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作曲と即興の高度なバランス イリガール・クラウンズ [北アメリカ]

Illegal Crowns  UNCLOSING.jpg

メアリー・ハルヴァーソンの近作では、
今年初めに聴いたサムスクリューが良かったけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-01-12
サムスクリューのドラマーのトマス・フジワラと
コルネット奏者のテイラー・ホー・バイナムに、
フランスの鬼才ブノワ・デルベックのピアノが加わったカルテット、
イリーガル・クラウンズの新作もいいですねえ。

メアリーとトマス・フジワラ、テイラー・ホー・バイナムの3人は、
アンソニー・ブラクストンの門下生で、
そこに現代音楽から即興音楽を学んだブノワ・デルベックが加わったことで、
アヴァンギャルドな楽曲に乾いた情感を送り込まれて、
映像的なサウンド・デザインを与えているように感じます。

Tomas Fujiwara’s Triple Double  MARCH.jpg

メアリーとテイラーが戯れるような即興を繰り広げ、
アヴァンな音空間に遊びゴコロとエキゾティックなムードを満たして、
親しみやすさを生み出すところは、トマス・フジワラのトリプル・ダブルの新作
“MARCH” でもたびたび聴くことができましたけれど、
ブノワが加わったことで、グループの色彩感がぐっと増しましたね。

トマスのパーカッション的なドラミングに、
メアリーとテイラーがぴたりとラインを合わせていくパートなど、
息が合いすぎていて、即興なんだか作曲なのかわからなくなる場面も多数。
牧歌的なメロディに不穏なフィーリングが入り混じったり、
即興が複雑な色合いをつけていく、
作曲と即興のバランスの妙に驚嘆させられる作品です。

Illegal Crowns "UNCLOSING" Out Of Your Head OOYH020 (2023)
Tomas Fujiwara’s Triple Double "MARCH" Firehouse 12 FH12-04-01-035 (2022)
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ポップなデザート・ブルース・バンド ティクバウィン [中東・マグレブ]

Tikoubaouine  AHANEY.jpg

タマンラセットは、トゥアレグ人にとってアルジェリア側の中心都市。
そのタマンラセットを拠点にインターナショナルな活動をするバンドも、
数多くなってきましたね。

これまでもイムザード、トゥマスト・テネレ、イマルハンを紹介してきましたが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-08-30
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-07-28
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-05-16
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-02-24
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-12-02
ティクバウィンというバンドは、初めて知りました。

16年にアルジェリアでデビュー作を出していたようで、それは未聴ですが、
フランスからディストリビュートされた19年作を聴くことができました。
メンバーにドラムスがいることで、アンサンブルがタイトに引き締まっていて、
シャープなサウンドが気持ちいいこと、この上なしです。

歌手でギタリストのサイード・ベン・キラとホセイン・ダガーの二人が作曲していて、
耳残りするメロディを書けるのが強みですね。
イマルハンも曲づくりが巧みだったけれど、
親しみのあるキャッチーなメロディが耳残りします。
3・7曲目のレゲエもすごくこなれているんだよなあ。
ボンビーノが「トゥアレゲエ」と称して、よくレゲエをやるけれど、
トゥアレグ人バンドのレゲエでいいと思えたのは、ティクバウィンが初めてだな。

三人のギタリストの絡みも音色、フレージングとも絶妙の相性で、
遠景で砂漠の蜃気楼のような使い方をするスライド・ギターも効果的。
サイード・ベン・キラとホセイン・ダガーの二人の歌が若々しくフレッシュで、
十代のメンバーがいたトゥマスト・テネレを思い起こしました。

Tikoubaouine "AHANEY" Labalme Music no number (2019)
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ルゾフォニアの多文化主義 ルーラ [西アフリカ]

Lura  Multicolor.jpg

15年作の “HERANÇA” 以来、すっかり音沙汰のなかったルーラ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-11-30
あのアルバムの1年後に娘が生まれ、離婚してシングル・マザーになるなど、
多難な私生活によって音楽活動から離れていたようです。

ポルトガルとカーボ・ヴェルデの二重国籍を持つ ルーラですが、
新作を『マルチカラー』と銘打ったのは、ルゾフォニアの立場から、
みずからのアイデンティティとして多文化主義を描こうとしたとのこと。
それを象徴するのが、アンゴラのジャーナリストで作家・詩人の
ジョゼー・エドゥアルド・アグアルーサが作詞した ‘Sou De Cá’ で、
この曲がタイトルの由来になったのだそうです。

長年所属したルサフリカから新たなレーベルに移籍して出した新作は、
サウンドが一変しましたね。
オープニングのベース・ミュージックばりの重低音ベースには、ビックリしましたよ。
8分の6拍子のバトゥクの手拍子にぶっといシンセ・ベースが絡むので、
思わずノケぞったものの、これがなかなか悪くない仕上り。
柔らかな生音サウンドのテクスチャだったこれまでとは、えらい違いなんですけれど。

サウンドの方向性を変えたとはいえ、
パーカッシヴなリズムを強調したサウンドづくりは、
カーボ・ヴェルデ音楽の多彩なリズムを生かす、従来の路線と変わりありませんね。
カーボ・ヴェルデ音楽の原点に回帰したルーラが、
再出発にあたり多文化主義を描くなかで、新しいアレンジャーを選んだ結果なのでしょう。

ディノ・ディサンティアゴが1曲アレンジし、
アンジェリーク・キジョがゲストで1曲歌っていますが、特にコメントする必要はないかな。

Lura "MULTICOLOR" Produtores Associados PA001CD (2023)
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ルゾフォニア音楽生活四半世紀を駆け抜けて ドン・キカス [南部アフリカ]

