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マイ・ベスト・アルバム 2023 [マイ・ベスト・アルバム]

和久井沙良  TIME WON’T STOP.jpg   Michael Pipoquinha  UM NOVA TOM.jpg
Stan Mosley  NO SOUL, NO BLUES.jpg   Levelle  PROMISE TO LOVE.jpg
Toto ST  FLAVORS OF TIME.jpg   LINION  Hideout.jpg
Dayang Nurfaizah  BELAGU II.jpg   Dato’ Siti Nurhaliza  SITISM.jpg
EABS meets Jaubi  IN SEARCH OF A BETTER TOMORROW.jpg   Koma Saxo  POST KOMA.jpg

和久井沙良 「TIME WON’T STOP」 アポロサウンズ APLS2211 (2022)
Michael Pipoquinha "UM NOVA TOM" Umbilical 21#03 (2023)
Stan Mosley "NO SOUL, NO BLUES" Dialtone DT0032 (2022)
LeVelle "PROMISE TO LOVE" SoNo Recording Group no number (2023)
Toto ST "FLAVORS OF TIME" 17A7 17A722004 (2022)
LINION 「HIDEOUT」 嘿黑豹工作室 no number (2023)
Dayang Nurfaizah "BELAGU II" DN & AD Entertaintment no number (2023)
Dato’ Siti Nurhaliza "SITISM" Siti Nurhaliza Productions/Universal 5840000 (2023)
EABS meets Jaubi "IN SEARCH OF A BETTER TOMORROW" Astigmatic AR024CD (2023)
Koma Saxo "POST KOMA" We Jazz WJCD50 (2023)

2023年は、ようやくライヴ観戦再開となった年。
もともとライヴへ熱心に通うタイプではなかったけれど、
3年もまったく生を観なかったなんて、音楽人生で初の異常事態。
聴きたい人がなかなか来日してくれないけれど、今後に期待ですね。
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モザンビーク少数民族チョピ人の木琴ティンビラ マチュメ・ザンゴ [南部アフリカ]

Matchume Zango  TATEI WATU.jpg

旅するサックス奏者仲野麻紀が日本に連れてきた、
モザンビークのティンビラ(木琴)奏者マチュメ・ザンゴの19年作。
ライヴ会場で手売りするために本人が携えてきたのだそう。

モザンビーク南部の少数民族チョピ人の木琴ティンビラが
世界的に知られるようになったのは、ヒュー・トレイシーが
48年に著した “CHOPI MUSICIANS” がきっかけ。
ヒュー・トレイシーが43年から63年にかけて録音した
ティンビラ演奏の5曲が、いまはSWPの『南部モザンビーク編』で聞けます。

SOUTHERN MOZAMBIQUE 1943 ’49 ’54 ’55 ’57 ‘63.jpg

低音から高音まで各音域を受け持つ10台以上のティンビラが、
いっせいに鳴らされる合奏は、まさにド迫力。
バリ島のジェゴグやトリニダード島のスティールバンドにも劣らぬ大音響で、
倍音とサワリ音が嵐のように迫ってくるんですが、
ヒュー・トレーシーの録音は古くて、さすがにそこまでの迫力は感じ取りにくい。

Timbila Ta Venacio Mbande.jpg   Venancio Mbande Orchestra  TIMBILA TA VENANCIO.jpg

ぼくが最初にブッとんだティンビラ・オーケストラは、
92年にベルリンで録音されたヴェナンシオ・ンバンデのヴェルゴ盤です。
ヴェナンシオ・ンバンデ率いるオーケストラは、もう1枚
00年に現地でフィールド録音されたネクソス盤があって、
この2枚はティンビラ・オーケストラのスゴさを体感できる名作です。

この2枚のリーダー、ヴェナンシオ・ンバンデ(1933-2015)は、
首長に捧げる組曲ンゴドを演奏する伝統音楽家として、
長きにわたるモザンビーク内戦期間中も定期的に演奏を続けた偉人です。

ンバンデは6歳で叔父からティンビラを習い、
18歳で南アの鉱山労働者として出稼ぎに出て、同じチョピ人鉱山労働者
とともにティンビラを演奏し、56年にオーケストラを編成して作曲を始めました。
95年にモザンビークへ帰国してからはティンビラ学校を設立して、
ヒューの息子アンドリュー・トレーシーの支援を受けながら、
チョピの音楽遺産を後世に残しました。

先に挙げたヴェルゴ盤やネクソス盤に収録されているンバンデの曲を、
ベース、ドラムス、ギター、キーボードといったバンド演奏で
現代化して聞かせているのが、マチュメ・ザンゴのアルバムです。
ジャケットのサブ・タイトルにあるとおり、ンバンデのトリビュート作で、
ジャケットに写っているのもンバンデなら、ライナーにも
マチュメとンバンデが一緒に写っている写真が載っています。
このアルバムでティンビラは、マチュメともう一人による2台だけで演奏されていますが、
ンバンデのオリジナルに沿ったアレンジになっていますね。

