つつましいボサ・ノーヴァ歌い パウラ・モレレンバウム

パウラ・モレレンバウムはかつてのボサ・ノーヴァの味わいを体現できる数少ないシンガーです。
パウラの歌声に魅せられたのは、パウラのご主人でチェロ奏者兼アレンジャーの
ジャキス・モレレンバウムと坂本龍一がコラボした“CASA” がきっかけでした。
その後リリースした“A DAY IN NEW YORK” でも、
パウラは素晴らしい歌声を聞かせていましたね。

ところが、その後のソロ・アルバム“BERIMBAUM” では、
ボサクカノヴァやセルソ・フォンセカによるクラブ仕様のプロダクションが
パウラの歌声を殺していて、大幻滅。
イマドキのこじゃれたプロダクションでは、古風な佇まいを持つパウラの個性は損なわれるだけです。

今度の新作は、ジョアン・ドナートとの共同名義によるドナート作品集となりましたが、
麗しいパウラの歌声が蘇り、“BERIMBAUM” の雪辱を果たす快作となりました。
ドナートが昨年リリースしたジャズ・サンバ作品“SAMBOLERO” も
現役復帰後の最高作でしたけど、中音域を豊かに鳴らすドナートの穏やかなピアノ・タッチや、
フェンダー・ローズを想わせる懐かしいエレピ・サウンドは、今作でも快調ですね。
パウラの歌声とも相性バツグンで、しなやかなサウンドが極上のボサ・ノーヴァを紡いでいます。

パウラの声質ってクリアなんだけど、適度な湿り気を帯びていて、
それが落ち着きのある表情につながっているんですね。
主張しない声と、余計な自意識を感じさせない歌いぶり、そのつつましさにホレてしまいます。

本作にはアップ・トゥ・デートなプロダクションも施されているとはいえ、
クラブ・サウンドのような派手なものではなく、あくまでも控えめなので、
落ち着きのあるドナートのピアノ・サウンドにもよく馴染んでいます。
歌の途中で唐突に日本語が登場する“A Paz” のしなやかな美しさは、この二人ならではですね。

Paula Morelenbaum & João Donato "AGUA" Biscoito Fino BF992 (2010)

コメント 4

“CASA”、 “A DAY IN NEW YORK”共に一時は、聴き倒しましたが、このアルバムもあのような感じなのでしょうか？

あのバンドでヨーロッパ巡業中に坂本の父親が亡くなったんですよね。かつては有名な編集者でした。ツアーに密着したTV番組で観ました。筑紫哲也のニュース23にも生出演していたなあ…。

ジャケットも６０年代っぽくてGoodですね。

by ペイ爺 (2010-11-26 10:29) 

坂本龍一がジョビンに深い理解を示したのは、ドビュッシーという共通項があったからですね。

“CASA” “A DAY IN NEW YORK” より色彩感があって華やかな印象のアルバムですけど、そこはジョビンとドナートの個性の違いでしょう。
by bunboni (2010-11-26 23:09) 

>より色彩感があって華やかな印象
聴きました。

仰るとおりの印象ですね

「ひからびた権威にならず、錦の旗のようにエラそうに振り回されることもなく」というのは大切だと思います。bunboni さんの音楽批評の大事なメルクマールになっているのでしょうね。

このアルバムにも当て嵌まるんじゃないでしょうか？

ところで、EL SUR のHPのアフリカ新作コーナーにAlhajisaka Olayigbadeの“System 5”、“System 7”、“Adara System 12”が出ていました。

過去のLPのCD化の様ですが、お聴きになりましたか？

解説文を読むと、Yusufu Olatunji のワビ寂・サカラとは異なったサカラにAyinla Omowuraのツイスト・アパラを塗したような、そんな感じがしたのですが、実際はどんな音楽なのでしょうか？

bunboni さんの評価を教えて頂ければ幸いです。


by ペイ爺 (2010-12-15 17:44) 

“SYSTEM 12” は、ビート感覚が明らかに従来のサカラからハミ出てますね。アインラ・オモウラのアパラに似ている気もしますけど、う～ん……。

サカ・オライバデは、もともとサカラのミュージシャンだったのが、のちに自分の音楽はウェレ（アジサーリ）だと主張するようになった人だそうです。ですけど、“SYSTEM 12” がウェレなのかどうかは不明ですね。そもそもウェレという音楽じたいがどういうものなのか、よくわかっていないので…。と、ナゾだらけなんですけど、とにかく“SYSTEM 12” はすごく魅力的です。

従来のサカラよりはるかにスピード・アップしている“SYSTEM 7” も、すごく気に入ってますけども。
by bunboni (2010-12-15 20:24)