Don Kikas  Livre.jpg

7年ぶりに出たカリナ・ゴメスのアルバムを制作したのは、
カヴィ・ミュージックというレーベル。
国際市場で通用するジャケット・デザインや印刷のクオリティから、
ポルトガルのレーベルなのかと思ったら、
レーベル・アドレスの末尾に gw とあり、どうやらギネア=ビサウ盤のよう。
ポルトガルとルゾフォニア向けのラジオ局、
RDPアフリカのロゴがあるので、協賛を得ているのでしょうね。

カヴィ・ミュージックは、カリナ・ゴメスのほか
アンゴラのキゾンバ・シンガー、ドン・キカスの新作も出ていて、
このレーベルはルゾフォニアのアーティストと広く契約しているようですね。
ドン・キカスのアルバムは、前に11年作を取り上げましたけれど、
それ以来聴くひさしぶりのアルバムです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-10-21

ルゾフォニアで思い出しましたけど、ドン・キカスはマルチーニョ・ダーヴィラの
00年作 “LUSOFONIA” に参加していましたね。
キゾンバ100%の曲 ‘Hino Da Madrugada’ で、
マルチーニョを差し置きメインで歌っていました。

アンゴラ生まれ、ブラジル育ち、ポルトガルで音楽活動を開始したドン・キカスは、
まさしくルゾフォニアの音楽人生を歩んだ人といえます。
そのドンの新作 “LIVRE” は、カリナ・ゴメスのようなアフロビーツ色はなく、
キゾンバを中心に打ち込みと生音を絶妙にブレンドしたプロダクションで歌っています。

泣きのメロディに狂おしさをにじませるキゾンバの ‘Meu Paraíso’ ‘Basta’、
はつらつとしたズークの ‘Musa Benguela’、
ホーン・リフがキャッチーなセンバの ‘Numa Boa’ ではキレのある歌いっぷりを聞かせ、
いいシンガーだなあと思いますねえ。華がありますよ。

またゲストでは、
オランダで活躍するカーボ・ヴェルデ人シンガーのネルソン・フレイタスと、
アンゴラ在住のカーボ・ヴェルデ人歌手カルラ・モレーノという
二人の歌手を迎えていますが、このカルラ・モレーノというシンガーが素晴らしい。
ソロ作を期待したい人です。

アクースティックな音作りのトラックも、聴きごたえがあります。
生演奏によるセンバの ‘Bazuka’ ではアコーディオン、マリンバ、ハーモニカが大活躍。
また ‘Mamã Zungueira’ の初めと終わりのパートで、
ベルや太鼓がつっかかるような伝統リズムを繰り出すところも聴きもの。
このリズム名を知りたいな。

ドン・キカスはこのアルバムを出す2年前の20年に、
リスボンで音楽生活25周年記念のコンサートを開き、ボンガとティト・パリスという、
アンゴラとカーボ・ヴェルデの両ヴェテランがお祝いに駆け付けたとのこと。
ドン・キカスもすでにキゾンバのヴェテラン・シンガーですね。

Don Kikas "LIVRE" Kavi Music KAV00001/22 (2022)
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アフロビーツに薫るギネア=ビサウのソダージ カリナ・ゴメス [西アフリカ]

Karyna Gomes  N'NA.jpg

14年に出たデビュー作ですっかり魅入られた、
ギネア=ビサウのシンガー・ソングライター、カリナ・ゴメス。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-10-02
おととしの9月24日、ギネア=ビサウの独立記念日に、
2作目がデジタル・リリースされたものの、フィジカルが出ている様子がなく
諦めていたんですけれど、CD出ていたんですねえ(大喜び)。

デビュー作はグンベーやマンジュアンダディなどのギネア=ビサウ音楽をベースに、
人力演奏のプロダクションでコンテンポラリーなサウンドを作っていましたが、
今作はエレクトロを多用したアフロビーツのサウンドに様変わり。
いまやアフロビーツは、ポルトガル語圏にも浸透するようになったのね。

がらっとサウンド・イメージは変わったものの、
胸に染み入るクレオール・ミュージック独特のせつないメロディを紡ぐ
カリナのしなやかな歌いぶりには、強く惹かれますねえ。

特に歌の上手いという人ではないんですけれど、
派手さのない落ち着いた歌いぶりで、
聴く者の耳を引き付けて放さない魅力のある人です。
アフロビーツの単調なビートをバックにしても、
カリナの歌い口からは複雑な色合いをみせる詩情が伝わってきて、
その美しさにクレオール・ミュージックの真髄を見る気がします。

そんなアフロビーツ・トラックのなかで異彩を放つのが、
ガーシュインの ‘Summertime’ 。
普段ならこういう凡庸な選曲に眉をひそめる当方ですが、このアレンジにはびっくり。
歌と伴奏のリズムを解体して、楽器のリズムをずらしたアレンジが超斬新。
アレンジしたのは、リスボンのプロデューサーで
フィリープ・スルヴァイヴァルという人だそうですけれど、スゴ腕だな。
この曲でカリナは、ティナという水太鼓を叩いています。

ラスト曲のタイトル ‘Sodadi’ とは、
カーボ・ヴェルデ・クレオールのソダーデ ‘Sodade’ と同義の、
ギネア=ビサウ・クレオールでの綴りでしょうか。
そんなソダージ感あふれる乾いた哀感が美しいアルバムです。

Karyna Gomes "N’NA" Kavi Music KAV00001/21 (2021)
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バック・トゥー・ザ・80ズ トーパティ [東南アジア]

