SSブログ
東南アジア ブログトップ
前の30件 | -

初期ラム・プルーンのグルーヴ ピムチャイ、プアンパカ、ジャムナパ・ペットパラーンチャイ [東南アジア]

Phimchai, Puangpaga, Jeamnapa Phetphalancai  3 PALANG SAO, SAO ISAN ARLAI.jpg

ピムチャイ・ペットパラーンチャイが三姉妹で歌っていた時代の音源集。
いや~、ため息が出ました。
あらためてピムチャイって、スゴイ歌手だったんだなあと再認識させられましたよ。
ピンとしたハイ・トーンの発声でメリスマを炸裂させるノドの強さといったら!
その強靭な歌い回しにノック・アウトをくらいました。

Phimchai Phetphalancai  KAO NORK NAR.jpg   Phimchai Phetphalancai  SAR ITAH PIKART.jpg

ピムチャイ・ペットパラーンチャイは、
クルーンタイが編集したCD2枚を聴いていましたけれど、
こちらはサックスやキーボード入りのポップ化したモーラムで、
録音時期に幅があるものの、いずれも80年代に入ってからの録音でした。

しかし今回手に入れたのは、それよりももっと以前の70年代とおぼしき録音で、
ケーンとピン、そしてリズム・セクションがミニマルなグルーヴを生み出す
ラム・プルーン18曲を、た~っぷり味わえます。

西洋楽器が増えてルークトゥン化する以前の、
ラム・プルーン時代のシンプルなサウンドは、ぼくの大好物。
伴奏がシンプルなだけに、モーラム歌いの実力がものをいうので、
コブシ回しの技巧に酔いしれるには、またとないスタイルだからです。

ピムチャイはのちにダオ・バートンとデュエットして大ブレイクしますけれど、
70年代後半から80年代にかけてヒットしたという、
モーラム三姉妹ペットパラーンチャイ時代の録音は初めて聴きました。
ジャケット中央に映るのがピムチャイで、プアンパカ、ジャムナパの二姉妹とは
顔立ちがぜんぜん違いますね。ピムチャイが母親似で、あとの二姉妹が父親似かな。

3姉妹がかわるがわる歌っていて、どの曲を誰が歌っているのかわからないんですが、
声が明るく、いちばんハリのある声がピムチャイじゃないかな。
プアンパカ、ジャムナパ両名も声の強さは天下一品で、
コブシ回しが粗っぽくて、ピムチャイよりワイルドですね。
うねりまくるベースがグルーヴを巻き起こすラム・プルーンが、
イサーン庶民に圧倒支持されたのも、ナットクの逸品です。

Phimchai, Puangpaga, Jeamnapa Phetphalancai "3 PALANG SAO, SAO ISAN ARLAI" Lepso Studio LPSCD42A30
Phimchai Phetphalancai "KAO NORK NAR" Krung Thai 100KTD-P047
Phimchai Phetphalancai "SAR ITAH PIKART" Krung Thai 100KTD-P048
コメント(0) 

リクリエイトされる50年代 デレディア [東南アジア]

Deredia  BIANGLALA.jpg

いやー、楽しい。この洒脱さ、たまりませんね。
洋楽を受容した50年代のインドネシアのポップスを、
今に蘇らせる5人組のデレディア。

レス・ポール&メリー・フォードに影響を受けたと自称するとおり、
レトロ狙いのバンドではあるんですけれど、
50年代の音楽を参照しつつ、サウンド・センスはまぎれもなく
21世紀仕様になっているところが、いいんです。

スノッブ臭なんて皆無。サブカル・マニア的なイヤミもなくって、
素直に自分たちの好きな音楽を追求しているさまがすがすがしい。
前作 “BUNGA&MILES” は、
1枚目がインドネシア語で歌った50年代インドネシアのポップ路線、
2枚目が英語で歌ったロカビリーでしたけれど、
新作は1枚目の路線を推し進めたもの。

全7曲20分38秒の本作は物語となっていて、
50年代のインドネシアを舞台に、ラティという主人公が
思春期から結婚するまでの道のりを、家族や友人とのエピソードや、
オランダとの独立戦争に従軍していた
元外国兵とのラヴ・ストーリーを交えながら描いているそうです。
歌手のルイーズ・モニク・シタンガンが作詞をしていて、
ルイーズの家族の実話からインスピレーションを得たとのこと。

フォックストロット調の明るく、解放的な気分いっぱいのオープニングから、
独立戦争が終結して、インドネシアに真の独立が達成された時代を
ホウフツさせるメロディーが続きます。
粋なスウィング・ジャズに優雅なワルツなど、
コロニアル時代に吸収した洋楽センスが次々と再現されていきます。

サウンドが現代的になっているのはミックスの感覚が新しいからで、
それがデレディアの演奏をフレッシュに響かせていますね。
シニカルにならず、てらいのない素直さが伝わってくる演奏がいい。
ルイーズの歌がとても魅力的で、
はっちゃけた痛快な歌いぶりを聞かせるかと思えば、
カラッとしたべたつかない情感を表すスローと、多彩な表情をみせています。

ジャケットがスリーヴ・ケース仕様の凝った作りで、
歌詞カードのミニ・ブックレットもめちゃくちゃカワイイ。
アートワークのデザイン・センスや色使いもとてもよくって、
フィジカルの愉しみを満喫させてくれます。

Deredia "BIANGLALA" Demajors no number (2023)
コメント(0) 

心が整う音楽 カントゥルム・ドンマン [東南アジア]

Kantrum Dongman  NORTHERN KHMER SPIRIT MUSIC IN THAILAND.jpg

ヨガを終えた後にも似た、心と呼吸が整うアルバム。
その音楽は、タイ東北部スリン県、スリサケット県、ブリーラム県、
ウボンラーチャターニー県に暮らすクメール人が伝えてきた儀礼音楽のカントゥルム。

クメール人の国カンボジアで、
クメール・ルージュの弾圧によって滅ぼされたカントゥルムのもっとも古いスタイルが、
タイでわずか140万人の少数民族のクメール人によって継承されてきたんですね。
タイのクメール人は、6世紀のチェンラ王国にさかのぼる
初期のクメール国家を築いた人々の末裔といわれています。

カントゥルムといえば、80年代半ばにカントゥルム・ロックで旋風を巻き起こした
タイのダーキーがまっさきに思い浮かびますけれど、ダーキーがやっていたのは、
カントゥルムをエレクトリック化して、ぐっと現代化したカントゥルム・プラユック。
それに対してここで聞かれるのは、
もっとも古く伝統的なカントゥルム・ボランと呼ばれるもので、
祖先の霊を招き、生者を癒し、祝福するために演奏される音楽で、
アニミズムの色彩の強い儀礼音楽です。

カントゥルム・ドンマンは、スリン県ドンマン村出身の老若7人のグループ。
ダブル・リードの笛、胡弓が奏でるメロディーに合わせて、
歌い手がコブシをたっぷりと利かせながら歌い、
その合間を縫うように、ゆったりとおおらかなリズムで太鼓が打たれます。
場を清めるような清廉さのある音楽で、ゆるやかなリズムは、
聴き手の緊張を解きほぐし、心を落ち着かせる効能があります。

はじまりの2曲は、ワイ・クルと呼ばれる儀式の始まりに演奏される曲だそうで、
3曲目から大小のシンバルが加わり、テンポも少し早められて
華やいだ雰囲気が醸し出され、リズムにも変化が表われてきます。
歌い手を囃すかけ声がかけられて、踊りのための曲のようです。

リズムがまるっこくて、これほど柔らかなグルーヴというのも、
めったに味わえるもんじゃないですね。
曲ごとにヴァリエーションのあるリズムが聞き取れ、
こうした音楽にありがちな単調さはまったくありません。

そしてこのCD、録音がすごく良いんです。
太鼓の低音がよく録れていて、腹にズンとくる響きと、
空を舞う歌と胡弓のレイヤーは臨場感たっぷりで、
目の前で演奏されているかのよう。
正月三が日、すっかりわが家のBGMとなって楽しませてもらいました。
心が整うカントゥルム、これは愛聴盤になりそうです。

Kantrum Dongman "NORTHERN KHMER SPIRIT MUSIC IN THAILAND" Animist ANIMIST010 (2022)
コメント(0) 

バック・トゥー・ザ・80ズ トーパティ [東南アジア]

Tohpati  Retro Funk.jpg

去年の夏は暑さ疲れすることもあったけど、今年の夏は心身充実。
記録的な酷暑にもかかわらず、夏バテとは無縁で過ごせました。
それというのも、春から週2日在宅勤務するようになったのを機に、
朝夕2回の30分ウォーキングを45分に増やしたおかげ。
やっぱ汗をたっぷり流すと、気分爽快。身体が喜んでるのがよくわかります。

そんな今夏、汗をだっらだら流して歩きながらよく聴いていたのが、フュージョン。
ひさしく聴いてなかったユー=ナムの
“BACK FROM THE 80’S” を取り出してみたら、これがもうどハマリで、
酷暑ウォーキングの最高のBGMになってくれました。

U-Nam  BACK FROM THE 80’S.jpg

クルセイダーズの ‘Street Life’、マイケル・ジャクソンの ‘I Can't Help It’、
ジョージ・ベンソンの ‘Turn Your Love Around’ のカヴァーなど、
懐かしすぎるナンバー目白押しのアルバムで、79年から80年代前半あたりの
リヴァイヴァル・サウンドにどっぷりつかっていたら、
まったく同じネライの新作に出会いました。

それがインドネシアのトップ・ギタリスト、トーパティの新作。
ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッションに、
サックス、トランペットの2管を擁した編成で、
キャッチーなホーン・リフからスタートするラテン歌謡調の ‘Maestro’ から、
気分は爆上がり。ギブソンのフルアコを使って、
CTI時代のジョージ・ベンソンを思わすギターを弾くトーパティ。

続くスラップ・ベースの利いたタイトル曲は、ジャズ・ファンク。
トーパティはフェンダーのストラトキャスターに持ち替え、
キレのいいリズム・ギターを弾きます。
スラップによるベース・ソロのあと、ロック的なギター・ソロを披露。
すごく短いソロなのに、強い印象を残すのは、ジェイ・グレイドンを思わせますね。

ミュート・トランペットが利いたジャジーな ‘Smooth Wave’ は、
トーパティもメロウなトーンで、オクターヴ奏法を駆使したプレイを聞かせます。
ハード・フュージョンの ‘Superhero’ は、リフがやたらめったらかっこいい曲。
こういうソングライティングは、トーパティが得意とするところで、
トーパティ・ブルティガでも発揮されていましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-12-13
ソリッドなギターも存分に暴れているけれど、トータルなサウンド作りが鮮やかです。
櫻井哲夫(ベース)と神保彰(ドラムス)のジンサクを思わすところもあるかな。

メンバーでもっとも光るのが、ドラムスのデマス・ナラワンガサ。
トーパティ・エスノミッションでも叩いていた人だけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-06-07
93年生まれ、ロス・アンジェルス音楽大学(LACM)卒業のキャリアの持ち主。
ロック・ギタリストのデワ・ブジャナほか、多くのミュージシャンから
共演の申し込み殺到というのがよくわかる、才能のある人ですね。

全6曲わずか26分28秒という短さは、
2枚組2時間超えのユー=ナムのアルバムと比べるとだいぶ物足りないんですが、
「バック・トゥー・ザ・80ズ」の気分が見事にシンクロします。

Tohpati "RETRO FUNK" Demajors no number (2023)
U-Nam "BACK FROM THE 80’S" SoulVibe Recordings SVCD01 (2007)
コメント(0) 

麗しき50年代インドネシア軽音楽 [東南アジア]

KENANG KENANGAN.jpg   IRAMA LATIN.jpg

50年代インドネシアのSP音源をコンパイルしたCDといえば、
日本一のインドネシア音楽コレクター吉岡修さんの自主制作レーベル、
ポルカ・ドット・ディスクの独壇場でしたけれど、
東南アジアのレコード・ディガー、
馬場正道さんのコレクションCDが新たにお目見えしました。

