の音楽ばかりでなく、
田舎を旅して民謡や民俗音楽を録音して、地元の客の好みを模索していました。
カリブの島々でレコードと蓄音機の新たな市場を開拓するべく、
さまざまなジャンルに手を伸ばしては、
市場や顧客の可能性を探って残された録音の数々。
それらをあえて未整理のまま並べることで、
商業録音黎明期にカリブ海で花開いていた音楽の多様性を示す、
ユニークな編集盤が出ました。
1曲目は、1907年にハバナで録音された、
マルティン・シルベイラによるバンドゥリア弾き語り(クラベス付き)。
マルティン・シルベイラは、キューバ西部の地方に伝わる
白人農民のスペイン系音楽プント・グァヒーラの音楽家。
マンドリンに似た12弦の弦楽器バンドゥリアにのせて、
デシマと呼ばれる即興詩をあやつり、風刺や自慢話、
時に相手をやりこめる侮辱も交え、その機転の利いた言葉使いで
人々を楽しませたといいます。
めったに聞くことのできないプント・グァヒーラがいきなり飛び出してきたので、
思わず前のめりになってしまったんですが、
続く2曲目の1910年にハバナで録音されたダンソーンにもびっくり。
19世紀半ばから続く由緒あるオルケスタで、
録音当時はパブロ・バレンズエラ管弦楽団を名乗り、白人黒人を問わず、
富裕層から庶民まで絶大な人気を誇った楽団だったといいます。
1914年にトリニダード島ポート・オヴ・スペインで録音された3曲目のカリンダも、
めちゃくちゃ貴重。バンブー・タンブー・バンドを伴奏に、
フレンチ・クレオール(パトワ)で歌われるカリンダなんて、初めて聞きました。
デューク・エリントンのバンドで ‘Caravan’ ‘Perdido’ などの名曲を作曲した、
マヌエル・ティゾール率いるサン・ファン市音楽隊の17年録音もレアなら、
トローバやソン、チャランガ・フランセーサの編成のダンソーン
ライオネル・ベラスコのラグタイム・ピアノ・ソロなど、
めちゃくちゃ貴重な録音がぎっしり収録。
歴史的価値の高さばかりでなく、音楽的に優れたトラック揃いで、
選曲者(クレジットがないけど誰?)の耳の確かさに感嘆します。
CDは14曲収録のLPヴァージョンにボーナス・トラック3曲が追加されていて、
そのうちの1曲はマリア・テレーサ・ベラの18年録音というのも、マニアには嬉しい。
ライナーの解説にこの3曲分のみ入っていないのは残念ですけれど、
カリブ海におけるポピュラー音楽誕生期の見取り図を示したといえる、
極上の編集盤です。
v.a. "¡CON PIANO, SUBLIME! : EARLY RECORDINGS FROM THE CARIBBEAN 1907-1921"
Magnificent Sounds MSR03
2023-10-11 00:00
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麗しき50年代インドネシア軽音楽 [東南アジア]


50年代インドネシアのSP音源をコンパイルしたCDといえば、
日本一のインドネシア音楽コレクター吉岡修さんの自主制作レーベル、
ポルカ・ドット・ディスクの独壇場でしたけれど、
東南アジアのレコード・ディガー、
馬場正道さんのコレクションCDが新たにお目見えしました。
馬場正道さんといえば、
『レコード・バイヤーズ・グラフィティ ヴァイナル・マニアの数奇な人生』
(ミズモトアキラ著、リットーミュージック、2011)をはじめ、常盤響との共著
『アジアのレコードデザイン集』(DU BOOKS、2013)など、さまざまな記事で
猟盤エピソードを楽しく読んできましたが、CDを作ったのはこれが初だそうです。
収録されたSP原盤は、
インドネシア独立後最初に設立されたレコード会社イラマを筆頭に、
国営レコード会社のロカナンタのほかムティアラやグンビーラなど、
50年代に次々と誕生したレーベルの数々。
地方の民謡にマンボ、チャチャチャなどのラテン・アレンジを施した曲から、
都会的で洗練された粋なラウンジー・ジャズまで、
50年代インドネシアのポピュラー音楽黎明期を飾るポップ・ソング、