Tohpati  Retro Funk.jpg

去年の夏は暑さ疲れすることもあったけど、今年の夏は心身充実。
記録的な酷暑にもかかわらず、夏バテとは無縁で過ごせました。
それというのも、春から週2日在宅勤務するようになったのを機に、
朝夕2回の30分ウォーキングを45分に増やしたおかげ。
やっぱ汗をたっぷり流すと、気分爽快。身体が喜んでるのがよくわかります。

そんな今夏、汗をだっらだら流して歩きながらよく聴いていたのが、フュージョン。
ひさしく聴いてなかったユー=ナムの
“BACK FROM THE 80’S” を取り出してみたら、これがもうどハマリで、
酷暑ウォーキングの最高のBGMになってくれました。

U-Nam  BACK FROM THE 80’S.jpg

クルセイダーズの ‘Street Life’、マイケル・ジャクソンの ‘I Can't Help It’、
ジョージ・ベンソンの ‘Turn Your Love Around’ のカヴァーなど、
懐かしすぎるナンバー目白押しのアルバムで、79年から80年代前半あたりの
リヴァイヴァル・サウンドにどっぷりつかっていたら、
まったく同じネライの新作に出会いました。

それがインドネシアのトップ・ギタリスト、トーパティの新作。
ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッションに、
サックス、トランペットの2管を擁した編成で、
キャッチーなホーン・リフからスタートするラテン歌謡調の ‘Maestro’ から、
気分は爆上がり。ギブソンのフルアコを使って、
CTI時代のジョージ・ベンソンを思わすギターを弾くトーパティ。

続くスラップ・ベースの利いたタイトル曲は、ジャズ・ファンク。
トーパティはフェンダーのストラトキャスターに持ち替え、
キレのいいリズム・ギターを弾きます。
スラップによるベース・ソロのあと、ロック的なギター・ソロを披露。
すごく短いソロなのに、強い印象を残すのは、ジェイ・グレイドンを思わせますね。

ミュート・トランペットが利いたジャジーな ‘Smooth Wave’ は、
トーパティもメロウなトーンで、オクターヴ奏法を駆使したプレイを聞かせます。
ハード・フュージョンの ‘Superhero’ は、リフがやたらめったらかっこいい曲。
こういうソングライティングは、トーパティが得意とするところで、
トーパティ・ブルティガでも発揮されていましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-12-13
ソリッドなギターも存分に暴れているけれど、トータルなサウンド作りが鮮やかです。
櫻井哲夫(ベース)と神保彰(ドラムス)のジンサクを思わすところもあるかな。

メンバーでもっとも光るのが、ドラムスのデマス・ナラワンガサ。
トーパティ・エスノミッションでも叩いていた人だけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-06-07
93年生まれ、ロス・アンジェルス音楽大学(LACM)卒業のキャリアの持ち主。
ロック・ギタリストのデワ・ブジャナほか、多くのミュージシャンから
共演の申し込み殺到というのがよくわかる、才能のある人ですね。

全6曲わずか26分28秒という短さは、
2枚組2時間超えのユー=ナムのアルバムと比べるとだいぶ物足りないんですが、
「バック・トゥー・ザ・80ズ」の気分が見事にシンクロします。

Tohpati "RETRO FUNK" Demajors no number (2023)
U-Nam "BACK FROM THE 80’S" SoulVibe Recordings SVCD01 (2007)
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ハードコアなシャアビ・エレクトロニカ プラエド [中東・マグレブ]

Praed  DOOMSDAY SURVIVAL KIT.jpg   Praed  KAF AFRIT.jpg

エレクトロニカでシャアビをやるというユニークな二人組、プラエド。
新作を試聴してぶったまげ、前作と合わせてオーダーしました。

シャアビ・エレクトロニカと勝手に命名しちゃいましたけれど、
ひたすらループする催眠的なフレーズが
トランシーなサウンドスケープを繰り広げるプラエドは、
純度の高い即興音楽を繰り広げています。

ジャケットのチープなヴィジュアルがナカミの音楽とずいぶんかけ離れていて、
ソンしてるような気がしますけれど、サイケデリック・ロックとも
親和性のあるサウンドだから、こういうヴィジュアルにしてるのかなあ。

プラエドは、67年スイス、ベルン生まれのパエド・コンカと
79年レバノン、ベイルート生まれのラエド・ヤシンの二人組。
二人とも作曲家でエレクトロとサンプラーを扱いますが、
パエド・コンガはクラリネットとベースを
ラエド・ヤシンはシンセサイザーを演奏します。

パエド・コンカは、89年から音楽活動を始め、
演劇、映画、ダンス・パフォーマンスのための音楽を作曲して
数多くのプロジェクトに参加し、日本にもたびたび来日しているようです。
オランダのアヴァン・ロック・グループ、ブラストではベースをプレイしていました。

ラエド・ヤシンは、インスティテュート・オブ・ファイン・アーツの演劇科を卒業後、
世界各国のミュージアムやフェスティヴァルで作品を発表してきたというキャリアの持ち主。
プラエドとして19年に来日もしていて、JAZZ ART せんがわに出演しています。
なるほど、むしろお二人の音楽性は、実験音楽やアヴァン・ジャズに近いわけね。

19年作 “DOOMSDAY SURVIVAL KIT” 収録の4曲は、
17分33秒、6分5秒、11分42秒、15分26秒というサイズで、
リズムが一定のままでこの長さを飽かさずに聞かせるのは、
圧倒的な即興演奏の力ですね。
サンプリングされたダルブッカのビートなど、リズムはシャアビの伝統に忠実で、
延々と続くグルーヴにのせて繰り広げられるインプロヴィゼーションの集中力に、
惹きつけられます。