Eduardo Durão & Orquestra Durão  TIMBILA.jpg

こうしたティンビラの伝統音楽をモダン化した試みでは、
グローヴスタイルが91年に出した
エドゥアルド・ドゥランのアルバムがありましたね。

最後に、ティンビラとは複数形の呼び名で、単数ではンビーラといいます。
ジンバブウェ、ショナ人の親指ピアノ、ンビーラと同じ名称なのです。

Matchume Zango "TATEI WATU: TRIBUTO VENÂNCIO MBANDE" Nzango Studio no number (2019)
Field Recordings by Hugh Tracey "SOUTHERN MOZAMBIQUE 1943 ’49 ’54 ’55 ’57 ‘63" SWP SWP021/HT013
Timbila Ta Venancio Mbande, Mozambique "XYLOPHONE MUSIC FROM THE CHOPI PEOPLE" Wergo/Haus Der Kulturen Der Welt SM1513-2/281513-2 (1994)
Venancio Mbande Orchestra "TIMBILA TA VENANCIO" Nexos World 76016-2 (2001)
Eduardo Durão & Orquestra Durão "TIMBILA" Globestyle CDORBD065 (1991)
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ジャズで描くトリニダードのカーニヴァル史 エティエン・チャールズ [カリブ海]

Etienne Charles  CARNIVAL.jpg

21世紀のジャズ・ミュージシャンたちが、自身のルーツを深く研究して、
みずからのジャズに取り入れようとするのは、
いまや全世界的にみられる傾向ですね。
グローバルになったジャズで、みずからのアイデンティティを
ルーツ・ミュージックに見出そうとするのは、自然の成り行きといえます。

エティエン・チャールズもまさにその一人で、
前回取り上げたクリスマス・アルバムは、エンターテインメントと
ルーツ・ミュージックの希求が見事に融合した作品でした。
同じカリブ海出身のジャズ・ミュージシャンでは、
奇しくも同じトランペッターのエドモニー・クラテールがいましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-07-26
エドモニーはグアドループ出身で、
島の伝統音楽であるグウォ・カを取り入れたジャズを演奏しています。

7作目を数えるエティエンの17年作は、
これまで歩んできたトリニダード音楽探求の旅が
素晴らしい果実となって実ったのを実感させる最高傑作です。
16年にグッゲンハイム奨励金を得たエティエンは、
カーニヴァル時期のトリニダード島を訪れて、
さまざまなフィールド・レコーディングを行い、
作曲のインスピレーションとアルバムの構想をまとめたのでした。

1曲目の ‘Jab Molassie’ の冒頭から、
ビスケット缶(苛性ソーダ缶とともにスティールドラムが発明される前に
使われていた打楽器)を乱打する金属音が響き渡り、
元解放奴隷の製糖工場の労働者たちが悪魔に仮装して踊った、
トリニダードのカーニヴァルでもっとも古い仮装のジャブ・モラッシーが演じられます。
ハイチ系アメリカ人ドラマーのオベド・カルヴェールが、
2001年に録音されたジャブ・モラッシーのリズムに重ねて
複雑なポリリズムをかたどります。

2曲目の ‘Dame Lorraine’ はカーニヴァルのパロディ劇で、
クレオール女性の神秘で官能的なダンスを再現したもの。
4曲目の ‘Bois’ は、1881年のカンブーレイ暴動を契機に1884年に非合法化された
スティックファイティングを表現した曲で、カレンダのリズムで演奏されています。
このほかにも、エティエンがフィールドレコーディングした
タンブー・バンブーやアイアン、スティールパンをフィーチャーしながら、
カーニヴァルのエネルギーを再現した演奏に感服するほかありません。

エティエンとともにこの物語を演じるのは、ジェイムズ・フランシーズ、
ダビッド・サンチェス、ゴドウィン・ルイス、ブライアン・ホーガンズ、
アレックス・ウィンツ、ベン・ウィリアムズという精鋭がずらり。
これほどの作品、これまでまったく話題に上らなかったのが、信じられません。

Etienne Charles "CARNIVAL - THE SOUND OF PEOPLE VOL.1" Culture Shock Music EC007 (2017)
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今年はクレオール・クリスマス エティエン・チャールズ [カリブ海]

Etienne Charles  Creole Chriistmas.jpg

クレオール・クリスマス!
今年のクリスマスは、トリニダードのトランペット奏者エティエン・チャールズですよ。
夏に見つけたんですが、半年近く寝かせておりました。

エティエン・チャールズは、ミシガン、イースト・ランシングを拠点に
活躍するジャズ・ミュージシャン。ロバータ・フラック、マーカス・ロバーツ、
マーカス・ミラー、カウント・ベイシー・オーケストラ、モンティ・アレクサンダー、
グレゴリー・ポーターなど数多くのアーティストのサイドマンとして活動するかたわら、
ソロ・アーティストとしてトリニダード音楽文化に深く傾倒したアルバムを
制作し続けている、注目すべき音楽家です。