馬場正道さんといえば、
『レコード・バイヤーズ・グラフィティ ヴァイナル・マニアの数奇な人生』
(ミズモトアキラ著、リットーミュージック、2011)をはじめ、常盤響との共著
『アジアのレコードデザイン集』(DU BOOKS、2013)など、さまざまな記事で
猟盤エピソードを楽しく読んできましたが、CDを作ったのはこれが初だそうです。

収録されたSP原盤は、
インドネシア独立後最初に設立されたレコード会社イラマを筆頭に、
国営レコード会社のロカナンタのほかムティアラやグンビーラなど、
50年代に次々と誕生したレーベルの数々。

地方の民謡にマンボ、チャチャチャなどのラテン・アレンジを施した曲から、
都会的で洗練された粋なラウンジー・ジャズまで、
50年代インドネシアのポピュラー音楽黎明期を飾るポップ・ソング、
計25曲が収録されています。

かつてポルカ・ドット・ディスクから出た『IRAMA LATIN』の続編ともいえる内容で、
奇しくも1曲目は『IRAMA LATIN』にも収録されていた、
オルケス・グマランの ‘Tak Tong Tong’。
ジャカルタに住むミナンカバウ人が53年に結成したグループで、
ミナンカバウ語で歌う地方語ソング、ラグ・ダエラの人気グループとして、
数多くのSPを残しています。

初期のオルケス・ムラユなど、まさにこの時代だからこそ聞ける
都会的で洗練された演奏は、エレガントかつ粋の極みで、
当時のインドネシアの音楽家たちの演奏水準の高さに、感じ入るほかありません。
50年代にジャズやラテンやハワイアンなどの洋楽を雑多に吸収していたのは、
日本も香港もマレイシアもタイも同様だったわけで、
その土地土地の軽音楽を生み出していきましたが、
とりわけインドネシアは独自の麗しい魅力にあふれ、
それがのちのポップ音楽への萌芽をもたらしたといえるのでしょうね。

IRAMA JAZZ.jpg   IRAMA HAWAIIAN.jpg

ところで、この『KENANG KENANGAN』は出たばかりだというのに、
もうソールド・アウトになっているそうですけれど、もし買い逃した人で、
ポルカ・ドット・ディスクの諸作を聴いていない人がいたら、
こちらをオススメします。ジャズ編・ハワイアン編もあって、たっぷり楽しめますよ。

v.a. 「KENANG KENANGAN」 Serie Teorema SRTM0002
v.a. 「IRAMA LATIN: VINTAGE LATIN OF INDONESIA 1950S」 Polka Dot Disc CDR008
v.a. 「IRAMA JAZZ: INDONESIAN JAZZ OF THE 1950S」 Polka Dot Disc CDR006
v.a. 「IRAMA HAWAIIAN: VINTAGE HAWAIIAN OF INDONESIA 1950S」 Polka Dot Disc CDR007
コメント(0) 

歌い上げない美学 シティ・ヌールハリザ [東南アジア]

Dato’ Siti Nurhaliza  SITISM.jpg

ダヤン・ヌールファイザの新作で、
ひさしぶりにマレイ伝統歌謡の素晴らしさを堪能していたところ、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-17
さらに決定打といえるマレイ・ポップの最高作が登場しました。
誰あろう、シティ・ヌールハリザのぴかぴかの新作であります!
デジタル配信された8曲に、4曲を加えたデラックス・アルバムとしてリリースされ、
これはぜったいCDを買わなきゃ、ダメなやつでしょう。

21年の前作 “LEGASI” は、子供向けの企画アルバムだったので、
ポップ作は “MANIFESTA SITI 2020” から3年ぶり。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-09-16
バラードを中心に、ラッパーをフィーチャーしたナンバーや、
ポップ・ムラユもあるという、手を変え品を変えのレパートリーとなっています。
ダヤン・ヌールファイザの制作でコネクションができたのか、
本作にもブダペスト・スコアリング交響楽団が3曲で参加しています。

やっぱり聴きものは、バラードですねえ。
小さく歌っていても、横隔膜が良く開いて、
十分出せる発声をあえて抑制しながら歌うところに、シティの真骨頂が表われています。

呼吸の使い方が鮮やかで、ときに鼻から息を抜きながら歌うのを織り交ぜながら、
自在に発声の表情を変えていくのは、技巧を駆使して意識的にやっているのではなく、
歌詞に合わせた表現として、自然に振舞った結果の歌いぶりなのですね。
こういうところに、シティの歌のとてつもない上手さ、天才ぶりが示されています。

ソッと静かに歌う唱法のなかで、さまざまな技巧を示しながら、
ここぞという歌い上げそうな場面でも、
あえて歌い上げない抑制の利いた歌いぶりは、もはや美学といっていいでしょうね。
ドラマティックな曲では、もちろん歌い上げるパートもあるんですが、
ぜんぜんシツコくならないし、必要最低限の表現だから、押しつけがましさもありません。
3曲目の ‘Sehebat Matahari’ の歌唱なんて、神が降臨しているとしか思えません。

これほどまでに歌い上げない美学は、間違いなくシティの人柄からくるものですね。
控えめな人柄や我を通さない欲のない性格は、芸能人としては弱点なのではないかと、
かつてのスリア時代に感じたものですけれど、今となってはそうでなかったとわかります。
それがシティの美学であり、
タイトルが示す「シティのイズム」、すなわち「シティ主義」だったのですね。

Dato’ Siti Nurhaliza "SITISM" Siti Nurhaliza Productions/Universal 5840000 (2023)
コメント(0) 

世界的な交響楽団と再構築したマレイ伝統歌謡 ダヤン・ヌールファイザ [東南アジア]

Dayang Nurfaizah  BELAGU II.jpg   Dayang Nurfaizah  BELAGU II  back.jpg

マレイシアから伝統歌謡が聞こえなくなって、はや10年。
ポップとR&Bばかりになってしまって、
自分の視界からすっかり消えてしまっていたマレイシアですけれど、
目を見開かされるゴージャスな伝統歌謡作が登場しました。

それがなんとマレイシアのR&Bシンガー、
ダヤン・ヌールファイザの新作なのだから、オドロキです。
81年サラワク州都クチン生まれのダヤン・ヌールファイザは、
99年のデビュー以来、マレイシアのポップ/R&Bシーンで最高の人気を誇り、
02年はマレイシアのレコード大賞AIMで最優秀楽曲賞を受賞し、
00年代のトップ・セールスの記録を樹立した大スター。

とはいえ、当方その時代のCDを1枚も買っておらず、
名前を知るだけの人だったんですが、
21年に初のマレイ伝統歌謡アルバムを制作したことで注目するようになりました。
1500部限定のCDを買いそびれている間に、その続編が出てしまったんですが、
この続編がとてつもなく絢爛豪華なレコーディング。

マレイシアのミュージシャンとともにハンガリーのブダペストへ赴き、
ブダペスト・スコアリング交響楽団と共演したんですね。
たった2日間のレコーディングで
全9曲を仕上げたというのだから、これぞプロフェッショナル。
プロデュースとアレンジは、前作同様ピアニストのオーブリー・スウィトが務めていて、
制作チームによる事前準備やリハーサルを抜かりなくやったのでしょうね。

ブダペスト・スコアリング交響楽団のマエストロ、ペテル・イレーニが
マレイ伝統歌謡の解釈に心を砕いたという発言からも、
相互理解がコラボレーションの成功を生み出したことがよく伝わってきます。
レパートリーは、P・ラムリー作の3曲に、アフマド・シャリフ、アフマド・ジャイスほか、
オーブリー・スウィト作の新曲も1曲用意されています。

ダヤン・ヌールファイザの丁寧な歌唱ぶりが、見事です。
アスリ、ジョゲット、ザッピンといった伝統歌謡に求められる表現力は十分で、
情感の込め方や繊細なコブシ使いの技量も確かですねえ。
‘Ketipang Payung’ のチャーミングさなんて、
往年のサローマをホウフツさせるようじゃないですか。

フォトブック形式でリヴァーシブル装丁の特殊仕様ジャケットには、
サラワクの伝統的な刺繍で頭から肩を覆うベールの
ケリンガム keringkam をまとったヌールのポートレートのほか、
ブダペストの観光スポットで撮られたフォト・セッションに、
ブダペスト・スコアリング交響楽団との録音風景など、
多数の写真が収められています。

最初このアルバムを聴いたとき、まっさきにウクライナ国立管弦楽団の伴奏で歌った
ヒバ・タワジの14年作 “YA HABIBI” を思い浮かべましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-11-29
この衝撃は、あのアルバム以上かな。
心がほっこりするラストの余韻まで、今年最高のアルバムです。

Dayang Nurfaizah "BELAGU II" DN & AD Entertaintment no number (2023)
コメント(0) 

驚嘆のジャズ・コンポジション シマックダイアローグ [東南アジア]

SimakDialog  GONG.jpg

インドネシアのジャズのレヴェルの高さに圧倒された一作。

13年までトーパティが在籍していた、シマックダイアローグ。
トーパティがいた頃は、エレクトリック・ジャズとガムランを融合させた、
プログレッシヴなジャズ・ロックをやっていたんですけれど、
当時はあまり評価できなかったんですよねえ。

こうした方向の音楽性では、トーパティ・エスノミッションが
圧倒的な完成度を披露していたので、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-06-07
シマックダイアローグはその域に到達できなかったバンドと、ずっと思っていたんです。
まさかこんなにガラリと音楽性が変わっていたとは、知りませんでした。
19年の本作は、ピアノ、ベース、クンダンに女性のヴォイスが絡む、
アクースティックなジャズを演奏しています。

本作はタイトルが示すとおり、「ゴング1」「ゴング2」「ゴング3」「ゴング4」と
題された4曲が冒頭に収録されています。
どの曲も、具象と抽象を行き来するような構成を持った長尺のコンポジションで、
独特な場面展開をするフリー・フォームな音楽世界に引き込まれます。
なんでも、リーダーのピアニスト、リザ・アルシャドがゴングとガムランの倍音を解析して、
ゴングとガムランのハーモニーの対話を、コンポジジョンに落とし込んだとのこと。
それだけの説明では、リザが目指した音楽性を理解することは難しいんですが、
透徹した美学に基づかれて作曲されていることだけは、しっかり伝わってきます。

本作のレコーディング中の17年に、リザ・アルシャドが心臓発作で急逝してしまい、
3曲が完成したところで中断を余儀なくされたそう。
2年のブランクを経て、リザの遺志を引き継いで、
残りの4曲をスリ・ハヌラガがピアノを弾き、19年にアルバムを完成させました。
リザ・アルシャドが弾いたのは、M1・4・6、
スリ・ハヌラガが弾いたのはM2・3・5・7ですが、
両者のピアノの違いが意識される場面はなく、徹頭徹尾耳残りするのは、
リザのインテレクチュアルなコンポジションの鮮やかさですね。

静謐な音世界にミアン・ティアラのヴォイスが絡むと、
リリカルな温かみが音楽に滲んでいって、美しさがいっそう増します。
タチアーナ・パーラとヴァルダン・オヴセピアンあたりが好きな人にも、刺さりそう。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-03-27
あえて不満をいうなら、クンダンのプレイが、ぱっとしないことかなあ。
スンダにはクンダンの名手が大勢いるので、こうした高度な音楽に対応できて、
即興できる人が、もっとほかにいるんじゃないかな。

アクースティックになったシマックダイアローグは、15年に来日していたんですね。
青山CAYでライヴをやったとのこと。気付くのが遅すぎました。

SimakDialog "GONG" Demajors no number (2019)
コメント(0) 

22年前のお正月アルバム ハム・スィーウォン [東南アジア]

