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カーボ・ヴェルデのローカル盤はハイ・クオリティ ダニー・ロボ [西アフリカ]

Dany Lobo  NHA VIVENCIA.jpg   Dany Lobo  KELÉM.jpg

甘くダンディなヴォーカル。いやぁ、いいじゃないですか。
カーボ・ヴェルデの伝統歌謡を歌う、いい味出したオヤジ顔のダニー・ロボ。
地元制作のCDを見つけたんですが、主役の歌もいいんだけれど、
アクースティックな音作りのバックが見事で、聴き惚れちゃいました。

アレンジを手がけているのは、マルチ奏者のキム・アルヴェス。やっぱりねえ。
カーボ・ヴェルデの伝統ポップを手がけさせたら、この人を凌ぐ人はいません。
このアルバムでも、ギター、カヴァキーニョ、ヴァイオリン、ピアノ、アコーディオン、
ベース、ハーモニカ、フルート、パーカッションを演奏しています。

ホーン・セクション、ストリング・セクションを含め
20人以上のミュージシャンが参加していて、
カーボ・ヴェルデ地元制作のアルバムとしては、
めちゃくちゃ贅沢なレコーディングじゃないですか。
クレジットにはアルヴェス三兄弟のトーとカコ、サックスのトティーニョの名もあります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-02-26

ダニーロボって、どういう人なんだろうと調べてみると、
61年フォゴ島の南西岸にある町サン・フィリペ郊外の生まれ。
子供のころから自作の歌を作って、
ギターを弾き語りながらクラスメートを楽しませていたといいます。
15歳の時にフォゴ島からサンティアゴ島のプライアに移り住みますが、
カーボ・ヴェルデで音楽を生計を立てるのは難しく、
税関職員となって仕事のかたわら作曲を続けてきたそうです。

09年の本作がデビュー作で、18年にもう1枚出しているんですね。
う~ん、そちらも聴いてみたいなあと思いながら、
データベースに打ち込んでいたら、びっくり!
なんとその18年作、持ってるじゃないの!
あわてて棚をチェックしたら、あった、あった、この人かあ、と思い出しました。

ずいぶん昔にカーボ・ヴェルデ音楽のCDを大量買いした時に入手した1枚で、
ソフトな歌い口に惹かれたものの、あまり聴き込むこともなく、忘れていました。
あらためて聴き直せば、これもすごくいいアルバムじゃないですか。

どちらのアルバムも、モルナ、コラデイラ、バトゥク、フナナー、
そしてダニーの生まれ故郷フォゴ島のタライア・バシュといった
カーボ・ヴェルデ音楽の伝統に沿った曲ばかり。
いずれもメロディアスな佳曲で、そのすべてがダニーの自作なのだから、
ソングライターとしての才能の高さがわかります。

国外にはまったく知られていない、こうしたカーボ・ヴェルデ地元盤に
これだけの名作があるんだから、ほんとに侮れない。
これまでも色々見つけてきたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-03-17
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-01-26
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-01-24
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-12-07
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-12-05
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-05-25
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-02-27
これからも掘り続けなきゃねえ。

Dany Lobo "NHA VIVENCIA" no label no number (2009)
Dany Lobo "KELÉM" no label no number (2018)
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ガーナ=ドイツの実りあるコラボレーション ジェンバー・グルーヴ [西アフリカ]

Jembaa Groove  YE ANKASA.jpg

ガーナ臭さいっぱいのメロディに頬がゆるんじゃいました。
サウンドこそ洗練されたスタイルのアフロ・ソウルですけれど、
曲のメロディやヴォーカルの歌い口には、まぎれもなくガーナ印が刻まれていて、
すっかり嬉しくなってしまいました。

こういう音楽が、長きにわたってガーナから聞かれなくなっていたんですよ。
ガーナ色が失われたのは、なにも21世紀のアフロビーツの時代に始まった話ではなく、
シャレオツなソフト&メロウのボガ・ハイライフ時代からずうっと続いている傾向。
職を求めてガーナからドイツへ渡ったガーナ人が生んだボガ・ハイライフは、
ハイライフを更新するどころか、ガーナ音楽の要素を完全に捨て去り、
凡庸なポップスに堕していました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-03-25
ボガ・ハイライフにせよ、その後のヒップライフにせよ、
ガーナ音楽の魅力がすっかり失われてしまったのは、悲しい限りでした。

