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スーダンのヴェテラン健在 アブデル・カリム・エル・カブリ [東アフリカ]

Kabli in Ethiopia.JPG   Balad Alsamahat.jpg

スーダンの首都ハルツームが砂漠の中の廃墟のような街だったのは、ひと昔前の話。
中国やアラブの投資マネーによる建設ラッシュで、街は見違えるほど変貌を遂げたようです。
中国語のネオンサインが飾られたホテルや、湾岸諸国によくある奇抜な形のホテル、
巨大ショッピングモール、大型スーパーマーケット、レストランなどなど、
その復興ぶりを写真で見ると、かつての荒れ果てたハルツームが嘘のようです。

そんなハルツームの復興を象徴するように思えたのが、
スーダン歌謡の大物、アブデル・カリム・エル・カブリの新作です。
新作では短く「カブリ」と名乗っているアブデル・カリム・エル・カブリは、
スーダンのポピュラー音楽黄金期にあたる60年代から活躍するヴェテラン歌手。
詩的な才能を発揮するとともにスーダンの北部、東部、中央部の民謡を発掘し、
スーダンの文化的アイコンとして高く評価されている人です。
かつてPヴァインからイギリス盤の『リマーザ』が出たこともあるんですけど、
いまでは覚えている人もあまりいないかもしれませんね。

Su'aad.jpg

そのアブデル・カリム・エル・カブリが健在であることを知ったのは、ちょうど10年ほど前。
99年作の“SU’AAD” ではカブリが弾くウードに、
アコーディオン、オルガン、ヴァイオリン5台、タブラ2台、
ギター、ベース、コーラスを伴奏に、往年のスーダン歌謡をたっぷりと楽しませてくれました。
カブリの自主レーベルによる制作で、プレスはカナダ製。
インレイの印刷もきれいで、簡単な解説も付いていました。
レコーディングはハルツーム、ミックスはエジプトで行われていて、
打ち込みに頼りがちのお隣の国エチオピアン・ポップより、はるかに上質な仕上がりでした。

ただ残念なことに、カブリのレーベルのほかには、スーダン人在外コミュニティから
スーダン音楽専門のレコード会社が登場することはなく、
アメリカ、ワシントンのコミュニティから活発なリリースをするエチオピアン・ポップの影に、
スーダニーズ・ポップが隠れていたのは事実でした。

すっかり音沙汰が途絶えていたスーダン音楽だったので、
カブリの新作2作が突然届いたのは、もう嬉しいったらありませんでした。
08年作の『エチオピアのカブリ』の方は、オーケストラ編成の生演奏ではなく、
ホーンズとドラムス代用の打ち込みを使った、近年のエチオピアン・ポップのプロダクション。
全曲ダンス・チューンで女性の喉声も響き渡るなど、
なかなかに華やかなアルバムとなっています。
そしてさらに素晴らしいのが、最新作“BALAD ALSAMAHAT” の方。
マラヴォワを思わせる艶やかなヴァイオリン・セクションの響きもゴージャスなら、
サックスやピアノをカクシ味的に使ったオール生音のプロダクションは、
これぞスーダン歌謡の醍醐味。
横揺れのスウィング感も心地よく、少しソフトになったカブリの歌声を包み込みます。

ZAMAN AL NAS.JPG

さらに嬉しいのは、ヴィンテージ録音のCD化も進んでいたこと。
スーダンで80年代にベスト・セラーになったという73年作の“ZAMAN AL NAS”は、
ドンカマに導かれ、エレピ、サックス、エレキ・ギター、ベース、ドラムスが
キャバレーのハコバンふうの演奏を繰り広げます。
庶民的ムードいっぱいのありし日のスーダン歌謡が楽しめるばかりでなく、
1曲カブリのウード弾き語りも聴けるというスグレモノ。

Fi Aiz Allil.JPG

80年代の録音と思われる“FI AIZ ALLIL” は、
まるっこい音頭ふうのビートにのってカブリの低音ヴォーカルがよく映えます。
民謡調のメロディーがのどかな雰囲気を醸し出し、
後半のレゲエ似の後のりリズムも楽しいですね。

Hafl.jpg

そして圧巻は、88年のライヴ盤“HAFL (LIVE CONCERT)”。
観客が熱い反応を示すオープニングから熱気むんむん。
ウードを弾きながら一言一言を噛みしめるように歌うカブリに、ぐいぐいと引き込まれます。
中盤からは、横揺れの心地よいスウィング感あふれるダンス・チューンが続き、
アコーディオン、エレキ・ギター、ベース、ボンゴ、
ヴァイオリン・セクションの伴奏による柔らかなグルーヴに、
身体が自然に動き出してしまいます。
観客の歓声や拍手など、会場の様子をよく捉えた録音も臨場感いっぱいで、
コンサート会場に居合わせている気分になれます。

スーダン製CDなので、ディスクはCD-R、
インレイも表紙のペラ紙一枚だけの粗末なものですが、
内容の充実ぶりに、もっとヴィンテージ録音が聴きたくなりますねえ。
<エチオピーク>シリーズみたくスーダン音源を発掘しようって人、誰か現れないもんですかね。

近作では、カブリのほか大物のムハンマド・ワルディも出していて、
ムハンマド・アル・アミーンや若手女性歌手ハルム・アルヌールなどとともに、
少しずつではありますが、現在のスーダニーズ・ポップスが聴けるようになってきました。

それにしても、世界中のポップスのビートがますますソリッドになっていく現在、
スーダンほど丸っこく朗らかなリズム感を持つポップスがあるのは、奇跡的とも思えます。
経済の復興とともに、スーダニーズ・ポップスの今後の展開を期待したいものですね。

Kabli "KABLI IN ETHIOPIA" Kabli Trading & Inv. Co no number (2008)
Kabli "BALAD ALSAMAHAT" Kabli Trading & Inv. Co no number (2009)
Abdel Karim A. El. Kabli "SU’AAD" Kabli Trading & Investment Co KTI1999 (1999)
Abdel Karim Alkabli "ZAMAN AL NAS" Kabli Trading & Inv. Co no number (1973)
Abdel Karim Alkabli "FI AIZ ALLIL" Kabli Trading & Inv. Co no number
Abdel Karim Alkabli "HAFL (LIVE CONCERT)" Kabli Trading & Inv. Co no number (1988)
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