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ホワイト・グナウィ アマジーグ・カテブ [中東・マグレブ]

Amazigh.jpg

ようやく届いた元グナーワ・ディフュジオンのリーダー、アマジーグ・カテブのソロ・アルバム。
昨年フランスでリリースされたのに、いっこうに日本へ入ってこないし、
日本盤リリースの話も流れてしまい、何がどうなっているのやらとヤキモキしていました。
ようやく最近になって無事日本にも入荷するようになりましたけど、
インナーの謝辞に「あらゆる妨害をして私に闘争を強いた、わが敵たちに感謝します」とあり、
完成までにもいろいろと紆余曲折があったようですね。

アマジーグで忘れられないのは、4年前に来日した時の早稲田大学での講演です。
彼はその講演で、
「世界の多くの音楽は、奴隷の文化を起源に持っている」と熱弁をふるいました。
グナーワは、16世紀に北アフリカへ連れてこられた黒人奴隷たちが創り出した音楽ですが、
アマジーグによれば、本来自分たちの言葉でない言葉(アラブ語)で、
本来自分たちの宗教でない宗教(イスラム教)のために作った、
いわばアメリカのニグロ・スピリチュアルと同じ音楽であり、
バイーア起源のサンバやジャマイカのレゲエも、グナーワの仲間だというのです。

アマジーグはグナーワをそう捉えることによって、アルジェリアの伝統と近代化の間に横たわる
拭いきれない断絶と不和をなんとか和解させ、融合したいと考えているようでした。
かつてアルジェリア人が、黒人を奴隷化した加害者であることを十分に自覚しながら、
文化的多様性を認め合うことの重要さを強調する
アマジーグのメッセージは十分理解するものの、
その饒舌すぎるメッセージはどこか抽象的で、観念論のようにも聞こえてなりませんでした。
ぼくが気になったのは、アマジーグがアルジェリア社会を外側から見つめていることで、
その立ち位置から語る言葉は、テロと内戦の90年代をサヴァイヴしたアルジェリア人に、
はたして説得力を持つのだろうかということでしした。

そこでぼくは不躾ながら、
「マトゥーブ・ルネースをどう評価するか」と質問してみたのですが、
それまでの饒舌さからは一転、あいまいな答えではぐらかしました。
ぼくの問いもいささか意地悪だったかもしれませんが、
明快に答えられぬところに、亡命インテリの限界を見たような気がしたものです。

講演のあと、ぼくはアマジーグに
「レゲエとの共闘より、シャアビとの共闘を期待します」と言ったのですが、
それは誤解を招く言い方だったかなあと、あとになって反省したのでした。
アラブ、ベルベル、カビールなど分断されたアルジェリア社会の、
政治的アイデンティティの閉鎖性をブチ破ろうとするのなら、
レゲエのような世界標準化された音楽の力を借りて抽象化するのではなく、
アルジェリア歌謡を巻き込んだサウンドで、アルジェリアの人の心をつかんでほしい。
そんな思いで言ったつもりでしたが、あんな短い言葉じゃ、伝わるはずもありません。

それでもアマジーグは、イヤな質問や妙な意見を投げつけるおかしな日本人にも丁寧に接し、
手渡したCDに“FOR A JAPANESE GNAWI” とサインを入れてくれたのでした。

Amazigh Autograph.JPG

あれから4年、アマジーグのソロ・アルバムを楽しみに待っていましたが、
正直いって、もっとロック色が強まるんだろうなと予想していたのです。
ところが、あにはからんや、
なんとアルジェリア音楽へ接近した内容となっているじゃありませんか。
ラガ色が後退し、シャアビやライなどアルジェリア音楽を広範に扱ってマグレブ色を強めたのは、
まさにあの時ぼくが意見した方向性そのもので、正直びっくりです。

もう嬉しいったら、ありません。
ムース&ハキムがオリジンヌ・コントロレで、見事なアルジェリア移民歌を歌い上げたのも
刺激になったのかどうかはわかりませんが、アマジーグのこの方向性、ぼくは大賛成です。
ぜひこのアルバムが、アルジェリアで売れることを強く願わずにはおれません。
フランスや世界のワールド・ミュージック・ファン相手のセールスをあげることより、
アマジーグの思いがアルジェリア人に届くことの方が、はるかに意味があるはずですから。

Amazigh "MARCHEZ NOIR" Iris Music 3002 009 (2009)
コメント(2) 

コメント 2

繁盛亭アルバイテン

「レゲエとの共闘より、シャアビとの共闘を期待します」というbunboniさんの言葉に凄く共感します。ONBの新譜もマグレブ色が色濃く戻ってきましたが、それでも若干、レゲエへの媚がある。あれはいりませんよね。

アマジーグのソロは対訳が読みたくて、日本盤のリリースを待っていたのですが、流れちゃったんですね。ショック!
by 繁盛亭アルバイテン (2010-08-14 10:10) 

bunboni

ジャケット右脇のスタンプの“United States Of Maghreb”にこのソロ・サルバムにかけるアマジーグの心意気が表れているようで、グッときましたね。
by bunboni (2010-08-14 10:43) 

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