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マンデ・ジャズ・グルーヴ トゥーン・クレーマス [西・中央ヨーロッパ]

Teun Creemers  NAAMU.jpg

グナーワのゲンブリをエレクトリック・ベースに置き換えた演奏を聞かせる1曲目に、
よくあるグナーワ・ジャズかと思いきや、カマレ・ンゴニが絡んでくるのが変わっているなあ
と思っていたら、2曲目からはマンデ系とすぐわかる、
ンゴニ、コラ、バラフォン、女性コーラスに主役のベースが絡み、
サックス、バス・クラリネットなどのヨーロッパ勢が加わった演奏に移ります。
グナーワ・ジャズなら珍しくないけど、
マンデ・ジャズというのはありそうでなかった試み。こりゃあ、面白い。

トゥーン・クレーマスは、オランダのジャズ・シーンで活躍するベーシストで
スタンリー・クラークやジョー・ザヴィヌルから影響を受けたというミュージシャン。
オランダでベーシック・トラックを録音したあと、
マリのミュージシャンたちが歌詞を付けてバマコで歌と演奏を録音し、
その後もパリとボストンでアディショナル・レコーディングを行って、
ナッシュヴィルでマスタリングをして完成させています。
これがデビュー作だというんだから、ユニークな才能ですねぇ。

バマコでレコーディングしたメンツを見ると、
名門グリオの出身者をはじめとするトップ・プレイヤーがずらり。
リード・ヴォーカリストのカンク・クヤテは、老獅子の異名をとる
マリ国歌を作曲したレジェンド、バズマナ・シソコの曾孫ですよ。
叔父のバセク・クヤテのグループ、ンゴニ・バの “MIIRI” でも、
素晴らしいノドを聞かせていたほか、デーモン・アルバーンのプロジェクト、
アフリカ・エクスプレスにも起用されて、
14年の “MAISON DES JEUNES” に参加していました。

バラフォン奏者のバラ・クヤテは、スンジャタ王に庇護された
バラフォンの名門クヤテ家系の出身者。アメリカへ渡って、
ヨー・ヨー・マと共演するなど世界的な活動をしていて、
ニュー・イングランド音楽院の教授を務めるなど、ボストンを拠点に活動しています。

カマレ・ンゴニ奏者のハルナ・サマケは、サリフ・ケイタのバンドで長く活動し、
名作 “MOFFOU” “M'BEMBA” に参加していたほか、
バセク・クヤテ&ンゴニ・バの “JAMA KO” でも演奏していました。
マリ以外では、ギネアのグループ、バ・シソコのコラ奏者のセク・クヤテや、
ブルキナ・ファソ出身でヨーロッパで活躍するバラフォン奏者ママドゥ・ジャバテもいます。

マンデ音楽の伝統を背負った確かな実力者というだけでなく、
欧米人とのコラボレーションにも長けた人たちが揃っているので、
主役のトゥーン・クレーマスの意図をよく汲んだコラボレーションが実現できたんですね。

ヨーロッパ勢では、デンマークの俊英ギタリスト、ティース・シミーが参加のほか、
アルト・サックス、テナー・サックス、バス・クラリネットの3管にドラマーは、
いずれもオランダのトップ・プレイヤーたち。
3人のパーカッションが参加していて、
うち一人はマンディンカ・パーカッションとクレジットされているので、
カリニャンやジェンベを演奏しているのは、どうやらオランダ人のようです。

トゥーン・クレーマスはマリンケ・ジャズ・グルーヴと称していますけれど、
バンバラ語で歌っている曲もあるから、マリンケに限らず広くマンデと呼んだ方がいいかも。
みずから1曲ンゴニも弾いているトゥーンですけれど、
マンデのメロディを敷衍した作曲能力はスゴイですね。
なによりこのアルバムに感心したのは、ジャズといっても歌中心に仕上げていること。
いかにトゥーンがマンデ音楽を理解しているかを示していますよ。

ゆいいつのインスト演奏であるラスト・トラックに、
ベーシストとしてのトゥーン独自の個性が聞き取れます。
ドラムスが控えめにサポートする、コラとベースのデュオ演奏。
ギターのような音域を聞かせながら、アーティキュレーションはベースならではで、
こういうベース表現もあるんだなあ。初めての体験ですねえ。

ジャズ・シーンでどう評価される(受け入れられる)のか不安ですが、
トゥーン・クレーマス、スゴイ才能だと思いますよ。

Teun Creemers "NAAMU" ZenneZ no number (2023)
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