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渡辺香津美の80年代最高傑作 [日本]

Kazumi Band GANESIA.png   渡辺香津美 MOBO SPECIAL   UCCJ4116.jpg

渡辺香津美がジャズ/フュージョン・ギタリストという枠を超え、
野心溢れる音楽家として才能を溢れさせていた80年代の最高傑作が、
『ガネシア』(82)と『MOBO SPLASH』(85)の2作でした。
当時はLPで聴いていたんですけれど、
85年にCDリリースされた時の音質があまりにショボくて、残念でなりませんでした。

今回、渡辺香津美のデビュー45周年を記念して、ユニバーサルミュージックから
ポリドールdomo時代(1982年~2001年)の19作品がSHM-CD仕様で出るというので、
喜び勇んでこの2作品を買い直しましたよ。
85年に出たCDを今見直したら、なんと3300円もしてたんですねえ。
初期のCDがいかに高かったかがわかろうというものですけれど、
今回は1728円とお値打ち価格でございます。

あらためて今聴き直しても、この当時の香津美は、本当にスゴかった、うん。
1作ごとにどんどんサウンドを進化させていってたもんなあ。
TVCFに起用されて大ヒットとなった『トチカ』(80)は商業的成功を呼びましたけれど、
大きな音楽的な成果を上げたのは、カズミ・バンドの2作目『ガネシア』のほう。

当時もっともプログレッシヴなジャズ・ロックを展開していたプロジェクトのマライアから、
清水靖晃(ts, bcl)、笹路正徳(Key)、山木秀夫(ds)の3人を起用し、
セッション・ベーシストの高水健司を加えたカズミ・バンドは、
軟弱化していくフュージョンに背を向けた、アンチテーゼともいえました。

張りつめた緊迫感あふれる演奏でスタートする「リボージ」から、
極端にハイ・ピッチなチューニングをした山木秀夫のスネア・ドラムが甲高い打音を炸裂させ、
香津美のベスト・パフォーマンスといえる圧倒的なギター・ソロを展開する「ガネシア」、
チンドンをジャズ化したオリエンタル趣味の「カゴのニュアンス」まで、
溢れ出るハイ・テンションなエネルギーは、ただごとじゃありませんね。
これを聴いて、キング・クリムゾンやビル・ブラッフォードを想起する人がいるのも、
むべなるかなです。

カズミ・バンド解消後、香津美はMOBOプロジェクトを始動させますが、
ぼくが評価したいのは、スライ&ロビーを起用して話題をさらった第1弾の『MOBO』(83)ではなく、
MOBOプロジェクトの最終作となった第3弾の『MOBO SPLASH』のほう。
グレッグ・リーのベース(1曲のみ井野信義)に村上ポンタのドラムスのトリオ編成を核に、
鍵盤担当を置かず、香津美がギター・シンセサイザーやサンプラーを駆使して、
先進的なサウンドを作り出しています。実験的ともいえる音づくりをしつつも、
ポップにまとめあげるところは、YMOとの活動を通じて学び取ったセンスなんじゃないのかな。

ゲストにマイケル・ブレッカー、デビッド・サンボーン、梅津和時の3人のサックス奏者を起用し、
それぞれの持ち味にあった曲で、3人の水を得た魚のようなプレイを楽しめるのも、
本作の聴きどころ。「時には文句も」での梅津さんのフリーキーなアルト・ソロも痛快なんですが、
びっくりしたのは「師走はさすがに忙しい」のサンボーンのトリッキーなソロです。
最初は梅津和時がソロを取ってるのとばかり思ってたんだけど、
こんなブチ切れたサンボーンのソロ、ほかじゃ絶対聞けませんよ。

これほどの傑作2枚なんですが、当時も今も、
この2作を香津美の最高傑作と評した記事に、お目にかかったことがありません。
だから、わざわざここで書いているってこともあるんですけれど、
記録的な大ヒットを読んだ『トチカ』(80)や新プロジェクトで話題をさらった『MOBO』(83)ばかりが、
常に香津美の代表作として取り上げられ、名盤ガイドに載ることもなかったのは遺憾千万です。