計25曲が収録されています。
かつてポルカ・ドット・ディスクから出た『IRAMA LATIN』の続編ともいえる内容で、
奇しくも1曲目は『IRAMA LATIN』にも収録されていた、
オルケス・グマランの ‘Tak Tong Tong’。
ジャカルタに住むミナンカバウ人が53年に結成したグループで、
ミナンカバウ語で歌う地方語ソング、ラグ・ダエラの人気グループとして、
数多くのSPを残しています。
初期のオルケス・ムラユなど、まさにこの時代だからこそ聞ける
都会的で洗練された演奏は、エレガントかつ粋の極みで、
当時のインドネシアの音楽家たちの演奏水準の高さに、感じ入るほかありません。
50年代にジャズやラテンやハワイアンなどの洋楽を雑多に吸収していたのは、
日本も香港もマレイシアもタイも同様だったわけで、
その土地土地の軽音楽を生み出していきましたが、
とりわけインドネシアは独自の麗しい魅力にあふれ、
それがのちのポップ音楽への萌芽をもたらしたといえるのでしょうね。


ところで、この『KENANG KENANGAN』は出たばかりだというのに、
もうソールド・アウトになっているそうですけれど、もし買い逃した人で、
ポルカ・ドット・ディスクの諸作を聴いていない人がいたら、
こちらをオススメします。ジャズ編・ハワイアン編もあって、たっぷり楽しめますよ。
v.a. 「KENANG KENANGAN」 Serie Teorema SRTM0002
v.a. 「IRAMA LATIN: VINTAGE LATIN OF INDONESIA 1950S」 Polka Dot Disc CDR008
v.a. 「IRAMA JAZZ: INDONESIAN JAZZ OF THE 1950S」 Polka Dot Disc CDR006
v.a. 「IRAMA HAWAIIAN: VINTAGE HAWAIIAN OF INDONESIA 1950S」 Polka Dot Disc CDR007
2023-10-09 00:00
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ルイジアナ・クレオール語を取り戻す旅 コーリー・レデット・ザディコ [北アメリカ]

「ザディコ」をついに自分の名前に付け加えたコーリー・レデット。
前作で『コーリー・レデット・ザディコ』と題し、
原点回帰したザディコのアンバサダーとして、後進へと伝統を継承する
強い覚悟と意思を表明していましたが、
それをステージ・ネームにしたところに、並々ならぬ思いが伝わってきます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-07
前作からドラマーが交代し、リズム・ギターが増員され、
リバース・ブラス・バンド結成当初のトランペット奏者カーミット・ラフィンズに、
スウェーデンからニュー・オーリンズに移住したギタリスト、アンダース・オズボーン、
ザディコ・ドラマーのジャーメイン・ジャックがウォッシュボードでゲスト参加しています。
今回も痛快なグルーヴで押しまくる、ザディコ100%のアルバムです。
前作でもルイジアナ・クレオール語のクーリ=ヴィニで書いた
オリジナルを歌っていましたが、今作は全曲クーリ=ヴィニで歌うという徹底ぶり。
歌詞はコーリーとジョナサン・マイヤーズの二人が書いていますが、
コーリーとジョナサン、そしてベースのリー・アレン・ジーノの3人は、
それぞれ異なるクーリ=ヴィニを喋るのだそうで、コーリーはさまざまな
クーリ=ヴィニのヴァリエーションを学ぶことができたと語っています。
コーリーの今作最大のテーマは、自分たちルイジアナ・クレオールに
アイデンティティを与えてくれる言語、クーリ=ヴィニを取り戻すこと。
フランス語の動詞 ‘courir(走る)’ と ‘venir(来る)’ のクレオール語の発音に由来する
クーリ=ヴィニは、18世紀初頭のルイジアナ州で奴隷たちが
プランテーションの植民者たちと意思疎通するために、
