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カリブ海におけるポピュラー音楽誕生期の見取り図 [カリブ海]

¡CON PIANO, SUBLIME!  EARLY RECORDINGS FROM THE CARIBBEAN 1907-1921.jpg

カリブ海で商業録音が始まった20世紀初頭、
進取の気性に富んだレコーディング・チームは、
ハバナやサン・ファンといった港町で録音された都市の音楽ばかりでなく、
田舎を旅して民謡や民俗音楽を録音して、地元の客の好みを模索していました。

カリブの島々でレコードと蓄音機の新たな市場を開拓するべく、
さまざまなジャンルに手を伸ばしては、
市場や顧客の可能性を探って残された録音の数々。
それらをあえて未整理のまま並べることで、
商業録音黎明期にカリブ海で花開いていた音楽の多様性を示す、
ユニークな編集盤が出ました。

1曲目は、1907年にハバナで録音された、
マルティン・シルベイラによるバンドゥリア弾き語り(クラベス付き)。
マルティン・シルベイラは、キューバ西部の地方に伝わる
白人農民のスペイン系音楽プント・グァヒーラの音楽家。
マンドリンに似た12弦の弦楽器バンドゥリアにのせて、
デシマと呼ばれる即興詩をあやつり、風刺や自慢話、
時に相手をやりこめる侮辱も交え、その機転の利いた言葉使いで
人々を楽しませたといいます。

めったに聞くことのできないプント・グァヒーラがいきなり飛び出してきたので、
思わず前のめりになってしまったんですが、
続く2曲目の1910年にハバナで録音されたダンソーンにもびっくり。
19世紀半ばから続く由緒あるオルケスタで、
録音当時はパブロ・バレンズエラ管弦楽団を名乗り、白人黒人を問わず、
富裕層から庶民まで絶大な人気を誇った楽団だったといいます。

1914年にトリニダード島ポート・オヴ・スペインで録音された3曲目のカリンダも、
めちゃくちゃ貴重。バンブー・タンブー・バンドを伴奏に、
フレンチ・クレオール(パトワ)で歌われるカリンダなんて、初めて聞きました。

デューク・エリントンのバンドで ‘Caravan’ ‘Perdido’ などの名曲を作曲した、
マヌエル・ティゾール率いるサン・ファン市音楽隊の17年録音もレアなら、
トローバやソン、チャランガ・フランセーサの編成のダンソーン
ライオネル・ベラスコのラグタイム・ピアノ・ソロなど、
めちゃくちゃ貴重な録音がぎっしり収録。
歴史的価値の高さばかりでなく、音楽的に優れたトラック揃いで、
選曲者(クレジットがないけど誰?)の耳の確かさに感嘆します。

CDは14曲収録のLPヴァージョンにボーナス・トラック3曲が追加されていて、
そのうちの1曲はマリア・テレーサ・ベラの18年録音というのも、マニアには嬉しい。
ライナーの解説にこの3曲分のみ入っていないのは残念ですけれど、
カリブ海におけるポピュラー音楽誕生期の見取り図を示したといえる、
極上の編集盤です。

v.a. "¡CON PIANO, SUBLIME! : EARLY RECORDINGS FROM THE CARIBBEAN 1907-1921"
Magnificent Sounds MSR03
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