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イエメン・ユダヤ詩の祈り イエメン・ブルース [西アジア]

Yemen Blues  SHABAZI.jpg

イスラエルのミクスチャー・グループ、イエメン・ブルースの新作。
前作が15年の “INSANIYA” だから8年ぶりでしょうか。
13年の豪快なライヴ盤にも、ブッたまげましたよねえ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-05-29

奔放な歌いっぷりを聞かせる
イエメン生まれのジューイシュのラヴィッド・カハラーニーと、
クォーター・トーンを出せるトランペットを演奏するイタマール・ボロコフや、
ベース兼ウード奏者シャニール・エズラ・ブルメンクランツなど、
実力派ミュージシャンを揃えたイエメン・ブルースは、アラブ世界、東アフリカ、
ユダヤ文化の交差点であるイエメンが生んだ音楽をベースに、
ファンクやジャズのエネルギーを借りた音楽性のグループ。

新作は、17世紀のイエメン・ユダヤ詩黄金時代に輩出した二大詩人の一人、
ラビ・サーリム(シャローム)・シャバズィーの詩に、
ラヴィッド・カハラーニーとシャニール・エズラ・ブルメンクランツが曲をつけ、
アレンジ、プロデュースも二人が行って制作されました。

今作ではラヴィッドはゲンブリを弾いておらず、歌に専念していて、
サウンドのキー・パーソンとなっているのは、トランペットのイタマール・ボロコフですね。
トランペットを多重録音してサウンドに厚みを与え、
控えめにオルガンも演奏していて、ハーモニーを加えています。
レコーディングはテル・アヴィヴで行われていますが、1曲ニュー・ヨーク録音があります。

この曲のみ、ラヴィッド・カハラーニーとシャニール・エズラ・ブルメンクランツのほかは
メンバーが変わっていて、トロンボーンとトランペットの2管に、
バック・コーラス6人が付いたゴージャスなもの。
なんとドラムスは、12年にダンプスタファンクで来日したニッキー・グラスピーですよ。
ドライヴ感たっぷりの演奏で祝祭感のあるこのトラックが、今作のハイライトですね。

野外録音のラスト・トラックは、強い風が舞い鳥がさえずるなか、
ラヴィッド・カハラーニーが朗々とした声で、詩を吟唱します。
その揺るぎないこぶしの逞しさが、イエメン・ユダヤ詩の祈りなのでしょうか。
強く胸に訴えるものがあります。

Yemen Blues "SHABAZI" Music Development Company MDC033 (2023)
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ピッツィカ生体験 カンツォニエレ・グレカーニコ・サレンティーノ [南ヨーロッパ]

CGS Canzoniere.jpg   CGS Meridiana.jpg

カンツォニエレ・グレカーニコ・サレンティーノを日本で観れるとは!

以前カンツォニエレ・グレカーニコ・サレンティーノ
(以降CGSと略します)の記事を書いたとき、
山岸伸一さんが「今一番ナマで聴きたいグループです」とおっしゃっていましたが、
よくぞ呼んでくれました。MIN-ONとか労音じゃないところが、拍手喝采もんだな。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-01-24
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-01-31
関東は三鷹と所沢の2公演で、どちらも家からの所要時間は変わりないので、
初体験の所沢市民文化センターミューズで観てきたんですが、立派な会場で驚きました。

幕が開いて、いきなりタンブレッロ(タンバリン)から叩き出される、
重低音の高速ビートにシビれましたよ。
マルコス・スザーノの重戦車と形容されるパンデイロをホウフツさせます。
ピッツィカやタランテッラのスタッカートの利いた三連2拍子に、
シートでじっとなんかしておれず、身体がずっと揺れ続けました。

CGSは、南イタリア、サレント半島の伝統音楽ピッツィカを伝承してきた
古参グループですけれど、そのステージに土俗性は存外に薄く、
しっかりアレンジされているし、曲のサイズもコンパクトなんですね。
海外の観客向けに、自分たちの音楽の魅力をアピールする構成を作り上げていて、
海外公演やフェスティヴァルでの経験の豊富さがうかがえるパフォーマンスでした。

音響の良さも彼らのライヴ・パフォーマンスを引き立てていましたね。
ヴォーカルにエフェクトがかけられた場面があって、あれっ?と思いましたが、
ステージ上で操作している様子がなかったので、PA卓での操作でしょう。
サンプラー使いをする場面もあったので、PAによる音出しであることは間違いありません。
コンサート最後に、リーダーのマウロ・ドゥランテ(写真中央)が
エンジニアの名前もあげて紹介していたので、
ステージを作る重要メンバーの一人だということがわかります。

ヴォーカルは男性3人、女性1人が担っていましたが、
各人それぞれの声のカラーが異なっていて、グループの彩りを豊かなものにしていました。
明るく晴れ晴れと歌うブズーキ兼ギター奏者エマヌエーレ・リット(写真一番右)と
土臭さたっぷりの野趣なノドを聞かせるジャンカルロ・パリャルンガ(写真一番左)の
対照的な歌声が交互に歌われる場面が聴きもので、
アレッシア・トンド(写真右から3人目)の、
近所のお姉さん的な親しみのわく庶民的な歌いっぷりも良かったなあ。

ローカルな民俗音楽の本質を歪めることなく、コンテンポラリーな感覚も取り入れて、
インターナショナルへと伝えるCGS、楽しかったぁ!