奴隷たちの母語である西アフリカの言語とフランス語を融合させて生み出された言語です。
1900年代初頭になるとコーリーの生まれ故郷のテキサス州東部へと波及し、
コーリーは年老いた親戚たちがこの言葉で会話しているのを聞いて育ったのですね。
クーリ=ヴィニの衰退は、1803年のルイジアナ購入から始まりました。
アメリカ合衆国によってルイジアナ領土が買収され、
英語を話さない人々は新政府の言語と文化を学ばねばならず、
1812年の州制施行によってそのプレッシャーはさらに増し、
第一次世界大戦時には英語以外の言語を話すことは非国民とみなされて、
クーリ=ヴィニはさらなる打撃を受けたのでした。
教養のないクレオールやプア・ホワイトが話す劣った言語として蔑視されていた
クーリ=ヴィニのルネサンスは、ようやくここ10年で動き始めました。
伝統的に口承で伝えられてきた言語であったために長く文字化が困難で、
16年になってようやく『ルイジアナ・クレオール正書法ガイド』が
オンライン出版されましたが、それまではクーリ=ヴィニの
包括的なアプローチは存在しなかったといいます。
「音楽は僕の薬なんだ」と語るコーリーがアルバム・タイトルとした “MÉDIKAMEN” は、
かつてのカッサヴのヒット曲 ‘Zouk-La-Sé-Sel Médikamen Nou Ni’
(ズークはオレたちの唯一の薬)を想起せずにはおれませんね。
コリーが目指すクーリ=ヴィニのザディコは、ハイチやグアドループなど
フランス語圏のクレオール・グルーヴともシンクロしています。
Corey Ledet Zydeco "MÉDIKAMEN" Nouveau Electric NER1025 (2023)
2023-10-07 00:00
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リアル・ブルースの現場から アラバマ・マイク [北アメリカ]

うぉ~ぅ、こいつぁゴッキゲンだ! これぞリアル・ブルーズン・ソウル。
64年アラバマ州都タラデガ生まれのアラバマ・マイクこと、
マイケル・A・ベンジャミンの新作。
アラバマ・マイクのCDは手にしたことはあれど、ちゃんと聴いたのはこれが初めて。
興味を持ったのは、リリース元が昨年出たブルース・アルバムの大傑作、
ダイユーナ・グリーンリーフと同じリトル・ヴィレッジだったからなんだけど、
予感は大当たり。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-07-22
プロデュースがダイユーナ・グリーンリーフのアルバムと同じキッド・アンダーセンで、
バックが豪華なんですよ。レジェンド・ベーシストのジェリー・ジェモットに、
デリック・マーティンのドラムス、ジム・ピューのキーボードと大ヴェテランを揃え、
ギタリストもキッド・アンダーセン筆頭に、アンスン・ファンダーバーグ、ボビー・ヤング、
ラスティ・ジンと4人の顔触れが並びます。
そこに、サザン・ソウル・マナーのホーン・セクションや
ストリングス・セクションも付くのだから、
スタックス/ハイ・サウンドの南部音楽の伝統は、
いまなお生きていますねえ。なんと誇らしいことでしょうか。
ラスト2曲がライヴで、
ミシシッピの綴りを観客とコール・アンド・レスポンスするサン・ホセのライヴに、
ゴスペル・フィールのソウル・バラードのスイス・ライヴとも、すさまじい熱狂ぶり。
マイクが観客に語りかけ、観客が応える、熱っぽいやりとりのナマナマしさは、
これぞソウル・トゥ・ソウルの魂の交歓。ソウル・ショウの醍醐味、ここにありですね。
あらためてリトル・ヴィレッジというレーベル、どんなレーベルなのかと調べたら、
録音に恵まれないアーティストを支援する、
非営利のファンデーションによるレーベルなんですね。
だから大手の流通にのらず、ショップにも卸されていないのか。
利益は全額アーティストに還元して、寄付金のみで運営しているとのこと。
熟成された音楽を、その音楽が息づく現場の環境を最善な状態に