フュージョンが軽んじられたのも、
セールスや話題を呼んだかどうかという、業界事情に左右されすぎていて、
音楽的な中身できちんと評価する姿勢に欠けていたからなんじゃないですかね。
フュージョンの名盤ガイドを見るたび、毎度違和感を感じるのは、
ライターの確かな耳で選んでおらず、
定評を優先しすぎる編集サイドの問題のように思えてなりません。

渡辺香津美 MOBO SPECIAL H33P20050.jpg最後に蛇足ながら、
今回のSHM-CDリイシュー、
音質もグンとアップしてとても嬉しいんですが、
『MOBO SPLASH』がオリジナル・ジャケット(写真右)でなく、
再発時のジャケットに変更されたのが残念でした。
ホログラム・ペーパーの色合いがキレイで
気に入ってたんですけどねえ。

MOBOの一連の作品は、
アメリカのグラマヴィジョンからもリリースされて、
その際にこの赤いジャケットに変わったんじゃなかったっけ。
デスマスクみたいと敬遠されたのかなあ。

Kazumi Band 「GANESIA」 ユニバーサルミュージック UCCJ4111 (1982)
渡辺香津美 「MOBO SPLASH」 ユニバーサルミュージック UCCJ4116 (1985)
渡辺香津美 「MOBO SPLASH」 ドーモ H33P20050 (1985)
コメント(7) 

コメント 7

としま

「師走はさすがに忙しい」のサンボーン。ラジオで聴いて、確かに彼にしてはぶっ飛んでいるんですけど、ブログで書きましたように、その前年だったかのライヴでの坂田明がその百倍ぶっ飛んでいたので、『MOBO SPLASH』を買う気になれなかったです。でもまあ買ってみようかなあ。
by としま (2016-02-14 20:21) 

bunboni

としまさんのブログ読んで、坂田明が吹いた時の演奏聴いてみたい!と思いました。『MOBO SPLASH』でのサンボーンもすごい頑張ってるんだけど、正直梅津さんに吹かせた方がもっとスゴかっただろうなと思ったし、坂田明ならなおさらのことですね。
by bunboni (2016-02-14 20:30) 

としま

デジタル化したデータがMacにありますので、近々YouTubeにアップしようと思っていますよ。乞うご期待!
by としま (2016-02-14 22:10) 

としま

上げておきました。お楽しみいただければ嬉しいです。
https://www.youtube.com/watch?v=sytbd5KcDZM
by としま (2016-02-15 17:48) 

bunboni

うぉー、スゴイ。いいもん、聞かしてもらいました。
洋輔さんのピアノも大活躍してますねえ。
この当時、香津美は坂田明の師匠筋にあたる井上敬三さんともレコーディング(『BOYS, BE AMBITIOUS!』)していたから、このセッションに井上敬三も参加してたら、これぞホントの(坂本龍一のではなくて)カクトウギ・セッションになったろうなあ。
by bunboni (2016-02-15 18:41) 

yusei884

80年代にガネシアで香津美さんのファンになりピットインによく行きました。おっしゃるようにガネシア、MOBOスプラッシュも素晴らしいですけど、Moboはやはり衝撃でした。私の中では香津美さんの最高傑作です。それにしてもあの当時の香津美さんのライブはすごかった。いつも感動して耳がキンキンしながらも家に帰って興奮して寝付けなかった記憶があります。
by yusei884 (2019-02-03 20:03) 

bunboni

きっとピットインで同じライヴを経験していたかもしれませんね。
あの当時の香津美は、上り坂にあるミュージシャンだけが持つ特別の輝きがありました。
今はそれと同じ輝きをドラムスの石若駿に感じます。
by bunboni (2019-02-03 20:44) 

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