滋味溢れるフルベ・サウンド サヘル・ルーツ [西アフリカ]
うわぁ、ぼくの大好物の楽器の音色!
コロコロと可愛らしい音色を出す1弦楽器、これ、クンティギだよねぇ。
頬をゆるませながら、CDのクレジットをチェックすると、
ジュル・ケレンという聴き慣れない楽器名が記されていました。
あれ? クンティギじゃないんだ。
クンティギはナイジェリアのハウサの楽器で、
このデュオはマリだから、楽器名が違うのも当然か。
西アフリカのサバンナ一帯で、広くある楽器なんでしょうね。
形状はンゴニを小型化したもの。クンティギはおもちゃのような小ささですけれど、
YouTube でジュル・ケレンを見ると、ボディには洋梨型のくびれがあり、
どうやら木製のンゴニとは違い、半切りにした瓢箪をボディにしているようです。
サイズも、クンティギよりひと回り大きいかな。
でも音色は、弦を1本だけ張ったウクレレみたいで、
クンティギとまったく同じ、乾いた愛らしい響きを奏でます。
サヘル・ルーツは、この1弦楽器のジュル・ケレンと1弦フィドルのソクを弾く、
アダマ・シディベと、カラバシとドゥンドゥンを叩くアラサン・サマケの二人組。
93年カラ生まれのアダマ・シディベと、
83年ガオ生まれのアラサン・サマケはバマコで出会い、
19年から共に活動を始め、今回5曲入りのデビューEPを出したんですね。
このシブいサウンドから察するに、二人ともプール人かな。
ラスト・トラックの曲名は‘Takamba’ とあるので、
ひょっとしてアラサン・サマケは、ソンガイ人かもしれませんね。
収録時間18分45秒、わずか5曲だけのミニ・アルバムですが、
フルベ(プール)音楽好きにはたまらないサウンドです。
アダマ・シディベは最初の3曲でジュル・ケレンを、あとの2曲でソクを弾いています。
ソクといえば、マリ音楽ファンならプール人音楽家で、
ソクの名手のズマナ・テレタをご存じと思いますが、ズマナ亡きあとも、
こうして若手がちゃんと育っているのは頼もしいですねえ。
さて、冒頭に触れたクンティギですが、ぼくがクンティギに愛着を持ってきたのは、
ナイジェリア中央部ジョス近郊のブクル出身のハウサ人グリオ、
アルハジ・ダン・マラヤ・ジョス(1946-2015)のレコードを、
40年近く愛聴してきたからです。
おもちゃみたいなクンティギを弾き倒しながら、
雄弁な歌いぶりで聞かせる、たったひとりだけの名人芸。
グリオというよりミンストレルにも通じる機知に富んだヴォーカルが、
ものすごく魅力的なんです。
この先CD化やストリーミングが実現するとは到底思えませんが、
40年前に買った2枚のレコードは宝物で、
久しぶりに懐かしく聴き返してしまいました。
さて、そんなダン・マラヤ・ジョスを思い出させてくれたサヘル・ルーツですけれど、
来たるフル・アルバムでは、このデュオの良さを損なわぬよう、
余計なゲストなど呼ばず、ぜひこの二人の演奏だけで制作してもらいたいな。
Sahel Roots “DIARKA” Mieruba no number (2022)
Zoumana Tereta "NIGER BLUES" Cobalt 09361-2 (2003)
Zoumana Tereta "SOKU FOLA: TRADITIONAL STRING MUSIC FROM SEGOU, MALI" Kanaga System Krush no number (2008)
[LP] Alhaji Dan Maraya Jos "ALHAJI DAN MARAYA JOS" EMI NEMI(LP)0043
[LP] Alhaji Dan Maraya Jos "KUDI MASU GIDA RANA" Polydor POLP151
2022-10-12 00:00
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