それはエティエンのアルバム・タイトルを見れば一目瞭然で、
06年のデビュー作は “CULTURE SHOCK”、09年のセカンドは “FOLKLORE”、
11年のサードはなんと “KAISO” ですよ。
カイソはカリプソの前身となった歌謡音楽ですね。
15年の4作目 “CREOLE SOUL” に次いで同年に出された5作目が、
このクリスマス・アルバムなのでした。

これがもうゴキゲンなんですよ。
1曲目はマイティ・スポイラーの59年のカリプソ ‘Father Christmas’ で、
歌うはなんとリレイター! 現役カリプソニアンでは最高の人で、
アンディ・ナレルと共演した名作を覚えている人も多いはず。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2009-07-03
ビッグ・バンド・スタイルで歌う、クラシックなカリプソの味わいがたまりません。
そうそう、アンディ・ナレルはリレイターが歌う別の曲にゲスト参加していますよ。

続く2曲目は、チャイコフスキーのくるみ割り人形第2幕第12曲の「チョコレート」。
この曲をトリニダードのクリスマス音楽パランにアレンジして聞かせます。
パランは、ベネズエラから伝わったスペイン系歌曲で
ストリングス・アンサンブルを伴奏に歌われる音楽です。
ここではベネズエラの都市弦楽アンサンブルのスタイルで演奏していて、
ベネズエラ人クアトロ奏者ホルヘ・グレムの超絶プレイが聴きどころ。

トリニダードの偉大な作曲家ライオネル・ベラスコの曲も2曲、
名曲 ‘Juliana’ と ‘Roses Of Caracas Waltz’ を取り上げています。
クアトロのホルヘ・グレムに加えて、
ヴェテランのベネズエラ人マラカス奏者クラリタ・リヴァスに
北マケドニア人クラリネット奏者イスマイル・ルマノフスキーが参加。
ベラスコの曲らしい古風なエレガントさが、見事に表現されています。

そんなノスタルジックな曲もあれば、ドニー・ハサウェイの ‘This Christmas’ や
定番の ‘Santa Claus Is Cominng Town’ のハツラツとした演奏もあって、
エンターテインメント作品としてのクオリティも申し分ないアルバムです。

このほかトリニダードのミュージシャンでは、
ナット・ヘップバーンの61年のカリプソを歌うデイヴィッド・ラダーが
いつになく優しい歌い口で歌っているのも珍しければ、
ヴェテラン・ベース奏者のデイヴィッド・ハッピー・ウィリアムズにも注目。
シダー・ウォルトンのグループで長年活躍してきた人ですけれど、
この人もトリニダード人ですね。

そして驚きは、ラスト・トラックでフィドルを演奏するスタンリー・ローチ。
なんとこの人、ポート・オヴ・スペインのストリートで演奏しているおじいちゃん。
こんなストリート・ミュージシャンをスタジオに呼ぶエティエン、
ただものじゃありません。

最後に、本人の発音が不明のため、いちおう「エティエン」と書いてきたものの、
「イーティエン」と発音する人もあり、正確な読みは不明です。
一部で書かれる「エティエンヌ・チャールズ」と仏・英語をごっちゃに読むのは、
さすがに違うでしょう。

Etienne Charles "CREOLE CHRISTMAS" Culture Shock Music EC005 (2015)
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ジョアン・ジルベルトの「カリニョーゾ」 [ブラジル]

João Gilberto  AO VIVO NO SESC.jpg

98年4月5日、ジョアン・ジルベルトが
サン・パウロのセスキ・ヴィラ・マリアナ劇場で行ったライブ録音がお蔵出し。
この2枚組CDを最初に店頭で見かけた時はスルーしたんだけど、
98年録音ならギリギリ大丈夫かなと思い直し、買ってみました。

「ギリギリ大丈夫」というのは、2000年の “JOÃO VOZ E VIOLÃO” で
ジョアン・ジルベルトのあまりの衰えぶりにガクゼンとなり、
以後ジョアン・ジルベルトのフォローをやめたからです。
ところが日本ではこの頃からジョアンを神格化して、
「法王」などと持ち上げる傾向に拍車がかかり、
ぼくはますます反発を感じて、後年のジョアンを完全無視するようになりました。

前にも書きましたけど、ぼくにとってのジョアン・ジルベルトは
色気あふれる初期だけで、後年では85年のモントルー・ライヴがゆいいつの例外でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-11-05
ジョアン・ジルベルトは枯れた味わいが出るようなタイプの歌い手じゃないから、
後年の神格化する非音楽的な評価は、愚かしい権威付けにすぎません。

で、問題は90年代という録音時期です。
オフィシャルで出た94年のサン・パウロのテレビ特番のライヴ
“AO VIVO - EU SEI QUE VOU TE AMOR” も衰えが目立って、
早々に処分してしまったし、手元にある96年のイタリアの
ウンブリア・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ盤がまあまあ悪くないといったところ。

果たして98年のライヴはどんなものかと、疑心暗鬼で聴き始めましたが、
それほど衰えは感じられず、ジョアンも気分良く歌っていますね。
わずか645人という観客数は、度を越した完璧主義者に快適だったのかも。
老人声で色気を求めるべくもないところは、目をつぶりますけれど。