CGS @ Tokorozawa.jpg

CGS (Canzoniere Grecanico Salentino) "CANZONIERE" Ponderosa Music CD142 (2017)
CGS (Canzoniere Grecanico Salentino) "MERIDIANA" Ponderosa Music CD151 (2021)
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歌い上げない美学 シティ・ヌールハリザ [東南アジア]

Dato’ Siti Nurhaliza  SITISM.jpg

ダヤン・ヌールファイザの新作で、
ひさしぶりにマレイ伝統歌謡の素晴らしさを堪能していたところ、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-17
さらに決定打といえるマレイ・ポップの最高作が登場しました。
誰あろう、シティ・ヌールハリザのぴかぴかの新作であります!
デジタル配信された8曲に、4曲を加えたデラックス・アルバムとしてリリースされ、
これはぜったいCDを買わなきゃ、ダメなやつでしょう。

21年の前作 “LEGASI” は、子供向けの企画アルバムだったので、
ポップ作は “MANIFESTA SITI 2020” から3年ぶり。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-09-16
バラードを中心に、ラッパーをフィーチャーしたナンバーや、
ポップ・ムラユもあるという、手を変え品を変えのレパートリーとなっています。
ダヤン・ヌールファイザの制作でコネクションができたのか、
本作にもブダペスト・スコアリング交響楽団が3曲で参加しています。

やっぱり聴きものは、バラードですねえ。
小さく歌っていても、横隔膜が良く開いて、
十分出せる発声をあえて抑制しながら歌うところに、シティの真骨頂が表われています。

呼吸の使い方が鮮やかで、ときに鼻から息を抜きながら歌うのを織り交ぜながら、
自在に発声の表情を変えていくのは、技巧を駆使して意識的にやっているのではなく、
歌詞に合わせた表現として、自然に振舞った結果の歌いぶりなのですね。
こういうところに、シティの歌のとてつもない上手さ、天才ぶりが示されています。

ソッと静かに歌う唱法のなかで、さまざまな技巧を示しながら、
ここぞという歌い上げそうな場面でも、
あえて歌い上げない抑制の利いた歌いぶりは、もはや美学といっていいでしょうね。
ドラマティックな曲では、もちろん歌い上げるパートもあるんですが、
ぜんぜんシツコくならないし、必要最低限の表現だから、押しつけがましさもありません。
3曲目の ‘Sehebat Matahari’ の歌唱なんて、神が降臨しているとしか思えません。

これほどまでに歌い上げない美学は、間違いなくシティの人柄からくるものですね。
控えめな人柄や我を通さない欲のない性格は、芸能人としては弱点なのではないかと、
かつてのスリア時代に感じたものですけれど、今となってはそうでなかったとわかります。
それがシティの美学であり、
タイトルが示す「シティのイズム」、すなわち「シティ主義」だったのですね。

Dato’ Siti Nurhaliza "SITISM" Siti Nurhaliza Productions/Universal 5840000 (2023)
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ギター・ミュージックの可能性 オリ・ヒルヴォネン [北ヨーロッパ]

Olli Hirvonen  Displace.jpg

ブルックリンを拠点に活動するフィンランド人ギタリスト、オリ・ヒルヴォネンが来日。
最新作 “KIELO” のレコーディング・メンバー、マーティ・ケニー (b) と
ネイサン・エルマン=ベル (ds) とのトリオのライヴを、
9月21日代官山「晴れたら空に豆まいて」で観てきました。

圧巻のギター・ミュージックでしたねえ。
クリーンなギターのトーンは、どんなに激しくカッティングしようが、
きらめくような美しさがあり、北欧の大自然を連想させる
雄大さと深淵さが伝わってきて、圧倒されました。
新作のフィンランドのフォークから着想を得た曲で、それは特に発揮されていましたね。

シングル・トーンからコード・ソロそしてリズム・カッティングへと、
自在にソロ・スタイルを変化させながら弾き倒す、オリのリズム感がスゴかった。
リズムにブレが寸分もなくて、正確無比。トレモロを多用するんだけれど、
音の均整が素晴らしくて、どんだけ練習すればあんなギターを弾けるんでしょうか。

4拍子と6拍子が何度もスイッチしたり、変拍子も多用しながら、
曲中に何度もギアを入れ替えて、瞬時にリズムを変化させるアンサンブルも見事でした。
14年にこのトリオを結成して、すでに10年近い活動歴を持つという、
3人の息の合い方が完璧。ネイサンのしなやかなドラミングが、
曲のスケール感を倍加させるダイナミズムを発揮していましたよ。
シンプルなドラム・セットを使い、ドラミングで歌わせるのが得意なドラマーなんですね。

ユニークだったのが、マーティ・ケニーがベースを弾かずにギターを使っていたこと。
開演前に、ベース・アンプにギターが繋がっていて、???と思っていたんですが、
エレクトリック・ベースの奏法でギターを弾いていて、こういうベースもあるんですねえ。

オリは11年にニュー・ヨークへ渡り、13年にマンハッタン音楽学校で修士号を取得、
16年にモントルー・ギター・コンクールで優勝し、
審査委員長のジョン・マクラフリンに賞賛されたギタリスト。
オリのギター・ミュージックには、コンテンポラリー・ジャズ、フォーク、シューゲイザー、
バロック音楽、ノイズ・ミュージックが養分となっているのが刻印されています。

サインを入れてもらった19年作の “DISPLACE” は、
このトリオにルーク・マランツ(p)が加わったアルバムで、
オリのアルバムでぼくが一番愛聴してきたもの。
すでにこの地点から、オリははるかに前進していましたね。
オリの独創的な音楽世界に、ギター・ミュージックの可能性は
まだまだ尽きないことを教えられた一夜でした。

Olli Hirvonen "DISPLACE" Ropeadope no number (2019)
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ハード・スクリームするニュー・オーリンズ・ソウル アーニー・ケイドー [北アメリカ]

Ernie K. Doe.jpg

アラン・トゥーサンがアレンジしたレコードに夢中だった高校時分に聴き倒した、
アーニー・ケイドーの71年ジェナス盤。
Astral さんのブログを見て、久しぶりに思い出しました。
サブスクにはあるけど、とうとうCD化されることはなかったなあ、
なんてひとりごちしながらネットをチェックしてたら、
あれ?オリジナル・ジャケットでCD化されてるじゃん!