KHMER NEW YEAR SONG.jpg

アメフォンさんがカンボジアで買い付けたという中古CDから拾ってきた一枚。
ぼくのごひいきのハム・スィーウォンをフィーチャーした、
カンボジアの伝統ポップであります。打ち込みのプロダクションに、
カンボジアの伝統楽器を織り交ぜた歌謡サウンドですね。
時節柄ぴったりの「お正月アルバム」で、クメール・ポップの大手レーベル、
ラズメイ・ハング・メアスの100番というキリ番も、なんだかおめでたい。

ハム・スィーウォンは、ずいぶん昔に話題にした人ですけれど、
クメール・ポップの世代交代も進んで、
最近ではトンとその名を聞くこともなくなっていました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-10-16
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-03-14

表紙に「2001」と大書きされていて、もう22年も前のCDなんですねえ。
いまやカンボジアも配信がメインになってしまったらしく、
CDは制作されていないようなので、フィジカル・ファンは、
こういう中古CDを探すしかないんであります。
もっとも、この時代のクメール・ポップの方が、
現代のものより断然美味なので、ぼく個人としては困りはしないんですけれど。

で、この「お正月アルバム」。ニュー・イヤーといっても、
おそらく4月のクメール正月のことだとは思いますが
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-02-09
のどかで、やわらかなノリは、のんびり過ごすお正月にぴったりです。

この丸っこいノリは、クメール人のリズム感のなせるわざなんだろうなあ。
ウチコミを使っていても、このノリが出るのは、カンボジアならではですよねえ。
現在のクメール・ポップからは、もはや失われたノリであります。

チャーミングな声のハム・スィーウォンが、
コブシ使いもほがらかに駆使する歌いぶりが、
もういいお湯加減というほかありません。
身体の芯からあったまる歌声ですよ。

落ち着きのあるクセのない声で、細やかなこぶしを回す
ノイ・ヴァネットの安定した歌いぶりに、
反対にアクの強いダミ声で、芸人臭たっぷりのヴォーカルが
魅力のメアス・サランと、当時の名歌手たちの歌いぶりを堪能できます。

Him Sivorn, Pich Ponleu, Noy Vannet, Meas Saran and Touch Sreynech
"KHMER NEW YEAR SONG" Rasmey Hang Meas Production 100 (2001)
コメント(0) 

消えゆくタイ北部歌謡芸能、ソー [東南アジア]

あぁ、これだから世界の音楽探訪は、やめられない。
またひとつ、これまでまったく知ることのなかった音楽に、出会うことができました。
それが、タイ北部、ラーンナー地方の伝統的な祭儀で奏されてきたという、
ソーと呼ばれる歌謡。東北部のモーラムは有名ですけれど、
ソーは、もっと西のチェンマイやチェンライ、
ナーン県やランパーン県で伝わってきた、ムアンの人々の歌謡芸能とのこと。

一聴すると、男女が掛け合いで歌うスタイルは、
モーラムのラム・クローンによく似ているんですが、
モーラムはケーンが伴奏するのに対し、ソーの伴奏は、
サロー(胡弓)、スン(複弦2コースのリュート)、ピー(笛)が標準形のよう。

ちなみに、タイの胡弓を一般的にソーと呼びますけれど、
ここでいう歌謡のソーは、この楽器名とは関係なく、
ソーで伴奏される胡弓は、サローという名前なんですね。ややこしいんだけど。

今回この伝統的なソーが聞けるCDを3タイトル入手したんですが、
いずれも25分を超す長尺の2曲を収録。
歌謡だけでなく、語り物としての性格を併せ持つ芸能なのかもしれません。

Bunsii Rattanang, Lamjuan Muangphraao.jpg

なかでも、ソーの第一人者だという、
ブンシー・ラッタナン(1953-2021)のアルバムが素晴らしい。
ラムジュアン・ムアンプラーオという女性歌手と掛け合いで歌っているんですけれど、
鼻にかかったヴォーカルが、サロー、スン、ピーが奏でる1拍子リズムと絡み合って、
ふんわりとしたグルーヴを生み出し、得も言われぬ滋味な味わいが溢れ出すんですよ。

このリズム、面白いなあ。
強拍・弱拍のアクセントがなくて、どう聴いても1拍子にしか聞こえない。
歌や語りの調子によって、フリー・リズムに変わるようなパートもなく、
ずーっとおんなじテンポで曲が進んでいくんですけれど、
即興らしき歌いぶりにグイグイ引き込まれます。
二人が歌うメロディのヴァリエーションも豊かで、
定型ワン・パターンになりがちなラム・クローンと違って、
単調になる場面がぜんぜんありません。

ブンシー・ラッタナンは、
80年代にルークトゥン調のソーでヒット曲を出したこともあるそうで、
今回そんなルークトゥン・ソーのアルバムも1枚入っていました。
もっともそのような試みが盛んになることはなく、
ルークトゥン・モーラムのようにバンコクへ進出して、
タイ全国区の人気を得るまでには、至らなかったようですね。

Kampaai Nuping, Somporn Nongdaeng.jpg

ブンシー・ラッタナンよりも古い世代のカムパーイ・ヌピン(1924-2014)も、
ソーの大物歌手だそうです。歌手だけでなく舞踏の第一人者だそうで、
95年に舞踏の部門でタイ王国国家芸術家を授与されています。
相方の女性歌手は、ソムポーン・ノーンデーン。
ジャケットには、スンを弾く二人とサローの3人が写っていますが、
CDには太鼓とタンバリンのような打楽器のほか、
キム(ハンマー・ダルシマー)らしき音も聞けます。
2曲目の方ではゴングも聞こえ、代わりにキムはいないみたいですね。
キムの音色がまるで琉琴で、太鼓の細かいリズムといい、沖縄音楽と似ているのが不思議。
こちらはさきほどのブンシー・ラッタナンとは違い、リズムは4拍子です。
録音は前のブンシー・ラッタナンより古そうで、80年代頃のものかも。

Ai Gao, Ii Thuam.jpg

3枚目は男女二人が写っていて、ブーテン(小那覇舞天)を思わす男性がアイ・ガオ、
額に独特の文様を施している女性がイー・トゥアム。
歌謡漫談といった調子の二人の掛け合いは、かなり自由度の高い即興の要素が十分。
演奏が止まって、二人の漫談となるパートも長くあります。
ムアン語がわかればねえ、きっと楽しめるんだろうけれど。う~ん、残念です。
野外で録音されたものらしく、盛んに鳥の鳴き声が聞こえるのが、いい雰囲気。
ジャケットには、ピーを吹く二人とスンを弾く3人が写っていて、
ブンシー・ラッタナン同様、1拍子のリズムで楽しめます。

それにしても、モーラムがこれだけ知れ渡っているのに、
ソーをこれまでまったく知るチャンスがなかったというのも、なんとも不思議です。
ソーについて書かれた日本語テキストを探すも、ぜんぜんなくって、
船津和幸さん、船津恵美子さんという信州大学のお二人の先生が94年に発表された民族誌、
タイ民俗音楽フィールド・ノートー1-北部タイ・ラーンナー地方の歌謡芸能「ソー」が、
ゆいいつの資料と思われます。
https://core.ac.uk/download/pdf/148782705.pdf

欧米人が録音した民俗音楽のレコードはないのかしらんと、
フォークウェイズやオコラなどのカタログをチェックしてみたんですが、
見当たらないですねえ。オランダのパンから出ている
“CHANG SAW: VILLAGE MUSIC OF NORTHERN THAILAND” と
リリコードの“SILK, SPIRITS & SONG: MUSIC FROM NORTH THAILAND” に、
ソーらしき曲目があるくらい(未聴なので、不確かですが)。

どうやらモーラムとは事情がぜんぜん違い、ソーは消えゆく歌謡なのかもしれません。
ルークトゥン化も成功しなかったようだし、
ヒップ・ホップとミックスするような破天荒な若者でも現れれば、
新たな展開も期待できるんでしょうが。
カムパーイ・ヌピンやブンシー・ラッタナンといった古い世代がいなくなったあとは、
伝統保存の芸能として、細々と遺るだけのものとなってしまうのでしょうか。

Bunsii Rattanang, Lamjuan Muangphraao "SAW KHUN BAAN MAI" Sahakuang Heng CD013
Kampaai Nuping, Somporn Nongdaeng "SAW THAAM THONO PANHAA" Sahakuang Heng CD007
Ai Gao, Ii Thuam "SAW GEO NOK" Sahakuang Heng CD015
コメント(0) 

インドネシアの新世代ジャズ・ヴォーカリスト アメリア・オン [東南アジア]

Amelia Ong.jpg

こりゃ、オドロいた。
こんなステキなシンガー・ソングライターが、インドネシアにいたなんて。
この人もまた、グレッチェン・パーラト以降の新世代ジャズ・ヴォーカリストですね。
日本初入荷なんですが、なんと7年も前の作品なのか。
これまで話題に上らなかったのは、インドネシアという地の利の悪さのせい?
新世代ジャズの文脈でも、アジアのシティ・ポップという文脈でも、
見逃せないスゴイ逸材ですよ。

なんでも父親が熱烈なジャズ・ファンで、4歳からピアノとサックスを演奏し、
やがて歌も勉強して、10代からステージに立っていたというキャリアの持ち主。
11歳で著名な音楽トレーナーに才能を見出され、
13歳からさまざまなジャズ・フェスティヴァルに参加、
16歳になってオーストラリアへ留学し、
西オーストラリア・パフォーミングアート・アカデミーで、
本格的な音楽教育を受けています。
8年間のオーストラリア生活を経て帰国し、このデビュー作をすぐに録音したわけね。

‘Take Five’ のリフを思わすピアノのイントロで
スタートする1曲目から、ハッとさせられます。
テクニカルな変拍子曲で、ヴァースが5+6の11拍子、ブリッジが6拍子という構成。
細かくビートを割っていくドラムスがピアノと絡みあうインプロヴィゼーションを、
たっぷりと繰り広げるんですが、その前後を温かなアメリアの歌声がサンドイッチしていて、
これ、ジャズ・ファンにはたまらない構成ですね。曲作りのツボを知っている人です。

2曲目はローズのメロウな響きとウッド・ベースの深い音色にのせて、
ゆったりと穏やかな歌声を聞かせるジャジー・ポップ。
う~ん、沁みますねえ。

スウィンギーなリズムへのノリもバツグンで、ふくよかで丸みのある美声が、
コンテンポラリーなサウンドとベスト・マッチングですね。
どの曲もたっぷりとインプロヴィゼーションのパートを設けていて、
イントロで‘Here we go’ とメンバーに声をかけ、
エンディングを決めたあと小さく‘yes’ とつぶやく3曲目でも、
ヴォーカル曲であることを忘れさせるほど、ジャズのスリル十分。
ミュージシャンは全員インドネシア人のようですが、
実力者揃いで聴き応えがあります。

ガーシュインの‘Someone To Watch Over Me’ をのぞいて、
6曲すべてアメリアのオリジナル。
歌い手としても、コンポーザーとしても、ずば抜けていて、
16年にクリスマス・アルバムを出したようですが、その後の新作はまだかな。
楽しみに待ちましょう。

Amelia Ong "AMELIA ONG" Demajors no number (2015)
コメント(0) 

古き良きビルマ時代のラヴ・ソング コー・ミンナウン [東南アジア]

Ko Min Naung  CHIT MOE GYI.jpg

ミャンマーCDを買う楽しさは、ジャケ買いにありますね。
今日びジャケットを睨んで、あてずっぽうに買うしかないほど、
事前情報がない音楽なんて、ミャンマー音楽くらいのもんですよ。
だからこそのワクワク感、情報洪水のネット時代ではなかなか味わえない、
半世紀近く前のアフリカ音楽を聴き始めた頃の冒険心をくすぐられます。

で、このCD、電子ピアノに向かう老人と、その脇に立つ初老の男を捉えたジャケット。
これを見てピンときたのが、サンダヤー・ チッスウィです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-06-17
しかし、サンダヤー・ チッスウィよりはるかに年配にみえる二人なので、
往年のビルマ歌謡時代の曲集なのではと、期待がふくらみます。

