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古風なサンバ ペリ [ブラジル]

Peri SAMBA PASSARINHO.JPG   Peri SEGUNDO TEMPO.jpg

前回パウラ・モレレンバウムのつつましさにホレたという話をしましたけど、
反対にぼくが苦手なのは、自意識が前に出るインテレクチュアルなタイプのアーティスト。
ブラジルだと、マリーザ・モンチやアドリアーナ・カルカニョット、
ギリシャならエレフセリア・アルヴァニタキといったあたりでしょうかね。
はっきりキライってほどじゃないんだけど、体質が合わないというか、ぼくはカンベンというか×です。
それぞれのファンの方には、すみません、という話なんですけども。

インテレクチュアルな自己主張より、持ち味で存在感を示せるアーティストの方がやっぱりいいなあ。
アーティストの「器の大きさ」というか、「格」のようなものとでもいえばいいでしょうか。
そういうものがあれば、余計な自意識を振り回さなくたって、メッセージは伝わってきます。

すでに過去の音楽であるボサ・ノーヴァを、いまどきやること自体がインテレクチュアルなので、
イヤミなくボサ・ノーヴァを歌えるアーティストを見つけるのは、案外難しいものです。
だからこそ、パウラ・モレレンバウムのつつましさは貴重なわけで、
男性シンガーはと見渡してみると、
ペリことペリアンド・コルデイロ・ノゲイラがいることに気付きました。

ペリはボサ・ノーヴァのシンガーではなく、サンパウロのシンガー・ソングライターですが、
ウィルソン・バチスタに捧げた曲や、
ネルソン・ゴンサルヴィスが取り上げたショコラーチのサンバを歌うなど、
古いサンバに親和性を持つ、ジョアン・ジルベルトの忠実な継承者ともいえる人です。
特に、ギターの弾き語りで通したペリの4作目“SAMBA PASSARINHO” は、
サンバのバチーダをギターに置き換えたジョアンのギター・サウンドを再現していて、
ボサ・ノーヴァの男性シンガーと見なしても、まんざらハズレでもありませんね。

このアルバムを聴いた時は、ちょっとびっくりしました。
ギター1本でサンバ・カンソーンからボサ・ノーヴァまでさらりと歌ってのける才能は、
デビュー時のカエターノをほうふつとさせ、甘酸っぱくやわらかな歌い口にもトロけました。
また、CDパッケージも秀逸で、音楽ソフトがネット配信に移行しつつある時代に、
CDを作ることにこだわったデザイナーの良心ともいうべき作品に仕上がっています。

扉の開いた鳥かごが描かれたブルーの塩ビ・ケースから、
中に入った二つ折りの紙ケースを引き出すと、
かごから飛び立つ小鳥が出てくるというシンプルな線画が描かれています。
さらに紙ケースを開くと、青空に浮かぶ白い雲の鮮やかな写真が現れます。
青と白を基調とした塩ビ・ケースと紙ケースのすみずみまで神経を配ったデザインは、
もの作りにこだわるデザイナーの職人気質を感じさせる仕上がりで、
アートの街サンパウロならではの作品といえます。
シンプルなデザインながらその高いクオリティは、中身の音楽とも見事にシンクロしたものでした。

このアルバムのゆいいつ残念な点は、ラストのクラブ・ミックスが蛇足なこと。
ギター1本で、サンバの落とし子たる音楽をここまで聴かせる才能の持ち主が、
クラブ・ミックスなんて通俗的な流行に色目を使ったのは、ちょっとがっかりです。
それだったら、ノスタルジックなマルシャにアレンジするような気概をみせてほしかったなあ。
このラスト・トラックをオミットすれば、パーフェクトです。

そして“SAMBA PASSARINHO” の次作、“SEGUNDO TEMPO” もまた秀作でした。
今度はヴィオローンからエレキ・ギターに持ち替え、スモール・コンボをバックに歌うという趣向。
ジャズ・ギターのトーンで弾くバチーダとブラシが刻むドラムスがジャジーで、なんともクールです。
スティックでエイト・ビートを叩くドラムスとバチーダを絡ませた曲なんてのもあり、
ふつうサンバでこんなドラムスの使い方をしたら最悪になりそうなところ、
見事なリズム処理を聞かせてくれるんだから、そのセンスには舌を巻きます。
う~ん、才人ですねえ。
こういうさりげない振る舞いで懐の深さをみせるアーティストが、ぼくは好きです。

Péri "SAMBA PASSARINHO" Baticum no number (2005)
Péri "SEGUNDO TEMPO" Baticum no number (2008)
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