さっそくポチったら、今年春に見つけたチャールズ・ブリマーと同じ、
グッド・タイムというナッシュヴィルのリイシュー・レーベルから出たもの。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-04-04
気になって調べてみたら、ドリス・デュークやベティ・ハリスのリイシューも出ている!
これはちゃんとカタログをチェックしなけりゃと思ってサイトを見たところ、
なぜかカタログはないんですね。バンドキャンプのページには、
ポピュラー、ジャズ、ソウル方面のオールディーズを中心に、
大量のデジタル・リリースをしていることがわかったんだけど、
フィジカルはどうやら大手オンライン・ショップからのオン・デマンドで作ってるぽい。

ただそれも、ジャケットを複製しただけのインナーに、CD-Rのディスク、
ソング・リスト以外のテキストがないんじゃあ、
サブスク時代のいま、わざわざ買う価値はないですね。
インナーもよくよくみれば、タイポグラフィを変えてるし、写真も拡大しているし。
ラテン・リイシューのスペインのヴィンテージ・ミュージックやカナダのユニコと同じで、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-02-28
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-05-07
CD時代終焉期の断末魔を象徴するレーベルでしょうか。

もう今後は買うつもりはないけれど、せっかく買ったので、
アーニー・ケイドー、書いておきましょう。
ぼくはこのアルバムで初めてアーニー・ケイドーを聴いたので、
だいぶあとになって知ったミニット時代の大ヒット曲 ‘Mother-in-Law’ が、
リー・ドーシーばりのニュー・オーリンズのノヴェルティなのには、ちょっと驚きました。

ジェナス盤は、のっけの ‘Here Come The Girls’ から
ニュー・オーリンズ・ファンク爆発で、
リー・ドーシーのようなトボけたノベルティではなく、
アーチー・ブラウンリーをアイドルとしていたというのもナットクの、
ゴスペルで鍛えたディープな歌声が魅力のアルバムです。
さんざんこっちを聴いてからミニット盤を聴いたもので、
とても同じシンガーとは思えず、しばらく戸惑いましたねえ。

本作のミーターズと思われるバックのグルーヴは、真正ニュー・オーリンズ。
ラストの ‘Talkin' 'Bout This Woman’ のガンボ風味など、真骨頂でしょう。
そんなニュー・オーリンズ色満載の伴奏で、
ハード・スクリームするシャウトをたっぷりと味わえる名作です。

Ernie K. Doe "ERNIE K. DOE" Good Time GTRCD1491 (1971)
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心の隠れ家 リニオン [東アジア]

LINION  Hideout.jpg

昨年瞠目した台湾の新世代シンガー・ソングライター、リニオンの3作目を数える新作。
CDリリースをずっと待ち焦がれてましたが、ようやく届きましたぁ。
2年遅れで聴いた前作は、いまの台湾インディ・シーンを支える
若い音楽家たちのレヴェルの高さに、驚嘆させられた大傑作でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-09-12
昨年の下半期から今年の春まで、一日も欠かすことなくヘヴィロテしていただけに、
新作への期待はいやおうなく高まっておりました。

生演奏によるオーガニックなネオ・ソウル・サウンドは前作を踏襲していて、楽曲も粒揃い。
期待を裏切らぬ仕上がりですが、新作を聴いてまず変化を感じたのは、タイトなドラミング。
前作がクリス・デイヴの影響あらかたな、もたったドラミングが印象的だっただけに、
おっ、ドラムスが変わったなとすぐに気づきます。

前作ではアメリカ西海岸で活躍するエファ・エトロマ・ジュニアが起用されていましたが、
今作はカリフォルニア出身のビアンカ・リチャードソンに変わっています。
ビアンカ・リチャードソンは、エファ・エトロマ・ジュニア同様、
ムーンチャイルドと共演歴があり、やはりというか予想通り二人とも、
リニオンがロス・アンジェルスへ留学していた時代の音楽仲間だそうです。

そしてアレンジは、リニオンと参加ミュージシャンが中心となっていて、
前作のアレンジのキー・パーソンだった雷擎(レイチン)の名前は、今回ありません。
オープニング曲のイントロで、ヴォーカル・ハーモニーを繰り出す新たな試みなど、
レイチンに劣らぬカラフルなサウンドを生み出しているのは、
リニオンを含む台湾の若手音楽家のレヴェルの高さの証明でしょう。

そして前作同様耳を引き付けられるのは、リニオンのグルーヴィなベース・プレイ。
粘り気たっぷりな後ノリのグイノリ・ベースが、もう辛抱たまらーん。
ジェリー・ジェモットをホウフツさせるクロマティックなライン使いや、
ウィルソン・フェルダーばりの重くハネるベースに耳ダンボとなります。

そして今年の金曲獎で最優秀新人賞を獲得した、
洪佩瑜(ホン・ペイユー)とのデュエット曲も聴きもの。
陳政陽のラウル・ミドンふうのアクースティック・ギターが印象的なラストまで
あっという間の8曲に、すぐさまアタマからリピートしてしまいます。
またまた半年間のヘヴィロテの始まり始まり~♪

LINION 「HIDEOUT」 嘿黑豹工作室 no number (2023)
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ボヘミアンのサンバ・ソングライター ウィルソン・バチスタ [ブラジル]