二人がどこの誰やらかもわからず、買ったわけなんですが、
聞いてみると、サンダヤー(ピアノ)とリズム・キーパーの
シー(ミニ・シンバル)・ワー(ウッド・ブロック)のみの伴奏で歌っているんですね。
サンダヤー・ チッスウィのようなミャンマータンズィンではなく、
シンプルな「声とサンダヤー」アルバムで、
レパートリーもいかにも古そうなビルマ時代の曲に聞こえます。

調べてみると、47年から音楽活動を始めたという大御所の歌手、
コー・ミンナウンという人でした。30年ヤンゴン生まれというので、
日本なら三橋美智也と同い年の人です。いまもご存命らしく、
このアルバムは02年に出たものなので、72歳のときのアルバムですね。

そして、サンダヤーを弾いている人が、これまたミャンマー音楽家の重鎮でした。
その名は、ギータルーリン・マウンコーコー(1928-2007)。
ギータルーリンとは「音楽青年」という敬称で、マウンコーコーで通じます。
第二次世界大戦前から無声映画のバンド・リーダーを務めて、
映画音楽やラジオ放送の活動をし、戦後を通じて数多くの名曲を残した作曲家とのこと。
50年にウィンウィン劇場で音楽監督を務め、
66年にはミャンマー音楽評議会の議長に就任しています。

93年にはニュー・ヨークのアジア文化評議会の客員教授に迎えられ、
その後、北イリノイ大学、ウィスコンシン大学、ケント州立大学、
カリフォルニア大学バークレー校、モントリオール大学ほか数々の大学で、
ミャンマー音楽と楽器を教えているんですね。
晩年には、ミャンマー映画アカデミーの音楽最優秀賞を
3回(91・94・02年)受賞したほか、07年10月10日に亡くなる直前の8月10日、
ヤンゴンの国立芸術文化大学教育部から、名誉音楽博士号を授与されています。

タイトル曲の‘Chit Moe Gyi’ は、ヤンナインセインが作曲し、
テイテイミンが歌った不朽のラヴソング。
マーマーエー、トゥーマウン、ピューティーなど、多くの歌手にカヴァーされています。
無声映画時代のラヴ・ソングには、いい曲が多いんですね。
マウンコーコーの粒立ちのよいピアノのタッチにのせて、
少し枯れた味わいもあるコー・ミンナウンの歌が、
古き良きビルマ時代のメロディの良さを再現しています。

マウンコーコー最晩年にあたる本作(ラスト・レコーディング?)は、
この二人だから残せた名盤ではないでしょうか。

Ko Min Naung "CHIT MOE GYI" Cho Kyi Tha no number (2002)
コメント(0) 

伝統歌謡とミャンマータンズィンの旧作 ソーサーダトン [東南アジア]

Soe Sandar Htun  THETA YE SIN.jpg   Ba Nyar Han & Soe Sandar Htun.jpg

ミャンマー伝統歌謡の名花ソーサーダトンの旧作もありました。
ソーサーダトンのアルバムはかなりの数を持っていますが、
このアルバムは見おぼえがありません。
ミャンマーのCDで困るのは、制作年や発売年の表記がないことで、
手元に20枚以上あるソーサーダトンのCDも、
リリースの順番がよくわからないんですよねえ。

このアルバムも、ジャケットの容姿や声の若々しさから、
00年代前半のものだろうと思うんですが、果たしてどうかなあ。
ぴちぴちと弾けるような声に、若さが溢れ出ていて、
ソーサーダトンに夢中になり始めの頃を思い出します。

サイン・ワイン楽団に、サンダヤー(ピアノ)が大きくフィーチャーされ、
フネーやヴァイオリンと掛け合うインプロヴィゼーションは、
いつ聴いても、スリリングですねえ。
曲が盛り上がるパートでは、オーケストレーションを代用した
シンセの荘厳なサウンドでアクセントを付けていて、
サンダヤーとシンセがレイヤーされる、
ミャンマー伝統歌謡独特のアレンジを楽しめます。

もう1枚入手した男性歌手バニャーハンとの共演作は、
15年頃のアルバムのようですね。
こちらのアルバムはミャンマータンズィンで、
二人それぞれがソロで歌う曲のほか、デュエットする曲もあります。
サックスやエレクトリックギターをフィーチャーして、
サイン・ワインの伝統パートとスイッチしながら、
華々しくもきらびやかなサウンドを展開しています。

さすがに先の旧作より10年以上が経過しているので、
サウンドはぐっとアップデイトしていますね。
ミャンマー独特のアカヌケなさ加減は、変わんないですけれど。
それにしても、このジャケットのソーサーダトンの垂髪、スゴイな。
まるで平安貴族の女性みたいじゃないですか。

Soe Sandar Htun "THETA YE SIN" Yadanar Myaing no number
Ba Nyar Han & Soe Sandar Htun "ZEYATU SHWE TAGU THINGYAN" Cho Kyi Tha no number (2015)
コメント(0) 

イノセントな伝統ポップ エーミャートゥー [東南アジア]

Aye Mya Thu  PYAN SONE KYA SOE MWAY HTAR NI.jpg

今回のミャンマー入荷品で、真っ先に目に飛び込んできたのが、コレ。
誰だ、この見たことのない少女は、と。
すわ、メーテッタースウェ、キンポーパンチ、トーンナンディに続く、
伝統歌謡の新人登場かと、イロメキ立ったわけなんですが、
いやぁ、その予想は大当たりでしたねえ。

少女の名は、エーミャートゥー。
05年5月5日、エーヤワディ川沿いの都市ヘンザダの生まれで、
このデビュー作が発売された20年2月5日の時点で、まだ14歳ですよ。
次から次へと少女歌手がデビューする、
ミャンマーの伝統ポップ・シーン、ほんとにスゴイなぁ。
世界各地で伝統歌謡を受け継ぐ若手が先細りの傾向をみせているなか、
ミャンマーだけは、そんな世界の趨勢と逆行するかのようです。

アルバム冒頭、鶏の泣き声に鳥のさえずり、
寺院の鐘の音や太鼓の響きがコラージュされて始まるサイン・ワイン楽団の演奏、
そこにシンセがレイヤーされて歌い出すエーミャートゥーの第一声で、
ゾクッとしてしまいました。伝統歌謡のコブシ使いも達者な歌声に、
幼さはみじんも感じられません。

ポップな曲でも伝統歌謡と同じで、まっすぐな歌い方がいいよなあ。
アイドル歌謡みたいな媚を含んだ発声を、ミャンマーの女性歌手はしないもんね。
ぼくがミャンマーの女性歌手に惹かれるのは、ここにあるのかもしれないなあ。
スレていないというか、イノセントなミャンマーの伝統ポップの良さが、
このエーミャートゥーのデビュー作でも、存分に発揮されています。

ところで、ちょっとビックリなのが、若手伝統女性歌手たちのSNS事情。
フェイスブックのフォロワー数がスゴくって、メーテッタースウェが68万人、
キンポーパンチ53万人、トーンナンディ29万人って、とてつもない数なんだけど、
なんとエーミャートゥーのフォロワー数はダントツで、なんと98万人。
デビューまもない彼女が、メーテッタースウェよりも多いのに驚愕しました。

Aye Mya Thu "PYAN SONE KYA SOE MWAY HTAR NI" Man Thiri no number (2020)
コメント(0) 

歌謡ロッカーのミャンマータンズィン ミャンマーピー・テインタン [東南アジア]

Myanmar Pyi Thein Tan  YADANARPON.jpg   Myanmar Pyi Thein Tan  SHWE THONE DARI.jpg

ミャンマーの伝統ポップスのかつての盛り上がりも、今はどうなってるのか、
去年2月のクーデターによって情報は完全に遮断されてしまい、
まったくわからなくなってしまいました。
新作の入手はおろか、旧作含めCDの入荷が途絶されて、
すでに1年半以上が過ぎています。

市民に対する軍の残虐行為に、怒りをおぼえてなりませんけれど、
世間の関心がすっかりウクライナに移ってしまっていることも、気がかりです。
市民が音楽を楽しめるようになるまで、あとどれほどの時間がかかるのでしょうか。
社会の平穏を願いながら、こちらの喉も渇ききっていたところに、
久しぶりにミャンマーからの荷が届いたとの知らせに、
思わず飛びついてしまいました。

そのなかに、ヴェテランのポップ・シンガー、
ミャンマーピー・テインタンの新作がありました。
エーヤワディー川沿いの風景写真に、
赤のストラトキャスターを抱えたステージ写真をコラージュしたジャケットで、
歌謡ロック・スターといった出で立ちが、なんともこの人らしいところです。

ミャンマーピー・テインタンは、もともと洋楽コピー・バンドのプレイボーイで
リード・ギターを務めていた人。歌手として独立後、
自身のバンドL.P.J.(Love Peace and Joy)を結成して活動を始め、
洋楽コピー曲とミャンマータンズィンの両方を歌ってきました。

ずいぶん昔に、ぼくはテインタンの洋楽コピーのCDを買って、
そのあまりの稚拙な演奏ぶりに、アタマを抱えたことがありました。
以来この人を敬遠するようになっていたんですけれど、
テインタンは洋楽コピーばかりでなく、ミャンマータンズィンを取り入れた
自作のオリジナル曲を歌ったアルバムもあることを、後になって知ったんですね。
それが、今回新作と一緒に入ってきた『黄金のトウンナリー』で、
これ幸いと買ってみましたよ。こちらは、ブルース・リーばりの
テインタンのポートレイトの油彩が、ジャケットを飾っています。

大ヒットを呼んで、テインタンの代表作とされるこのアルバム、
なるほど洋楽ポップス側の歌手がアプローチしたミャンマータンズィンらしく、
伝統歌謡の歌手が歌うミャンマータンズィンとは、テイストが違います。
バンド・スタイルのパートが「主」で、伝統歌謡のパートは「従」という主従逆転のほか、
ミャンマータンズィンのメロディが洋楽スタイルによく馴染んでいて、
接ぎ木形式の極端な違和感がありません。
毒のない、ほがらかなミャンマー独特のメロディが、いかにものほほんとしています。

伴奏にヴァイオリン、サロン、サンダヤーが使われているほか、
スライド・ギターがフィーチャーされるのも、耳を奪われるところで、
これって、ひょっとして、ウー・ティンが弾いているんじゃないんでしょうかね。
アルバム最後は、パッタラー(木琴)をフィーチャーした、
サイン・ワインの短い演奏曲で締めくくられています。

なるほど先にこのCDを聴いていたら、
テインタンの印象もだいぶ違ったろうなと思いましたが、
新作もまさしくこの路線のミャンマータンズィンですね。
フォーク・ロック調のちょいダサなサウンドに、テインタンの甘い声がよく合います。

Myanmar Pyi Thein Tan "YADANARPON" Man Thiri no number
Myanmar Pyi Thein Tan "SHWE THONE DARI" Nasa Music Production NSCD9058
コメント(0) 

エレクトロ・イサーン・ソウル ラスミー [東南アジア]

Rasmee  THONG LOR COWBOY.jpg

うわぁ、こりゃあ面白い才能が出てきましたね。
タイ東北部イサーン出身のシンガー・ソングライターという、
ラスミー(・ウェイラナ)の新作。

「タイのオルタナティヴ」という紹介をされている人のようですけれど、
本作を聴くかぎり、新世代ジャズ・ヴォーカリストの文脈で紹介した方が、
より注目が集まるんじゃないのかしらん。
いや、じっさいのところ、この人にジャズの資質はないんだけど、
フーン・タン(ヴェトナム)、エリーナ・ドゥニ(アルバニア)、
ジェン・シュー(台湾/アメリカ)といった人たちと並べても、
まったく違和感ないサウンドに仕上がっているんですよ。