そんな不毛な時代を打ち破ってくれたのは、
エボ・テイラー、パット・トーマス、ジェドゥ=ブレイ・アンボリーという、
ファンキー・ハイライフ時代のヴェテランたちの復活です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-11-18
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-06-13
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-06-21
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-12-07
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-05-29

復帰当初こそ、ヨーロッパでのアフロビート・ブームの影響で、
ヨーロッパのプロデューサーたちに、
ハイライフでなくアフロビート寄りのサウンドを強いられる傾向がありましたが、
いまではすっかり本来のファンキー・ハイライフを取り戻しています。
これはヨーロッパのリスナーがナイジェリアのアフロビートとは異なる、
ガーナのハイライフの魅力にようやく気付けるようになったということなんでしょう。

ベルリンで20年に結成されたというジェンバー・グルーヴは、
ガーナ人シンガーのエリック・オウスとベルリンのベーシスト、
ヤニック・ノルティングが出会って生まれたバンドで、これが2作目。
作曲のクレジットはバンド名義になっていますが、
全部エリック・オウスの作なんじゃないかなあ。
ガーナ人じゃなければ、こんなメロディ書けないと思うよ。

プロデュースはヤニック・ノルティングですが、
コ・プロデュースになんとクワメ・イェボアの名が。
クワメ・イェボアについては、前に詳しく触れたので紹介を省くとして、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2024-04-18
本作ではジェドゥ=ブレイ・アンボリーとK.O.G をゲストに迎えていて、
ガーナ臭を全編でふんだんに撒き散らしていて、
ハイライフ・ファンの長年の渇きを癒してくれます。

なんでもエリック・オウスとヤニック・ノルティングが出会うきっかけとなったのは、
子供のお迎えの学校で知り合ったとのこと。
二人ともハイライフや70年代ソウルのファンということで意気投合し、
バンドの結成につながったのだそう。
ガーナ=ドイツの良き相互理解は、パパ友をきっかけに誕生したわけか。
ボガ・ハイライフ時代から時間はかかったものの、
ようやく実りある成果が誕生したといえます。

Jembaa Groove "YE ANKASA - WE OURSELVES" Agogo AR163CD (2024)
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ワールド・ミュージックのナレッジを蓄積した日本音楽 すずめのティアーズ [日本]

すずめのティアーズ.jpg

2年前、中西レモンの『ひなのいえづと』を聴いて舌を巻いた、
あがさのプロデュースとアレンジ能力。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-10-06
そのあがさと、ブルガリア民謡を現地で学んで、
ブルガリア国営テレビや国営ラジオの民謡番組に出演した経歴を持つ
佐藤みゆきが組んだすずめのティアーズの初アルバムが、
これまたトンデモな傑作。

江州音頭とブルガリア民謡が接続するわ、
神奈川県の洗濯歌にブルガリアの洗濯歌が接続するわ、
秋田の門付けの祝い歌とセルビア民謡が接続するわ、
アンコにトゥバの歌が挟み込まれるわ。
その奇抜なアイディアに驚くばかりなんですけれど、
そこになんら作為を感じさせないところがイイんだな。

この二人の良さは、その自然体ぶり。
探求心のままに世界の音楽を吸収してきたのであろう、
個人の出会いの偶然の産物が、
音楽をとてもしなやかにしています。
伝統を背負ったり、ルーツに縛られる者にはできない身軽さですね。

研究の末といった知に傾いたところがないのもイイ。
歌の由来に共通項を見出して、全く異質の音楽を接続しても、
心にスッとその歌と演奏が入り込んでくるのは、
ネラっていない、意図を持たない、良い意味での無邪気さゆえでしょう。

先日すずめのティアーズと中西レモンの3人のライヴを体験して驚いたのは、
あずさが弾くナイロン弦ギター。中西レモンのアルバムを聴いたときには、
ジャズ・コードやテンション・ノートを使っていないように聞こえたんですが、
じっさいのライヴを観たらバリバリ使ってました。

