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カーボ・ヴェルデ伝統ポップの期待の若手 アッソル・ガルシア [西アフリカ]

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カーボ・ヴェルデから、伝統系のいい若手女性歌手が出てきましたよ。
15年にデビュー作を、昨年セカンドを出したアッソル・ガルシアは、
89年、フォゴ島サン・フィリペ生まれの女性歌手。
2作とも配給がフランス経由でなくアメリカ経由のため、
長年気付けずにいましたが、首尾よく2作とも入手することができました。

アメリカ、ポルトガル、オランダ、ルクセンブルクに点在する
カーボ・ヴェルデ移民のコミュニティが制作・配給するCDは、
故国とコミュニティだけで消費されてしまい、
海外マーケットに出す気などさらさらないから、
入手どころかリリース情報をキャッチすることさえ、なかなか困難です。

デビュー作は、CD Babyからオン・デマンドでも発売されていたようですが、
CD BabyもすでにCD販売を終了してしまったので、フィジカル入手は至難でしょう。
配信で聴くことは可能ですけれど、ライナーノーツ(全曲歌詞、クレジットあり)は、
オフィシャルCDでなければ読めません。配信もオン・デマンドCD同様、
聴けりゃいいという、テキスト不要の消費者向け商品ってことだよな。

さて、そのデビュー作なんですが、これが素晴らしいんです。
アッソル・ガルシアのナチュラルな歌い口に、イッパツで魅せられてしまいました。
こういう自意識の立たない、素直な歌い口を持つ歌手が、ぼくは本当に好き。
マイラ・アンドレーデの歌をどうしても受け付られないのも、ポイントはそこなのかも。
アッソルの歌い口は、先輩格のナンシー・ヴィエイラとよく似ていて、
じっさいアッソルが好きな歌手として、ナンシー・ヴィエイラを挙げています。

ほかに影響を受けた歌手として、カーボ・ヴェルデの歌手ではミリ・ローボ、
ジャクリーン・フォルテスを挙げ、国外ではアナ・ガブリエル、エンリケ・イグレシアスと、
アンゴラのC4・ペドロを挙げていて、ほほぅ。バラード志向なんですね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-08-03

そんなカーボ・ヴェルデのソダーデをみずみずしく表現する、
アッソルの歌声ですけれど、バックアップする伴奏も、また見事です。
ヴェテランのマルチ奏者、キム・アルヴェスによるプロデュースで、
キムはギター、カヴァキーニョ、ヴァイオリン、ヴィオラほか各種弦楽器から、
ピアノやアコーディオンの鍵盤楽器、ベース、ドラムスまで演奏しています。
キムのほかには、パーカッション、サックス、トランペット、トロンボーンなどが加わり、
女性コーラスも配して、曲ごとに多彩なサウンドを施しています。

リズム処理で目立つのが、フレンチ・カリブの影響ですね。
カーボ・ヴェルデではズークの影響以前から、
モルナやコラデイラなどの伝統系の音楽に、
ビギンやマズルカなどのリズムが溶け込んでいて、
ポルトガル語圏アフリカのクレオール・リズムの深化を聴き取ることができます。

そして、昨年出た2作目は、アッソルの故郷フォゴ島のお隣、
ブラヴァ島出身の詩人の作品を集めたモルナ集。
ブラヴァ島といえば、数多くのモルナ名曲を書いた歴史的な詩人で作曲家の
エウジェーニオ・タヴァーレスを輩出したことで有名ですけれど、
ここではエウジェーニオ以降の作家を中心に集めています。

おそらく地元でしか知られていない人たちを、
より広く知ってもらおうと企画されたアルバムなのでしょうね。
ライナーには、選曲された10曲の作者の写真と略歴に歌詞が載せられていて、
このほか4人の詩人の写真と略歴も掲載されています。
セピア調のノスタルジックなデザインから、制作者の思いが伝わります。

モルナが発祥したボア・ヴィスタ島では、奴隷や大衆が好む大衆歌謡だったのが、
ブラヴァ島に伝わると、中流・上流階級のブルジョワに親しまれ、
モルナにポルトガル文学のロマン主義の影響が色濃くなったことが、
京都大学の研究者、青木敬さんの研究で知られています。

そして、ボア・ヴィスタ島とブラヴァ島それぞれから伝わったサン・ヴィセンテ島では、
演奏の場がサロンから裏庭へと移り、再び大衆歌謡の色を強めます。
その時代を代表する作曲家がB・レザで、このアルバムは、
エウジェーニオ・タヴァーレスとB・レザを繋ぐ、
ミッシング・リンクのモルナ集といえるのかもしれません。

古典モルナを当時のサウンドのまま再現するべく、ギタリスト1名が助っ人するほかは、
キム・アルヴェスがすべての弦楽器をを多重録音して、
弦楽アンサンブルを作っています。
アッソルの歌いぶりは、全曲モルナを挑戦するにはやや不安な面も隠せないとはいえ、
ヴォイス・トレーニングを受けたプロっぽい歌よりも、
アマチュア的なところを残す歌い口はウイウイしく、かえってすがすがしく聴けます。

Assol Garcia "AIMA DI MININO" Mid Atlantic no number (2015)
Assol Garcia "CANTA DJABRABA: NÓS MORNA NÓS RAIZ" Mid Atlantic no number (2019)
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