最新作 “KAF AFRIT” も19年作同様の内容。
バス・クラリネット兼テナー兼ソプラノ・サックス、キーボード、パーカッションの
アディショナル・ミュージシャンの顔触れも同じ。
電子音楽らしからぬ肉感的なグルーヴと前衛的な即興演奏が同居していて、
ハードコアなシャアビ・エレクトロニカを堪能できます。

Praed "DOOMSDAY SURVIVAL KIT" Akuphone AKUCD1011 (2019)
Praed "KAF AFRIT" Akuphone AKUCD1042 (2023)
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コンゴ音楽の宝庫 ンゴマ [中部アフリカ]

THE SOUL OF CONGO, Treasures Of The Ngoma Label.jpg

いやぁ、さすがはンゴマ。コンゴ音楽の宝庫だということを、
イヤというほど思い知らされる、プラネット・イルンガ初のCD復刻盤であります。
3枚組CDは69曲収録、3枚組LPは42曲収録で、
それぞれに収録曲が異なるという、マニア泣かせの選曲は、
制作費捻出のための苦肉の策でしょうかね。

ンゴマのSP音源を復刻したCDといえば、なんといっても
ドイツのパン・アフリカン・ミュージックが96・97年に出した編集盤が決定版でした。
その後、深沢美樹さんが編集した 「EARLY CONGO MUSIC 1946-1962」
でもンゴマのSP録音が復刻されましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-07-28

こうした音源と重複しない選曲で、
3枚組というヴォリュームのコンピレーションを新たに制作しても、
残り物の印象をまったく与えないのは、
ひとえに2274枚ものSPをリリースしたというンゴマのカタログの豊かさゆえ。

4500曲以上もある音源から、今回のをも含めても
150曲程度が復刻されたにすぎないんだから、
これでも宝庫の片隅をかじったくらいなのかもしれないなあ。

その面白さは、ポピュラー音楽黎明期独特の雑多な音楽性を聞き取れることですね。
コンゴのルンバが完成されていく道のりは一本道でなく、
さまざまな試行錯誤の脇道があって、
パームワイン音楽の影響や周辺の民俗音楽、
ピグミーを連想させる笛の合奏まで聞けたりして、めちゃくちゃスリリングです。
古い音楽なのにすごくモダンな要素があって、オルガンや管楽器が
意表を突くアンサンブルのなかで奏でられたりする場面など、ゾクゾクします。

v.a. "THE SOUL OF CONGO –TREASURES OF THE NGOMA LABEL (1948-1963)"
Planet Ilunga PI10CD
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悪を取り払うボボの葉っぱ仮面 ババ・コマンダント&ザ・マンディンゴ・バンド [西アフリカ]

Baba Commandant  Sonbonbela.jpg

おーぅ、ミシェル・ユエットの写真!
ババ・コマンダント&ザ・マンディンゴ・バンドの新作ジャケットは、
アフリカの写真集の古典的名作
“THE DANCE, ART AND RITUAL OF AFRICA” の写真から
切り抜いたものですね。

フランス人写真家ミシェル・ユエットのこの写真集は、
高校3年のぼくにアフリカ熱を決定づけた人生の一冊です。
オリジナルはフランスで出た “DANCES D'AFRIQUE” ですけど、
ぼくが買ったのは、アメリカで出版された78年の初版本。
日本橋丸善の洋書売り場で見つけて、強烈な衝撃を受けました。

何十年ぶりかで書棚から取り出したけれど、
この写真が載っているページは、目を閉じてたって開けられるよ(ウソです)。
ブルキナ・ファソの国名がオート・ヴォルタだった時代の、ボボ人の儀式を撮影したもの。
どういうわけだかジャケットは裏焼になっていますが、この全身を葉で覆われた仮面は、
乾季の終わりの農作業が再開される前に行われる、清めの儀式で登場します。

Michel Huet 1.jpg   Michel Huet 2.jpg

ドゥウォと呼ばれる葉っぱの仮面は、夕暮れ時に村にやってきて、
家々や小屋、村の人々をかすめながら、路地を歩き回ります。
仮面が歩くたびに揺れ動きざわめく葉っぱが、1年の間に蓄積されたすべての悪を
葉に吸収させ、村のすべての不純物を洗い取り、村からケガレを取り除きます。

ボボの創造神であるウロから遣わされたドゥウォは、
人間の過ちや罪といった悪を取り払い、人間と神を仲介する役割を果たします。
ボボの哲学では、人間の生存はドゥウォの恩恵を受けることにかかっていて、
その恩恵を受けるために人間は、
自らの傲慢を捨てなければならないと考えられています。

このボボの猟師結社ドンソに属しドンソ・ンゴニを操るのが、
ババ司令官ことママドゥ・サヌです。
15年のデビュー作のローファイぶりに快哉を叫び、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-04-18
アフロビートからドンソ・ンゴニ・ファンクへとシフトした18年の前作は、
ライヴ感たっぷりのサウンドで踊らせてくれました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-11-30

ばたばたとラフに連打されるドラムス、硬くきらびやかな音色のギター、
絡み合うドンソ・ンゴニとバラフォン、粘っこくうねるベース、
粗っぽいヴォーカルが生み出す泥臭さが、も~う、たまんない。
前作がちょっとサウンドが整理されすぎた感があったんですけど、
今作はデビュー作の粗野なエネルギーを取り戻しつつ、
アンサンブルがスケール・アップしていて、これまでの最高作になりましたね。

