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奇跡のアルメニアン・ソプラノ ザベル・パノシアン [西アジア]

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今年はアルメニアの歴史的録音の力作リイシューが続きますねえ。
トルコのカランがレーベル創立30周年を記念して、
『アメリカのアルメニア人』と題した3枚組CDブックを出しましたけれど、
今度は、アルメニア系アメリカ人社会で1910年代後半から20年代にかけて
人気を博したというソプラノ歌手、ザベル・パノシアンのCDブックが出ました。

カランの3枚組CDブックは、イスタンブールやイズミールで育まれた都市音楽から、
地方の農村の民謡、アルメニア民族舞踊を器楽化したダンス曲など
内容が多岐にわたり、資料性の強い内容でしたけれど、こちらは違いますよ。
美しい横顔の写真に惹かれ、どこのどなたかも知らずに買ったんですけれど、
深い哀しみを湛えたアルメニア独特のメロディを、
これ以上ないほど美しく歌っているその歌唱に、息をのみました。

1917年3月と18年6月にニュー・ヨークのコロムビア・スタジオで録音した11曲、
テイク違いを含めた21トラックが収録されていて、もう絶品なんです。
SPのナチュラルなチリ・ノイズの向こうから、ザベル・パノシアンの
繊細なソプラノ・ヴォイスが聞こえてきて、金縛りにあいます。

1曲目に収録された、ザベルの代表曲となったアルメニア民謡、
‘Groung’ でのポルタメントの美しさといったら、めまいがしてきます。
CDラストに同曲のテイク1が収録されていて(1曲目はテイク2)、
中盤にもテイク7が収録されています。

当時、移民歌手の録音は1・2テイクが通常で、
最大でも3テイクしか録らなかったのに、
7テイクも残したのは、異例中の異例だったようです。
テイク1とテイク2が17年録音、テイク7が18年録音なのは、
売れ行きが良かったからの再録音で、この曲は20年代にわたり
ロング・セラーになったのでした。

そんなエピソードを含むザベル・パノシアンの生涯が、
80ページに及ぶブックレットに詳しく書かれていて、
50点以上の貴重な写真も載っているんですね。
CDの素晴らしさにカンゲキして、一気読みしちゃいました。

1891年生まれのザベル・パノシアンは、幼少期からアルメニア聖歌を歌い、
少女時代には幼稚園の助手を務めながら、
典礼聖歌を指導をしていたというのだから、
バツグンに歌の上手い女の子だったんでしょう。
1907年にアメリカへ渡り、すぐに結婚した同郷の男性との生活を送りながら、
本格的な声楽を学ぶため、複数の教師に師事しています。
当時ニュー・ヨーク、フィラデルフィア、ボストン、シカゴでアペラ・ハウスが
続々オープンしていて、ザベルはボストン・オペラ・カンパニーに所属していました。

この録音のあとザベルは全米を巡業し、ロンドン、マンチェスター、パリ、ギリシャ、
エジプト、ジュネーブ、ローマ、ミラノと巡業し、ヨーロッパで大スターになります。
この巡業では、シューベルト、モンテヴェルディ、ベルディ、プッチーニ、ビゼー、
ロッシーニといった芸術歌曲を歌っていたようです。

ザバルがアルメニアの民謡や古謡を歌ったコロムビアのレコードは、
31年にアルメニア語のレパートリーがカタログから廃棄されたことで、
すっかり忘れられ、歴史の彼方へと消えていきました。
カナリー・レコーズを主宰するSPコレクターのイアン・ナゴスキーが、
今回復刻するまで、LP化されたこともなかったようですね。

知られざるアルメニア歌曲の、魂を奪われるような深淵さをもったソプラノ・ヴォイスに
すっかりヤラれて、ここのところのヘヴィロテ盤となっています。
今年のベスト・リイシュー・アルバムですね。

[CD Book] Zabelle Panosian "I AM SERVANT OF YOUR VOICE" Canary no number
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