知られざる地方版エド・ハイライフ ワジリ・オショマー [西アフリカ]
ぎゃはは、これは暴挙だ!
ルアカ・バップが、こんな超ローカルなナイジェリアのハイライフをリイシューするなんて、
いったい誰が想像できたでしょうか。
いやぁ、酔狂にも程があるぞといいつつ、けっこう喜んでおります、ワタクシ。
ルアカ・バップが出したってところが、痛快じゃないですか。
「デイヴィッド・バーンの」という宣伝文句につられて、買ってください、みなさん。
アフリカ音楽ファンの間でも、おそらく一番人気がない、イボ系ハイライフ。
セレスティン・ウクウ、ステファン・オシタ・オサデベなんて大物ですら、
ロクに知られていないのが現状ですからねえ。
イボ系ハイライフの裾野はとてつもなく広くて、イボのサブ・グループや周辺の民族ごとに、
それぞれ異なるシーンがあって、レコードも大量にあるんですよ。
内戦(ビアフラ戦争)以降は、おそらくレゴスにすら流通しなかったであろうと思われる、
ナイジェリア南東部州のみで地産地消したローカル・レーベルの作品が、
大げさでなく星の数ほどあります。
今回ルアカ・バップがリイシューしたワジリ・オショマーも、そうした一人。
イボではなくて、ナイジェリア南部中央に位置する、
エド州北部に暮らすアフェマイ人の音楽家ですね。
アフェマイ人が暮らす地区、エツァコを代表するミュージシャンとして、
地元では「エツァコのスーパー・スター」とあがめられてきた人ですが、
エド州を出れば、ほぼ無名といってよい存在。
エド出身といえば、ヴィクター・ウワイフォが、ナイジェリア全土で人気のある
ミュージシャンとして有名ですね。エド人はベニン王国の末裔で、
イボ人とは異なる民族の歴史を持っていますけれど、
エフィクやイジョといった周辺の民族と音楽性が共通しているため、
イボ系ハイライフと便宜的に一緒に括られるんですが、
アフェマイ音楽をベースにしたワジリ・オショマーは、
エド・ハイライフとみなされています。
アフェマイ人はエド人と近隣関係にあり、
いわば地方版エド・ハイライフといったところですかね。
ワジリの活動初期にあたる73~77年は、デッカに録音をしていましたが、
本作は78年以降のシャヌ・オルやベニン・シティのレーベル、エボンホンに録音した
曲から選曲されています。ブックレットの解説を、DJとしても活躍する
ナイジェリア人研究家のウチェンナ・イコネが書いていて、ピンときました。
5・6年前だったか、フランスのレコード屋が、
ワジリの80年のエボンホン盤を限定リリースでLPリイシューしたとき
(日本語のオビを付けた、フランス人らしいマニアぶりに驚いた記憶があります)、
ウチェンナ・イコネがライナーノーツを書いていたんですよね。
ひょっとして、ルアカ・バップにこの企画を持ちかけたのは、彼なんじゃないの?
真相はわかりませんが、彼が書く解説は信頼がおけます。
あれ?と思ったのは、ワジリ・オショマーは47年生まれと書いてあったことくらいかな。
ぼくの手元の資料には、48年2月12日生まれとあります。
本作のウチェンナの解説に書かれていないことを、少し補足しておきましょう。
ワジリ・オショマーは、アフェマイの伝統音楽アグビから音楽家としてのキャリアを
スタートさせた人で、アグビをハイライフのサウンドを借りて現代化したんですね。
ワジリがトラディショナル・サウンド・メイカーズと自己のバンドを名付けのも、
むべなるかな。
アグビは、収穫期に太鼓ほかの打楽器アンサンブルと歌い手たちが
コール・アンド・レスポンスする音楽で、オショマの初期録音のデッカのカタログを見ると、
アグビ~ネイティヴ・ブルース~ハイライフと変遷しているという記録があります。
ワジリの父親チーフ・スレ・オショマー・アディカレは、
メイキディと称される太鼓の名手だったそうですが、アグビの音楽家だったのでしょう。
きちんとリマスターされた本作は、
盤質の悪いオリジナルのナイジェリア盤LPや、紙パック製CDとは、
比べものにならないハイ・クオリティの音質を楽しめます。
とても売れそうにないCDですけど、何も知らずうっかり買った人のわずかでも、
こういうローカルなハイライフを好きになってくれたら、いいんですけれどねえ。
Alhaji Waziri Oshomah "WORLD SPIRITUALITY CLASSICS 3: THE MUSLIM HIGHLIFE OF ALHAJI WAZIRI OSHOMAH" Luaka Bap 6 80899 0100-2-3
2022-10-08 00:00
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