ラスミーの過去作を聴いたことがないので、あくまで本作を聴いた者の感想ですけれど、
ケーンやピンといった伝統モーラムの楽器が、
エレクトロな音感と見事に調和しているのに驚かされます。
エレクトロ・モーラムといった趣の‘Chomsuan’ ばかりでなく、
イサーン方言のタイ語と英語の両方で歌われる‘I Wanna Love You’ では、
イサーンのこぶし回しが西洋ポップスのサウンドの中に溶けていく
絶妙なブレンド具合にウナらされます。

このサウンドを生み出しているのは、プロデューサーのサーシャ・マサコフスキー。
ニュー・オーリンズ出身の新世代ジャズ・ヴォーカリストのサーシャは、
このアルバムで、シンセサイザーとプログラミングを担当していて、
ニュー・オーリンズから、ローズとウーリッツァを弾く
アンドリュー・マクゴーワンも呼び寄せられています。
ほかに、サーシャの父でジャズ・ギタリストのスティーヴ・マサコフスキーと、
弟のベーシスト、マーティン・マサコフスキーも演奏に参加しています。
サーシャがこんなプロデュースの才のある人とは、知りませんでした。

ラスミーの父親はモーラム楽団の座長だったらしく、
ラスミーも幼い頃から歌ってきたというのだから、イサーン独特の歌い回しは真正です。
ラスミーが書くメロディにも、イサーンの臭みがたっぷり溢れていて、
モーラムで聞き慣れたフレージングが、そこかしこに顔を出します。

ラスミーとサーシャ・マサコフスキーがどのようにして出会ったのか知りませんが、
フーン・タンとグエン・レが出会った“DRAGON FLY” に匹敵する、
ハイブリッドなポップ作品であることは、間違いありません。
なにより、アルバム全体を通じてクールなサウンドのテクスチャが、
“DRAGON FLY” とクリソツ。アジア歌謡の新たなる名盤誕生です。

Rasmee "THONG LOR COWBOY" no label no number (2021)
コメント(0) 

10年の沈黙を破って ニュ・クイン [東南アジア]

Như Quỳnh  NGƯỜI PHỤ TÌNH TÔI.jpg

アメリカの越僑社会が生んだヴェトナム歌謡の最高峰、
ニュ・クインが沈黙して、はや十年以上。
ソロ・アルバムは11年の“LẠ GIƯỜNG” が最後となり、
フイン・ジャ・トゥアンと共同名義で出した12年作以降、
クインの歌声を聴くことができなくなってしまいました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-04-05

ファンが新作を待ちわびる間に、本国ヴェトナムのシーンの方が活性化して、
越僑社会のレーベルが制作するプロダクションをしのぐ勢いとなりましたよね。
レー・クエンがヴェトナム戦争前に書かれた抒情曲を歌って、
ボレーロ・ブームを生み出したことは、このブログの読者ならば、よくご承知のはず。

そんなニュ・クインですけれど、20年8月に待望のシングルをリリース(配信のみ)し、
MVも同時発表となり、新作のリリースがアナウンスされました。
ところが、その後ぷっつりと、新作の話は消えてしまったんですよね。
お~い、あの新作の話、いったいどうなったんだよぉ、と思ってたんですが、
昨年4月、新作のジャケットがとうとう発表され、チュオン・ヴーとデュエットした
タイトル曲‘Người Phụ Tình Tôi’ もトゥイ・ガのYouTube チャンネルに上がりました。

ついに出るぞと、胸を躍らせたんですが、待てど暮らせど、新作の発売日は発表されず。
パンデミックのロックダウンが影響して、発売が延期されてしまったんですね。
そんなこんなで焦らしに焦らされ続けましたが、ようやく先月3月、発売されましたよ。
しかもヴェトナム本国との同時リリースで、
ヴェトナムでニュ・クインのアルバムが出るのは、これが初のことです。
ヴェトナムではニュ・クインの海賊版がトップ・セールスになっていたので、
大歓迎されるんじゃないでしょうか。
ちなみにヴェトナム盤は、レー・クエンでおなじみのDVDサイズの
ホルダー・ケース仕様で、歌詞カードの美麗カードが付いているようです。

さて、“LẠ GIƯỜNG” 以来となる11年ぶりの新作(山下達郎とおんなじ!)の
レパートリーは、近年のボレーロ・ブームを反映して、
ヴェトナム戦前の古い曲を中心に選曲されています。
ノスタルジックなメロディばかりでなく、シャレた都会的なムードの曲もあって、
「イースト・ミーツ・ウェスト」的な洗練されたコード進行の
ガン・ヅアン(1946-2009)作、‘Chờ Đông’ など、
アルバムのいいフックとなっています。

新しい曲は2曲のみで、20年にシングルで出て、MVも発表された
‘Buồn Làm Chi Em Ơi’ は、ラスト・トラックに収録されています。
もう1曲は、昨年YouTube にあがったタイトル曲の‘Người Phụ Tình Tôi’ ですね。
この曲は、ゼロ年代から活躍している作曲家タイ・ティンの作品で、
レー・クエンと共同名義作を出したこともあるように、
ノスタルジックな作風には定評のある人です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-05-12

ダン・バウ(一弦琴)やダン・チャン(筝)、ギター・フィムロンなどの、
ヴェトナム情緒を色濃く表すゆらぎ音をたっぷりとフィーチャーしているのは、
本国ボレーロとはひと味違う越僑シーンの音づくりですね。
王道のヴェトナム演歌のプロダクションは過不足なく、申し分ありません。

主役ニュ・クインの歌声も円熟の極みで、安定感たっぷり。
歌声から軽やかさが消えて、重みが出てきたのは加齢のためでしょうが、
かえって味わいが増して、コクが出たといえるんじゃないでしょうか。
15年に離婚した私生活も、歌の表現/説得力に影響を与えたのかもしれません。

待ち焦がれ続けたニュ・クインの新作、
長年の渇きをいやしてあまりある、素晴らしい傑作に仕上がっています。
ファンのみなさま、共に喜び、むせび泣きましょう。

Như Quỳnh "NGƯỜI PHỤ TÌNH TÔI" Thúy Nga TNCD627 (2022)
コメント(0) 

人生の岐路 ラム・アイン [東南アジア]

Lam Anh  Nga Re.jpg

すっかりヴェトナム歌謡と縁遠くなってしまった今日この頃、
とタイプして、はたと気付けば、ヴェトナムばかりじゃなくって、
タイ、カンボジア、ミャンマーだって、まったく新作を聴いていませんね。
う~む、遺憾千万、残念無念、千恨万悔、切歯扼腕。

しかたなく旧作を探していたんですが、見つけましたよ、スグレもんを。
ラム・アインという越僑女性歌手の14年作。
おなじみの越僑レーベル、トゥイ・ガから出ていたアルバムなんですが、
これがまたびっくりするほど上出来の内容で、いやぁ、この人誰?と、調べてみました。

ヴェトナムのウィキペディアによれば、
ラム・アインは、87年南部ドンナイ省の省都、ビエンホアの生まれ。
5歳でステージに立ち、10歳から正規の音楽教育を受け、
ドンナイ芸術文化学校を経て、ホーチミン音楽院に進んで卒業しています。
07年にアメリカへ渡り、シアトル、ニュー・ヨークを点々としたのちに、
08年南カリフォルニアへ落ち着いたとのこと。
09年にトゥイ・ガと契約、11年にデビュー作を出しています。

デビュー当初は、若者向けのポップスを歌っていたようですけれど、
本作は年配者向けのノスタルジックな抒情歌謡、
いわゆるボレーロ路線のアルバムです。14年作ということなので、
ヴェトナムのボレーロ・ブームが越僑シーンにも飛び火しはじめた頃のものでしょうか。
レー・クエンがヴー・タイン・アン集を出していたのと、同じ頃にあたります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-02-03

タイトル曲の1曲目、ふんわりとしたシンセサイザーに包まれて、
アクースティック・ギターのアルペジオとともに、
丁寧に歌い出すラム・アインの発声に、レー・クエンを思わせるところがあって、
いきなりドキリとさせられました。
中音域の豊かな声で、情感を込めた歌いぶりも、レー・クエンに迫るものがありますね。

ただ、ラム・アインの方がレー・クエンより軽味があり、後味もあっさりしているので、
レー・クエンの歌唱をしつこく感じるムキには、ラム・アインの方が好まれるかも。
6曲目の‘Phải Chi Em Biết’ は、
レー・クエンも16年作の“CÒN TRONG KỶ NIỆM” で取り上げていましたけれど、
ドラマティックに哀切を歌い上げるレー・クエンとの違いがはっきりと表れていますね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-05-12

ラム・アインのふんわりとした泣き節に、彼女の個性がしっかりと聴き取れるんですが、
いずれにしてもレー・クエンと比べてうんぬんできる歌手なので、
表現力抜群の人であることは間違いない、素晴らしい歌手です。

ジャケット内の写真に、菜の花が咲き乱れる畑で、
西日に照らされたチェロを抱えたラム・アインが映っているんですが、
アルバム・タイトルの意は、そんなホンワカとした写真に反して、「岐路」。
人は、誰もが人生の岐路に立たされるときあるということを伝えたかったとのこと。
13年に交通事故に遭い、大怪我をした経験からなのか、
以後こうした抒情歌謡路線に変えたのも、
人生の岐路を彼女が体感したからなのかもしれませんね。

Lam Anh "NGÃ RẼ" Thúy Nga TNCD549 (2014)
コメント(0) 

アニヴァーサリーを制作できるマレイ・ポップの底力 シーラ・マジッド [東南アジア]

Sheila Majid  LEGENDA.jpg   Sheila Majid LEGENDA 30th Anniversary.jpg

ロックやジャズでは、アニヴァーサリー作が花盛りですけれど、
ワールドに目を向けると、レゲエ以外にはほとんどお目にかかることがありませんね。

東南アジア各国にも名盤はいろいろあれど、
振り返ってみると、それぞれの国でアニヴァーサリーを祝うような
歴史的作品と呼べるものは、案外見当たらないですよね。
かの音楽大国インドネシアですら、これというアルバムは見当たりません。
ロマ・イラマの『ブガダーン』くらいですかねえ。あと、シンガポールで、
ディック・リーの『マッド・チャイナマン』が思い当たるくらいかなあ。

そうやって考えてみると、マレイシアでシーラ・マジッドの『レジェンダ』が
30周年記念作を出したことは、
エポック・メイキングだったといえるのかもしれません。

マレイシアにポピュラー音楽の礎を築いたP・ラムリーの作品を、
90年当時のセンスでアップデイトした『レジェンダ』は、先達をリスペクトしつつ、
マレイ・ポップを時代とともに更新した意義深い名作でした。
これほどアニヴァーサリーにふさわしい作品は、
マレイシアのみならず、東南アジアを見渡したって、他にありませんよ。

『レジェンダ』は、当時日本盤が売れに売れたおかげで、
輸入業者がマレイシア・オリジナル盤を仕入れようとせず、
入手するのに手間取ったのを覚えています。

今回の30周年記念作は、オリジナルのディスク1と、
P・ラムリー、サローマのオリジナル録音を収録したディスク2の2枚組となっています。
オリジナル録音のほうは、レパートリーの録音時期がばらばらなので、
1枚のディスクとして聴くと、統一感がないうらみはあるものの、
『レジェンダ』との聴き比べには、もってこいでしょう。

また、オリジナルのディスク1も、
未発表曲2曲が追加されていたのは、嬉しかったですねえ。
クールなスロー・バラードの‘Malam Ku Bermimpi’ と
ラテン・タッチの‘Kisah Rumah Tangga’ の2曲で、特に前者にはトロけました。

この2曲は、06年にトール・ケース仕様の新装ジャケットでリイシューされた
“LEGENDA XVXX” で、すでに追加されていたんですってね。
知らなかったなあ。その06年のリイシューでは、
その2曲をアルバムのトップとラストに置いていたようですが、
今回はオリジナルの12曲のあとに追加していて、この方が座りはいいでしょう。