ジョアンが愛する古いサンバや往年のボサ・ノーヴァ全36曲は、
ファンにはおなじみのレパートリー。2時間弱というヴォリュームで、
96ページのブックレットには、ポルトガル語・英語解説と全曲の歌詞が付き、
原曲の歌詞をジョアンが変えて歌っている箇所も、丁寧に書かれています。

発売元のSESCによれば、
‘Violão Amigo’ ‘Rei Sem Coroa’ がCD初収録とありますが、
それよりびっくりなのは、ピシンギーニャとジョアン・ジ・バーロの大名曲 ‘Carinhoso’。
ジョアンが歌う「カリニョーゾ」なんて初めて聴いたぞ。これもCD初収録じゃないの?

ブラジル音楽の名曲中の名曲、情熱的なラヴ・ソングですけれど、
曲がドラマティックに盛り上がる一番の聞かせどころ、
‘Vem, vem, vem, vem’ (来て、来て、来て、来て)を、
ジョアンはギターだけの演奏にして、歌わないという暴挙に出ています。
過度な表現を抑えて、さりげない歌にしたかったのでしょうか。

歌い出しからして、歌とギターの拍をずらしまくり、
小節の区切りも無視して先走ったり、跳ねたり、縮めたりと自由自在に歌う、
ジョアン独特の無手勝流ギター弾き語りが
この名曲「カリニョーゾ」でも遺憾なく発揮されています。
ジョアン・ジルベルトの歌のシンコペーション感覚って、まぢ変態。
この1曲だけで、この2枚組は聴く価値があると思いますよ。

João Gilberto "AO VIVO NO SESC 1998" SESC CDSS0177/23
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バンバラのチワラ ムサ・ジャキテ [西アフリカ]

Moussa Diakite  Blue Magic.jpg

ジャケットに写る木彫りは、バンバラ人の農耕の祭儀で登場する仮面のチワラ。
アフリカン・マスクの代表的な頭上面のひとつで、
バンバラの神話で農耕をもたらしたとされる
ローン・アンテロープ(羚羊)がモチーフとなっています。

前に紹介したミシェル・ユエットの写真集にも、
チワラを頭上に載せて、畑を耕すしぐさで踊っている
仮面ダンスの写真が載せられています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-10-15
チワラにはオス・メスがあり、オスはたてがみを持ち、
メスは背中に子供を載せているんですね。
ぼくはオスのチワラを持っていますが、
このジャケットに写っているのもオスのチワラです。

ワスルをルーツとするバンバラ人ギタリストで、現在シドニーで活躍する
ムサ・ジャキテの新作は、昨年の記事の最後に取り上げた
“KANAFO” の次作となります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-09-02

前作同様、マリ・オーストラリア人音楽家の合同作業で、
クレジットの名前から察するに、ンゴニ、カマレ・ンゴニ、バラフォン、コラ、
バック・コーラスがマリ人で、ベース、ドラム・キット、キーボード、ハーモニカなどが
オーストラリア人のようです。演奏はまったくのアフリカン・マナーで、
両者が実にしっくりと共演しています。

タイトル曲は、バンバラらしいマイナー・ペンタトニックのインスト曲で、
物悲しいメロディが胸に染み入る印象的なトラック。
ハーモニカが効果を上げているほか、タマの達者なソロもフィーチャーされます。

ムサの枯れた歌声がシブくて、味わい深いことこのうえないですね。
ダンサブルな曲での飾らないラフな歌いっぷりもよければ、
ゆっくりと語りかける曲での慰撫するような優しい歌い口も沁みます。
ギターはキレがあり、キリッと音色が立つタッチが、
さすがはシュペール・レイル・バンドでならした人と嬉しくなります。

Moussa Diakite "BLUE MAGIC" Wassa no number (2023)
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チャレンジングな作曲と即興 蘇郁涵 [東アジア]

Yuhan Su  LIBERATED GESTURE.jpg

ニュー・ヨークで活動する台北出身のヴィブラフォン奏者スー・ユーハンの新作。
18年の前作で注目した人なんですが、新作がこれまた強力。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-04-07

前作とはメンバーを全員変えていて、
ピアノはクレイグ・テイボーンの後釜としてティム・バーン・グループに起用された、
マット・ミッチェル、アルト・サックスはシンガポール出身のキャロライン・デイヴィス、
ベースは今年オリ・ヒルヴォネンと共に来日したマーティ・ケニー、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-09-23
ドラムスはM-Base 的な変拍子やリズムの崩しも得意とするダン・ワイス。

スー・ユーハンは、モーダル・ジャズを更新する
コンテンポラリーなタイプの音楽家ですけれど、
フリー寄りのインプロヴィゼーションを展開するマットのピアノと、
M-Base の変拍子ファンクを引用したリズム展開も聞かせるダンのドラムスによって、
今回はかなり攻めた作品に仕上がっていて、もうめちゃくちゃカッコイイんですよ。
ファンクとスウィングが同居するダンのドライヴ感には、ワクワクさせられます。

