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ファドとボサ・ノーヴァ カルミーニョ [南ヨーロッパ]

Carminho Canta Tom Jobim.jpg

あぁ、これはいいなあ。
ファド流儀で歌ってみせたボサ・ノーヴァ。

ファドといえば、こぶしをゴリゴリつけ、情念を吐き出すように歌うもの。
押しつけがましさをきらい、シロウトぽくとつとつと歌うボサ・ノーヴァとは対極で、
両者の音楽が持つ美学は、いわば水と油。

ファド歌手がボサ・ノーヴァを歌うなんて無謀な企画は、大失敗に終わるか、
「まあ、せいぜいこんなところだよね」程度で収まるのが関の山と想像しちゃいますよね。
オペラ歌手が民謡に挑戦!みたいな無茶ぶりというか。
ところが、本作はなかなかの仕上がりになっているんですよ。

これを聴いて、すぐ思い出したのが、
アマリア・ロドリゲスの傑作“COM QUE VOZ” で歌われた“Formiga Bossa Nova”。
あれもすごくユニークな仕上がりで、アルバムのフックとなっていましたよね。

これまでカルミーニョの歌唱は、ファドを歌うには深みがなくて、
ぜんぜん物足りないとぼくは思っていたんですけど、
声量や表現力にダイナミクスが不足している彼女の歌いぶりが、
かえってボサ・ノーヴァを歌うという企画に、上手くハマったといえます。

ブラジル語の発音とは違う、巻き舌のポルトガル語発音で、
ファド特有のタメた歌い方をせず、流れるように軽い調子で歌う節回しが、
ファドともボサ・ノーヴァとも違って、心地よく聴くことができます。

考えてみれば、これって、サンバ・カンソーンの歌い回しに近いのかも。
そう気付かされたのが、“A Felicidade” でした。
ちょっとここでは、カルミーニョの歌いぶりに力みがあって、
ほかの曲のような軽味に欠けているんですね。
その歌いぶりは、エリゼッチ・カルドーゾが歌ったオリジナル・ヴァージョンや、
エリゼッチのボサ・ノーヴァ第0号アルバムに似たところがあるように思えます。

ジョビン晩年のバンド、バンダ・ノーヴァが伴奏を付けたジョビン曲集の本作、
初めてカルミーニョをいいと思える作品に出会えました。

Carminho "CARMINHO CANTA TOM JOBIM" Biscoito Fino BF452-2 (2016)
コメント(2) 

コメント 2

としま

ちょっぴり面白そうですね。買ってみようかな。

確かにおっしゃるようにファド歌手が歌うボサ・ノーヴァなんて…と思っちゃいますが。

大学生の頃に、オペラ歌手(名前は忘れた)がピアノ一台の伴奏でジャズ・スタンダードを歌ったレコードを買ったことがあって、これがもうちっともスウィングしないから面白くもなんともなかったんです。

どうしてそんなレコードを買ったのかというと、「枯葉」が入っていたからなんです。それもそれはフランス語原詞で、しかもヴァースから歌ってました。まあでもそれもダメでしたね。

このカルミーニョのはどんな感じかなあ?
by としま (2017-01-03 10:33) 

bunboni

さあ、どうでしょう? としまさんのお眼鏡にかなうかどうか、試してみてください。
ファド・ファンの評価が聞こえてこないのですが、MPBファンからは旧作の評判が良かった人です。ぼくにはファド歌手としてはペケを付けてた人だったんですけれどね。ファドを知らないブラジル音楽ファン向けだな、なんてちょっと見下してたんですが、これは素直に気に入りました。
by bunboni (2017-01-03 10:50) 

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