ギター・バンド・ハイライフのパイオニア クワベナ・オニイナ

　　　
　　　
　　　

ここのところ“Ghana Highlife Music” をじっくり読んでいるんですけれど、
ガーナのハイライフのミュージシャンやバンドを
広範に取り上げているのはありがたいんですが、
当然触れておくべき重要な事柄がなぜか書かれていなかったり、
その一方で枝葉末節なエピソードがやたら丁寧に書かれていたりと、
記載されている情報内容のバランスの悪さが目立ちますね。

当時のガーナの社会状況や歴史的な背景に関する言及が乏しいのも気になるところで、
突っ込みが足りなくて、もどかしさを覚えてしょうがありませんでした。
この本を読みながら、ふと思ったんですけれど、
ガーナやナイジェリアのギター・バンド・ハイライフって、
アフリカのポップスで一番とっつきにくい音楽かもしれませんね。

歌もサウンドも泥臭く、不協和音ぽいコーラスが起伏の乏しいメロディーを繰り返すような、
いわゆる＜キャッチー＞とか＜ポップ＞な要素がまったくない音楽だから、
その愛想のなさは、取り付くシマがないという感じ。
ひたすら反復を繰り返す泥臭い音楽といっても、たとえばナイジェリアのサカラのように、
民俗楽器の響きやイスラミックなこぶし回しといった特徴があれば、
それを手がかりに入っていくこともできますけど、
楽器編成に民俗的な特徴のない、普通のギター・バンド・スタイルだから、
アフリカらしいサウンドを求めるファンには不向きともいえます。

そんなわけで、ぼくもその昔はギター・バンド・ハイライフが苦手だったんですけど、
その苦手意識が取り払われたのは、キング・オニイナことクワベナ・オニイナを知ってからでした。
オニイナの音楽にはパームワイン音楽の残り香が強く残っていて、
デッカ盤の10インチには雑多な音楽要素がブレンドされた面白さがあります。
その10インチ盤から編集したドイツのポピュラー・アフリカン・ミュージック盤ＣＤは、
オニイナの魅力を知るのに絶好です。

各曲にはマンボ、チャチャ、サンバといった形式が書かれていますけど、
真に受けちゃいけません。カリプソだけホンモノぽかったりしますが、
ほかは「なんちゃって」すらにもなってない、気分だけラテンです。

むしろオニイナのプレイには、ジャズやブルースの感覚が強く感じられます。
バーニー・ケッセルやタル・ファーロウなどのレコードから学び、
ディミニッシュ系コードを多用するオニイナですが、
普通、そうしたコードを多用すれば洗練されたおしゃれ感が出るところなのに、
あくまでもメロディはガーナらしい泥臭さ丸出しなところが面白いですね。

オニイナはE・K・ニヤメをさらにモダン化したスタイルを確立しましたが、
初期の音楽にはE・K・ニヤメよりもパームワインの影響を色濃く残した、
雑種音楽の味わいを持っていました。
60年代になると＜いんちきラテン＞な曲がなくなり、泥臭いマイナー調の曲ばかりになりますが、
すぐにオニイナとわかるギター奏法には、パイオニアらしい個性がくっきりと刻印されています。

“Ghana Highlife Music” のオニイナの項では、ジャズの影響をまったく触れていないばかりか、
パームワイン音楽との関連についてもほとんど語られておらず、
バイオ情報に終始していて、不満が残ります。

[10インチ] Onyina’s Guitar Band "GHANA GUITAR MUSIC" Decca WAL1012
[10インチ] Onyina’s Guitar Band "ONYINA HITS" Decca WAL1020
[EP] Onyina’s Guitar Band "GHANA GUITAR RYTHMS" Decca WAX105
King Onyina "KING ONYINA'S GUITAR HIGHLIFE" Popular African Music pam ag702
[LP] King Onyina’s Guitar Band "ODO YE ANWAWADE" Decca WAP279
Oppong, Onyina, Frimpong, Adangbe, Akompi, Akwaboa, Youngsters, Royal Brothers "I'VE FOUND MY LOVE : 1960'S GUITAR BAND HIGHLIFE OF GHANA" Original Music OMCD019