ただ1点、苦言を呈するのなら、歌詞だけしか載せなかった制作ぶりでしょうね。
本作の企画となった、P・ラムリーとサローマが切り拓いたマレイ音楽の概説や、
シーラがプロデューサーのロズラン・アジズや、
マック・チュー、ジェニー・チンなどのミュージシャンとともに、
モダン化したことの意義をしっかりと書き残すことによって、
次の世代への架け橋とする姿勢を示してほしかったですね。
アニヴァーサリーを制作できる底力が、マレイ・ポップにはあるだけに、
それにふさわしい記念作として欲しかったと思います。

最後に蛇足。
今月号の「レコード・コレクターズ」に本作を紹介したさい、
記事の中で雪村いづみの『SUPER GENERATION』について触れたんですが、
再来年は『SUPER GENERATION』の50周年なんですよね。
ここはひとつ、アルファの限定盤仕様(ゲートフォールド)を再現した
特別記念作をお願いしたいですねえ。日本コロムビア様、よろしくです。

Sheila Majid "LEGENDA" EMI CDFH30055 (1990)
Sheila Majid "LEGENDA: 30TH ANNIVERSARY" EMI 3818936
コメント(0) 

ネオ・ダンドゥット・ロマンティカ ズバイダ [東南アジア]

Zubaidah  TANDA MERAH.jpg

インドネシア、ダンドゥットのレーベル、
イラマ・トゥジュフ・ナダのカタログは、内容保証。
ぼくが全幅の信頼を置いている会社で、見つけたら即買いをしているレーベルです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-01-31
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-03-18

ところが、ほとんど日本に入ってこなくて、めったに入手できないんですけど、
ひさしぶりに1枚見つけたので、取り上げる次第。
これまで手に入れたのと同じ15年のアルバムで、
この頃まで作っていたCDも今はなくなり、デジタル・リリースだけになっているのかも。

ズバイダという女性歌手、ネットで調べても情報がなく、経歴がわからないんですが、
現在はエルフィ・ズバイという名前で活動しているようですね。
いやぁ、上手いですねえ。かなりキャリアのある歌手とお見受けします。
エルフィ・スカエシの往年の名曲‘Mandi Madu’ はじめ、
ロマ・イラマ、リタ・スギアルト、イッケ・ヌルジャナー、エフィ・タマラらが歌った
ダンドゥット名曲の数々を歌っているんですが、
オリジナルに聴き劣りしない歌唱力は圧巻です。

イラマ・トゥジュフ・ナダのYouTube のチャンネルを観てみると、
本作のオフィシャル・ヴィデオがあって、スリンのほか4管を従え、女性コーラス3人、
キーボード2、ギター2、マンドリン、ベース、ドラムス、グンダンという編成を
バックにズバイダが歌っていて、ちょっとコーフンしてしまいました。
90年代ダンドゥット・サウンドそのままで、生演奏の魅力が爆発。
コプロに変質して以降のダンドゥットでは、これは味わえないもんねえ。

イラマ・トゥジュフ・ナダのCDには、どれも“NEO DANGDUT ROMANTIKA” という
サブ・タイトルが付いていて、ロマンティカという語がスローな歌謡を連想させますけれど、
あまりそうしたイメージはなく、80~90年代の懐メロ(死語?)路線の
ダンドゥットを追及していることは明らかですね。

この“NEO DANGDUT ROMANTIKA” をタイトルにして、本作から4曲削った
8曲収録のアルバムが、12年にデジタル・リリースされています。
再発のデジタル・アルバムは、オリジナルの大衆的なデザインとは見違えるほど
洗練されたジャケットに変更されていて、時の移ろいを感じさせますねえ。
17年にはストリーミングも開始されているので、
こういうオールド・スクールなダンドゥットに今も一定の需要があることがうかがえます。

Zubaidah "TANDA MERAH" Irama 7 Nada CD7-008 (2015)
コメント(0) 

越僑シーンで渇きを癒すヴェトナム歌謡 クイン・ヴィ [東南アジア]

Quỳnh Vi  GIẤC MƠ ĐÁNH MẤT.jpg   Quỳnh Vi  VẬY LÀ DỦ.jpg

コロナ禍でヴェトナム音楽の新作CDがまったく手に入らなくなってしまいました。
2020年作なんて、1枚も手元にないんだから、惨憺たるありさまです。
喉の渇きを癒したくて、久しぶりに越僑ものに手を伸ばしてみました。

知っている歌手で、誰か新作を出していないかなとチェックしてみたところ、
クィン・ヴィの近作2枚を見つけました。
ずいぶん前にこの人のアルバムを買って、ぼく好みの人と記憶していたんですよね。

その2枚が届いて、気付かされたのは、
ぼくの持っていた09年作がデビュー・アルバムだったということ。
17年作に VOL.2 の表記があって、2作目が出るまで8年もかかったんですね。

Quỳnh Vi  VÙI SÂU TRÁI TIM BUỒN.jpg

クィン・ヴィは、83年ハノイ生まれの歌手。高校卒業後に渡米して、
07年のパリ・バイ・ナイト・タレント・ショー・コンテストで優勝し、
09年にトゥイ・ガからデビュー作を出しました。ぼくが持っていたCDがそれでしたね。
たしかな歌唱力で、クセのない素直な歌いぶりが好ましく、
泣きのバラードを情感を込めて歌っても、歌いすぎることがなく、しっとりとしていて、
胸に心地良い余韻が残ります。
ただ、このアルバムには、男性歌手とデュエットするロック歌謡のような曲があり、
う~ん、こういうのはいらないかな、なんて思っていました。

果たせるかな、今回手に入れた17年・18年作とも、バラード・アルバム。
デビュー作にあったロック歌謡調は姿を消し、17年作にEDMぽい曲があるものの、
メロディが哀調なので、バラード・アルバムのなかのチェンジ・オヴ・ペ-スで、
違和感を感じさせません。
歌もデビュー作から表現力が増しましたよねえ。
ハイ・トーンがよく伸びるようになって、声に磨きがかかりました。

そして18年作は、全曲スロー・バラード。
ホルダー仕様の特殊パッケージに、
ファッション・モデルばりの写真を載せたポスターを封入して、
近年のヴェトナム本国のCDを意識しているのは、間違いないでしょう。
アメリカ盤でこのタイプの美麗ジャケットは、初めて見たなあ。

中身の方も、本国のボレーロ・ブームを意識したプロダクションで、ゴージャス。
ただし楽曲は、オールド・ヴェトナム歌謡のボレーロのような深い叙情ではなく、
香港ポップスに近いドライなバラードといった趣を感じさせます。
そこが本国と越僑の差なのかな。
全曲、悲恋ソングでしょうか。哀切たっぷりの楽曲が並びます。
ちなみに、ヴェトナム民俗色はありません。念のため。

両作とも、男性歌手がゲストで加わってデュエットしている曲がありますが、
男性歌手は、旦那さんのフィ・ヴーのようです。
クイン・ヴィは11年にフィ・ヴーと結婚し、二人の息子がいるとのこと。
久しぶりにヴェトナム歌謡を堪能できて、大満足です。

Quỳnh Vi "GIẤC MƠ ĐÁNH MẤT" Thúy Nga QV01 (2017)
Quỳnh Vi "VẬY LÀ DỦ" Thúy Nga no number (2018)
Quỳnh Vi "VÙI SÂU TRÁI TIM BUỒN" Thúy Nga TNCD453 (2009)
コメント(0) 

現行最高のダンドゥット・シンガー リア・アメリア [東南アジア]

Ria Amelia  Buka Dikit Joss.jpg

すんごい歌のウマい人と、ずいぶん昔に感嘆した覚えのあるリア・アメリア。
そのきっかけはポップ・ミナンのアルバムでしたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-12-28
その名前もすっかり忘れかけていたところ、リアのダンドゥット・アルバムを入手しました。
もともとリアはダンドゥット歌手だったらしく、むしろジャカルタ出身のリアが、
なぜミナンカバウ語でポップ・ミナンを歌うようになったのか、
気になるところではあります。

さて、今回入手したのは14年のアルバム。
マレイシアのミュージックランドは、いまやVCDが主流で、
ほとんどCDを作らなくなったので、これはかなりレアなアルバムじゃないでしょうか。

いやぁ、それにしても、リア・アメリアの歌唱力はバツグンですねえ。
コケティッシュな歌いぶりに、息づかいで妖艶なシナを作り、男を惑わす歌いぶりは、
まっことダンドゥット・シンガーの証し。イッケ・ヌルジャナーをホウフツとさせます。
中高音の豊かな声域を自在に駆使していて、軽く歌っているようでも、
腹式呼吸を使った発声はパワフルで、往年のエルフィ・スカエシを連想させます。
コブシ使いの上手さは、シティ・ヌールハリザとダブって聞こえるくらいだから、
いかにリアの歌唱力が高いか、わかろうというもの。

打ち込み主体のプロダクションながら、
ピアノのリフ、スリンのオブリガード、ガムランの音色など、
ダンドゥットらしいお約束のサウンドをあちこちに散りばめつつ、
ヒップ・ホップ感覚に富んだ下世話なエレクトロ・サウンドで、
現地ディスコの需要に応えています。

サブ・タイトルにもあるとおり、これが「ハウス・ダンドゥット」なんだそうですけど、
これのどこがハウスなんだか。
流行り物にはなんでも食いつくインドネシア人のやることだから、
ハウスが何かも知らずに、名前だけかっさらってきたんでしょうねえ。
こういう臆面のなさこそ、下層大衆音楽の面目躍如じゃないですか。

思えばこういうサウンドって、ハウスのようなクラブ・サウンドなどではなく、
90年代のマレイシアで流行したデジタル・ダンドゥットに近いですね。
マス・イダユ、アメリーナ、ファラ、ロサリーナなんて歌手たちがぶいぶいいわせてた頃。
う~ん、懐かしいなあ。また聴き返してみるかな。

Ria Amelia Bang Edo.jpg

リア・アメリアの本作は、「ハウス・ダンドゥット第2集」だというので、
第1集もあるのかとミュージックランドのカタログをチェックすると、
08年に出ていて、ちゃんとCDも作られているので、早速取り寄せました。
14年作の方がプロダクションは向上していますが、リアの歌いっぷりは見事。
リズムへのノリ、キレの良さは両作とも申し分ありません。
今のダンドゥット・シーンでは、この人が最高なんじゃないの。

Ria Amelia "BUKA DIKIT JOSS: BEST HOUSE DANGDUT VOL.2" Insictech Musicland 51357-77572 (2014)
Ria Amelia "BANG EDO: BEST HOUSE DANGDUT" Insictech Musicland 51357-69342 (2008)
コメント(0) 

ノスタルジックなビルマ歌謡リヴァイヴァル サンダヤー・ミョーナイン [東南アジア]

Sandayar Myoe Naing  WIN OO.jpg

俳優・監督・脚本・作家・歌手と多方面に才覚を発揮した、
ミャンマー芸能史に残る大物ウィンウー往年の録音が、
ここ最近まとまって復刻されましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-02-29
今度は新たにピアニストのサンダヤー・ミョーナインによる
ウィンウー没後31周年を記念した名曲集が出ました。

いやぁ、これはいいなあ。
ノスタルジックなサウンドづくりが、ツボにはまった傑作じゃないですか。
ラウンジー・タッチのピアノにのせて歌う、ソフトな歌い口がドリーミーで、
ビルマ時代の60年代歌謡のニュアンスを見事にトレースしています。
ミョーナインの甘い歌い口も、ベタつかずさっぱりとした後味で、
さわやかなロマンティックさを味あわせてくれます。

ジャズ・ソングをモダン化して、当時流行のラテン・タッチも加えた歌謡曲の数々。
サウンドは洋楽センスでも、メロディにはミャンマーらしさがたっぷりで、
後年のミャンマータンズィンの萌芽を感じさせる、
伝統メロディと西洋メロディの接ぎ木形式の曲では、
両者のコントラストを後年ほど強調していないので、とても自然に聞くことができます。

