驚異のイラン式ピアノ モルタザー・マハジュビー [西アジア]
イランの現代の古典音楽、という言い方もヘンですけど、
あまりにも高度に芸術的になりすぎたキライがあって、
ほとんど興味がわかないんですよね。
トルコの古典音楽をやる若手音楽家たちのフレッシュな音楽性と比べて、
イランの古典音楽家は、どうも硬直的な印象が強いんだよなあ。
ECMなどの欧米経由で評価されるカイハン・カルホールや、
ムハンマド・モタメディといった人たちも、ぼくにはちっとも魅力を感じません。
というわけで、イランの古典音楽はヴィンテージものに限ると、
イランのマーフール文化芸術協会がリリースする復刻ものだけをフォローしてりゃあ、
それで十分と、ずっと思ってきたわけなんでした。
ところが、デス・イズ・ナット・ジ・エンドというロンドンの復刻専門レーベルから、
面白いヴィンテージものが出ているのに気付いて、おぉ!と嬉しくなっちゃったんです。
それが、イランのピアニスト、モルタザー・マハジュビーの2作。
この人のアルバムは、マーフール文化芸術協会からも2枚出ていましたけれど、
デス・イズ・ナット・ジ・エンドが復刻したのは、大英図書館がコレクションしていた、
イラン国営ラジオ放送の番組「ゴルハ(ペルシャの歌と詩の花)」の放送音源
847時間分のなかから編集したというアルバム。
第1集は昨年出ていたようで、今回出た第2集ではじめてその存在を知ったんですが、
これがどちらも絶品。
マーフール文化芸術協会のアルバムは曲が長尺でしたけれど、
こちらは2・3分前後の短いピアノ即興曲が中心で、
驚異的といえる、あまりに独特なイランのピアノの魅力を存分に味わえます。
ミャンマーの音階に調律し直されたミャンマー式ピアノのサンダヤーは、
その魅力が最近少しずつ知られるようになりましたけれど、
イランのピアノもスゴいんだぞー。
イラン音楽の旋法ダストガーを演奏するために、微分音調律されているんですね。
世界の不思議音楽好きなら、知らなきゃ損ですよ。
1900年にテヘランで生まれたモルタザー・マハジュビーは、
ネイ奏者の父とピアノ奏者の母という音楽一家に生まれ、
ヴァイオリンを演奏する兄とともに、幼い頃から高名な音楽家のもとでピアノ修行し、
神童として育った人です。
ちなみに、ここでは柘植元一のカナ読みに従い、
「モルテザー」でなく「モルタザー」と書いています。
65年に亡くなったので、残された録音はいずれも晩年のものですね。
指で鍵盤を弾いているはずなのに、サントゥールを叩く撥のメズラブで、
ピアノの弦を叩いているかのように聞こえるのが、いつ聴いてもナゾすぎます。
ピアノを聴いているのに、サントゥールのように聞こえるのが、不思議なんです。
こうしたサントゥールをピアノに置き換えた奏法を確立したのが、
モシル・ホマーユン(1885-1970)で、モシルについては、以前書きましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-10-05
シュール、マーフール、ダシュティ、ホマーユン、アフシャーリーなど、
ダストガーのピアノ即興のほか、第2集には、トンバクやヴァイオリンに、
ポエトリーや歌が加わる曲もあるのが、聴きものとなっています。
Morteza Mahjubi "SELECTED IMPROVISATIONS FROM GOLHA, PT. I" Death Is Not The End DEATH048
Morteza Mahjubi "SELECTED IMPROVISATIONS FROM GOLHA, PT. II" Death Is Not The End DEATH053
2022-11-17 00:00
コメント(0)
コメント 0