SSブログ

ピアノとヴォイスのミニマリズムが表すウブントゥ タンディ・ントゥリ [南部アフリカ]

Thandi Ntuli with Carlos Niño  RAINBOW REVISITED.jpg

揺るぎないピアノの力強さ。
左手がかたどる音塊に、南ア・ジャズの伝統がしっかりと息づいています。
とりわけントゥリの祖父レヴィ・ゴドリブ・ントゥリが作曲した
‘Nomoyoyo’ の温かなハーモニーは、南アからしか生まれない、
教会音楽ゆずりの美しさが宿っていますね。

新世代の南ア・ジャズ・ミュージシャンとして注目を集めるピアニスト、
タンディ・ントゥリの新作は、ロス・アンジェルスのアンビエント・ジャズの鬼才
カルロス・ニーニョとの共演作です。
タンディが大作 “EXILED” を発表した翌年19年の8月、
カリフォルニアのヴェニス・ビーチのスタジオで録音されたもので、
シカゴのインターナショナル・アンセムからリリースされました。
なんとカヴァー・アートは、シャバカ・ハッチングスが描いています。

バークリーの奨学金を蹴ってケープ・タウン大学で学んだタンディは、
クラシック・ピアノのスキルとアブドゥラー・イブラヒム直系の南ア・ジャズ・ピアノの
伝統を継承する一方、ハウス・プロデューサーとコラボレートしたり、
シャバカ・ハッチングスのアンセスターズにも一時期参加するなど、
21世紀のグローバルなジャズ・シーンに確かな爪跡を残してきました。

そんなタンディだからこそ、カリフォルニアでカルロス・ニーニョと共演したのも、
彼女の野心的な音楽的冒険なのだろうと、容易に想像がつきます。
しかし本作は、タンディのピアノとヴォイスのパフォーマンスをメインとした作品で、
カルロスとの出会いがもたらす化学反応のようなものを期待すると、
肩透かしかもしれません。

カルロスは、浜辺に打ち寄せる波音のサンプリングや
シンバルなどのパーカッションをコラージュした2つのトラック(3・7曲目)のほかは、
サウンドスケープをうっすらとトリートメントする程度の
きわめて控えめなサポートにとどまっています。

一方、タンディはピアノのほか、シンセやトンゴという小太鼓も演奏し、
矢野顕子の『長月 神無月』を連想させるヴォイスを聞かせます。
矢野顕子ほど奔放な歌いっぷりじゃありませんが、
のびやかな自由さは、両者共通するところがありますね。

ジャケット裏に、タンディによるアルバム・タイトルの詩が書かれていて、
そのなかに、「ウブントゥの本当の意味を求めて努力するように」とあります。
ズールー語のウブントゥとは、アフリカの伝統的な概念で、
社会の構成員間の調和と分かち合いの精神を意味しています。
アパルトヘイトを乗り越えた南アにおいて、特に重要視されたウブントゥですが、
現実はそのようにはなっていません。

タンディはこのほかにも、
「『虹の国』とは、この土地の分断された魂を回復させる仕事であり、
私たち自身の傷ついた精神から始まる」と語っています。
合意やコンセンサスの重要性を強調し、コミュニティ全体の幸福を優先する
ウブントゥの倫理的価値観や哲学に回帰しようとするタンディの意志は、
その音楽に鮮やかに表現されています。

Thandi Ntuli with Carlos Niño "RAINBOW REVISITED" Inernational Anthem Recording Co. IARC0073 (2023)
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。