フラット・セブンス、ナインス、サーティーンス、ディミニッシュ、
さらにパッシング・ノートまで効果的に使い、奄美民謡の「糸繰り節」なんて、
めちゃジャジーになってましたけれど、ジャズ・コードが悪目立ちしないんですね。
すずめのティアーズ 中西レモン 2.jpgジャズではなく、
ブラジル音楽のハーモニーから
学び取ったコード感覚なのかも。

あずさと地声による
二声のポリフォニーで歌う、
佐藤めぐみの声の良さにも
感じ入りました。
佐藤の声には華があり、
中西レモンに負けない
強い声を持っています。
あずさはギターとフレーム・ドラム、
佐藤はブルガリアの縦笛カヴァルと
メロディカと錫杖を演奏。
佐藤の歌ぢからと選曲を、
あずさのアレンジとプロデュース能力で
まとめあげる、すずめのティアーズ。

日本の音楽もワールド・ミュージック時代
からのナレッジが積みあがり、演者自身の
スキルが上がったのを実感します。

すずめのティアーズ 中西レモン 1.jpg

すずめのティアーズ 「SPARROW’S ARROWS FLY SO HIGH」 ドヤサ! DYS007 (2024)
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前進するサハラン・ラウド・ロック エムドゥ・モクタール [西アフリカ]

Mdou Moctar  AFRIQUE VICTIME.jpg   Mdou Moctar  FUNERAL FOR JUSTICE.jpg

エムドゥ・モクタールの新作は、前作同様マタドールからのリリース。
19年のサヘル・サウンズ最終作 “ILANA:THE CREATOR” で完成をみた
エムドゥのサハラン・ロックは、インディーズ・ロックを代表するレーベル、
マタドールに移籍して、よりラウドな音響を獲得しました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-04-15

なんと、その前作をここで取り上げそこねていたとは、なんとウカツな。
サイケデリックなロック感覚とトゥアレグ音楽が持つトランシーな感覚を
見事に融合させた、鮮やかな作品でした。
轟音を響かせるエムドゥのリード・ギターをミックスによって際立たせ、
バンド・アンサンブルの音像をくっきりとかたどりながら、
爆音がサハラの熱気をよりダイレクトに伝えていました。
マイケル・コルタンがドラム・マシンを使ってエムドゥのリード・ギターを煽りたて、
すさまじいエネルギーを放出していたタイトル曲は、そりゃあ強烈でした。

そして新作はさらにパワー・アップ。
ヴォーカルやコーラス・ワークを立体的に配置するなど、
音響の効果的な仕掛けがより緻密になり、奥行きがでました。
じっさいのところ、エムドゥ・モクタールじたいのバンド・アンサンブルは、
19年作からほとんど変化していないものの、
マタドール盤2作が大きく変わったのは、音響の作り込み方によるもの。
これは、ベーシストとしてエムドゥ・モクタールに参加した
プロデューサーのマイケル・コルタンの功績でしょう。

前作では、エムドゥがアクースティック・ギターを弾く曲で、
トゥアレグのサウダージともいえるアソウフを感じさせましたが、
今作のアクースティック・ギターを弾く曲ではアソウフのニュアンスがなく、
徹底してロックしている姿勢が印象的です。
社会の不正義を訴えるエムドゥのブレのない熱意が、
むき出しのラウド・ロックにほとばしった快作です。

Mdou Moctar "AFRIQUE VICTIME" Matador OLE1614CD (2021)
Mdou Moctar "FUNERAL FOR JUSTICE" Matador OLE2031CD (2024)
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お母さんはハンガリアン・フォーク・シンガー アグネス・ジグモンディ [東ヨーロッパ]

Agnes Zsigmondi  WATER WOMAN.jpg

面白い自主制作CDを見つけました。
ハンガリーのフォーク・シンガーの92年作で、
マウス・ハープやリコーダーのソロ演奏もあれば、
ギター、ベース、ドラムスが加わってジャズ寄りの演奏を聞かせる曲もあります。
ファーク・ジャズといった穏やかな演奏から、かなりアグレッシヴな演奏もあって、
さまざまなんですけれど、主人公の変わらない自然体ぶりが爽やかです。

その柔軟な対応力に、さまざまな音楽家との交流を経てきた
ヴェテランなのだろうなと思いましたが、
アグネス・ジグモンディはハンガリーの先進的なフォーク・アンサンブル、
コリンダで74年から78年までリード・シンガーを務めていた人なんですと。
コリンダ以前にもフォーク・ダンス・アンサンブルやロマ・バンドで歌っていて、
やはりキャリアのある人だったんですね。