Wilson Baptista  EU SOU ASSIM.jpg

ラパ育ちのサンビスタで、悪党と交友関係をもって十代の頃に何度も逮捕され、
サンバ・ジ・ブレッキなどマランドロ気質のサンバを数多く生み出した作曲家、
ウィルソン・バチスタ(1913-1968)の生誕110周年記念作が出ました。
シロ・モンテイロが歌った ‘Oh, Seu Oscar! ’ 「おい、オスカルくん」の作者ですよ。

ウィルソン・バチスタというと有名なのが、ノエール・ローザと罵り合った大論争。
ヴィラ・イザベルの街を称えるために他の地区をけなしたのが発端となって、
サンバによる悪口の応酬となり、ウィルソンはノエールの顎のない顔を攻撃して、
「ヴィラのフランケンシュタイン」というサンバまで書くに至ります。
二人の論争は、ウィルソンが作曲した ‘Terra De Cego’ に
ノエールか歌詞を書いて終止符が打たれて、二人の間に友情が芽生えます。

Francisco Egydio Roberto Paiva.jpg

のちになって、この論争で生まれた曲が56年にオデオンでレコード化されました。
論争とは関係がないノエールの ‘João Ninguém’ も収録されていますが、
ノエールとウィルソンがバトルしたサンバを、
フランシスコ・エジディオとロベルト・パイーヴァが歌い、
レコードのジャケットには、ノエール(左)とウィルソン(右)が描かれました。
今回のアルバムには、この論争で生まれた ‘Conversa Fiada’ が取り上げられ、
なんとウィルソン本人のヴォーカルに、
新たに伴奏をつけたヴァージョンを聴くことができます。

今回の生誕110周年記念作が、過去に出された85年フナルチ盤や、
11年ビスコイト・フィーリョ盤のソングブック集と違うのは、
収録曲の半数でウィルソン・バチスタの声を使い、新たに伴奏をつけたところ。
これが画期的といってもいいほど、成功しているんですよ。

1曲目のエレピとハモンドにホーンズを配した洒脱なアレンジにのせて、
マランドラージェンたっぷりのヴォーカルを聞かせる ‘Meu Mundo É Hoje’ ではや完敗。
続くサンバ・ショーロの伴奏にのせた ‘Nega Luzia’ に夢見心地です。
半世紀以上も昔の録音と、かくもいきいきと共演できるものなのかあ。
‘Chico Brito’ や ‘São Paulo Antigo’ なんて、 今の録音に聞こえますよ。
ウィルソンのそっけない無頼な歌いぶりには、かすかな哀感が漂っていて、
そのやるせない情感にシビれます。

2枚組全30トラック(メドレーあり)中13トラックが、ウィルソンのヴォーカルで、
ほかはネイ・ロペス、ジョイス・モレノ、クリスティーナ・ブアルキ、ジョアン・ボスコ、
フィロー・マシャード、ネイ・マトグロッソ、ドリ・カイミなどが歌います。
サックス奏者エドゥ・ネヴィス、バンドリン奏者ルイス・バルセロス、
ギタリスト、パウロ・アラゴーンなど、多くのアレンジャーを迎え、
手を変え品を変えの伴奏も楽しいことこの上なし。

生誕〇〇周年の便乗作に感心したためしがないんだけど、これは買いです!

Wilson Baptista "EU SOU ASSIM" SESC CDSS0180/23 (2023)
[10インチ] Francisco Egydio, Roberto Paiva "POLÊMICA" Odeon MODB3033 (1956)
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サンバ・ソウルのディーヴァ パウラ・リマ [ブラジル]

Paula Lima  É ISSO AÍ!.jpg   Paula Lima  PAULA LIMA.jpg
Paula Lima  SINCERAMENTE.jpg   Paula Lima  O SAMBA É DO BEM.jpg

クルービ・ド・バランソで火が点いて、ひさしぶりにパウラ・リマが聴きたくなりました。
手元にあるのは、デビュー作から13年作までの4作。

う~ん、やっぱこの人の声は味があるなあ。
厚みがあって、ふくよかにバウンスする豊かな声。
ゆったりとたゆたうように粘っこく歌うかと思えば、
ハイ・トーンでシャープに切り込みながら、自在なフェイクで聴く者を翻弄したり、
これぞディーヴァと呼ぶにふさわしい歌いっぷり。
パウラ・リマは、サンバ・ソウルのクイーンですね。

サンバ・ソウルが大ブレイクした2001年は、
ファロファ・カリオカのフロントを務めたカリスマ・シンガーの
セウ・ジョルジが独立してソロ・デビューを果たした年でしたけれど、
期待が大きすぎたのか、セウのデビュー作は肩透かしでした。
その穴埋めをしてくれたのが、パウラ・リマのデビュー作だったんです。

セウはリオ、パウラはサン・パウロという違いはあれど、
二人とも70年生まれの同い年。
パウラにはクラブ・ジャズやヒップ・ホップのセンスもあって、
繰り出すスキャットも上品なジャズではなく
ストリートの猥雑さが匂い立つところが、いいんだな。

メジャーに移籍して出した03年のセカンドは、
蒲田あたりのライヴハウスから六本木のクラブに移っちゃったくらいの
プロダクションの変化があり、ぐっとゴージャスになりました。
なんせ「ムーンライト・セレナーデ」をポルトガル語カヴァーしてるくらいだから。
それでもパウラは、下町のざっくばらんなネエちゃんのまんまなのが嬉しい。
当時セウ・ジョルジがええかっこしいして、
鼻持ちならなくなってたのと好対照でありました。

