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新世代南ア・ジャズの極上ライヴ カイル・シェパード [南部アフリカ]

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南ア・ジャズの歴史ある都市ケープタウンから登場した、
アフリカン・ジャズ・ピアニストの新星、カイル・シェパード。
12年作“SOUTH AFRICAN HISTORY !X” では、
ダラー・ブランド(アブドゥラー・イブラヒム)直系のピアノを聞かせてくれ、
こりゃ頼もしい新人が出てきたぞと大注目していたのでした。

タイトルが示すとおり、しっかりと南ア音楽の伝統を見据えた内容で、
トラディショナルとクレジットされた曲では、
マラービを復活させるかのような演奏を聞かせてくれ、快哉を叫んだものです。
ダラー・ブランドでお馴染みのフレーズも盛んに飛び出し、
「小粒なダラー・ブランド」といった印象もあるんですけれど、
民俗音楽まで取り込もうとする意欲は、ブランドの影響下にとどまらない意欲をうかがわせます。
まだ弱冠24歳の若者ですからねえ、こりゃ期待せずにはおれないってもんです。

その後カイルが何度か来日していたのは知っていたんですけど、
フェスへの参加だったりで、なかなか観る機会がなかったんですが、
今回はトリオによる単独公演なんだから、見逃すわけにはいきません。

いやぁ、堪能しましたよ。
左手のリズムが、まあ重厚なこと。
これぞアフリカン・ジャズといえる、どっしりとしたビート感が強力でした。
時に右手が、詩情あふれるロマンティックなフレージングを奏でることはあっても、
左手の揺るがないタイム感が、甘く叙情に流れるのを押しとどめます。

さらに、アフリカン・ジャズの面目躍如だったのは、
譜面をピアノの弦の上に置き、ピアノの音色をノイジーに変えたりしていたところ。
この技法は、現代音楽のプリペアド・ピアノなんかとは無関係ですからね。
アフリカ音楽を知る人なら、親指ピアノを再現していることが、すぐに理解できたはずです。
ンビーラ演奏そのものといったフレーズで曲は始まり、
やがてメロディが展開するにつれ、親指ピアノでなく、
バラフォンの演奏のようになっていくところで、鳥肌立っちゃったもんねえ。
アフリカ音楽を知らないジャズ・ファンは、この醍醐味がわかんなかったろうなあ。

親指ピアノのような素朴なメロディの反復は、ほかの曲にもみられ、
反復をしつこく繰り返すうちに、少しずつフレーズが転回していくところは、
まさにアフリカ音楽の特質を表現していたといえます。

アンコールの最後にやった、マラービ調の曲もよかったなあ。
あとでカイルにあの曲は何?と聞いたら、やはり「トラディショナル」だと答えていました。
ダラー・ブランドもよくやるテクニックで、左手と右手を交叉して右手が左手より低い音を弾くと、
南ア独特の雄大でおおらかなメロディが出現するんですよね。これがグッとくるんだよなあ。

カイルのピアノのことばっかり書いちゃいましたが、
今日的なビートも繰り出し、カイルを猛然とプッシュするドラムス、
堅実なプレイで、反復フレーズをカイルと展開していくベース、
3者のコンビネーションも当意即妙。
中盤で1曲のみ、猛烈にグルーヴする曲をやったのには、困っちゃったな。
踊りたくてたまらん状態の血流上がりまくりで、立ち上がるのを抑えるのに必死でしたぁ。

Kyle Shepherd "SOUTH AFRICAN HISTORY !X" Sheer Sound SLCD220 (2012)
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