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河内音頭の名盤誕生 鉄砲博三郎 [日本]

鉄砲博三郎.JPG

まさしく河内音頭界のヴェーリャ・グァルダ!
鉄砲博三郎、83歳にしてデビュー作、圧巻の初フル・アルバムです。
何がすごいって、そのノド。齢八十を越す声だとは、到底思えません。
それもそのはず、鉄砲博三郎は大阪市平野区の出身、わずか6歳で河内音頭の櫓に上がり、
70年の芸歴を誇るというんだから、その鍛え抜いたノド、語りの熟成ぶりは、人間国宝級。

こんなすごい人が、なぜこれまで録音を残さなかったんでしょう。
いや、むしろ、よくぞ今録音を残してくれたというべきですかね。
60年代から吉本興業の劇場に上がり、音頭ショウを編成していた時期もあったという鉄砲博三郎。
吉本では数少ない音頭取りとして三十年近く活躍し、
その後櫓の世界に戻って現役を続けてきたというのだから、まさしく現場の人だったのですね。
なんせ音頭取りが83歳なら、三味線の曲師は75歳、ギターは74歳、太鼓が66歳ですからねぇ。
こんな大ヴェテランに♪お見かけどおりの若輩でぇ~♪などと歌われた日には、
聴いてるこちらの方が困ってしまいますよ。

70年のキャリアを感じさせるのは、力みのない語り口。
ふわりと軽やかにコブシを回しながら、余計な力が入っていない明快な発声で、
キモとなる言葉の響きを聴き手に打ち込んでいく、歌と語りの技術。
ここが聴かせどころといったパートでも、たたみかけるような凄みを利かせずに、
ぐいぐい引きつけてしまう説得力は、老境に達したヴェテランの技量としか言いようがありません。
若手じゃこんな芸当はとてもできませんよ。
浄瑠璃でも老齢の太夫だけがなし得る境地じゃないでしょうか。

そんな高度に磨き上げられた語り芸を守り立てる伴奏陣もまた鮮やか。
ちんどん通信社の面々をはじめ、アコーディオン、サックス、チューバ、ヴァイオリン、ドラムスなどが、
ごく自然に河内音頭になじんで演奏しているところが素晴らしい。
二十年前、河内家菊水丸や江州音頭の初代桜川唯丸が聞かせた、
プログレッシヴなサウンドとはまったくの別物です。

これまで河内音頭を現代化しようと、レゲエなどの異種音楽とミックスするなど、
さまざまな実験が繰り返されてきたわけですけれど、
ここではプレイヤーたちが自分たちの音楽を主張することを止めて黒子となりきり、
河内音頭に寄り添うように伴奏を務めたことで、
河内音頭を新たなステージに上らせたように思えます。

河内音頭の新たな地平を切り開いた会心の一作。
歌舞伎役者の如く、きりりとした立ち姿も美しい鉄砲博三郎の写真に、
ロゴタイプとジャケット・デザインも絶妙です。
21世紀の河内音頭の名盤誕生に、喝采を贈りたいですね。

鉄砲博三郎 「音頭師」 ミソラ MRON3002 (2013)
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