06年のサードでは、カジュアルなプロダクションに戻って、ちょっとホッ。
やっぱりこういうムードの方がしっくりするなあ。
肩で風切ってたデビュー作から比べると、肩の力がぐっと抜けて、
歌いぶりに余裕が感じられますよ。
セウ・ジョルジの15年の最高傑作 “MUSICAS PARA CHURRASCO Ⅱ” の
ラストを飾った ‘Let's Go’ がこのアルバムで歌われています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-04-30

13年の “O SAMBA É DO BEM” は、サンバ・ソウルではなく、
ストレートなサンバを歌ったサンバ・アルバム。
デビュー作からパゴージのサンバを歌っていたから、
まるごと1枚ポップ・サンバで通しても、なんら違和感はありません。
このアルバムを最後に新作が出ていませんが、どうしてるのかな。

Paula Lima "É ISSO AÍ!" Regata 260.002 (2001)
Paula Lima "PAULA LIMA" Mercury 04400679332 (2003)
Paula Lima "SINCERAMENTE" Indie 789842012626 (2006)
Paula Lima "O SAMBA É DO BEM" Radar RAD4256 (2013)
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4年遅れで聴く結成20周年作 クルービ・ド・バランソ [ブラジル]

Clube Do Balanço  BALANÇO NA QUEBRADA.jpg

あれ? いつの間にフィジカルに!?
当初デジタル・リリースのみだった、クルービ・ド・バランソの19年新作。
21年にCDが出ていたのを気付かず、セール品になっていたのを見つけました。

というわけで、4年遅れで聴いた5作目を数える19年作。
グループ結成20周年作だったんですね。20年で5作というのは、
数が少なく思いますけれど、4年くらいおきに出るというインターバルは、
おっ、懐かしい!という気にさせられてそのたびに手を伸ばしてきたからか、
自分には珍しく、全作が手元にあります。駄作のないグループですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-10-28

思えば、クルービ・ド・バランソがデビューした01年は、
サンバ・ロック/ソウル・リヴァイヴァルで沸いた年。
パウラ・リマ、セウ・ジョルジ、マックス・デ・カストロ、ウィルソン・シモニーニャが
次々とデビューするなか、クルービ・ド・バランソも登場したんでした。

デビュー作は、オルランジーヴォ、ジョルジ・ベン、ベベートといった
往年のサンバ・ソウル・クラシックも取り上げて、
エラスモ・カルロス、ベベート、ルイス・ヴァギネルといった古参から、
ウィルソン・シモニーニャ、マックス・デ・カストロ、セウ・ジョルジ、
パウラ・リマ、イヴォ・メイレレスなどのリヴァイヴァル若手世代まで、
そうそうたるゲストを迎えて制作されていました。

あのデビュー作から20年、もはやサンバ・ソウル・クラシックに頼ることなく、
オリジナル曲だけで勝負できる実力派グループになったのを感じます。
ヴォーカル兼ギターのマルコ・マトーリ率いる8人組のメンバーも不動で、
トランペットとトロンボーンの2管を擁したアンサンブルも成熟しました。

今作ではノセノセのスウィングというより、
少し引いた感じのクールな演奏ぶりも楽しめ、
アダルトな魅力を感じさせるのが、20周年という力量でしょう。

Clube Do Balanço "BALANÇO NA QUEBRADA" YB Music no number (2019)
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ブラジル最高峰のジャズ ミシャエル・ピポキーニャ [ブラジル]

Michael Pipoquinha  UM NOVA TOM.jpg

やったあ~! ブラジルの超絶技巧ベーシスト、
ミシャエル・ピポキーニャが昨年デジタル・リリースした作品がついにCD化!
去年、これをフィジカルにしないなんて犯罪だぁ!と天を仰いだんだけど、
ついにやってくれました(感涙)。

ミシャエル・ピポキーニャは、96年北東部セアラー州リモエイロ・ド・ノルテの生まれ。
音楽一家に育ち、10歳の頃に祖父や父からベースを習い、
はや1年でプロのミュージシャンとして演奏していたという、早熟の天才です。
野外のステージで、サックス、キーボード、ドラムスを演奏する大人たちにまざって、
6弦ベースで堂々たるスラップを披露するプレイを YouTube で
観てブッとんだんですけど、これ、わずか14歳の時だったんだよねえ。

スタンリー・クラークやヴィクター・ウッテンの影響大なベース・プレイを、
磨きに磨き上げた超絶技巧が、もうハンパなくスゴイんですよ。
本作でも、 ‘Jazz Pipocado’ で絶頂期のジャコ・パストリアスを凌ぐ
驚異的なベース・ソロを披露しているんだけれど、
ジャコのベース・プレイの特徴を完璧にトレースしながら、
さらに洗練させて生前のジャコ以上にジャコらしく弾いてみせるんだから、参ります。

そして本作を聴いて、さらにブッたまげたのがピポキーニャの作曲能力。
めまぐるしくリズムを変化させて。変拍子も使いつつ複雑な構成を持つ楽曲が圧巻。
これほどの高い音楽性の持ち主だとは、心底驚きました。

ピポキーニャのベースに、ジョズエ・ロペスのサックス、チアゴ・アルメイダのキーボード、
フィロー・マシャードの息子セルジーニョ・マシャードのドラムスを中心に、
ヴァネッサ・モレーノのヴォイス、メストリーニョのアコーディオン、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-11-13
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-06-25
ペルナンブーコのアントニオ・ノブレガ(ラベッカではなくヴォーカルで参加)など、
大勢のゲストを迎えて制作されています。

