マリ悠久の歴史が生んだ名女性歌手 ファンタ・ダンバ

マリにはグリオ出身の名女性歌手が大勢いますね。
アミ・コイタ、カンジャ・クヤテ、アダマ・ジャバテ、バコ・ダニョンと、
挙げていったらキリがありませんけど、
ぼくが一番好きな歌手は昔からずっと変わらず、ファンタ・ダンバです。

なかでも絶品なのは、70年代後半にソンゴイから出た諸作。
ソンゴイは、カメルーン生まれグアドループ育ち、シャンソン・クレオールの名歌手から、
アフリカ音楽プロデューサーに転身したジル・サラが興したレーベルです。
そのソンゴイ盤の79年作が突然ストレイトＣＤ化されたのには、驚きましたねえ。

オランダのＤＪ系レーベル、テンボによるＣＤ化で、バトゥル・セク・クヤテに続く第２弾。
テンボは権利者不明のままの無断リリースを表明していますが、
ソンゴイ盤はかつてイブラヒマ・シラが所有するボリバーナがＣＤ化していたので、
シラール・プロダクションが権利を所有しているはず。大丈夫か、こんな海賊盤作って。

アブないリリースにも思えますが、オリジナル・ジャケットによるＣＤ化はやはり嬉しいもの。
この79年作は、かつてボリバーナがＣＤ化した“FANTA DAMBA DU MALI VOL.2” で
全曲ＣＤ化済でしたけど、ボリバーナ盤はとっくの昔に廃盤となっていたので、
歓迎すべきリリースであることに変わりありません。



ちなみにボリバーナがリリースした編集ＣＤ３タイトルは、
マリのカリテックス・プロダクションズがジャケットを変えて2010年に再発しているんですけど、
マリ盤ＣＤを日本で入手するのはまず不可能でしょう。

ファンタの魅力はなんといっても、グリオらしいハリのある凛とした歌声ですね。
さらに素晴らしいのは、声の強さばかりでなく、温かみのある歌いぶり。
潤いのあるこぶし回しから醸し出される母性に、ぼくはとても惹かれます。
ファンタがバンバラ人のせいか、バンバラ特有の土臭さを感じるところも好ましく、
マリンケ人グリオのような華やかで圧倒的な歌声とは、ひと味違うんです。

というわけで嬉しいＣＤ化ではあるんですが、ライナーの誤った解説がいけません。
実は、ファンタ・ダンバという同姓同名のグリオがもう一人いて、
便宜上、こちらのファンタ・ダンバをNo.2、
もう一人の年長のファンタ・ダンバをNo.1と呼び分けているのですが、
このＣＤライナーは、本作の歌手をNo.1の方と勘違いして解説しています。

　　

年長のファンタ・ダンバNo.1は、ドイツ、ベーレンライター＝ムジカフォン
『マリ音楽アンソロジー』シリーズのマンディング編に３曲収録されているのがゆいいつの録音で、
このレコードではFanta Dembaと綴られています。中の写真を見ると、かなりのお婆さんですね。
同じ『マリ音楽アンソロジー』シリーズにファンタ・ダンバNo.2のソロ・アルバムがあり、
そのジャケットと見比べれば、No.1とNo.2に親子ほどの年齢差があるのは歴然です。

で、テンボがなぜこんな間違いを書いたかなんですけど、ぼくにはすぐにピンときました。
アフリカ音楽評論家フランク・ビセムのサイトのファンタ・ダンバのページに、
No.1とNo.2を取り違えているこれと同じ記述があったからです。
世界中のアフリカ音楽ファンが参照している有名なサイトで、
こんな大間違いを堂々と書かれては困るぜと、
以前誤りを指摘したメールを送ったんですけど、無視されてしまったようです。

う～ん、でも孫引きまでされるとなると、こりゃ問題だよなあ。
人の話は素直に聞くもんだぜ、フランク。

Fanta Damba "FANTA DAMBA" Tembo TEMCD8103 (1979)
Fanta Damba "FANTA DAMBA DU MALI VOL.1" Bolibana BIP330
Fanta Damba "FANTA DAMBA DU MALI VOL.2" Bolibana BIP331
Fanta Damba "FANTA DAMBA DU MALI VOL.3" Bolibana BIP332
[LP] Premiere Anthologie De La Musique Malienne "LE MALI DES STEPPES ET DES SAVANES : LES MANDINGUES" Bärenreiter-Musicaphon BM30L2501 (1970)
[Photo] Fanta Demba (Fanta Damba No.1) from BM30L2501
[LP] Fanta Damba "LA TRADITION EPIQUE" Bärenreiter-Musicaphon BM30L2506 (1970)