ユーハンの抒情味のあるメロディを生かしたハーモニー豊かな作曲と、
キレッキレのリズムと時に乱調に及ぶ抽象度の高いスリリングな即興が絶妙です。
前作でも緊張と緩和の押し引きに感じ入ったけれど、
スー・ユーハンの魅力は、作曲と即興のバランスの良さだなあ。
ラスト・トラックの終盤で、コミカルなインプロを繰り広げたあとに、
音量を落としてスッと終わるカッコよさに降参です。

Yuhan Su (蘇郁涵) "LIBERATED GESTURE" Sunnyside SSC1717 (2023)
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コンポーズと即興演奏のオーガナイザー コマ・サクソ [北ヨーロッパ]

Koma Saxo  POST KOMA.jpg

コマ・サクソの新作がスゴイことになってる。
前作のエクレクティックなサウンドに、
未来派ジャズを幻視したような錯覚を覚えたものですが、
今思えば、それは錯覚じゃなかったんですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-05-23

ジャズ、クラシック、フォーク、ファンク、ビート・ミュージック、エレクトロニカと、
あらゆる音楽の実験場となっていた前作でしたけれど、
今作はその実験がひとつの完成形を見せていますよ。
どアタマから強靭なゆらぎビートで、クリス・デイヴ以降のジャズと
ビート・ミュージックを咀嚼したグルーヴがたまりません。

今作では、ペッター・エルドがサンプラーをかなり積極的に使用していて、
随所に短いカット・アップを組み込むなど、
サウンド・アーティストぶりを発揮しているんですが、
同時に即興演奏を際立たせるサウンドの構成が巧みで、
楽曲に明確なヴィジョンがあって、それを実現するアイディアも豊富なのね。
全13曲中1曲を除いてたった1日で録音した後に、
エルドが録音を重ねて完成させています。

なにより今作のいいのは、サウンドの風通しが良いこと。
リーダーのペッター・エルドのフレキシブルな音楽姿勢がメンバーに伝わり、
メンバー同士がインスパイアしあって、演奏にサプライズが起こっています。
コンセプト・アルバムの色彩が強かった前作とは、演奏の爆発力が違います。

バップからフリー・ジャズを経由してビート・ミュージックまでシームレスに繋がっていて、
ジャズの歴史を横断しつつ21世紀のジャズを響かせるコンポジションがスゴイ。
コンポーズと即興演奏をオーガナイズするペッター・エルドの力量を示した傑作です。

Koma Saxo "POST KOMA" We Jazz WJCD50 (2023)
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移民音楽家がクリエイトするマルチカルチュラル・ジャズ グエン・レ [西・中央ヨーロッパ]

Nguyên Lê Trio  SILK AND SAND.jpg

ヴェトナム系フランス人ギタリスト、グエン・レの新作。
19年の前作も年の暮れに聴いた覚えがありますけれど、
今回もまた年末に聴いているのでした。今年の3月に入荷していたんだけど。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-12-29
今作もグエン・レらしいワールド・ジャズが全面展開した作品となっていますね。

ぼくがグエン・レのジャズをワールド・ジャズだという解釈をしているのは、
ジャズがグローバル化しているというのとは別の文脈で、
ワールド・ミュージックのジャズ的展開と捉えているからです。
グエン・レは、音楽教育機関を経ずに独学でジャズ・ミュージシャンとなった人で、
マルチニーク、カメルーン、セネガル、モロッコ出身ほかのミュージシャンが集まった、
ウルトラマリンというグループへの参加がキャリアのスタートでした。

グエン・レはロック、ファンク、ジャズをベースに、自身のルーツである
ヴェトナムの伝統音楽を自分の音楽に取り込むのと同じ作法で、
アフリカ、カリブ、アラブ、アジアなどさまざまな音楽家との交流を経ながら
マルチカルチュラルな音楽世界を生み出してきました。

グエン・レのワールド・ジャズが、けっして無国籍音楽とならないのは、
それぞれの音楽要素がフュージョン(融合)して溶けて消えてしまうのではなく、
それぞれの独自性を輝かして、ハイブリッドな音楽に昇華させているからです。
まさしくそれは、パリを拠点に活動する移民系音楽家のなせる業でしょう。

トリオ名義の本作は、前作に続くカナダ人ベーシストのクリス・ジェニングスと、
スティングのバンドで活躍するモロッコ人打楽器奏者ラーニ・クリジャが参加。
ゲストにサラエボ出身のトランペッター、ミロン・ラファイロヴィッチ、
ウルトランマリン時代の仲間のカメルーン人ベーシスト、エティエンヌ・ムバッペ、
フランス人フルート奏者シルヴァン・バロウが加わります。シルヴァンはここでは、
インドの竹笛バンスリ、アルメニアのダブルリードの木管ドゥドゥクを吹いています。

冒頭から変拍子使いで、クランチ・サウンドのギターが楽しめます。
グエン・レの楽曲は11拍子を多用するんですけれど、
今作には十進記数法を逆手に取った ‘Onety-One’ なんてタイトルの曲もあります。