最後に、ジャケットにはアート・ディレクションとデザイン・レイアウトの
クレジットはあるけど、ミシェル・ユエットの写真借用に関する記載なし。
これ、アカンやろ。

Baba Commandant & The Mandingo Band "SONBONBELA" Sublime Frequencies SF121 (2023)
[Book] Michel Huet "THE DANCE, ART AND RITUAL OF AFRICA" Pantheon Books (1978)
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マリの平和を願って イドリッサ・スマオロ [西アフリカ]

Idrissa Soumaoro  DIRE.jpg

シュペール・ビトンやソロマン・ドゥンビアなどのリイシューから
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-11-26
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-03-07
新人のサヘル・ルーツのデビュー作までリリースしてきた、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-10-12
セグーに拠点を置くマンデ・ポップの新進レーベル、ミエルバから、
元アンバサドゥールのイドリッサ・スマオロの13年ぶりの新作が出ました。

13年ぶりといっても、本作は今から11年も前の12年にバマコで録音されたもの。
アマドゥ&マリアムの元プロデューサー兼マネージャー、
マルク=アントワーヌ “マルコ” モローのプロデュースでレコーディングされたものの、
マルコの突然の急逝で制作が頓挫してしまったのでした。

長い中断を経て、アマドゥ&マリアム・バンドのリズム・セクションを担った
イヴォ・アバディ(ドラムス)とヤオ・デンベレ(ベース、キーボード)が
新たに結成したアフロ・エレクトロ・ファンク・コレクティヴ、
クライマックス・オーケストラがアディショナル・レコーディングを行い、ついに完成。
ミックスとプロデュースもクライマックス・オーケストラが手がけています。

クライマックス・オーケストラと聞いて、ギンギラのエレクトロになったかと
心配する向きもありましょうが、大丈夫。エレクトロは完全封印。
スマオロの音楽にきちんと寄り添っていて、
ヤオ・デンベレのオルガンなど、とてもいいサポートをしています。
前作ではスマオロの音楽性の豊かさや、
コンポーザーとしての才能に目を見張りましたが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-08-30
今作はドンソ・ンゴニをベースとして、バンバラ色の強い仕上がり。
そこに、ラテンが香るいにしえのルンバ・コンゴレーズや北米ブルースなど、
スマオロらしいカラフルな音楽性が加わっています。

なによりスマオロの深みのある歌声が、いいじゃないですか。
力の抜けた自然体な歌いっぷりは、
ヴェーリャ・グァルダ級のサンビスタをホウフツさせます。
伸びやかな歌声や、語りかけるよう歌い口は、熟成の味わいそのものです。

タイトルのディレとは、トンブクトゥ州のニジェール川左岸にある町で、
スマオロがバマコの国立芸術学院を卒業後、
一般教育学研究所の音楽教師となって、赴任した場所だったそうです。
この地でスマオロは妻と出会い、長女が生まれるなど、たくさんの良い思い出を残しました。
美しいディレの街の記憶を呼び覚ますことは、困難な時期にある現在のマリにおいて、
平和への希望と人々の幸福を願う、スマオロからのメッセージになっているのですね。

ラスト・トラックで、アマドゥ&マリアムで知られる盲目のギタリスト、
アマドゥ・バガヨコが参加。
スマオロとアマドゥ・バガヨコは、アンバサドゥール時代のメンバー仲間で、
スマオロが80年代初めに視覚障碍者のバンドを結成し、
84年に英バーミンガム大学への奨学金を得て点字音楽学を学んだのも、
アマドゥ・バガヨコとの出会いが大きかったようです。
アマドゥのギターが入ると、キリッとしたバンバラ・ブルース・ロックに仕上がって、
聴きごたえがぐっと増しますねえ。

Idrissa Soumaoro "DIRÉ" Mieruba MRB-ML02-019 (2023)
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カリブ海におけるポピュラー音楽誕生期の見取り図 [カリブ海]

¡CON PIANO, SUBLIME!  EARLY RECORDINGS FROM THE CARIBBEAN 1907-1921.jpg

カリブ海で商業録音が始まった20世紀初頭、
進取の気性に富んだレコーディング・チームは、
ハバナやサン・ファンといった港町で録音された都市の音楽ばかりでなく、
田舎を旅して民謡や民俗音楽を録音して、地元の客の好みを模索していました。

カリブの島々でレコードと蓄音機の新たな市場を開拓するべく、
さまざまなジャンルに手を伸ばしては、
市場や顧客の可能性を探って残された録音の数々。
それらをあえて未整理のまま並べることで、
商業録音黎明期にカリブ海で花開いていた音楽の多様性を示す、
ユニークな編集盤が出ました。

1曲目は、1907年にハバナで録音された、
マルティン・シルベイラによるバンドゥリア弾き語り(クラベス付き)。
マルティン・シルベイラは、キューバ西部の地方に伝わる
白人農民のスペイン系音楽プント・グァヒーラの音楽家。
マンドリンに似た12弦の弦楽器バンドゥリアにのせて、
デシマと呼ばれる即興詩をあやつり、風刺や自慢話、
時に相手をやりこめる侮辱も交え、その機転の利いた言葉使いで
人々を楽しませたといいます。

めったに聞くことのできないプント・グァヒーラがいきなり飛び出してきたので、
思わず前のめりになってしまったんですが、
続く2曲目の1910年にハバナで録音されたダンソーンにもびっくり。
19世紀半ばから続く由緒あるオルケスタで、
録音当時はパブロ・バレンズエラ管弦楽団を名乗り、白人黒人を問わず、
富裕層から庶民まで絶大な人気を誇った楽団だったといいます。

