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ニャティティでサイケ・ロック ドクター・ピート・ラーソン・アンド・ヒズ・サイトトキシック・ニャティティ・バンド [東アフリカ]

Dr. Pete Larson and His Cytotoxic Nyatiti Band  2020.jpg   Dr. Pete Larson and His Cytotoxic Nyatiti Band  2021.jpg

ダゴレティというミシガンのインディ・レーベルから、
ケニヤ、ルオの伝統楽器ニャティティのマスターという、
オドゥオル・ニャグウェノのニャティティ弾き語りCDが出ています。
自然音も聞こえるレコーディングで、
携帯電話で録音したというお手軽なものとはいえ、音は悪くないし、
70を超す年齢を感じさせないニャティティの確かな演奏力と、
滋味に富んだ歌い口が味わえる好アルバムです。

Oduor Nyagweno  WHERE I GO, I AM THERE.jpg

その携帯電話の録音主が、レーベル・オーナーのピート・ラーソン。
このピート・ラーソンという人が相当面白い人物で、
オドゥオル・ニャグウェノをきっかけに知ったピート・ラーソンの方に、
がぜん関心がわきました。

ピート・ラーソンは、93年にミシガンで友人のジェイムズ・マガスとともに
アヴァンギャルド・ミュージックのレーベル、バルブ・レコーズを立ち上げ、
カウチというノイズ・ロック・グループで活動するほか、
DJ・パーティ・ガールことフミエ・カワサキのドラムスと2ピースの
メタル・ロック・バンド、25サーヴスでヴォーカルとギターを担当していました。
フミエ・カワサキとは、ダンス・アスホールというノイズ・バンドもやっていますね。
ラーソンはミュージシャンとして活動する時は、
ミスター・ヴェロシティ・ホプキンスという変名を使っていたようです。

バルブ・レコーズは、やがて中西部インディ・シーンに影響力を与えるレーベルに
成長しますが、ラーソンは00年代半ばに音楽活動を休止してケニヤに渡り、
マラリアの疫学研究のプロジェクトに従事したというのだから、急転回です。
現在ドクターを名乗っているのは、ダテじゃないんですね。
ラーソンはアヴァンギャルド・シーンのなかでも、
とびっきり騒々しく強烈なキャラクターで、変人中の変人と目され、
アンタッチャブルな人物という評判でしたけれど、
ケニヤで疫学研究をする人物像とは、どうにもイメージが合いません。

そんなわけで、まったく違った分野の仕事でケニヤへ渡ったものの、
音楽への渇望はあったんでしょう。ケニヤの伝統音楽に興味を持ち、
ニャグウェノと出会ってニャティティを直々に習ったのでした。
16年にナイロビ西部にある地区の名前を取ったダゴレティというレーベルを立ち上げ、
アメリカへ帰国後サイトトキシック・ニャティティ・バンドを結成。
19年にデビューLPを、20年のセカンド、21年のサードでLPとCDを出しました。

そして今回入手したのが、このセカンドとサードなんですが、いやぁカンゲキしました。
全員アメリカ人が演奏しているんですが、まぎれもないアフリカ音楽じゃないですか。
ラーソンが弾くニャティティの短いリフの反復から生み出されるグルーヴ、
そのグルーヴをリズム・セクションがポリリズムへと発展させ、
ドローンのように響くベースの合間を縫って、
のたうつような轟音をギターがとどろかせ、サイケデリックなサウンドを繰り広げます。

サイケデリック・ロックがこれほど見事に
アフリカ音楽に転換されている例もないんじゃないかと書きかけて、
今年初め、オーケストラ・ゴールドに出会ったばかりなのを思い出しました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-02-23
アメリカ人は、サイケデリック・ロックを通じてアフリカ音楽を咀嚼するのが得意なのかな?

ベースのデイヴ・シャープは、17年にナイロビのラーソンを訪ねて、
ナイロビでラーソンが率いていたンディオ・ササに参加していたというから、
バンド・メンバーがニャティティの音楽を理解しているのもしかりです。

曲のクレジットがありませんが、ラーソンがニャティティを習いながら覚えたと思われる
ルオの伝統曲や、伝統曲をモチーフとしたオリジナル曲なのでしょう。
徹底したアフリカン・マナーの楽曲が並んでいます。
セカンドでは、ルオ語かどうかはわかりませんが、
女性歌手がアフリカの言語で歌う曲もあります。

サード・アルバムのタイトル、ダンバラとは、ヴードゥーの精霊である大蛇ですね。
この世の万物を創造したとされるダンバラが、
ケニヤのニャティティとどういう関連があるのかわかりませんが、
セカンド・ジャケットでも大蛇を描いているあたり、
ラーソンはヴードゥーにも通じているのかな。
サカキマンゴーとぜひ共演させてみたい逸材です。

Dr. Pete Larson and His Cytotoxic Nyatiti Band "DR. PETE LARSON AND HIS CYTOTOXIC NYATITI BAND" Dagoretti DG36/BLB140 (2020)
Dr. Pete Larson and His Cytotoxic Nyatiti Band "DAMBALLAH" Dagoretti DG41/BLB142 (2021)
Oduor Nyagweno "WHERE I GO, I AM THERE" Dagoretti DG40/BLB151 (2021)
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