これまでワールド・ジャズと形容していたグエン・レのジャズですけれど、
むしろマルチカルチュラル・ジャズと呼んだ方がいいのかもしれないと思い直しました。

Nguyên Lê Trio "SILK AND SAND" ACT 9967-2 (2023)
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ポスト・バップが蘇る南アの社会状況 アッシャー・ガメゼ [南部アフリカ]

Asher Gamedze  TURBULENCE AND PULSE.jpg

アッシャー・ガメゼのような音楽家が存在していることが、
現在の南ア・ジャズ・シーンの活況ぶりを証明していますよね。
アッシャー・ガメゼのデビュー作では、その政治的強度に圧倒されましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-05
今回のアルバムでも彼のラディカルな姿勢に、1ミリのブレもありません。

南アで蘇った「ミンガス・ジャズ」。
端的に言えば、この一言に尽きちゃうんですけれど、
前作の記事では、リヴァイヴァルとかレトロとかの誤解を招きかねないかと、
こうした形容を控えてスピリチュアル・ジャズを言及するに止めたんですが、
そんな遠慮は必要ないと、この新作で実感しました。

ガメゼがやっているジャズは、60年代のミンガス・ジャズと見事に共振しています。
じっさいのところ、ガメゼが
チャールズ・ミンガスを意識しているのかどうかはわかりませんが、
公民権運動を背景とした当時のアメリカ黒人意識の精神性と共有するものが、
ガメゼにあるのは確実でしょう。

黒人が置かれている社会状況が一向に改善せず、BLM運動が盛り上がったアメリカで、
それこそミンガス・ジャズが蘇ってもなんら不思議はないんですが、
むしろ南アで蘇ったのは、南アにおいてはBLM運動以前に、
70年代のブラック・コンシャスネス運動(BCM)を歴史の記憶として、
南ア・ジャズの音楽家が継いでいるからなんじゃないのかな。

ミンガスの代表作 “CHARLES MINGUS PRESENTS CHARLES MINGUS” を
連想させずにはおれないピアノレスの2管カルテットは、デビュー作と同じメンバー。
オープニングのガメゼによるモノローグは、本作のマニフェストといえるもので、
バックで弾いているピアノもクレジットはありませんが、おそらくガメゼでしょう。
古めかしさえ覚えるポスト・バップのサウンドが、こんなに美しく奏でられることに、
あらためて感動してしまいますよ。

ミンガスの激しさを思索的なサウンドに置き換えたような10曲のあとに、
アナザー・タイム・アンサンブルと名付けられたグループと
カイロでライヴ録音された3曲が収録されているのも聴きもの。
アナザー・タイム・アンサンブルは、モーリス・ルーカ(シンセ)、
アドハム・ジダン(ベース)、チーフ・エル=マスリ(ギター)の3人のカイロの音楽家に
アラン・ビショップ(アルト・サックス)が加わったグループ。
サブライム・フレークエンシーズ主宰のアラン・ビショップが登場するとは
いささか驚きましたが、ここではもっとのびのびと自由に演奏していて、
このメンバーとの録音ももっと聴きたくなります。

Asher Gamedze "TURBULENCE AND PULSE" Inernational Anthem Recording Co. IARC0057 (2023)
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ピアノとヴォイスのミニマリズムが表すウブントゥ タンディ・ントゥリ [南部アフリカ]

Thandi Ntuli with Carlos Niño  RAINBOW REVISITED.jpg

揺るぎないピアノの力強さ。
左手がかたどる音塊に、南ア・ジャズの伝統がしっかりと息づいています。
とりわけントゥリの祖父レヴィ・ゴドリブ・ントゥリが作曲した
‘Nomoyoyo’ の温かなハーモニーは、南アからしか生まれない、
教会音楽ゆずりの美しさが宿っていますね。

新世代の南ア・ジャズ・ミュージシャンとして注目を集めるピアニスト、
タンディ・ントゥリの新作は、ロス・アンジェルスのアンビエント・ジャズの鬼才
カルロス・ニーニョとの共演作です。
タンディが大作 “EXILED” を発表した翌年19年の8月、
カリフォルニアのヴェニス・ビーチのスタジオで録音されたもので、
シカゴのインターナショナル・アンセムからリリースされました。
なんとカヴァー・アートは、シャバカ・ハッチングスが描いています。

バークリーの奨学金を蹴ってケープ・タウン大学で学んだタンディは、
クラシック・ピアノのスキルとアブドゥラー・イブラヒム直系の南ア・ジャズ・ピアノの
伝統を継承する一方、ハウス・プロデューサーとコラボレートしたり、
シャバカ・ハッチングスのアンセスターズにも一時期参加するなど、
21世紀のグローバルなジャズ・シーンに確かな爪跡を残してきました。