1914年にトリニダード島ポート・オヴ・スペインで録音された3曲目のカリンダも、
めちゃくちゃ貴重。バンブー・タンブー・バンドを伴奏に、
フレンチ・クレオール(パトワ)で歌われるカリンダなんて、初めて聞きました。

デューク・エリントンのバンドで ‘Caravan’ ‘Perdido’ などの名曲を作曲した、
マヌエル・ティゾール率いるサン・ファン市音楽隊の17年録音もレアなら、
トローバやソン、チャランガ・フランセーサの編成のダンソーン
ライオネル・ベラスコのラグタイム・ピアノ・ソロなど、
めちゃくちゃ貴重な録音がぎっしり収録。
歴史的価値の高さばかりでなく、音楽的に優れたトラック揃いで、
選曲者(クレジットがないけど誰?)の耳の確かさに感嘆します。

CDは14曲収録のLPヴァージョンにボーナス・トラック3曲が追加されていて、
そのうちの1曲はマリア・テレーサ・ベラの18年録音というのも、マニアには嬉しい。
ライナーの解説にこの3曲分のみ入っていないのは残念ですけれど、
カリブ海におけるポピュラー音楽誕生期の見取り図を示したといえる、
極上の編集盤です。

v.a. "¡CON PIANO, SUBLIME! : EARLY RECORDINGS FROM THE CARIBBEAN 1907-1921"
Magnificent Sounds MSR03
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麗しき50年代インドネシア軽音楽 [東南アジア]

KENANG KENANGAN.jpg   IRAMA LATIN.jpg

50年代インドネシアのSP音源をコンパイルしたCDといえば、
日本一のインドネシア音楽コレクター吉岡修さんの自主制作レーベル、
ポルカ・ドット・ディスクの独壇場でしたけれど、
東南アジアのレコード・ディガー、
馬場正道さんのコレクションCDが新たにお目見えしました。

馬場正道さんといえば、
『レコード・バイヤーズ・グラフィティ ヴァイナル・マニアの数奇な人生』
(ミズモトアキラ著、リットーミュージック、2011)をはじめ、常盤響との共著
『アジアのレコードデザイン集』(DU BOOKS、2013)など、さまざまな記事で
猟盤エピソードを楽しく読んできましたが、CDを作ったのはこれが初だそうです。

収録されたSP原盤は、
インドネシア独立後最初に設立されたレコード会社イラマを筆頭に、
国営レコード会社のロカナンタのほかムティアラやグンビーラなど、
50年代に次々と誕生したレーベルの数々。

地方の民謡にマンボ、チャチャチャなどのラテン・アレンジを施した曲から、
都会的で洗練された粋なラウンジー・ジャズまで、
50年代インドネシアのポピュラー音楽黎明期を飾るポップ・ソング、
計25曲が収録されています。

かつてポルカ・ドット・ディスクから出た『IRAMA LATIN』の続編ともいえる内容で、
奇しくも1曲目は『IRAMA LATIN』にも収録されていた、
オルケス・グマランの ‘Tak Tong Tong’。
ジャカルタに住むミナンカバウ人が53年に結成したグループで、
ミナンカバウ語で歌う地方語ソング、ラグ・ダエラの人気グループとして、
数多くのSPを残しています。

初期のオルケス・ムラユなど、まさにこの時代だからこそ聞ける
都会的で洗練された演奏は、エレガントかつ粋の極みで、
当時のインドネシアの音楽家たちの演奏水準の高さに、感じ入るほかありません。
50年代にジャズやラテンやハワイアンなどの洋楽を雑多に吸収していたのは、
日本も香港もマレイシアもタイも同様だったわけで、
その土地土地の軽音楽を生み出していきましたが、
とりわけインドネシアは独自の麗しい魅力にあふれ、
それがのちのポップ音楽への萌芽をもたらしたといえるのでしょうね。

IRAMA JAZZ.jpg   IRAMA HAWAIIAN.jpg

ところで、この『KENANG KENANGAN』は出たばかりだというのに、
もうソールド・アウトになっているそうですけれど、もし買い逃した人で、
ポルカ・ドット・ディスクの諸作を聴いていない人がいたら、
こちらをオススメします。ジャズ編・ハワイアン編もあって、たっぷり楽しめますよ。

v.a. 「KENANG KENANGAN」 Serie Teorema SRTM0002
v.a. 「IRAMA LATIN: VINTAGE LATIN OF INDONESIA 1950S」 Polka Dot Disc CDR008
v.a. 「IRAMA JAZZ: INDONESIAN JAZZ OF THE 1950S」 Polka Dot Disc CDR006
v.a. 「IRAMA HAWAIIAN: VINTAGE HAWAIIAN OF INDONESIA 1950S」 Polka Dot Disc CDR007
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ルイジアナ・クレオール語を取り戻す旅 コーリー・レデット・ザディコ [北アメリカ]

Corey Ledet Zydeco  MÉDIKAMEN.jpg

「ザディコ」をついに自分の名前に付け加えたコーリー・レデット。
前作で『コーリー・レデット・ザディコ』と題し、
原点回帰したザディコのアンバサダーとして、後進へと伝統を継承する
強い覚悟と意思を表明していましたが、
それをステージ・ネームにしたところに、並々ならぬ思いが伝わってきます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-07

前作からドラマーが交代し、リズム・ギターが増員され、
リバース・ブラス・バンド結成当初のトランペット奏者カーミット・ラフィンズに、
スウェーデンからニュー・オーリンズに移住したギタリスト、アンダース・オズボーン、
ザディコ・ドラマーのジャーメイン・ジャックがウォッシュボードでゲスト参加しています。
今回も痛快なグルーヴで押しまくる、ザディコ100%のアルバムです。

