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おそるべし大衆藝能の底力 ナンジャラホワーズ [日本]

笑ふリズム.JPG

いや~、おそれいりました。
こんなグループが戦時中の日本に存在していたなんて、
ひれ伏すほかありません。降参です。

ナンジャラホワーズは、オーディブックの『日本の庶民芸能入門』所収の
「笑ふリズム(下)」を聴いていたとはいえ、
これほどスゴいグループとは、正直思っていませんでした。
今回のフル・アルバムには、戦時色が強まる
昭和15・16年(1940・1941)に録音されたSP10枚両面に加え、
戦後「ミス妙子とそのグループ」名義で残された2曲が収録されています。
これまで「笑ふリズム」片面しか復刻されていなかったグループだけに、
初復刻曲をずらり並べた今回のフル・アルバム化は、奇跡的偉業といえます。

阿呆陀羅経、端唄、都々逸、浪花節、書生節、義太夫、
民謡、唱歌、童謡なんでもござれのレパートリーに、
ジャズ、ポルカ、ハワイアンをベースにした
ジャズソングをパッチワークさせた、ナンセンス・ソングの数々。
あきれたぼういずの向こうを張った、ナンジャラホワーズというネーミングも絶妙なら、
同時代のスリム&スラムをホーフツとさせる音楽性の
和製ジャイヴ・ミュージックに圧倒されます。
リーダーであるミス妙子のチャーミングな歌いぶりもめちゃくちゃ魅力的で、
70年前の録音とはとても思えないスピード感ある歌や語り、
スウィング感いっぱいの演奏は、必笑必至です。

ギターとドラムスの女二人に、ギターとアコーディオンの男二人という編成もユニークで、
この時代に女性のドラマーって、すごくないですか?
音を聴く限りでは、ドラマーというより、鳴り物担当だったようですけれども。
演奏にはクラリネットが加わっていますけど、これは誰が演奏したんでしょう?
彼らが一流の芸人グループだったことは一聴瞭然ですけども、
これだけ見事にジャズソングを消化していたのは、
ジャズバンド出身の音楽家がいたとしか思えず、
タイヘイジャズバンドのメンバーでも交じっていたのではと、想像を巡らさずにはおれません。

なんせ、ミス妙子、ミス洋子、フランク富夫、フランク正夫という4人の芸名以外、
まったく素性知れずのグループなので、どういう芸歴の人たちだったのかは謎なんですね。
この情報時代に、写真1枚しか現存していないというバイオ不明ぶりにも、
かえってロマンをかきたてられます。
当時関西ではかなりの人気者だったにもかかわらず、芸(SP音源)しか残らなかったなんて、
大衆藝能者として本来あるべき姿といえるのかもしれません。

それにしても、新体制と称して統制の厳しくなった昭和16年2月に
「今何時だと思って? 何時ってお前、非常時だ、アーン」(「ナンジャラ時局學」)
と笑い飛ばすアナーキーぶりは驚愕。
当時の言論統制が穴だらけだったことは、
毛利眞人さんの『ニッポン・スウィングタイム』を読むとよくわかりますが、
官憲の目をかいくぐれた奔放さも、昭和16年がぎりぎりのタイミングだったんでしょうね。
笑いで戦中を耐え、逞しく生き抜いた庶民のヴァイタリティを体現した大衆藝能、ここにあり。

ナンジャラホワーズ 「笑ふリズム」 華宙舎 OK2
コメント(9) 

コメント 9

手島裕

ラミュゼでお世話になった手島です。
これを読んで思わず買っちゃいました。
最高です!ちょっとスライを思い出したりしました。
by 手島裕 (2011-03-08 22:30) 

bunboni

ごぶさたしております。
やっぱり気に入られましたか!
今年度のベスト・リイシュー大賞ものですね。
by bunboni (2011-03-08 22:40) 

さすらい日乗

私のブログに書きましたが、このミス妙子と言うのは、間違いなくミス・ワカナだと思います。
リズム感、素っ頓狂な受け答え、歌の上手さ、音程の正確さなど、まずワカナでしょう。
ワカナは、当時ビクターとテイチクに契約があったので、タイヘイで録音するには変名にするしかなかったのだと思います。
実演も写真もないのは、変名の印しだと思います。
もし、このレベルの芸人がいたら、興行会社がほっておくはずがないと思います。
by さすらい日乗 (2011-09-06 19:59) 

bunboni

たしかにミス・ワカナ級の歌のうまさなんですけど、声質はだいぶ違うように思うんですが、どうでしょう??? 岡田則夫さんのご意見をうかがってみたいものです。
by bunboni (2011-09-06 21:09) 

さすらい日乗

岡田則夫さんは、よく分からないとのことでした。
確かに声の感じは違うのですが、これはワカナが演じているのだと思います。
ナンジャラホワーズでは、リーダーと言うよりも、ワン・ノブ・ゼムという感じで、可愛いい女をワカナが演じていることが、声が違うように聞こえるのではないでしょうか。
ワカナですら、男に愛される可愛いい女を演じていたと言うのは、ジェンダー論としても、面白い実例だと思いますが。
by さすらい日乗 (2011-09-07 17:49) 

bunboni

すでに岡田則夫さんに訊かれていたのですね。
ワカナのジェンダー論というのは、ぼくにはピンときませんが、
もしミス妙子がワカナだとしたら、なぜ玉松一郎とのコンビでなく、
変名まで使ってよそのグループに参加したのか、ナゾですねえ。
ぼくはやっぱり別人説をとりたいと思います。
by bunboni (2011-09-07 22:22) 

さすらい日乗

それは、ワカナの芸人魂で、「自分はボーイズ芸も軽くできる」と見せたかったのではないかな。
ボーイズものとなると、玉松一郎ではまず無理で、別の芸人とやったと言うことだと思います。
ワカナ説は、彼女のすごさを現すものであり、決して貶めるものではありません。

ジェンダー論とは、当時はワカナですら、やはり可愛いい女と言われたかった時代だったと言うことです。
by さすらい日乗 (2011-09-07 23:13) 

利根三山

岡田則夫門弟の端くれですがやはりミスワカナ説を取ると矛盾が生じると師匠は言いました。昭和15年にミスワカナは玉松ワカナに名前を変えているのに対しナンジャラホワーズに入っているとするならばなぜミスを名乗り続けたのか。またミスワカナが入っているならば自伝に近いのもありますのでミスワカナ一代の中で語られるはずです。吉田留三郎や秋田実などの舞台参考人もおりますから。岡田則夫本人もよく知らないと語ってますがミスワカナの可能性は低いと指摘しておりました。ミスワカナは河内家の出ですし楽器も出来たと想像はできますがミスワカナならば資料がもう少しあるはずです。
by 利根三山 (2012-01-05 22:11) 

bunboni

たいへん重要な示唆を含むコメント、ありがとうございました。
私はあくまで耳でしか判断できませんが、ミス・ワカナ説は妄想と考えます。
さらに、奇妙なジェンダー論に結びつけるのは、私は賛成できません。
by bunboni (2012-01-05 22:33) 

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