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エレクトロ+セネガリーズ・ラテン ラス [西アフリカ]

Lass  BUMAYÉ.jpg

いよいよセネガルからも、アフロビーツの影響大なシンガーが登場しましたね。
これまでに、R&Bやヒップ・ホップ、ラガの影響を受けた
新世代ンバラのシンガーはいるにはいましたけれど、
そうしたシンガーと一線を画す新しさが、
このラスことラッサナ・サネのデビュー作にはあります。

ダカール郊外の海沿いの街、ムバタルで生まれたラスは、
幼くして父を亡くし、野菜売りの母の収入では通学の交通費をねん出できず、
高校をドロップアウトして、漁師と一緒に仕事をしたといいます。
漁業の仕事をしながらも、音楽への情熱が失せることはなく、
朝から海辺へ行って、波の砕ける音に負けない声を出すトレーニングを重ね、
2年間かけて大きな声を獲得したそうです。グリオのような声が欲しかったんですね。

その後、ダーラ・Jのスタジオでデモ録音を作ってはみたものの、
チャンスに恵まれず、09年にフランスのリヨンへ渡り、
昼は警備員の仕事をしながら、歌手活動を続けます。
道が開けたのは、プロデューサーでマルチ奏者の
ブルーノ・オヴァール(パッチワークス)との出会いでした。
ブルーノのプロジェクト、ヴォイラーへ参加するほか、
エレクトロ・デュオのシナプソンとのコラボによってラスの名が次第に広まり、
チャプター・トゥーのディレクターの目にとまって、本デビュー作が実現しました。

このアルバムで聞けるラスの音楽性の新しさは、セネガル版アフロビーツともいえる
ブルーノ・オヴァールやシナプソンが絡んだエレクトロなサウンドにあるわけですけれど、
面白いのは、そうしたサウンドと、古いセネガリーズ・ラテンが同居しているところですね。
そして、ンバラの影響を感じさせないところも、興味深いです。

セネガリーズ・ポップの歴史をひも解けば、アフロ・ラテン時代を経て、
ンバラが誕生・発展し、ヒップ・ホップへと移ってきたわけですけれど、
ラスの音楽性からは、ンバラが中抜きされている印象があります。
じっさい、ラスが影響を受けたアーティストとして挙げているのは、
オーケストラ・バオバブ、アフリカンド、ハラム、ポジティヴ・ブラック・ソウル、
ダーラ・Jで、ンバラのアーティストが見当たりません。

スター・バンドやオーケストラ・バオバブのサウンドを聞かせる‘Mero Pertoulo’ や、
コンパイ・セグンドのメロディを借りたという‘Sénégal’、
さらにビックリさせられるのが、アフロ・キューバン色濃い
70年代のベンベヤ・ジャズのサウンドを再現した‘Olou’ です。
これには往年のアフリカ音楽ファンも、悶絶することウケアイでしょう。

それにしても、ラスの歌声の良さといったら。
オープニングのタイトル曲‘Bumayé’ のフレッシュな歌いっぷりには、背が伸びますね。
そしてその歌声には、匂い立つようなウォロフ臭さが充満していて、
セネガル好きにはたまりませんよ。

ヴィクトル・デメやイスマエル・ローの‘Tajabone’ にインスパイアされたという、
ラスト・トラックの‘De Du Tago’ のフォーキーなサウンドがまた妙味。
37歳という遅いデビュー作を果たしたラスの声の苦味に、
苦労人らしい味わいが滲みます。

Lass "BUMAYÉ" Chapter Two 3419262 (2022)
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