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ジョアン・ジルベルトの「カリニョーゾ」 [ブラジル]

João Gilberto  AO VIVO NO SESC.jpg

98年4月5日、ジョアン・ジルベルトが
サン・パウロのセスキ・ヴィラ・マリアナ劇場で行ったライブ録音がお蔵出し。
この2枚組CDを最初に店頭で見かけた時はスルーしたんだけど、
98年録音ならギリギリ大丈夫かなと思い直し、買ってみました。

「ギリギリ大丈夫」というのは、2000年の “JOÃO VOZ E VIOLÃO” で
ジョアン・ジルベルトのあまりの衰えぶりにガクゼンとなり、
以後ジョアン・ジルベルトのフォローをやめたからです。
ところが日本ではこの頃からジョアンを神格化して、
「法王」などと持ち上げる傾向に拍車がかかり、
ぼくはますます反発を感じて、後年のジョアンを完全無視するようになりました。

前にも書きましたけど、ぼくにとってのジョアン・ジルベルトは
色気あふれる初期だけで、後年では85年のモントルー・ライヴがゆいいつの例外でした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-11-05
ジョアン・ジルベルトは枯れた味わいが出るようなタイプの歌い手じゃないから、
後年の神格化する非音楽的な評価は、愚かしい権威付けにすぎません。

で、問題は90年代という録音時期です。
オフィシャルで出た94年のサン・パウロのテレビ特番のライヴ
“AO VIVO - EU SEI QUE VOU TE AMOR” も衰えが目立って、
早々に処分してしまったし、手元にある96年のイタリアの
ウンブリア・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ盤がまあまあ悪くないといったところ。

果たして98年のライヴはどんなものかと、疑心暗鬼で聴き始めましたが、
それほど衰えは感じられず、ジョアンも気分良く歌っていますね。
わずか645人という観客数は、度を越した完璧主義者に快適だったのかも。
老人声で色気を求めるべくもないところは、目をつぶりますけれど。

ジョアンが愛する古いサンバや往年のボサ・ノーヴァ全36曲は、
ファンにはおなじみのレパートリー。2時間弱というヴォリュームで、
96ページのブックレットには、ポルトガル語・英語解説と全曲の歌詞が付き、
原曲の歌詞をジョアンが変えて歌っている箇所も、丁寧に書かれています。

発売元のSESCによれば、
‘Violão Amigo’ ‘Rei Sem Coroa’ がCD初収録とありますが、
それよりびっくりなのは、ピシンギーニャとジョアン・ジ・バーロの大名曲 ‘Carinhoso’。
ジョアンが歌う「カリニョーゾ」なんて初めて聴いたぞ。これもCD初収録じゃないの?

ブラジル音楽の名曲中の名曲、情熱的なラヴ・ソングですけれど、
曲がドラマティックに盛り上がる一番の聞かせどころ、
‘Vem, vem, vem, vem’ (来て、来て、来て、来て)を、
ジョアンはギターだけの演奏にして、歌わないという暴挙に出ています。
過度な表現を抑えて、さりげない歌にしたかったのでしょうか。

歌い出しからして、歌とギターの拍をずらしまくり、
小節の区切りも無視して先走ったり、跳ねたり、縮めたりと自由自在に歌う、
ジョアン独特の無手勝流ギター弾き語りが
この名曲「カリニョーゾ」でも遺憾なく発揮されています。
ジョアン・ジルベルトの歌のシンコペーション感覚って、まぢ変態。
この1曲だけで、この2枚組は聴く価値があると思いますよ。

João Gilberto "AO VIVO NO SESC 1998" SESC CDSS0177/23
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