なるほどねとナットクしたんですが、CDを見ていて気になったのが名前。
表にはアグネス・ジグモンディとだけ書かれていますが、
裏には、アグネス・ジグモンディ・マクレイヴンとあります。
「え? マクレイヴン?」
まさかと思ったら、いまや時の人マカヤ・マクレイヴンのお母さん。

えぇ~、まじっすか!?
アグネスはコリンダをやめたあとソロ活動に転じ、
ブダペストからパリへ活動拠点を移した時に、
アメリカ人ジャズ・ドラマーのスティーヴン・マクレイヴンと出会って結婚。
パリでマカヤ・マクレイヴンを生んで、85年に家族で渡米したのだそうです。

スティーヴン・マクレイヴンはマックス・ローチに師事し、
アーチー・シェップとともに活動したヴェテラン・ドラマー。
この自主制作CDには、スティーヴンがドラムス、パーカッションで参加しているほか、
トニー・ペローンのギター、ジョー・フォンダのベースという実力派が脇を固めています。

レパートリーはハンガリーやブルガリアの民謡やジプシーの伝承曲を中心に、
アグネスの自作曲も2曲あります。
アルバム最後は、コリンダのかつてのメンバーのペテル・ダバシが作曲し、
アグネスが作詞した ‘Lullaby’。
この曲はのちにマカヤ・マクレイヴンが一昨年出した
“IN THESE TIMES” でカヴァーしています。

アグネスは90年からは音楽教師となり、表立った活動からは離れたそうです。
そして2017年に教職を退職すると絵画を勉強し、
昨年初の個展を開くなど、音楽から絵画へと関心は移れど、
旺盛な創作意欲をみせているようです。

Agnes Zsigmondi "WATER WOMAN" no label no number (1992)
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オールド・マンデ・ポップ・フロム・ギネア イェロ・ケッスー・カンテ [西アフリカ]

Yero Kessou Kante.jpg

カマラ・プロダクションのCD? へぇ、これは珍しい。
パリ18区のバルベスで、アフリカ系移民向けの食料品店を経営していた
マリ人のカリー"カル"カマラが、80年代に設立したレーベルです。
このCDは見たことがなかったなあ。いつ出たんだろう?

カマラ・プロダクションは、アミ・コイタ、カンジャ・クヤテ、ジェネバ・セックといった
マリの名歌手たちのカセットを、90年代に多く出していました。
CDはほんの少ししかカタログにありませんでしたが、
クンバ・シディベとママドゥ・ドゥンビアのCDはマンデ・ポップの名作で、
『ポップ・アフリカ800』に載せました。

イェロ・ケッスー・カンテという名前は初耳ですが、
カンテというグリオ姓だから間違いないでしょう。
予想通りのハリのある声で、のびのびとグリオらしい歌声を聞かせてくれます。
ちょっと雑味のある声に、味わいのある人ですね。
バックはウチコミとシンセ使いのローカル仕様のプロダクションですが、
華やいだ女性コーラスを従えて、
グルーヴィなマンデ・ポップをたっぷりと味合わせてくれます。

経歴を調べてみたんですが、まったく情報がないんですよねぇ。
マリの人とばかり思っていたらギネア人で、どうやらプール(フルベ)のよう。
なるほどプールの笛が大きくフィーチャーされているわけですね。
カンテ姓はマンデ系の姓名と思っていましたが、プール人にもある名なの?
流麗なマンデ・ギターとウネりまくるベースが、聴きどころだな。
この二人がグルーヴ・マスターとなって、サウンドの骨格を作っています。

なんとこのCD、ちゃんと配信されていて、
配信のクレジットに従うと(あてになりませんが)04年作のようです。
アルバムはどうやらこの1枚しか出ていないみたい。
収録曲のヴィデオもいくつか作られているほか、最近のライヴの様子も
YouTubeに上がっているので、現在も活動している人のようです。
そのライヴでは、アコーディオンとジェンベの二人を伴奏に、
シェイカーを振りながら歌っていて、まるでターラブみたいでちょっとビックリ。

