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声がかたどる詩の韻律 シーリア・ニ・アールタ [ブリテン諸島]

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シャン・ノースのアルバムを買う時は、いつもちょっと緊張してしまいます。
無伴奏の丸裸の歌と向き合わなければならないので、
まずアルバム1枚聴き通せるかどうかが、最大の難関。
仮に全部聴き通せたとしても、何度も聴きたいと思うかどうかが、さらに問題です。
そんなわけで、シャン・ノースと聞くと、なかなか手を伸ばす勇気が出ないんですが、
このアルバムは、思い切って買ったかいがあったというか、
近年にないシャン・ノースの傑作だと思います。

シーリア・ニ・アールタは歌の名門グリアリシュー家出身の女性歌手。
99年にシャン・ノースのコンテストのオ・リアダ杯を受賞した経歴をお持ちとのこと。
デビュー作の本作は、もちろん全編無伴奏のゲーリック・シンギングによるシャン・ノース集。
ゆったりとしたテンポで、装飾的なこぶしを回しながら歌うスタイルは、
シーリアの出身地であるコネマラ地方のシャン・ノースの特徴をよく表しています。
きっぱりとしたシンギングには凛とした美しさがあり、聴いているだけで自然に背筋が伸びます。

ヴィブラートを使わず地声で歌うシャン・ノースを聴いていると、
あらためて歌の表現力というものを考えさせられずにはおれません。
シャン・ノースでは声に大小の変化をつけたり、音程を揺らすようなことは一切しません。
ポップスではよく歌の表情を付けるなどと言いますが、
むき出しの声とでも言うべきシャン・ノースの前では、
そんな「歌の表情」といった技巧は小ざかしくみえます。

シャン・ノースは、十分息をためて出す強い声と確実な音程をもとに、
こぶしをつけていくところに特徴があります。
歌の表情ではなく、発声の表情というところがキモなんですね。
アイルランド音楽に詳しいわけではないので、自信をもって言うことはできませんが、
装飾音はメロディにつけられるのでなく、詩の韻律につけられているように聞こえます。
それだけ詩の内容が重視されているんじゃないかと想像するのですが、どうでしょうか。
類い希なる声の表現力が備わったシャン・ノースに圧倒される一枚です。

Celia Ní Fhátharta "IRISH TRADITIONAL SEAN-NÓS SONGS" Cló Iar-Chonnacht CICD183 (2010)
コメント(2) 

コメント 2

シルヴィ

こんにちは。
このCD、アマゾンで試聴しましたが、綺麗な歌声ですね。不思議と違和感がありません。絶対買います。
でも、シャン・ノースは歌詞が大事だから、歌詞のことがわからないとダメだと思って、某レーベルに「これを解説付きで出してくださりませんか」と問い合わせました。
それは別として、素晴らしい音楽をありがとうございます。
by シルヴィ (2017-05-22 17:02) 

bunboni

無伴奏のシャン・ノースのアルバムが日本で出たこと、あったっけな。解説付きの日本盤が出るといいんですけれども。
by bunboni (2017-05-22 20:22) 

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