そんなタンディだからこそ、カリフォルニアでカルロス・ニーニョと共演したのも、
彼女の野心的な音楽的冒険なのだろうと、容易に想像がつきます。
しかし本作は、タンディのピアノとヴォイスのパフォーマンスをメインとした作品で、
カルロスとの出会いがもたらす化学反応のようなものを期待すると、
肩透かしかもしれません。

カルロスは、浜辺に打ち寄せる波音のサンプリングや
シンバルなどのパーカッションをコラージュした2つのトラック(3・7曲目)のほかは、
サウンドスケープをうっすらとトリートメントする程度の
きわめて控えめなサポートにとどまっています。

一方、タンディはピアノのほか、シンセやトンゴという小太鼓も演奏し、
矢野顕子の『長月 神無月』を連想させるヴォイスを聞かせます。
矢野顕子ほど奔放な歌いっぷりじゃありませんが、
のびやかな自由さは、両者共通するところがありますね。

ジャケット裏に、タンディによるアルバム・タイトルの詩が書かれていて、
そのなかに、「ウブントゥの本当の意味を求めて努力するように」とあります。
ズールー語のウブントゥとは、アフリカの伝統的な概念で、
社会の構成員間の調和と分かち合いの精神を意味しています。
アパルトヘイトを乗り越えた南アにおいて、特に重要視されたウブントゥですが、
現実はそのようにはなっていません。

タンディはこのほかにも、
「『虹の国』とは、この土地の分断された魂を回復させる仕事であり、
私たち自身の傷ついた精神から始まる」と語っています。
合意やコンセンサスの重要性を強調し、コミュニティ全体の幸福を優先する
ウブントゥの倫理的価値観や哲学に回帰しようとするタンディの意志は、
その音楽に鮮やかに表現されています。

Thandi Ntuli with Carlos Niño "RAINBOW REVISITED" Inernational Anthem Recording Co. IARC0073 (2023)
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R&Bはこれがラスト作 K・ミシェル [北アメリカ]

K. Michell I'm The Problem.jpg

リーラ・ジェイムズとK・ミシェルの新作が一緒に届くなんて、どういう偶然!?
ぼく好みのディープな味わいのフィメール・シンガー揃い踏みとは、
なんか呼ぶものがあったんですかね(嬉)

K・ミシェルは16年作でノック・アウトを食らった人ですが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-04-16
その後2作出ていたんですね。ぜんぜん気付きませんでした。
アトランティックはクビになったのか、ようやく出会えた本作はインディ制作で、
タイトルどおり、問題多き人のようですねぇ。

16年作は、インナーのアートワークが強烈でしたけれど、
今作のジャケットもインパクト大。へたり込んでる場所はトイレなのか?
バック・インレイには、コミックふうのデザインを施していて、
あいかわらずどぎつい演出をしていて、露悪的になるのがこの人のキャラなのか。
アルバム・デビュー前に、ミッシー・エリオットをフィーチャーしたシングルで
注目を集めたこともあるそうで、ミッシーの芸風を継いでるのかな。

それにしても、イマドキのR&Bにはあるまじき、エモーショナルな歌いっぷりといったら。
‘No Pain’ なんてベティ・ライトかよといった趣で、
じっさい ‘No Pain, No Gain’ のリメイクぽい。
南部女の根性みせるってか。

なんでもこのアルバムを最後に、K・ミシェルはR&Bを引退して
カントリー・ミュージックへ転向する宣言しているとのこと。
CDには未収録ですけれど、配信では最後にボーナスで
どカントリーの ‘Tennessee’ が入っています。
ラスト・トラックが絶唱なだけに、この落差はデカイなあ。
CD未収録なのは、個人的にはホッだけれど、
R&Bシーンから消えるとはもったいないなあ。

K. Michelle "I’M THE PROBLEM" MNRK Music Group MNKCD402069 (2023)
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ソウルフルとは リーラ・ジェイムズ [北アメリカ]

Leela James  Thought U Know.jpg

この声、ですよ。
この苦みの利いた声を聴くだけでココロがざわつき、どうしようもなくなります。
胸をグィッとつかむ歌いっぷりの力強さに、ねじふせられました。
エモーショナルに歌っても、少し引いて落ちついた歌い方をしても、
感情のひだが複雑な色合いとなって、ニュアンス豊かに伝わってくる。
ソウルフルってのは、こういう歌をいうんだよ!
て、誰に向かって叫んでるんだかわからないんですが。

もう賛辞を重ねるしかない、3年ぶりとなるリーラ・ジェイムズの新作です。
3年前の前作も、大切に聴き込んだものですけれど、
新作もまた同様となりそうです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-12-06

歌詞を解さずに聴く自分ですけれど、
歌っているのは、ラヴ・ソングばかりではないでしょう。
エンパワーメントをテーマにしているとしか思えない、
聴いているだけで勇気をもらえるような、そんな懐の深い曲に胸打たれます。

制作は前作同様、敏腕プロデューサーのレックス・ライドアウトと
リーラによる共同プロデュースで、サウンドにスキはまったくなし。
リーラ・ジェイムズのアルバムって、いつもいい面構えで映っていて、
キリッとした顔立ちなんだけど、哀しみが宿っているような瞳に引き込まれます。