入念に練り上げたスコアによるレコーディングであることは、間違いないですね。
21世紀のグローバル・ジャズの要素がすべて詰まっていて、ロバート・グラスパー、
サンダーキャット、ジェイムズ・フランシーズと肩を並べる作品ですよ。
それもそのはず、ピポキーニャはすでに15年にドイツのケルンで、
WDRビッグバンドやジェイコブ・コリアーとともに演奏をしているくらいだから、
その高い音楽性のキャリアはすでに十分なんですね。

今回のCD化で1点だけ悔やまれるのは、 ‘Confissão’ のみカットされてしまったこと。
収録時間79分ギリギリ収録できた気もするんだけどなあ。
とにもかくにもフィジカル作ってくれてバンザイな、ブラジル最高峰のジャズ作品です。

Michael Pipoquinha "UM NOVA TOM" Umbilical 21#03 (2023)
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ニャティティでサイケ・ロック ドクター・ピート・ラーソン・アンド・ヒズ・サイトトキシック・ニャティティ・バンド [東アフリカ]

Dr. Pete Larson and His Cytotoxic Nyatiti Band  2020.jpg   Dr. Pete Larson and His Cytotoxic Nyatiti Band  2021.jpg

ダゴレティというミシガンのインディ・レーベルから、
ケニヤ、ルオの伝統楽器ニャティティのマスターという、
オドゥオル・ニャグウェノのニャティティ弾き語りCDが出ています。
自然音も聞こえるレコーディングで、
携帯電話で録音したというお手軽なものとはいえ、音は悪くないし、
70を超す年齢を感じさせないニャティティの確かな演奏力と、
滋味に富んだ歌い口が味わえる好アルバムです。

Oduor Nyagweno  WHERE I GO, I AM THERE.jpg

その携帯電話の録音主が、レーベル・オーナーのピート・ラーソン。
このピート・ラーソンという人が相当面白い人物で、
オドゥオル・ニャグウェノをきっかけに知ったピート・ラーソンの方に、
がぜん関心がわきました。

ピート・ラーソンは、93年にミシガンで友人のジェイムズ・マガスとともに
アヴァンギャルド・ミュージックのレーベル、バルブ・レコーズを立ち上げ、
カウチというノイズ・ロック・グループで活動するほか、
DJ・パーティ・ガールことフミエ・カワサキのドラムスと2ピースの
メタル・ロック・バンド、25サーヴスでヴォーカルとギターを担当していました。
フミエ・カワサキとは、ダンス・アスホールというノイズ・バンドもやっていますね。
ラーソンはミュージシャンとして活動する時は、
ミスター・ヴェロシティ・ホプキンスという変名を使っていたようです。

バルブ・レコーズは、やがて中西部インディ・シーンに影響力を与えるレーベルに
成長しますが、ラーソンは00年代半ばに音楽活動を休止してケニヤに渡り、
マラリアの疫学研究のプロジェクトに従事したというのだから、急転回です。
現在ドクターを名乗っているのは、ダテじゃないんですね。
ラーソンはアヴァンギャルド・シーンのなかでも、
とびっきり騒々しく強烈なキャラクターで、変人中の変人と目され、
アンタッチャブルな人物という評判でしたけれど、
ケニヤで疫学研究をする人物像とは、どうにもイメージが合いません。

そんなわけで、まったく違った分野の仕事でケニヤへ渡ったものの、
音楽への渇望はあったんでしょう。ケニヤの伝統音楽に興味を持ち、
ニャグウェノと出会ってニャティティを直々に習ったのでした。
16年にナイロビ西部にある地区の名前を取ったダゴレティというレーベルを立ち上げ、
アメリカへ帰国後サイトトキシック・ニャティティ・バンドを結成。
19年にデビューLPを、20年のセカンド、21年のサードでLPとCDを出しました。

そして今回入手したのが、このセカンドとサードなんですが、いやぁカンゲキしました。
全員アメリカ人が演奏しているんですが、まぎれもないアフリカ音楽じゃないですか。
ラーソンが弾くニャティティの短いリフの反復から生み出されるグルーヴ、
そのグルーヴをリズム・セクションがポリリズムへと発展させ、
ドローンのように響くベースの合間を縫って、
のたうつような轟音をギターがとどろかせ、サイケデリックなサウンドを繰り広げます。

サイケデリック・ロックがこれほど見事に
アフリカ音楽に転換されている例もないんじゃないかと書きかけて、
今年初め、オーケストラ・ゴールドに出会ったばかりなのを思い出しました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-02-23
アメリカ人は、サイケデリック・ロックを通じてアフリカ音楽を咀嚼するのが得意なのかな?

ベースのデイヴ・シャープは、17年にナイロビのラーソンを訪ねて、
ナイロビでラーソンが率いていたンディオ・ササに参加していたというから、
バンド・メンバーがニャティティの音楽を理解しているのもしかりです。

曲のクレジットがありませんが、ラーソンがニャティティを習いながら覚えたと思われる
ルオの伝統曲や、伝統曲をモチーフとしたオリジナル曲なのでしょう。
徹底したアフリカン・マナーの楽曲が並んでいます。
セカンドでは、ルオ語かどうかはわかりませんが、
女性歌手がアフリカの言語で歌う曲もあります。

サード・アルバムのタイトル、ダンバラとは、ヴードゥーの精霊である大蛇ですね。
この世の万物を創造したとされるダンバラが、
ケニヤのニャティティとどういう関連があるのかわかりませんが、
セカンド・ジャケットでも大蛇を描いているあたり、
ラーソンはヴードゥーにも通じているのかな。
サカキマンゴーとぜひ共演させてみたい逸材です。