Yero Kessou Kante "YERO DEII YEROGBÉ" Camara Productions CD732 (2004)
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フィニッシュ・クロスオーヴァーふたたび オリ・アーヴェンラーティ [北ヨーロッパ]

Olli Ahvenlahti  MIRROR MIRROR.jpg

注目のフィンランドのジャズ・レーベル、ウィ・ジャズの新作は、
なんとオリ・アーヴェンラーティ。
70年代にクロスオーヴァーを熱心に聴いていた人ならご存じのとおり、
フィンランドのクロスオーヴァー/フュージョンを代表するピアニストです。

このレーベルって、実験性の高いジャズを志向しているのかと思っていたけど、
こういうど・ストライクなフュージョンも出すんですね。
それにしても、オリ・アーヴェンラーティとは懐かしいと思ったら、
ジャイルス・ピーターソンやケニー・ドープが紹介して、
クラブ・シーンで再評価されたことがあったんだそうです。
そういやオリの70年代の作品が、
ミスター・ボンゴからCDリイシューされたことがあったけど、そういう流れだったのか。

新作は、サックス、トランペットの2管を擁したクインテット編成。
オリはフェンダー・ローズとオーバーハイムを弾いています。
フェンダー・ローズの音色が好きなファンにはたまらない、
見事なまでにクラシックなスタイルの70年代クロスオーヴァー・サウンドです。
ヒップ・ホップなんて通過していない、現代に更新もされていない、
半世紀昔のまんまのサウンドであります。

不思議なもんです。リアルタイムで聴いてきた者には、
こういう音楽がリヴァイヴァルするなんて想像もしなかったもんなあ。
なんせ当時は、硬派なジャズ・ファンやロック・ファンから
バカにされ続けてきた音楽ですからねえ。
フリー・ジャズもフュージョンもどっちも好きなんて、
ぼくみたいなヘンタイは他にいなかったから、なんか感慨深いですよ。

音響の良さを除けば、21世紀の音楽であることを示すものは、
な~んにもないといった内容なのに、それがまったく古臭く聞こえない。
それがサンダーキャットやドミ&JD・ベックが人気を呼ぶ、
今という時代なんだろうねえ。

ふと、オリっていまいくつなんだろと調べてみたら、
49年生まれだから74歳。ボブ・ジェイムズ、ジョー・サンプルあたりと
同い年みたいなイメージだったけど(二人は39年生まれ)、もっと若かったのか。
同い年はデヴィッド・フォスター。
ニール・ラーセンより1つ、ドン・グロルニックより2つ、
ジョージ・デュークより3つ若くて、ロニー・フォスターの1つ上。そういう世代でした。

半世紀ぶりのフィニッシュ・クロスオーヴァー。
大手を振ってこういう「サウンド」が好きといえるようになったのは、いい気分。
アヴァン・ジャズもフュージョンもカタログにあるウィ・ジャズ、ますます気に入りました。

Olli Ahvenlahti "MIRROR MIRROR" We Jazz WJCD75 (2024)
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ファースト・コールになる理由 ポール・ジャクソン・ジュニア [北アメリカ]

Paul Jackson Jr.  THE POWER OF THE STRING.jpg   Paul Jackson Jr.  STORIES FROM STOMPIN’ WILLIE.jpg

ひさしぶりにグレン・ジョーンズの “IT'S TIME” が
ヘヴィロテ再燃となったことは、以前書いたとおり。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2024-02-24

ボーナス・トラックに収録されたアンプラグド・ライヴの ‘Show Me’ での
グレン・ジョーンズの歌いぶりにも感じ入ったんですが、
ポール・ジャクソン・ジュニアのギターのバッキングが完璧で、
あらためて感服しちゃったんですよね。
マイケル・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストン、ライオネル・リッチーなどの
ビッグ・ネームをはじめ、数え切れないセッション・ワークをこなしてきた
ファースト・コールのセッション・ギタリストとして、世界最強のプレイヤーです。

まさしく職人芸としか言いようのないギター・ワークは、
百戦錬磨のスタジオ・ミュージシャンならでは。
シャープな音色、スピード感、タメの利かせ方に、ため息が洩れるばかりです。
もっとポール・ジャクソン・ジュニアのギターを聴きたくなって、
アルバムをいろいろ取り出したら、これまた止まらなくなってしまいました。