Leela James "THOUGHT U KNEW" BMG 538961802 (2023)
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エチオ・フォーク・ジャズ ネガリット・バンド [東アフリカ]

Negarit Band.jpg

「エチオソニック」シリーズの新作がひさしぶりに出ました。
フランシス・ファルセトが07年にスタートさせた「エチオソニック」シリーズは、
革命前のエチオピア音楽にスポットを当ててきた「エチオピーク」シリーズと違い、
現在進行形のエチオピア音楽から、
ファルセトの眼鏡にかなったアーティストをピックアップしています。

ユーカンダンツやトリオ・カザンチスを紹介してきたこのシリーズ、
いわゆるコンテンポラリーなポップスならば、
エチオピア現地のレコード会社に任せとけばいいので、
オルタナ的存在のバンドをセレクトしているのがミソ。
今回のネガリット・バンドは、新世代のエチオ・ジャズ・バンドで、
現地ではなかなかレコーディングの機会が与えられない、
インストのバンドをフックアップしています。

ユーカンダンツやトリオ・カザンチスの衝撃に比べれば、
ネガリット・バンドのソフィスケートされたエチオ・ジャズは、
フュージョン志向のエチオピア現地のトレンドと一にするもので、
ファルセトがライナーで言う「スムース・ジャズが中心の
凡庸なエチオピア・ジャズ・シーンの中では特別な存在」とは残念ながら思えません。
じっさいフュージョン的な甘さに流れるアレンジの曲もあって、
エチオピア音階をまったく使わないギター・ソロなんて、ただのフュージョン・ギター。
ファルセトがディスってる傾向は、このバンドにもあることは否定できないでしょう。

ドラムス、ベース、ギター、キーボード、サックス2、トランペットにワシント(笛)の
8人編成で、マシンコ、クラール、ケベロが加わる曲もあります。
エッジの利いた演奏を聞かせる曲もあるんですが、
それを全編で徹底させられなかったところは、やや残念かなあ。

とはいえこのバンドの強みは、リーダーのドラマー、テフェリ・アセファが、
少数民族の音楽に着目して、フォークロアなリズムを取り入れていることでしょう。
特にテフェリがバンド結成以前に、エチオピア南部の音楽を調査したことが
強く影響しているとみえ、ガモ(‘Ethiopia Danosae’)、
イェム(‘Ethiopia Danosae’)、コンソ(‘Kaffa Chafo’)、
ゲデオ(‘Tedayo’)など、南部の諸民族のリズムを多く取り上げているのは、
他にはないネガリット・バンドの個性ですね。

‘Lalibela’ では、ラリベロッチ(アズマリと並ぶエチオピアの音楽職能集団で、
曲名のラリベラは単数形)の歌声をサンプリングして使っていて、
クレジットを見たら、このサンプルは川瀬慈さんが録音したものなんですね。

エチオピア・フォーク・ジャズとして、もう一皮むけてほしいバンドです。

Negarit Band "ORIGINS" Buda Musique 860384 (2023)
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ヴァイタルなフランス産アフロ・ブラス・バンド バラフォニックス&マリー・メイ [西・中央ヨーロッパ]

Balaphonics & Mary May.jpg

バンド名が示すとおり、
バラフォンをメインに据えたフランス白人によるアフロ・ソウル・バンド。
フランスとバラフォンといえば、ブルキナ・ファソ人グリオとフランス人がコラボした
カナゾエ・オルケストラがありましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-12-20
こちらでバラフォンを叩いているのはフランス白人。

以前はバラフォン奏者が二人いたようですけれど、本作では一人となり、
バラフォンよりサックス2,トランペット、トロンボーンによる
4菅のホーン・セクションを前面に打ち出したアフロ・ブラス・バンドとなっています。
ベースはスーザフォンが担っているところも、なかなかユニークです。

21年の前作では、モリバ・ジャバテやジュピテール&オクウェスといった
ゲスト・ヴォーカルを迎えていましたけれど、本作ではコンゴをルーツとする
アフリカ系フランス人シンガーのマリー・メイと1年間の共同作業を経て、
本作を制作したそうです。

か細く頼りなくも聞こえるマリー・メイのヴォーカル(ラップもする)は、
過去のアフリカン・ポップスの文脈からはまったく外れるタイプの歌声ですけれど、
21世紀のグローバルなポップスに溶解したアフリカン・ディアスポラの
チャーミングな声質は、十分魅力的です。

トニー・アレンのアフロビート・ドラミングやマンデ・ポップ、スークースなど、
さまざまなアフロ・ポップのエッセンスをミクスチャーしながら、
エモーショナルなサウンドにヴァイタリティをしっかりと宿しているところが、
超好感が持てますね。
ヌビアン・ツイストやココロコといったUK産アフロ・バンドと
ベクトルを一つにするフランス産バンドの快作です。

Balaphonics & Mary May "BALAPHONICS & MARY MAY" Vlad Productions VP267 - AD7858C (2023)
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