ピアノ、ギター、ベース、シンセサイザーによる小編成の演奏もエレガントで、
懐かしのメロディを見事に輝かせています。
ギターが、エイモス・ギャレットの星屑ギターを思わすトーンでプレイするところなど、
ゾクゾクしてしまいました。
アクースティック・ギターの短いソロ・ワークなんかも、エイモスとよく似てるなあ。

70年代にマリア・マルダーやジェフ・マルダーなど、ウッドストック周辺の音楽家たちが、
グッド・タイム・ミュージックを追及していたサウンドとオーヴァーラップして、
その現代的に演出されたノスタルジック・サウンドは、ひときわ魅力的に響きます。

Sandayar Myoe Naing "WIN OO 31TH NHAIT PYAE ALWAM" M United Enertainment no number (2019)
コメント(0) 

ミャンマーに生き残る清純な歌声 ピューティー [東南アジア]

Phyu Thi  BADAMYAR YATU TAY SU (2).jpg   Phyu Thi and Yar Zar Win Tint  SHWE SA PAL YONE.jpg

マンダレー・テインゾーの新作に驚いていたら、
ピューティーの新作も入荷していて、やれ嬉しや。
昨年ピューティーの別のアルバムを入手していたんですけれど、
記事にしなかったので、今回あわせて書いておきましょう。

ピューティーは38年生まれ。
なんと大御所のマーマーエーより年長の人なんですが、
歌手になったのは遅く、80年からプロとして歌うようになったのですね。
歌手となる以前は何をしていたのかなど、経歴の詳細は不明です。
プロ歌手となった後も不可解なのは、ライヴ・パフォーマンスの経験がなく、
歌手生活33年目の13年になって、初のソロ・コンサートを国立劇場で開いたということ。
レコーディングのみの歌手活動だったんでしょうかね。

Phyu Thi  MOE TA SAINT SAINT.jpg

そんな情報皆無の人なんですが、
ぼくがピューティーに惹かれたのは、
15年以上前に手に入れた“MOE TA SAINT SAINT” がきっかけでした。
ジャケット写真は、70を超えていそうな高齢に見えるものの、
その歌声に老いは微塵も感じさせません。
それどころか、「清純」と呼びたい天使のような歌声で、
正直、本当にこのジャケ写の老女が歌っているのかと、びっくりしてしまったのでした。

歌い出しのひそやかな発声や、
伏し目がちな女性をイメージさせる控えめな歌いぶりに加え、
触れなば落ちん風情を漂わせる色香もあって、すっかりマイっていまったのでした。
柔らかな節回しに、まろやかなこぶし使いも絶品です。

サウン(竪琴)のみの伴奏から、曲が進むにつれ、サイン・ワインやヴァイオリン、
サンダヤー(ミャンマー式ピアノ)、フネー(チャルエラ)など、
徐々に楽器の数が増えていき、
スライド・ギター(バマー・ギター)が登場する曲もあれば、
バンド演奏とスイッチするミャンマータンズィン形式の曲もあり、
終盤になると欧米ポップス調のパートが増えていきます。
曲により録音にバラツキがあるので、ひょっとすると編集盤なのかもしれませんが、
この一枚で、ピューティーの名が脳裏に刻み込まれたのでした。

Phyu Thi  MILE PAUNG KA TAY MHA LAN PYA KYEL THOE.jpg

その後、既発カセットのジャケットをコラージュしたアルバム
“MILE PAUNG KA TAY MHA LAN PYA KYEL THOE” を見つけましたけれど、
こちらは全曲西洋ポップス調で、あまりに凡庸すぎる伴奏がツライところ。

そして、ひさしぶりに昨年手に入れたのが、
冒頭写真左の“BADAMYAR YATU TAY SU (2)”。
ジャケットの左上隅に眼鏡をかけた老人が映っていますが、これが誰なのか、
ジャケットの「2」とは続編を表すものなのか、などなど、
情報が無くてわからないことばかりですが、
内容はサイン・ワイン楽団を伴奏にした伝統歌謡集です。

サンダヤーやシンセも加わって、銅鑼も派手に打ち鳴らされて、サウンドは華やかです。
西洋風バンド演奏とスイッチするミャンマータンズィン形式の曲もあり、
ヤーザーウィンティンとトニーティッルインの男性歌手二人と
それぞれデュエットする曲があるほか、二人がそれぞれソロで歌う曲もあります。
トニーティッルインがソロで歌ったラスト・トラックは、ポップ曲ですね。
ピューティーの歌声は、“MOE TA SAINT SAINT” の頃となんらかわらず、
清楚な少女のよう。
自己主張が強く、解放された女性像が肥大化する風潮では、
この奥ゆかしい歌声は、21世紀の今日び、
まだ絶滅せずに生き残ってたのか!という驚きさえありますよ。

そして新作は、ヤーザーウィンティンとの共同名義で、ジャケットにも二人が写っています。
ピューティーが5曲、ヤーザーウィンティンが4曲、
デュエットが2曲(うち1曲の男性歌手は不明)となっています。
ヤーザーウィンティンが歌う曲で、バンジョーが使われているのに、耳を引かれました。

ピューティーの声が少し太くなったかな?という印象がありますけれど、
ふんわりとした清純な歌声は不変。
今年82歳となる声とは、とても思えませんね。エイジレスです。
ヤーザーウィンティンの柔らかく、心根の優しそうな歌声も、
仏教国ならではと思わずにはおれない清らかさですね。

Phyu Thi "BADAMYAR YATU TAY SU (2)” Yada Nah Myain no number
Phyu Thi and Yar Zar Win Tint "SHWE SA PAL YONE” Rai no number
Phyu Thi "MOE TA SAINT SAINT” May no number
Phyu Thi "MILE PAUNG KA TAY MHA LAN PYA KYEL THOE” Oasis PT99CD01
コメント(0) 

ミャンマーの名舞踏家が歌う伝統歌謡 マンダレー・テインゾー [東南アジア]

Mandalay Thein Zaw  AUNG E AUNG E.jpg   Mandalay Thein Zaw  MYAT SU MOON.jpg

マンダレー・テインゾーの新作!
いやぁ、これにはびっくり。
リーダー作の少ない人だけに、これは貴重ですよ。
歌手よりも伝統舞踏家として有名な方であります。

マンダレー・テインゾーを知ったのは、だいぶ昔のこと。
ニニウィンシュウェやソーサーダトンとデュエットをしている
ヴェテランふうの伝統歌謡歌手に、この人誰?と意識するようになったんでした。
それからリーダー作を探し始めたんですが、
数枚のソロ・アルバムが出ていることは判明したものの、なかなか実物が見つからず、
20年くらい前にようやく手に入れた1枚を持っているだけです。

そんな人なので、まさか新作と出会えるとは思ってもみませんでしたよ。
こういうヴェテランのアルバムが出るあたりも、
ミャンマーの伝統歌謡が見直されているのを感じさせますねえ。

さて、新作はトール・サイズのブックレット仕様で、
全曲歌詞付き、大衆芸能ザッポエの役者メイクをばっちりときめ、
舞台袖から舞台をみつめる姿や、メイクを落とした素顔の写真も多数載せた、
美麗なパッケージとなっています。

気付いたのが、新作のレーベルが、昔手に入れたCDと同じA.Z.L.Aなんですね。
このCD以外で見たことがないレーベルなので、
ひょっとすると.マンダレー・テインゾーが所属する劇団となにか関係があるのかな。
内容の方も以前のCDと同様。サイン・ワインほかの伝統楽器にサンダヤー(ピアノ)が
加わる編成で、一部の曲にシンセサイザーが加わります。

冒頭から、おごそかなムードで始まりますけれど、仏教歌謡なのでしょうか。
どの曲もおおらかな曲調で、ゆったりと大きくうねるようなリズムで聞かせます。
最後の12分を超す曲は、子供たちのコーラスも交えて、荘厳なムードを醸し出しています。
とはいえ、抹香臭さもなければ、いかめしさもないのがミャンマー歌謡のいいところで、
抜けるような青空を思わす、開放的なすがすがしさに溢れた伝統歌謡です。

Mandalay Thein Zaw "AUNG EI AYE EI" A.Z.L.A./M United Enertainment no number (2020)
Mandalay Thein Zaw "MYAT SU MOON" A.Z.L.A. no number
コメント(0) 

マレイ・ポップ最高の歌姫の円熟 シティ・ヌールハリザ [東南アジア]

Dato’ Siti Nurhaliza  MANIFESTA SITI 2020.jpg

わお! 今度のシティの新作はいいぞ。
ユニヴァーサル移籍後のスタジオ作では、これ、最高作じゃないかな。
マレイシアのトップ・スターにして貴族に嫁ぎ、
まごうことなきセレブとなったシティ・ヌールハリザ。

スリア時代の最後の頃には、伝統歌謡とポップスの垣根を溶解させて、
マレイ・ポップの最高峰を聞かせてくれたシティでしたけれど、
ユニヴァーサルに移籍してからは、妙にコマーシャルな色気が漂う、
EDMに寄せたサウンドで歌わせたりして、
制作陣はいったいシティをどうするつもりなのかと、いぶかっていました。

3年前の前作から、無理なプロダクションが後退し、
シティの個性を生かす軌道修正がみられるようになりましたけれど、
今作でスリア時代末期のコンセプトへと完全に戻し、
より高みを目指したことがうかがわれます。

ドラマのサウンドトラックに使われたシングル曲や、
娘のために書いたシティのパーソナルな曲に、
マレイ・ポップの名歌手スディルマンの曲など、
さまざまな思いが込められたレパートリー11曲が厳選され、
1曲1曲しっかりと制作されているのが、伝わってくるじゃないですか。
古い伝統歌謡に新たな息吹を与えるとともに、
マレイシア王道のポップスと同居して歌い、
両者を違和感なく現代のポップスとして聞かせてくれます。

プロダクションさえ決まれば、
東アジア最高の歌唱力を誇るシティの歌に、向かう敵なし。
声質の使い分けも、シャープに響かせるかと思えば、
まろやかに大きく膨らませたりと自由自在。
そして、抑制の利いたこぶしを織り交ぜて聞かせるところも、シティの鉄板ですね。

ドラマティックなバラードを、押しつけがましくなく、
これほどストロングに歌えるのは、この人だけでしょう。
セクシーなタンゴという新機軸にも、ちょっとした驚きがありましたけれど、
シティだってもう不惑の年を越えているんですもんねえ。
ムラーユとヒップ・ホップのビートをシームレスにつないで、
ラッパーをフィーチャーした仕事ぶりにも脱帽です。

パッケージのジャケットも、これまでスタジオのフォト・ショットだったのが、
屋外でのショットとなっているところも、
解放感を求めるシティの自由な気分が伝わってくるようです。

Dato’ Siti Nurhaliza "MANIFESTA SITI 2020" Siti Nurhaliza Productions/Universal 0740935 (2020)
コメント(0) 

ビルマ映画黄金時代を飾る名優の歌 ウィンウー [東南アジア]

Win Oo  Remember.jpg   Win Oo  MEMORIES OF FILM SONGS.jpg

60~70年代に映画俳優として活躍し、のちに監督も務めるまでになった
ウィンウー(本名ラミン、1935-1988)は、ミャンマー映画界の重要人物。
67年と70年にミャンマーのアカデミー賞を2度受賞していて、
出演した映画の挿入歌はもちろんのこと、歌手としても活躍したほか、
脚本も31本書き、ビルマ時代の大衆芸能に大きな足跡を残した人だったのですね。
往年の映画シーンはYouTube にもたくさんアップされていて、
先日亡くなった「エースのジョー」こと宍戸錠を思わせます。

そのウィンウーの往時の録音が、リマスターされて復刻されています。
昨年入手した『想い出の映画挿入歌集』は、ちょっと選曲が好みじゃなかったんですが、
今作はすごく気に入っています。
『想い出の映画挿入歌集』は、いきなりマヒナスターズの「お座敷小唄」で始まるという、
日本人にはビックリな選曲集で、ラテンにジャズにワルツと洋楽の影響色濃い流行歌集で、
ミャンマーらしい曲が少ないのが、ぼくには物足りませんでした。