ポールの代表作といったら、01年のブルー・ノート盤と16年作の2枚が極めつけ。
とりわけ01年作はポールの職人芸がたっぷり聴ける1枚。
デニス・ウィリアムスやマーヴィン・ウォーレンほか、
大勢のヴォーカリストをフィーチャーした歌もののトラックも多いので、
ポールの歌伴の上手さがよくわかります。

ポールのギターって、他のプレイヤーをジャマしないんですよね。
ベース・ラインや鍵盤のハーモニーとぜったいにぶつからない。
常に自分のスペースを意識して、
どんなに短いオブリガードでも、キラッと印象的なリックを残せるのは、
自分の弾くべきパートなり、レイヤーをよく理解しているからで、
それがもっとも効果を上げる弾き方ができるギタリストだけが、
ファースト・コールになれるんですね。

そんなお手本ともいうべきギター・ワークが、
01年作のオープニング ‘On Eagle's Wings’ で聞けます。
単弦ソロ、オクターブ奏法、コード・カッティングを自在に織り込んだ
ソロ・ワークの組み立てがもう完璧。
ポールのギターはピッキングが強く、1音1音が明瞭なので、
コピー譜が取りやすいギタリストといえるんじゃないかな。最高の教材ですね。

スムース・ジャズの01年作は、職人芸的なプレイが随所で聞けますが、
16年作の方は歌ものがなく、全編ファンク。
ポールもギターを思いっきり鳴らしていて、代表作といえばこのアルバムでしょう。
1曲目のアース・ウィンド・アンド・ファイアを思わす ‘SaSsAY’ から、
アップリフティングな気分で盛り上がります。

Jazz Funk Soul  LIFE AND TIMES.jpg   Jazz Funk Soul  FORECAST.jpg

キーボーディストのジェフ・ローバーのユニット、ジャズ・ファンク・ソウルで、
ギタリストのチャック・ローブが亡くなったあとを継いだのがポールで、
19年と22年の2作でもポールらしい個性が発揮されています。
チャック・ローブのギターの音色はソフトでシルキーなサウンドだったので、
ポールとは好対照でユニットのサウンドに変化をもたらしましたね。

Paul Jackson Jr. "THE POWER OF THE STRING" Blue Note 7243-5-21477-2-4 (2001)
Paul Jackson Jr. "STORIES FROM STOMPIN’ WILLIE" M And P Music Factory no number (2016)
Jazz Funk Soul "LIFE AND TIMES" Shanachie 5465 (2019)
Jazz Funk Soul "FORECAST" Shanachie 5498 (2022)
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歌えるコンテンポラリー・レゲエ・シンガー ロメイン・ヴァーゴ [カリブ海]

Romain Virgo  THE GENTLE MAN.jpg

歌えるシンガーですねえ。
ロメイン・ヴァーゴは、アイドル的な存在として10代の頃から人気を博し、
いまやジャマイカを代表する本格派のシンガーになった人とのこと。
今回このアルバムを聴くまで、まったく知りませんでした。
ルーツ・レゲエ・リヴァイヴァルで一時期レゲエへの関心が蘇ったこともあったんだけど、
ロメイン・ヴァーゴのようなレゲエとR&Bの中間というか、
コンテンポラリーなレゲエは、自分の視界に入ってきませんでした。

新作は、まさにそんなレゲエ門外漢の耳にも届く充実作。
歌えるシンガーの証は、その伸びやかな歌いぶり。
スムースなヴォーカル・ワークながら、声に厚みがあって、
陰影がくっきりと刻まれるところがいいじゃないですか。
クリアな発声から放出されるエネルギーが、歌に説得力を宿しています。

ジェシー・ロイヤル、ケイプルトンといったヴェテランを招いた曲のほか、
ナイジェリアのダンスホール・シンガー、パトランキングを
フィーチャーしたトラックでは、流行のアフロビーツをやっています。
ルーツ・レゲエも、ダンスホールも、アフロビーツも自在にこなせる柔軟性ばかりでなく、
どのようなスタイルでも芯の通った歌いぶりを聞かせるのが、この人の強みですね。

Romain Virgo "THE GENTLE MAN" VP VPCD2736 (2024)
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