コントロールできれば、これほどの素晴らしいブルース・アルバムができるのだから、
ロック・ファン向けのお化粧や加工なんてのが、いかに愚かしいかわかろうというもの。
バディ・ガイの近作に夢中になれる人には、通じない話だとは思うけれども。
Alabama Mike "STUFF I’VE BEEN THROUGH" Little Village LVF1053 (2023)
2023-10-05 00:00
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オトナが聴く子守歌 メレディス・ダンブロッシオ [北アメリカ]


メレディス・ダンブロッシオ。
その名を口にするだけで胸の奥がツンとなる、
ぼくにはかけがえのない人。そんな歌手、そうそうはいません。
ピアノの弾き語りで、古いスタンダード・ナンバーを歌う人です。
ジャンルでいうなら、ジャズ・ヴォーカルになるのでしょうが、
どうもこの人の音楽を「ジャズ」と呼ぶのは、
座りの悪い感じがするんですよね。
メレディスの自己表現をしない、自意識を捨てたその歌に殉じる姿勢は、
古謡や民謡を歌うトラッド/フォーク・シンガーに近いものがあります。
あまり知られていない曲を多く取り上げ、ヴァースから丁寧に歌うのも、
古老から歌を採集して歌うフォーク・シンガーの作法に似ています。
80年に出たメレディスのデビュー作は、静かなる衝撃でした。
茶1色に白抜き文字だけのそっけないジャケットは、
いかにも自主制作といった装丁で、
およそ女性ヴォーカル・ファンの関心を呼ぶものではなかったからです。
この当時の女性ジャズ・ヴォーカルといったら、中高年オヤジが、
昔のレア盤だの美人ジャケだのをほじくり返していたジャンルでしたからねえ。
そもそも20代前半の若造が聴くような音楽じゃなかったんですが、
当時のパンクやニュー・ウェイヴに背を向けてた自分にとっては、
こちらの世界の方が好ましく、無名の新人の超地味なジャケットは、
女性ヴォーカル・マニアのオヤジたちを相手にせず、
耳のある音楽ファンだけをトリコにする風情があって、夢中にさせられました。
メレディスの落ち着いた声質と温かな歌声には、抗しがたい磁力があります。
胸の奥底に沈殿していくような歌声は、一度聴いたらもう離れられません。
歌詞世界に没入するような歌でもありながら、その世界に拘泥することなく、
どこかさっぱりとしていて、すがすがしい。そんな歌いぶりがすごくいいんです。
ハートウォーミングなメレディスの歌は、オトナが聴く子守歌のようです。
80年のデビュー作は、メレディスのピアノ弾き語りを軸に、
曲によってベース、ドラムス、ギターがわずかに加わりますが、
81年の “ANOTHER TIME” はメレディス一人の弾き語り。
どちらも完全に歌だけを聞かせる作りで、ソロ演奏などはまったくありません。
この2枚に魂抜かれて、生涯の宝物となりました。
このあとメレディスは、フィル・ウッズやハンク・ジョーンズが参加した
82年のパロ・アルト・ジャズ盤でジャズ・シーンで一定の評価を得るんですが、
ぼくがお付き合いするアルバムはこの1・2作のみ。
ひさしぶりに聴き直して感極まってしまって、そういえばその後を知らないままだったので、
ちょっと調べてみたら、80を過ぎた今も、新作を出し続けているんですね。
お話戻して、この2作とものちにサニーサイドがCD化しましたが、
デビュー作の方はジャケットが差し替えられました。
せっかくだからここでは、懐かしいLPの方の写真を挙げておきましょう。
[LP] Meredith D'Ambrosio "LOST IN HIS ARMS" Spring SPR1980 (1980)
Meredith D'Ambrosio "ANOTHER TIME" Sunnyside SSC1017D (1981)
2023-10-03 00:00
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