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つつましやかなアンビエント 武田吉晴 [日本]

武田吉晴  ASPIRATION.jpg   武田吉晴  BEFORE THE BLESSING.jpg

1作目は19世紀末のビルマの僧侶、2作目は南インド、ケララ州コーチンの仮面舞踏。
ジャケットにセレクトしたフォトのシュミにいたく共感しつつも、
アンビエントだというので、自分にはあまり縁がないかと思っていたのです。

ところが、とある出会いから2作目の『BEFORE THE BLESSING』を聴いて、驚愕!
こんなにデリケイトで、心やさしい音楽、めったに聴けるもんじゃない。
つかみどころのないメロディをピアノやクラリネットがゆったりと紡ぎ、
時折風が吹き抜けるように、効果音のスティール・ギターが鳴ると、
陽炎のようなサウンドスケープが立ち上ります。

ほのかな温かみが胸に残る、控えめな楽曲のすばらしさといったら。
盛り上がりを作らない淡々とした音列が、身体にひたひたと染み渡っていきます。
ハングドラムやスティールパンがかすかに鳴らされたり、
ベース、チェロ、ドラムス、パーカッションも登場するものの、脇役に徹していて、
室内楽のようなアンビエントにすべての楽器が奉仕しています。

作曲にアレンジ、そして全ての楽器を演奏しているのは、武田吉晴ただ一人。
個人の美意識を透徹した音楽制作のありようは、
頑固なまでのこだわりがありそうですね。
デリカシーの塊ともいえる音楽で、スノッブな気取りをまとわない真摯さが、
この音楽に気品を宿らせているように感じます。

ベンディールのような響きの大型のフレームドラムや、
ガムランの音階を奏でるグロッケンシュピールが、
控えめに民俗的な香りをサウンドにまぶしていますが、
そのテクスチャがとても上品なのに感心します。

究極の西洋音楽ともいえる環境音楽が、
非西洋の伝統音楽の一部をつまみ食いすることに、
強い警戒心がはたらく当方ですけれども
武田の異文化へのアプローチには、不快な要素がみじんもありません。

2作目にすっかり心奪われて、5年前の1作目も買ってみたのですが、
こちらで使われているガムランの音色が本格的なのに、えっ!と驚いちゃいました。
ガムランの主旋律を担当する鉄琴のグンデルのように聞こえ、
2作目でグロッケンシュピールとぼくが思ったのも、
グンデルの倍音や雑音をミックスで抑えたのかもしれませんね。

1作目にして、すでにこの人の音楽世界はしっかり確立していますね。
ただ、トランペットや親指ピアノ、タブラなども使った楽器数の多さが、
サウンドをごちゃっとしたうらみがあり、
2作目ではそのあたりを整理して、完成度を上げたように思えます。
また、ミックスもグンと良くなりましたね。
グンデル(?)やスティールパンの金属的な響きを際立たせないようにしたおかげで、
楽器間がよくブレンドするようになり、より落ち着きのあるサウンドになっています。

この音楽を必要とする時や場面が、容易に想像つきますね。
あの時この音楽に出会えていたら、どんなに良かったろうなどと考えたりもしましたが、
きっとこれから、大切に聴いていくアルバムになりそうです。

武田吉晴 「ASPIRATION」 Metanesos MTNSS001 (2018)
武田吉晴 「BEFORE THE BLESSING」 Stella SLIP8512 (2022)
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