前作でもルイジアナ・クレオール語のクーリ=ヴィニで書いた
オリジナルを歌っていましたが、今作は全曲クーリ=ヴィニで歌うという徹底ぶり。
歌詞はコーリーとジョナサン・マイヤーズの二人が書いていますが、
コーリーとジョナサン、そしてベースのリー・アレン・ジーノの3人は、
それぞれ異なるクーリ=ヴィニを喋るのだそうで、コーリーはさまざまな
クーリ=ヴィニのヴァリエーションを学ぶことができたと語っています。

コーリーの今作最大のテーマは、自分たちルイジアナ・クレオールに
アイデンティティを与えてくれる言語、クーリ=ヴィニを取り戻すこと。
フランス語の動詞 ‘courir(走る)’ と ‘venir(来る)’ のクレオール語の発音に由来する
クーリ=ヴィニは、18世紀初頭のルイジアナ州で奴隷たちが
プランテーションの植民者たちと意思疎通するために、
奴隷たちの母語である西アフリカの言語とフランス語を融合させて生み出された言語です。
1900年代初頭になるとコーリーの生まれ故郷のテキサス州東部へと波及し、
コーリーは年老いた親戚たちがこの言葉で会話しているのを聞いて育ったのですね。

クーリ=ヴィニの衰退は、1803年のルイジアナ購入から始まりました。
アメリカ合衆国によってルイジアナ領土が買収され、
英語を話さない人々は新政府の言語と文化を学ばねばならず、
1812年の州制施行によってそのプレッシャーはさらに増し、
第一次世界大戦時には英語以外の言語を話すことは非国民とみなされて、
クーリ=ヴィニはさらなる打撃を受けたのでした。

教養のないクレオールやプア・ホワイトが話す劣った言語として蔑視されていた
クーリ=ヴィニのルネサンスは、ようやくここ10年で動き始めました。
伝統的に口承で伝えられてきた言語であったために長く文字化が困難で、
16年になってようやく『ルイジアナ・クレオール正書法ガイド』が
オンライン出版されましたが、それまではクーリ=ヴィニの
包括的なアプローチは存在しなかったといいます。

「音楽は僕の薬なんだ」と語るコーリーがアルバム・タイトルとした “MÉDIKAMEN” は、
かつてのカッサヴのヒット曲 ‘Zouk-La-Sé-Sel Médikamen Nou Ni’
(ズークはオレたちの唯一の薬)を想起せずにはおれませんね。
コリーが目指すクーリ=ヴィニのザディコは、ハイチやグアドループなど
フランス語圏のクレオール・グルーヴともシンクロしています。

Corey Ledet Zydeco "MÉDIKAMEN" Nouveau Electric NER1025 (2023)
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リアル・ブルースの現場から アラバマ・マイク [北アメリカ]

Alabama Mike  Stuff I've Been Through.jpg

うぉ~ぅ、こいつぁゴッキゲンだ!  これぞリアル・ブルーズン・ソウル。
64年アラバマ州都タラデガ生まれのアラバマ・マイクこと、
マイケル・A・ベンジャミンの新作。
アラバマ・マイクのCDは手にしたことはあれど、ちゃんと聴いたのはこれが初めて。
興味を持ったのは、リリース元が昨年出たブルース・アルバムの大傑作、
ダイユーナ・グリーンリーフと同じリトル・ヴィレッジだったからなんだけど、
予感は大当たり。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-07-22

プロデュースがダイユーナ・グリーンリーフのアルバムと同じキッド・アンダーセンで、
バックが豪華なんですよ。レジェンド・ベーシストのジェリー・ジェモットに、
デリック・マーティンのドラムス、ジム・ピューのキーボードと大ヴェテランを揃え、
ギタリストもキッド・アンダーセン筆頭に、アンスン・ファンダーバーグ、ボビー・ヤング、
ラスティ・ジンと4人の顔触れが並びます。
そこに、サザン・ソウル・マナーのホーン・セクションや
ストリングス・セクションも付くのだから、
スタックス/ハイ・サウンドの南部音楽の伝統は、
いまなお生きていますねえ。なんと誇らしいことでしょうか。

ラスト2曲がライヴで、
ミシシッピの綴りを観客とコール・アンド・レスポンスするサン・ホセのライヴに、
ゴスペル・フィールのソウル・バラードのスイス・ライヴとも、すさまじい熱狂ぶり。
マイクが観客に語りかけ、観客が応える、熱っぽいやりとりのナマナマしさは、
これぞソウル・トゥ・ソウルの魂の交歓。ソウル・ショウの醍醐味、ここにありですね。

あらためてリトル・ヴィレッジというレーベル、どんなレーベルなのかと調べたら、
録音に恵まれないアーティストを支援する、
非営利のファンデーションによるレーベルなんですね。
だから大手の流通にのらず、ショップにも卸されていないのか。
利益は全額アーティストに還元して、寄付金のみで運営しているとのこと。

熟成された音楽を、その音楽が息づく現場の環境を最善な状態に
コントロールできれば、これほどの素晴らしいブルース・アルバムができるのだから、
ロック・ファン向けのお化粧や加工なんてのが、いかに愚かしいかわかろうというもの。
バディ・ガイの近作に夢中になれる人には、通じない話だとは思うけれども。

Alabama Mike "STUFF I’VE BEEN THROUGH" Little Village LVF1053 (2023)
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オトナが聴く子守歌 メレディス・ダンブロッシオ [北アメリカ]