しかし今作は、冒頭からオルガンに銅鑼などの伝統楽器の伴奏にのせて、
ミャンマー音階を使ったメロディで歌う曲に始まり、
サイン・ワインにサンダヤーを伴奏にした伝統歌謡などが前半に並び、引き込まれます。
中盤あたりから、ラテンやノベルティな曲が出てくる曲順がいい感じ。
外国曲のカヴァーでは、コニー・フランシスの「可愛いベイビー」が出てきますよ。
ウィンウーの甘やかな声で歌うクルーナー・ヴォイスも、
この時代の雰囲気を横溢していて和めますね。

Win Oo "KHAING MAR LAR HNIN SI" M United Enertainment no number
Win Oo "MEMORIES OF FILM SONGS" M United Enertainment no number


コメント(0) 

魅惑の60年代南ヴェトナム歌謡 [東南アジア]

NHAC TIỀN CHIẾN VOL 1.jpg

オールド・デイズな演出を施したジャケット写真に、
古いヴェトナム歌謡をリヴァイヴァルした企画アルバムと思いきや、
まさしく50年代後半から60年代初め頃とおぼしき音楽が流れてきて、驚愕!
新作ではなくて、デッドストックだった古い1枚で、
印刷の感じからして、90年代のアメリカ製と思われるCDです。

内容は、全世界的なロック流行前の、都会の紳士淑女のための大衆歌謡。
タイに例えるなら、まさしくルーククルンといった世界。
ナイトクラブなどで歌われていたのであろうラウンジーな演奏で、
オーケストラ伴奏ではなく、少人数のコンボ演奏がほとんど。

うわぁ、こんな時代のヴェトナム歌謡、初めて聴いたなあ。
8人の歌手による12曲を収録していて、
「美しい昔」の代表曲で知られるカーン・リーも名を連ねていますけれど、
チン・コン・ソンの曲で有名になる後年の歌声とはだいぶ違い、
まだチン・コン・ソンと出会う以前の、クラブ歌手時代の録音のように思えます。

ラウンジーといっても、マレイシアのP・ラムリーやサローマのような
ジャズやラテンの要素が希薄なのは、フランスの植民地ゆえでしょうね。
しみじみとした暗い曲が多いんですけれど、演歌調にならず、
乾いた情感のあるところが、ルーククルンと共通性を強く感じるところですね。

もう少し時代が下ると、サイゴンでは
ビートルズなどロックの影響を受けた音楽も盛んになり、
そういった録音は、ドイツのインフラコム!が
“Saigon Supersound” のシリーズでコンパイルしましたね。
このCDはそれより以前の時代の音楽ということになります。

タイトルに大きく「ニャック・ティエン・チエン」とあり、「戦前音楽」を意味します。
この戦前とはヴェトナム戦争を指すのではなく、
フランスと戦った独立戦争のインドシナ戦争を指しているので、
1954年以前の音楽ということになるんですね。

しかし、このCDに収録された音源は録音が良く、
分離の良いステレオ録音からすると、54年以前の録音のはずがなく、
もっと後年の録音であることは明らかです。
45年生まれのカーン・リーが、クラブ歌手時代に録音したと考えると、
どんなに早くても60年代前半でなければつじつまが合いません。

インドシナ戦争後、南北にヴェトナムが分断されると、
北ヴェトナムではニャック・カック・マンと呼ばれる革命のための音楽が盛んとなりますが、
南ヴェトナムでは欧米の音楽の影響を受けたナンパなポップスが盛んになるという、
真逆の傾向を示します。共産国家と民主国家の典型的な構図ですね。

当時、年配向けにニャック・ティエン・チエンふうの曲も作曲され続け、
南ヴェトナム時代(54~75年)に作曲された曲も含め、ニャック・ティエン・チエンと
呼ばれることもあるようです。近年ブームとなったボレーロは、
南ヴェトナム時代の曲を含むニャック・ティエン・チエンと同義と思っていいのでしょう。

このCDに収録されたシー・プー、ハー・タン、レー・トゥ、
タイ・タン、タン・トゥイ、アン・ゴックは、南ヴェトナム時代に
ニャック・ティエン・チエンの歌手として人気を呼んだ歌手たちだそうです。
すると、本作はニャック・ティエン・チエンといっても、54年以前のものではなく、
南ヴェトナム時代の録音なのでしょう。ラスト・トラックのエレキ・ギターの音や
馬が走るSEに至っては、70年代以降の録音であることは確実です。
ジャケット写真の明らかなノスタルジー演出が、それを表していて、
最初にリヴァイヴァル企画作と思ったのは、結果として正解だったみたいですね。

ヴェトナムにもこういう音楽が流れていた時代があったのかとカンゲキして、
いろいろ調べてみましたが、
やっぱりぼくは、ロック流行以前の大衆歌謡が、一番好きだなあ。
ギターとトランペットが間奏をとる曲なんて、30年代の昭和歌謡をホウフツとさせますよ。

そうそう、1曲すごく面白い曲(‘Suối Mơ’)があるんです。
イントロにスティール・ギターが大々的にフィーチャーされるんですけれど、
ハワイアンなんかじゃなくて、ダン・バウ(一弦琴)を模した演奏になっているんですね。
この曲には、ほかにダン・チャン(箏)や笛も使われていて、
伝統音楽の要素がない曲揃いのなかで、ユニークな仕上がりとなっています。

Sĩ Phú, Hà Thanh, Khánh Ly, Lệ Thu, Thái Thanh, Thanh Thúy, Anh Ngọc, Ban Thăng Long
"NHAC TIỀN CHIẾN VOL 1" Tinh Hoa Mien Nam THMNCD003
コメント(0) 

ティーラシンになったキンポーパンチ [東南アジア]

Khin Poe Panchi 200126_01.jpg   Khin Poe Panchi 200126_02.jpg

年明け1月21日、キンポーパンチのフェイスブックの写真に驚愕!
なんと! ロング・ヘアをばっさりと剃髪してしまっているじゃないですか!!
えぇ~、キンポー、出家しちゃったんですか !?

ピンク色の袈裟にオレンジ色の帯を肩にかけて托鉢する写真や、
僧院で修行している様子、食事をとっている写真などが多数アップされていて、
キンポー、すごく満ち足りた表情をしています。
ずっとこの日を待ち望んでいたというふうですね。
フェイスブックの一般公開ページに載った写真を2枚だけ転載させてもらいました。

う~ん、去年キンポーパンチの新作が出た時に、
「敬虔な仏教徒のミャンマー伝統歌謡」という記事を書いたばかりですけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-10-16
はぁ~、本当に信心深いんですねえ。

ミャンマーの上座部仏教について知識がないので、あわてて調べてみると、
出家したわけではなく、ティーラシンと呼ばれる女性修行者になったようです。
上座部仏教においては、女性は僧侶となれないため、尼僧は存在せず、
ティーラシンは女性修行者と呼ぶのが正しいようです。
出家に準じた生活を送るものの、身分的には在家者であるため、
男性の出家者に比べて俗的と考えられているとのこと。

男の子が得度式をするのと同じで、修行後はまた俗世に戻るのでしょうけれど、
ばっさり落とした髪の毛、歌手活動はどうするんでしょうか。
まさか還俗せず、そのまま仏門に入るわけじゃないよねえ。

一抹の不安をおぼえていたら、2月5日のフェイスブックに、
タイから来た8人の僧侶を迎える祝賀式典で、
おかっぱのウィッグを付けたキンポーパンチが、
1万人以上はいそうな広大な広場の最前列で、
キーボードを伴奏に歌っているヴィデオがアップされていて、ひと安心。

Khin Poe Panchi  KHAM NAR AHLU.jpg

ビックリさせられたキンポーパンチの近況でしたけれど、
実は、最新作が出ていたんです。
去年の12月16日に新作発表の記者会見がフェイスブックに載って、
8月に新作が出たばかりなのに、間をおかず新たな作品を出すとは絶好調の証し。

表紙の右上隅には、ゲストの男性歌手3人の写真が載っていて、
そのうちの一人、ウィンナインソーとは2曲でデュエットしています。
あとのタハーアウンとバンヤーハンはキンポー抜きで、それぞれ1曲歌っています。
キンポー・ファンにとっては、この2曲は無くても良かったかなあ。

今作はミャンマータンズィンあり、サイン・ワイン楽団伴奏の伝統歌謡ありと
ヴァラエティに富んだ内容となっています。
ウィンナインソーとデュエットするタイトル曲の1曲目は、
終盤で歌謡ロック調のバンド演奏から、
サイン・ワイン楽団にスイッチする形式のミャンマータンズィン。

一方、前作では登場しなかったサイン・ワイン楽団の伴奏が聞けるのも、
今回の聴きどころ。シンセを加えて、さらに華やかにしたサイン・ワインのサウンドが、
ベースとドラムスが加わるポップス調サウンドと、いい対比となっています。

Khin Poe Panchi "KHAM NAR TAE AHLU" Man Thiri no number (2020)
コメント(0) 

ヒップ・ホップに宿る濃厚なクメールの味わい クラップ・ヤ・ハンズ [東南アジア]

Klap Ya Handz  2019.jpg

続くときは続くもので、ヒップ・ホップの好盤がまたしても手元に。
アフリカから場所を移して、今度はアジア、
クメール・ヒップ・ホップ、クラップ・ヤ・ハンズの新作です。

クラップ・ヤ・ハンズは去年日本初上陸して、カンボジア・フェス(@代々木公園)や
Soi48 のパーティで話題沸騰となりましたね。
ぼくは訳あって、どちらにも参戦できず、悔しい思いをしたんですが、
ライヴ会場で手売りされていたという、新作CDをようやく入手することができました。

クラップ・ヤ・ハンズを知ったのは、もう10年くらい前になりますけれど、
レーベル発足から7年の間のベスト・トラック集のMP3CDに圧倒されて、
いっぺんでファンになりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-02-23
ただその後、音信が途絶えてしまって、どーしてるんだろうと思っていたんです。

MP3CDのヴォリュームには及ばない、37分程度のアルバムですけれど、
方向性にブレはなく、トロー・チェー(二胡)などの伝統楽器を使いながら、
古いカンボジア歌謡の味わいを色濃く残したトラックなどを聞かせます。

今回、特にグッときたのが、スレイリアックという女性歌手をフィーチャーしたトラック。
コブシを利かせ、クメール伝統歌謡のニュアンスを濃厚に感じさせる歌いぶりに、
イッパツでメロメロになりました。

彼女、クラップ・ヤ・ハンズと一緒にやる前には、
ビア・ガーデンなどでロ・セレイソティアやパン・ロンといった
内戦前の往年の名歌手のカヴァー曲をずっと歌っていたそうで、
クラップ・ヤ・ハンズにスカウトされてからも、
ヒップ・ホップをやっている意識はないとのこと。

もともと今風の曲が好きになれず、
昔の曲が好きでカヴァーばかりしていたスレイリアックにとって、
自分が歌いたい歌を用意してくれるクラップ・ヤ・ハンズは、
うってつけのプロジェクトだったようです。

本作に収録されたスレイリアックの‘Sneha Knong Pel Reatrey’ は、
プロデューサーのソック“クリーム”ヴィサルが共同監督を務めた映画
“KROAB PICH” の劇中歌だとのこと。
この人、来日したメンバーの中にもいたそうで、あぁ、生声聴きたかったなあ。

長らく情報が途絶えていただけに、
変わらず活動を続けている様子がわかっただけでも大収穫。
ちょうどエム・レコードからも日本盤が出て、ますます注目が集まること必至でしょう。

Ouk & Yut, Vin Vitou, Jimmy, Nen Tum & Ago, Ruth Ko, Reezy, Shagadelac, Yuth, Sreyleak, Khmer Jivit, Vuthea
"KLAP YA HANDZ" KYP no number (2019)
コメント(0) 
前の30件 | - 東南アジア ブログトップ