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ジャズで描くトリニダードのカーニヴァル史 エティエン・チャールズ [カリブ海]

Etienne Charles  CARNIVAL.jpg

21世紀のジャズ・ミュージシャンたちが、自身のルーツを深く研究して、
みずからのジャズに取り入れようとするのは、
いまや全世界的にみられる傾向ですね。
グローバルになったジャズで、みずからのアイデンティティを
ルーツ・ミュージックに見出そうとするのは、自然の成り行きといえます。

エティエン・チャールズもまさにその一人で、
前回取り上げたクリスマス・アルバムは、エンターテインメントと
ルーツ・ミュージックの希求が見事に融合した作品でした。
同じカリブ海出身のジャズ・ミュージシャンでは、
奇しくも同じトランペッターのエドモニー・クラテールがいましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-07-26
エドモニーはグアドループ出身で、
島の伝統音楽であるグウォ・カを取り入れたジャズを演奏しています。

7作目を数えるエティエンの17年作は、
これまで歩んできたトリニダード音楽探求の旅が
素晴らしい果実となって実ったのを実感させる最高傑作です。
16年にグッゲンハイム奨励金を得たエティエンは、
カーニヴァル時期のトリニダード島を訪れて、
さまざまなフィールド・レコーディングを行い、
作曲のインスピレーションとアルバムの構想をまとめたのでした。

1曲目の ‘Jab Molassie’ の冒頭から、
ビスケット缶(苛性ソーダ缶とともにスティールドラムが発明される前に
使われていた打楽器)を乱打する金属音が響き渡り、
元解放奴隷の製糖工場の労働者たちが悪魔に仮装して踊った、
トリニダードのカーニヴァルでもっとも古い仮装のジャブ・モラッシーが演じられます。
ハイチ系アメリカ人ドラマーのオベド・カルヴェールが、
2001年に録音されたジャブ・モラッシーのリズムに重ねて
複雑なポリリズムをかたどります。

2曲目の ‘Dame Lorraine’ はカーニヴァルのパロディ劇で、
クレオール女性の神秘で官能的なダンスを再現したもの。
4曲目の ‘Bois’ は、1881年のカンブーレイ暴動を契機に1884年に非合法化された
スティックファイティングを表現した曲で、カレンダのリズムで演奏されています。
このほかにも、エティエンがフィールドレコーディングした
タンブー・バンブーやアイアン、スティールパンをフィーチャーしながら、
カーニヴァルのエネルギーを再現した演奏に感服するほかありません。

エティエンとともにこの物語を演じるのは、ジェイムズ・フランシーズ、
ダビッド・サンチェス、ゴドウィン・ルイス、ブライアン・ホーガンズ、
アレックス・ウィンツ、ベン・ウィリアムズという精鋭がずらり。
これほどの作品、これまでまったく話題に上らなかったのが、信じられません。

Etienne Charles "CARNIVAL - THE SOUND OF PEOPLE VOL.1" Culture Shock Music EC007 (2017)
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