Meredith D'Ambrosio  LOST IN HIS ARMS.jpg   Meredith D'Ambrosio  ANOTHER TIME.jpg

メレディス・ダンブロッシオ。
その名を口にするだけで胸の奥がツンとなる、
ぼくにはかけがえのない人。そんな歌手、そうそうはいません。

ピアノの弾き語りで、古いスタンダード・ナンバーを歌う人です。
ジャンルでいうなら、ジャズ・ヴォーカルになるのでしょうが、
どうもこの人の音楽を「ジャズ」と呼ぶのは、
座りの悪い感じがするんですよね。

メレディスの自己表現をしない、自意識を捨てたその歌に殉じる姿勢は、
古謡や民謡を歌うトラッド/フォーク・シンガーに近いものがあります。
あまり知られていない曲を多く取り上げ、ヴァースから丁寧に歌うのも、
古老から歌を採集して歌うフォーク・シンガーの作法に似ています。

80年に出たメレディスのデビュー作は、静かなる衝撃でした。
茶1色に白抜き文字だけのそっけないジャケットは、
いかにも自主制作といった装丁で、
およそ女性ヴォーカル・ファンの関心を呼ぶものではなかったからです。
この当時の女性ジャズ・ヴォーカルといったら、中高年オヤジが、
昔のレア盤だの美人ジャケだのをほじくり返していたジャンルでしたからねえ。

そもそも20代前半の若造が聴くような音楽じゃなかったんですが、
当時のパンクやニュー・ウェイヴに背を向けてた自分にとっては、
こちらの世界の方が好ましく、無名の新人の超地味なジャケットは、
女性ヴォーカル・マニアのオヤジたちを相手にせず、
耳のある音楽ファンだけをトリコにする風情があって、夢中にさせられました。

メレディスの落ち着いた声質と温かな歌声には、抗しがたい磁力があります。
胸の奥底に沈殿していくような歌声は、一度聴いたらもう離れられません。
歌詞世界に没入するような歌でもありながら、その世界に拘泥することなく、
どこかさっぱりとしていて、すがすがしい。そんな歌いぶりがすごくいいんです。
ハートウォーミングなメレディスの歌は、オトナが聴く子守歌のようです。

80年のデビュー作は、メレディスのピアノ弾き語りを軸に、
曲によってベース、ドラムス、ギターがわずかに加わりますが、
81年の “ANOTHER TIME” はメレディス一人の弾き語り。
どちらも完全に歌だけを聞かせる作りで、ソロ演奏などはまったくありません。
この2枚に魂抜かれて、生涯の宝物となりました。

このあとメレディスは、フィル・ウッズやハンク・ジョーンズが参加した
82年のパロ・アルト・ジャズ盤でジャズ・シーンで一定の評価を得るんですが、
ぼくがお付き合いするアルバムはこの1・2作のみ。
ひさしぶりに聴き直して感極まってしまって、そういえばその後を知らないままだったので、
ちょっと調べてみたら、80を過ぎた今も、新作を出し続けているんですね。

お話戻して、この2作とものちにサニーサイドがCD化しましたが、
デビュー作の方はジャケットが差し替えられました。
せっかくだからここでは、懐かしいLPの方の写真を挙げておきましょう。

[LP] Meredith D'Ambrosio "LOST IN HIS ARMS" Spring SPR1980 (1980)
Meredith D'Ambrosio "ANOTHER TIME" Sunnyside SSC1017D (1981)
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トーチ・ソングからソウルまで ケティ・レスター [北アメリカ]

Ketty Lester LOVE LETTERS.jpg

へぇ、ケティ・レスターのこんな編集CDが出ていたのかぁ。
62年に ‘Love Letters’ の大ヒットで名を残したポップ・シンガーなんですけど、
一発屋とみなされている感があり、いまでは忘れ去られた人ですね。
70年代は俳優業に転向して「大草原の小さな家」に出演していたので、
そちらの経歴の方が有名だったのかも知れません。

この人のレコードのなかでは、もっともソウル色の強い
66年の “WHEN A WOMAN LOVES A MAN” を大学生の時、
メモリーレコードのオヤジさんに勧められて買い、この人を知ったんでした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-11-05

その後しばらくたってから、62年の “LOVE LETTERS” を手に入れたら、
歌いぶりがまるで違っていて、トーチ・シンガーのような味わいは別人でした。
‘I'll Never Stop Loving You’ ‘Gloomy Sunday’ ‘Fallen Angel’ で
聞かせる繊細な歌いぶりには、感じ入りましたねえ。

ブレスひとつもおろそかにしない丁寧な歌唱が生み出す、
吐息をもらすようになめらかに歌う唱法の絶品さといったら。
クラブ出身という経歴ゆえか、ポップス、ジャズ、ソウルの
いずれのジャンルにも属さないヴァーサタイルなタイプは、貴重でしたね。
40年ぶりくらいに聴き返したと思うんですが、やっぱりいいシンガーだったと思うなあ。

偶然見つけたこの編集CDは、97年にベルギーから出たもので、30曲入り。
62年の “LOVE LETTERS” が全曲レコードの曲順で収録されていて、
64年の “THE SOUL OF ME”、 65年の “WHERE IS LOVE?”、
66年の “WHEN A WOMAN LOVES A MAN” のほかシングル曲からも
選曲されています。ケティ・レスターの決定版じゃないですかね。
リマスターされた音質も上々で、未開封新品が300円だったのは、お買い物でした。

Ketty Lester "LOVE LETTERS" Marginal MAR084
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