Dr. Pete Larson and His Cytotoxic Nyatiti Band "DR. PETE LARSON AND HIS CYTOTOXIC NYATITI BAND" Dagoretti DG36/BLB140 (2020)
Dr. Pete Larson and His Cytotoxic Nyatiti Band "DAMBALLAH" Dagoretti DG41/BLB142 (2021)
Oduor Nyagweno "WHERE I GO, I AM THERE" Dagoretti DG40/BLB151 (2021)
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夏にさよなら チャーリー・ハロラン・アンド・ザ・トロピカルズ [北アメリカ]

Charlie Halloran and The Tropicales  SHAKE THE RUM.jpg

酷暑に終わりが見えてきて、夏にようやくさよならを告げられそうです。
去り行く夏にぴったりの、ゴキゲンなニュー・オーリンズのバンドを見つけました。
リーダーのトロンボーンにサックス、ギター2、ベース、ドラムス、パーカッションの
7人編成で、50年代のカリプソとビギンを演奏するという、
オールド・カリブ音楽ファンには、ズイキの涙がちょちょぎれるバンドですよ。

なんせアルバムは、キング・レイディオ作のカリプソ ‘The Rythm We Want’ に始まり、
続いてアル・リルヴァ作のビギン名曲 ‘Doudou Pas Pleure’ が演奏されます。
このあとも、フィッツ・ヴォーン・ブライアン楽団が演奏したカリプソ ‘Vicki’、
ライオネス・ベラスコのカリプソ・ワルツ ‘Juliane’、
ロード・インヴェーダーのカリプソ ‘Barbados’、
サム・カステンデ楽団が演奏したビギン ‘Voltige Antillaise’ と、
マニアックなオールド・カリプソ、ビギンのレパートリーが目白押し。

ゲスト・ヴォーカルをフィーチャーしている曲もあって、
マイティ・スパロウが歌ったカリプソ ‘Dorothy’ は、
なんとニュー・オーリンズの名シンガー、ジョン・ブッテが歌っていますよ。
そして、デューク・オヴ・アイアンが歌った ‘Fifty Cents’ と
マイティ・スパロウが歌った ‘Mango Velt’ を歌うのは、
スクワール・ナット・ジッパーズのジンボ・マサスじゃないですか!

Squirrel Nut Zippers  HOT.jpg   Squirrel Nut Zippers  BEDLAM BALLROOM.jpg

いやぁ、懐かしい。スクワール・ナット・ジッパーズ、ご存じですかね。
90年代のスウィング・リヴァイヴァルで登場した、
ノース・カロライナのアクースティック・スウィング・バンドです。
96年の “HOT” と00年の “BEDLAM BALLROOM” は愛聴したなあ。
なるほどこのバンドの洒脱さは、スクワール・ナット・ジッパーズと共通しますねえ。
ジンボ・マサスは本作のミックスもしているので、バンドと近い関係があるんでしょう。

厳しかったこの夏、最後の嬉しいプレゼントです。

Charlie Halloran and The Tropicales "SHAKE THE RUM" no label no number (2022)
Squirrel Nut Zippers "HOT" Mammoth 354980137-2 (1996)
Squirrel Nut Zippers "BEDLAM BALLROOM" Mammoth MR65512-2 (2000)
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サマー・リゾートのライヴ・ミュージック クラブ・トリニ [北アメリカ]

Club Trini  MARGARITAVILLE CAFE.jpg

ジミー・バフェットが亡くなりましたね。
彼の音楽には縁がなかったんですけれど、彼の歌声が聞けるCDを1枚だけ持っています。
スティールドラム奏者ロバート・グリニッジとキーボード奏者マイケル・アトリーのバンド、
クラブ・トリニのライヴ盤で、ジミー・バフェットが3曲客演して歌っているんです。

このライヴは、ニュー・オーリンズのカフェ・レストラン、
マルガリータヴィルで録音されたものなんですね。
ジミー・バフェットのヒット曲からその名を取ったマルガリータヴィルは、
ジミー・バフェットが経営した有名チェーン店。

ジミー・バフェットはシンガーとして成功した後、レストラン事業で大成功を収めて、
アメリカ有数の資産家になりましたが、
そのレストラン事業のひとつがマルガリータヴィルで、
もうひとつのレストランのチーズバーガー・イン・パラダイスも、
彼のヒット曲のタイトルから取られています。

カントリーから出発して、南国をテーマにした歌詞で
トロピカル・ロックと呼ばれるサウンドで愛されたジミー・バフェットは、
あくせくせずにビーチで過ごす人という、
アメリカ人のひとつのライフスタイルを定着させました。

このクラブ・トリニのライヴ盤は、そんなビーチバムのイメージそのものの音楽で、
いかにもアメリカらしいリゾート・ミュージックを象徴するようで、お気に入りでした。
ここでジミー・バフェットは、エキゾ・アラブなメロディのアマズルのヒット曲
‘Cairo’ を歌うほか、‘No Woman No Cry’ でアルバムを締めくくっています。

ところでこのアルバムの主役は、ロバート・グリニッジのスティールドラム。
ロバート・グリニッジは、ヴァン・ダイク・パークスをはじめ、ニルソン、タジ・マハール、
カーリー・サイモン、ロバート・パーマー、キース・ムーンなど
数多くのミュージシャンに起用されました。
細野晴臣もロバート・グリニッジにスティールドラムを作ってもらったりしていて、
スティールドラムで最初に有名になったプレイヤーなんじゃないでしょうか。

サマー・リゾート・ミュージックの名ライヴを残したクラブ・トリニ、
酷暑が続く9月、まだまだお似合いです。

Club Trini "MARGARITAVILLE CAFE - LATE NIGHT LIVE" Mailboat MBD2001 (2000)
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ジャズ・ヴォーカルの地平から フィービ・スノウ [北アメリカ]

Phoebe Snow 1974.jpg

もし今の時代にフィービ・スノウが登場していたら、ベッカ・スティーヴンスみたいな
ジャズのシンガー・ソングライターという評価を受けていたのかもしれないな。
ウン十年ぶりにフィービ・スノウのデビュー作を聴き返して、そんな感想を抱きました。

ジョニ・ミッチェルの『ブルー』やキャロル・キングの『タペストリー』は、
数年遅れで聴いたんですけれど、フィービ・スノウの74年デビュー作は、
高校1年でリアルタイム体験。
1曲目の ‘Let The Good Times Roll’ のイントロのギターで、
はやノック・アウトをくらい、
ボニー・レイットばりの凄腕ブルース・ギターにシビれました。
そして独特のヴィブラートを利かせたクセのある歌いぶりに、トリコとなったんです。

ジャズ、ブルース、フォークを混然一体とさせた音楽性は、
他の誰も真似できない、フィービだけのユニークな個性でした。
‘Let The Good Times Roll’ や ‘San Francisco Bay Blues’ のカヴァーなんて、
のちになって原曲を聴いて、ぶったまげましたもん。ぜんぜん別の曲じゃん!
原曲破壊ともいえるアレンジで、そのユニークすぎる解釈に脱帽したものです。

のちにポール・サイモンとデュエットした ‘Gone At Last’ の
ゴスペル色のあるヴォーカルやアフロ・ヘアのルックスなどで、
ずっと黒人とばかり思っていましたが、
ユダヤ系白人と知った時には、心底驚きました。

フィービのデビュー作はアメリカでは大ヒットしたものの、
日本ではそれほどの評価をされませんでしたね。
日本のロック評論家はジャズぽいサウンドを嫌う人が多くて、
湯川れい子がすごく低い評価をしていたことを覚えていますよ。
逆にぼくがフィービにゾッコンになったのは、
トム・ウェイツ同様、そのジャズぽさゆえでした。

そういえば当時、ジョニ・ミッチェル、エリック・アンダースン、マイケル・マーフィー
といったシンガー・ソングライターたちがこぞってトム・スコットを起用し、
それぞれのアルバムでジャズぽいサックス・ソロを吹いてもらうのが、
ちょっとしたトレンドになっていたんですよね。

でも、フィービのこのデビュー作は、もっとずっと本格的だったんです。
なんせズート・シムズに、テディ・ウィルソンという大ヴェテランを起用していたんだから、
トム・スコットとは格が違いすぎます。
当時ズート・シムズの新作で、フェイマス・ドア盤 “ZOOT AT EASE” を
聴き倒していた時期でもあったので、ぼくにはどストライクでした。

Zoot Sims  ZOOT AT EASE.jpg   Phoebe Snow  NEVER LETTING GO.jpg

4オクターヴの音域を持つといわれたフィービのヴォーカルは、
のちの作品 “NEVER LETTING GO” などで、
新しいジャズ・ヴォーカル表現ともいえる歌唱を聞かせていましたが、
当時それを評価できる人がいなかったのは残念でした。
むしろいまジャズ・サイドから再評価すべき人なのかもしれませんね。

Phoebe Snow "PHOEBE SNOW" Shelter/DCC SRZ8004 (1974)
Zoot Sims "ZOOT AT EASE" Famous Door/Progressive PCD7110 (1973)
Phoebe Snow "NEVER LETTING GO" Columbia CK34875 (1977)
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モントリオールから届いたサンバ/MPBの良作 ジオゴ・ラモス [ブラジル]

Diogo Ramos  SAMBA SANS FRONTIÈRES.jpg

ステキなサンバ・アルバムを発見しました。
5年も前にリリースされていたのに気付かなかったのは、しかたなかったかな。
ブラジル盤ではなく、カナダで出された自主制作CDなのでした。
もちろん日本未入荷です。

ジオゴ・ラモスは、モントリオール在住のブラジル人シンガーソングライター。
音楽プロデューサーとして25年間活動し、作曲からプロデュースまで、
20枚のアルバムに関わってきたと、本人のサイトに書かれています。

18年の本作はモントリオールとサン・パウロで録音されていて、
ジオゴのギターに、カヴァキーニョ、ベース、ドラムスほか、
各種パーカッション、ホーンズ、コーラスという陣容。
知っている名前はありませんが、ほぼ全員ブラジル人のようです。

サン・パウロのシンガー・ソングライター、ペリと共作している曲があって、
え?と思ったら、ペリの05年と08年のアルバムをプロデュースしていたのが、
ジオゴだったんですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-11-28

な~るほど、あのセンスある品のいいサウンドを生み出した張本人ですか。
それもナットクのプロダクションで、ホーンやストリングスのアレンジが
曲の良さを倍加していて、ラヤラヤ・コーラスも登場します。
ご本人のソフトな歌い口は、サンバ・ノーヴォ世代のフィールですね。

歌詞カードには、カナダの雪景色や氷河などの写真にまじって、
ジオゴが雪積もる川辺でギターを弾いている写真もあります。
それはまるで初期のブルース・コバーンのような佇まいですけれど、
音楽は冬景色とはまるで似つかわしくない、朗らかな温かさに溢れたもの。

アタバーキを使いイエマンジャを歌ったバイーア流儀のアフロ・サンバあり、
ザブンバやトリアングロがバイオーンのリズムを奏でる曲もあり、
フランス語で歌う曲もある、カナダ産サンバ/MPBの良作です。

Diogo Ramos "SAMBA SANS FRONTIÈRES" Diogo Ramosc DIRAM1801 (2018)
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